JP5339242B2 - 二光子吸収材料とその用途 - Google Patents

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Description

本発明は二光子吸収材料に関し、特に、高い二光子吸収断面積を有する二光子吸収材料に関し、光記録材料、三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用二光子励起蛍光材料などの用途に応用される。
二光子吸収材料に関する従来例として、特許文献1〜13開示のものがある。
また、三次元メモリ媒体(材料)に関する従来例として、特許文献14〜16開示のものがある。
また、光制限素子(材料)に関する従来例として、特許文献17開示のものがある。
また、光造形技術に関する従来例として、特許文献18開示のものがある。
また、二光子特性を利用した(蛍光)顕微鏡に関する従来例として、特許文献19〜21開示のものがある。
また、我々は、別に二光子吸収材料に関する技術を開発し提案(特許文献22:特願2006−73792号明細書、特許文献23:特願2006−67097号明細書、特許文献24:特願2006−74156号明細書、特許文献25:特願2006−250292号明細書、特許文献26:特願2007−56886号明細書、特許文献27:特願2006−67089号明細書、特許文献28:特願2006−70305号明細書、特許文献29:特願2006−354063号明細書)している。
しかし、従来技術には、本発明のサレン型金属錯体からなる二光子吸収材料を開示したものはない。
二光子吸収材料を用いた3次元光記録媒体としては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(レヴィッチ、ユージーン、ポリス他、特許文献30:特表2001−524245号公報、パベル、ユージエン他、特許文献31:特表2000−512061号公報)、フォトクロミック化合物を用いて吸収または蛍光で読み取る方法(コロティーフ、ニコライ・アイ他、特許文献32:特表2001−522119号公報、アルセノフ、ヴラディミール他、特許文献33:特表2001−508221号公報)等が提案されているが、いずれも具体的な二光子吸収材料の提示はなく、また抽象的に提示されている二光子吸収化合物の例も二光子吸収効率の極めて小さい二光子吸収化合物を用いている。さらに、これらの特許文献に用いているフォトクロミック化合物は可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に問題があり、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えない。特に非破壊読出し、記録の長期保存性等の点では、不可逆材料を用いて反射率(屈折率または吸収率)または発光強度の変化で再生するのが好ましいが、このような機能を有する二光子吸収材料を具体的に開示している例はなかった。
また、河田聡、川田善正、特許文献34:特開平6−28672号公報、河田聡、川田善正他、特許文献35:特開平6−118306号公報には、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、及び再生装置、読み出し方法等が開示されているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての記載はない。
二光子吸収現象を利用すると、極めて高い空間分解能を特徴とする種々の応用が可能となるが、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では二光子吸収能が低くいため、二光子吸収を誘起する励起光源としては高価な非常に高出力のレーザが必要である。従って、小型で安価なレーザを使って、二光子吸収を利用した実用用途を実現するためには、高効率の二光子吸収材料の開発が必須である。
特開2004−168690号公報 特開2004−339435号公報 特開2005−82507号公報 特開2005−213434号公報 特開2005−263738号公報 特表2005−500394号公報 特開2006−178399号公報 特開2006−209059号公報 特開2006−251350号公報 特開2006−251351号公報 特開2007−91684号公報 特開2007−119443号公報 特開2007−178585号公報 特開2005−100606号公報 特表2005−517769号公報 特表2004−534849号公報 特開平08−320422号公報 特開2005−134873号公報 特開平09−230246号公報 特開平10−142507号公報 特開2005−165212号公報 特願2006−73792号明細書 特願2006−67097号明細書 特願2006−74156号明細書 特願2006−250292号明細書 特願2007−56886号明細書 特願2006−67089号明細書 特願2006−70305号明細書 特願2006−354063号明細書 特表2001−524245号公報 特表2000−512061号公報 特表2001−522119号公報 特表2001−508221号公報 特開平6−28672号公報 特開平6−118306号公報 Jean-Luc Bredas et al Science,281,1653 (1998)
上記従来技術に鑑みて、本発明の目的は、スペクトル、屈折率または偏光状態の変化を、高感度に実現する、効率良く二光子を吸収する有機材料、すなわち二光子吸収断面積の大きな新規な有機材料を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、二光子吸収断面積が大きい二光子吸収化合物を少なくとも有し、二光子吸収化合物の二光子吸収を利用して書き換えできない方式で記録を行なった後、光を記録材料に照射してその発光、反射強度等の違いを検出することにより再生することを特徴とする記録再生が可能な二光子吸収光記録材料及び記録媒体を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討した結果、特定のサレン型金属錯体により上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
すなわち、上記課題は、以下の本発明によって解決される。
(1)「下記一般式(I)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料;
Figure 0005339242
(式中、R 、R 〜R は水素原子、R 、R ジアルキルアミノ基を表わす。
は2価、3価、もしくは4価の金属原子を表わす。)」、
(2)「下記一般式(II)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料;
Figure 0005339242
(式中、R16〜R27は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、メルカプト基、チオシアノ基、アミノ基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基、未置換または置換アルキル基、未置換または置換アルコキシ基、未置換または置換アルキルチオ基、未置換または置換モノアルキルアミノ基、未置換または置換ジアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基を表わす。
Mは2個の水素原子、または酸素原子、ハロゲンを有してもよい2価、3価、もしくは4価の金属原子、または(OR)p、(OSiR101112)q、(OPOR1314)r、(OCOR15)sを有してもよい金属原子を表わす。
〜R15は独立に水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族、芳香族炭化水素基を表わし、p,q,r,sは0〜2の整数を表わす。)」、
(3)「下記一般式(III)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料;
Figure 0005339242
