JP5328043B2 - ポリマーグラフトカーボンナノチューブ、及びその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、ポリマーグラフトカーボンナノチューブ、及びその製造方法に関し、更に詳しくは、カーボンナノチューブにおけるグラフェンシートに形成された重合性二重結合とビニルモノマーとを重合反応に供することによりカーボンナノチューブに有機高分子がグラフトしてなるポリマーグラフトカーボンナノチューブ、及びその効率的な製造方法に関する。
カーボンナノチューブの研究は、非特許文献1に示される炭素ウィスカーに始まる。更に、その後の研究によって、1つの炭素六角面格子を円筒状に捲いた場合に3つに分類される多数の構造の存在することが、非特許文献2において示された。また、非特許文献3により、炭素六角面格子の円筒が単層であるときに半導体的な、又は金属的な電気特性の発現が予測された。
従来、カーボンナノチューブの利用、及び改質について、様々な技術が開発されてきた。
特許文献1には、「重合性部位を介して重合したイオン性液体と、カーボンナノチューブとから構成されることを特徴とするカーボンナノチューブ/ポリマー複合体」が記載されている(特許文献1の請求項1参照)。特許文献1に記載の「カーボンナノチューブ/ポリマー複合体」は、「カーボンナノチューブの表面に「カチオン−π」相互作用により結合したイオン性液体の部位がイオン結合を介して配列し、カーボンナノチューブの束どうしを結びつけることにより、形成される架橋構造(三次元網目構造)」を有していると記載されている(特許文献1の段落番号0024欄参照)。更に、特許文献1には、「重合性部位を介してイオン性液体が重合すると、この架橋構造が強化されるとともに、イオン性液体のポリマーがカーボンナノチューブの表面を緊密にコーティング(被覆)する」という記載もなされている(特許文献1の段落番号0024欄参照)。
非特許文献4には、カーボンナノチューブを切断することにより官能基が形成され、過酸化処理、及び塩化チオニルとの反応により、ポリエチレンオキシドと切断カーボンナノチューブとのグラフト重合体が記載されている。
非特許文献5、及び非特許文献6においては、分解し難い物質の分解を目的として、排水浄化用の放電装置が記載されている。
また、上記非特許文献5、及び非特許文献6に示される放電装置は、特許文献2、及び非特許文献7に示されるように、カーボンナノチューブの改質用に用いられることもある。特許文献2には、「カーボンナノ材料を親水性溶媒に混入し、前記親水性溶媒中で繰り返しストリーマ放電を行って前記カーボンナノ材料の表面にOH基を結合させる・・・カーボンナノ材料の可溶化方法」が記載されている(特許文献2の請求項1参照)。非特許文献7にも、水中でバブリングしつつストリーマ放電を行うことにより、カーボンナノチューブに構造欠陥を与えることなく、カーボンナノチューブのグラフェンシート中に官能基を多量に付与することができると記載されている。
しかしながら、カーボンナノチューブを切断することなく、カーボンナノチューブにおけるグラフェンシートに形成された重合性二重結合を利用した、ポリマーグラフトカーボンナノチューブが合成されたという文献は未だ見出すことができない。したがって、ポリマーグラフトカーボンナノチューブの合成、及び合成効率の高いポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法が望まれていた。
特許第4134306号明細書 国際公開第2007/083681号
ロージャー ベーコン(Roger Bacon)、「グラファイトウイスカーの成長、構造、及びその特性(Growth, Structure, and Properties of Graphite Whiskers)」、応用物理ジャーナル(Journal of Applied Physics)、米国、シカゴ大学、1960年発行、第31巻、p.283−290 飯島澄男(SUMIO IIJIMA)、「グラファイトカーボンの螺旋状マイクロチューブ(Helical microtubules of graphitic carbon)」、ネーチャー(Nature)、イギリス、Nature Publishing Group、1991年、第354巻、p.56−58 ジェイ. ダブリュ. ミントマイヤ、ビー.アイ.ダンラップ、シー.ティー.ホワイト(J.W.Mintmire,B.I.Dunlap,C.T.White)、「Are fullerene tubules metallic?」、フィジカル レヴュー レターズ(Physical Review Letters)、米国、アメリカ物理学会(American Physical Society)、1992年、第68巻、p.631−634 神野あゆみ、佐野正人、新海征治、「PEOでグラフトしたカーボンナノチューブの表面凝集挙動」、Polymer Preprints, Japan、日本、高分子学会(The Society of Polymer Science)、2000年、第49巻、p.3780−3781 安岡康一、前原常弘、佐藤正之、「水中プラズマによる化学(有機)プロセス」、JOURNAL OF PLASMA AND FUSION RESEARCH、社団法人プラズマ・核融合学会(The Japan Society of Plasma Science and Fusion Research)、2008年、第84巻、p.679−684 佐藤正之、秋山秀典、浪平隆男、畠山力三、金子俊郎、「水中プラズマによるバイオプロセス」、JOURNAL OF PLASMA AND FUSION RESEARCH、社団法人プラズマ・核融合学会(The Japan Society of Plasma Science and Fusion Research)、2008年、第84巻、p.685−691 Kiminobu Imasaka、Yuki Kato、Junya Suehiro、"Enhancement of microplasma-based water-solubilization of single-walled carbon nanotubes using gas bubbling in water"、Nanotechnology、イギリス、IOP Publishing Ltd、2007、18、p.335602(7pp)
この発明が解決しようとする課題は、カーボンナノチューブに有機高分子が共有結合によって結合してなり、複合材料とする場合には分散性が良好なポリマーグラフトカーボンナノチューブを提供することである。
また、この発明が解決しようとする別の課題は、上記ポリマーグラフトカーボンナノチューブを効率的に製造することのできるポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法を提供することである。
前記課題を解決するための手段は、
(1) カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であって、
カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程とを有し、
前記酸素含有官能基導入工程は、水系分散媒中に分散されたカーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含むポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
前記課題を解決するための他の手段は、
(2) カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であって、
カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程とを有し、
