脱硫器において、灯油等の液体燃料から硫黄分を除去するためには、脱硫器内に配置されているヒータによって、液体燃料を目標温度(液体燃料として灯油を用いる場合には、例えば200℃程度)に昇温、維持する必要がある。具体的には、日本の家庭用電源として一般的な100Vをヒータに印加して液体燃料を目標温度まで昇温させた後、目標温度を維持するために、電源のON/OFF制御や、サイリスタ等を用いた温度制御が行われる。なお、本明細書において、「100V」とは、電気事業法(昭和39年7月11日法律第170号)第26条第1項及び電気事業法施行規則第44条で定める「標準電圧100V(101V±6V)」を意味し、「200V」とは、同法第26条第1項及び同施行規則第44条で定める「標準電圧200V(202V±20V)」を意味する。
ところで、燃料電池システムの効率的な運転を図る上では、燃料電池システムの起動時間をできる限り短くすること(脱硫器においては、脱硫器内のヒータの昇温をできる限り速く行うこと)が好ましい。そのため、日本の家庭用電源として100Vの他に用いられている200Vをヒータに印加して、液体燃料の昇温を行うことも考えられる。ジュール熱の大きさは電圧の大きさの2乗に比例することから、200Vをヒータに印加した場合には、100Vの場合と比較して液体燃料が急速に昇温することとなる。
しかしながら、200Vをヒータに印加した場合には、100Vの場合と比較して出力が大きくなっていることから、液体燃料を目標温度で維持するにあたり電源のON/OFF制御等を行うと、ハンチング現象が起こりやすくなってしまう。特に、脱硫器における温度管理の条件は非常に厳しいものであり、液体燃料が気化してしまう温度よりもやや低い温度に目標温度が設定されることから、いったんハンチング現象によって液体燃料が気化してしまうと、ハンチング現象がいっそう増幅されてしまう傾向にある。一方、100Vを用いたままでは、燃料電池システムの起動時間をできる限り短くするという要求を満足することができない。
そこで、本発明は、ハンチング現象を抑えつつ、起動時間を短縮することが可能な脱硫装置及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
本発明に係る脱硫装置は、水素を含有する改質ガスを生成する改質器に供給するための液体燃料から硫黄分を除去する脱硫触媒を収容する脱硫器と、脱硫器内の液体燃料を加熱するための加熱手段と、脱硫器内の脱硫触媒の温度を測定する温度測定手段と、加熱手段に電圧を印加する電源と、電源を制御する制御手段とを備え、制御手段は、運転開始後、温度測定手段によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達するまでは、第1の電圧を加熱手段に対して印加するように電源を制御し、温度測定手段によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達した後には、第1の電圧よりも低い第2の電圧を加熱手段に対して印加するように電源を制御することを特徴とする。
本発明に係る脱硫装置では、脱硫装置の運転開始後、温度測定手段によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達するまで、第1の電圧を加熱手段に対して印加している。また、本発明に係る脱硫装置では、温度測定手段によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達した後には、第1の電圧よりも低い第2の電圧を加熱手段に対して印加している。つまり、脱硫装置の運転を開始すると、相対的に高い第1の電圧によって液体燃料が目標温度まで昇温され、その後、相対的に低い第2の電圧によって液体燃料の目標温度が維持される。その結果、相対的に高い第1の電圧のみを用いた場合と比較してハンチング現象が抑制されることとなり、且つ、相対的に低い第2の電圧のみを用いた場合と比較して脱硫装置の起動時間の短縮を図ることができることとなる。
また、本発明に係る脱硫装置は、水素を含有する改質ガスを生成する改質器に供給するための液体燃料から硫黄分を除去する脱硫触媒を収容する脱硫器と、脱硫器内の液体燃料を加熱するための加熱手段と、脱硫器内の脱硫触媒の温度を測定する温度測定手段と、加熱手段に電圧を印加する電源と、電源を制御する制御手段とを備え、制御手段は、運転開始後、温度測定手段によって測定される温度が100℃以上で且つ通常運転時の目標温度未満の範囲で予め定められた温度に最初に達するまでは、第1の電圧を加熱手段に対して印加するように電源を制御し、温度測定手段によって測定される温度が予め定められた温度に最初に達した後には、第1の電圧よりも低い第2の電圧を加熱手段に対して印加するように電源を制御することを特徴とする。