(式中、R28〜R35は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、メルカプト基、チオシアノ基、アミノ基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基、未置換または置換アルキル基、未置換または置換アルコキシ基、未置換または置換アルキルチオ基、未置換または置換モノアルキルアミノ基、未置換または置換ジアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基を表わす。
Mは2個の水素原子、または酸素原子、ハロゲンを有してもよい2価、3価、もしくは4価の金属原子、または(OR)p、(OSiR101112)q、(OPOR1314)r、(OCOR15)sを有してもよい金属原子を表わす。
〜R15は独立に水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族、芳香族炭化水素基を表わし、p,q,r,sは0〜2の整数を表わす。)」、
(4)「下記一般式(IV)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料;
Figure 0005339242

(式中、R36〜R41は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、メルカプト基、チオシアノ基、アミノ基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基、未置換または置換アルキル基、未置換または置換アルコキシ基、未置換または置換アルキルチオ基、未置換または置換モノアルキルアミノ基、未置換または置換ジアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基を表わす。
Mは2個の水素原子、または酸素原子、ハロゲンを有してもよい2価、3価、もしくは4価の金属原子、または(OR)p、(OSiR101112)q、(OPOR1314)r、(OCOR15)sを有してもよい金属原子を表わす。
〜R15は独立に水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族、芳香族炭化水素基を表わし、p、q、r、sは0〜2の整数を表わす。)、
(5)「下記一般式(V)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料;
Figure 0005339242

(式中、R42〜R51は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、メルカプト基、チオシアノ基、アミノ基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基、未置換または置換アルキル基、未置換または置換アルコキシ基、未置換または置換アルキルチオ基、未置換または置換モノアルキルアミノ基、未置換または置換ジアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基を表わす。
Mは2個の水素原子、または酸素原子、ハロゲンを有してもよい2価、3価、もしくは4価の金属原子、または(OR)p、(OSiR101112)q、(OPOR1314)r、(OCOR15)sを有してもよい金属原子を表わす。
〜R15は独立に水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族、芳香族炭化水素基を表わし、p、q、r、sは0〜2の整数を表す。)」、
(6)「前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光記録材料」、
(7)「前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光制限材料」、
(8)「前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光造形材料」、
(9)「前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする二光子励起蛍光材料」、
(10)「平面上に形成され、該平面に対し水平、及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料が、光記録が行なわれる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体」、
(11)「透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置」、
(12)「光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置」、
(13)「光硬化性樹脂に光を照射して造形を行なう光造形装置において、前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置」、
(14)「試料中の被分析物に前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、前記二光子吸収材料を検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置」。
ここで、前記第(1)項〜(5)項は、本発明の二光子吸収材料の基本構造を示し、前記第(6)項〜(9)項は、その好適な工業的適用材料例を示し、前記第(10)項〜(14)項は、本発明の化合物を含むデバイス、装置、システムの応用例を示す。
本発明によれば、特定のサレン型金属錯体である一般式(I)〜(V)で表わされる化合物からなる二光子吸収材料を用いることにより、効率良く二光子を吸収する有機材料を得ることができる。
また、本発明の有機材料を用いることで、光記録材料、光制限材料、光造形材料、二光子励起蛍光材料、さらには、本発明の二光子材料を記録層中に少なくとも1種含む入射光に対して深さ方向に記録再生可能三次元記録媒体、光制限装置、光造形装置、二光子励起蛍光顕検出装置の提供が可能となる。
本発明により、二光子吸収の遷移効率が高い二光子吸収化合物が実現でき、小型で安価なレーザを使った実用用途(三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料など)が実現可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の二光子吸収材料とは、非共鳴領域の波長において分子を励起することが可能な材料で、このとき励起に用いた光子の2倍のエネルギー準位に、実励起状態が存在する材料のことである。
ところで、二光子吸収現象とは、三次の非線形光学効果の一種で、分子が二つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象であり、古くから知られていたがJean-Luc Bredas等が1998年に分子構造とメカニズムの関係を解明して以来(Science,281,1653 (1998):非特許文献1)、近年になって二光子吸収能を有する材料に関する研究が進むようになった。
しかしながらこのような二光子同時吸収の遷移効率は、一光子吸収に較べて極めて低く、極めて大きなパワー密度の光子を必要とするため、通常に使用されるレーザー光強度では殆ど無視され、ピーク光強度(最大発光波長における光強度)が高いモード同期レーザーのようなフェムト秒程度の極超短パルスレーザーを用いると、観察されることが確認されている。
二光子吸収の遷移効率は印加する光電場の二乗に比例する(二光子吸収の二乗特性)。このため、レーザーを照射した場合、レーザースポット中心部の電界強度の高い位置でのみ二光子の吸収が起こり、周辺部の電界強度の弱い部分では二光子の吸収は全く起こらない。三次元空間においては、レーザー光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ二光子吸収が起こり、焦点から外れた領域では電界強度が弱いために二光子吸収が全く起こらない。印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が起こる一光子の線形吸収に比べて、二光子吸収は、この二乗特性に由来して空間内部のピンポイントのみでしか励起が起こらないため、空間分解能が著しく向上する。