前記酸素含有官能基導入工程は、カーボンナノチューブを含有する水系分散媒中に酸素含有ガス、窒素ガス又は希ガスをバブリングしつつ、前記カーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含むポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(3) 前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである(1)又は(2)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(4) 酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブは、その酸素含有量が、前記酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブに含まれる元素の全量を100質量%とした場合に、0.01〜10質量%である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(5) 前記重合反応が、超音波照射下に行われる(1)〜(4)のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法である。




この発明によると、グラフェンシートに、酸素含有官能基を導入することによって形成された重合性二重結合を有するカーボンナノチューブの存在下に、ビニルモノマーを重合反応させることにより、カーボンナノチューブの表面に有機高分子が共有結合により結合されてなり、カーボンナノチューブの特性、例えば電気的特性、及び機械的特性を低下させることなく、マトリックス材料中に分散性よく分散することにより容易に複合化することのできるポリマーグラフトカーボンナノチューブを提供することができる。
また、この発明によると、簡単な操作により表面に酸素含有官能基を導入することにより形成された重合性二重結合を有するカーボンナノチューブの存在下に、通常の重合操作、したがって簡単な重合操作を行うことにより容易に且つ効率的にカーボンナノチューブの表面にビニルモノマーの重合体が共有結合により結合してなるポリマーグラフトカーボンナノチューブを製造する方法を提供することができる。
更に、この発明によると、カーボンナノチューブとその表面に結合されたビニルポリマーとを有するポリマーグラフトカーボンナノチューブを容易に製造することのできる方法を提供することができる。
この発明によると、パルスプラズマ照射を行うと、カーボンナノチューブを破断することなく、カーボンナノチューブの表面に酸素含有官能基を導入してなる重合性二重結合含有カーボンナノチューブを製造し、その重合性二重結合含有カーボンナノチューブを用いてポリマーグラフトカーボンナノチューブを簡単に製造することのできる方法を提供することができる。
図1は、官能基が導入される前段階のカーボンナノチューブの一例を示す外観図である。 図2は、水酸基導入後のグラフェンシートの一態様を示す構造図である。 図3は、カルボキシル基導入後のグラフェンシートの一態様を示す構造図である。
この発明に係るポリマーグラフトカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合によって結合されたビニルモノマーの重合体とを有する。
カーボンナノチューブの表面層にビニルモノマーの重合体が共有結合により結合するには、カーボンナノチューブの表面層に、重合性二重結合が存在していることを要する。この重合性二重結合は、原料であるカーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入することにより形成される。
なお、以下において、酸素含有官能基が導入される以前の、原料であるカーボンナノチューブをCNTと称することがあり、酸素含有官能基が導入され、これによって重合性二重結合を有するに到ったカーボンナノチューブを重合性CNTと称することがあり、本願発明に係るポリマーグラフとカーボンナノチューブをPGCNTと称することがある。
この発明に係るPGCNTは、CNTの表面層に酸素含有官能を導入することにより、CNTの表面に不安定な重合性二重結合を形成する酸素含有官能基導入工程と、重合性二重結合を有するカーボンナノチューブの存在下に、ビニルモノマーを重合反応させる重合工程とを有する。更に具体的に言うと、この発明に係るPGCNTの製造方法は、表面層にあるグラフェンシートに形成された重合性二重結合を有する重合性CNTの存在下にビニルモノマーを重合反応させると、PGCNTが形成される。要するに、重合性CNTの存在下にビニルモノマーの重合反応を行うと、重合性CNTに形成された成長末端、ビニルモノマーの成長末端、及びビニルモノマーの重合体における成長末端等の成長末端が、重合性CNT、ビニルモノマー、及びビニルモノマーの重合体等と反応することによりPGCNTが生成する。
例えば重合反応がラジカル反応である場合を例にとって説明すると、重合性CNTの存在下にビニルモノマーの重合反応を行うと、ラジカル重合開始剤により開始されたビニルモノマーの重合末端のラジカルが重合性CNTにおける重合性二重結合と反応してビニルモノマーが重合してなる重合主鎖が重合性CNTに結合する反応、ビニルモノマーの重合末端に形成されているラジカルが重合性CNTにおける重合性二重結合に反応することによりその重合性二重結合にラジカルが形成され、形成されたラジカルから新たにモノマー鎖が成長していく反応、また、ラジカル重合開始剤により発生した開始剤ラジカルが直接に重合性CNTにおける重合性二重結合に反応してその重合性二重結合から重合主鎖が成長していく反応、等の複雑な反応が生起して結果としてCNTにビニルモノマーの重合体が共有結合により結合してなるPGCNTが形成される。
前記酸素含有官能基が導入される以前の、PGCNT製造の原料であるCNTは、炭素の六員環が連なって成るグラフェンシートで円筒形に形成されて成る物質である。CNTは、前記グラフェンシートが単層である単層CNT、グラフェンシートが二層をなしている二層CNT、グラフェンシートが三層以上である多層CNTのいずれであっても良い。
CNTは、従来から公知の製造方法により製造することができ、例えばアーク放電法、レーザー蒸発法、気相化学蒸着法、浮遊気相成長法、及び基板気相成長法等により製造されることができる。
アーク放電法は、約66500Paのヘリウムガス、アルゴンガス、又は水素ガス等の気体中に直径1cm程度の黒鉛棒から成る電極を設置し、電極間に20V、100A程度のアーク放電を起こし、陽極の黒鉛棒が蒸発することによりCNTを得る方法である。レーザー蒸発法は、1200℃に加熱したアルゴンガスの流れの中で、金属触媒を混合したグラファイト試料を可視パルスレーザー光により蒸発させることにより、CNTを得る方法である。気相化学蒸着法は、800℃程度の比較的低温下で炭化水素、又はアルコール等を熱分解して生じた炭素クラスターを反応炉中に投入し、反応炉で分子の成長温度を維持することによって、反応炉中で成長したCNTを得る方法である。
浮遊気相成長法は、フェロセンなどの有機遷移金属化合物とチオフェンなどの有機化合物とトルエン、及びベンゼンなどの炭化水素とを水素などのキャリアガスと共に、900〜1200℃に加熱された反応管内に連続的に供給することにより、CNTを製造する方法である。この浮遊気相成長法は、特公昭62−049363号公報に記載された方法が基本的である。この浮遊気相成長法は、その後に、流動気相法(日機装法とも称される。)として紹介されている(CPC研究会発刊『炭素原料の有効利用IV』p.80(1986)参照)。この浮遊気相成長法は、更に改良された方法として、例えば特開2003−213531号公報、特開2007−246316号公報等に記載されている。これら公報に記載された気相成長炭素繊維は、この発明におけるCNTとして使用されることができる。
