以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るナノファイバー製造システムの構成を概略的に示している。図1に示すナノファイバー製造システム10は、ナノファイバーの製造ラインを構築する。構築された製造ラインにおいて、静電爆発によってナノファイバーの原料液(高分子溶液)からナノファイバーを形成し、形成したナノファイバーをポリエチレン等の樹脂の基材シートSの主面Sa上に電圧(例えば、10〜100kV)が印加された誘引装置(コレクタ)200のコレクタ部材46による静電誘引力によって誘引して堆積させ、それにより基材シートS上に複数のナノファイバーの層を形成し、最終的にナノファイバーシート(複数のナノファイバー層が形成された基材シートS)を作製する。
なお、本明細書で言う「ナノファイバー」は、高分子物質から成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状物質を言う。また、高分子物質としては、ポリフッ化ビニリデン(FVDF)、ポリフッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の石油系ポリマーやバイオポリマーなどの様々な高分子、それらの共重合体や混合物などが適用可能である。ナノファイバーの原料液は、これらの高分子物資を溶媒によって溶解した溶液である。
また、本明細書で言う「複数のナノファイバー層」は、異なる原料液からなるナノファイバーの層が複数あることに限定するわけではない。複数のナノファイバー層が同一の原料液からなるナノファイバーで形成されてもよい。さらに、本発明で言う「複数のナノファイバー層」は、各ナノファイバー層が異なる空間で形成されることにより実現されるものである。
さらに本明細書で言う「上流側」および「下流側」は、基材シートの搬送方向A(図示白抜き矢印方向)に関して上流側および下流側を意味する用語である。
図1に示すナノファイバー製造システム10は、長尺方向(X軸方向)に移動中の基材シートSの主面Saにノズル64によって生成されたナノファイバーをコレクタ200によって静電誘引して堆積させるように構成されている。
具体的には、ナノファイバー製造システム10は、図1に示すように、基材シートSを搬送するための基材シート供給装置20aおよび基材シート回収装置20bと、第1の誘電性ベルト42を基材シートSと平行に走行させる誘電性ベルト駆動装置40(40a、40b)と、基材シートSの主面Sa上にナノファイバー層をそれぞれ形成する2つの(第1および第2の)ナノファイバー形成モジュール60とによって構成されている。
基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bは、基材シートSを水平方向(X軸方向)に且つその主面Saを鉛直方向(Z軸方向)に向けた状態で、誘電性ベルト駆動装置40と2つのナノファイバー形成モジュール60とを通過するように基材シートSを搬送する。具体的には、図1に示すように、ナノファイバー製造システム10において、基材シート供給装置20aが基材シートSの搬送方向Aに関して最上流側に位置し、基材シート回収装置20bが最下流側に位置する。そして、基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bとの間に誘電性ベルト駆動装置40(40a、40b)と2つのナノファイバー形成モジュール60とが位置する。
基材シート供給装置20aは、供給リール22に巻回された基材シートSを、下流側の基材シート回収装置20bに向かって送出する。そのために、基材シート供給装置20aは、供給リール22を回転させるモータ24を有する。
一方、基材シート回収装置20bは、ナノファイバー形成モジュール60によって形成されたナノファイバーの層を備える基材シートSを、回収リール26に巻取って回収する。そのために、基材シート回収装置20bは、回収リール26を回転させるモータ28を有する。
供給リール22を回転させるモータ24と回収リール26を回転させるモータ28は、ナノファイバー層を基材シートSに積層させるナノファイバー形成モジュール60を通過する該基材シートSの搬送速度が一定になるような回転速度で2つのリール22、26が回転するように、ナノファイバー製造システム10の制御装置(図示せず)によって制御される。これにより、基材シートSは、所定のテンションを維持しつつ搬送される。なお、ナノファイバー製造システム10の制御装置は、システムを構成する複数の装置を統括的に制御し、管理するように構成されている。
このように(図1に示すように)、基材シートSを搬送する手段が基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bとして分かれて構成されることにより、ナノファイバー製造システム10の構成の自由度が増加する。例えば、基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bとの間に配置されるナノファイバー形成モジュール60の台数を変更することが可能である。すなわち、基材シートS上に形成するナノファイバー層の数を変更することができる。
誘電性ベルト駆動装置40は、X軸方向に搬送される基材シートSの裏面Sb(主面Saの反対側の面)に密着した状態で第1の誘電性ベルト42を走行させる装置である。誘電性ベルト駆動装置40は、基材シートSの搬送方向Aに関して上流側に位置する上流側誘電性ベルト駆動装置40aと、上流側誘電性ベルト駆動装置40aに対して下流側に位置する下流側誘電性ベルト駆動装置40bとから構成される。このような上流側誘電性ベルト駆動装置40aと下流側誘電性ベルト駆動装置40bとの間には、図1に示すように、例えば、2つのナノファイバー形成モジュール60が配置されている。したがって、誘電性ベルト駆動装置40によって走行される第1の誘電性ベルト42は、2つのナノファイバー形成モジュール60を通過する。
