しかしながら、特許文献1に開示の技術では、隣接する複数の引戸同士が連結されるものの、これら連結された複数の引戸全体の振れについては防止不能である。また、特許文献1の開示技術は、構造が複雑であるため振れ止め機構としてのコストが高価となってしまうのみならず、単一の上吊り式引戸の振れ止めを行うことはできない。
特許文献2に開示の技術も、構造が複雑でありかつ部品点数も多くなるため、振れ止め機構としてのコストが高価となってしまうのみならず、引戸を閉めた際に、この引戸に隣接した位置に壁面や枠体が配置されていない場合は、適用不能であり、設置対象が限定される。即ち、引戸を閉めた際に、周囲に何も存在しない単一の上吊り式引戸の振れ止めを行うことはできない。また、特許文献2の開示技術によると、引戸を閉めて吸着板と磁石とが吸着する際に、大きな衝撃音が発生する可能性がある。
従って本発明の目的は、上吊り式引戸を、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても、振れを防止しつつ開閉位置に固定することができる戸当り及び戸当りを備えた上吊り式引戸装置を提供することにある。
本発明によれば、振止用案内溝を下端に有しておりこの振止用案内溝の一端が木口面に開口している上吊り式引戸のための戸当りが提供される。この戸当りは、戸当りを床面に固着するためのベース部材と、このベース部材を覆うようにベース部材に嵌着されたカバー部材とを備えている。カバー部材が、上吊り式引戸の木口面が当接するための平面状の当接面と、この当接面から突出するようにカバー部材の底部から頂部方向に向かって一体的に形成された凸条部とを備えている。この凸条部は当接面から離れるにつれて狭幅となるように傾斜した側面を備えた台形断面形状を有しており、凸条部が上吊り式引戸の振止用案内溝の開口部内に侵入した際にその傾斜した側面が振止用案内溝の内壁に当接して嵌合するように構成されている。
上吊り式引戸を戸当りに固定する場合は、その木口面に開口している振止用案内溝内に戸当りのカバー部材の凸条部を係入させる。この凸条部は当接面から離れるにつれて狭幅となっているので、その突出先端は細幅となっており、引戸が振れて開口部の中心が凸条部の中心に対してある程度ずれていても嵌合が開始される。嵌合が開始されると、凸条部は、その傾斜した側面が振止用案内溝の内壁に当接しつつ振止用案内溝内に案内され、引戸の木口面が当接面に当接した時点で案内が止まる。その際、凸条部の突出基部が広幅となっているため、凸条部と引戸の開口部とがしっかりと嵌合し、引戸はその厚み方向に振れることなく開閉位置に確実に固定される。このような構成の戸当りを用いることにより、簡易構造であるにもかかわらず、上吊り式引戸を振れなしに開閉位置に確実に固定することができる。しかも、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても使用可能である。
凸条部の突出先端が振止用案内溝の開口部の幅より小さい幅を有しており、凸条部の当接面側の突出基部が開口部の幅にほぼ等しい幅を有していることが好ましい。戸当りのカバー部材の凸条部がこのような幅の台形断面形状を有することにより、上吊り式引戸の振止用案内溝の開口部に戸当りの凸条部が侵入し易くなり、また、侵入した際に、この凸条部の突出基部が振止用案内溝の内壁に当接し、しっかりと嵌合するので、振れ止めが確実に行われる。しかも、引戸がこの戸当りに衝突するときに、開口部端縁が凸条部の傾斜した側面上を摺動するので、衝撃がその部分で吸収されて弱まる。
カバー部材が底面に開口した非貫通穴を有しており、ベース部材がこの非貫通穴に嵌合してカバー部材に固着されることも好ましい。これにより、嵌合するのみでカバー部材とベース部材とが固着されるので、戸当りの取付けが非常に容易となる。
カバー部材の凸条部の頂端が当接面の頂端より下方に位置していることも好ましい。これにより、上吊り式引戸の木口面が、当接面の凸条部の上側に位置する部分にも当接するので、戸当り面積が大きくなる。
カバー部材の当接面と反対側の面が半楕円球形状を有していることも好ましい。このように、カバー部材の反対側の面を滑らかな形状とすることにより、足等がぶつかった際の安全性が高まり、美観も向上する。
カバー部材が衝撃吸収性材料で形成されていることも好ましい。この場合、カバー部材の衝撃吸収性材料の硬度が15〜90であることがより好ましい。このような衝撃吸収性材料で構成することにより、引戸が戸当りに衝突した際の衝撃が緩和される。