基板気相成長法は、管状炉の内部に設置した反応管中に、触媒つきの基板を設置し、加熱した触媒へ炭素源となるガスを流しながら、カーボンナノチューブの合成を行う方法である。この基板気相成長法の一例が、例えば特開2001−220674号公報、及び特開2008−239378号公報に記載されている。
この発明に係るPGCNTの製造方法において、原料であるCNTとしては、単層CNT、二層CNT、及び多層CNTのいずれであっても良いが、単層CNTに比べて二層CNTが好ましく、二層CNTに比べて多層CNTが好ましい。
二層CNT、及び多層CNTは、酸素含有官能基導入工程において最表面に存在するグラフェンシート層に酸素含有官能基が形成されるが内側のグラフェンシート層は酸素含有官能基形成による芳香性二重結合の破壊をほとんど伴わないので、電気的特性、及び強度等のCNT固有の特性を失うことなく、重合性CNTにすることができる。
この発明に係るポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法において、重合性CNTが有する重合性二重結合は、前記CNTにおける炭素六角網面における炭素−炭素二重結合に酸素含有官能基を導入すると、その周辺の炭素−炭素二重結合が芳香族性を完全に、又は不完全に失うことにより形成される。
通常、CNTのグラフェンシートに存在する炭素−炭素二重結合の反応性は、隣接する炭素−炭素二重結合と共役系を形成して芳香族として安定化していると共に、グラフェンシート全体に亘って六角格子同士が共役して安定化しているので、重合反応性がないといってよいほどに低い。この重合反応性が低い炭素−炭素二重結合が重合性を有するようになるには、酸素含有官能基の導入によって芳香族性の炭素−炭素二重結合、及びその近傍が以下のように変化するからである。CNTのグラフェンシートを形成する炭素同士は、基本的にsp軌道上の電子によって形成されるσ結合と、残りのπ電子によって形成されるπ結合とにより、二重結合で結合している。酸素含有官能基導入工程では、CNTのグラフェンシート上に存在し、かつ共役系を形成して成る結合である炭素−炭素二重結合に、種々の酸素含有官能基を導入する処理である。更に具体的に言うと、前記酸素含有官能基の導入により、任意の炭素−炭素二重結合におけるsp軌道上の電子によって形成されるσ結合、及びπ結合は、sp軌道上の電子によって形成される結合(以下、単に「sp結合」と称することがある。)と成り、π結合であった箇所に官能基が付与される。
CNTは、筒状に形成されたグラフェンシートの面に沿って、つまりCNTの外周面に沿って、炭素−炭素二重結合におけるπ電子が共役系を形成している。またCNTの表面層は、巨視的には凹凸が無く、炭素−炭素二重結合が芳香族性を維持する湾曲平面となっている。
しかしながら、酸素含有官能基が導入されたグラフェンシートにおける炭素はsp結合を形成する。sp軌道上の電子によって形成されていたσ結合同士は、相互に120°の角度を維持していたが、sp結合は相互に109.5°の角度を成すこととなり、又は109.5°の角度に近づくこととなるので、筒状のグラフェンシートの平面性を維持することができなくなって歪みが生じる。また、sp結合を有する炭素と隣接する炭素との結合距離が、芳香族性を有する炭素−炭素二重結合における炭素−炭素間結合距離よりも長いので、筒状のグラフェンシートの平面性を維持することができなくなって更に歪みが生じる。sp結合により酸素含有官能基と結合する炭素原子に隣接する炭素−炭素二重結合は、σ結合同士が相互に120°の角度を維持しようとするが、隣接するsp結合の結合角度、及び結合距離によって生じるCNTの歪みの影響を受けて、sp結合により安定な芳香族性二重結合から、歪みを有して不安定な二重結合となる。この不安定な二重結合が重合性の二重結合として作用する。
また、酸素含有官能基が導入されると、それまで安定な芳香族性炭素−炭素二重結合を形成していた炭素−炭素二重結合が開裂して炭素六角網面に欠損を生じる。
開裂した炭素−炭素二重結合に導入された酸素含有官能基に結合する炭素原子に隣接する炭素とその炭素に隣接する六員環中の炭素とでそれまで形成されていた安定な芳香族性炭素−炭素二重結合が、酸素含有官能基の導入による立体的歪みによって、共役安定性が低下する。つまり、酸素含有官能基の導入により、六角網面に一部開口したように共役系の欠損箇所が生じた部分の周辺には、共役安定性が低下した炭素−炭素二重結合が形成される。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、CNTの炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性の二重結合として作用する。
以下に、酸素含有官能基導入工程について更に詳述する。
従来、酸素含有官能基導入工程、つまりCNTに酸素含有官能基を導入する処理としては、例えばCNTを機械的、又は化学的に切断し、反応性が向上した切断箇所に化学反応により酸素含有官能基を導入する処理、CNTのグラフェンシートの一部を化学的に破壊し、反応性が向上した破壊箇所に更に化学反応により酸素含有官能基を導入する処理、及び、分散媒に投入したCNTに対してパルスプラズマを放電することにより、分散媒中にラジカルを発生させてグラフェンシートの炭素−炭素二重結合に酸素含有官能基を導入する処理等が、ある。
この発明に係るPGCNTの製造方法における酸素含有官能基導入工程は、分散媒特に水系分散媒に投入したCNTに対してパルスプラズマを放電することにより、グラフェンシートの炭素−炭素二重結合に酸素含有官能基を導入する処理(以下において、「パルスプラズマ処理」と称することがある。)が特に好ましい。
パルスプラズマ処理は、パルスプラズマ処理以外の処理に比べて、CNTを過酷な反応環境に曝す必要がなく、CNTが本来的に有していた機械的特性、及び電気的特性の低下が小さいので好ましい。
好ましい理由は、以下のようである。パルスプラズマ処理以外の酸素含有官能基導入工程として、例えば熱硝酸処理を挙げることができる。熱硝酸処理は、加熱された硝酸にCNTを浸漬するという、過酷な条件下で行う処理である。この熱硝酸処理をCNTに施すと、一本のCNTが何本かに切断され、CNTの表面層における切断された部分に官能基が導入され、孤立した炭素−炭素二重結合が形成される。しかしながら、CNTには、熱硝酸処理によって、共役系を形成していた炭素−炭素二重結合が外的要因により破壊された部位、つまり構造欠陥が多数生じることとなる。CNTの構造欠陥が増加しすぎると、二重結合由来のπ電子の共役範囲が狭くなり、化学的に不安定化するので、CNTが本来有していた様々な機械的特性、及び電気的特性が発現し難くなる。これに対して、CNTを過酷な反応環境に曝す必要が無いパルスプラズマ処理は、CNTの構造欠陥を必要以上に増加させることが無いので、CNTが本来有していた機械的特性、及び電気的特性の低下が小さくなる。
ここで、CNTに対して行うパルスプラズマ処理について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、CNT1の軸線を水平にしたときのグラフェンシート2の外観図の一例を示す。図1において、詳細な図示はしないが、グラフェンシート2は六員環が連なっており、炭素−炭素二重結合同士が共役系を形成している。なお、図1にはCNTの一例としてアームチェア型のCNTを示したが、この発明に係るポリマーグラフトカーボンナノチューブにおいてはCNTとしてジグザグ型、又はカイラル型のCNTを用いても良い。