第1の誘電性ベルト42は、基材シートSにナノファイバーを静電誘引するコレクタ200(誘引装置)の一部であって、例えば樹脂などの誘電体から作製されて誘電性を備えるベルトである。第1の誘電性ベルト42は、基材シートSに密着した部分がX軸方向に走行する。
具体的には、第1の誘電性ベルト42の上流側端が、上流側誘電性ベルト駆動装置40aに設けられた回転可能な駆動ロール44によって支持される。一方、第1の誘電性ベルト42の下流側端が、下流側誘電性ベルト駆動装置40bに設けられた回転可能な駆動ロール46によって支持される。これらの駆動ロール44、46は、モータ48、50によって駆動されて回転する。モータ48、50は、同期して2つの駆動ロール44、46が回転するように、ナノファイバー製造システム10の制御装置(図示せず)によって制御される。このような駆動ロール44、46により、第1の誘電性ベルト42は、所定のテンションを維持しつつ基材シートSと密着した部分がX軸方向に走行される。なお、第1の誘電性ベルト42を走行させるモータは、モータ48、50のいずれか一方のみでもよい。
また、上流側誘電性ベルト駆動装置40aは、ナノファイバー層が形成される前の基材シートSの裏面Sbと第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aとを密着させる手段としてスキージ52を有する。このスキージ52は、基材シートSの裏面Sbと第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aとを、気泡を介在させることなく、またしわを発生することなく密着させるためのものである。基材シートSは、第1の誘電性ベルト42に比べて薄くてコシがないため、気泡を介在した状態で、またしわが発生した状態で第1の誘電性ベルト42に密着しやすい。特に、基材シートSと第1の誘電性ベルト42とがともに樹脂である場合、基材シートSと第1の誘電性ベルト42とが帯電状態で接触すると、一方が他方に対してずれることや伸ばすことが困難になり、両方の間の空気が抜け難くなる。このスキージ52によりしわや気泡の問題が解消され、基材シートSと第1の誘電性ベルト42とは互いに密着した状態でナノファイバー形成モジュール60を通過することができる。
なお、基材シートSと該基材シートSと密着する第1の誘電性コレクタベルト42の部分とが同一の速度で基材シートSの搬送方向AであるX軸方向に移動できるように、ナノファイバー製造システム10の制御装置は、基材シートSの搬送速度と第1の誘電性ベルト42の走行速度を同期して制御することが好ましい。基材シートSの搬送速度と第1の誘電性ベルト42の走行速度との間の速度差が大きい場合、速度差によって摩擦が生じ、その摩擦により第1の誘電性ベルト42または基材シートSの少なくとも一方に磨耗や傷が発生する可能性があるからである。
さらに、下流側誘電性ベルト駆動装置40bは、基材シートSの主面Sa上に形成されたナノファイバー層を温風乾燥する乾燥装置54を有する。これにより、ナノファイバーの再液化を抑制するとともに、十分に乾燥したナノファイバー層を備える基材シートSが基材シート回収装置20bの回収リール26に巻回される。
さらにまた、下流側誘電性ベルト駆動装置40bは、基材シートSの裏面Sbと第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aとが離間(剥離)するときに起こりうる剥離帯電の発生を抑制するために、基材シートSを除電する除電装置56を有する。これにより、剥離帯電によって起こりうるスパークの発生を抑制し、スパークによる基材シートS上のナノファイバー層の破壊を防止する。
ナノファイバー形成モジュール60は、図1や側面視部分断面図(X軸方向視)である図2に示すように、ハウジング62と、原料液を吐出する複数のノズル64を備えた電解紡糸ヘッド66と、コレクタ(誘引装置)100の一部である第2の誘電性ベルト67とを有する。なお、図1には2つのナノファイバー形成モジュール60が示されているが、同一の構成であるため、1つのナノファイバー形成モジュール60について説明する。
ナノファイバー形成モジュール60のハウジング62は、静電爆発によって原料液からナノファイバーを形成するためのナノファイバー形成空間68を画定する。また、ハウジング62は、基材シートSとそれに密着する第1の誘電性ベルト42とがナノファイバー形成空間68をX軸方向に通過できるように、基材シートSのナノファイバー形成空間68への入口である開口70を備える。さらに、開口70の近傍(少なくとも上部側)には、ナノファイバー形成空間68内で形成されたナノファイバーが開口70を介して該ナノファイバー形成空間68の外部に漏れないように、ナノファイバーを吸引する吸引ダクト72が設けられる。
なお、2つのナノファイバー形成モジュール60のナノファイバー形成空間68は、それぞれの開口70を介して連絡する。2つのナノファイバー形成モジュール60それぞれの開口70同士は、原料液やナノファイバーが外部に漏れないように弾性体からなる気密シール部材(図示せず)、例えばパッキンによって気密され連絡されている。
ナノファイバー形成モジュール60の電解紡糸ヘッド66のノズル64は、ナノファイバー形成空間68内において、基材シートSに対して所定の距離(例えば、100〜600mm)をあけて、且つ基材シートSを挟んで第1の誘電性ベルト42と対向するように配置される。
