ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、互いに相対回動可能とされた部材間において、より優れた信頼性と耐久性をもって電気信号の伝送を行なうことの出来る、新規な構造の可動部のハーネスレス装置を提供することにある。
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
すなわち、本発明の第一の態様の特徴とするところは、回動軸で連結されて該回動軸回りで互いに相対回動可能とされた第一の部材と第二の部材の連結部分において、該第一の部材に取り付けられる第一のコイルユニットと該第二の部材に取り付けられる第二のコイルユニットとを含んで構成されており、互いに等しい周方向長さを有する複数の部分コア部材を該回動軸まわりの円周上で相互に等間隔を隔てて配設することによって第一のコア部材を構成すると共に、それら複数の部分コア部材が配設された円周上に延びる第一のコイル部材を該第一のコア部材に組み付けて第一のコイルヘッドを構成して、該第一のコイルヘッドにおいて該部分コア部材によって磁路の開放面からなる第一の伝送面を形成すると共に、第一の支持部材で該第一のコイルヘッドを支持せしめることにより複数の該部分コア部材が該第一の支持部材上で円周状に配設された前記第一のコイルユニットを構成する一方、該第一のコア部材において周方向で隣接する二つの該部分コア部材の周方向両外側端部間の長さよりも大きく且つ該回動軸まわりの周方向で一周に満たないで部分的に延びる周方向長さをもって第二のコア部材を構成すると共に、該第二のコア部材に対して第二のコイル部材を組み付けることにより該第二のコイル部材を該回動軸まわりの周方向で一周に満たないで部分的に延びるようにして第二のコイルヘッドを構成して、該第二のコイルヘッドにおいて該第二のコア部材によって磁路の開放面からなる第二の伝送面を形成すると共に、第二の支持部材で該第二のコイルヘッドを支持せしめることにより前記第二のコイルユニットを構成して、前記第一のコア部材を該回動軸の回動中心軸と同軸上に位置せしめた状態で該第一のコイルユニットを該第一の部材に取り付けると共に該第二のコイルユニットを該第二の部材に取り付けることによって、該第二のコア部材における該第二の伝送面を該第一のコア部材における該第一の伝送面に対して所定距離を隔てて該回動中心軸回りで相対回動可能に対向位置せしめると共に、該第二のコア部材が何れの周上位置においても、複数の該部分コア部材の少なくとも1つに対して対向状態とされるように配設してこれら第一のコイルヘッドと第二のコイルヘッドの間で電磁誘導を利用して電気信号の伝送を可能とした可動部のハーネスレス装置にある。
本態様によれば、電気信号を伝送するために第一の部材と第二の部材に跨るケーブルを設けることが不要とされる。これにより、第一の部材と第二の部材を、電気的な接続を維持しつつ、回動軸回りで無限に回転せしめることが可能となる。そして、ケーブルが不要とされることから、前述のようにケーブルを撓ませて配設することも不要とされて、第一の部材と第二の部材を含んで構成される装置の小型化も図ることが出来る。
さらに、第一のコア部材の第一の伝送面と第二のコア部材の第二の伝送面が互いに非接触状態とされることから、相対変位に伴う繰り返しの擦れによる磨耗等も回避することが出来て、優れた耐久性を得ることが出来る。
加えて、対向位置せしめられた第一のコイルヘッドと第二のコイルヘッドの間で電磁結合を利用して電気信号の伝送を行なうことから、両コイルヘッドの伝送面の離隔距離が比較的小さい。従って、例えば前述の特許文献1に記載の無線LAN等のデータ通信技術を用いた伝送のような混信のおそれやノイズ混入のおそれも小さく、高い信頼性を得ることが出来る。更に、伝送に際して複雑なデータ処理を行なうことも不要とされることから、速やかな伝送を行なうことが可能であり、リアルタイム性が高度に要求されるロボットの関節部分などに好適に適用される。
更にまた、特に本態様においては、第一のコア部材が複数の部分コア部材から形成されており、周方向で分断されている。これにより、第一のコア部材の軽量化を図ることが出来ると共に、製造コストの低減を図ることが出来る。更に、周方向で連続するコア部材を用いる場合に比して、磁束の分散を抑えて各部分コア部材の伝送面に磁束を集中せしめることが出来て、より安定した電気信号の伝送を行なうことが出来る。また、コア内を流れる電磁波は、周波数が高くなるに連れてコア内で熱などに変換されて減衰せしめられ易くなる。そこで、コアを周方向で分断して周方向長さを小さくすることによって、コア内で減衰せしめられる電磁波の量を軽減することが出来て、より信頼性の高い伝送を行なうことが可能とされている。
なお、本態様における部分コア部材は、所定の曲率をもって円弧状に延びるものでも良いが、直線状に延びる部分コア部材を円周上に配設する等しても良い。また、第二のコア部材についても、所定の曲率をもって円弧状に延びるものでも良いし、直線状に延びるものでも良い。
さらに、本態様における第二のコア部材は、第一のコア部材の周方向に部分的に延びる形状とされている。このようにすれば、第二のコア部材の寸法を小さく出来ることから、第二のコイルユニットについても軽量化を図ることが出来る。また、全周に連続するコア部材に比して、磁束の分散や減衰を抑えることが出来て、より信頼性の高い伝送を行なうことが出来る。
また、本態様においては、複数の部分コア部材の周方向長さが互いに等しくされていると共に、これら複数の部分コア部材が同心円上に周方向で等間隔を隔てて配設されることによって第一のコア部材が構成されている。
本態様によれば、第一のコア部材の周上で部分コア部材が均等に配設されることから、第一のコア部材の周方向において磁束の分布の大きな偏りを抑えることが出来て、より安定した伝送を行なうことが出来る。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記複数の部分コア部材が互いに等しい曲率を有する円弧形状とされていると共に、前記第二のコア部材が該部分コア部材と等しい曲率をもって周方向に延びる形状とされていることを、特徴とする。
本態様によれば、部分コア部材に対して第二のコア部材を相対回動せしめるに際して、部分コア部材の第一の伝送面と第二のコア部材における第二の伝送面との対向状態を高度に維持することが出来る。これにより、より信頼性の高い伝送を行なうことが出来る。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第二のコア部材との対向方向における前記第一のコイルヘッドの寸法が該第二のコア部材との対向方向における前記第一の支持部材の厚さ寸法と等しくされており、該第一の支持部材において該第二のコア部材との対向方向に貫設された貫通孔内に該第一のコイルヘッドが挿入状態で組み付けられていることを、特徴とする。
本態様によれば、第一のコア部材と第二のコア部材との対向方向において、第一の支持部材に貫設される貫通孔の寸法と第一のコイルヘッドの寸法が等しくされることから、貫通孔に第一のコイルヘッドを嵌め込むことによって、第一のコイルヘッドを構成する部分コア部材の端面、換言すれば、第一の伝送面を第一の支持部材の端面に対して容易に位置合わせすることが出来る。そして、複数の部分コア部材それぞれの端面を同一の第一の支持部材の端面に容易に揃えられることから、第二のコア部材と部分コア部材との対向方向の離隔距離を、第一のコア部材の全周に亘って略一定にすることが出来る。これにより、第一のコア部材の周方向での磁束の偏りを抑えることが出来て、より安定した伝送を行なうことが出来る。