この特性を利用して、記録媒体の所定の位置に二光子吸収によりスペクトル変化、屈折率変化または偏光変化を生じさせ、ビットデータを記録する三次元メモリの研究が進められている。二光子吸収は、光の強度の二乗に比例して生じるため、二光子吸収を利用したメモリは、一光子吸収を利用したメモリに比べて、スポットサイズを小さくすることができ、超解像記録が可能となる。その他この二乗特性に由来する高い空間分解能の特性から、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途への開発も進められている。
さらに、二光子吸収を誘起する場合には、化合物の線形吸収帯が存在する波長領域よりも長波長でかつ吸収の存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることが可能である。化合物の線形吸収帯が存在しない、いわゆる透明領域の近赤外光を用いるため、励起光が吸収や散乱を受けずに試料内部まで到達でき、かつ二光子吸収の二乗特性のために試料内部のピンポイントを高い空間分解能で励起できるため、二光子吸収及び二光子発光は生体組織の二光子造影や二光子フォトダイナミックセラピー(PDT)などの光化学療法応用面でも期待されている。また、二光子吸収、二光子発光を用いると、入射した光子のエネルギーよりも高いエネルギーの光子を取り出せるため、波長変換デバイスという観点からアップコンバージョンレージングに関する研究も報告されている。
二光子吸収材料としてはこれまでに多数の無機材料が見出されてきた。ところが無機物においては、所望の二光子吸収特性や、素子製造のために必要な諸物性を最適化するためのいわゆる分子設計が困難であることから実用するのは非常に困難であった。一方、有機化合物は分子設計により所望の二光子吸収の最適化が可能であるのみならず、その他の諸物性のコントロールも可能であるため、実用の可能性が高く、有望な二光子吸収材料として注目を集めている。
従来の有機系二光子吸収材料としては、ローダミン、クマリンなどの色素化合物、ジチエノチオフェン誘導体、オリゴフェニレンビニレン誘導体などの化合物が知られている。しかしながら、分子あたりの二光子吸収能を示す二光子吸収断面積が小さく、特にフェムト秒パルスレーザーを用いた場合の二光子吸収断面積は、200(GM:×10-50cm4・s・molecule-1・photon-1)未満のものが殆どで工業的な実用化には至っていない。
<二光子吸収材料を用いた三次元多層光メモリへの応用>
最近、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。また、HDTV(High Definition Television)の放映も間近にひかえて、民生用途においても50GB以上、好ましくは100GB以上の画像情報を安価簡便に記録するための大容量記録媒体の要求が高まっている。さらにコンピューターバックアップ用途、放送バックアップ用途等、業務用途においては、1TB程度あるいはそれ以上の大容量の情報を高速かつ安価に記録できる光記録媒体が求められている。そのような中、CD、DVDのような従来の二次元光記録媒体は物理原理上、たとえ記録再生波長を短波長化したとしてもせいぜい25GB程度で、将来の要求に対応できる程の充分大きな記録容量が期待できるとは言えない状況である。
そのような状況の中、究極の高密度、高容量記録媒体として、三次元光記録媒体が俄然、注目されてきている。三次元光記録媒体は、三次元(膜厚)方向に何十、何百層もの記録を重ねることで、従来の二次元記録媒体の何十、何百倍もの超高密度、超高容量記録を達成しようとするものである。三次元光記録媒体を提供するためには、三次元(膜厚)方向の任意の場所にアクセスして書き込みできなければならないが、その手段として、二光子吸収材料を用いる方法とホログラフィ(干渉)を用いる方法とある。二光子吸収材料を用いる三次元光記録媒体では、上記で説明した物理原理に基づいて何十、何百倍にもわたっていわゆるビット記録が可能であって、より高密度記録が可能であり、まさに究極の高密度、高容量光記録媒体であると言える。
前記のように、二光子吸収材料を用いた3次元光記録媒体としては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(レヴィッチ、ユージーン、ポリス他、特許文献30:特表2001−524245号公報、パベル、ユージエン他、特許文献31:特表2000−512061号公報)、フォトクロミック化合物を用いて吸収または蛍光で読み取る方法(コロティーフ、ニコライ・アイ他、特許文献32:特表2001−522119号公報、アルセノフ、ヴラディミール他、特許文献33:特表2001−508221号公報)等が提案されているが、いずれも具体的な二光子吸収材料の提示はなく、また抽象的に提示されている二光子吸収化合物の例も二光子吸収効率の極めて小さい二光子吸収化合物を用いている。さらに、これらの特許文献に用いているフォトクロミック化合物は可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に問題があり、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えない。特に非破壊読出し、記録の長期保存性等の点では、不可逆材料を用いて反射率(屈折率または吸収率)または発光強度の変化で再生するのが好ましいが、このような機能を有する二光子吸収材料を具体的に開示している例はなかった。
また、河田聡、川田善正、特許文献34:特開平6−28672号公報、河田聡、川田善正他、特許文献35:特開平6−118306号公報には、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、及び再生装置、読み出し方法等が開示されているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての記載はない。
上述したように、非共鳴二光子吸収により得た励起エネルギーを用いて反応を起こし、その結果レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部で光を照射した際の発光、反射強度等を書き換えできない方式で変調することができれば、三次元空間の任意の場所に極めて高い空間分解能で発光、反射強度変調を起こすことができ、究極の高密度記録媒体と考えられる三次元光記録媒体への応用が可能となる。さらに、非破壊読み出しが可能で、かつ不可逆材料であるため良好な保存性も期待でき実用的である。
しかし、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では、二光子吸収能が低いため、光源としては非常に高出力のレーザーが必要で、かつ記録時間も長くかかる。特に三次元光記録媒体に使用するためには、速い転送レート達成のために、高感度にて発光、反射等の光学特性の違いによる記録を二光子吸収により行なうことができる二光子吸収三次元光記録材料の構築が必須である。そのためには、高効率に二光子を吸収し励起状態を生成することができる二光子吸収化合物と、二光子吸収化合物励起状態を用いて何らかの方法にて二光子吸収光記録材料の発光、反射等の光学特性の違いを効率的に形成できる記録成分を含む材料が有力であるが、そのような材料は今までほとんど開示されておらず、そのような材料の構築が望まれていた。
三次元多層光記録媒体の任意の層に焦点を合わせ、記録再生を実施することで、本発明の三次元記録媒体として機能する。また、層間を保護層(中間層)で区切っていなくとも、二光子吸収材料特性から深さ方向の三次元記録が可能である。
図1に、本発明の二光子吸収材料を光記録材料として利用する三次元光記録媒体の一例(a)と、その記録装置(b)の一例を示した。但し本発明は、これらの実施形態により何ら限定されず、三次元記録(平面及び膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他にどのような構造であっても構わない。