また、電解紡糸ヘッド66の複数のノズル64それぞれには、ノズル64が原料液を帯電しつつ吐出できるように、詳細は後述するが電圧制御装置74によって制御された電圧が印加されている。この電圧は、原料液を帯電させる電圧であって、詳細は後述するが第2の誘電性ベルト67に印加された電圧に対して所定の電圧差、すなわち静電爆発が起こり、それにより原料液からナノファイバーを形成できる電圧差(例えば、20〜200kV)になるような電圧である。これにより、ノズル64が原料液を帯電しつつナノファイバー形成空間68内に吐出することができ、吐出された原料液が静電爆発によってナノファイバーに形成される。
ナノファイバー形成モジュール60の第2の誘電性ベルト67は、基材シートSにナノファイバーを静電誘引するコレクタ(誘引装置)200の一部であって、例えば樹脂などの誘電体から作製されて誘電性を備えるベルトである。この第2の誘電性ベルト67は、第1の誘電性ベルト42を挟んで基材シートSと対向するナノファイバー形成空間68内の位置に配置され、第1の誘電性ベルト42の第2の表面42b(第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aの反対側の面)と接触する。
また、第2の誘電性ベルト67は、電圧が印加された状態で且つ第1の誘電性ベルト42の第2の表面42bと接触した部分が基材シートSの搬送方向AであるX軸方向に走行する。具体的には、第2の誘電性ベルト67の両端が、回転可能な電極ロール(すなわち円筒形状の回転可能な電極)76によって支持される。また、第2の誘電性ベルト67を第1の誘電性ベルト42に押し当てて両方のベルト66、42の接触を維持する複数の回転可能な電極ロール78が設けられている。
電極ロール76、78は、電圧制御装置74によって制御された電圧を第2の誘電性ベルト67に、具体的には第1の誘電性ベルト42の第2の表面42bと接する第2の誘電性ベルト67の面と反対側の面に印加するための電極であって、例えば金属などの導電体から作製されている。
電極ロール76、78を介して第2の誘電性ベルト67に電圧が電圧制御装置74によって印加されると、図3に示すように、第1の誘電性ベルト42と第2の誘電性ベルト67の両方に誘電分極が起こる。
例えば、電圧制御装置74によって電極ロール76、78に電圧が印加されると、第2の誘電性ベルト67の電極ロール76、78と接触する側の表面に負極性の電荷Cnが一様に発生する。それとともに、第1の誘電性ベルト42と接触する側の第2の誘電性ベルト67の表面には正極性の電荷Cpが一様に発生する。
第2の誘電性ベルト67が上記のように誘電分極することにより、第1の誘電性ベルト42の第2の表面42bには負極性の電荷Cnが一様に発生する。それとともに、第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aに正極性の電荷Cpが一様に発生する。
基材シートSの裏面Sbと接触する第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aに一様に一極性の電荷Cpが発生することにより、ナノファイバーが、基材シートS上に部分的に集中して堆積することなく、基材シートSの主面Sa上に一様に堆積する。その結果、均一な厚さのナノファイバー層が基材シートSの主面Sa上に形成される。
また、電極ロール76の少なくとも一方は、図1に示すように、モータ82に駆動されて回転し、第2の誘電性ベルト67を走行させる駆動ロールの役割をする。モータ82は、ナノファイバー製造システム10の制御装置(図示せず)によって制御される。
なお、第2の誘電性ベルト67と第1の誘電性ベルト42との互いの接触部分が同一の速度でX軸方向に移動できるように、ナノファイバー製造システム10の制御装置は、第2の誘電性ベルト67の走行速度と第1の誘電性ベルト42の走行速度を同期して制御することが好ましい。第2の誘電性ベルト67の走行速度と第1の誘電性ベルト42の走行速度との間の速度差が大きい場合、速度差によって摩擦が生じ、その摩擦により第2の誘電性ベルト67または第1の誘電性ベルト42の少なくとも一方に磨耗や傷が発生する可能性があるからである。また、第2の誘電性ベルト67と第1の誘電性ベルト42との間に部分的にすきまが生じ(非接触領域が発生し)、その結果として、基材シートSの裏面Sbと接触する第1の誘電性ベルト42の第1の表面42aに一様に電荷が発生しない可能性がある。
また、ナノファイバーの形成中において、第2の誘電性ベルト67と第1の誘電性ベルト42とが静電誘引(吸着)し合うことにより、実質的に第2の誘電性ベルト67が摺動抵抗が増大することなく追従するように第1の誘電性ベルト42とともに走行するのであれば、第2の誘電性ベルト67を走行させるモータ82をナノファイバー形成モジュール60から省略してもよい。
さらに、基材シートSの搬送方向Aに直交する第1の誘電性ベルト42の幅と第2の誘電性ベルト67の幅(Y軸方向長さ)は、第1の誘電性ベルト42の方を大きくすべきである。第2の誘電性ベルト67の幅の方が大きいと、第1の誘電性ベルト42から第2の誘電性ベルト67の一部が露出し、その露出部分にナノファイバーが集中して堆積するからである。同様の理由から、電極ロール76、78のY軸方向長さも、第1の誘電性ベルト42のY軸方向長さに比べて小さくすべきである。
加えて、複数の電極ロール76、78は、ノズル64と該ノズル64から最短距離に位置する基材シートSの部分とを通過する直線C上(ノズル64の直下に相当)に位置しないように配置されている。好ましくは、複数の電極ロール76、78は、直線C対称に配置されている。これにより、ノズル64から吐出された原料液から形成されたナノファイバーが、ノズル64から最短距離に位置する基材シートSの部分に集中して堆積することが抑制される。