当接面の幅に対する凸条部における当接面側の突出基部の幅の比が、1/6〜1の範囲にあることも好ましい。当接面の幅が大きいと引戸の木口面と戸当りとの衝撃が緩和され、凸条部の幅が大きいと振れ止めが効果的に行われる。
凸条部の、頂部側の端部が面取りされていることも好ましい。
本発明によれば、さらに、上吊り式引戸装置は、振止用案内溝を下端に有しており振止用案内溝の一端が木口面に開口している上吊り式引戸と、この上吊り式引戸用の戸当りとを備えている。この戸当りは、この戸当りを床面に固着するためのベース部材と、ベース部材を覆うようにベース部材に嵌着されたカバー部材とを備えている。カバー部材が、上吊り式引戸の木口面が当接するための平面状の当接面と、この当接面から突出するようにカバー部材の底部から頂部方向に向かって一体的に形成された凸条部とを備えている。この凸条部は当接面から離れるにつれて狭幅となるように傾斜した側面を備えた台形断面形状を有しており、凸条部が上吊り式引戸の振止用案内溝の開口部内に侵入した際に傾斜した側面が振止用案内溝の内壁に当接して嵌合するように構成されている。
上吊り式引戸を戸当りに固定する場合は、その木口面に開口している振止用案内溝内に戸当りのカバー部材の凸条部を係入させる。この凸条部は当接面から離れるにつれて狭幅となっているので、その突出先端は細幅となっており、引戸が振れて開口部の中心が凸条部の中心に対してある程度ずれていても嵌合が開始される。嵌合が開始されると、凸条部は、その傾斜した側面が振止用案内溝の内壁に当接しつつ振止用案内溝内に案内され、引戸の木口面が当接面に当接した時点で案内が止まる。その際、凸条部の突出基部が広幅となっているため、凸条部と引戸の開口部とがしっかりと嵌合し、引戸はその厚み方向に振れることなく開閉位置に確実に固定される。このような構成の上吊り式引戸装置によれば、簡易構造の戸当りであるにもかかわらず、上吊り式引戸を振れなしに開閉位置に確実に固定することができる。しかも、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても使用可能である。
戸当りにおける凸条部の突出先端が振止用案内溝の開口部の幅より小さい幅を有しており、凸条部の当接面側の突出基部が開口部の幅にほぼ等しい幅を有していることが好ましい。戸当りのカバー部材の凸条部がこのような幅の台形断面形状を有することにより、上吊り式引戸の振止用案内溝の開口部に戸当りの凸条部が侵入し易くなり、また、侵入した際に、この凸条部の突出基部が振止用案内溝の内壁に当接し、しっかりと嵌合するので、振れ止めが確実に行われる。しかも、引戸がこの戸当りに衝突するときに、開口部端縁が凸条部の傾斜した側面上を摺動するので、衝撃がその部分で吸収されて弱まる。
戸当りにおけるカバー部材が底面に開口した非貫通穴を有しており、ベース部材がこの非貫通穴に嵌合してカバー部材に固着されていることも好ましい。これにより、嵌合するのみでカバー部材とベース部材とが固着されるので、戸当りの取付けが非常に容易となる。
戸当りにおけるカバー部材の凸条部の頂端が当接面の頂端より下方に位置していることも好ましい。これにより、上吊り式引戸の木口面が、当接面の凸条部の上側に位置する部分にも当接するので、戸当り面積が大きくなる。
戸当りにおけるカバー部材の当接面と反対側の面が半楕円球形状を有していることも好ましい。このように、カバー部材の反対側の面を滑らかな形状とすることにより、足等がぶつかった際の安全性が高まり、美観も向上する。
戸当りにおける前記カバー部材が衝撃吸収性材料で形成されていることも好ましい。このような衝撃吸収性材料で構成することにより、引戸が戸当りに衝突した際の衝撃が緩和される。
戸当りにおけるカバー部材の凸条部の、頂部側の端部が面取りされていることも好ましい。
本発明によれば、簡易構造の戸当りであるにもかかわらず、上吊り式引戸を振れなしに開閉位置に確実に固定することができる。しかも、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても使用可能である。