図1(a)は平らな支持体(基板:11a)に、本発明の二光子吸収材料からなる記録層(13a)と、中間層(14a)(保護層)を交互に50層積層させた三次元光記録媒体の例である。記録層の厚さは0.01〜0.5μm、中間層の厚さは0.1〜5μmが好ましく、この構造であれば今日普及しているCDやDVDと同じサイズで、テラバイト級の大容量の光記録媒体を実現することができる。
情報の三次元的な記録は、光源(11b)から発生した光(15a)を記録層(13a)中の所望の箇所に焦点を結ばせることで行なわれる。光源には単一ビームが使用され、この場合フェムト秒オーダーの超短パルス光または汎用のLDを利用することができる。ビット単位、深さ方向単位の記録方法以外に、面光源を利用する並行記録方法も高転送レートを実現することから好ましい。
またここでは図示されていないが、記録媒体(図1a)において中間層の存在しないバルク状の記録媒体を作製し、ホログラム記録のようにページデータを一括記録することで、高転送レートを実現することも可能である。
基板(11a)及び(12a)には任意の天然又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シートまたは板の形態で存在することができる支持体である。例としてはポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等が例示され、これらの基板には予めトラッキング用の案内溝やアドレス情報を設けてもよい。
記録層(13a)には、本発明の二光子吸収材料をスピンコーター、ロールコーターまたはバーコーター等を利用して、基板上に直接塗布することで成型することが可能である。ここで記録層は本発明の二光子吸収材料のみで構成されていても、他の有機材料、ポリマー、(光)増感材料等が混合、または分散されている形態でも良い。
膜形成のため溶剤塗工法により使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去には加熱や減圧を用いても良い。
中間層(14a)は酸素遮断や層間クロストーク防止を主な目的として形成され、例としてはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは板等が例示され、静電的な密着、押出し機を利用した貼合せ等の方法により記録層と積層することが可能であり、前記ポリマーの溶液を塗布してもよい。また、ガラス板を貼合わせてもよい。また、保護層と感光膜の間および/または、基材と感光膜の間に、気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。さらに感光膜間の保護層(中間層)にもあらかじめ、トラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されたものであっても良い。
再生は、記録時よりも強度の弱いレーザー光を記録部と未記録部に照射し、それらの発光、反射強度の違いを検出器(13b)で検出することで行なう。再生光には、データ記録に使用するビームとは異なる波長、或いは低出力の同波長の光を用いることもできる。記録と同様再生においても、ビット単位/ページ単位の再生がいずれにおいても可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
なお、本発明に従って同様に形成される光記録媒体の形態としては、図示はしないがカード状、プレート状、テープ状、ドラム状等も考えられる。
<二光子吸収材料を用いた光制限素子への応用>
光通信や光情報処理では、情報等の信号を光で搬送するためには変調、スイッチング等の光制御が必要になる。この種の光制御には、電気信号を用いた電気−光制御方法が従来採用されている。しかし電気−光制御方法は、電気回路のようなCR時定数による帯域制限、素子自体の応答速度や電気信号と光信号との間の速度の不釣合いで処理速度(>10ps)が制限されることなどの制約があり、光の利点である広帯域性や高速性を十分に生かすためには、光信号によって光信号を制御する光−光制御技術が非常に重要になってくる。この要求に応えるものとして本発明の二光子吸収材料を加工して作製した光学素子は、光を照射することで引き起こされる透過率や屈折率、吸収係数などの光学的変化を利用し、電子回路技術を用いずに光の強度や周波数を直接光で変調することで、光通信、光交換、光コンピューター、光インターコネクション等における高速光スイッチなどに応用することが可能である。
二光子吸収による光学特性変化を利用する本発明の光制限素子は、通常の半導体材料により形成される光制限素子や、一光子励起によるものに比べ、応答速度にはるかに優れた素子(<1ps)を提供することができ、また高感度ゆえに、S/N比の高い信号特性に優れた光制限素子を提供することができる。
<一光子吸収/過飽和吸収を利用した光スイッチ例および問題点>
参考までに、一光子吸収/過飽和吸収を利用した光スイッチとしては、例えば、SHB(スペクトルホール バーニング)、励起し吸収、ISBT(サブバンド間遷移)、QCSE(量子閉じ込めシャタルク効果)が挙げられるが、超高速応答を得るのが難しい、素子作製(組成、構造)が複雑、対応波長域が狭いことが多い(波長選択制が狭い)、偏波依存性が大きい系が多い、等の問題点がある。
<二光子吸収を利用した光スイッチの利点>
一方、二光子吸収を利用した光スイッチの場合、二光子吸収の非線形性を利用することができ、その結果、原理的に超高速応答可能、素子作製(組成、構造)が容易、対応波長域が広い(波長選択制が広い)、偏波依存性がない、等の利点がある。
<吸収特性の変化の応用例>
図2は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制御素子の一例である。光学素子として、保護層で狭持された二光子吸収材料の形態を示すが、この構成が本発明を限定するものではない。
制御光及び信号光から入射したレーザー光は、集光装置により集光され、制御光の強度が極めて強い場合のみ光学素子により吸収され、一光子励起波長の透過率が変化する。二光子吸収の非線形性に伴う透過率の変化を利用することにより、信号光を制御光の強弱で光スイッチが可能となる。
図3は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長(λ1)の信号光と二光子励起し得る波長(λ2)の制御光により二光子励起させる全光スイッチングする光制御素子の動作例である。
制御光及び信号光であるレーザー光は、集光装置により二光子吸収材料を主構成要素とする光制限素子に集光され、制御光がoffの場合は信号光がそのまま出力され、制御光がonの場合は信号光と共に二光子吸収され出力は無くなる。制御光のon/offにより、信号光の光スイッチが可能となる。
<屈折率の変化の応用例>
図4は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、出力光の光路を光スイッチングする光制御素子の一例である。
制御光及び信号光から入射したレーザー光は、集光装置により二光子吸収材料を主構成要素とする光導波路の分岐路部位に集光され、制御光の強度が極めて強い場合のみ光導波路の分岐路部位により吸収され、その部位の屈折率が変化する。二光子吸収による光導波路の分岐路部位の屈折率変化、信号光の光導波路の屈折率、および出力光の光導波路の屈折率を調整することにより出力光の光路を切り替えることができる。二光子吸収の非線形性に伴う屈折率の変化を利用することにより、光導波路の光路の光スイッチングが可能となる。
本発明における光制限素子を理解するのに有益な公知文献として、特開平8−320422号公報が挙げられる。これによると光照射により屈折率が変化する光屈折率材料に、その屈折率が変化する波長の光を照射してフォーカシングを行ない、屈折率分布を形成する光導波路として開示されている。すなわち、本発明の高い二光子吸収能を有した材料、薄膜、もしくは光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光学素子として配置し、ひとつの波長(λ1)の光で励起状態に励起され、さらにその状態から他の波長(λ2)の光で他の状態に励起されることにより波長による屈折率変化分布を利用した光導波路の設計が可能となる。また、二光子吸収材料はその多くが蛍光を有するものが多く、光デバイスの一方の出射端またはその近傍に蛍光物質を配置し、他方から励起光(λ1)を出射させ、励起光と蛍光(λ2)で屈折率分布を形成することもできる。この場合、通常蛍光の方が励起光より弱いので、感度は蛍光の波長において大きくすることが望ましい。蛍光物質としては、蛍光色素を光硬化性物質や種々の樹脂等に分散させたものなどが例示される。