図2に示すように、ハウジング62を構成する壁、具体的にはナノファイバー形成空間68を画定する壁の部分が二層構造に構成されている。二層構造の壁の部分は、ナノファイバー形成空間68と隣接する絶縁体層62aと、絶縁体層62aの空間外側に接触した導電体層62bとから構成されている。導電体層62bは、例えばアース線(図示せず)を介して接地されている。本実施形態においては、導電体層62bがハウジング62全体を構成する導電体から作製された壁であって、ナノファイバー形成空間68に隣接する壁の部分に絶縁体層62aが設けられている。
絶縁体層62aは、高電圧が印加された電解紡糸ヘッド66のノズル64からハウジング62への放電を抑制するためのものである。一方、導電体層62bは、ナノファイバー製造システム10(ナノファイバー形成モジュール60)の稼動中、帯電された絶縁体層62aに触れて感電しないようにするためのものである。
具体的に説明すると、ナノファイバー形成モジュール60の稼動中、ナノファイバー形成空間68内において高電圧が使用されているために、絶縁体層62aに誘電分極が起こる。例えば、図4に示すように、絶縁体層62aのナノファイバー形成空間68側に正の電荷Cpが発生し、反対側に負の電荷Cnが発生する。絶縁体層62aの外側(ナノファイバー形成空間68に接する絶縁体層62aの面の反対側の面)に接地状態の導電体層62bが存在しない場合、絶縁体層62aの外側に発生した電荷Cnにより、絶縁体層62aの外側面に触れた作業者が感電する可能性がある。この対処として、絶縁体層62aの外側に、接地された導電体層62bが接触して設けられている。
ハウジング62の壁の一部84(壁構造体)は、着脱可能に構成されている。
壁構造体84は、床面上を転動する複数のキャスタ86を備えた台車部88を下部に有する。そのため、壁構造体84は、図5に示すように、ナノファイバー形成モジュール60から取り外した状態において、自立可能であって且つ走行可能である。台車部88は、電解紡糸ヘッド66を支持する壁構造体84に対して着脱可能に構成されてもよい。これにより、ハウジング62に着脱可能に取り付けられている電解紡糸ヘッド66を台車部88により受け取り、電解紡糸ヘッド66をメンテナンスする構成であってもよい。なお、壁構造体84の形態としては、具体的にはドア、窓等の形態も含まれ、少なくとも電解紡糸ヘッド66等の作業ヘッド(電解紡糸ヘッド66以外の作業ヘッドについては後述する)を支持できる大きさであって、ハウジング62の壁の一部として機能できる形態である。
壁構造体84は、図2や図5に示すように、電解紡糸ヘッド66を支持する。具体的には、壁構造体84に、電解紡糸ヘッド66を昇降する(Z軸方向に移動させる)ヘッド昇降機構(ヘッド移動機構)90が設けられている。このヘッド昇降機構90は、電解紡糸ヘッド66を片持ち状態で支持している。このヘッド昇降機構90により、図5に示すように電解紡糸ヘッド66が昇降され、ノズル64と基材シートSとの間の距離(例えば50〜700mm)が調整される。なお、ヘッド昇降機構90は、電力の供給を受けて電解紡糸ヘッド66を昇降させる構成であってもよく、また人力によって電解紡糸ヘッド66を昇降させる機構であってもよい。さらに、ヘッド昇降機構90に代って、電解紡糸ヘッド66を鉛直方向(Z軸方向)および水平方向(X,Y軸方向)に移動させるヘッド移動機構であってもよい。
例えば、ノズル64に印加する電圧や第2の誘電性ベルト67に電極ロール76、78を介して印加する電圧を制御する電圧制御装置74、ノズル12に原料液を供給するタンクやポンプから構成される原料液供給装置92、ヘッド昇降機構90を駆動するモータ(図示せず)などの電解紡糸ヘッド66(ノズル64)の駆動に関連する電装機器は、ハウジング62の本体65ではなく、図2に示すように壁構造体84に設けられる。なお、本明細書で言う「電装機器」は、電力の供給を受けて作動する機器(例えば、図2に示す電圧制御装置74、原料液供給装置92等)を言う。
また、電解紡糸ヘッド66に関連する電装機器は、全てまたはその一部が、壁構造体84の外側部分(ハウジング62の本体65に壁構造体84を取り付けたときにハウジング62の外側に位置する部分)に取り付けられている。壁構造体84の外側部分に取り付けられた電装機器は、ナノファイバー形成空間68の外部に位置するので、ナノファイバーが付着して汚れることがない。また、それ以外にも、壁構造体84の外側部分に取り付けられた電装機器が、壁構造体84を取り外すことなくメンテナンスや設定変更できるという利点がある。
壁構造体84に設けられている電解紡糸ヘッド66に関連する電装機器は、ナノファイバー形成モジュール60の本体65から電力の供給を受けて作動する。そのために、壁構造体84とナノファイバー形成モジュール60の本体65とを着脱可能に電気的に接続して電力を供給する給電用コネクタ94を、ナノファイバー形成モジュール60は備える。
給電用コネクタ94は、壁構造体84がハウジング62の本体65から取り外されると、壁構造体84とナノファイバー形成モジュール60の本体65との間の電気的接続を解除するように構成されている。そのために、この給電用コネクタ94は、壁構造体84に設けられた端子(給電用壁構造体側端子)94aとナノファイバー形成モジュール60の本体65(ハウジング62の本体65)に設けられた端子(給電用本体側端子)94bとを有する。壁構造体84側の端子94aは、電解紡糸ヘッド66に関連する電装機器に電気的に接続されている。ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子94bは、電源(図示せず)に電気的に接続されている。これらの端子94a,94bは、壁構造体84の着脱方向(Y軸方向)に接触して電気的に接続するように構成されている。なお、給電用コネクタ42の端子94a,94bは、Y軸方向に接触可能であれば、その形状は問わない。