図1は本発明の一実施形態として上吊り式引戸装置の全体の構成を概略的に示す斜視図であり、図2は本実施形態における戸当りの構造を詳細に示す分解斜視図であり、図3は図2に示した戸当りを反転して示す底面図であり、図4は図2の戸当りのI−I線断面図であり、図5は本実施形態における戸当りと引戸との関係を拡大して示す斜視図であり、図6は図5の戸当りを引戸に接近させた状態を説明する平面図であり、図7は引戸が振れた場合の戸当りとの関係を示す側面図であり、図8は図5の戸当りを引戸の振止用案内溝に嵌合させた状態を説明する平面図であり、図9は図8のII−II線断面図である。
以下、これらの図を参照して図1の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における上吊り式引戸装置は、複数の上吊り式引戸10と少なくとも1つの戸当り11とを基本的に備えている。各上吊り式引戸10は図示しないランナーを介して上部レール12に吊り下げられ、この上部レール12に沿って走行するように構成されている。引戸10の下端は、床面13に固定されておらず、自由端となっている。
一方、戸当り11はその底部が床面13に固定されており、引戸10が閉じられた際に、その引戸10の下端に設けられた振止用案内溝10aの木口面10b側の開口部10cに嵌合できるように構成されている。
戸当り11は、図2から分かるように、衝撃吸収性の材料で一体形成されたカバー部材14と、この戸当り11を床面13に固着するためのベース部材15とを備えている。
カバー部材14は、衝撃吸収性材料で一体的に成型して構成されている。衝撃吸収性材料としては、弾性及び柔軟性を有し、印加された力を吸収する性質のある材料であればよく、例えば、軟質プラスチックやゴムなどが用いられる。その硬度としては、15〜90程度であることが望ましい。本実施形態では、カバー部材14として、硬度40の合成ゴムを用いている。カバー部材14をこのような衝撃吸収性材料で構成することにより、引戸10が戸当り11に衝突した際の衝撃が緩和される。
カバー部材14は、引戸10が閉じられた際に、その引戸10の木口面10bの下部が当接するための平面状の当接面14aと、この当接面14aの左右方向(図2のy軸方向、引戸10の厚み方向)の中央部から突出する凸条部14bとを備えている。カバー部材14の当接面14aと反対側の面14cは半楕円球形状となっている。このように、カバー部材14の反対側の面14cを滑らかな形状とすることにより、足等がぶつかった際の安全性が高まり、美観も向上する。
凸条部14bは、引戸10が閉じられた際に、その引戸10の下端に設けられた振止用案内溝10aの木口面10b側の開口部10cに嵌合する部分であり、このカバー部材14の底部から頂部方向(図2のz軸方向、引戸10の高さ方向)に向かって伸長している。ただし、この凸条部14bの頂端14b1は当接面14aの頂端14a1より下方に位置している。これにより、引戸10の木口面10bが当たる当接面14aの面積が増大し、引戸10が衝突した際の衝撃吸収性をより向上できる。
凸条部14bは台形断面形状を有しており、当接面14aから離れるにつれて狭幅となるようにテーパ状に傾斜した側面14b2をその両側に備えている。従って、図2に示すように、凸条部14bの突出先端14b3の幅WT(図2のy軸方向の長さ)は、その当接面14a側の突出基部14b4の幅WB(図2のy軸方向の長さ)より狭くなっている。本実施形態では、両者の幅の比WT/WBが、ほぼWT/WB=1/2となっている。しかしながら、WT/WBが1/3〜2/3であっても良い。
ここで、凸条部14bの突出先端14b3の幅WTが、引戸10の振止用案内溝10aの開口部10cの幅より小さい幅を有しており、凸条部14bの当接面14a側の突出基部14b4の幅WBが開口部10cの幅にほぼ等しい幅を有していることが望ましい。カバー部材14の凸条部14bがこのような幅の台形断面形状を有することにより、引戸10の振止用案内溝10aの開口部10c内に凸条部14bが侵入し易くなり、また、侵入した際に、この凸条部14bの突出基部14b4が振止用案内溝10aの内壁に当接し、しっかりと嵌合するので、振れ止めが確実に行われる。しかも、引戸10が衝突するときに、開口部10cの端縁が凸条部14bの傾斜した側面14b2上を摺動するので、衝撃がその部分で吸収されて弱まる。