<光造形材料、光造形装置としての応用>
光造形用二光子光硬化性樹脂とは、光を照射することにより二光子重合反応を起こし、液体から固体へと変化する特性を持った樹脂のことである。主成分はオリゴマーと反応性希釈剤からなる樹脂成分と光重合開始剤(必要に応じ光増感材料を含む)である。オリゴマーは重合度が2〜20程度の重合体であり、末端に多数の反応基を持つ。さらに、粘度、硬化性等を調整するため、反応性希釈剤が加えられている。光を照射すると、重合開始剤または光増感材料が二光子吸収し、重合開始剤から直接または光増感材料を介して反応種が発生し、オリゴマー、反応性希釈剤の反応基に反応して重合が開始される。その後、これらの間で連鎖的重合反応を起し三次元架橋が形成され、短時間のうちに三次元網目構造を持つ固体樹脂へと変化する。
光硬化性樹脂は光硬化インキ、光接着剤、積層式立体造形などの分野で使用されており、様々な特性を持つ樹脂が開発されている。特に、積層式立体造形においては反応性が良好であること、硬化時の堆積収縮が小さいこと、硬化後の機械特性が優れることが重要になっている。
本発明の二光子吸収材料は、このような要求を満たす、二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料として用いることができる。本発明の二光子吸収材料は従来に比べ二光子吸収感度が高いため高速造形が可能となり、また二光子吸収現象を利用するため、微細で三次元的な造形を実現することができる。
本発明においては、光増感材料として利用する本発明の二光子吸収材料を紫外線硬化樹脂等に分散させて感光物固体を形成し、この感光物固体の所望の個所に光照射を行なうことで、照射光の焦点付近のみに硬化反応を起こさせ、超精密三次元造形物を形成する。
図5は、本発明の二光子吸収材料を用いて光造形を行なう場合の光造形装置の一例である。
光源(21)からのパルスレーザー光を可動形式のミラー(22)及び集光レンズ(23)を介し本発明の二光子吸収材料(24)に集光すると、集光点近傍のみに光子密度の高い領域が形成される。このとき、ビームの各断面を通過するフォトンの総数は一定のため、焦点面内でビームを二次元的に走査した場合、各断面における光強度の総和は一定である。しかしながら、二光子吸収の発生確率は光強度の二乗に比例するため、光強度の大きい集光点近傍にのみ二光子吸収の発生の高い領域が形成される。集光点は可動形式のミラー(22)や可動ステージ(25)(ガルバノミラー及びZステージ)を制御することで光硬化樹脂液内において自由に変化させることができるため、任意の位置にナノメートルオーダーの精度で樹脂を局所的に硬化することができ、所望の三次元加工物を容易に形成することができる。
また、このように作製される造形物の一例として、図6には光導波路を挙げた。
近年、大容量アーカイブ用途の記録媒体が求められる一方で、ユビキタスネットワークの実現に向けた光ファイバ通信の開発による情報伝送の高速化及び大容量化も求められている。その一つに、WDM(波長多重通信)と呼ばれる波長の異なる光の不干渉性を利用した大容量伝送技術が知られているが、そのWDMにおいては、特定の波長の光信号を合波或いは分波する素子が不可欠であり、そのための素子として光導波路が用いられている。光導波路においては、素子内部に、ある特定の屈折率分布などを形成させることで、電気回路中を電子が流れるように光信号をその分布に沿って導くことができる。このような波長による屈折率変化を利用する光導波路構造は、図5に示す光造形装置を用い、本発明の二光子吸収材料を含む薄膜、または本発明の二光子吸収材料を光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光造形することで形成することができる。
本発明における光造形を理解するのに有益な公知文献として特開2005−134873号公報が挙げられる。これによるとパルスレーザー光を感光性高分子膜の表面にマスクを介さず干渉露光させている。レーザー光は、感光性高分子膜の感光性機能を発揮させる波長成分をもった光からなり、感光性高分子の種類、または感光性高分子の感光性機能を有する基又は部位に応じて選択されている。
また光導波路に関する公知文献としては、特開平08−320422号公報に光屈折率材料に光を照射して形成される光導波路をはじめ、特開2004−277416号公報、特開平11−167036号公報、特開2005−257741号公報等で開示されている。
従来に比べ、本発明の二光子吸収材料を利用した光造形物の特徴は以下のようである。即ち、
(1)回折限界をこえる加工分解能
二光子吸収の光強度に対する非線形性によって、焦点以外の領域では光硬化性樹脂が硬化しない。このため照射光の回折限界を超えた加工分解能を実現できる。
(2)超高速造形
本発明の二光子吸収材料を用いて加工される造形物においては、従来に比べ、二光子吸収感度が高いため、ビームのスキャン速度を速くすることができる。
(3)三次元加工性
光硬化性樹脂は、二光子吸収を誘起する近赤外光に対して透明である。したがって焦点光を樹脂の内部へ深く集光した場合でも、内部硬化が可能である。従来のSIHでは、ビームを深く集光した場合、光吸収によって集光点の光強度が小さくなり、内部硬化が困難になる問題点が、本発明ではこうした問題点を確実に解決することができる。
(4)高い歩留り
従来法では樹脂の粘性や表面張力によって造形物が破損、変形するという問題があったが、本手法では、樹脂の内部で造形を行なうためこうした問題が解消される。
(5)大量生産への適用
超高速造形を利用することによって、短時間に、連続的に多数個の部品あるいは可動機構の製造が可能である。
<二光子吸収材料を用いた二光子励起蛍光検出方法、装置への応用>
二光子励起蛍光検出法とは、二光子蛍光材料を結合させて標識した被分析物を含む試料に、近赤外のパルスレーザーを集光しながら走査し、被分析物が二光子励起されたときに発生する蛍光を検出することで三次元的に像を得る検出方法のことである。図7にそのような光検出デバイスの一例として、二光子励起蛍光顕微鏡を示した。
図7の装置は、近赤外域波長のサブピコ秒単色コヒーレントパルスを発生する光源(51)から、レーザー光を発生させ、ダイクロイックミラー(52)を経て、集光装置(53)により集光し、本発明の二光子吸収材料を結合させた被分析物を含む試料(54)中で焦点を結ばせることより、二光子蛍光を発生させる。試料上でレーザー光を操作し、各場所の蛍光強度を光検出器(56)で検出し、蛍光強度と得られた位置情報とをコンピューター上でプロットすることで、三次元蛍光像を得ることができる。この場合、該顕微鏡には所望の集光位置をレーザービームで走査するための走査機構が備えられており、例えばステージ(55)に置かれた試料を移動させても良く、また或いは可動ミラー(ガルバノミラーなど)を用いてレーザービームを走査しても良い。
このような構成をとる二光子励起蛍光顕微鏡は光軸方向に高分解能の像を得ることができるが、共焦点ピンホール板を用いることで、面内、光軸方向共にさらに分解能をあげることができる。
このように用いられる二光子蛍光材料は、被分析物の染色、または被分析物に分散させることで使用することができ、工業用途のみならず、生体細胞等の三次元画像マイクロイメージングにも用いることができる。また生体適合性のポリマーと混合することで光線力学的治療法(PDT)における光感受性材料として用いることも可能である。
本発明における二光子励起蛍光顕微鏡を理解するのに有益な公知文献として特開平9−230246号公報が挙げられる。たとえば走査型蛍光顕微鏡は、所望の大きさに拡大されたコリメート光を発するレーザー照射光学系と、複数の集光素子が形成された基板とを備え、該集光素子の集光位置が対物レンズ系の像位置に一致するように配され、かつ、前記の集光素子が形成された基板と対物レンズ系との間に、長波長を透過し短波長を反射するビームスプリッタが配され、標本面で多光子吸収による蛍光を発生させることを特徴とするものである。