給電用コネクタ94の端子94a,94bがY軸方向に確実に接触するように、着脱時に壁構造体84をY軸方向にガイドするガイド機構をナノファイバー形成モジュール60は有する。具体的には、壁構造体84の台車部88の側面には、ナノファイバー形成モジュール60のハウジング62の本体65の下部に設けられているY軸方向に延びるレール96上を従動する複数のローラ98が取り付けられている。この本体65のレール96と台車部88のローラ98とが、壁構造体84の着脱方向をY方向に規制するガイド機構として機能する。台車部88のローラ98は、本体65のレール96の先端側(壁構造体84の本体65に対して着脱する側)に設けられた傾斜面の案内面96aにより、レール96の上面96b上に案内される。なお、ガイド機構は、壁構造体84の着脱方向をY軸方向に規制できるのであれば、レール96とローラ98とに限らない。例えば、ガイド機構は、壁構造体84の台車部88の側面に形成されたY軸方向に延びる溝に、ナノファイバー形成モジュール60の本体65に設けられたカムフォロアが従動するような構成であってもよい。
なお、ローラ98が接触するレール96の上面96bの床面からの高さ(接触面と床面との間のZ軸方向距離)は、壁構造体84の台車部88のキャスタ86が床面から離れるような高さにされている。これは、壁構造体84のZ軸方向位置を位置決めするためである。
さらに、壁構造体84は、ナノファイバー形成モジュール60の本体65(ハウジング62の本体65)を介して接地するように構成されている。そのために、壁構造体84とナノファイバー形成モジュール60の本体65とを着脱可能に電気的に接地されるように接続するアース用コネクタ100を、ナノファイバー形成モジュール60は備える。このアース用コネクタ100は、壁構造体84を除電した状態でナノファイバー形成モジュール60本体から取り外すために、また電解紡糸ヘッド66に関連する電装機器に基準電位を与えるために設けられている。
アース用コネクタ100は、壁構造体84がナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外されると、壁構造体84とナノファイバー形成モジュール60の本体65との間の電気的に接地される接続を解除するように構成されている。そのために、このアース用コネクタ100は、壁構造体84に設けられた端子(アース用壁構造体側端子)100aとナノファイバー形成モジュール60の本体65に設けられた端子(アース用本体側端子)100bとを有する。アース用コネクタ100の端子100aは、壁構造体84の導電層62bや電解紡糸ヘッド66の駆動に関連する電装機器に電気的に接続されている。一方の端子100bは、アース線(図示せず)を介して接地されている。これらの端子100a,100bは、給電用コネクタ42の端子94a,94bと同様に、壁構造体84の着脱方向(Y軸方向)に接触して電気的に接続するように構成されている。
例えば、アース用コネクタ100の壁構造体84側の端子100aは、図5に示すように、台車部88の正面に設けられたX軸方向に延びるプレート状の1つの端子である。これに対して、ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子100bは、図2に示すように、Y軸方向に延びる片持ち梁形状に構成されており、自由端が壁構造体84側の端子100aと接触する。具体的には、ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子100bは、給電用コネクタ94の端子94aと94bとが接触する前に、壁構造体84側の端子100aと接触するようなY軸方向長さに設計されている。
さらに、ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子100bは、Y軸方向に延びる片持ち梁形状であるために、壁構造体84側の端子100aにY軸方向に押圧されると撓み変形する。これにより、端子100bは、給電用コネクタ94の端子94aと94bとが接触した後も端子100aとの接触を維持できる。
このようなナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子100bによれば、さらに、給電用コネクタ94の端子94aと94bとの接触が解除された後に、端子100bと壁構造体84側の端子100aとの電気的に接地される接触が解除される。
したがって、ナノファイバー形成モジュール60の本体65から壁構造体84への給電用コネクタ100を介する電力供給が開始される前に、壁構造体84はアース用コネクタ100を介して接地される。また、ナノファイバー形成モジュール60の本体65から壁構造体84が取り外されて給電用コネクタ94の端子間94a、94bが離間して、壁構造体84への給電用コネクタ94を介する電力供給が停止した後に、壁構造体84のアース用コネクタ100を介する接地が解除される。これにより、壁構造体84が接地された状態のときにのみ、壁構造体84に対してナノファイバー形成モジュール60の本体65から電力が供給される。また、壁構造体84は、このアース用コネクタ100により除電した状態でナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外される。
