JP2011127071A - ポリマーグラフトカーボンナノチューブ、及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブ。
【選択図】なし
Description
(1) カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブであり、
前記課題を解決するための他の手段は、
(2) 前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、又は多層カーボンナノチューブである前記(1)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブであり、
(3) 前記(1)、又は(2)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブを製造する方法であって、
カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程と、
を有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(4) 酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブは、その酸素含有量が、前記酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブに含まれる元素の全量を100質量%とした場合に、0.01〜10質量%である(3)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(5) 前記酸素含有官能基導入工程は、水系分散媒中に分散されたカーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含む(3)、又は(4)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(6) 前記酸素含有官能基導入工程は、カーボンナノチューブを含有する水系分散媒中に酸素含有ガス、窒素ガス、又は希ガスをバブリングしつつ、前記カーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含む(3)、又は(4)に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法であり、
(7) 前記重合反応が、超音波照射下に行われる(3)〜(6)のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法である。
カーボンナノチューブの表面層にビニルモノマーの重合体が共有結合により結合するには、カーボンナノチューブの表面層に、重合性二重結合が存在していることを要する。この重合性二重結合は、原料であるカーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入することにより形成される。
なお、以下において、酸素含有官能基が導入される以前の、原料であるカーボンナノチューブをCNTと称することがあり、酸素含有官能基が導入され、これによって重合性二重結合を有するに到ったカーボンナノチューブを重合性CNTと称することがあり、本願発明に係るポリマーグラフとカーボンナノチューブをPGCNTと称することがある。
この発明に係るPGCNTは、CNTの表面層に酸素含有官能を導入することにより、CNTの表面に不安定な重合性二重結合を形成する酸素含有官能基導入工程と、重合性二重結合を有するカーボンナノチューブの存在下に、ビニルモノマーを重合反応させる重合工程とを有する。更に具体的に言うと、この発明に係るPGCNTの製造方法は、表面層にあるグラフェンシートに形成された重合性二重結合を有する重合性CNTの存在下にビニルモノマーを重合反応させると、PGCNTが形成される。要するに、重合性CNTの存在下にビニルモノマーの重合反応を行うと、重合性CNTに形成された成長末端、ビニルモノマーの成長末端、及びビニルモノマーの重合体における成長末端等の成長末端が、重合性CNT、ビニルモノマー、及びビニルモノマーの重合体等と反応することによりPGCNTが生成する。
CNTは、従来から公知の製造方法により製造することができ、例えばアーク放電法、レーザー蒸発法、気相化学蒸着法、浮遊気相成長法、及び基板気相成長法等により製造されることができる。
基板気相成長法は、管状炉の内部に設置した反応管中に、触媒つきの基板を設置し、加熱した触媒へ炭素源となるガスを流しながら、カーボンナノチューブの合成を行う方法である。この基板気相成長法の一例が、例えば特開2001−220674号公報、及び特開2008−239378号公報に記載されている。
二層CNT、及び多層CNTは、酸素含有官能基導入工程において最表面に存在するグラフェンシート層に酸素含有官能基が形成されるが内側のグラフェンシート層は酸素含有官能基形成による芳香性二重結合の破壊をほとんど伴わないので、電気的特性、及び強度等のCNT固有の特性を失うことなく、重合性CNTにすることができる。
CNTは、筒状に形成されたグラフェンシートの面に沿って、つまりCNTの外周面に沿って、炭素−炭素二重結合におけるπ電子が共役系を形成している。またCNTの表面層は、巨視的には凹凸が無く、炭素−炭素二重結合が芳香族性を維持する湾曲平面となっている。
