JP5317030B2 - 再生絹材料及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、絹溶解液及びそれを用いた新規な再生絹材料の製造方法に関する。詳しくは、天然絹繊維に近い強度と伸びを持ち、生体内での分解が早い絹繊維を得ることができる絹溶解液及びそれを用いた再生絹繊維の製造方法に関する。
絹糸は高い生体親和性を有しており、細くて強く適度な弾性と柔軟性を持ち、糸の滑りがよく、結びやすく解けにくい特性を持っていることから、手術用の縫合糸として用いられる天然繊維である。タンパク質である絹は、生体内での分解性は極めて低く、一般には、抜糸を必要とする非吸収性縫合糸とされている。
一方、抜糸が不要な生体内分解吸収性の再生コラーゲンなどの縫合糸は、強度は絹糸の10分の1で、コシがなく結び難い等の問題がある。
近年、絹の高い生体適合性を利用した様々な再生絹材料が開発され、医療、生化学、食品、化粧料など幅広い分野での利用が期待されている。特に、再生医療のための材料として注目されている。
これら再生絹材料の作製において、家蚕絹フィブロインを溶解する際に臭化リチウム等の中性塩や、銅エチレンジアミン等の錯塩水溶液などの溶媒が頻用されている。しかしながら、これらの溶媒中に長時間置くと絹フィブロイン分子鎖が分解し、再生絹糸が得られたとしても力学物性は極めて低いなどの欠点がある。さらに、透析によって、塩を取り除き絹水溶液とした場合は、再生絹糸は得られないか、得られたとしても力学物性は極めて低い。
これに対し、分子量の低下が起こりにくく、優れた力学特性を有する再生絹材料を得るための溶媒としてヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)が知られており、天然の家蚕絹繊維を一旦臭化リチウム等の塩水溶液に溶解し、透析によって塩を除去した後、流延乾燥して得られた絹フィブロインフィルムをHFIPに溶解させて絹フィブロイン繊維を製造する方法(特許文献1)が報告されている。また、HFIPでは溶解に長時間を要することから、HFIPの代わりにヘキサフロロアセトン(HFA)を用いる方法が報告されている(特許文献2)。
HFIPやHFAを用いて作製された再生絹材料は、天然の絹との同様の性質、強い強度と伸びを持つ点で有用であるが、生分解性は低い。再生絹材料を医療分野、特に再生医療に利用するには、高い生分解性あるいは生分解性を個別の再生医療材料に応じてコントロールできることが望ましい。
生分解性の絹材料としては、絹フィブロインにセルロースなど特定の物質を複合させた生分解性生体高分子材料が知られている(特許文献3)。
しかしながら、生分解速度及び引っ張り強度が十分とはいえず、天然の絹糸と同等の強度を維持したまま、優れた生分解性能を兼ね備えた絹繊維が強く要望されていた。
特表平7−503288号公報 特開2004−68161号公報 特開2004−18757号公報
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、天然絹繊維と同等の強度と伸びを持ち、生体内での分解が早い絹繊維を得ることができる絹溶解液、及びそれを用いた新規な再生絹繊維の製造方法を提供することに関する。
本発明者は、十分な引っ張り強度と生分解能の両方を兼ね備えた再生絹材料について検討したところ、絹フィブロインを一旦塩化カルシウム水溶液に溶解し、塩を除去して得られる絹フィブロインを塩化カルシウムと共に有機溶媒中に溶解してなる絹溶解液を紡糸原液として用いることにより、天然の絹糸と同等の引っ張り強度を有しつつも生分解性に優れる再生絹繊維を得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、絹フィブロインを塩化カルシウム水溶液に溶解し、次いで脱塩して得られる絹フィブロイン溶解物を、塩化カルシウムと共に有機溶媒に溶解してなる絹溶解液を提供するものである。
また、本発明は、上記絹溶解液から紡糸し、必要に応じて延伸することを特徴する生分解性絹繊維の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記方法により製造された再生絹繊維を提供するものである。