前記パルスプラズマ処理は、CNTを投入した分散媒に対してコロナ放電を行う処理である。コロナ放電を行うことにより、OHラジカル、Hラジカル、及びOラジカルが分散媒中に生成され、CNTの表面に水酸基、及び/又はカルボキシル基が付与される。なお、パルスプラズマ処理を行う場合に、CNTを分散させる分散媒としては、上記ラジカルが発生し易い分散媒が好ましく、水系分散媒が特に好ましい。水系分散媒としては、例えば水を主体とし、必要であれば用途に応じてアルコール、塩類、又は電解質等を加えてなる分散媒である。好適な水系分散媒は水である。
前記パルスプラズマ処理は、パルスプラズマによって分散媒中にラジカルを効率よく発生させることができるガスをバブリングしつつ行うのが好ましい。バブリングに用いるガスとしては、例えば酸素含有ガス、窒素ガス、及び希ガス等を挙げることができる。なお、酸素含有ガス、例えば酸素ガス若しくは空気、又はオゾンガスを用いると、放電によって分散媒中に多数のOHラジカルが生成させることができる。また、希ガス、例えばヘリウムガス、又はアルゴンガスを用いると、放電によって分散媒中に多数のHラジカル、及びOラジカルを生成させることができる。
前記パルスプラズマ処理において好ましい放電は、コロナ放電を採用することができる。また、前記コロナ放電において、電圧上昇に因ってグローコロナ、及びブラシ状コロナを経たコロナであって、電極間の全路破壊に至るまでに形成されるストリーマコロナをパルスプラズマ処理に利用すると、OHラジカル、Hラジカル、及びOラジカルを分散媒に効率良く発生させることができるので、最も好ましい。
ストリーマコロナを形成する装置は、適宜の放電装置を用いることができ、例えば正極として針状電極、又は線状電極、負極として接地した板状電極を有する放電装置を用いることができる。なお、正極として針状電極、負極として針状電極を設置するとストリーマコロナは発生しないので、電極として針状電極と板状電極との組合せ、又は線状電極と板状電極との組合せを採用するのが好ましい。特に、針状電極に比べて線状電極は、多数のストリーマコロナを形成することができるので好ましい。
ストリーマコロナを用いる場合において、CNTの投入量は、分散媒の導電率が100〜1000μS/cmとなるように調整すれば良い。なお、CNTの導電性、長さ、及び直径等によりストリーマコロナの効率は変化するので、水系分散媒の種類、CNTの投入量、及び水系分散媒に対する濃度は、上記導電率範囲になるようにCNTの性状に応じて調整することができる。
CNTに対してパルスプラズマ処理を行う時間は、官能基を導入する数に応じて設定することができる。
パルスプラズマ処理においても、パルスプラズマ処理以外の酸素含有官能基導入工程と同様に、官能基を導入するにはCNTに構造欠陥を生じさせてしまうが、パルスプラズマ処理は生じさせる構造欠陥の数が少ないので、処理の条件を適切に設定すれば、CNTの反応性を向上させるに必要な重合性二重結合を形成する最低限の数の酸素含有官能基を導入することができる。なお、重合性CNTに導入された酸素含有官能基の数は、重合性CNTの酸素含有量として表現することができる。
重合性CNTの酸素含有量は、例えば元素分析、X線光電子分光法、FTIR測定、及び酸アルカリ滴定等により導出することができる。
なお、前記パルスプラズマ処理後の重合性CNTに含まれる酸素含有官能基であるカルボキシル基は、水素化ホウ素リチウムにより、アルコール性水酸基に還元することができる。カルボキシル基がアルコール性水酸基に還元された重合性CNTは、セリウムイオンによるグラフト重合をすることができる。つまり、セリウムと重合性CNTに形成された水酸基との反応によって、重合性CNT上に遊離ラジカルが生成されて、重合性CNTのグラフェンシートからビニルモノマーの重合が開始される。
この発明における重合性CNTの酸素含有量は、重合性CNTに含まれる元素の全量を100質量%とした場合に、0.01〜10質量%であるのが好ましい。酸素含有量が0.01〜10質量%であると、重合性CNTが後述の重合反応において分散媒に容易に分散するので重合性二重結合が重合反応に寄与し易くなると共に、必要以上に官能基を導入していないのでCNTの構造欠陥が過多になることによってCNTが本来有している機械的特性、及び電気的特性が失われることも無い。
なお、CNTが単層CNTである場合には、パルスプラズマ処理により酸素含有官能基をCNTに導入すると、単層CNT中の唯一のグラフェンシートに構造欠陥が生じるので、機械的特性、及び電気的特性に影響を及ぼす可能性が高い。これに対して、CNTが二層CNT、又は多層CNTである場合には、パルスプラズマ処理により酸素含有官能基をCNTに導入しても、最外層のグラフェンシートに構造欠陥が生じるに過ぎないので、重合性CNTの機械的特性、及び電気的特性は最外層以外のグラフェンシートによって補われることとなり、重合性CNTの機械的特性、及び電気的特性がもとのCNTよりも大きく低下することがない。
図1に示したCNT1に対して、パルスプラズマ処理を行った後の重合性CNT11を図2、及び図3に示す。
図2には、重合性CNT11におけるグラフェンシート21の一部を拡大して示している。図2に示すように、グラフェンシート21は、炭素1と炭素2との間に形成されていたπ結合が切断されて、炭素1には水酸基が付与され、炭素2には水素が付与されている。このとき、炭素1と炭素2との間の結合は、パルスプラズマ処理によって二重結合からsp単結合に変化している。sp軌道上の電子により形成されるσ結合は、相互に120°の結合角度を維持していたが、sp結合に変化したことによって結合角度は、sp軌道同士が成す角度である109.5°に変化しているか、109.5°に近づくことになる。この結合角度の変化は、炭素3、及び炭素4、並びに炭素5、及び炭素6がそれぞれ相互に近づくようにCNTの変形を生じさせ、更には炭素3、炭素4、炭素5、及び炭素6をそれぞれ含む六員環の変形に影響を受けて周辺の六員環も変形を起こし、筒状を成すグラフェンシートの平面性に歪みを与え、二重結合に反応性を付与する。更に、sp軌道上の電子により形成されるσ結合、又はπ結合に比べるとsp結合は結合距離が長いので、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が正確な六角形ではなくなる。また、炭素1に結合している水酸基、及び炭素2に結合している水素は、巨視的にはグラフェンシート21の外側に向かって突き出た状態と成る。つまり、重合性CNT11のグラフェンシート21は、酸素含有官能基が導入されて局所的に歪むことによって、平面性が低下している。更に、炭素1、及び炭素2がsp結合に変化しているので、炭素1、及び炭素2は共役系、又は芳香族性の形成に寄与しない。
すなわち、図2に示すように、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環は共役系を形成しないので芳香族性を維持しない。これにより、グラフェンシート21に形成されていた共役系は、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環の部分において共役系を喪失する。更に、グラフェンシート21において、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している炭素六員環では、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環による歪み、及び共役系、又は芳香族性の喪失によって、炭素原子間を相互に移動することで共役安定化に寄与するπ電子密度が低下し、共役安定性、及び芳香族性が低下している。
