この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
<装置構成>
図1は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定装置100の概略構成図である。
本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、代表的に、単層または積層構造の被測定物における各層の膜厚を測定することが可能である。特に、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、比較的厚みの大きな層(代表的には、2μm〜1000μm)を含む被測定物の膜厚測定に適している。
具体的には、膜厚測定装置100は、顕微分光式の測定装置であって、被測定物に光を照射し、当該被測定物で反射された反射光の波長分布特性(以下「スペクトル」とも称す。)に基づいて、被測定物を構成する各層の膜厚を測定可能である。なお、膜厚測定に限られず、各層における(絶対および相対)反射率の測定や層構造の解析も可能である。なお、反射光のスペクトルに代えて、被測定物を透過した光のスペクトル(透過光のスペクトル)を用いてもよい。
本明細書では、被測定物として、基板単体もしくは基板上に1つ以上の層が形成されたものを対象とする場合について例示する。被測定物の具体的な一例としては、Si基板、ガラス基板、サファイア基板などの比較的厚みのある基板単体や、SOI(Silicon on Insulator)基板のような積層構造の基板などである。特に、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、切削また研磨後のSi基板の膜厚、SOI基板のSi層(活性層)の膜厚、化学機械研磨(CMP)工程でのSi基板の膜厚などの測定に適している。
図1を参照して、膜厚測定装置100は、測定用光源10と、コリメートレンズ12と、カットフィルタ14と、結像レンズ16,36と、絞り部18と、ビームスプリッタ20,30と、観察用光源22と、光ファイバ24と、出射部26と、ピンホールミラー32と、軸変換ミラー34と、観察用カメラ38と、表示部39と、対物レンズ40とステージ50と、可動機構51と、分光測定部60と、データ処理部70とを備える。
測定用光源10は、被測定物の反射率スペクトルを取得するために、所定の波長範囲をもつ測定光を発生する光源であり、特に赤外帯域に波長成分(たとえば、900nm〜1600nm、または1470nm〜1600nm)を有する光源が用いられる。測定用光源10としては、代表的にハロゲンランプが用いられる。
コリメートレンズ12と、カットフィルタ14と、結像レンズ16と、絞り部18とは、測定用光源10とビームスプリッタ30とを結ぶ光軸AX2上に配置され、測定用光源10から出射される測定光を光学的に調整する。
具体的には、コリメートレンズ12は、測定用光源10からの測定光が最初に入射する光学部品であり、拡散光線として伝播する測定光を屈折させて平行光線に変換する。コリメートレンズ12を通過した測定光はカットフィルタ14に入射する。カットフィルタ14は、測定光に含まれる不要な波長成分を遮断する。代表的に、カットフィルタ14は、ガラス基板などに蒸着された多層膜によって形成される。結像レンズ16は、測定光のビーム径を調整するために、カットフィルタ14を通過した測定光を平行光線から収束光線に変換する。結像レンズ16を通過した測定光は絞り部18に入射する。絞り部18は、測定光の光量を所定量に調整した上でビームスプリッタ30へ出射する。好ましくは、絞り部18は、結像レンズ16によって変換された測定光の結像位置に配置される。なお、絞り部18の絞り量は、被測定物に入射する測定光の被写界深度や必要な光強度などに応じて適宜設定される。
一方、観察用光源22は、被測定物への焦点合わせや測定位置の確認に使用される観察光を生成する光源である。そして、観察用光源22が発生する観察光は、被測定物で反射可能な波長を含むように選択される。観察用光源22は、光ファイバ24を介して出射部26と接続されており、観察用光源22で生成された観察光は、光導波路である光ファイバ24を伝播した後に出射部26からビームスプリッタ20へ向けて出射される。
出射部26は、被測定物に所定の観察基準像が投射されるように、観察用光源22で生成された観察光の一部をマスクするマスク部26aを含む。この観察基準像は、その表面に何らの模様(パターン)も形成されていない被測定物(代表的に、透明なガラス基板など)に対しても、ユーザによる焦点合わせを容易化するためのものである。なお、レチクル像の形状はいずれであってもよいが、一例として同心円状や十字状のパターンなどを用いることができる。
すなわち、観察用光源22で生成された直後の観察光のビーム断面における光強度(光量)は略均一であるが、マスク部26aがこの観察光の一部をマスク(遮蔽)することで、観察光は、そのビーム断面において光強度が略ゼロである領域(影領域)が形成される。この影領域が観察基準像として被測定物に投射される。