本発明によれば、天然絹と同様な性質を有しつつも生分解性に優れる再生絹材料を提供することができる。この再生絹材料の生分解速度は、添加する塩化カルシウム濃度によって調節できる。また、本発明の再生絹繊維は、優れた引っ張り強度を有し、紡出時に繊維径を任意に選択できるので、特に縫合糸、ガーゼ、人工血管などの医療用素材作成に好適である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の絹溶解液を得るには、先ず絹フィブロインを塩化カルシウム水溶液に溶解し、次いで脱塩して絹フィブロイン溶解物を得る。ここで、絹フィブロインとは、家蚕、及びエリ蚕、柞蚕、天蚕などの野蚕の繭層から得た生糸を精練したものである。
精錬方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。例えば100℃に加熱した12w/v%マルセル石鹸、8w/v%炭酸ナトリウム混合水溶液、及び上述した繭層を入れ、操糸後、撹拌しながら120分煮沸し、その後2w/v%炭酸ナトリウム水溶液で10分煮沸、更に100℃に加熱した蒸留水中で洗浄する操作を3回行った後、乾燥してフィブロインを覆う蛋白質(セリシン)や、その他脂肪分などを除去した絹フィブロインを得る。
絹フィブロインの塩化カルシウム水溶液への溶解は、所定の濃度の塩化カルシウム水溶液に絹フィブロインを混合し、25〜70℃程度に加熱して、溶け残りが無くなるまで一定時間振とうすることにより行われる。塩化カルシウム水溶液には、絹フィブロインの溶解力を高める点から、エタノールを混合するのが好ましい。
水溶液中の絹フィブロイン濃度は、通常5〜15w/v%程度であり、塩濃度は、通常200w/v%〜250w/v%程度である。
次いで、得られた絹フィブロイン/塩水溶液を脱塩処理して絹フィブロイン溶解物を得る。この処理により塩が除かれ、純粋な絹フィブロイン溶解物が得られる。脱塩処理の方法としては、特に制限はなく、公知の各種方法、例えば透析法、逆浸透法などを採用することができる。例えば、一般にガラスフィルターなどを用いて減圧濾過し、水溶液中のゴミなどを除去した後、セルロース製の透析膜などを使用して、蒸留水を用いて透析を行う。透析処理は2〜5日程度行うのが好ましい。
脱塩して得られる絹フィブロイン溶解物は、必要に応じて水溶液から水を除去し乾燥物としてもよい。この場合、通常は水溶液をプレートに展開し、水を蒸発させて絹フィブロインのフィルムを作製したり、スプレー乾燥などを行ったりして粉末状とする。また、蒸留水を加えて、例えば絹フィブロイン濃度2w/v%以下の水溶液を調製し、凍結乾燥を行ってスポンジ状(多孔質状)としてもよい。これらのうち、取扱性・保存性の点から、凍結乾燥するのが好ましい。
次いで、上記の様にして得られる絹フィブロイン溶解物を、塩化カルシウムと共に有機溶媒に溶解することにより本発明の絹溶解液が得られる。この場合、絹フィブロイン溶解物と塩化カルシウムは、どちらか一方を先に有機溶媒に溶解した後に他方を溶解してもよく、両者を混合してから溶解してもよい。また、一方が溶解する前に他方を加えてもよい。なかでも、先ず有機溶媒に絹フィブロイン溶解物を溶解した後に塩化カルシウムを添加するのが好ましい。
有機溶媒に溶解する絹フィブロイン濃度は、通常10〜20w/v%程度であり、好ましくは16〜18w/v%である。
また、塩化カルシウムの濃度は、絹溶解液中1〜11w/v%、好ましくは3〜7w/v%である。
ここで用いられる有機溶媒としては、ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフロロアセトン(HFA)が挙げられる。通常、HFAは水和物として安定に存在するため、HFA水和物を用いるのが好ましい。HFIPとHFAはそれぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
このように、絹フィブロインと塩化カルシウムを共存させることにより、この絹溶解液から得られる種々の絹材料に絹本来の特性を維持しつつも、優れた生分解能を付与できる。例えば、後記実施例から明らかなように、従来の生分解性絹再生繊維は一週間で少し分解する程度であったのに対し、本発明の絹繊維は僅か3日でほとんど分解する。また、生分解速度は、絹溶解液中の塩化カルシウム濃度により調節できる。
なお、本発明において「生分解」とは、生体内及び自然界における分解を総称し、絹フィブロインにタンパク分解酵素が作用し、加水分解して低分子化させる反応をいう。タンパク分解酵素としては、例えばプロテアーゼ、コラゲナーゼ、キモトリプシンなどが挙げられる。