しかしながら、酸素含有官能基が導入されたグラフェンシートにおける炭素はsp3結合を形成する。sp2軌道上の電子によって形成されていたσ結合同士は、相互に120°の角度を維持していたが、sp3結合は相互に109.5°の角度を成すこととなり、又は109.5°の角度に近づくこととなるので、筒状のグラフェンシートの平面性を維持することができなくなって歪みが生じる。また、sp3結合を有する炭素と隣接する炭素との結合距離が、芳香族性を有する炭素−炭素二重結合における炭素−炭素間結合距離よりも長いので、筒状のグラフェンシートの平面性を維持することができなくなって更に歪みが生じる。sp3結合により酸素含有官能基と結合する炭素原子に隣接する炭素−炭素二重結合は、σ結合同士が相互に120°の角度を維持しようとするが、隣接するsp3結合の結合角度、及び結合距離によって生じるCNTの歪みの影響を受けて、sp3結合により安定な芳香族性二重結合から、歪みを有して不安定な二重結合となる。この不安定な二重結合が重合性の二重結合として作用する。
また、酸素含有官能基が導入されると、それまで安定な芳香族性炭素−炭素二重結合を形成していた炭素−炭素二重結合が開裂して炭素六角網面に欠損を生じる。
開裂した炭素−炭素二重結合に導入された酸素含有官能基に結合する炭素原子に隣接する炭素とその炭素に隣接する六員環中の炭素とでそれまで形成されていた安定な芳香族性炭素−炭素二重結合が、酸素含有官能基の導入による立体的歪みによって、共役安定性が低下する。つまり、酸素含有官能基の導入により、六角網面に一部開口したように共役系の欠損箇所が生じた部分の周辺には、共役安定性が低下した炭素−炭素二重結合が形成される。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、CNTの炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性の二重結合として作用する。
好ましい理由は、以下のようである。パルスプラズマ処理以外の酸素含有官能基導入工程として、例えば熱硝酸処理を挙げることができる。熱硝酸処理は、加熱された硝酸にCNTを浸漬するという、過酷な条件下で行う処理である。この熱硝酸処理をCNTに施すと、一本のCNTが何本かに切断され、CNTの表面層における切断された部分に官能基が導入され、孤立した炭素−炭素二重結合が形成される。しかしながら、CNTには、熱硝酸処理によって、共役系を形成していた炭素−炭素二重結合が外的要因により破壊された部位、つまり構造欠陥が多数生じることとなる。CNTの構造欠陥が増加しすぎると、二重結合由来のπ電子の共役範囲が狭くなり、化学的に不安定化するので、CNTが本来有していた様々な機械的特性、及び電気的特性が発現し難くなる。これに対して、CNTを過酷な反応環境に曝す必要が無いパルスプラズマ処理は、CNTの構造欠陥を必要以上に増加させることが無いので、CNTが本来有していた機械的特性、及び電気的特性の低下が小さくなる。
図2には、重合性CNT11におけるグラフェンシート21の一部を拡大して示している。図2に示すように、グラフェンシート21は、炭素1と炭素2との間に形成されていたπ結合が切断されて、炭素1には水酸基が付与され、炭素2には水素が付与されている。このとき、炭素1と炭素2との間の結合は、パルスプラズマ処理によって二重結合からsp3単結合に変化している。sp2軌道上の電子により形成されるσ結合は、相互に120°の結合角度を維持していたが、sp3結合に変化したことによって結合角度は、sp3軌道同士が成す角度である109.5°に変化しているか、109.5°に近づくことになる。この結合角度の変化は、炭素3、及び炭素4、並びに炭素5、及び炭素6がそれぞれ相互に近づくようにCNTの変形を生じさせ、更には炭素3、炭素4、炭素5、及び炭素6をそれぞれ含む六員環の変形に影響を受けて周辺の六員環も変形を起こし、筒状を成すグラフェンシートの平面性に歪みを与え、二重結合に反応性を付与する。更に、sp2軌道上の電子により形成されるσ結合、又はπ結合に比べるとsp3結合は結合距離が長いので、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が正確な六角形ではなくなる。また、炭素1に結合している水酸基、及び炭素2に結合している水素は、巨視的にはグラフェンシート21の外側に向かって突き出た状態と成る。つまり、重合性CNT11のグラフェンシート21は、酸素含有官能基が導入されて局所的に歪むことによって、平面性が低下している。更に、炭素1、及び炭素2がsp3結合に変化しているので、炭素1、及び炭素2は共役系、又は芳香族性の形成に寄与しない。
すなわち、図2に示すように、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環は共役系を形成しないので芳香族性を維持しない。これにより、グラフェンシート21に形成されていた共役系は、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環の部分において共役系を喪失する。更に、グラフェンシート21において、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している炭素六員環では、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環による歪み、及び共役系、又は芳香族性の喪失によって、炭素原子間を相互に移動することで共役安定化に寄与するπ電子密度が低下し、共役安定性、及び芳香族性が低下している。