ステージ50は、被測定物を配置するための試料台であり、その配置面は平坦に形成される。このステージ50は、一例として機械的に連結された可動機構51によって、3方向(X方向・Y方向・Z方向)に自在に駆動される。可動機構51は、代表的に3軸分のサーボモータと、各サーボモータを駆動するためのサーボドライバとを含んで構成される。そして、可動機構51は、ユーザまたは図示しない制御装置などからのステージ位置指令に応答してステージ50を駆動する。このステージ50の駆動によって、被測定物と後述する対物レンズ40との間の位置関係が変更される。
対物レンズ40と、ビームスプリッタ20と、ビームスプリッタ30と、ピンホールミラー32とは、ステージ50の平坦面に垂直な方向に延伸する光軸AX1上に配置される。
ビームスプリッタ30は、測定用光源10で生成される測定光を反射することで、その伝播方向を光軸AX1の紙面下向きに変換する。また、ビームスプリッタ30は、光軸AX1を紙面上向きに伝播する被測定物からの反射光を透過させる。
一方、ビームスプリッタ20は、観察用光源22で生成される観察光を反射することで、その伝播方向を光軸AX1の紙面下向きに変換する。同時に、ビームスプリッタ20は、光軸AX1を紙面下向きに伝播するビームスプリッタ30で反射された測定光を透過させる。すなわち、ビームスプリッタ20は、測定用光源10から集光光学系である対物レンズ40までの光学経路上の所定位置において観察光を注入する光注入部として機能する。このビームスプリッタ20で合成された測定光と観察光とは、対物レンズ40に入射する。また、ビームスプリッタ20は、光軸AX1を紙面上向きに伝播する被測定物からの反射光を透過させる。
特に、測定光は赤外帯域の波長成分を含み、観察光は可視帯域の波長成分を含むので、ビームスプリッタ20および30は、いずれもその透過/反射特性が可視帯域から赤外帯域まで所望の値を維持できるものが採用される。
対物レンズ40は、光軸AX1を紙面下向きに伝播する測定光および観察光を集光するための集光光学系である。すなわち、対物レンズ40は、被測定物またはその近接した位置で結像するように測定光および観察光を収束させる。また、対物レンズ40は、所定の倍率(たとえば、10倍,20倍,30倍,40倍など)を有する拡大レンズであり、被測定物の光学特性を測定する領域を対物レンズ40に入射する光のビーム断面に比較してより微小化できる。
また、対物レンズ40から被測定物に入射した測定光および観察光は、被測定物で反射され、光軸AX1上を紙面上向きに伝播する。この反射光は、対物レンズ40に透過した後、ビームスプリッタ20および30を透過してピンホールミラー32まで到達する。
ピンホールミラー32は、被測定物で生じる反射光のうち、測定反射光と観察反射光とを分離する光分離部として機能する。具体的には、ピンホールミラー32は、光軸AX1を紙面上向きに伝播する被測定物からの反射光を反射する反射面を含み、その反射面と光軸AX1との交点を中心とする穴あき部(ピンホール)32aが形成されている。このピンホール32aの大きさは、測定用光源10からの測定光が被測定物で反射されて生じる測定反射光の、ピンホールミラー32の位置におけるビーム径に比較して小さくなるように形成される。また、このピンホール32aは、それぞれ測定光および観察光が被測定物で反射されて生じる測定反射光および観察反射光の結像位置と一致するように配置される。このような構成によって、被測定物で生じた反射光は、ピンホール32aを通過して分光測定部60に入射する。一方、反射光の残部は、その伝播方向を変換されて軸変換ミラー34へ入射する。
分光測定部60は、ピンホールミラー32を通過した測定反射光から反射率スペクトルを測定し、その測定結果をデータ処理部70へ出力する。より詳細には、分光測定部60は、回折格子(グレーティング)62と、検出部64と、カットフィルタ66と、シャッタ68とを含む。
カットフィルタ66と、シャッタ68と、回折格子62とは、光軸AX1上に配置される。カットフィルタ66は、ピンホールを通過して分光測定部60に入射する測定反射光に含まれる測定範囲外の波長成分を制限するための光学フィルタであり、特に測定範囲外の波長成分を遮断する。シャッタ68は、検出部64をリセットするときなどに、検出部64に入射する光を遮断するために使用される。シャッタ68は、代表的に電磁力によって駆動する機械式のシャッタからなる。
回折格子62は、入射する測定反射光を分光した上で、各分光波を検出部64へ導く。具体的には、回折格子62は、反射型の回折格子であり、所定の波長間隔毎の回折波が対応する各方向に反射するように構成される。このような構成を有する回折格子62に測定反射波が入射すると、含まれる各波長成分は対応する方向に反射されて、検出部64の所定の検出領域に入射する。なお、この波長間隔が分光測定部60における波長分解能に相当する。回折格子62は、代表的にフラットフォーカス型球面グレーティングからなる。
検出部64は、被測定物の反射率スペクトルを測定するために、回折格子62で分光された測定反射光に含まれる各波長成分の光強度に応じた電気信号を出力する。検出部64は、赤外帯域に感度をもつInGaAsアレイなどからなる。
データ処理部70は、検出部64によって取得された反射率スペクトルに対して、本発明に係る特徴的な処理を行うことで、被測定物を構成する各層の膜厚を測定する。さらに、データ処理部70は、被測定物の各層の反射率や層構造の解析も可能である。なお、このような処理の詳細については後述する。そして、データ処理部70は、測定した被測定物の膜厚をはじめとする光学特性を出力する。
一方、ピンホールミラー32で反射された観測反射光は光軸AX3に沿って伝播し、軸変換ミラー34へ入射する。軸変換ミラー34は、観測反射光の伝播方向を光軸AX3から光軸AX4に変換する。すると、観測反射光は、光軸AX4に沿って伝播し、観察用カメラ38へ入射する。
観察用カメラ38は、観察反射光によって得られる反射像を取得する撮像部であり、代表的にはCCD(Charged Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどからなる。なお、観察用カメラ38は、代表的に可視帯域に感度をもつものであり、所定の測定範囲に感度をもつ検出部64とは異なる感度特性をもつ場合が多い。そして、観察用カメラ38は、観察反射光によって得られる反射像に応じた映像信号を表示部39へ出力する。表示部39は、観察用カメラ38からの映像信号に基づいて反射像を画面上に表示する。ユーザは、この表示部39に表示される反射像を目視して、被測定物に対する焦点合わせや測定位置の確認などを行う。表示部39は、代表的に液晶ディスプレイ(LCD)などからなる。なお、観察用カメラ38および表示部39に代えて、ユーザが反射像を直接的に目視できるファインダーを設けてもよい。
<反射光の解析的検討>
まず、被測定物に測定光を照射した場合に観測される反射光について、数学的および物理的に検討を行う。
図2は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定装置100が測定対象とする被測定物OBJの断面模式図の一例である。
図2を参照して、被測定物OBJの代表例としてSOI基板を考える。すなわち、被測定物OBJは、Si層1とベースSi層3(基板層)との間にSiO2層2(BOX層)が配置された3層構造を有する。そして、膜厚測定装置100からの照射光は、紙面上側から被測定物OBJに入射するものとする。すなわち、測定光は、最初にSi層1へ入射するものとする。
理解を容易にするために、被測定物OBJに入射した測定光がSi層1とSiO2層2との界面で反射して生じる反射光について考える。以下の説明では、添え字iを用いて各層を表現する。すなわち、空気や真空などの雰囲気層を添え字「0」、被測定物OBJのSi層1を添え字「1」、SiO2層2を添え字「2」とする。また、各層における屈折率を添え字iを用いて、屈折率niと表す。
互いに異なる屈折率niをもつ層の界面では光の反射が生じるため、屈折率の異なるi層とi+1層との間の各境界面でのP偏光成分およびS偏光成分の振幅反射率(Fresnel係数)r(P) i,i+1,r(S) i,i+1は次のように表わすことができる。
ここで、φiは、i層における入射角である。この入射角φiは、以下のようなSnellの法則によって、最上層の雰囲気層(0層)における入射角から計算できる。
N0sinφ0=Nisinφi
光が干渉可能な膜厚をもつ層内では、上式で表される反射率で反射する光が層内を何度も往復する。そのため、隣接する層との界面で直接反射した光と層内を多重反射した後の光との間ではその光路長が異なるため、位相が互いに異なったものとなり、Si層1の表面において光の干渉が生じる。このような、各層内における光の干渉効果を示すために、i層の層内における光の位相角βiを導入すると、以下のように表わすことができる。
ここで、diはi層の膜厚を示し、λは入射光の波長を示す。
より単純化するために、被測定物OBJに対して垂直に光が照射される場合、すなわち入射角φi=0とすると、P偏光とS偏光との区別はなくなり、各層間の界面における振幅反射率および薄膜の位相角β1は以下のようになる。
さらに、図2に示す3層系の被測定物OBJにおける反射率Rは、以下のようになる。
上式において、位相角β1についての周波数変換(フーリエ変換)を考えると、位相因子(Phase Factor)であるcos2β1は反射率Rに対して非線形となる。そこで、この位相因子cos2β1について線形性を有する関数への変換を行う。一例として、この反射率Rを以下の式のように変換し、独自の変数である「波数変換反射率」R’を定義する。
この波数変換反射率R’は、位相因子cos2β1についての1次式となり、線形性を有することになる。ここで、式中のRaは波数変換反射率R’における切片であり、Rbは波数変換反射率R’における傾きである。すなわち、この波数変換反射率R’は、各波長における反射率Rの値を周波数変換に係る位相因子cos2β1に対して線形化するための関数である。なお、このような位相因子について線形化するための関数としては、1/(1−R)という関数を用いてもよい。
したがって、対象とするSi層1内の波数K1は以下のように定義できる。
ここで、Si層1内での波長λの光速度をsとし、真空中の波長λの光速度をcとすると、屈折率n1=c/sで表される。また、Si層1内をx方向に進行する光によって生じる電磁波E(x,t)は、波数K1,角周波数ω,位相δを用いて、E(x,t)=E0exp[j(ωt−K1x+δ)]と表される。すなわち、Si層1内の電磁波の伝搬特性は波数K1に依存する。これらの関係から、真空中において波長λをもつ光は、層内ではその光速度が低下するため、波長もλからλ/n1まで長くなることがわかる。このような波長分散現象を考慮して、波数変換反射率R’を以下のように定義する。