炭素3、及び炭素4は、共役系を形成する六員環に含まれている炭素の一つであると共に、炭素2にも結合している。炭素3、及び炭素4における結合のうち、共役系を形成する六員環に対する結合は結合角度が120°に維持されるのに対して、炭素2に対する結合は、炭素2を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、結合角度が120°から大きく外れる。炭素5、及び炭素6についても同様であり、炭素1を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、炭素5、及び炭素6から炭素1に対して形成される結合と、炭素5、及び炭素6から形成される他の結合との結合角度は、120°から大きく外れることになる。結果として、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している炭素六員環、並びにその炭素六員環に比較的近接した炭素六員環は、芳香族性、及び共役安定性が低下する。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、すなわち炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合は、図1に示すようなCNT1に存在する炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性を獲得する。
図3には、重合性CNT12におけるグラフェンシート22の一部を拡大して示している。図3に示すように、グラフェンシート22は、炭素1と炭素2との間に形成されていた炭素−炭素二重結合が切断され、かつ炭素2と炭素4との間に形成されていた結合も切断されている。この結合の切断は、過度に酸素含有官能基の導入が進行した結果として生じることがある。炭素1には2つの水素が付与され、炭素2には酸素、及び水酸基が付与されることにより炭素2がカルボキシル基と成り、炭素4には水素が付与されている。このとき、炭素1から炭素2へと延びる結合は、σ結合とπ結合とによる二重結合であったが、パルスプラズマ処理によって切断され、その結果として炭素1、及び炭素2は夫々隣接する元素に対するsp結合に変化している。sp軌道上の電子により形成されるσ結合は、相互に120°の結合角度を維持していたが、sp結合に変化したことによって結合角度は、sp軌道同士が成す角度である109.5°に変化しているか、109.5°に近づくことになる。この結合角度の変化は、炭素5、及び炭素6が相互に近づくようにCNTの変形を生じさせ、筒状を成すグラフェンシートの平面性に歪みを与える。更に、重合性CNT12は、図2に示した重合CNT11に比べると、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分に、複数個の元素が押し込まれた状態と成っているので、より一層大きな立体的歪みを生じさせている。よって、炭素1に結合している2つの水素、カルボキシル基と成った炭素2、及び炭素4に結合している水素は、巨視的にはグラフェンシート22の外側に向かって飛び出した状態となる。つまり、重合性CNT12のグラフェンシート22は、酸素含有官能基が導入されて立体的な歪みが生じることによって、平面性が大きく低下している。
更に、図3に示すように、グラフェンシート22において、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分には、芳香族としての共役系が形成されない。これにより、グラフェンシート22に形成される共役系は、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分が欠損して開口しているように形成される。更に、グラフェンシート22において、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環では、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分の歪み、及び共役系の非形成によって、電子密度が低下し、共役安定性が低下している。
炭素2における炭素と酸素との二重結合は、隣接する炭素3を含む六員環と共に共役系を形成するが、芳香族性は有しない。炭素5、及び炭素6は、共役系を形成する六員環に含まれている炭素の一つであると共に、炭素1にも結合している。炭素5、及び炭素6における結合のうち、共役系を形成する六員環に対する結合は結合角度が120°に維持されるのに対して、炭素1に対する結合は、炭素1を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、結合角度が120°から大きく外れる。結果として、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ共役系を形成している炭素六員環は、芳香族性、及び共役安定性が低下する。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、すなわちグラフェンシート22における炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ、共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合は、図1に示すようなCNT1に存在する炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性を獲得する。
上述したように、パルスプラズマ処理によって任意の炭素−炭素二重結合の隣接する炭素に酸素含有官能基が導入されたときに、分子構造の平面性が低下して、共役系が崩れて共役安定性も低下することにより、CNTの反応性、特に共役安定性が低下した炭素−炭素二重結合の重合反応性が高まり、結果として炭素−炭素二重結合が重合性二重結合に変化する。
なお、図1に示すようなパルスプラズマ処理されていないCNTにおいて、重合開始反応としてグラフェンシートにおける炭素−炭素二重結合にビニルモノマーが反応することによりグラフェンシートにポリマーがグラフトしてなるCNTは極僅かと考えられる。従来、CNTとモノマーとを投入した液中でビニルモノマーの重合反応を進行させたとしても、ビニルモノマーは分散性、混合性、及び反応性の低いCNTとは反応せずに単独で重合してホモポリマーが生成し、CNTは単なる凝集体と成るだけで、系全体でみると、ホモポリマーとCNTの凝集体とが系内に別個に点在する状態となっているである。
続いて、この発明に係るポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法における重合工程で用いるビニルモノマーについて説明する。前記ビニルモノマーは、ビニル基を有する化合物である限り特に制限されず、重合の態様、及び重合条件等に応じて適宜に選択すれば良いので、例えばエチレン、塩化ビニル、ハロゲン化ビニル、スチレン、酢酸ビニル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エステル、ビニルピロリドン、イソプレン、及びアクリロニトリル等を用いることができる。上記ビニルモノマーとしては、単独重合することのできるビニルモノマーであると好ましい。重合の態様、及び重合条件は後述するので、それに応じたビニルモノマーについても後述する。なお、前記ビニルモノマーとしては、ビニルモノマーが重合してホモポリマーと成ったときに、分散媒にホモポリマーが溶解可能なビニルモノマーを選択すると、重合性CNTにホモポリマーがグラフトしても沈殿しないので、結果として重合を長時間に亘って継続させることができると共に、重合度を向上させることもできるので好ましい。すなわち、ビニルモノマーに対しては溶媒であって、重合性CNTに対しては分散媒である媒体を選択するのが好ましい。もっとも、ホモポリマーが分散媒に不溶であっても、グラフト効率が低下するに過ぎないので、この発明に係るポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法の実施は可能である。