本発明の絹溶解液から得られる再生絹材料の形態としては、例えば繊維状、フィルム状、粉末状、ゲル状、スポンジ状(多孔質状)などが挙げられる。
上記の様にして得られる絹溶解液を紡糸原液として絹繊維を紡出することにより、再生絹繊維を製造することができる。
紡糸方法としては、特に制限はなく、従来から公知の各種の方法、例えば、湿式紡糸、乾燥ジエット湿式紡糸、乾式紡糸などを採用することができる。これらの中でも、工程が比較的簡単な湿式紡糸が好ましい。
湿式紡糸法においては、紡糸原液を大量の凝固浴中に直接押し出して紡糸する。凝固浴としては、絹は不溶でHFIP及びHFAを溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等を挙げることができる。これらの中では、絹溶液凝固能が高く、また環境的に安全、廉価である点から、メタノール、エタノールが好ましく、特にメタノールが好ましい。また、吐糸口の径を制御することで、繊維直径の制御が可能であり、直径30μm〜200μmまでの繊維が加工可能である。
絹繊維は、HFIP、HFAを充分に除去するため、凝固浴中に数時間静置した後に、その両端を固定して風乾し未延伸試料を得ることが好ましい。実用的には、凝固浴で未だ濡れている間に冷延伸する。絹繊維の収縮を防止し、引っ張り特性を向上させるため、好ましくは、張力下で乾燥する。得られる絹繊維は、直径約20〜数百μm程度の非常に均一な繊維径を有する延伸再生絹糸となる。
未延伸絹繊維は、必要に応じて延伸することにより実用強度を有する再生絹糸とすることができる。延伸倍率の範囲は、通常2〜4倍であり、2倍以上に延伸することにより破断強度250Mpa以上となり、キトサン、セルロース、また牛乳、ピーナッツ、コーン、大豆などから得られる再生繊維の破断強度(100〜200Mpa)を充分超え、再生繊維として適当である。また、4倍以上の延伸では天然絹繊維を超える強度が得られるが、連続紡糸法では難しく、好ましくは延伸倍率2〜3倍の範囲である。
上記の様にして得られる再生絹繊維は、強度、伸びなどは天然繊維に近く、生分解性が早い、繊維径が任意に選択できる、薬剤付与が可能であるなどの特徴を有しており、縫合糸、ガーゼ、人工血管などの医療用素材作成に好適である。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
参考例1<家蚕絹フィブロイン試料の調製>
平成16年度秋繭(春嶺×鐘月)を、鋏で細かく裁断し(約2mm×10mm程度)、定法により精錬して、フィブロインを覆う蛋白質(セリシン)や、その他脂肪分などを除去して、絹フィブロインを得た。次いで、この絹フィブロインを、塩化カルシウム/エタノール/水溶液(塩化カルシウム:エタノール:蒸留水=モル比1:2:8)に15w/v%となるように溶解した。
この水溶液を、セルロース透析膜(VISKASESELES COAP 製 Seamless Cellulose Tubing,36/32)を用いて、3日間蒸留水で透析を行って塩化カルシウム、エタノールを取り除き、さらに遠心分離にて、とけ残りやゴミなどを除去して家蚕絹フィブロイン水溶液を得た。得られた水溶液に蒸留水を加えて絹フィブロインの濃度を2w/v%以下とした水溶液を調製し、液体窒素を用いて凍結し、1日間凍結乾燥を行い、十分に水分が抜けたサンプルを減圧乾燥下で保存し、絹フィブロイン凍結乾燥サンプル(1)とした。
参考例2<家蚕絹フィブロイン試料の調製>
上記参考例1で用いた塩化カルシウム/エタノール/水溶液(塩化カルシウム:エタノール:蒸留水=モル比1:2:8)を、臭化リチウム/エタノール/水溶液(臭化リチウム:エタノール:蒸留水=モル比1:2:8)に代えた以外は、参考例1と同様にして絹フィブロイン凍結乾燥サンプル(2)を得た。
実施例1及び比較例1<再生絹繊維の作製>
参考例1と2で得た絹フィブロイン凍結乾燥サンプル(1)、(2)各0.8gを、1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製)4.5mLにそれぞれ混合し、1日間室温で攪拌して溶解し、これに塩化カルシウム(和光純薬工業株式会社製)の水溶液(濃度7w/v%)0.5mlをそれぞれ添加して、絹溶解液(1)と(2)を得た。
これらの絹溶解液を紡糸原液としてシリンダーに充填し、0.80mm径のノズルから、シリンジポンプを用いて、100%メタノールの凝固浴中に絹繊維を紡出し、モーターを用いて巻き取り、凝固浴中に3時間以上静置し、これの両端を固定して一晩風乾したものを未延伸試料とした。