この関係から、波数変換反射率R’を波数Kについて周波数変換(フーリエ変換)すると、膜厚d1に相当する周期成分にピークが現れることにより、このピーク位置を特定することで、膜厚d1を算出することができる。
すなわち、被測定物OBJから測定される反射率スペクトルと各波長における反射率との対応関係を、各波長から算出される波数と上述の関係式に従って算出される波数変換反射率R’との対応関係(波数分布特性)に変換し、この波数Kを含む波数変換反射率R’の関数を波数Kについて周波数変換し、この周波数変換後の特性に現れるピークに基づいて、被測定物OBJを構成するSi層1の膜厚を算出できる。これは、波数分布特性に含まれる各波数成分の振幅値を取得し、このうち振幅値の大きな波数成分に基づいて、Si層1の膜厚を算出することを意味する。なお、後述するように、波数分布特性から振幅値の大きな波数成分を解析する方法としては、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)などの離散的なフーリエ変換を用いる方法と、最大エントロピー法(Maximum Entropy Method;以下、「MEM」とも称す。)などの最適化法を用いる方法とのいずれかを採用することができる。
波数変換反射率R’の定義において、RaおよびRbは、層内における干渉現象とは無関係な値ではあるが、Si層1の屈折率n1を含む各層間の界面における振幅反射率に依存する。そのため、屈折率n1が波長分散をもつ場合には、その値は波長(すなわち、波数K)に依存する関数値となり、波数Kに関して一定値とはならない。そこで、フーリエ変換を⊃で表し、R’,Ra,Rb,cos2K1d1を波数Kでフーリエ変換した後の関数であるパワースペクトルをそれぞれP,Pa,Pb,Fとすると、以下の式が成立する。
式中のPaにおける膜厚に依存する成分は相対的に小さく、かつパワースペクトルFとは独立のピークをもつので、パワースペクトルFに影響を与えない。
一方、式中のPbは、パワースペクトルFとコンボリューションされることにより、Pbにおける膜厚成分がパワースペクトルFの膜厚成分に変調を加えることになる。しかしながら、Pbは、層内における干渉現象に無関係であり、隣接する2つの層における屈折率の波長依存性のみに影響を受けるため、波数Kに対するPbの膜厚成分はFの膜厚成分に比較して無視できる程度に小さい。たとえば、Rbが膜厚qの周期関数であるとし、そのフーリエ変換後のPbがコンボリューションによりパワースペクトルFの膜厚成分dに変調を加えたとすると、スペクトルとして現れるピークは、「d−q」または「d+q」となるが、qの値が非常に小さいのでピーク位置dに対する影響は小さい。
さらに、フーリエ変換を行う際には、後述するように、測定対象の層の最大膜厚を考慮して、ナイキストのサンプリング定理に従って、波数変換反射率R’に対して適切なサンプル間隔およびサンプル数でサンプリングが行なわれる。このようにサンプリングされた波数変換反射率R’に基づいて算出されたパワースペクトルの膜厚分解能rに対して、Pbの膜厚成分qはより小さい可能性が高く(q<r)、膜厚dの測定結果にはほとんど影響を与えないといえる。
このように、算出された反射率スペクトルを、薄膜における波長分散を考慮した波数についての関数に変換した上で、フーリエ変換を行うことにより、薄膜の膜厚を正確に算出することができる。
なお、上述の説明では、反射率スペクトルを用いる場合について例示したが、透過率スペクトルを用いてもよい。この場合には、測定された透過率をT、「波数変換透過率」をT’とすると、以下のような関係式で表される。
透過率スペクトルを用いる場合においても、透過率Tは位相因子cos2β1に対して非線形となる。そのため、上述したのと同様の理由から、位相因子cos2β1について線形性を有する波数変換透過率T’を採用する。上式によれば、波数変換透過率T’は、位相因子cos2β1についての1次式となり、上述したのと同様の手順に従って、薄膜の膜厚を正確に算出することができる。すなわち、この波数変換透過率T’は、各波長における透過率Tの値を周波数変換に係る位相因子cos2β1に対して線形化するための関数である。
再度、図2を参照して、SiO2層2とベースSi層3との界面で反射して生じる反射光について考える。Si層1の屈折率をn1、膜厚をd1とし、SiO2層2の屈折率をn2、膜厚をd2とすると、波数変換反射率R’は以下のように表される。
ここで、Si層1の膜厚d1およびSiO2層2の膜厚d2を分離して算出する場合には、波数K1,K2でそれぞれ変換した波数変換反射率R1’(K1),R2’(K2)を用いる。具体的には、以下のように表される。
これらの式中において、d1’およびd2’は正しい膜厚ではないが、波数変換反射率R1’(K1)の第2項に相当するパワースペクトル中のピークから本来の膜厚d1を求めることができ、かつ波数変換反射率R2’(K2)の第3項に相当するパワースペクトル中のピークから本来の膜厚d2を求めることができる。