このような構成により、多光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いれば、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)が得られる。このような二光子光学素子は上述の光制御素子と全く同様に本発明の高い二光子吸収能を有した材料、薄膜、もしくは光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光学素子として用いることが可能である。
本発明の二光子吸収材料は二光子励起レーザー走査顕微鏡をはじめとする二光子励起蛍光を検出する装置への適用が可能である。しかも、従来の二光子励起蛍光材料に比較し、大きな二光子吸収断面積を有しているので、低濃度で高い二光子吸収(発光)特性を発揮する。従って、本発明によれば、高感度な二光子吸収材料が得られるだけでなく、材料に照射する光の強度を強くする必要がなくなり、材料の劣化、破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。同様に生体への適用をする場合でも、照射する光の強度を下げることができるため、生体へのダメージが低減可能となる。
本発明の二光子吸収材料は二光子励起レーザ走査顕微鏡用の二光子吸収蛍光材料として用いることができる。従来の二光子吸収蛍光材料に比較し、大きな二光子吸収断面積を有しているので、低濃度で高い二光子吸収特性を発揮する。従って、本発明によれば、高感度な二光子吸収材料が得られるだけでなく、材料に照射する光の強度を強くする必要がなくなり、材料の劣化、破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。
本発明の二光子吸収材料はそれそのもの単独もしくは各種の樹脂との混合の薄膜、あるいはバルクで種々のデバイスへの応用が可能である。
例えば、光ディスクでは上記薄膜が基板と接しており、その基板材料はポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等である。また、積層する場合であれば、中間層(仕切層)に該薄膜表面が接している。中間層の具体例としてはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは種々の光硬化樹脂等が挙げられる。
次に、各種光学デバイス、光造形デバイスに応用するにしても、各種樹脂に混合されているか、光硬化樹脂に混合され用いる。
従って、本発明の二光子吸収材料の使用要件としては、該材料が各種樹脂、またはガラスに混合されているか、二光子吸収材料層界面が各種樹脂、またはガラスに接していることである。
言い換えれば、本発明の二光子吸収材料はミクロレベル、又はマクロレベルで各種樹脂、又はガラスに接している構成となっている。
以下、本発明のサレン型金属錯体について述べる。
本発明に記載の一般式(I)におけるR〜R、一般式(III)におけるR16〜R27、及び一般式(III)におけるR28〜R35、一般式(IV)におけるR36〜R41、一般式(V)におけるR42〜R51は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、メルカプト基、チオシアノ基、アミノ基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基、未置換または置換アルキル基、未置換または置換アルコキシ基、未置換または置換アルキルチオ基、未置換または置換モノアルキルアミノ基、未置換または置換ジアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基を表わす。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオロイル基、フェニルプロピオロイル基、クロトノイル基、ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基、シンナモイル基、アトロポイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、メタロセンカルボニル基等が挙げられる。
アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、及びスルファモイル基の可変置換基部分としては、未置換または置換アルキル基、アリール基、複素環基等が挙げられる。
未置換のアルキル基、未置換のアルコキシ基、未置換のアルキルチオ基、未置換のモノアルキルアミノ基、未置換のジアルキルアミノ基におけるアルキル基、及びアシル基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基の可変置換基部分の未置換アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1−エチルブチル基、1,2,2−トリメチルブチル基、1,1,2−トリメチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2,4−ジメチルペンチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2,5−ジメチルヘキシル基、2,5,5−トリメチルペンチル基、2,4−ジメチルヘキシル基、2,2,4−トリメチルペンチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、4−エチルオクチル基、4−エチル−4,5−メチルヘキシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、1,3,5,7−テトラエチルオクチル基、4−ブチルオクチル基、6,6−ジエチルオクチル基、n−トリデシル基、6−メチル−4−ブチルオクチル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、3,5−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチルヘプチル基、2,4−ジメチルヘプチル基、2,2,5,5−テトラメチルヘキシル基、1−シクロペンチル−2,2−ジメチルプロピル基、1−シクロヘキシル−2,2−ジメチルプロピル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、ボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
置換のアルキル基、置換のアルコキシ基、置換のアルキルチオ基、置換のモノアルキルアミノ基、置換のジアルキルアミノ基におけるアルキル基、及びアシル基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基の可変置換基部分の置換アルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシ置換アルキル基;カルボキシメチル基、2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基、等のカルボキシ置換アルキル基;シアノメチル基、2−シアノエチル基等のシアノ置換アルキル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基等のアミノ置換アルキル基;2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、2,2,2−トリフルオロエチル基等のハロゲン原子置換アルキル基;ベンジル基、p−クロロベンジル基、2−フェニルエチル基等の未置換もしくは置換のフェニル置換アルキル基;2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−(n−プロポキシ)エチル基、2−(イソプロポキシ)エチル基、2−(n−ブトキシ)エチル基、2−(イソブトキシ)エチル基、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エチル基、3−メトキシプロピル基、4−メトキシブチル基、2−メトキシプロピル基等のアルコキシ置換アルキル基;2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、2−[2−(n−プロポキシ)エトキシ]エチル基、2−[2−(イソプロポキシ)エトキシ]エチル基、2−[2−(n−ブトキシ)エトキシ]エチル基、2−[2−(iso−ブトキシ)エトキシエチル基、2−{2−[2−エチルヘキシルオキシ]エトキシ}エチル基等のアルコキシアルコキシ置換アルキル基;アリルオキシエチル基等のアルケニルオキシ置換アルキル基;2−フェノキシエチル基等のアリールオキシ置換アルキル基;2−ベンジルオキシエチル基等のアリ−ルアルキルオキシ置換アルキル基;2−アセチルオキシエチル基、2−プロピオニルオキシエチル基、2−(n−ブチリルオキシ)エチル基、2−(iso−ブチリルオキシ)エチル基、2−(トリフルオロアセチルオキシ)エチル基等のアシルオキシ置換アルキル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、(n−プロポキシ)カルボニルメチル基、(iso−プロポキシ)カルボニルメチル基、(n−ブトキシ)カルボニルメチル基、(iso−ブトキシ)カルボニルメチル基、(2−エチルヘキシル)カルボニルメチル基、ベンジルオキシカルボニルメチル基、フルフリルオキシカルボニルメチル基、テトラヒドロフルフリルオキシカルボニルメチル基、2−(メトキシカルボニル)エチル基、2−(エトキシカルボニル)エチル基、2−(n−プロポキシカルボニル)エチル基、2−(iso−プロポキシカルボニル)エチル基、2−(n−ブトキシカルボニル)エチル基、2−(iso−ブトキシカルボニル)エチル基、2−ベンジルオキシカルボニルエチル基、2−フルフリルオキシカルボニルエチル基等の未置換もしくは置換のアルコキシカルボニル置換アルキル基;2−メトキシカルボニルオキシエチル基、2−エトキシカルボニルオキシエチル基、2−(n−プロポキシカルボニルオキシ)エチル基、2−(n−ブトキシカルボニルオキシ)エチル基、2−(iso−プロポキシカルボニルオキシ)エチル基、2−(iso−ブトキシカルボニルオキシ)エチル基、2−(2−エチルヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル基、2−ベンジルオキシカルボニルオキシエチル基、2−フルフリルオキシカルボニルオキシエチル基等の未置換もしくは置換のアルコキシカルボニルオキシ置換アルキル基;フルフリルメチル基、テトラヒドロフルフリルメチル基等のヘテロ環置換アルキル基等が挙げられる。
アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基のアリール基、及びアシル基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基の可変置換基部分のアリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ(tert−ブチル)フェニル基、4−メトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、2,4−ジブロモフェニル基、2−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2−ヨードフェニル基、2,4−ジヨードフェニル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、イソプロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、4−メチル−1−ヘキセニル基、2−エチル−4−メチル−1−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、エチニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、4−メチル−1−ヘキシニル基、2−エチル−4−メチル−1−ヘキシニル基等が挙げられる。
複素環基、及びアシル基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボン酸エステル基、カルバモイル基、スルホン酸エステル基、スルファモイル基の可変置換基部分の複素環基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ピリミジル基、2−ピラジル基等が挙げられる。
一般式(I)〜(V)中、Mは2個の水素原子、または酸素、ハロゲンを有してもよい2価、3価、もしくは4価の金属原子、または(OR)p、(OSiR)q、(OPOR)r、(OCOR)sを有してもよい金属原子を表わす。R〜Rは独立に水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族、芳香族炭化水素基を表わし、p,q,r,sは0〜2の整数を表わす。
具体的にMとしては、Ib族,IIa族,IIb族,IIIa族,IVa族,IVb族,Vb族,VIb族,VIIb族,VIII族の金属、これらの金属の酸化物、これらの金属のハロゲン化物またはこれらの金属の水酸化物などがあり、さらに、上記金属で置換基を有するものがある。
上記の金属としては、Cu,Zn,Mg,Al,Ge,Ti,Sn,Pb,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,In,Pt,Pd等があり、酸化物としては、TiO,VO等があり、ハロゲン化物としては、AlCl,GeCl,SiCl,FeCl,SnCl,InCl等があり、水酸化物としてはAl(OH),Si(OH),Ge(OH),Sn(OH)等がある。
さらに、金属が置換基を有する場合に、金属としては、Al,Ti,Si,Ge,Sn等があり、置換基としては、アリールオキシル基,アルコキシル基,トリアルキルシロキシル基,トリアリールシロキシル基,トリアルコキシシロキシル基,トリアリールオキシシロキシル基,トリチルオキシル基又はアシロキシル基等がある。
<本発明のサレン型金属錯体の合成方法>
サレン配位子[N,N’−bis(salicylidene)ethylenediamine]およびその誘導体は、相当するサリチルアルデヒドとエチレンジアミンの誘導体の脱水縮合反応によって合成される。
得られた配位子は、一旦フェノキシドイオン誘導体とした後あるいは塩基性条件下で金属イオンと反応させることにより、金属サレン錯体(1)に導かれる(反応式1)。
アルカリ、アルカリ土類、一部の希土類金属を除くほぼ全ての金属イオンがサレン錯体を形成する。クロム、コバルト、マンガン錯体などでは、相当する3価の金属イオン錯体が触媒として広く用いられているが、これらの錯体は置換容易な2価の金属イオンを用いてサレン錯体を合成した後、空気酸化などで目的の錯体に変換されている。
今日では、3−位あるいは3,5−位に置換基をもつさまざまなサリチルアルデヒドならびに光学活性な各種ジアミンの合成法が確立されているため、異なる中心金属をもつ多様なサレン錯体の入手が可能である。
Figure 0005339242

一般式(I)〜(III)で表わされるサレン型金属錯体も反応式1に示された合成法により以下のようにそれぞれ合成することができる。
Figure 0005339242
一般式(I)の配位子を合成するためのサリチルアルデヒド誘導体とエチレンジアミン誘導体の脱水縮合反応、及び一般式(II)あるいは(III)の配位子を合成するためのサリチルアルデヒド誘導体とフェニレンジアミン誘導体の脱水縮合反応は、通常、メタノール、エタノール、酢酸等のプロトン性溶媒中で行なわれる。必要に応じて硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩化亜鉛等の酸触媒を添加することもできる。得られたそれぞれの配位子に金属を導入してサレン型金属錯体一般式(I)〜(III)へ導く反応は、通常、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基の存在下、金属イオンと反応させることにより行なわれる。
本発明のサレン型金属錯体例を以下に示す。
Figure 0005339242
Figure 0005339242
Figure 0005339242
表中の(*1)、(*2)、(*3)、(*4)、(*5)は、以下の置換基を表わす。
Figure 0005339242
Figure 0005339242
Figure 0005339242

本発明のサレン型金属錯体の吸収特性を示す。