この発明に係るPGCNTの製造方法において、重合性CNTとビニルモノマーとを用いる重合の態様は、ラジカル重合、アニオン重合、及びカチオン重合のいずれであっても良い。この発明に係るPGCNTの製造方法においては、選択されるビニルモノマーに応じて、重合の態様、及び重合条件を公知技術から選択することができる。なお、重合の態様、及びビニルモノマーは、得られるPGCNTに発現させたい化学的特性、及び機械的特性等に応じて選択することができる。なお、前記重合条件としては、重合反応を行う環境に関する事項であり、例えば開始剤、重合温度、重合時間、及び重合に用いる試薬等が挙げられる。
この発明に係るPGCNTの製造方法における重合工程において、重合性CNTとビニルモノマーとの投入量の比率は、特に制限されない。
この発明に係るPGCNTの製造方法において、重合の開始剤は、重合の態様、及び重合条件に応じて決定することができる。なお、重合反応は、加熱による熱重合であっても良く、紫外線照射による光重合であっても良い。
重合反応の開始剤として、重合反応がラジカル重合である場合は、例えばアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと称することがある。)、及び2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物開始剤、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、及びテトラエチルチラウムジスルフィド等のカルボニル化合物、並びにセリウム塩等を用いることができる。これらの開始剤は光開始剤であるが、ビニルモノマー、及び重合性CNTに不都合な変質が生じなければ、重合系を加熱することにより熱重合を起こしても良い。なお、ラジカル重合の開始剤としてセリウム塩を用いると、重合性CNT表面に付与された酸素含有の官能基、特に水酸基とセリウム塩とが反応して重合性CNT表面にラジカルを形成することによりグラフト率が高くなるので、好ましい。なお、ラジカル重合の開始剤としてセリウム塩を用いると、重合性CNT表面に発生したラジカルによって重合性CNT自体が成長末端と成り、ラジカルにビニルモノマーが付加してグラフト部分を成長させる場合と、この成長末端がビニルモノマーと連鎖移動反応を起こし、その後はホモポリマーの成長をさせる場合とがある。もちろん、他の開始剤の場合と同様に、ホモポリマーの成長末端が重合性CNTの二重結合に付加すれば、それ自身がグラフトポリマーに成ると共に、グラフトポリマーとしての成長を続けることになる。成長を続けるホモポリマーの成長末端が、重合性CNTと連鎖移動反応を起こすと、そこから新たなグラフトポリマーの成長が始まる。
重合反応の開始剤として、重合反応がアニオン重合である場合は、例えばカリウム、ナトリウム、及びリチウム等のアルカリ金属、アルキルアルカリ金属、アルキルマグネシウム化合物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルキル、アルキルアルミニウム化合物、アルキル亜鉛化合物、ピリジン、水、及び窒化アルキル等を用いることができる。
重合反応の開始剤として、重合反応がカチオン重合である場合は、例えば過塩素酸、硫酸、リン酸、トリクロロ酢酸、及びトリフルオロ酢酸等のプロトン酸、三フッ化ホウ素、三臭化アルミニウム、三塩化アルミニウム、五塩化アンチモン、三塩化鉄、四塩化錫、及び四塩化チタン等のルイス酸、ヨウ素、並びに、トリフェニルクロロメタン等を用いることができる。
重合反応の溶媒は、ビニルモノマー、及び重合性CNTを分散させることができる液体であれば良く、好ましくは、上述したようにビニルモノマーが重合して成るホモポリマーが溶解する液体であるのが良い。重合反応の溶媒としては、例えば水、アセトン、アルコール、ベンゼン、炭化水素系溶媒、シクロヘキサノン、及びポリビニルエーテル等を挙げることができる。なお、重合反応の溶媒が水、又はアルコールである場合は、ラジカル重合に適したビニルモノマーを選択すると良い。溶媒と前記ビニルモノマーとの好ましい組合せとしては、例えば分散媒が水であるときは、ビニルモノマーとして、例えばアクリルアミド、アクリル酸、又はビニルピロリドン等を用いることができる。分散媒がアセトンであるときは、ビニルモノマーとして例えばビニルピロリドン、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、又はメタクリル酸メチル(以下、MMAと称することがある。)等を用いることができる。分散媒がアルコールであるときは、ビニルモノマーとして例えば酢酸ビニル等を用いることができる。分散媒がベンゼンであるときは、ビニルモノマーとして例えばスチレン、酢酸ビニル、又はメタクリル酸メチル等を用いることができる。分散媒が炭化水素系であるときは、ビニルモノマーとして例えばイソプレン等を用いることができる。分散媒がシクロヘキサノンであるときは、ビニルモノマーとして例えば塩化ビニルを用いることができる。分散媒がポリビニルエーテルであるときは、ビニルモノマーとして例えばスチレンを用いることができる。
ビニルモノマーと重合性CNTとが投入される溶媒は、重合の進行と共に粘度が上昇するので、後述の攪拌装置による攪拌効率が低下する。攪拌効率が低下すると重合効率も低下し易いので、粘度が高くなり過ぎない範囲で重合反応が終了するように、溶媒を多量に使用することが好ましい。
熱重合の加熱温度、並びに、光重合の紫外線の波長、及び光量は、重合反応を進行させることができ、かつビニルモノマー、及び重合性CNTに不可逆的かつ不都合な変質が生じない限り、特に制限されない。なお、熱重合、及び光重合はラジカル重合であるので、ラジカル重合に適したビニルモノマーを適宜選択すると良い。また、重合時間も特に制限は無く、例えば全ての、又はほぼ全ての重合性CNT、及びビニルモノマーが反応し、かつ重合反応が停止するまでを重合時間として設定することができる。
この発明に係るPGCNTの製造方法においては、ビニルモノマーとパルスプラズマ処理済の重合性CNTとを高剪断力下で重合反応に供するのが好ましい。高剪断力下で重合反応を行うと、凝集していた重合性CNTがほぐれて分離した重合性CNTが形成されるので、重合性CNTにおける重合性二重結合、ビニルモノマー、及びビニルポリマーと、成長末端とが接近し易くなり、反応が容易に進行するようになる。
高剪断力は超音波照射により形成することができる。したがって、この発明に係るPGCNTの製造方法においては、ビニルモノマーとパルスプラズマ処理済の重合性CNTとを超音波照射下での重合反応に供するのが好ましい。超音波照射下で重合させると、重合性CNTが凝集することなく前記溶媒中に分散するので重合反応が溶媒中で均一に進めることができる。更に、超音波照射下での重合は、PGCNTが凝集することなく重合可能部位が露出している状態を維持することができ、重合性CNTにおける重合性二重結合の反応性が低下し難く、結果として重合速度が低下し難いので、好ましい。なお、重合系に超音波を照射する手段としては、例えば超音波照射を利用した攪拌装置を用いることができる。超音波照射を利用した攪拌装置は、重合に使用する容器の外壁に振動子を接触させても良く、振動子を反応系中に投入しても良い。もっとも、超音波照射以外の手段による高剪断力付与であっても良く、例えば攪拌子を投入する回転攪拌、又は回転翼を反応系中に設置する回転攪拌装置等を採用することにより高剪断力を実現することができる。
超音波照射下で重合すると、意図しない剪断力を生じることが無く、更にPGCNT、ビニルモノマー、ホモポリマー、及び重合性CNTが、絡み合いを起こし難くかつ沈殿し難いので、分散媒中で反応部位同士の衝突回数が増大することによって、高い反応性を維持することができ、好ましい。