なお、実際には、Si層1およびSiO2層2は、その屈折率が近似しており、両者の界面における反射率は、他の界面における反射率に比較して相対的に小さくなることが多い。その結果、波数変換反射率の関数に含まれるRbやRdに比較して、Rcの値が小さくなり、パワースペクトルから、波数変換反射率R2’(K2)の第3項に相当するピークを識別することが困難である場合も多い。このような場合には、波数変換反射率R2’(K2)の第4項に相当するパワースペクトルのピーク位置(d1’+d2)と、波数変換反射率R2’(K2)の第2項に相当するパワースペクトルのピーク位置(d1’)とを算出した上で、両者の差をとることで、膜厚d2を算出することができる。
<波長範囲および波長分解能について>
図3は、本実施の形態に従う膜厚測定装置100を用いてSOI基板を測定した場合の測定結果を示す図である。なお、図3には、測定光として、波長範囲が900〜1600nmであるものを用いた場合(図3(a))、および波長範囲が1340〜1600nmであるものを用いた場合(図3(b))の測定例を示す。なお、測定波長に応じて回折格子62を適切な特性を有するものを選択し、反射光が入射する検出部64(図1)での検出ポイント数(検出チャンネル数)はいずれも同一(たとえば、512チャンネル)であるとした。言い換えれば、波長範囲が狭いほど、検出ポイントあたりの波長間隔(すなわち、波長分解能)は小さくなる。
上述の解析的検討によれば、測定される反射率は、波長に対して周期的に変化するはずである。
図3(a)に示す測定結果においては、反射率が波長に対して周期的に変化している兆候は見られるものの、膜厚を測定するには十分な精度は得られていない。
これに対して、図3(b)に示す測定結果においては、反射率のピークおよびバレイが明りょうに現れており、反射率の変化周期についても測定が可能となっている。図3(c)は、図3(b)に示される測定結果(反射率スペクトル)を上述した波数変換反射率R’の関数に変換した上で、波数Kについて周波数変換した結果を示す。この図3(c)に現れる主ピークに対応する値がSi層1の膜厚として決定できる。
さらに、図4および図5には、SOI基板の別の測定結果を示す。
図4は、本実施の形態に従う膜厚測定装置100を用いてSOI基板を測定した別の測定結果を示す図である。図4には、Si層1の膜厚が10.0μm(設計値)であり、SiO2層2の膜厚が0.3μm(設計値)である場合の測定例を示す。また、図4(a)には、可視帯域(330〜1100nm)の波長成分をもつ測定光を用いた場合を示し、図4(b)には、赤外帯域(900〜1600nm)の波長成分をもつ測定光を用いた場合を示す。なお、上述したように、検出部64(図1)での検出ポイント数(検出チャンネル数)はいずれも同一である。
図4(a)に示すように、可視帯域の波長成分をもつ測定光を用いた場合には、約860nmより長い波長領域では、反射率が周期的な挙動を示すものの、それより短い可視帯域では、有意な周期的変化を生じていないことがわかる。これに対して、図4(b)に示すように、赤外帯域の波長成分をもつ測定光を用いた場合には、反射率の周期的変化が有意に現れていることがわかる。
また、図5は、本実施の形態に従う膜厚測定装置100を用いてSOI基板を測定したさらに別の測定結果を示す図である。図5には、Si層1の膜厚が80.0μm(設計値)であり、SiO2層2の膜厚が0.1μm(設計値)である場合の測定例を示す。また、図5(a)には、赤外帯域(900〜1600nm)の波長成分をもつ測定光を用いた場合を示し、図5(b)には、より狭い赤外帯域(1470〜1600nm)の波長成分をもつ測定光を用いた場合を示す。なお、上述したように、検出部64(図1)での検出ポイント数(検出チャンネル数)はいずれも同一である。
図5(a)に示すように、赤外帯域の波長成分をもつ測定光を用いた場合であっても、測定された反射率には有意な周期的変化が現れていないことがわかる。これに対して、図5(b)に示すように、より狭い赤外帯域の波長成分をもつ測定光を用いた場合には、反射率の周期的変化が有意に現れていることがわかる。
以上の測定例によれば、比較的厚みのある層の膜厚を高い精度で測定するためには、測定光の波長範囲および波長分解能を適切に設定する必要があるといえる。これは、層内での光干渉現象を利用する測定方法であること、および検出部64による反射光の波長分解能が有限であることに起因するものであり、以下に説明するような手順によって、適切な測定光の波長を設定することが好ましい。
以下の検討では、膜厚測定範囲の下限値をdminとし、膜厚測定範囲の上限値をdmaxとする。また、検出部64の波長検出の下限値をλminとし、検出部64の波長検出の上限値をλmaxとする。なお、測定用光源10(図1)が照射する測定光の波長範囲は、検出部64の波長検出範囲を含むものであれば、いずれの範囲であってもよい。さらに、検出部64(図1)での検出ポイント数(検出チャンネル数)をSpとする。
図6は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定範囲と検出部64の検出波長範囲および検出ポイント数との関係を説明するための図である。
(1)膜厚測定範囲の下限値dminと検出波長範囲との関係