なお、アース用コネクタ100の端子(100a、100b)の形状は、これに限らず、ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子100bまたは壁構造体84側の端子100aの少なくとも一方が、壁構造体84の着脱方向(Y軸方向)に伸縮可能であれば、どのような形状でも可能である。例えば、壁構造体84側の端子100aが、着脱方向に圧縮可能なばね形状であってもよい。
電圧制御装置74は、図1に示すように複数のノズル64に印加する電圧(すなわち原料液の帯電電圧)と複数の電極ロール76、78に印加する電圧(すなわち第2の誘電性ベルト67の印加電圧)とを制御する装置であって、図2に示すように壁構造体84に設けられている。
なお、図1には、電圧制御装置74が、複数の電極ロール76、78それぞれに共通の電圧を印加する様子が示されているが、本発明はこれに限らない。電圧制御装置74は、複数の電極ロール76、78それぞれに印加する電圧を別々に制御してもよい。同様に、電圧制御装置74は、複数のノズル64それぞれに印加する電圧を別々に制御してもよいし、それぞれのノズル64に印加する共通の電圧を制御するようにしてもよい。
具体的には、電圧制御装置74は、ノズル64に電圧を出力(印加)するための電源である帯電用(印加用)電源74aと、帯電用電源74aを制御することによって原料液の帯電電圧を設定値に制御する帯電電圧制御部74bと、電極ロール76、78を介して第2の誘電体ベルト67に印加する電圧(コレクタ電圧)を設定値に制御するコレクタ電圧制御部74cと、作業者によって帯電電圧とコレクタ電圧それぞれの設定値が入力される操作パネル74dとを有する。
帯電用電源74aは給電用コネクタ94を介して入力された電圧(例えば100V)を昇圧(例えば600V)してノズル64に出力(印加)するものである。このような帯電用電源74aを使用することにより、給電用コネクタ94を介して高電圧の電力(例えば、600V)をナノファイバー形成モジュール60の本体65から壁構造体84に送電(給電)する必要がなくなり、給電用コネクタ94の端子94aと94bとを接触あるいは離間させる際に高い安全性が得られる。
帯電電圧制御部74bは帯電用電源74aの昇圧を制御することによってノズル64への印加電圧、すなわち原料液の帯電電圧を設定値に制御する。具体的には、帯電電圧制御部74bは、ナノファイバーの形成中、原料液の帯電電圧を作業者によって操作パネル74dを介して入力された帯電電圧の設定値に維持するように、帯電用電源74aからノズル64に出力される電圧を制御する。
コレクタ電圧制御部74cは、ナノファイバー形成モジュール60の本体65に搭載されているコレクタ用電源102の電極76、78への印加電圧(コレクタ電圧)を設定値に制御するように構成されている。そのために、ナノファイバー形成モジュール60は、壁構造体84と本体65とを接続する制御信号用コネクタ104を有する。制御信号用コネクタ104は、コレクタ電圧制御部74cからコレクタ用電源102に制御信号を送信するためのコネクタであって、給電用コネクタ94と同様に、Y軸方向に接触する壁構造体84側の端子104aと、ナノファイバー形成モジュール60の本体65側の端子104bとを有する。
コレクタ電圧制御部74cは、ナノファイバーの形成中、制御信号用コネクタ104を介して、第2の誘電性ベルト67のコレクタ電圧を作業者によって操作パネル74dを介して入力されたコレクタ電圧の設定値に維持するように、コレクタ用電源102の電圧出力を制御する。
なお、制御信号用コネクタ104は、コレクタ電圧制御部74cからコレクタ用電源102に送信される制御信号だけでなく、他の信号を送信するように構成してもよい。例えば、壁構造体84をナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外すときに、給電用コネクタ94を介する本体65から壁構造体84への給電を停止させる信号を送信するようにしてもよい。例えば、操作パネル74dに設けられている給電停止ボタン(図示せず)が作業者によって操作されると、給電用コネクタ94を介する本体65から壁構造体84の給電を停止させる信号が、壁構造体84から制御信号用コネクタ104を介してナノファイバー形成モジュール60の本体65に送信される。
また、電圧制御装置74は、壁構造体84がナノファイバー形成モジュール60の本体65に装備された状態において、それに加えて壁構造体84が本体65から取り外された状態においても、作業者によって帯電電圧の設定値やコレクタ電圧の設定値を確認および変更できるように構成されている。
例えば、電圧制御装置74は、帯電電圧の設定値とコレクタ電圧の設定値とを記憶するメモリ装置(図示せず)と二次電池(図示せず)とを有し、帯電電圧制御部74bとコレクタ電圧制御部74cとがメモリ装置に記憶されているそれぞれの設定値を参照して帯電用電源74aとコレクタ用電源102とを制御するように構成されている。
二次電池(図示せず)は、壁構造体84がナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外された状態において電圧制御装置74を作動させる電源として機能する。また、二次電池は、壁構造体84がナノファイバー形成モジュール60の本体65に装備された状態のときは、給電用コネクタ94を介して充電される。この二次電池により、壁構造体84がナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外された状態において、作業者は、帯電電圧の設定値やコレクタ電圧の設定値を操作パネル74dを介して変更することができる。それに加えて、ナノファイバー形成モジュール60の本体65から取り外された状態の壁構造体84に対して設定されている現在の帯電電圧の設定値やコレクタ電圧の設定値を、作業者は、例えば電圧制御装置74が備えるディスプレイ(図示せず)を介して確認することができる。