なお、上記高剪断力としては、例えば25℃の純水中に重合性CNTを分散させた上で真空脱泡したときに、2分以内に重合性CNTが完全沈降しない態様を挙げることができる。この発明に係るPGCNTの製造方法において、超音波照射等によって形成される高剪断力は、純水中の重合性CNTを真空脱泡後に少なくとも1分間は完全沈降させないことを基準にすることができる。超音波の周波数が適切に維持されていると、超音波によるCNTの不可逆的な意図しない破壊を生じることが無く、主に分散媒を集中的に振動させることができるので、高剪断力を得ることができる。この高剪断力を実現することのできる超音波照射の条件としては、CNTの大きさ、液体分子の大きさ、CNTの破断強度、及び分散媒の粘度等に応じて決定すればよく、例えば周波数10〜100kHz、出力150〜2000W等の条件を挙げることができる。
この発明に係るPGCNTの製造方法において、重合に用いる装置、及び重合雰囲気等は、適宜に選択すれば良い。例えばラジカル重合であれば、酸素が無い雰囲気で重合を行う必要があり、高度に酸素を除去した窒素雰囲気、又は真空中で行うと良い。また、アニオン重合、又はカチオン重合であれば、十分に水分を除去した材料を使用し、十分に脱水した雰囲気下で重合が行われ、場合によっては酸素も除去しておく方が好ましいこともある。これらの材料、及び雰囲気を実現するには、例えば真空ライン装置、及びグローブボックス等を使用することができる。
従来、グラフェンシートの炭素−炭素二重結合は、CNT自体の反応性の低さが原因で重合に寄与しなかった、又はほとんど寄与しなかった。これに対して、この発明に係るPGCNTの製造方法では、酸素含有官能基導入工程によって重合性二重結合が形成されているので、重合性CNTのグラフェンシートにおける重合性二重結合、ビニルモノマー、オリゴマー、及びホモポリマーと、成長末端とが反応して重合反応が進行する。
この発明に係るPGCNTの製造方法の後処理としては、重合終了後に全体を沈殿剤中に投入し、PGCNTとグラフトしていないホモポリマーとの混合物として沈殿させて、分離することができ、更にこの混合物を加熱溶融させて複合体とすることもできる。
上記グラフトしていないホモポリマーとこの発明に係るPGCNTとの混合物から、PGCNTを単離する方法としては、例えば混合物を多量の分散媒に分散させた上で遠心分離を行う方法、及び、PGCNTとグラフトしていないホモポリマーとの混合物を、ホモポリマーのみが溶解する溶媒により洗浄し、PGCNTを濾別する方法等を挙げることができる。なお、重合性CNTに結合するに到らなかったホモポリマーとを上記溶媒により洗浄した上で濾別したときに、ホモポリマーが全て溶解していなかった場合は、PGCNTが単離されるまで、上記溶媒による洗浄と、濾別と、沈殿剤へのホモポリマーの洗浄液投入によるホモポリマーの存在確認とを繰り返せば良い。
この発明に係るPGCNTについて、上述したPGCNTを単離する方法、例えば上記溶媒による洗浄と、濾別と、ホモポリマーの沈殿剤によるホモポリマーの存在確認とを行う方法を適当回数繰り返した後に、得られたPGCNTの乾燥質量を測定し、投入したCNTの質量と比較することによって、増加した質量分のポリマーが重合性CNTに結合していると確認することができる。
上述したこの発明に係るPGCNTは、様々に利用が可能である。従来においては、例えば、CNTとマトリックスとして使用され得るプラスチック等の被補強材との複合物に剪断力を作用させて歪みをかけると、プラスチックとCNTとの弾性率の違いが過大であるので、僅かな歪みが生じただけで、プラスチックとプラスチック中に埋没しているCNTとの接着力の限界を剪断力が超えてしまい、プラスチックとCNTとが剥離することによって、結果としてCNTがプラスチックから遊離していた。よって、CNTを補強材として、他の化合物にCNTのみを混合したとしても、所望の補強効果を得ることは難しかった。しかしながら、この発明に係るPGCNTであれば、マトリックスとの複合体としたときに、グラフトポリマーとプラスチックとの親和性によりPGCNTが遊離し難く、CNTの補強効果を引き出すことができる。
CNTにビニルモノマーの重合体を結合させる手法として、CNTを化学的、又は機械的に切断することによりCNTの切断端に重合可能部位を形成し、その重合可能部位を有するCNTの存在下にビニルモノマーを重合反応させるという方法を想定することができる。しかしながら、この発明に係るPGCNTは、CNTを切断せずに重合させているので、切断する処理を経たCNTとビニルポリマーとの重合体に比べて、CNTの構造欠陥が少なく、CNTが本来有している電気的特性、及び機械的特性を発現することができる。すなわち、この発明に係るPGCNTは、CNTが本来有している電気的特性、及び機械的特性を低下させることが無く、向上することさえある。
この発明に係るPGCNTは、例えばCNTが有する電気的特性を活用した電子部品素材、並びにCNTが有する機械的特性を活用した建築素材、及び医療材料として利用することができる。また、従来の炭素繊維の代替素材としても利用することができ、釣竿、テニスラケット、旅客機機体、及び視覚障害者用の白杖等の補強材に利用することもできる。
(実施例1)
<パルスプラズマ処理>
日機装(株)製多層CNT(外径平均20nm、長さ平均8μm、結晶性I/I≦0.2)50gを10Lの水に分散させて分散液を得た。この分散液に空気をバブリングさせながら、この分散液に周波数15Hz、出力30kVの矩形波を室温で1時間に亘ってストリーマ放電を行った。ストリーマ放電装置における負極には針状電極を採用すると共に、正極には板状電極を採用することとし、分散液中における電極間距離は1cmに設定し、針状電極を10本設置した。
なお、処理された多層CNTを濾別し、水で充分に洗浄した後、乾燥して酸素含有量を測定すると、4.2%であった。このパルスプラズマ処理によって得られたCNTが重合性CNTである。
<ラジカル重合によるPGCNTの合成>
凍結、真空引き、溶解、及び窒素導入を繰り返したトルエン1000gと、凍結、真空引き、溶解、及び窒素導入を繰り返したMMA100gと、乾燥したパルスプラズマ処理済の重合性CNT20gと、AIBN10gと、2000ccビーカーと、超音波式ホモジナイザー(Dr. Hielsher UP400s)と、ホモジナイザー発信部用の挿通孔を設けたビーカーの蓋と、ビーカー加熱ヒータと、温度計と、攪拌さじ等の重合に必要な部材とを、グローブボックス内に設置した上で、グローブボックス内をピロガロールアルカリ水溶液と赤熱した導線を通過させた窒素とにより十分に置換した。
次に、ビーカーにトルエンとMMAとを投入して混合し、前記重合性CNTも投入して攪拌分散させた。ビーカー内にホモジナイザー発信部を浸漬し、超音波照射(周波数29KHz、出力600W)しつつヒータによりビーカーを加熱した。系の温度が80℃に達した時点でAIBNをビーカーに投入し、80℃を維持しつつ窒素循環、超音波照射、及び加熱を5時間継続した。その後、ビーカーをグローブボックスから取り出し、内容物を多量の冷メタノール中に攪拌しながら投入した。冷メタノール中に沈殿した共重合体を濾別し、乾燥した結果、黒色固形物が119g得られた。
得られた黒色固形物の半量である59.5gをトルエンで洗浄した。洗浄後の黒色固形物の質量を測定した。そして洗浄後の黒色固形物の質量が変化しなくなるまでトルエンによる洗浄を繰り返した。最後の洗浄後に乾燥して得られた黒色固形物の質量は14.5gであった。これにより、PGCNTの合成に用いた重合性CNTの半量10gに対して4.5gのPMMAがグラフトしたと分かる。
重合反応終了後に得られる黒色固形物は重合性CNTにMMAがグラフトしてなるPGCNTとMMAの重合体との混合物であるが、トルエンで前記混合物を何度も洗浄することにより前記混合物中に存在するMMAの重合体を溶解除去することができるので、洗浄後の黒色固形物の質量が前回の洗浄後の黒色固形物の質量と同じになれば、この黒色固形物にはMMAの重合体はもはや存在していない。よって、洗浄後の質量変化が観察されなくなった黒色固形物は、MMAがグラフトしてなるPGCNTである。
