JP5335558B2 - 機械的特性に優れた鋳物用無鉛銅合金 - Google Patents

機械的特性に優れた鋳物用無鉛銅合金 Download PDF

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Description

本発明は、機械的特性に優れた鋳物用銅合金に関するものであり、殊に人体に有害な鉛を含有させずとも強度等の機械的特性に優れると共に、耐圧性や被削性にも優れた鋳物用無鉛銅合金に関するものである。
銅合金は、導電性や熱伝導性に優れていることから、従来から各種電気部品等の素材として広く使用されている。また銅合金のうち鋳物用銅合金については、JIS H5120に各種規定されており、バルブ胴体、給水栓、軸受等、各種用途で使用されることが予定されている。
ところで、上下水道の水栓金具や一般配管用の接水栓には、鋳物用銅合金が一般に使用されており、特に上記JIS H5120に規定されているもののうち、CAC203合金等の黄銅系(Cu−Zn系)の銅合金や、CAC403,406等の青銅系(Cu−Sn−Zn系、Cu−Sn−Pb−Zn系)等の銅合金がその素材として知られている。
上記の様な水栓金具や接水栓等に使用される場合には、耐圧性、耐磨耗性、鋳造性、機械的特性(強度や硬さ)の他、被削性が良好であることも要求されるのであるが、こうした被削性を向上させる手段として、鉛(Pb)を含有させることが良く知られており、上記鋳物用銅合金のうちCAC406は鉛を4〜6%程度含有させることによって被削性を向上させたものである。また鉛を含有させることは、銅合金の耐圧性を向上させる上でも有用であることが知られている(例えば、非特許文献1)。
しかしながら、鉛を含有させた鋳物用銅合金によって水栓金具や給水栓等を製作すると、その中に含まれる有害な鉛が飲料水中に溶出して水質悪化を招き、人体に悪影響を及ぼすことが指摘されている。特に、我が国においては、平成15年度から鉛の水質基準が従来の1/5に強化され、それにともなって水栓金具や給水栓等に使用される鋳物用銅合金における鉛の規制が厳しくなってきている。
こうしたことから、鉛を積極的に含有させずに被削性を向上させる鋳物用銅合金がこれまでにも様々提案されている。被削性改善のために、鉛の代替としてBiやSeを添加した銅合金が欧米を中心に開発され、CDA(Copper Development Association)規格として登録されている(例えば、非特許文献2)。また、Biと共にSbを含有することも知られている(前記非特許文献1)。
これらの銅合金は、快削性元素として鉛の代わりにBi、Se、Sbを含有させるものであり、こうした技術の開発によって鉛による害を防止しつつ比較的良好な被削性を維持できたのである。
しかしながら、これまで開発されている無鉛銅合金では、鋳造欠陥である「鋳巣」が発生しやすくなっており、これが原因して従来の規格銅合金よりも耐圧性が劣化することがあり、更なる改善が望まれているのが実情である。また、BiやSeは、埋蔵量の少ないレアメタルであるので、原料や資源利用の点からも問題を残している。更に、強度や伸び等の機械的特性の点においても、鉛を含有させた鋳物用銅合金を凌駕するものが開発されていないのが実情である。
「まてりあ」、第43巻、第8号(2004)、第647〜650頁 「素形材」、2003.8月、(財)素形材センター発行、第7〜第14頁
本発明はこうした状況の下になされたものであって、その目的は、殊に水質悪化を招く鉛を含有させずとも強度等の機械的特性に優れると共に、耐圧性や被削性にも優れ、水栓金具や接水栓等の素材として有用な鋳物用無鉛銅合金を提供することにある。
上記の目的を達成し得た本発明の鋳物用無鉛銅合金とは、S:0.1〜0.7%(質量%の意味、化学成分組成については以下同じ)、Sn:8%以下(0%を含まない)、Zn:6%以下(0%を含まない)を夫々含有し、且つ硫化物が分散されると共に、該硫化物の平均球状化率が0.7以上である点に要旨を有するものである。上記基本成分の他(残部)は、Cuおよび不可避的不純物である。尚、上記「平均球状化率」とは、所定の大きさの硫化物の真円度を測定し、真円からどの程度ずれているかを表したものの平均値である(測定方法については、後述する)。
本発明の鋳物用無鉛銅合金においては、全硫化物中に占める硫化銅の面積割合が70%以上であることが好ましく、こうした要件を満足することによって、銅合金の被削性が良好なものとなる。