ここからは、ナノファイバー製造システム10によるナノファイバーシート(複数のナノファイバー層が形成された基材シートS)の作製方法について説明する。
まず、基材シートSが、基材シート供給装置20aから上流側ベルト駆動装置40aに送られる。上流側ベルト駆動装置40aに送られた基材シートSは、スキージ52によってコレクタベルト42に、気泡を介在することなく、またしわを発生することなく密着される。
コレクタベルト42に密着した状態の基材シートSは、上流側の第1のナノファイバー形成モジュール60のナノファイバー形成室68内に搬送される。第1のナノファイバー形成モジュール60は、ノズル64から原料液を吐出し、ナノファイバーを形成する。形成されたナノファイバーが基材シートS上に一様に堆積し、均一な厚さの第1のナノファイバー層が基材シートS上に形成される。
第1のナノファイバー層が形成された基材シートSは、第1のナノファイバー形成モジュール60から第2(下流側)のナノファイバー形成モジュール60のナノファイバー形成室68内に搬送される。第2のナノファイバー形成モジュール60に搬送された基材シートSは、第1のナノファイバー層上に第2のナノファイバー層を形成される。
第1および第2のナノファイバー層が形成された基材シートSは、下流側ベルト駆動装置40bに搬送され、そこでコレクタベルト42との密着が解除される。
最後に、第1および第2のナノファイバー層が形成された基材シートSは、基材シート回収装置20bによって回収リール26に巻き取られる。
次に、ナノファイバー製造システム10のメンテナンスや設定変更について説明する。
図6は、ナノファイバー製造システム10が構築する一例の製造ラインを概略的に示している。この製造ラインにおいては、上流側のナノファイバー形成モジュール60は、原料液Bを用いてナノファイバーを作製する。一方、下流側のナノファイバー形成モジュール60は、原料液Cを用いてナノファイバーを作製する。また、ナノファイバー製造システム10は、2つの予備の壁構造体84’、84’’を有する。一方の予備の壁構造体84’に支持されている電解紡糸ヘッド66は原料液Cを使用し、他方の予備の壁構造体84’’の電解紡糸ヘッド66は原料液Dを使用する。
例えば、原料液Cを使用する下流側のナノファイバー形成モジュール60において、電解紡糸ヘッド66のメンテナンスを実行する場合を説明する。ここで言う「メンテナンス」は、電解紡糸ヘッド66の修理、交換、定期点検、清掃、原料液Cの補充などが該当する。
この場合、作業者の安全を考慮して、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が停止(一時停止)される。
次に、原料液Cを使用する下流側のナノファイバー形成モジュール60の壁構造体84と、予備の壁構造体84’とが交換される。なお、台車部88によって自立可能であって且つ走行可能であるため、壁構造体84と84’の交換は容易である。
交換終了後、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、誘電性ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が再稼動される。そして、予備の壁構造体84’と交換されて製造ラインから外れた壁構造体84の電解紡糸ヘッド66が製造ライン外でメンテナンスされる。この場合における製造ラインの停止時間は、ほぼ壁構造体84と84’との交換時間である。仮に、電解紡糸ヘッドがナノファイバー形成モジュールに対して固定されている場合、電解紡糸モジュールのメンテナンスが完了するまで、製造ラインは停止する。
また、例えば、下流側ナノファイバー形成モジュール60において、使用する原料液を原料液Cから原料液Dに変更する場合を説明する。
この場合も同様に、作業者の安全を考慮して、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が停止(一時停止)される。
次に、原料液Cを使用する下流側のナノファイバー形成モジュール60の壁構造体84と、予備の壁構造体84’’とが交換される。
交換終了後、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が再稼動される。この場合における製造ラインの停止時間も、ほぼ壁構造体84と84’’との交換時間である。仮に、電解紡糸ヘッドがナノファイバー形成モジュールに対して固定されている場合、電解紡糸ヘッドや原料液供給装置から原料液Cを抜き取り、原料Cを抜き取った後の電解紡糸ヘッドや原料液供給装置を洗浄し、そして、原料液Dを原料液供給装置への充填が完了するまで、製造ラインは停止する。
図7は、ナノファイバー製造システム10が構築するさらに一例の製造ラインを概略的に示している。この製造ラインにおいては、上流側のナノファイバー形成モジュール60は、ノズル64にV1の電圧を印加し、第2の誘電性ベルト67に電極ロール76、78を介してV2の電圧を印加する(帯電電圧がV1、コレクタ電圧がV2)。一方、下流側のナノファイバー形成モジュール60は、ノズル64にV1の電圧を印加し、第2の誘電性ベルト67に電極ロール76、78を介してV2’の電圧を印加する(帯電電圧がV1、コレクタ電圧がV2’)。また、ナノファイバー製造システム10は、予備の壁構造体84’を有する。
例えば、下流側のナノファイバー形成モジュール60において、設定変更を実行する場合を説明する。ここで言う「設定変更」は、具体的には帯電電圧の設定値またはコレクタ電圧の設定値の少なくとも一方を変更することを言う。