上記黒色固形部の残りの半量59.5gとポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称することがある。)140.5gとを混合、及び溶融した後に、成型して物性測定試料を作製した。実施例1における物性測定試料のCNT含有率は、試料全量200gに対して重合性CNTは10gであるので、5%である。
(実施例2)
<パルスプラズマ処理>
パルスプラズマ処理については、実施例1と同一の実験装置を用いて、同様の重合性CNTを得た。
<アニオン重合によるPGCNTの合成>
実施例1と同様の重合性CNT、及び同一の合成設備を使用した。重合は、トルエン1000mLを0℃に冷却し、乾燥した重合性CNT10gを投入して分散させた。更に、超音波照射しつつMMA30gを添加した後に、n−ヘキサン20mLに溶解したt−ブチルリチウム2.4gを開始剤として投入した。重合反応は、超音波照射、及び冷却を24時間継続して行った。重合反応後は、実施例1と同様に、冷メタノール中に沈殿させ、実施例1と同様にして乾燥、及び洗浄を繰り返し行った後に黒色固形物21.2gを得た。この黒色固形物の半量である10.6gとPMMA89.4gとを混合、及び溶融した後に成型して物性測定試料を作製した。実施例2における物性測定試料のCNT含有率は、試料全量100gに対して重合性CNTは5gであるので、5%である。
また、実施例2で得られた黒色固形物の残りの半量である10.6gをトルエンで洗浄した。洗浄後の黒色固形物の質量を測定した。そして洗浄後の黒色固形物の質量が変化しなくなるまでトルエンによる洗浄を繰り返した。最後の洗浄後に乾燥して得られた黒色固形物の質量は6.9gであった。これにより、PGCNTの合成に用いた重合性CNTの半量5gに対して1.3gのPMMAがグラフトしたと分かる。
(比較例1)
MMA単独で重合を行って得られたPMMAを、実施例1、及び2の物性測定試料と同様の形状に成型して試料を作製した。
(比較例2)
CNTは実施例1、及び2で用いたパルスプラズマ処理をしないCNT、すなわち酸素含有の官能基を付与しないCNT5gとMMA95gとを混合、及び溶融した後に、成型して物性測定試料を作製した。比較例2における物性測定試料のCNT含有率は5%である。
(比較例3)
実施例1でパルスプラズマ処理を行う前のCNT30gを、70%硝酸1500mL中に分散させ、還流器を備えたフラスコで48時間還流状態を維持しつつ反応させた。反応後、砕いた氷の上に反応液を注ぎ、多量の脱イオン水で希釈した。過剰の酸をソックスレー抽出器で脱イオン水により洗浄、及び脱衣温水の交換を繰り返すことにより、洗浄水が中性になるまで継続した。乾燥後に元素分析により酸素含有量を測定すると、18.4質量%であった。この硝酸により処理してなる硝酸処理CNTを、実施例1におけるパルスプラズマ処理を行った重合性CNTに代えて用いることとして、試料を作製した。
<引張り強度測定>
各試料の引張り強度を測定した。引張り強度は、オリエンテック(株)製のRTC−2410万能試験機にてASTM D−638に準じて測定した。測定結果は表1に示す。
<体積固有抵抗測定>
各試料の体積固有抵抗を測定した。体積固有抵抗は、三菱化学(株)製のMCP−HT450抵抗測定器を使用して測定した。測定結果は表1に示す。
<曲げ弾性率測定>
各試料の曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率は、オリエンテック(株)製のRTC−2410万能試験機にてASTM D−790に準じて測定した。測定結果は表1に示す。
Figure 0005328043
比較例2は、酸素含有官能基が付与されていないCNTを用いているので、PMMAがCNTにグラフトしていない、又はグラフトしてはいるが、ポリマーにCNTの特性を十分に付与するほどにCNTがグラフトしていないと考えられる。
表1に示されるように、比較例1のCNTを含まないPMMA、及び比較例2の酸素含有官能基が付与されていないCNTを含む重合体に比べて、この発明に係るPGCNTの製造方法により得られたPGCNTは、CNTが本来有している機械的特性、例えば約1.5倍の引張り強度を示すと共に、少なくとも1.5倍以上の曲げ弾性率を示しているだけでなく、CNTの電気的特性、例えば2桁以上も高い体積固有抵抗を示している。
従来においては、CNTのグラフェンシートが共役系を形成することにより、CNTの反応性は低かったので、モノマーと重合反応させたとしても、生成物からCNTの様々な特性を十分に引き出すことができず、ポリマーがグラフトしたCNTを得ることは困難であった。この発明に係るPGCNTの製造方法においては、酸素含有官能基導入工程によって反応性が高まった重合性CNTを用いるので、モノマーと重合反応させると、ポリマーがグラフトしたCNTを得ることができると実施例においても実証された。したがって、この発明に係るPGCNTは、ポリマーとしての性質を有していながらCNTの特性も十分に引き出すことができると言える。
1 未処理カーボンナノチューブ
11、12 重合性カーボンナノチューブ
2、21、22 グラフェンシート

Claims (5)

  1. カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブを製造する方法であって、
    カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程とを有し、
    前記酸素含有官能基導入工程は、水系分散媒中に分散されたカーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含むポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
  2. カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブを製造する方法であって、
    カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程とを有し、
    前記酸素含有官能基導入工程は、カーボンナノチューブを含有する水系分散媒中に酸素含有ガス、窒素ガス又は希ガスをバブリングしつつ、前記カーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含むポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
  3. 前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである請求項1又は2に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法
  4. 酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブは、その酸素含有量が、前記酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブに含まれる元素の全量を100質量%とした場合に、0.01〜10質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
  5. 前記重合反応が、超音波照射下に行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
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