JP5326962B2 - 防汚加工製品及びその製造方法 - Google Patents
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例えば、オーブンの内壁をステンレスにすると、その金属光沢による熱反射によってオーブンの熱効率が好転する。しかし、無垢のステンレスでは、熱によるテンパーカラー発生に伴う美観の損失と、食物が焦げ付いた場合にはなかなか除去し難いという問題があった。
また、オーブン内壁に撥水性樹脂を塗布すると、ステンレスの金属光沢による熱反射が阻害される。さらに、撥水性樹脂自身が傷つきやすい上、300℃以上の高温に耐えられないという問題があった。
一方、ホーロー処理の場合は、耐熱性と傷つきにくさにおいては問題ないが、焦げ付きが落ち難く、ステンレスの金属光沢による熱反射を阻害するという問題があった。
このように、ステンレスの熱反射を損なわず、かつ傷つき難く、テンパーカラーの発生を抑え、食物等の被加熱物を焦げ付きにくくする方法は未だなかった。
さらに、本発明の防汚加工製品をオーブン等に使用した場合、ステンレス等の金属基体の反射を損なわず、オーブン等の熱効率の向上させることができ、かつ傷つき難く、テンパーカラーの発生を抑え、美観を損なわないという効果を有する。
また、本発明の防汚加工製品の製造方法は、上記の効果を奏する防汚加工製品を簡便にかつ効率よく製造することができる。
まず、防汚加工製品の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である防汚加工製品10の断面構造を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の防汚加工製品10の特徴は、金属製の製品基体(金属基体)11の表面上に形成された第1層21と、この第1層21上に形成された第2層22と、この第2層22上に形成された第3層23とからなる3層構造の防汚コーティング膜20を有していることにある。
また、金属製の製品基体11には、格別の制限はなく、ステンレス、アルミニウム、めっき鋼板、チタン等の金属製品を包含する。また、製品基体11の形状も特に制限されず、バルク状の成形体であってもよく、板状や線状のものであってもよい。
なお、第1層21に含まれるジルコニウム酸化物以外の成分は特に制限されないが、シリカ(シリコン酸化物)が好適である。
ナトリウム成分が、Na2O換算で20質量%を超えるとコーティングの耐アルカリ性、耐酸性が不足し、2質量%未満であると塗装性が悪化する。
リチウム成分が、Li2O換算で10%を超えるとコーティングの耐アルカリ性が悪化し、0.5%未満であるとコーティングの耐酸性が悪化する。
これらの金属酸化物以外の成分について特に制限するものではないが、第3層23はシリカ(シリコン酸化物)を含まない組成とすることが好ましい。
まず、最外層の第3層23から述べる。第3層23の役割は食物の焦げ付きの防止と反射低下の防止である。ここで、第3層23にシリカ成分が含まれていると、食物が焦げ付きやすくなるため、第3層23におけるシリカ成分の含有量は極力少なくする必要があり、実質的にシリカを含まない被膜とすることが好ましい。第3層23の構成材料として好適な材料は、先に記載のように、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物である。これら成分は、焦げ付きにくいだけでなく、シリカよりも屈折率が大きいため光線を反射しやすく、オーブンの内壁材として好適に用いることができる防汚加工製品とすることができる。
第1層21が20nmを下回ると、十分な密着性が得られず、200nmを超えると逆に亀裂が生じやすくなる。また、第2層22が100nmを下回ると十分な傷つき防止効果とテンパーカラー防止効果が得られず、1000nmを超えると亀裂が生じやすくなる。また、第3層23が20nmを下回ると所望の焦げ付き防止効果が得られず、200nmを超えると亀裂が生じやすくなる。防汚コーティング膜20において亀裂が生じると、コーティングの透明さが損なわれ、熱反射性も損なわれる。
次に、本発明の防汚加工製品の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の防汚加工製品の製造方法は、製品基体11(金属基体)の表面上に、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種のジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し、これを熱処理して、その熱処理生成物からなる第1層21を形成する工程と、
次いで、第1層21上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理して、その熱処理生成物からなる第2層22を形成する工程と、
さらに、第2層22上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、これを熱処理して、その熱処理生成物からなる第3層23を形成する工程と、を含んで構成されている。
そこで、さらに取り扱いの容易さの点では、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物が好ましい。
ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
これらが含まれる塗布液の溶媒としては、有機溶剤もしくは水を用いることができ、有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。
塗布液は、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
溶媒としては、水が好ましく、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
また、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素に関しては、上記においてジルコニウムをこれらの成分に変えたものを用いることができる。
これらが含まれる塗布液の溶媒としては、有機溶剤もしくは水を用いることができ、有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。
塗布液は、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
まず、第1層形成用塗布液を製品基体11(金属基体)の表面に塗布する。塗布方法としては、公知のスプレー法、ディップ法、ロール法などが適用可能であり、特に制限はない。
その後、塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、製品基体11を構成するステンレス鋼のテンパーカラー発生温度以下にする必要がある。ステンレス鋼のテンパーカラーは、一般に200℃〜250℃の範囲で発生開始し、ステンレス鋼の組成や表面処理条件、雰囲気、時間によって変化する。そのため、あらかじめ予備実験でテンパーカラー発生温度を確認しておく必要がある。テンパーカラーが発生すると、テンパーカラー自身(表面の酸化された部位)の耐食性が小さいため、防汚コーティングを施してもステンレス鋼(製品基体11)の耐食性が向上しない。このため、第1層21の焼成はテンパーカラーが発生しない温度で実施しなければならない。
そして、上記の塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、第2層22については、製品基体11を構成するステンレス鋼のテンパーカラー発生温度以上に設定するのが好適である。すなわち、250℃以上とするのが好ましい。第1層21を熱処理した後の第2層22の熱処理においては、製品基体11の表面は第1層21により覆われ、当該表面の空気との接触は既に遮断されているため、高温に加熱してもテンパーカラーは発生しなくなる。このため、第1層21及び第2層22からなるコーティング層を250℃以上の高温でしっかりと焼き締め、耐食性を向上させるのが好ましい。
そして、上記の塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、第3層23についても250℃以上とするのが好適である。第3層23の熱処理時には、もはやテンパーカラーが発生することはないので、可能な限り高温の条件で熱処理を施すことが好適である。