また、この凸条部14bの突出基部14b4の幅WBは、当接面14aの幅WS(図2のy軸方向の長さ)以下に設定される。例えば、WB/WSが1/6〜1であることが望ましく、1/3〜1/2がより望ましい。本実施形態では、WB/WS=1/2.4となっている。当接面14aの幅WSが大きいと引戸10と戸当り11との衝撃がより効果的に吸収される。凸条部14bの突出基部14b4の幅WBが大きいと、嵌合時に傾いていても矯正できる傾斜角度が大きくなり、振れ止めが効果的に行われるが、大き過ぎると嵌合自体が難しくなり、当接面14aの面積が小さくなるので、木口面10bと戸当り11との衝突時の衝撃が吸収され難くなる。
一方、戸当り11のベース部材15は、充分な取付け強度を得るために、鋼等の硬い金属材料で形成されている。本実施形態では、ベース部材15は鋼板をプレス成型して形成されている。図2に示すように、このベース部材15は、底板部15aと、この底板部15aから垂直に折曲げられた立板部15bと、立板部15bの側端からそれぞれ垂直に折曲げられた側板部15c及び15dとを備えており、立板部15bには木ネジ16用の3つのネジ止め孔15b1が穿設されている。ベース部材15を床面13に固定するには、これらネジ止め孔15b1を通して木ネジ16を床面13にネジ止めすればよい。
図3に示すように、カバー部材14の底面14dには非貫通穴14eが開口しており、ベース部材15がこの非貫通穴14eに嵌合することによって、カバー部材14がベース部材15に固着するように構成されている。このように、嵌合するのみでカバー部材14とベース部材15とが固着されるので、戸当り11の床面への取付けが非常に容易となる。
より詳細に説明すると、カバー部材14の非貫通穴14e内には、ベース部材15を嵌合した際にその底板部15aを受容する浅い凹部14fと、立板部15bを緊密に受容する立板溝部14gと、側板部15c及び15dをそれぞれ受容する側板溝部14h及び14iとが形成されている。立板溝部14g並びに側板溝部14h及び14iは、カバー部材14を底面側から見た際に略コ字状となる受け溝を構成している。立板溝部14gは、当接面14aと平行に形成されており、ベース部材15の立板部15bの高さ(z軸方向の長さ)と略同じ深さとなっている。この立板溝部14gの最深部14g1の幅、即ち間隙(x軸方向の長さ)は、立板部15bが押し込まれた際にその先端部を把持して固定できる程度に、立板溝部14gの他の部分より若干短くなっている。側板溝部14h及び14iの深さ(z軸方向の長さ)は、立板溝部14gの深さ(z軸方向の長さ)より浅くなっている。また、これら側板溝部14h及び14iの長さ(x軸方向の長さ)は側板部15c及び15dの幅(x軸方向の長さ)にほぼ等しくなっている。浅い凹部14fはベース部材15を嵌合した際にその底板部15a及び木ネジ16を収容する空間を有している。
ベース部材15にカバー部材14を固着するには、立板溝部14gにベース部材15の立板部15bを、側板溝部14h及び14iにベース部材15の側板部15c及び15dをそれぞれ差込んで押し込むことにより、最終的に嵌合が行われる。図4に示すように、立板溝部14gの最深部15g1の間隙が立板部15bの厚みより短いため、立板部15bの上部がカバー部材14の構成材料である合成ゴムの有する弾性によって挟み込まれて把持固定される。また、側板溝部14h及び14iの長さ(x軸方向の長さ)は側板部15c及び15dの幅(x軸方向の長さ)にほぼ等しいため、側板部15c及び15dがカバー部材14の構成材料である合成ゴムの有する弾性によって把持固定される。
本実施形態の戸当り11を床面13に取付けるには、まず、ベース部材15を木ネジ16によって床面13にネジ止めし、そのベース部材15の上からカバー部材14の非貫通穴14eを差込んで押し込むことによって、図4に示すように嵌合させ固着する。
図5に示すように、上吊り式引戸10の下端には、振止用案内溝10aがこの引戸10の開閉方向(図5のx軸方向)に沿った全長に渡って形成されている。この振止用案内溝10aの一端は、引戸10の木口面10bに開口して、開口部10cを構成している。戸当り11のカバー部材14における凸条部14bの高さ(z軸方向の長さ)は、この振止用案内溝10aの深さにほぼ等しくなるように設定されている。なお、図示されていないが、引戸10の厚み方向(y軸方向)の振れを抑止するための振止機構を、隣接する引戸10の振止用案内溝10a間に設けておくことが望ましい。
次に、本実施形態の上吊り式引戸10が戸当り11に固定される動作について説明する。