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材との対向方向における前記第二のコイルヘッドの寸法が該第一のコア部材との対向方向における前記第二の支持部材の厚さ寸法と等しくされており、該第二の支持部材において該第一のコア部材との対向方向に貫設された貫通孔内に該第二のコイルヘッドが挿入状態で組み付けられていることを、特徴とする。
本態様によれば、第一のコア部材と第二のコア部材との対向方向において、第二の支持部材に貫設される貫通孔の寸法と第二のコイルヘッドの寸法が等しくされることから、貫通孔に第二のコイルヘッドを嵌め込むことによって、第二のコイルヘッドを構成する第二のコア部材の端面、換言すれば、第二の伝送面を第二の支持部材の端面に容易に揃えることが出来る。
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一の支持部材が周方向で部分的に延びる複数の部分支持部材によって構成されていると共に、前記コイル部材が各該部分支持部材に対応して周方向で分割された複数のリード線からなるコイル形成部材によって構成されて、各該コイル形成部が対応する各該部分支持部材に組み合わされており、それら各該部分支持部材が互いに周方向で連結されて該第一の支持部材が構成されていると共に、各該コイル形成部が互いに周方向で接続されることにより前記第一のコイル部材が構成されていることを、特徴とする。
本態様によれば、複数の部分支持部材を回動軸の回動中心軸を挟んで互いに組み付けることによって、回動軸の回動中心軸を同軸上に位置せしめた第一のコイル部材を構成することが出来る。これにより、例えば既存のロボット等にも、本発明に従う構造とされた可動部のハーネスレス装置を容易に取り付けることが出来る。
本発明の第六の態様は、前記第五の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一の支持部材が半円形状を有する一対の前記部分支持部材によって構成されており、該部分支持部材のそれぞれにおいて、前記リード線において該部分支持部材の周方向に延びるコイル形成部を形成して、該コイル形成部に前記部分コア部材を組み合わせる一方、該リード線を該部分支持部材の周方向の一方の端部で折り返して、他方の端部で他方の該部分支持部材に設けられた該リード線と接続可能とすることによって、これら部分支持部材の組み合わせ状態において各該コイル形成部によって前記第一のコイル部材を構成するようにしたことを、特徴とする。
本態様によれば、一対の部分支持部材を組み合わせるのみで第一の支持部材を形成できることから、第一の支持部材を第一の部材に容易に組み付けることが出来ると共に、第一のコイル部材を容易に形成することが出来る。
なお、本発明における第一の伝送面と第二の伝送面の対向方向としては、本発明の第七の態様として、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材における前記第一の伝送面と前記第二のコア部材における前記第二の伝送面が前記回動中心軸の軸方向で対向位置せしめられている態様も採用可能であるし、或いは、本発明の第八の態様として、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材における前記第一の伝送面と前記第二のコア部材における前記第二の伝送面が前記回動中心軸の軸方向に対して直交する方向で対向位置せしめられている態様の何れも採用可能である。
本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材及び前記第二のコア部材の少なくとも一方において、前記第一の伝送面又は前記第二の伝送面を除く外周に高い電磁遮蔽効果を有する高遮蔽効果部材が配設されていることを、特徴とする。
ここにおいて、電磁遮蔽効果とは、電界および磁界を含めた電磁に対するシールド効果(Shield Effectiveness)を言うものであり、下式で表される変化率の大きさ(絶対値)で表される。なお、下式中、Eout は出射電界の強度(V/m)、Einは入射電界の強度(V/m)を示す。そして、高い電磁遮蔽効果とは、一般に電磁遮蔽部材として使用し得る程度のシールド効果を言うものであり、具体的には、シールド効果が30dB以上、より好適には、60dB以上であることをいうものとする。
変化率=20log(Eout /Ein)
そして、本態様によれば、第一のコア部材や第二のコア部材が外部から電磁波の影響を受けることを抑えることが出来て、電気信号の伝送をより安定して行うことが出来る。また、第一のコイルヘッドや第二のコイルヘッドから生ぜしめられる電磁波が他の電子部品に与える影響を抑えることも出来る。
本発明の第十の態様は、前記第九の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一の支持部材及び前記第二の支持部材の少なくとも一方が前記高遮蔽効果部材とされていることを、特徴とする。本態様によれば、電磁遮蔽部材を特別に設けることが不要とされて、部品点数を軽減することが出来る。
本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコイルユニット及び前記第二のコイルユニットが高い電磁遮蔽効果を有する高遮蔽効果部材で覆われていることを、特徴とする。
本態様によれば、可動部のハーネスレス装置の略全体を電磁波のノイズから保護し得ると共に、可動部のハーネスレス装置から生ぜしめられる電磁波の他の電子部品への影響を抑えることが出来る。
本発明の第十二の態様は、前記第九乃至第十一の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記高遮蔽効果部材が、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、磁鉄鉱、ガドリニウム、コバルト、フェリ磁性体、導電性粉末材、導電性塗料材の少なくとも1つから形成されていることを、特徴とする。本態様によれば、電磁遮蔽効果を有効に得ることが出来る。
本発明の第十三の態様は、前記第一乃至第十二の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材及び前記第二のコア部材の少なくとも一方において、前記第一の伝送面又は前記第二の伝送面を除く外周に低い電磁遮蔽効果を有する低遮蔽効果部材が配設されていることを、特徴とする。
ここにおいて、低い電磁遮蔽効果とは、一般に電磁遮蔽部材として用いることが困難なシールド効果を言うものであり、具体的には、シールド効果が30dB以下、より好適には、20dB以下であることを言うものとする。そして、本態様によれば、低遮蔽効果部材乃至はコア部材から漏れ出す磁束を軽減して、コア部材の伝送面に磁束を集中せしめられることから、より信頼性の高い伝送を行なうことが可能となる。なお、特に本態様においては、低遮蔽効果部材として、透磁率の小さい部材が好適に採用される。このようにすれば、コア部材の外側の透磁率を十分に低くすることによって、コア部材における伝送面以外の外周面からの磁力線の漏れ出しを抑えることが出来て、伝送の信頼性をより高めることが出来る。