まず、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、2−プロパノール55重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第1層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は10%であった。
また、第3層形成用の塗布液として第1層形成用の塗布液と同じ塗布液を調製した。
また、金属基体としてステンレス鋼(テンパーカラー発生条件230℃以上)を用意した。
次いで第1層上に第2層形成用の塗布液をロールコーター塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第2層を形成した。
さらに、第2層上に第3層形成用の塗布液を第1層目と同様に塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第3層を形成した。ここで、第1層目と第3層目の厚さは100nm、第2層目の厚さは300nmであった。
このようにしてステンレス鋼の表面に三層構造の防汚コーティング膜を形成し、実施例1の本発明の防汚加工製品を作製した。
実施例2では、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、テトラメトキシシラン9重量部、2−プロパノール46重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとテトラメトキシシランとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は13%であり、ジルコニウムと珪素の比率は、二酸化ジルコニウム、二酸化珪素換算で10:3(ジルコニア77%)であった。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例1と同様とした。
そして、実施例1と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に塗工し、実施例2の本発明の防汚加工製品を作製した。
実施例3では、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、テトラメトキシシラン15重量部、2−プロパノール40重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとテトラメトキシシランとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は15%であり、ジルコニアとシリカの比率は10:5(ジルコニア67%)であった。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例1と同様とした。
そして、実施例1と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に塗工し、実施例3の本発明の防汚加工製品を作製した。
実施例1において第1層目を塗布しないものを比較例1とした。
実施例1において第2層目を塗布しないものを比較例2とした。
実施例1において第3層目を塗布しないものを比較例3とした。
・耐アルカリ性 :5%水酸化ナトリウム水溶液に各サンプルを24時間浸漬し、その後に表面を目視観察することにより防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・耐蒸気性 :各サンプルを100℃の水蒸気に24時間暴露し、その後に表面を目視観察することで防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・鉛筆9H傷 :JIS−K5600に準拠して行った。
・醤油焦げ落とし:各サンプルの防汚コーティング膜の表面に醤油10mLを付着させ、大気中、250℃で1時間加熱し、その後、100℃の水蒸気に20分間暴露して醤油を焦げ付かせた。その後、この焦げ付き汚れを、水を含ませた布を用いて水拭きし、除去の容易さを評価した。
・テンパーカラー:各サンプルを、大気中、300℃で1時間加熱し、その後に表面を観察することによりテンパーカラーの発生状態を評価した。
特に、第3層におけるジルコニア比率を70%以上とした実施例1、2のサンプルでは、全ての評価項目において異常を来たすことなく、オーブンの内壁材等として好適な防汚加工製品であることが確認できた。
実施例4では、住友大阪セメント社製の「ナノジルコニア水分散液」粒子径3nmを水で希釈して固形分2%に調整し、第1層形成用の塗布液を調製した。
また、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO2:5%、Na2O:1%、Li2O:0.1%、H2O:93.9%に調整し、第2層形成用の塗布液を調製した。
また、ハフニウムテトラブトキシド、イットリウムテトラブトキシド、ランタトリブトキシド、およびセリウムテトラブトキシドから選ばれた1種を15重量部、ジルコニウムイソプロポキシド15重量部、アセト酢酸エチル15重量部、2−プロパノール55重量部を25℃で30分間混合し、各成分とアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は10%であった。
すなわち、実施例4のサンプルとして、第3層にハフニウムを含むサンプル、イットリウムを含むサンプル、ランタンを含むサンプル、セリウムを含むサンプルの4種類のサンプルを作製した。
また本実施例での防汚コーティング膜の厚さは、第1層が50nm、第2層が800nm、第3層が100nmであった。
実施例5では、第1層形成用塗布液として、ナノジルコニア水分散液とコロイダルシリカの分散液との混合液を用いた。塗布液中の固形分を2%とし、固形分中のジルコニアの比率を35%とし、シリカの比率を65%とした。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例4と同様とした。
そして、実施例4と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に対して塗工し、実施例5の本発明の防汚加工製品を作製した。
実施例5において、第1層形成用の塗布液における固形分中のジルコニアの比率を25%とし、シリカの比率を75%とした以外は、実施例5と同様の条件とし、各塗布液をステンレス鋼に順次塗工処理し、実施例4の防汚加工製品を作製した。
Claims (4)
- 金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、
前記防汚コーティング膜は、
前記金属基体上に形成され、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種のジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し熱処理して得られた熱処理生成物からなる第1層と、
前記第1層上に形成され、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し熱処理して得られた熱処理生成物からなる第2層と、
前記第2層上に形成され、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し熱処理して得られた熱処理生成物からなる第3層と、
を有することを特徴とする防汚加工製品。 - 前記第3層には、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種が70質量%以上含まれることを特徴とする請求項1記載の防汚加工製品。
- 前記第1層には、ジルコニウム酸化物が30質量%以上含まれることを特徴とする請求項1又は2記載の防汚加工製品。
- 金属基体の表面上に、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びそのジルコニウムアルコキシドの部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種を含むジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第1層を形成する工程と、
前記第1層上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第2層を形成する工程と、
前記第2層上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第3層を形成する工程と、
を有することを特徴とする防汚加工製品の製造方法。
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