引戸10を閉じる時、引戸10の木口面10bに開口している振止用案内溝10a内に、床面に固定されている戸当り11のカバー部材14の凸条部14bを係入させる。この凸条部14bは当接面14aから離れるにつれて幅が狭くなるように構成されているので、その突出先端14b3は細い幅となっており、従って、図6の実線で示すように、引戸10がその厚み方向(図5のy軸方向)に振れてその開口部10cの中心10c1が戸当り11の凸条部14bの中心14b5とある程度ずれている場合にも、嵌合が開始される。嵌合が開始されると、凸条部14bは、その傾斜した側面14b2が開口部10cの縁端に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内され、振れによる変位が修正されつつ、引戸10の木口面10bが戸当り11の当接面14aに当接した時点で案内が止まる。この時点においては、戸当り11の引戸10との相対位置が、図6の2点鎖線で示す位置となる。なお、引戸10が振れた場合、実際には、図7に示すように、引戸10は床面と垂直な軸(図5のz軸)に対して、角度α1だけ傾斜することとなる。この場合も、凸条部14bの傾斜した側面14b2と突出先端14b3と頂端14a1との角部が開口部10cの縁端に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内される。
戸当り11における凸条部14bの突出基部14b3が広い幅となっているため、この凸条部14bと引戸10の開口部10cとがしっかりと嵌合し、引戸10はその厚み方向に振れることなく開閉位置に確実に固定される。即ち、引戸10の開口部10cの中心10c1と戸当り11の凸条部14bの中心14b5とが一致して嵌合された状態となる。この状態が図8及び図9に示されている。
図9に示すように、引戸10の振止用案内溝10aの上下方向の深さは戸当り11の凸条部14bの高さにほぼ等しいが、引戸10と床面13との間には隙間dが存在するため、凸条部14bは上下方向に隙間dの余裕をもって振止用案内溝10aと嵌合することとなる。
引戸10を閉める際、多くの場合、引戸10の木口面10bが戸当り11におけるカバー部材14の当接面14aに衝突する。この衝突の際、引戸10の木口面10bと戸当り11の当接面14aとが面同士で当接するため、引戸10の振止用案内溝10aや戸当り11の凸条部14bに無理な力がかかって破損することがなく、当接面14aの広い面積によって力が分散されて緩和される。また、カバー部材14全体が衝撃吸収性の材料で形成されているため、衝突の衝撃を吸収でき衝突音も小さいのみならず、引戸10及び戸当り11双方の破損を防ぐことができる。
さらに、ベース部材15の立板部15bがカバー部材14の当接面14aの背後でこの当接面14aと平行に配置されているため、衝撃が立板部15bの全面に均等に伝わり、ベース部材15の一部に偏って印加されないので、ベース部材15の床面への固着部に損傷が生じることはほとんどない。
また、カバー部材14は、その当接面14aと反対側の背面14cが半楕円球形状を有しているため、当接面14aへの衝撃が曲面状に伝わり均等に逃がされることで衝撃吸収効果がより高まる。さらにまた、カバー部材14が衝撃吸収性材料で形成されていること、及び背面14cが滑らかな形状となっていることにより、引戸以外の物や人との衝突があった際の安全性が高まり、美観も向上する。
以上説明したように、本実施形態によれば、上吊り式引戸10を戸当り11に固定する場合、木口面10bに開口している振止用案内溝10a内に戸当り11のカバー部材14の凸条部14bを係入させるが、この凸条部14bが当接面14aから離れるにつれて狭幅となっているので、その突出先端14b3は細幅となっており、引戸10が振れて開口部10cの中心が凸条部14bの中心とある程度ずれていても嵌合が開始される。嵌合が開始されると、凸条部14bは、その傾斜した側面14b2が振止用案内溝10aの内壁に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内され、引戸10の木口面10bが当接面14aに当接した時点で案内が止まる。凸条部14bの突出基部14b4が広幅となっているため、凸条部14bと引戸10の開口部10cとがしっかりと嵌合し、引戸10はその厚み方向に振れることなく開閉位置に確実に固定される。このような構成の戸当り11を用いることにより、簡易構造であるにもかかわらず、上吊り式引戸10を振れなしに開閉位置に確実に固定することができる。しかも、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても使用可能である。