本発明の第十四の態様は、前記第十三の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコア部材及び前記第二のコア部材の少なくとも一方において、前記第一の伝送面又は前記第二の伝送面を除く外周に、高い電磁遮蔽効果を有する高遮蔽効果部材が配設されていると共に、該コア部材の外周と該高遮蔽効果部材の間に、前記低遮蔽効果部材が配設されていることを、特徴とする。
本態様によれば、コア部材の外周と高遮蔽効果部材の間に低遮蔽効果部材が介在せしめられることによって、高遮蔽効果部材がコア部材の外周面に直接に接触することなく、所定の距離を隔てて配設されている。これにより、コア部材から出る電磁波が高遮蔽効果部材で吸収されるおそれ等が軽減されており、伝送面により多くの磁束を集めることが可能になると共に、高遮蔽効果部材に入った磁力線が渦電流を生ずることに起因してコイルヘッドの電磁エネルギーを低下せしめるおそれ等も軽減することが出来る。その結果、より信頼性の高い伝送を行なうことが出来て、両伝送面の離隔距離がより大きくなった場合でも、電気信号等の伝送をより安定して行なうことが出来る。
本発明の第十五の態様は、前記第十三又は第十四の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記低遮蔽効果部材がポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、プラスチック、木、紙、布、非導電性塗料、強化プラスチック、ガラス、天然樹脂、合成樹脂の少なくとも1つから形成されていることを、特徴とする。本態様によれば、コア部材からの漏れ磁束を有効に抑えることが出来る。
本発明の第十六の態様は、前記第一乃至第十五の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一のコイルユニットと前記第二のコイルユニットの組を複数組備えていることを、特徴とする。
本態様によれば、各第一のコイルユニットと第二のコイルユニットの組毎に異なる電気信号を伝送することが可能となり、複数の電気信号を同時に且つ高い信頼性をもって伝送することが出来る。
本発明の第十七の態様は、前記第十六の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記第一の支持部材に複数の前記第一のコイルヘッドを同心状に設けることによって、複数の前記第一のコイルユニットを一体的に構成したことを、特徴とする。
本態様によれば、第一のコイルユニットの複数で第一の支持部材を共通して用いることから、部品点数の減少および軽量化を図ることが出来ると共に、複数の第一のコイルユニットを一体的に取り扱うことが出来て、第一の部材への組み付け等の製造も容易となる。
本発明の第十八の態様は、前記第十七の態様に係る可動部のハーネスレス装置において、互いに等しい径寸法を有する一対の前記第一のコイルヘッドが、前記第一の部材に取り付けられた前記第一の支持部材における前記回動中心軸の軸方向の両端部にそれぞれ配設されていると共に、これら第一のコイルヘッドに対応する一対の前記第二のコイルヘッドが、該回動中心軸の軸方向で該第一の支持部材を挟んで互いに反対側に配設されており、該第一のコイルヘッドにおける前記第一の伝送面と該第二のコイルヘッドにおける前記第二の伝送面が該回動中心軸の軸方向で互いに所定距離を隔てて対向位置せしめられていることを、特徴とする。
本態様によれば、第一の支持部材の両面に第一のコイルヘッドを設けることによって、互いに同じ径寸法を有する一対の第一のコイルヘッドをスペース効率良く配設することが出来る。
本発明の第十九の態様は、前記第一乃至第十八の何れか一つの態様に係る可動部のハーネスレス装置において、前記電気信号に加えて電力の伝送を可能としたことを、特徴とする。本態様によれば、例えば各種センサ等のような比較的小電力で駆動し得る電子部品に対して駆動電力を供給することが出来る。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1に、本発明の第一の実施形態としての可動部のハーネスレス装置に係る可動型トランス10を備えたロボット装置12をモデル的に示す。ロボット装置12は、複数の関節14a乃至14dを備えたアーム部材16の先端に、工具18が設けられた構造とされている。工具18は、アーム部材16に設けられた自動工具交換装置20を介して取外し可能とされている。工具18としては、例えばバリ取りに用いられる切削工具やマニピュレータ等、従来公知の各種の工具が採用可能であり、本実施形態においては、スポット溶接に用いられるスポット溶接ガンが用いられている。そして、かかる工具18が、ロボット装置12の本体側に設けられたコントローラ19と電気的に接続されており、工具18とコントローラ19との間で、制御信号等の電気信号の伝送が可能とされている。
図2に、アーム部材16の関節14cをモデル的に示す。関節14cは、アーム部材16を構成する第一の部材としての工具側アーム部材22と第二の部材としての本体側アーム部材24が回動軸26によって連結された構造とされている。そこにおいて、工具側アーム部材22はロボット装置12の工具18側に位置せしめられる一方、本体側アーム部材24はロボット装置12の本体側に位置せしめられている。そして、回動軸26は、一方の端部が工具側アーム部材22に固定的に連結される一方、他方の端部が、本体側アーム部材24に向けて工具側アーム部材22から突出せしめられて、本体側アーム部材24側に設けられた図示しない電動モータ等の駆動源の出力軸と連結されて中心軸27回りに回動可能とされている。これにより、工具側アーム部材22が、回動軸26の中心軸27回りで本体側アーム部材24に対して相対回動可能とされている。
そして、かかる関節14cには、可動型トランス10が設けられている。可動型トランス10は、回動軸26を介して工具側アーム部材22に取り付けられた第一のコイルユニットとしての工具側コイルユニット28と、本体側アーム部材24に取り付けられた第二のコイルユニットとしての本体側コイルユニット30を含んで構成されており、特に本実施形態においては、一対の工具側コイルユニット28と、一対の本体側コイルユニット30を含んで構成されている。
図3に工具側コイルユニット28を、図4に本体側コイルユニット30を、および図5に工具側コイルユニット28と本体側コイルユニット30の対向部分を拡大してそれぞれモデル的に示す。なお、図3においては、理解を容易とするために、本体側コイルユニット30を点線で併せて示すと共に、図3および図4においては、保護部材56を省略して図示する。
工具側コイルユニット28は、第一の支持部材としてのディスク32に、第一のコイルヘッドとしての工具側コイルヘッド34が組み付けられた構造とされている。更に、工具側コイルヘッド34は、第一のコア部材としての工具側コア36に第一のコイル部材としての工具側コイル38が組み付けられた構造とされている。
工具側コア36は、複数の部分コア部材としての部分コア40によって構成されている。部分コア40は、例えばフェライト等の強磁性材から形成されており、長手方向に直交する一方に開口するリード溝42を有する一定のU字状断面をもって所定寸法に亘って円弧状に延びる形状を有している。特に本実施形態においては、各部分コア40は互いに同じ形状を有しており、互いに等しい曲率と周方向長さ寸法を有する円弧形状とされている。