上述した膜厚の測定方法によれば、対象の被測定物内で光干渉を生じる波長を見つける必要があるので、検出部64が光干渉を生じ得る波長範囲をもつ必要がある。すなわち、図6(a)に示すように、被測定物に対して測定される反射率波形が検出部64の検出波長範囲において1周期以上変化する必要がある。
これは、検出部64の検出波長範囲が下限値λminから上限値λmaxまで変化することで生じる光学的距離が被測定物の膜厚の往復分以上変化する必要があることを意味する。したがって、膜厚測定範囲の下限値dminと測定光の波長範囲との関係としては、以下の条件式(1)を満たす必要がある。
(2)膜厚測定範囲の上限値dmaxと検出ポイント数との関係
図6(b)に示すように、測定光の波長が長くなるほど、被測定物に対して測定される反射率波形の周期は長くなる。図6(c)に示す反射率波形は、図6(b)に示す反射率波形を波数(1/f)の座標に変換したものである。このとき、InGaAsなどの各アレイ素子が波長について等間隔に配置されているとすると、波数に対する各アレイ素子の配置間隔は波数が小さくなるほど広がることがわかる。
したがって、波数に対して所定の周期で変化する反射率波形を正確にサンプリングするためには、この各アレイ素子の配置間隔(波長分解能Δλ)がナイキストのサンプリング定理を満たす必要があり、このサンプリング定理が満たされるという条件によって、膜厚測定範囲の上限値dmaxが決定される。
検出部64における波長分解能Δλは、検出ポイント数(検出チャンネル数)Spを用いて、Δλ=(λmax−λmin)/Spと表わすことができる。
測定光の波長が長くなるほど反射率波形の周期は短くなるので、反射率波形において測定光の上限値λmaxにおいて極値(ピークまたはバレイ)が生じるとした場合に、当該極値と隣接する極値(ピークに隣接するピーク、またはバレイに隣接するバレイ)を生じる波長をλ1とすると、膜厚測定範囲の上限値dmaxとの間に、以下の条件が満たされる必要がある。
ここで、測定対象の層の膜厚が比較的大きな場合には、nmax≒n1とみなすことができるので、上述の条件は、以下のような条件式(2)として表わすことができる。
このとき、波長分解能Δλについては、以下の条件が満たされる必要がある。
上述の波長分解能Δλの関係式に、上限値dmaxの関係式を代入してλ1の項をなくすと、以下のような条件式(3)として表わすことができる。
以上の検討の結果、被測定物について要求される膜厚測定範囲(下限値dmin〜上限値dmax)が予め定められると、上述の条件式(1)および(2)を満足するように、測定光の波長範囲(下限値λmin〜上限値λmax)および検出ポイント数Spを定める必要がある。
<計算例>
図2に示すようなSOI基板のSi層1の膜厚を測定する場合に必要とされる条件について計算した一例を以下に示す。
この計算例では、SOI基板のSi層1の上限値dmaxが100μmであるとし、屈折率nが波長に依らず一定値(n=3.5)であるとした。なお、この計算例では、SOI基板のSi層1の下限値dminについては考慮していない。
上記の前提となる値を上述のそれぞれの条件式(2)および(3)に代入すると、上限値λmax=1424.0nm、波長分解能Δλ=1.445375nmと算出される。したがって、最大100μmの膜厚をもつ被測定物の膜厚測定を行うために、512チャンネルの検出部64を用いた場合には、約684〜1424nmの波長範囲を含む測定光を用いて、検出部64で当該範囲の反射光を検出(波長分解能Δλ=1.4453125nm)すればよいことがわかる。
但し、上記の条件式によって算出される波長分解能Δλは、理論上の最低限のスペックを記述したものであり、実際に測定を行う場合には、算出された波長分解能Δλに比較して精度をより高くすることが好ましい。なお、より好ましくは、数倍程度(たとえば、2〜4倍)にすることがよい。なお、精度を高くすることは、波長分解能Δλの値をより小さく設定することを意味する。
すなわち、実際の膜厚測定装置では、被測定物への測定光の入射角の影響や、レンズ集光系を用いたときの開口角の影響などによって、スペクトル精度が劣化する場合がある。このような場合には、パワースペクトル上のピーク高さが小さくなり、膜厚の算出が困難になる。また、有限個のサンプリング値を用いて離散的に周波数変換を行うFFTなどを用いた場合には、エリアシングの影響を受けて、波数変換時などの変換誤差が大きく生じる場合もある。さらに、被測定物の屈折率分散が測定光の波長範囲によっては大きく変化するものもあり、部分的に条件に合致しない可能性もある。
図7は、理論値に近い波長分解能をもつ膜厚測定装置を用いて測定した結果をシミュレーションした結果を示す図である。図8は、理論値に対して精度を2倍にした波長分解能をもつ膜厚測定装置を用いて測定した結果をシミュレーションした結果を示す図である。なお、対象とする被測定物の膜厚は100μmであるとした。
より具体的には、図7(a)には、512チャンネルの検出部64を用いて、900nm〜1600nmの範囲で反射率スペクトルを測定(波長分解能Δλ=2.734375nm)した結果を示し、図7(b)には、図7(a)に示す反射率スペクトルを周波数変換(ここでは、FFT変換)したパワースペクトルを示す。図7(b)に示すように、この場合には、100μmの付近にピークが存在しているものの、薄膜側のノイズ(ゴースト)に比較してそのレベルは小さく、膜厚の決定が難しい場合もある。