この場合、まず、予備の壁構造体84’に対する設定が、作業者によって所望の設定に壁構造体84’の操作パネル74dを介して変更される。例えば、帯電電圧がV1、コレクタ電圧がV2’’に設定される。
次に、作業者の安全を考慮して、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が停止(一時停止)される。
続いて、下流側のナノファイバー形成モジュール60の壁構造体84と、予備の壁構造体84’が交換される。
交換終了後、基材シート供給装置20a、基材シート回収装置20b、誘電性ベルト駆動装置40a,40b、2台のナノファイバー形成モジュール60が再稼動される。この場合における製造ラインの停止時間は、ほぼ壁構造体84と84’との交換時間である。
本実施形態によれば、メンテナンス済みの電解紡糸ヘッド66を支持する壁構造体84または原料液の帯電電圧の設定値を所望の値に変更済みの壁構造体84をナノファイバー形成モジュール60に本体65に装備することができる構成により、ナノファイバー製造システムが構築する製造ラインのメンテナンスや設定変更に伴うライン停止時間を短くすることができ、その結果、製造ラインの生産効率の低下を抑制することができる。
また、基材シート搬送装置である基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bとが基材シートSを複数のナノファイバー形成モジュール60のナノファイバー形成空間68を通過するように搬送する構成により、基材シートSは、精度よく、一定の姿勢で同一高さを通過するように搬送される。これにより、バラツキが小さいナノファイバー層を基材シートSに安定して形成することができる。
以上、一実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されない。
上述の実施形態の場合、ナノファイバー形成モジュールは2台であるが、これに限らない。ナノファイバー製造システムは、少なくとも1台ナノファイバー形成モジュールを有すればよい。
また、例えば、上述の実施形態の場合、基材シートSは長尺状であったが、本発明は矩形状の基材シートSにも適用可能である。この場合、例えば、上述の実施形態を例にして説明すると、基材シート供給装置20aと基材シート回収装置20bがナノファイバー製造システム10から取り除かれる。代りとして、第1の誘電性ベルト42の上流側端に矩形状の基材シートSを載置する装置と、第1の誘電性ベルト42の下流側端でナノファイバー層が形成された基材シートSを回収する装置が配置される。すなわち、第1の誘電性ベルト42が基材シートSの搬送手段として機能する。
さらに、ナノファイバー製造システム10において、基材シートSの搬送方向Aに関して最上流側のナノファイバー形成モジュール60の上流側に、基材シートSに接着剤を塗布する装置(ナノファイバーが接着剤によって基材シートSに固定される場合)を配置してもよい。また、基材シートSの搬送方向Aに関して最下流側のナノファイバー形成モジュール60の下流側に、ナノファイバーを基材シートSに熱圧着する熱圧着装置(基材シートS上のナノファイバーが熱圧着されて該基材シートSに固定される場合)を配置してもよい。
さらにまた、例えば、複数のノズル64を有する電解紡糸ヘッド66を着脱可能に支持するようにドア構造体84のヘッド昇降機構90が構成されてもよい。これに関連して、電解紡糸ヘッド66に代って、例えば、基材シートSにナノファイバーを固定するための接着剤を塗布する接着剤塗布ヘッド、基材シートS上のナノファイバーを該基材シートSに熱圧着する熱圧着ヘッドなどの、ナノファイバーの作製に関連する作業を実行する作業ヘッドを支持できるように壁構造体84(ヘッド昇降機構90)を構成してもよい。
この場合、異なる作業を少なくとも行う作業ヘッドの壁構造体84を有する共用モジュール構成のナノファイバー形成モジュール60を複数台使用することにより、例えば、接着剤塗布ヘッドによって基材シートSに接着剤を塗布する工程と、電解紡糸ヘッド66によってナノファイバーを作製してそのナノファイバーを接着剤が塗布された基材シートS上に集積させる工程と、熱圧着ヘッドによって基材シートS上に集積したナノファイバーを該基材シートSに熱圧着する(接着剤を熱硬化させる)工程とを実行する製造ラインを実現することができる。すなわち、別構成の基材シートSに接着剤を塗布する専用の装置やナノファイバーを基材シートSに熱圧着する専用の装置が必要なくなる。なお、接着剤塗布ヘッドや熱圧着ヘッドも、電解紡糸ヘッド66と同様に、ドア構造体84をナノファイバー形成モジュール60の本体部から取り外すことにより、製造ライン外でメンテナンスすることができる。
加えて、上述の実施形態の場合、ナノファイバー形成モジュール60は1つのナノファイバー形成室68を備えるが、複数備えてもよい。
加えてまた、上述の実施形態の場合、ナノファイバーを基材シートS上に静電誘引するコレクタ部材は第1の誘電性ベルト42であったが、本発明はこれに限らない。例えば、ナノファイバー製造システムは、複数のプレート形状のコレクタ部材と、プレート形状のコレクタ部材を複数のナノファイバー形成モジュールのナノファイバー形成空間を通過するように搬送するコンベアとを有し、プレート形状のコレクタ部材上の基材シートに複数のナノファイバー層を形成してもよい。
さらに加えて、上述の実施形態の場合、ナノファイバーを静電誘引して基材シートS上に堆積させる誘引装置のコレクタ部材(第1の誘電性コレクタベルト42)は、複数のナノファイバー形成モジュール60を通過するように移動するものであったが、本発明はこれに限らない。例えば、各ナノファイバー形成モジュールに、固定のコレクタ部材が設けられてもよい。