さらに、特に本実施形態においては、各部分コア40の開口端面44と長手方向両端面を除く外周面が、低遮蔽効果部材としてのギャップ部材46で覆われている。ギャップ部材46は部分コア40と略同様に、長手方向に直交する方向(図5中、左右方向)の一方に開口する一定のU字状断面を有すると共に、所定寸法に亘って円弧状に延びる形状を有している。そして、かかるギャップ部材46がその開口端面を部分コア40の開口端面44と同一平面上に位置せしめて、部分コア40の外側に嵌め合わされるようになっている。これにより、部分コア40の開口端面44と長手方向両端面を除く外周にギャップ部材46が配設されている。
なお、ギャップ部材46としては、ディスク32および後述するパッド58に比して電界および磁界を含めた電磁に対する電磁遮蔽効果(シールド効果(SE))の小さな従来公知の部材が適宜に採用可能であり、好適には、シールド効果が30dB以下、より好適には、20dB以下の部材が用いられる。例えば、ギャップ部材46としては、非導電性を有し透磁率の低い部材、特に好適には空気以下の透磁率を有する部材が好適に採用される。具体的には、ギャップ部材46としては、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、プラスチック、木、紙、布、非導電性塗料、強化プラスチック、ガラス、ロジンなどの天然樹脂、フェノールやポリウレタン等の合成樹脂などが例示される。本実施形態においては、ギャップ部材46としてポリテトラフルオロエチレンが用いられている。これにより、部分コア40の開口端面44と長手方向両端面を除く外周面とディスク32との間にはギャップ部材56が介在せしめられており、部分コア40の外周面とディスク32との直接の接触面積が小さくされている。その結果、部分コア40からの漏れ磁束が抑えられると共に、磁力線の影響によってディスク32に渦電流が生ぜしめられるようなことも抑えられており、ディスク32で部分コア40の電磁エネルギーが吸収低減されるおそれ等が軽減されている。
そして、これら部分コア40とギャップ部材46がディスク32に埋設状態で配設されている。ディスク32は、厚さ方向に貫通する軸挿通孔48を有する円環板形状とされている。そこにおいて、本実施形態においては、ディスク32が高遮蔽効果部材とされている。かかるディスク32としては、電界および磁界を含めた電磁に対する電磁遮蔽効果(シールド効果(SE))が大きく、電磁遮蔽部材として使用し得るシールド効果を有する従来公知の部材が適宜に採用可能であり、好適には、シールド効果が30dB以上、より好適には、60dB以上の部材が用いられる。具体的には、ディスク32としては、アルミニウム、銅、鉄(酸化鉄も含む)、ニッケル、磁鉄鉱、ガドリニウム、コバルト、フェリ磁性体、導電性粉末材、導電性塗料材などが例示され、これらの部材に対して酸化や合金化、粉末の練り込みや蒸着などの適宜の加工が施されることによって形成される。
さらに、ディスク32には、部分コア40の配設部位に、軸方向(図5中、左右方向)の端面50に開口する凹溝52が形成されている。特に本実施形態においては、凹溝52は、ギャップ部材46の外形に対応する形状とされており、ギャップ部材46の高さ寸法(図5中、左右方向寸法)と等しい深さ寸法を有すると共に、ギャップ部材46および部分コア40の曲率と等しい曲率をもって円弧状に延びる形状とされている。かかる凹溝52が、ディスク32の周方向で所定間隔毎に複数形成されており、これら各凹溝52に、部分コア40がギャップ部材46を介して嵌め込まれて接着等で固定されている。
このようにして、ディスク32において、ディスク32と中心軸を等しくする同一円周上に複数の部分コア40が所定間隔を隔てて設けられており、これら複数の部分コア40によって、工具側コア36が形成されている。これにより、工具側コア36は、周方向において複数箇所で分断されたポットコア形状とされている。特に本実施形態においては、工具側コア36は、周方向で隣接する部分コア40の間隔が何れも等しくされており、周方向で等間隔に分断されている。なお、周方向で隣接する部分コア40の間隔は、特に本実施形態においては、部分コア40の周方向長さよりも小さくされており、具体的には、部分コア40の曲率中心軸回りの中心角:α<45°に設定されている。また、部分コア40およびギャップ部材46が凹溝56に嵌め込まれることによって、部分コア40の開口端面44およびギャップ部材46の端面が、ディスク32の端面50と同一平面上に位置せしめられるようになっている。更に、部分コア40の開口端面44を除く外周に、ギャップ部材46を介してディスク32が配設されることとなる。
そして、例えば銅などによって形成されたリード線が、ディスク32に設けられた部分コア40のリード溝42に跨って、ディスク32の周方向に延びるように所定回数巻回されることによって工具側コイル38が形成されており、かかる工具側コイル38が工具側コア36に組み付けられている。なお、ディスク32の周方向における各部分コア40の間には、リード溝42と同じ断面形状をもって端面50に開口せしめられたリード溝54が形成されており、かかるリード溝54と部分コア40のリード溝42が接続されることによって、ディスク32の端面50に開口して周方向の全周に連続して延びる周溝が形成されている。そして、リード線がこれらリード溝42,54で形成された周溝内に配設されることによって、工具側コイル38は、ディスク32の端面50から突出すること無く配設されるようになっている。また、図3においては、理解を容易とするために、工具側コイル38を一本のリード線で図示しているが、リード線の巻数は要求される伝送特性等を考慮して適宜に設定され得るものである。
さらに、各部分コア40のリード溝42とディスク32のリード溝54の開口部には、工具側コイル38を収容した状態で、例えばエポキシ樹脂等のような透磁率の小さな材料で形成された保護部材56が設けられることによって、工具側コイル38の他部材との接触等が防止されている。
このようにして、工具側コア36と工具側コイル38、およびギャップ部材46を含んで工具側コイルヘッド34が形成されており、かかる工具側コイルヘッド34が、ディスク32で支持されることによって、工具側コイルユニット28が構成されている。そして、工具側コア36、換言すれば部分コア40によって工具側コイル38の磁路が形成されると共に、部分コア40の開口端面44が第一の伝送面とされている。
なお、特に本実施形態においては、ディスク32の両端面50のそれぞれに凹溝52が形成されており、それら各凹溝52にギャップ部材46および部分コア40が嵌め込まれて、工具側コイルヘッド34が形成されている。このことから明らかなように、本実施形態においては、互いに等しい径寸法を有する一対の工具側コイルヘッド34が共通のディスク32によって同心軸上で支持されており、一対の工具側コイルユニット28がディスク32を共通にして一体的に設けられている。