一方、図8(a)には、検出部64における波長分解能の精度が理論値の2倍となるように波長範囲を定めた場合の測定結果を示し、図8(b)には、図8(a)に示す反射率スペクトルを周波数変換(ここでは、FFT変換)したパワースペクトルを示す。この例では、検出部64の波長分解能Δλが1.3671875nmとなるように、検出ポイント数および波長範囲を定めている。図8(b)に示すように、この場合には、本来の膜厚である100μmの付近に強いピークが現れており、被測定物の膜厚を正確に測定できることを意味している。
<膜厚算出処理の概要>
上述したように、被測定物の膜厚は、反射率スペクトルの周期性に基づいて算出することができる。すなわち、検出された反射率スペクトルを周波数変換してパワースペクトルを求め、このパワースペクトルに現れるピークから膜厚を算出できる。このようなパワースペクトルは、現実的にはFFTなどの離散的なフーリエ変換法によって算出される。しかしながら、FFTでは周期性を十分に反映したパワースペクトルを得られない場合もある。そのため、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、パワースペクトルの算出方法として、FFTなどの離散的なフーリエ変換に加えて、MEMなどの最適化法を実行可能に構成される。すなわち、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、検出された反射率スペクトルに応じて、フーリエ変換および最適化法を選択的または併合的に実行する。なお、MEMの処理の詳細については、「科学計測のための波形データ処理 計測システムにおけるマイコン/パソコン活用技術」、南茂夫編著、CQ出版社、1992年8月1日第10版発行などに詳しいので、そちらを参照されたい。
さらに、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、上述したような検出された反射率スペクトルから解析的に膜厚を算出する方法に加えて、測定対象から算出される物理モデルから理論的に算出される反射率スペクトルと実際に検出された反射率スペクトルとの偏差に基づいて、測定対象の光学的特性値を探索的に算出する、いわゆるフィッティングと称される方法も実行可能に構成される。
ところで、図2に示すSOI基板のように、第2層であるSiO2層2の膜厚に比較して、第1層のSi層1の膜厚が2桁以上大きいような被測定物については、フィッティング法では各層の膜厚を十分な精度で算出できない場合もある。
図9は、SOI基板についての反射率スペクトルの測定結果を示す図である。図9には、第1層のSi層1の膜厚が100μmであり、第2層であるSiO2層2の膜厚を0.48〜0.52μmの範囲で0.1μm刻みで変化させた場合の測定例を示す。図9に示されているように、第2層であるSiO2層2の膜厚が変化しても、測定される反射率スペクトルにはあまり大きな変化が生じていないことがわかる。すなわち、このような被測定物から測定される反射率スペクトルでは、第1層のSi層1の影響が主体的であるため、第2層であるSiO2層2のパラメータを変化させたとしても、十分にフィッティングできないことを意味する。
そこで、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、SOI基板などのように、異なる複数の層を有する被測定物について、各層の膜厚を独立して正確に解析できるように、上述したフーリエ変換、最適化法、フィッティング法のうちいずれか1つ、もしくは複数を適宜組み合わせて実行する。以下、本実施の形態に従う膜厚測定装置100における膜厚算出処理の詳細について説明する。なお、このような膜厚算出処理は、データ処理部70(図1)によって実行される。
<データ処理部の構成>
図10は、この発明の実施の形態に従うデータ処理部70の概略のハードウェア構成を示す模式図である。
図10を参照して、データ処理部70は、代表的にコンピュータによって実現され、オペレーティングシステム(OS:Operating System)を含む各種プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)200と、CPU200でのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するメモリ部212と、CPU200で実行されるプログラムを不揮発的に記憶するハードディスク部(HDD:Hard Disk Drive)210とを含む。また、ハードディスク部210には、後述するような処理を実現するためのプログラムが予め記憶されており、このようなプログラムは、フレキシブルディスクドライブ(FDD)216またはCD−ROMドライブ214によって、それぞれフレキシブルディスク216aまたはCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)214aなどから読み取られる。
CPU200は、キーボードやマウスなどからなる入力部208を介してユーザなどからの指示を受取るとともに、プログラムの実行によって測定される測定結果などをディスプレイ部204へ出力する。各部は、バス202を介して互いに接続される。
<演算処理構造>