本発明の銅合金では、S,Sn,Zn等の成分の含有量を厳密に規定することによって、銅マトリクス内に適度に球状化した硫化物を効果的に分散させることができ、水質悪化を招く鉛を含有させずとも強度等の機械的特性に優れると共に、耐圧性や被削性にも優れた鋳物用無鉛銅合金が実現できた。この銅合金は水栓金具や接水栓等の素材として有用である。また、本発明でPbの代替となる元素は、資源の豊富なS,SnおよびZnを基本的に用いるものであるので、資源問題も招くことはない。
銅合金におけるS含有量と機械的特性の関係を示したグラフである。 銅合金におけるS含有量と球状化率の関係を示したグラフである。 銅合金におけるS含有量と被削性(切削指数)の関係を示したグラフである。 銅合金におけるZn含有量と機械的特性の関係を示したグラフである。 銅合金におけるZn含有量と球状化率の関係を示したグラフである。 銅合金におけるZn含有量と硫化物中の硫化銅の割合の関係を示したグラフである。 銅合金におけるZn含有量と被削性(切削指数)の関係を示したグラフである。 各種銅合金(表4のNo.8,11,13,14のもの)における組織を示す図面代用顕微鏡写真である。 銅合金におけるSn含有量と機械的特性の関係を示したグラフである。
本発明者らは、鉛を含有させずとも優れた特性を発揮する鋳物用銅合金について、かねてより研究を進めてきた。その研究の一環として、硫黄(S)を必須成分として含有させると共に、FeやNiの含有量を適切な範囲に調整して添加し、且つ金属組織中に硫化物が形成・分散した銅合金では、耐圧性や被削性が良好になることを見出し、その技術的意義が認められたので先に出願している(特許第3957308号)。
上記技術においては、被削性向上元素であるSについて、硫化物として銅マトリクス中に分散させるために、所定量のFeやNiを共存させたものである。こうした技術の完成によって、銅マトリクス中に硫化物を効果的に分散でき、こうした銅合金では、鋳巣の発生も抑えられて、良好な耐圧性が発揮され、機械的特性も良好に維持できたのである。
上記の技術が完成された後も、本発明者らは銅合金の特性改善について、更に研究を重ねてきた。その結果、Sを極限られた範囲で含有させたCu−S−Sn−Zn系合金では、FeやNi等を含有させずとも、適度に球状化した硫化物が分散された状態となり、これによって強度等の機械的特性に優れると共に、耐圧性や被削性にも優れた鋳物用無鉛銅合金が実現できることを見出し、本発明を完成した。
鋳物用銅合金が凝固する際には、デンドライト(樹枝状晶)が形成され、このデンドライト間に微小な空隙(気泡)を残しながら凝固が完了し(最終凝固領域)、それが鋳巣となることは知られている。先に提案した銅合金では、Sと共にFeやNiを共存させることによって、比較的低温まで硫化物の形成が抑えられ、デンドライトが形成される凝固完了直前でも硫化物は銅との共晶融液の状態になっている。そして、鋳巣の原因となる気泡中にこの共晶融液が流れ込んで硫化物を形成することになる。その結果として鋳巣の発生を抑制して良好な耐圧性を発揮すると共に、強度等の機械的特性が向上したものと考えられた。また、硫化物がデンドライト間に共晶状若しくは微細に分散することによって、該硫化物が切削屑を分断するチップブレーカの役割を発揮すると共に(切り屑が細かくなり)、硫化物自体が固体潤滑剤として寄与することによって、被削性が向上するものと考えられた。先に提案した銅合金では、こうした状態を効果的に達成するために、FeやNiを含有させたものである。
ところが、本発明者らが検討したところによれば、S含有量がごく限られた含有量範囲では、FeやNiを含有させずとも、適度に球状化された硫化物が分散された状態が達成され、こうした状態の銅合金の実現によって機械的特性に優れるのは勿論のこと、耐圧性や被削性にも優れた鋳物用無鉛銅合金が得られたのである。
本発明の無鉛銅合金では、S,SnおよびZnを必須成分として含有するものであるが、これらの範囲限定理由は下記の通りである。
[S:0.1〜0.7%]
Sは、CuやZnと結合して硫化物(CuS化合物、ZnS化合物)を形成し、銅合金の良好な耐圧性および被削性を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させる為には、S含有量は少なくとも0.1%以上とする必要があるが、0.7%を超えて過剰に含有されると片状或は共晶状の硫化物が増加し、硫化物の球状化率が低下し、機械的特性質(引張強さ、伸び)が却って低下する傾向があるので(後記図1参照)、0.7%以下とすべきである。尚、S含有量の好ましい下限は0.2%程度であり、好ましい上限は0.6%程度である。
[Sn:8%以下(0%を含まない)]