このような構造とされた工具側コイルユニット28の厚さ方向の両側に、一対の本体側コイルユニット30がそれぞれ配設されている。本体側コイルユニット30は、図4にも示すように、第二の支持部材としてパッド58に第二のコイルヘッドとしての本体側コイルヘッド60が組み付けられた構造とされている。また、本体側コイルヘッド60は、第二のコア部材としての本体側コア62に第二のコイル部材としての本体側コイル64が組み付けられると共に、本体側コア62の外側にギャップ部材46が嵌め合わされた構造とされている。
本体側コア62は、工具側コイルヘッド34を構成する部分コア40の周方向長さが異ならされた、部分コア40と略同様の構造とされており、例えばフェライト等の強磁性材から形成されて、リード溝66を有する一定のU字状断面をもって部分コア40と等しい曲率の円弧状に延びる形状とされている。そこにおいて、本体側コア62の周方向長さ寸法は、図3に示すように、工具側コイルヘッド34において周方向で隣接する部分コア40の周方向の離隔距離よりも大きくされており、特に本実施形態においては、具体的には、本体側コア62の曲率中心軸回りの中心角:β>45°に設定されている。
さらに、特に本実施形態における本体側コア62の外側には、部分コア40と同様に、ギャップ部材46が嵌め合わされており、本体側コア62の開口端面68と長手方向両端面を除く外周面がギャップ部材46で覆われている。
一方、パッド58は、板形状を有しており、特に本実施形態においては、パッド58の厚さ寸法(図5中、左右方向寸法)はギャップ部材46の高さ寸法と等しくされている。また、パッド58には、厚さ方向に貫通する貫通孔70が形成されている。なお、パッド58は、工具側コイルヘッド34を支持するディスク32と同様に、電磁遮蔽効果が高い前記例示の如き部材などから形成された高遮蔽効果部材とされている。
そして、かかる貫通孔70に、ギャップ部材46と本体側コア62が嵌め入れられて接着などにより固定される。そこにおいて、パッド58の厚さ寸法とギャップ部材46の高さ寸法が等しくされていることから、本体側コイルヘッド60を構成する本体側コア62の開口端面68をパッド58の端面と容易に揃えることが出来る。そして、本体側コア62の開口端面68を除く外周部分に、ギャップ部材46を介してパッド58が配設されることとなる。
また、パッド58には、貫通孔70内に配設された本体側コア62のリード溝66と接続されて、リード溝66と協働して全周に連続する周溝を形成するリード溝72が形成されている。そして、例えば銅などによって形成されたリード線がこれらリード溝66、72で形成された周溝内に配設されて、本体側コア62に所定回数巻回されることによって本体側コイル64が形成されており、かかる本体側コイル64が本体側コア62に組み付けられている。なお、図4においては、理解を容易とするために、本体側コイル64を一本のリード線で示しているが、リード線の巻数は要求される伝送特性等を考慮して適宜に設定され得るものである。また、図4においては図示を省略するが、本体側コア62のリード溝66とパッド58のリード溝72の開口部には、工具側コイルユニット28と同様に保護部材56が設けられて、本体側コイル64の他部材との接触等が防止されている。
このようにして、本体側コア62と本体側コイル64、およびギャップ部材46を含んで本体側コイルヘッド60が形成されており、かかる本体側コイルヘッド60がパッド58で支持されている。そして、本体側コア62によって本体側コイル64の磁路が形成されると共に、本体側コア62の開口端面68が第二の伝送面とされている。
そして、これら一対の工具側コイルユニット28と一対の本体側コイルユニット30のそれぞれが、工具側アーム部材22および本体側アーム部材24に取り付けられて、ディスク32の厚さ方向の両側に、一対の本体側コイルユニット30が所定距離を隔ててそれぞれ位置せしめられるようになっている。
より詳細には、工具側コイルユニット28は、ディスク32の軸挿通孔48の中心軸上に回動軸26を挿通せしめた状態で、回動軸26の外周面からディスク32に向けて延びる複数(本実施形態においては、4つ)の連結部材74で回動軸26に対して固定されている。これにより、工具側コイルユニット28は、回動軸26を介して工具側アーム部材22に取り付けられて工具側コア36が回動軸26の中心軸27と同軸上に位置せしめられると共に、回動軸26および工具側アーム部材22と一体的に、中心軸27回りで回転せしめられるようになっている。
そして、工具側コイルユニット28に設けられた一対の工具側コイル38を構成するリード線の一方が、信号処理器76を介して、例えば、工具18の作動を制御する駆動制御回路79と電気的に接続されている一方、一対の工具側コイル38を構成するリード線の他方が、信号処理器76を介して、例えば、エンコーダ100と電気的に接続されている。なお、信号処理器76および後述する信号処理器84は、CVCF型やVVVF型の従来公知のインバータおよび整流安定化回路等を備えている。
一方、一対の本体側コイルユニット30は、本体側アーム部材24に一体的に設けられたシールド部材80を介して本体側アーム部材24に取り付けられている。シールド部材80は、中空の略円柱形状とされており、軸方向(図2中、左右方向)両端面の中央部には、厚さ方向に貫通する挿通孔82a,82bがそれぞれ形成されている。かかるシールド部材80は、一方の挿通孔82aに本体側アーム部材24が挿通された状態で本体側アーム部材24に固定されている。なお、シールド部材80は、ディスク32やパッド58と同様に、電磁遮蔽効果が高い前記例示の如き部材などから形成された高遮蔽効果部材とされている。
かかるシールド部材80の内周面に、一対の本体側コイルユニット30がシールド部材80の径方向内方に突出するように取り付けられていると共に、それぞれの本体側コイルユニット30に設けられた本体側コイル64を構成するリード線が信号処理器84を介してロボット装置12の本体側に設けられたコントローラ19と電気的に接続されている。
そして、シールド部材80の他方の挿通孔82bに工具側アーム部材22が挿通されることによって、工具側コイルユニット28と一対の本体側コイルユニット30がシールド部材80内で互いに対向位置せしめられるようになっている。なお、特に本実施形態においては、工具側コイルユニット28の径寸法がシールド部材80の挿通孔82bの径寸法よりも大きいことから、シールド部材80内への工具側コイルユニット28の配設は、例えば、シールド部材80を周方向で分割構造として、工具側コイルユニット28が取り付けれられた工具側アーム部材22を本体側アーム部材24に組み付けた後に、これら両アーム部材22,24の外側からシールド部材80を構成する分割構造体を組み付ける等することによって実現することが出来る。
これにより、一対の工具側コイルユニット28と一対の本体側コイルユニット30がシールド部材80内に配設されて、一対の工具側コイルユニット28を支持するディスク32を回動軸26の軸方向の両側で挟んで一対の本体側コイルユニット30が互いに反対側に配設される。そして、工具側コイルユニット28の伝送面となる部分コア40の開口端面44と本体側コイルユニット30の伝送面となる本体側コア62の開口端面68が、回動軸26の軸方向で所定距離を隔てた非接触状態で互いに対向位置せしめられる。このようにして、これら一対の工具側コイルユニット28と一対の本体側コイルユニット30を含んで可動型トランス10が構成されている。