図10は本発明の他の実施形態における戸当りの構造を詳細に示す斜視図であり、図11は引戸が振れた場合の本実施形態の戸当りと引戸との関係を示す側面図である。本実施形態では、戸当り111のカバー部材114の形状が図1の実施形態の場合と異なっているが、その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。従って、本実施形態において、図1の実施形態の構成要素と同様の構成要素については同一の参照符号を用いて説明を行う。
本実施形態において、戸当り111は、衝撃吸収性の材料で一体形成されたカバー部材114と、この戸当り111を床面に固着するための図示されていないベース部材とを備えている。このベース部材の構造は、図1の実施形態の場合と同様である。
カバー部材114は、衝撃吸収性材料で一体的に成型されている。衝撃吸収性材料としては、弾性及び柔軟性を有し、印加された力を吸収する性質のある材料であればよく、例えば、軟質プラスチックやゴムなどが用いられる。その硬度としては、15〜90程度であることが望ましい。本実施形態では、硬度40の合成ゴムを用いている。カバー部材114をこのような衝撃吸収性材料で構成することにより、引戸10が戸当り111に衝突した際の衝撃が緩和される。
カバー部材114は、引戸10が閉じられた際に、その引戸10の木口面10bの下部が当接するための平面状の当接面114aと、この当接面114aの左右方向(図10のy軸方向、引戸10の厚み方向)の中央部から突出する凸条部114bとを備えている。カバー部材114の当接面114aと反対側の面114cは半楕円球形状となっている。このように、カバー部材114の反対側の面114cを滑らかな形状とすることにより、足等がぶつかった際の安全性が高まり、美観も向上する。
凸条部114bは、引戸10が閉じられた際に、その引戸10の下端に設けられた振止用案内溝10aの木口面10b側の開口部10cに嵌合する部分であり、このカバー部材114の底部から頂部方向(図10のz軸方向、引戸10の高さ方向)に向かって伸長している。ただし、この凸条部114bの頂端114b1は当接面114aの頂端114a1より下方に位置している。これにより、引戸10の木口面10bが当たる当接面114aの面積が増大し、引戸10が衝突した際の衝撃性をより向上できる。
凸条部114bは台形断面形状を有しており、当接面114aから離れるにつれて狭幅となるようにテーパ状に傾斜した側面114b2をその両側に備えている。従って、図10に示すように、凸条部114bの突出先端114b3の幅WT′(図10のy軸方向の長さ)は、その当接面114a側の突出基部114b4の幅WB′(図10のy軸方向の長さ)より狭くなっている。本実施形態では、両者の幅の比WT′/WB′がWT′/WB′=1/2となっている。しかしながら、WT′/WB′が1/3〜2/3であっても良い。
ここで、凸条部114bの下部(図10のz軸負方向)における突出先端114b3の幅WT′が引戸10の振止用案内溝10aの開口部10cの幅より小さい幅を有しており、凸条部114bの当接面114a側の突出基部114b4の幅WB′が開口部10cの幅にほぼ等しい幅を有していることが望ましい。カバー部材114の凸条部114bがこのような幅の台形断面形状を有することにより、引戸10の振止用案内溝10aの開口部10c内に凸条部114bが侵入し易くなり、また、侵入した際に、この凸条部114bの突出基部114b4が振止用案内溝10aの内壁に当接し、しっかりと嵌合するので、振れ止めが確実に行われる。しかも、引戸10が衝突するときに、開口部10cの端縁が凸条部114bの傾斜した側面114b2上を摺動するので、衝撃がその部分で吸収されて弱まる。
また、この凸条部114bの突出基部114b4の幅WB′は、当接面114aの幅WS′(図10のy軸方向の長さ)以下に設定される。例えば、WB′/WS′が1/6〜1であることが望ましく、1/3〜1/2がより望ましい。本実施形態では、WB′/WS′=1/2.4となっている。当接面114aの幅WS′が大きいと引戸10と戸当り111との衝撃がより効果的に吸収される。凸条部114bの突出基部114b4の幅WB′が大きいと、嵌合時に傾いていても矯正できる傾斜角度が大きくなり、振れ止めが効果的に行われるが、大き過ぎると嵌合自体が難しくなり、当接面114aの面積が小さくなるので、木口面10bと戸当り111との衝突時の衝撃が吸収され難くなる。