Snは銅合金の機械的特性(引張強さ、伸び)を向上させるのに有効な元素である。こうした効果は、その含有量が多くなればなるほど大きくなるが、経済性を考慮して8%以下とすべきである。こうした効果を発揮させる上で、Sn含有量の好ましい下限は1.0%である。またSn含有量の好ましい上限は6.0%程度である。
[Zn:6%以下(0%を含まない)]
Znは銅合金の機械的特性(引張強さ、伸び)を向上させるのに有効な元素である。また、ZnはZnS化合物を形成することによって、銅合金の耐圧性を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、少なくとも1%以上含有させることが好ましいが、Znが過剰に含有されると硫化物と銅合金溶湯との界面エネルギーが低下し、片状あるいは共晶状となり、硫化物の球状化率が低下し、引張伸びが低下し、更に硫化物中の硫化銅の割合が低下して被削性が低下することになる(後記図4、5、7参照)。こうした観点から、Znの含有量は6%以下とすることが必要であり、好ましくは3%以下とするのが良い。
本発明の銅合金における基本的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は銅(Cu)および不可避的不純物からなるものである。尚、本発明の銅合金における不可避的不純物としては、例えばPb,Sb,P,Fe,Ni等が挙げられる。これらの不純物のうち、Pbについては、無鉛銅合金という観点からして、Pb含有量の上限は0.25%程度に抑えることが好ましい。また、Fe,Niについては、靭性を低下させないという観点からして、Fe:0.5%以下、Ni:1.0%以下に夫々抑制することが好ましい。更に、Sb,Pについては、Sb:0.2%以下、P:0.05%以下に夫々抑制することが好ましい。
本発明の銅合金は、金属組織(銅マトリクス)中に、所定割合で球状化した硫化物が分散されることによって上記の効果を発揮するものであるが、こうした硫化物は、S,Sn,Znの含有量を適切に調整して溶解・凝固させることによって必然的に形成されることになる。また、被削性を考慮すれば、全硫化物中に占める硫化銅の面積割合が70%以上であることが好ましい(後記図6参照)。尚、本発明の銅合金を用いて鋳物を製造するに当たっては、砂型鋳造、金型鋳造、遠心鋳造、精密鋳造等、これまで一般的に行われている方法を採用することができる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
[実施例1]
下記表1に化学成分組成を示す各銅合金を、常法に従って溶解・鋳造した。得られた銅合金鋳物について、各種機械的特性(引張強さおよび伸び)を調査した。尚、表1に示したS以外の各成分の値(含有量)は、蛍光X線分析装置[エレメント・アナライザーJSX−3202(商品名:日本電子株式会社製)]によって測定した値であり、Sは燃焼法によって求めた値である(表3、5についても同じ)。また、得られた各銅合金鋳物について、下記の方法によって、硫化物の平均球状化率を測定すると共に、全硫化物に占める硫化銅の割合(硫化物中の硫化銅の面積割合)を測定した。
[硫化物の平均球状化率の測定方法]
光学顕微鏡によって100倍で組織を観察し、直径(長径)が2.5μm以上の各々の硫化物に対して真円度を求めた。この真円度とは、各硫化物について同一の面積となる真円の直径(円相当径)を測定し、上記各硫化物の直径との比[円相当径/硫化物の直径(長径)]を意味する。この真円度を6視野の全硫化物について求め(1視野当り:0.64mm×0.48mm)、その平均値を計算し、平均球状化率とした。例えば、測定された硫化物が完全な円形(真円)である場合には、球状化率(真円度)は1.0(100%)となる。
[硫化物中の硫化銅の面積割合の測定方法]
500倍の光学顕微鏡で15視野を観察し(1視野当り:0.128mm×0.096mm)、直径(長径)が2.5μm以上の全硫化物の面積を求めて全面積とし、次に硫化物中のZnS(濃い色の部分をZnSと判断)の面積(合計面積)を求め、上記全面積からZnSの合計面積を減じて硫化銅の面積とした。これらの値に基づき、硫化物の全面積に占める硫化銅の面積割合(平均値)を計算によって求めた。
測定結果を下記表2に示す(n=2回の平均値)。またこの結果に基づいて、各銅合金のS含有量と機械的特性(引張強さおよび伸び)を図1に、各銅合金のS含有量と球状化率(平均球状化率)の関係を図2に、夫々示す。尚、従来の銅合金であるCAC406の引張強さは195MPa、伸びは15%である(これらの値はJIS規格を参照した)。