炭素3、及び炭素4は、共役系を形成する六員環に含まれている炭素の一つであると共に、炭素2にも結合している。炭素3、及び炭素4における結合のうち、共役系を形成する六員環に対する結合は結合角度が120°に維持されるのに対して、炭素2に対する結合は、炭素2を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、結合角度が120°から大きく外れる。炭素5、及び炭素6についても同様であり、炭素1を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、炭素5、及び炭素6から炭素1に対して形成される結合と、炭素5、及び炭素6から形成される他の結合との結合角度は、120°から大きく外れることになる。結果として、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している炭素六員環、並びにその炭素六員環に比較的近接した炭素六員環は、芳香族性、及び共役安定性が低下する。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、すなわち炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合は、図1に示すようなCNT1に存在する炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性を獲得する。
図3には、重合性CNT12におけるグラフェンシート22の一部を拡大して示している。図3に示すように、グラフェンシート22は、炭素1と炭素2との間に形成されていた炭素−炭素二重結合が切断され、かつ炭素2と炭素4との間に形成されていた結合も切断されている。この結合の切断は、過度に酸素含有官能基の導入が進行した結果として生じることがある。炭素1には2つの水素が付与され、炭素2には酸素、及び水酸基が付与されることにより炭素2がカルボキシル基と成り、炭素4には水素が付与されている。このとき、炭素1から炭素2へと延びる結合は、σ結合とπ結合とによる二重結合であったが、パルスプラズマ処理によって切断され、その結果として炭素1、及び炭素2は夫々隣接する元素に対するsp3結合に変化している。sp2軌道上の電子により形成されるσ結合は、相互に120°の結合角度を維持していたが、sp3結合に変化したことによって結合角度は、sp3軌道同士が成す角度である109.5°に変化しているか、109.5°に近づくことになる。この結合角度の変化は、炭素5、及び炭素6が相互に近づくようにCNTの変形を生じさせ、筒状を成すグラフェンシートの平面性に歪みを与える。更に、重合性CNT12は、図2に示した重合CNT11に比べると、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分に、複数個の元素が押し込まれた状態と成っているので、より一層大きな立体的歪みを生じさせている。よって、炭素1に結合している2つの水素、カルボキシル基と成った炭素2、及び炭素4に結合している水素は、巨視的にはグラフェンシート22の外側に向かって飛び出した状態となる。つまり、重合性CNT12のグラフェンシート22は、酸素含有官能基が導入されて立体的な歪みが生じることによって、平面性が大きく低下している。
更に、図3に示すように、グラフェンシート22において、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分には、芳香族としての共役系が形成されない。これにより、グラフェンシート22に形成される共役系は、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分が欠損して開口しているように形成される。更に、グラフェンシート22において、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含みかつ共役系を形成している六員環では、炭素1、及び/又は炭素2を含む4つの六員環が存在していた部分の歪み、及び共役系の非形成によって、電子密度が低下し、共役安定性が低下している。
炭素2における炭素と酸素との二重結合は、隣接する炭素3を含む六員環と共に共役系を形成するが、芳香族性は有しない。炭素5、及び炭素6は、共役系を形成する六員環に含まれている炭素の一つであると共に、炭素1にも結合している。炭素5、及び炭素6における結合のうち、共役系を形成する六員環に対する結合は結合角度が120°に維持されるのに対して、炭素1に対する結合は、炭素1を含む六員環が酸素含有官能基の導入によって歪んでいるので、結合角度が120°から大きく外れる。結果として、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ共役系を形成している炭素六員環は、芳香族性、及び共役安定性が低下する。
共役系を形成しているにもかかわらず、共役安定性が低下した部分に存在する炭素−炭素二重結合は、すなわちグラフェンシート22における炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ、共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合は、図1に示すようなCNT1に存在する炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高い。つまり、炭素3、炭素4、炭素5、又は炭素6を含み、かつ共役系を形成している六員環に存在する炭素−炭素二重結合が、重合性を獲得する。