本発明に係る脱硫装置では、脱硫装置の運転開始後、温度測定手段によって測定される温度が100℃以上で且つ通常運転時の目標温度(100℃よりも大きく、液体燃料が灯油である場合には200℃〜230℃程度であることが多い)未満の範囲で予め定められた温度に最初に達するまで、第1の電圧を加熱手段に対して印加している。また、本発明に係る脱硫装置では、温度測定手段によって測定される温度が上記予め定められた温度に最初に達した後には、第1の電圧よりも低い第2の電圧を加熱手段に対して印加している。つまり、脱硫装置の運転を開始すると、相対的に高い第1の電圧によって液体燃料が上記予め定められた温度まで昇温され、その後、相対的に低い第2の電圧によって液体燃料の目標温度が維持される。その結果、相対的に高い第1の電圧のみを用いた場合と比較してハンチング現象が抑制されることとなり、且つ、相対的に低い第2の電圧のみを用いた場合と比較して脱硫装置の起動時間の短縮を図ることができることとなる。なお、ヒータの出力や脱硫器の大きさなどによって脱硫器内の液体燃料の上昇速度が異なってくるので、上記予め定められた温度は、ヒータの出力や脱硫器の大きさなどを考慮して決定される。
また、本発明に係る脱硫装置では、相対的に高い第1の電圧から相対的に低い第2の電圧への切り替えを、温度測定手段によって測定される温度が通常運転時の目標温度よりも低い温度である上記予め定められた温度に最初に達した時点で行っている。そのため、目標温度に達した時点で電圧の大きさを切り替える場合と比較して、オーバーシュートが生じにくくなっている。その結果、目標温度に対して追従性のよい温度制御が可能となる。
好ましくは、第1の電圧が、電気事業法施行規則第44条に基づく標準電圧200Vであり、第2の電圧が、電気事業法施行規則第44条に基づく標準電圧100Vである。このようにすると、日本の家庭用電源として一般に普及している100V及び200Vを利用することが可能となる。
また、本発明に係る燃料電池システムは、上記いずれかの脱硫装置と、脱硫装置によって硫黄分が除去された液体燃料を用いて、水素を含有する改質ガスを生成する改質器と、改質器によって生成された改質ガスを用いて発電を行う燃料電池スタックとを備えることを特徴とする。
本発明に係る燃料電池システムでは、上記いずれかの脱硫装置を備えているので、脱硫装置において、ハンチング現象を抑えつつ、起動時間を短縮することが可能となっている。そのため、燃料電池システムの効率的な運転を図ることが可能となる。
本発明によれば、ハンチング現象を抑えつつ、起動時間を短縮することが可能な脱硫装置及び燃料電池システムを提供することができる。
本発明に係る燃料電池システム1の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
燃料電池システム1は、図1に示されるように、水素を含有する改質ガスを生成する改質装置2と、改質装置2に供給するための液体燃料から硫黄分を除去する脱硫装置3と、改質装置2によって生成された改質ガスを用いて発電を行う燃料電池スタック4とを備えている。燃料電池システム1は、例えば、家庭用の電力供給源として利用されるものであり、容易に入手することができ且つ独立して貯蔵することができるという観点から、液体燃料として灯油が用いられている。
改質装置2は、液体燃料を水蒸気改質して改質ガスを生成する改質器5と、改質器5内に収容された改質触媒を加熱するバーナ6とを有している。バーナ6は、水蒸気改質反応を促進する改質触媒を加熱することで、触媒反応を効果的に発揮させるために必要な熱を改質触媒に供給する。改質器5では、脱硫装置3から導入された液体燃料が気化して原料ガスとなり、改質触媒によって、原料ガスと水蒸気(水)との水蒸気改質反応が促進されて、水素リッチな改質ガスが生成される。
脱硫装置3は、脱硫器7と、電源9と、制御部(制御手段)15とを有している。脱硫器7の内部には、改質器5に供給するための液体燃料から硫黄分を除去する脱硫触媒(図示せず)と、ヒータ(加熱手段)8と、熱電対等の温度計(温度測定手段)13とが設けられている。図1に示されるように、本実施形態においては、脱硫器7の下端から脱硫器7内に液体燃料が供給され、硫黄分が除去された液体燃料が、脱硫器7の上端に接続された液体燃料流通ライン16を通って貯留容器19へと流れるように構成されている(いわゆるアップフロー)。
ヒータ8は、脱硫触媒を所定の温度に加熱する。温度計13は、脱硫器7内の下部に配置されており、脱硫器7内の脱硫触媒の温度を測定し、その温度を示す電気信号を制御部15へと送信する。
電源9は、燃料電池スタック4から交流に変換された電力(100V又は200V)をヒータ8に印加する。制御部15は、温度計13によって測定された温度に基づいて、電源9のON/OFF(0V,100V,200Vのいずれか)を制御する。
燃料電池スタック4は、複数の電池セルが積み重ねられて構成された固体高分子形燃料電池スタックであり、改質装置2で得られた改質ガスを用いて発電を行う。各電池セルは、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された電解質である高分子のイオン交換膜とを有している。各電池セルにおいては、アノードに改質ガスが導入されると共にカソードに空気が導入されて、電気化学的な発電反応が行われる。
図1に示されるように、脱硫装置3には、硫黄分が除去された液体燃料が流通する液体燃料流通ライン16の一端が接続されており、液体燃料流通ライン16の他端は、脱硫装置3よりも上方に配置された貯留容器19の側壁に接続されている。貯留容器19の底壁には、貯留容器19内において下方に貯留された液体燃料を改質器5に導入するためのポンプ22が設けられた液体燃料流通ライン23、及び同液体燃料をバーナ6に導入するためのポンプ24が設けられた液体燃料流通ライン25が接続されている。なお、バーナ6には、バーナ6に空気を導入するためのポンプ26が設けられた空気流通ライン27が接続されている。このように、貯留容器19に液体燃料を一旦貯留することで、ポンプ22による改質器5への液体燃料の供給、及びポンプ24によるバーナ6への液体燃料の供給を安定化させることができる。