Figure 0005339242
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
参考例1)
上記の本発明のサレン型金属錯体例No.10のジメチルスルホキシド溶液を作成し、下記の二光子吸収断面積の評価方法により、その二光子吸収断面積を測定した。
二光子吸収断面積の測定結果を表7に、その二光子吸収スペクトルを図9に、LCマススペクトルを図15にそれぞれ示す。
参考例2〜6)
参考例1と同様にして、No.21、No.24、No.53、No.62、No.95の二光子吸収断面積を測定した。
二光子吸収断面積の測定結果を表7に、その二光子吸収スペクトルを図10〜14に、LCマススペクトルを図16〜図20にそれぞれ示す。
(実施例1、参考例7〜12
同様にして、No.7、No.12、No.16、No.18、No.28、No.33、No.44の二光子吸収断面積を測定した。
二光子吸収断面積の測定結果を表7に示す。
(比較例1)
従来の良く知られた二光子吸収化合物例として以下の式(比−1)で示した化合物のテトラヒドロフラン溶液を作成し、下記の二光子吸収断面積の評価方法により、その二光子吸収断面積を測定した。その測定結果を表7に示す。
Figure 0005339242
(比較例2)
サレン型配位子である式(比−2)で示した化合物のジメチルスルホキシドを作成し、同様にその二光子吸収断面積を測定した。その測定結果を表7に示す。
Figure 0005339242
[二光子吸収断面積の評価方法]
測定システム概略図を図8に示す。
測定光源:フェムト秒チタンサファイアレーザ
波長:720〜920nm
パルス幅:100fs
繰り返し:80MHz
光パワー:800mW
測定方法:Zスキャン法
光源波長:780〜900nm
キュベット内径:1mm
測定光パワー:約500mW
繰り返し周波数:80MHz
集光レンズ:f=75mm
集光径:〜40μm
集光されている光路部分に試料溶液を充填した石英セルを置き、その位置を光路に沿って移動させることによりZ−scan測定を実施した。
透過率を測定し、その結果から理論式(1)により非線形吸収係数を求めた。
T=[ln(1+I0L0β)]/I0L0β・・・・(1)
(上記式中、Tは透過率(%)、I0は励起光密度[GW/cm]、L0は試料セル長[cm]、βは非線形吸収係数[cm/GW]を示す。)
この非線形吸収係数から、下記式(2)により二光子吸収断面積σ2を求めた。
(σ2の単位は1GM=1×10−50cm・s・photon−1である。)
σ2=1000×hνβ/NACβ・・・・(2)
(上記式中、hはプランク定数[J・s]、νは入射レーザ光の振動数[s−1]、NAはアボガドロ数、Cは溶液濃度[mol/L]を示す。)
Figure 0005339242
<評価結果>
二光子吸収断面積が従来材料に比較し、一桁高い二光子吸収化合物が得られた。
配位子単独では大きな二光子吸収能を示さないが、金属錯体化することにより大きな二光子吸収断面積が得られる。
本発明の優れた二光子吸収特性を有する化合物を適用すれば、より高品位の光記録材料、三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用二光子励起蛍光材料が実現できる。
本発明の二光子吸収材料を光記録材料として利用する三次元光記録媒体(a)、及びその記録装置(b)の一例を示す図である。 本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制御素子の一例を示す図である。 本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長(λ1)の信号光と二光子励起し得る波長(λ2)の制御光により二光子励起させる全光スイッチングする光制御素子の動作例を示す図である。 本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、出力光の光路を光スイッチングする光制御素子の一例を示す図である。 本発明の二光子吸収材料を用いて光造形を行なう場合の光造形装置の一例を示す図である。 光造形装置により作製される造形物の一例としての光導波路を示す図である。 二光子励起蛍光顕微鏡の一例を示す図である。 本発明で用いられる測定システムの概略図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.10で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.21で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.24で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.53で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.62で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明のサレン型金属錯体例No.95で用いられる二光子吸収スペクトルを示した図である。 本発明における化合物No.10のLCマススペクトルチャートである。 本発明における化合物No.21のLCマススペクトルチャートである。 本発明における化合物No.24のLCマススペクトルチャートである。 本発明における化合物No.53のLCマススペクトルチャートである。 本発明における化合物No.62のLCマススペクトルチャートである。 本発明における化合物No.95のLCマススペクトルチャートである。
符号の説明
(図1について)
11a 基板(支持体)
11b 光源
12a 基板(支持体)
12b 光源
13a 記録層
13b 検出器
14a 中間層(保護層)
14b ピンホール
15a 光
(図5について)
21 光源
22 可動形式のミラー
23 集光レンズ
24 二光子吸収材料
25 可動ステージ
(図7について)
51 光源
52 ダイクロイックミラー
53 集光装置
54 試料
55 ステージ
56 光検出器

Claims (10)

  1. 下記一般式(I)で示されるサレン型金属錯体からなることを特徴とする二光子吸収材料。
    Figure 0005339242
    (式中、R 、R 〜R は水素原子、R 、R ジアルキルアミノ基を表わす。
    は2価、3価、もしくは4価の金属原子を表わす。)
  2. 請求項1に記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光記録材料。
  3. 請求項1に記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光制限材料。
  4. 請求項1に記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする光造形材料。
  5. 請求項1に記載の二光子吸収材料を含むことを特徴とする二光子励起蛍光材料。
  6. 平面上に形成され、該平面に対し水平、及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、光記録が行なわれる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体。
  7. 透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
  8. 光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
  9. 光硬化性樹脂に光を照射して造形を行なう光造形装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置。
  10. 試料中の被分析物に請求項1に記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、前記二光子吸収材料を検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置。
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