本実施形態においては、特に、カバー部材114の凸条部114bの上部(図10のz軸正方向)における側面114b2、突出先端114b3及び頂端114b1の角部が面取りされて面取り傾斜部114b5が形成されている。このため、凸条部114bの下部(図10のz軸負方向)における突出先端114b3の幅WT′に対して、凸条部114bの上部(図10のz軸正方向)における突出先端114b3の幅WTS′が狭くなっている。例えば、本実施形態では、WTS′/WT′=1/2となっている。
このように、戸当り111の凸条部114bの上部に面取り傾斜部114b5が設けられ、その幅が狭くなっているため、引戸10が床面13と垂直な軸(図10のz軸)に対して、角度α2と大きく傾斜した場合にも、凸条部114bの面取り傾斜部114b5が開口部10cの縁端に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内され、嵌合を開始できる。また、引戸10の振れがより小さいときでも、凸条部114bの上部が木口面10bにぶつかることがないので、凸条部114bは振止用案内溝10a内にスムーズに侵入し易い。もちろん、面取り傾斜部114b5の面積を大きくし、凸条部114bの上部をより細くすれば、この凸条部114bが振止用案内溝10a内により侵入し易くなる。凸条部114bの上部の幅WTS′が極端に狭くなると、凸条部114bが木口面10bに食込んだり、この部分が引戸以外の人や物に衝突したときも危険のないように、この上部の幅WTS′は、下部の幅WT′に対して、1/2≦WTS′/WT′<1であることが望ましい。また、面取り傾斜部114b5の面積が大き過ぎると、凸条部114bが振止用案内溝10aと嵌合して振り止め作用が弱まるため、面取り傾斜部114b5の上下方向(図10のz軸方向)の長さは凸条部114b全体の長さの1/3未満であることが望ましい。面取り傾斜部114b5の面積が小さくても、傾斜部が平面でなくとも上述した効果は得られ、丸く面取りして形成されていてもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、上吊り式引戸10を戸当り111に固定する場合、木口面10bに開口している振止用案内溝10a内に戸当り111のカバー部材114の凸条部114bを係入させるが、この凸条部114bが当接面114aから離れるにつれて狭幅となっているので、その突出先端114b3は細幅となっており、引戸10が振れて開口部10cの中心が凸条部114bの中心とある程度ずれていても嵌合が開始される。特に、本実施形態では、凸条部114bの上部に面取り傾斜部114b5が設けられ、その部分の幅がより狭くなっているため、引戸10が大きく傾斜した場合にも、凸条部114bの面取り傾斜部114b5が開口部10cの縁端に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内され、嵌合を開始できる。嵌合が開始されると、凸条部114bは、その傾斜した側面114b2が振止用案内溝10aの内壁に当接しつつ振止用案内溝10a内に案内され、引戸10の木口面10bが当接面114aに当接した時点で案内が止まる。凸条部114bの突出基部114b4が広幅となっているため、凸条部114bと引戸10の開口部10cとがしっかりと嵌合し、引戸10はその厚み方向に振れることなく開閉位置に確実に固定される。このような構成の戸当り111を用いることにより、簡易構造であるにもかかわらず、上吊り式引戸10を振れなしに開閉位置に確実に固定することができる。しかも、壁面のない箇所でもまた単一の引戸であっても使用可能である。
前述した実施形態において、振止用案内溝10aの内壁上に衝撃吸収性材料が被着されていてもよい。これにより、引戸10と戸当り111との嵌合の際の衝撃が吸収される。振止用案内溝10aの内壁に被着した衝撃吸収性材料と戸当り111のカバー部材114の衝撃吸収性材料とを、摩擦率の高い衝撃吸収性材料、例えばゴムで構成した場合、当接したカバー部材114及び振止用案内溝10a相互の表面の摩擦力が高まり衝撃吸収効果及び振止め効果をより向上させることができる。
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。