上述したように、パルスプラズマ処理によって任意の炭素−炭素二重結合の隣接する炭素に酸素含有官能基が導入されたときに、分子構造の平面性が低下して、共役系が崩れて共役安定性も低下することにより、CNTの反応性、特に共役安定性が低下した炭素−炭素二重結合の重合反応性が高まり、結果として炭素−炭素二重結合が重合性二重結合に変化する。
高剪断力は超音波照射により形成することができる。したがって、この発明に係るPGCNTの製造方法においては、ビニルモノマーとパルスプラズマ処理済の重合性CNTとを超音波照射下での重合反応に供するのが好ましい。超音波照射下で重合させると、重合性CNTが凝集することなく前記溶媒中に分散するので重合反応が溶媒中で均一に進めることができる。更に、超音波照射下での重合は、PGCNTが凝集することなく重合可能部位が露出している状態を維持することができ、重合性CNTにおける重合性二重結合の反応性が低下し難く、結果として重合速度が低下し難いので、好ましい。なお、重合系に超音波を照射する手段としては、例えば超音波照射を利用した攪拌装置を用いることができる。超音波照射を利用した攪拌装置は、重合に使用する容器の外壁に振動子を接触させても良く、振動子を反応系中に投入しても良い。もっとも、超音波照射以外の手段による高剪断力付与であっても良く、例えば攪拌子を投入する回転攪拌、又は回転翼を反応系中に設置する回転攪拌装置等を採用することにより高剪断力を実現することができる。
超音波照射下で重合すると、意図しない剪断力を生じることが無く、更にPGCNT、ビニルモノマー、ホモポリマー、及び重合性CNTが、絡み合いを起こし難くかつ沈殿し難いので、分散媒中で反応部位同士の衝突回数が増大することによって、高い反応性を維持することができ、好ましい。
なお、上記高剪断力としては、例えば25℃の純水中に重合性CNTを分散させた上で真空脱泡したときに、2分以内に重合性CNTが完全沈降しない態様を挙げることができる。この発明に係るPGCNTの製造方法において、超音波照射等によって形成される高剪断力は、純水中の重合性CNTを真空脱泡後に少なくとも1分間は完全沈降させないことを基準にすることができる。超音波の周波数が適切に維持されていると、超音波によるCNTの不可逆的な意図しない破壊を生じることが無く、主に分散媒を集中的に振動させることができるので、高剪断力を得ることができる。この高剪断力を実現することのできる超音波照射の条件としては、CNTの大きさ、液体分子の大きさ、CNTの破断強度、及び分散媒の粘度等に応じて決定すればよく、例えば周波数10〜100kHz、出力150〜2000W等の条件を挙げることができる。
<パルスプラズマ処理>
日機装(株)製多層CNT(外径平均20nm、長さ平均8μm、結晶性IA/IG≦0.2)50gを10Lの水に分散させて分散液を得た。この分散液に空気をバブリングさせながら、この分散液に周波数15Hz、出力30kVの矩形波を室温で1時間に亘ってストリーマ放電を行った。ストリーマ放電装置における負極には針状電極を採用すると共に、正極には板状電極を採用することとし、分散液中における電極間距離は1cmに設定し、針状電極を10本設置した。
<ラジカル重合によるPGCNTの合成>
得られた黒色固形物の半量である59.5gをトルエンで洗浄した。洗浄後の黒色固形物の質量を測定した。そして洗浄後の黒色固形物の質量が変化しなくなるまでトルエンによる洗浄を繰り返した。最後の洗浄後に乾燥して得られた黒色固形物の質量は14.5gであった。これにより、PGCNTの合成に用いた重合性CNTの半量10gに対して4.5gのPMMAがグラフトしたと分かる。
重合反応終了後に得られる黒色固形物は重合性CNTにMMAがグラフトしてなるPGCNTとMMAの重合体との混合物であるが、トルエンで前記混合物を何度も洗浄することにより前記混合物中に存在するMMAの重合体を溶解除去することができるので、洗浄後の黒色固形物の質量が前回の洗浄後の黒色固形物の質量と同じになれば、この黒色固形物にはMMAの重合体はもはや存在していない。よって、洗浄後の質量変化が観察されなくなった黒色固形物は、MMAがグラフトしてなるPGCNTである。
<パルスプラズマ処理>
パルスプラズマ処理については、実施例1と同一の実験装置を用いて、同様の重合性CNTを得た。
<アニオン重合によるPGCNTの合成>
実施例1と同様の重合性CNT、及び同一の合成設備を使用した。重合は、トルエン1000mLを0℃に冷却し、乾燥した重合性CNT10gを投入して分散させた。更に、超音波照射しつつMMA30gを添加した後に、n−ヘキサン20mLに溶解したt−ブチルリチウム2.4gを開始剤として投入した。重合反応は、超音波照射、及び冷却を24時間継続して行った。重合反応後は、実施例1と同様に、冷メタノール中に沈殿させ、実施例1と同様にして乾燥、及び洗浄を繰り返し行った後に黒色固形物21.2gを得た。この黒色固形物の半量である10.6gとPMMA89.4gとを混合、及び溶融した後に成型して物性測定試料を作製した。実施例2における物性測定試料のCNT含有率は、試料全量100gに対して重合性CNTは5gであるので、5%である。