このような構造とされた可動型トランス10においては、工具側コイルユニット28と本体側コイルユニット30の間で、互いに非接触の状態で電気信号の伝送が行なえるようになっている。例えば、電気信号として工具18に設けられたエンコーダ78からのエンコード信号がロボット装置12の本体側に設けられたコントローラ19に伝送される場合には、先ず、エンコーダ78によって生成されたエンコード信号が信号処理器76によって高周波電圧に重畳された後に、工具側コイルユニット28の工具側コイル38に供給される。なお、電気信号が重畳される高周波電圧は、信号処理器76によって生成されるようになっており、その周波数は、電気信号のデータサイズや使用環境等によって異なるものであるが、本実施形態においては、100Hz〜1GHz程度の範囲内で適当に設定されている。
そして、工具側コイル38に高周波電圧が給電されることによって、工具側コイル38を貫き、出力周波数に応じて変化する磁束が発生する。工具側コイル38を貫く磁束は、工具側コア36、より詳細には、工具側コア36を構成する部分コア40の中を通って、部分コア40の開口端面44から対向位置せしめられた本体側コア62の開口端面68に入り、本体側コア62の中を通る。そして、本体側コア62の中を通る磁束が、本体側コイル64と鎖交せしめられる。
その結果、工具側コイル38と本体側コイル64が電磁結合せしめられて、本体側コイル64には、相互誘導作用による誘導起電力が生じることとなり、工具側コイル38に供給された高周波電圧が、本体側コイル64から非接触の状態で取り出される。そして、本体側コイル64から取り出された高周波電圧に重畳されたエンコード信号が、信号処理器84によって取り出された後に、コントローラ19に送信される。これにより、工具側アーム部材22と本体側アーム部材24の間で、互いに非接触の状態で電気信号の伝送を行なうことが可能とされている。
また、本実施形態における可動型トランス10は、ロボット装置12の本体側から工具18側への電気信号の伝送も可能とされている。例えば、電気信号としてコントローラ19の駆動制御信号が工具18に設けられた駆動制御回路79に伝送される場合には、上述のエンコーダ78からコントローラ19にエンコード信号を送信した場合と信号の伝達経路を逆にして略同様に、コントローラ19で生成された駆動制御信号が、コントローラ19に接続された信号処理器84で高周波電圧に重畳されて本体側コイル64から工具側コイル38に本体側コア62および工具側コア36を介して非接触の状態で伝送された後に、工具18側に設けられた信号処理器76によって高周波電圧から取り出されて、駆動制御回路79に送信されることとなる。
そして、本実施形態における可動型トランス10においては、回動軸26が回転せしめられると、回動軸26に固定的に設けられた工具側コイルユニット28が、本体側コイルユニット30に対して回動軸26の中心軸27回りで回転せしめられて、本体側コア62の開口端面68が、工具側コア36を構成する各部分コア40の開口端面44に対して回動軸26の中心軸27回りで相対的に回転せしめられる。そこにおいて、本実施形態における可動型トランス10においては、工具側コア36を構成する部分コア40が中心軸27と同心の円周上に配設されると共に、本体側コア62の周方向寸法が、部分コア40の配設円周方向において隣接する部分コア40の離隔距離よりも大きくされていることから、本体側コア62が工具側コイルユニット28に対して何れの周方向位置にある場合でも、本体側コア62の開口端面68が少なくとも一つの部分コア40の開口端面44と対向位置せしめられるようになっている。これにより、回動軸26が回転せしめられた場合、即ち、本体側アーム部材24に対して工具側アーム部材22が回転せしめられた場合でも、工具側コア36と本体側コア62との電磁結合状態が維持されて、これら本体側アーム部材24と工具側アーム部材22間での電気信号の伝送が可能とされており、本体側アーム部材24に対して電気的な接続を維持しつつ、工具側アーム部材22を無限回数回転せしめることが可能とされている。
そこにおいて、工具側コア36と本体側コア62が、回動軸26の軸方向で所定距離を隔てた非接触状態とされていることから、両コア36,62の擦れ等による磨耗のおそれも回避され得ると共に、ケーブル接続などのような繰り返しの屈曲等に起因する断線などのおそれも回避され得て、優れたメンテナンス性を得ることが出来る。
また、ケーブル接続のように各部材の相対変位を許容する撓みを設ける必要もないことから、可動型トランス10をコンパクトに構成することが出来て、延いてはロボット装置12のコンパクト化を図ることが出来る。更に、特に本実施形態においては、互いに同一径寸法とされた工具側コア36の一対をディスク32の両面にそれぞれ同軸上に設けたことによって、2組の工具側コイルユニット28と本体側コイルユニット30の組を良好なスペース効率をもって配設することが可能とされている。即ち、ディスク32の一面に2つの工具側コア36を設けようとすると、それら工具側コア36の径寸法を互いに異ならせて、小径とされた工具側コア36の外側に大径とされた工具側コア36を配設する必要があることから、何れかの工具側コア36の径寸法を大きくしなければならず、サイズの大型化、特に、回動軸26の軸方向に直交する方向の大型化を招く。一方、一対の工具側コア36を一つのディスク32に設けることなく、一つのディスク32に一つの工具側コア36のみを設けて、2組の工具側コイルユニット28と本体側コイルユニット30の組を回動軸26の軸方向で単純に並べて配設したような場合には、回動軸26の軸方向の大型化を招く。そこにおいて、本実施形態によれば、ディスク32の両面に工具側コア36をそれぞれ設けることによって、一対の工具側コア36の径寸法を互いに等しくして、回動軸26の軸方向および軸直角方向の何れにおいてもサイズのコンパクト化を図ることが可能とされている。
更にまた、一対の工具側コア36が互いに同一径寸法とされていることから、工具側コア36を構成する部分コア40として曲率の等しい同一規格のコア部材を用いることが出来ると共に、これと対向せしめられる一対の本体側コア62についても、同一規格のコア部材を用いることが出来ることから、用意すべきコア部材の種類を軽減することが出来て、製造コストの軽減も図られ得る。加えて、ディスク32を回動軸26に取り付けることによって一対の工具側コイルユニット28の回動軸26への取り付けが行なえることから、製造の手間を軽減することも出来る。また、例えば本体側コア62が全周に連続した環形状であるとすると、工具側コア36と同様に、回動軸26を挿通せしめて配設する必要が生じ、回動軸26との組み付け位置を考慮する必要があるが、本実施形態においては、本体側コア62が全周に亘って連続していないことから、単に工具側コア36と対向し得る位置に配設すれば良く、設計もより容易となる。
そして、工具側コア36が各部分コア40で周方向に分断された構造とされていることから、各部分コア40の開口端面44に磁束を集中させることが出来て、工具側コア36の全周に連続してコア部材を設ける場合に比して、磁束の分散を抑えることが出来る。これにより、より信頼性の高い伝送を行なうことが可能とされている。更に、本実施形態においては、各部分コア40がギャップ部材46で覆われていることによって、各部分コア40からの漏れ磁束を抑えることが出来て、開口端面44に磁束をより効果的に集中させることが可能とされている。また、工具側コイル38に流される電圧は、周波数が高くなるに連れてコア部材内で熱などに変換されて減衰せしめられ易くなるが、本実施形態においては、工具側コイル38を周方向で分断して、コアの存する周方向長さを小さくしたことによって、かかる減衰も低減することが可能とされている。