この結果から次の様に考察できる。まずS含有量が0.1〜0.7%程度で、引張強さは従来の銅合金(CAC406)よりも高い値を示し、球状化率も高くなっていることが分かる。また伸びの点でも従来の銅合金(CAC406)と遜色がないことが分かる。しかしながら、S含有量がこれより多くなると機械的性質が低下すると共に、球状化率も低下する傾向を示すことになる。尚、各本発明の銅合金(No.2〜5)のものについて、光学顕微鏡による組織観察によれば、最終凝固領域に硫化物が分散していることが確認できた。
[実施例2]
上記表1に示した各銅合金鋳物について、被削性について調査した。このときの切削条件は下記の通りである。そして、試験片をφ23mm→φ22mm→φ21mmと削った後、φ20mmの切削で切削抵抗を測定し、下記(1)式によって求められる切削指数によって被削性を評価した。
[切削条件]
NC旋盤:OKUMA LP25C(商品名:オークマ株式会社製)
チップ:イゲタロイ
切削動力計:KISLER9257B(商品名:日本キスラー株式会社製)
切削油:油性
切削速度:100m/min
送り速度:0.1mm/rev
切り込み量:0.5mm、1.0mm
試験片径:φ23mm
加工径:φ20mm
切削指数=(CAC406の切削抵抗値/各試験片の切削抵抗値)×100…(1)
その結果(S含有量と切削指数の関係)を図3に示す。この結果から明らかなように、S含有量が増すにつれて、被削性が向上していることが分かる。これは、球状化した硫化物が均一分散したという理由によるものと考えられる。
[実施例3]
上記表1に示した各銅合金ついて、耐圧性について調査した。耐圧性の試験方法は、「JIS B 2062 水道水の仕切弁」中の「9.1弁箱の耐圧試験」に準拠して行った(水圧:3MPa,2分間)。そして、各試験片について、24回(n=24)試験を行い、水漏れの有無を肉眼で観察し、「漏れ」が確認された場合を不良品と判定し、その発生率(不良率=不良品の個数/24)で耐圧性を評価した。
その結果、上記No.2〜5に示した銅合金では、不良率が極めて低くなっており(0%)、良好な耐圧性を示していることが確認できた。これは球状化した硫化物が均一に均に分散していることによるものと考えられた。
[実施例4]
下記表3に化学成分組成を示す各銅合金(No.7〜14)を、常法に従って溶解・鋳造した。得られた銅合金鋳物について、各種機械的特性(引張強さおよび伸び)、硫化物の球状化率、および硫化物中の硫化銅の割合について、実施例1と同様にして求めた。また、実施例2と同様にして、各銅合金鋳物の被削性(切削指数)についても調査した。
測定結果を下記表4に示す(n=2回の平均値)。またこの結果に基づいて、各銅合金のZn含有量と機械的特性(引張強さおよび伸び)を図4に、各銅合金のZn含有量と球状化率の関係を図5に、各銅合金のZn含有量と硫化物中の硫化銅の割合の関係を図6に、各銅合金のZn含有量と被削性(切削指数)の関係を図7に夫々示す。
この結果から次の様に考察できる。Zn含有量が6%までにおいては、機械的特性(引張強さおよび伸び)は高い値を示すと共に、球状化率、硫化物中の硫化銅の割合も高くなっており、しかも被削性(切削指数)も良好であることが分かる。上記銅合金のうち、Zn含有量が1.2%、4.0%、6.9%および7.6%のもの(No.8,11,13,14のもの)について、光学顕微鏡による組織観察結果を図8(図面代用顕微鏡写真)に示す。
[実施例5]
下記表5に化学成分組成を示す各銅合金(No.15〜19)を、常法に従って溶解・鋳造した。得られた銅合金鋳物について、各種機械的特性(引張強さおよび伸び)を調査した。
測定結果を、下記表6に示す。またこの結果に基づいて、銅合金におけるSn含有量と機械的特性(引張強さおよび伸び)の関係を図9に示す(n=2回の平均値)。この結果から明らかなように、Sn含有量が増加するにつれて引張強さや伸びが向上していることが分かる。

Claims (1)

  1. S:0.1〜0.7%(質量%の意味、化学成分組成については以下同じ)、Sn:8%以下(0%を含まない)、Zn:6%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部がCuおよび不可避的不純物であり、且つ硫化物が分散されると共に、該硫化物の平均球状化率が0.7以上であり、全硫化物中に占める硫化銅の面積割合が70%以上であることを特徴とする機械的特性に優れた鋳物用無鉛銅合金。
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