未延伸試料を、グラフ紙に両面テープで貼り付け、紙ごと固定及び移動把握具のチャックに挟んで、そのサンプルを温水浴(50℃)中で延伸した。延伸には、手動一軸延伸機(井元製作所製)を用いた。延伸倍率は3倍とし、延伸再生絹糸として、直径50μm程度から100μm程度の延伸再生絹糸を作成した。作成した再生絹糸の繊維径は非常に均一であり、かつ表面形状が滑らかな繊維である。天然繊維では得られない均一な繊維が作成できた。絹溶解液(1)から得たものを再生絹繊維(1)、絹溶解液(2)から得たものを再生絹繊維(2)とし、以下の試験に用いた。
<走査型電子顕微鏡観察>
得られた再生絹糸絹フィブロインの直径、表面構造などについて観察するため、走査型電子顕微鏡観察を行った。測定にはリアルサーフェスビュー顕微鏡VE−7800(keyence社製)用い、カーボンテ−プでサンプルを固定し蒸着無しで測定した。加速電圧は1.3kV、working distannce(WD)は9.5mmで測定した。
<引っ張り破断強度伸度測定>
次に、繊維の引っ張り破断強度伸度測定を行った。繊維断面積は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた繊維直径から算出した。測定はSHIMADZU社製 EZ Graph(最大張力5Nロードセル使用)を用い、試験速度10mm/sで行った。サンプルのずれを防止するため、厚紙で型枠を作成し、そこにサンプルを両面接着テープで固定する事で、測定を行った。また、測定は10点を測定して平均値としてグラフを作成した。
なお、測定は、上記実施例1で用いた塩化カルシウムの水溶液の濃度をそれぞれ代えた以外は実施例1と同様にして作製した再生絹繊維についても行った。
図1に塩化カルシウム添加量に対する、再生絹繊維の力学特性変化を示す。その結果、添加した塩化カルシウムの量が増すにつれて強度が減少するが、添加量が本実験で最も高い11w/v%の場合であっても、175MPaを維持しており、再生医療材料の種類によっては、十分に使用できることが確認された。
<分解性観察>
実施例1及び比較例1で作製した塩化カルシウムを含む再生絹繊維(1)、(2)をそれぞれタンパク分解酵素溶液に浸漬し、0日(浸漬前)、3日とサンプリングを行い、時間経過による繊維分解性観察を行なった。酵素溶液は、水100mlに、Dulbecco’s phsphate bufferd saline(PBS,大日本製薬株式会社)1タブレットを、酵素(ProteaseXIV SIGMA製)濃度が8ユニット/mlになるよう溶解した。同時に絹フィブロイン凍結乾燥サンプル(1)から得た塩化カルシウムを含まない再生絹繊維をネガティブコントロールとした。走査型電子顕微鏡で観察して比較した結果を図2に示す。
上記の観察結果から、塩化カルシウムを含む再生絹繊維(1)の酵素による分解が観察された。再生絹繊維(2)とコントロール繊維は、3日後においても、その表面構造は浸漬前と比較して変化が観察されず、表面は紡糸直後の平滑な形状を保っている一方で、塩化カルシウムを含む再生絹繊維(1)では、繊維表面は凹凸が大きく、分解が速やかに始まっている様子が観察された。
塩化カルシウム添加量に対する、再生絹繊維の力学特性変化を示す図である。 再生絹繊維(1)、(2)及びコントロール繊維をタンパク分解酵素溶液に浸漬した結果を示す電子顕微鏡写真である。

Claims (5)

  1. 絹フィブロインを塩化カルシウム水溶液に溶解し、次いで脱塩して得られる絹フィブロイン溶解物を、絹溶解液中の塩化カルシウムの濃度が1〜11w/v%となるように塩化カルシウムと共にヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)及び/又はヘキサフロロアセトン(HFA)に溶解してなる絹溶解液。
  2. 請求項記載の絹溶解液から紡糸し、必要に応じて延伸することを特徴とする再生絹繊維の製造方法。
  3. 前記紡糸の方法が、絹溶解液を凝固浴中に紡出する湿式紡糸法である請求項記載の製造方法。
  4. 前記凝固浴が、メタノール又はエタノールである請求項記載の製造方法。
  5. 請求項2〜4のいずれか1項記載の方法により製造された再生絹繊維。
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