加えて、本実施形態では、ディスク32、パッド58、およびシールド部材80によって電磁遮蔽構造が構成されており、工具側コア36や本体側コア62から漏れ出す磁力線が他の電子部品に影響を与えたり、他の電子部品からの磁力線が工具側コア36や本体側コア62の電磁誘導作用に影響を与えるおそれが軽減されている。特に工具側コイルユニット28および本体側コイルユニット30においては、ディスク32やパッド58自体が電磁遮蔽部材で形成されており、電磁遮蔽部材を特別に設けることも不要とされて、部品点数を削減することが可能とされている。更に、特に本実施形態においては、各コア36,62の外周とディスク32およびパッド58の間にギャップ部材46が介在せしめられていることによって、各コア36,62の電磁エネルギーがディスク32やパッド58で吸収低減されるおそれ等も軽減することが出来て、より安定した伝送を行なうことが可能とされている。
因みに、上述の実施形態に従う構造とされた可動型トランスを備えたロボット装置を、図6〜7に示されているとおり実際に製作し、その作動を確認した。その結果、実際の作動環境を略再現した設置状況下でも、かかるロボット装置は高精度に安定して作動し、上述の如き各種の効果が、何れも、有効に発揮され得ることを確認することが出来た。
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。なお、以下の説明において、前記実施形態と同様の構造とされた部材および部位については、それぞれ、図中に、前記実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
例えば、図8に、第一のコイルユニットの異なる態様としての工具側コイルユニット90をモデル的に示す。工具側コイルユニット90は、第一の支持部材としてのディスク92にコイルヘッドとしての工具側コイルヘッド93が設けられた構造とされている。そこにおいて、本実施形態におけるディスク92は分割構造とされており、部分支持部材としての部分ディスク94の一対が互いに嵌合等によって連結されて構成されている。
部分ディスク94は、ストレートに延びる柱状部96を有すると共に、柱状部96の一方の端部には、半円環形状の環状部98を有している。なお、部分ディスク94は、前記ディスク32と同様に、電磁遮蔽効果が高い前記例示の如き部材などから形成された高遮蔽効果部材とされている。そして、かかる部分ディスク94内のそれぞれにおいて、例えば銅などによって形成されたリード線100が配設されている。本態様におけるリード線100は、基端部101から柱状部96内で柱状部96に沿ってストレートに延び出した後に、環状部98内の外側部分で環状部98に沿って延び出されている。更に、リード線100は、環状部98の延出先端部において、環状部98の内側に向けて曲げられた後に、環状部98内の内側部分で環状部98に沿って柱状部96に向けて延び出されて、延出端部102が、部分ディスク94の柱状部96において他方の部分ディスク94と対向位置せしめられる部位に設けられたコネクタ103と電気的に接続されている。要するに、リード線100は、環状部98の延出先端部で折り返されて、環状部98の内側と外側において環状部98に沿って配設されている。そして、環状部98の内側に配設されたリード線100によって略半円形状のコイル形成部104が形成されており、かかるコイル形成部104に、複数の部分コア40が組み合わされている。
このような構造とされた部分ディスク94の一対が、回動軸26を環状部98で囲むようにして互いに嵌合等によって連結されるようになっている。かかる連結状態において、一対の部分ディスク94のコネクタ103が互いに接続されて、一対のリード線100の延出端部102が互いに電気的に直列に接続されると共に、一対のコイル形成部104によって、全体として略円形状を有する第一のコイル部材としての工具側コイル106が形成されるようになっている。これにより、部分コア40に工具側コイル106が組み合わされた工具側コイルヘッド93が構成されている。更に、一対の部分ディスク94によって工具側コイルヘッド93を支持する第一の支持部材としてのディスク92が構成されており、一対の環状部98の内周面によって、回動軸26を挿通せしめる軸挿通孔48が形成される。
このようにすれば、回動軸26を挟んで一対の部分ディスク94を互いに連結することによって、回動軸26に外挿されたディスク92および工具側コイルヘッド93を形成することが出来る。これにより、例えば既存のロボット装置などにも工具側コイルヘッド93を容易に組み付けることが出来て、本発明に従う構造とされた可動部のハーネスレス装置を、既存のロボット装置等にも容易に適用することが出来る。
なお、特に図8に示した部分ディスク94においては、互いの連結の容易性等を考慮してコネクタ103が柱状部96の延出端部に位置せしめられることによって、一対のコイル形成部104の間に所定の間隔:Dが形成されているが、かかる間隔:Dは可及的に小さくされることが好ましい。そこで、例えば、コネクタ103を環状部98の内周面により近づけて位置せしめて、間隔:Dをより小さくする等しても良い。
また、図8においては、理解を容易とするために、工具側コイル106として巻き数が1のコイルを例示したが、例えば図9にモデル的に示すコイル部材の更に異なる態様としての工具側コイル110のように、複数の巻き数を有するコイルを周方向で分割可能に構成することも可能である。このような工具側コイル110を構成するには、例えば、先ず、図9(a)に示すように、図8に示したリード線100を4つ用意して一対ずつ組み合わせることによって、図8に示した一対のコイル形成部104による円形状を2つ形成する。そして、各リード線100を直列に接続する。具体的には、図8に示した工具側コイル106と同様に、協働してコイル形成部104による円形状を形成する一対のリード線100の延出端部102をコネクタ103で互いに接続する。そして、コイル形成部104による円形状を形成する一対のリード線100の一方の基端部101を、他方の円形状を形成する一対のリード線100の一方の基端部101と互いにコネクタ112で接続する。
これにより、4つのリード線100が直接に接続されて、電流の伝送経路上に、コイル形成部104による2つの円形状が形成される。そして、図9(b)に示すように、コイル形成部104による2つの円形状を、軸方向視(図9中、紙面に垂直な向き)で、電流の方向が等しくなるようにして互いに重ね合わせる。具体的には、図9(a)に示した「A」〜「H」に位置せしめられた部位が、図9(b)の「A」〜「H」にそれぞれ位置せしめられる。このようにすれば、コネクタ103およびコネクタ112で周方向に分割可能な、複数回に亘って部分コア40に巻回せしめられる工具側コイル110を得ることが出来る。なお、図9に示す工具側コイル110は巻数が2のコイルとなるが、更に多くの巻き数を有する周方向に分割可能なコイルを構成する場合には、同様に、更に多数のリード線100を直接に接続することによって一対のコイル形成部104による円形状を更に多数形成して、かかる円形状を重ね合わせれば良い。また、図9(b)においては、理解を容易とするために、互いに接続される延出端部102および基端部101毎にコネクタ103、112を設けているが、これらコネクタ103,112を単一のコネクタで構成することも勿論可能である。