以上のように構成された燃料電池システム1においては、液体燃料は、まず脱硫装置3の脱硫器7に導入され、高温・高圧の状態で脱硫触媒によって硫黄分が除去される。脱硫器7から導出された液体燃料は、液体燃料流通ライン16を介して貯留容器19に貯留される。貯留容器19に貯留された液体燃料は、液体燃料流通ライン23を介して改質器5に導入される。このとき、バーナ6には、液体燃料流通ライン25を介して液体燃料が導入されると共に、空気流通ライン27を介して空気が導入される。これにより、改質器5では、燃焼するバーナ6によって改質触媒が加熱され、液体燃料が用いられて改質ガスが生成される。改質器5で生成された改質ガスは、燃料電池スタック4に導入され、燃料電池スタック4では、改質ガスが用いられて発電が行われる。
次に、脱硫装置3の動作について説明する。まず、脱硫装置3が動作を開始すると、制御部15が電源9に指示して、ヒータ8に印加する電圧を200Vに設定する。これにより脱硫器7内の温度が上昇する。なお、温度計13は、脱硫器7内の脱硫触媒の温度を連続的に計測し、その温度を示す電気信号を制御部15へと送信している。
制御部15では、温度計13から受信した信号に基づいて、脱硫器7内の脱硫触媒の温度が目標温度(液体燃料が灯油であれば、200℃)に達したか否かを判断する。脱硫器7内の脱硫触媒の温度が目標温度に達したと制御部15が判断すると、制御部15が電源9に指示して、ヒータ8に印加する電圧を100Vに設定する。その後、制御部15は、100Vを用いて、脱硫器7内の脱硫触媒の温度を目標温度に維持するよう電源9を制御する。
以上のような本実施形態においては、脱硫装置の運転開始後、温度計13によって測定される温度が通常運転時の目標温度(液体燃料が灯油であれば、200℃)に最初に達するまで、200V(第1の電圧)をヒータ8加熱手段に対して印加している。また、本実施形態では、温度計13によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達した後には、200V(第1の電圧)よりも低い100V(第2の電圧)をヒータ8に対して印加している。つまり、脱硫装置3の運転を開始すると、相対的に高い電圧(200V)がヒータ8に印加されて液体燃料が目標温度まで昇温され、その後、相対的に低い電圧(100V)がヒータ8に印加されて液体燃料の目標温度が維持される。そのため、相対的に高い電圧(200V)のみを用いた場合と比較してハンチング現象が抑制されることとなり、且つ、相対的に低い電圧(100V)のみを用いた場合と比較して脱硫装置3の起動時間の短縮を図ることができることとなる。その結果、本実施形態に係る燃料電池システム1の効率的な運転を図ることが可能となる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、温度計13によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達するまで、200Vをヒータ8加熱手段に対して印加し、温度計13によって測定される温度が通常運転時の目標温度に最初に達した後には、200Vよりも低い100Vをヒータ8に対して印加していたが、これに限られない。具体的には、温度計13によって測定される温度が100℃以上で且つ通常運転時の目標温度(100℃よりも大きく、液体燃料が灯油である場合には200℃〜230℃程度であることが多い)未満の範囲で予め定められた温度に最初に達するまで、200Vをヒータ8加熱手段に対して印加し、温度計13によって測定される温度が上記予め定められた温度に最初に達した後には、200Vよりも低い100Vをヒータ8に対して印加してもよい。このようにすると、オーバーシュートが発生し難くなる。すなわち、オーバーシュートの発生を抑制する限度において、温度計13によって測定される温度が通常運転時の目標温度よりも低い所定の温度に達したときに、電源9がヒータ8に印加する電圧を200Vから100Vに切り替えるようにしてもよい。
また、本実施形態では、電源9がヒータ8に印加する電圧を200Vから100Vに切り替えるようにしていたが、これに限られない。すなわち、日本では、電力系統から一般家庭へと100V又は200Vにて送電されるので、本実施形態では、これをそのまま利用するために200Vから100Vへの切り替えを行っていたが、100Vや200Vに限られず、相対的に高い電圧から相対的に低い電圧に切り替えるようにしてもよい。
また、燃料電池スタック4は、固体高分子形燃料電池スタックに限定されず、固体酸化物形燃料電池スタック等であってもよい。
また、改質器5は、水蒸気改質するものに限定されず、部分酸化改質や自己熱改質するものであってもよい。改質器5による改質方法は、灯油の他、ガソリン、ナフサ、軽油、メタノール、エタノール、DME(ジメチルエーテル)、バイオマスを利用したバイオ燃料等、液体燃料の特性に応じものとされる。