また、実施例2で得られた黒色固形物の残りの半量である10.6gをトルエンで洗浄した。洗浄後の黒色固形物の質量を測定した。そして洗浄後の黒色固形物の質量が変化しなくなるまでトルエンによる洗浄を繰り返した。最後の洗浄後に乾燥して得られた黒色固形物の質量は6.9gであった。これにより、PGCNTの合成に用いた重合性CNTの半量5gに対して1.3gのPMMAがグラフトしたと分かる。
MMA単独で重合を行って得られたPMMAを、実施例1、及び2の物性測定試料と同様の形状に成型して試料を作製した。
CNTは実施例1、及び2で用いたパルスプラズマ処理をしないCNT、すなわち酸素含有の官能基を付与しないCNT5gとMMA95gとを混合、及び溶融した後に、成型して物性測定試料を作製した。比較例2における物性測定試料のCNT含有率は5%である。
実施例1でパルスプラズマ処理を行う前のCNT30gを、70%硝酸1500mL中に分散させ、還流器を備えたフラスコで48時間還流状態を維持しつつ反応させた。反応後、砕いた氷の上に反応液を注ぎ、多量の脱イオン水で希釈した。過剰の酸をソックスレー抽出器で脱イオン水により洗浄、及び脱衣温水の交換を繰り返すことにより、洗浄水が中性になるまで継続した。乾燥後に元素分析により酸素含有量を測定すると、18.4質量%であった。この硝酸により処理してなる硝酸処理CNTを、実施例1におけるパルスプラズマ処理を行った重合性CNTに代えて用いることとして、試料を作製した。
各試料の引張り強度を測定した。引張り強度は、オリエンテック(株)製のRTC−2410万能試験機にてASTM D−638に準じて測定した。測定結果は表1に示す。
各試料の体積固有抵抗を測定した。体積固有抵抗は、三菱化学(株)製のMCP−HT450抵抗測定器を使用して測定した。測定結果は表1に示す。
各試料の曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率は、オリエンテック(株)製のRTC−2410万能試験機にてASTM D−790に準じて測定した。測定結果は表1に示す。
従来においては、CNTのグラフェンシートが共役系を形成することにより、CNTの反応性は低かったので、モノマーと重合反応させたとしても、生成物からCNTの様々な特性を十分に引き出すことができず、ポリマーがグラフトしたCNTを得ることは困難であった。この発明に係るPGCNTの製造方法においては、酸素含有官能基導入工程によって反応性が高まった重合性CNTを用いるので、モノマーと重合反応させると、ポリマーがグラフトしたCNTを得ることができると実施例においても実証された。したがって、この発明に係るPGCNTは、ポリマーとしての性質を有していながらCNTの特性も十分に引き出すことができると言える。
11、12 重合性カーボンナノチューブ
2、21、22 グラフェンシート
Claims (7)
- カーボンナノチューブと、そのカーボンナノチューブの表面層に共有結合により結合されたビニルモノマーの重合体とを有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブ。
- 前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである前記請求項1に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブ。
- 請求項1又は2に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブを製造する方法であって、
カーボンナノチューブの表面層に酸素含有官能基を導入する酸素含有官能基導入工程と、酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブの存在下にビニルモノマーを重合する重合工程と、
を有することを特徴とするポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。 - 酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブは、その酸素含有量が、前記酸素含有官能基が導入されたカーボンナノチューブに含まれる元素の全量を100質量%とした場合に、0.01〜10質量%である請求項3に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
- 前記酸素含有官能基導入工程は、水系分散媒中に分散されたカーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含む請求項3又は4に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
- 前記酸素含有官能基導入工程は、カーボンナノチューブを含有する水系分散媒中に酸素含有ガス、窒素ガス又は希ガスをバブリングしつつ、前記カーボンナノチューブにパルスプラズマを照射する処理を含む請求項3又は4に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
- 前記重合反応が、超音波照射下に行われる請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリマーグラフトカーボンナノチューブの製造方法。
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