さらに、第一のコア部材を構成する部分コア部材および第二のコア部材の具体的な形状は特に限定されるものではない。例えば、図10にモデル的に示すように、部分コア40として直線状に延びるものを用いても良いし。更に、部分コア部材および第二のコア部材は、断面がU字形状のものに限定されることも無く、例えばE字形状やI字形状のもの等も好適に採用され得る。加えて、部分コア部材は、第一のコア部材の周方向で必ずしも等間隔を隔てて配設される必要は無く、各部分コア部材の間で、離隔距離が異ならされていても良い。その場合には、部分コア部材に対向せしめられる第二のコア部材は、何れの周方向位置においても少なくとも一つの部分コア部材と対向せしめられるように、複数の部分コア部材の周方向離隔距離の中で最大のものよりも大きな周方向長さに設定される。
また、第一のコア部材と第二のコア部材の配設位置や対向方向は、適宜に変更可能である。図11〜図15に好適な例をモデル的に幾つか示すが、第一のコア部材と第二のコア部材の配設態様が、これらに限定されることを示すものではないことが理解されるべきである。
先ず、図11においては、ディスク32の片面に、互いに径寸法を異ならせた4つの工具側コイルヘッド34が同心軸上に設けられている一方、パッド58に、これら4つの工具側コイルヘッド34と対応する4つの本体側コイルヘッド60が設けられている。このようにすれば、1つのディスク32と1つのパッド58で、4つの伝送路を構成することが出来る。なお、ディスク32の片面にのみ工具側コイルヘッド34を設ける場合には、前記図5に示したパッド58と本体側コイルヘッド60のように、ディスク32の厚さ寸法を工具側コイルヘッド34の高さ寸法(図5中、左右方向寸法)と等しくして、ディスク32の厚さ方向に貫通する貫通孔を形成すると共に、かかる貫通孔に工具側コイルヘッド34を挿入して固定することが好ましい。このようにすれば、部分コア40の開口端面44をディスク32の端面50に容易に揃えることが出来る。
また、図12においては、ディスク32の両面に、それぞれ、互いに径寸法を異ならせた2つの工具側コイルヘッド34が同心軸上に配設されて、合計4つの工具側コイルヘッド34が設けられている一方、一対のパッド58のそれぞれに、ディスク32の片面に設けられた2つの工具側コイルヘッド34と対応する2つの本体側コイルヘッド60が設けられている。そして、これら一対のパッド58とディスク32が、回動軸26の軸方向で所定距離を隔てて対向位置せしめられている。このようにすれば、ディスク32の径寸法をより小さくすることも出来る。
さらに、図13においては、片面に、互いに径寸法を異ならせた2つの工具側コイルヘッド34が同心軸上に設けられたディスク32と、これら2つの工具側コイルヘッド34と対応する2つの本体側コイルヘッド64が設けられたパッド58との組が2組、回動軸26の軸方向に並んで設けられている。更にまた、図14においては、1つの工具側コイルヘッド34を備えたディスク32と、かかる工具側コイルヘッド34に対応するパッド58との組が4組、回動軸26の軸方向に並んで配設されている。これらの構造においても、合計で4つの伝送路を構成することが出来る。
なお、第一のコイルヘッドと第二のコイルヘッドの対向方向は、回動軸の回転中心軸方向のみならず、回動軸の回転中心軸方向に直交する方向等でも良い。例えば、図15におけるディスク32には、回動軸26の軸方向の両面のそれぞれに、工具側コイルヘッド34が1つずつ設けられていると共に、回動軸26の軸方向に直交する方向の端面、要するに、ディスク32の外周面(図15中、上下方向端面)に、更にもう1つの工具側コイルヘッド34が設けられている。かかるディスク32の外周面に設けられる工具側コイルヘッド28の部分コア40は、その開口端面44を回動軸26の軸方向に直交する方向でディスク32の外側に向けて配設されることとなる。
そして、各パッド58のそれぞれに、ディスク32の両面に設けられた工具側コイルヘッド34のそれぞれに対応する本体側コイルヘッド60が設けられており、一対のパッド58が、回動軸26の軸方向で所定距離を隔ててディスク32を挟んで互いに対向位置せしめられている。更に、ディスク32の外周面に設けられる工具側コイルヘッド28に対応する本体側コイルヘッド30を備えたパッド58が、回動軸26の軸方向に直交する方向で所定距離を隔ててディスク32と対向位置せしめられている。なお、回動軸26の軸方向に直交する方向でディスク32と対向位置せしめられるパッド58の本体側コア62は、その開口端面68を回動軸26の軸方向に直交する方向でディスク32に向けた状態で配設されて、開口端面68がディスク32の外周面に設けられた部分コア40の開口端面44に対して回動軸26の軸方向に直交する方向で所定距離を隔てて対向位置せしめられることとなる。これにより、回動軸26の軸方向で対向位置せしめられた一対の工具側コイルヘッド28と本体側コイルヘッド30の組と、回動軸26の軸方向に直交する方向で対向位置せしめられた1つの工具側コイルヘッド28と本体側コイルヘッド30の組によって、合計3つの伝送路が構成されている。なお、ディスク32の外周面に、回動軸26の軸方向で並んで工具側コイルヘッド28を複数設けることも勿論可能である。
また、前記実施形態に示した第二のコア部材としての本体側コア62は、全周に連続することの無い形状とされていたが、第二のコア部材を、全周に亘って連続する環形状とする等しても良い。
更にまた、第一の支持部材は、必ずしも回動軸に連結されている必要は無く、第一の部材に直接固定されていても良い。例えば、前述の実施形態において、ディスク32を、工具側アーム部材22に直接に固定する等しても良い。更には、例えば、第一の部材に回動中心軸と直交する方向に延び出すフランジ状部を一体成形して、かかるフランジ状部を第一の支持部材として用いる等、第一の支持部材を第一の部材に一体形成する等しても良いし、第二の支持部材についても、第二の部材と一体形成することも可能である。
また、本発明に従う可動部のハーネスレス装置を用いて、前記電気信号に代えて、或いは加えて、電力を伝送する等しても良い。例えば、前記実施形態における可動型トランス10においては、工具側コイルユニット28と本体側コイルユニット30の組を2組備えているが、それらの一組を用いて電力の伝送を行なうようにしても良い。このようにすれば、工具側アーム部材22と本体側アーム部材24の間でケーブルを用いること無しに電気信号と電力を伝送することが可能となって、例えば位置センサなどの比較的小さな電力で駆動する機器に対して、信号伝達経路に加えて、電力供給経路を可動型トランス10で構成することが可能となる。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:可動型トランス、22:工具側アーム部材、24:本体側アーム部材、26:回動軸、32:ディスク、36:工具側コア、38:工具側コイル、40:部分コア、44:開口端面、48:軸挿通孔、58:パッド、62:本体側コア、64:本体側コイル、68:開口端面