本実施の形態に従うデータ処理部70は、被測定物の各層のパラメータ(材質、膜厚、膜厚範囲、屈折率、消衰係数など)のうち未知の値の種類や数、および解析精度などに応じて、以下に示す処理パターン1〜6のいずれかを選択して実行することが可能である。なお、以下の説明では、図2に示すSOI基板のように、積層された2層(それぞれ「第1層」および「第2層」とも称す。)の膜厚をそれぞれ独立に算出する場合について例示するが、同様の手順によって、より多くの積層された膜厚をそれぞれ独立に算出することが可能である。
(1)処理パターン1
処理パターン1は、第1層および第2層の屈折率および消衰係数が既知である場合に実行可能な膜厚算出処理である。この処理パターン1では、各層の膜厚はいずれもフィッティング法によって決定される。なお、フィッティング法として、代表的に、最小二乗法を用いる場合について例示する。
図11は、この発明の実施の形態に従う処理パターン1に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図11に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図11を参照して、データ処理部70(図1)は、バッファ部71と、モデル化部721と、フィッティング部722とをその機能として含む。
バッファ部71は、分光測定部60(図1)から出力される実測された反射率スペクトルR(λ)を一時的に格納する。より具体的には、分光測定部60からは所定の波長分解能毎に反射率の値が出力されるので、バッファ部71は、波長とその波長における反射率とを対応付けて格納する。
モデル化部721は、被測定物に係るパラメータを受付けて、当該受付けたパラメータに基づいて、被測定物における理論反射率を示すモデル式(関数)を決定し、当該決定した関数に従って、各波長における理論反射率(スペクトル)を算出する。この算出した各波長における理論反射率は、フィッティング部722へ出力される。より具体的には、モデル化部721は、第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを受付けるとともに、第1層の膜厚d1の初期値および第2層の膜厚d2の初期値を受付ける。なお、ユーザが各パラメータを入力してもよいが、予め標準的な材質のパラメータをファイルなどとして格納しておき、必要に応じて読出すようにしてもよい。また、必要に応じて、雰囲気層の屈折率n0および消衰係数k0についても入力される。
理論反射率を示すモデル式については、上述した3層系の被測定物OBJにおける反射率Rと同様であり、少なくとも各層の膜厚の値を含む関数となる。
また、モデル化部721は、後述するフィッティング部722からのパラメータ更新指令に従って、理論反射率を示す関数を更新し、更新後の関数に従って、各波長における理論反射率(スペクトル)を繰返し算出する。より具体的には、モデル化部721は、パラメータとして、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2を順次更新する。
フィッティング部722は、バッファ部71から反射率スペクトルの実測値を読出し、モデル化部721から出力される反射率スペクトルの理論値との間の二乗偏差を各波長について順次算出する。そして、フィッティング部722は、各波長における偏差から残差を算出し、この残差が所定のしきい値以下であるか否かを判断する。すなわち、フィッティング部722は、現時点のパラメータにおいて収束しているか否かを判断する。
残差が所定のしきい値以下でなければ、フィッティング部722は、モデル化部721に対してパラメータ更新指令を与え、新たに反射率スペクトルの理論値が出力されるまで待つ。一方、残差が所定のしきい値以下であれば、フィッティング部722は、現時点の第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2を解析値として出力する。
図12は、この発明の実施の形態に従う処理パターン1に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。
図12を参照して、まず、ユーザが被測定物(試料)をステージ50(図1)上に配置する(ステップS100)。続いて、ユーザが測定準備指令を与えると、観察用光源22(図1)からは観察光の照射が開始される。ユーザは、表示部39に表示される観察用カメラ38で撮影された反射像を参照しながら、可動機構51にステージ位置指令を与えて、測定範囲の調整や焦点合わせを行う(ステップS102)。
測定範囲の調整や焦点合わせの完了後、ユーザが測定開始指令を与えると、測定用光源10(図1)から測定光の発生が開始される。分光測定部60は、被測定物からの反射光を受光し、当該反射光に基づく反射率スペクトルをデータ処理部70へ出力する(ステップS104)。続いて、データ処理部70のCPU200は、分光測定部60で検出された反射率スペクトルをメモリ部212などに一時的に格納する(ステップS106)。その後、データ処理部70のCPU200が以下に示す膜厚算出処理を実行する。
CPU200は、ディスプレイ部204(図2)などに入力画面を表示して、ユーザにパラメータの入力を促す(ステップS108)。ユーザは、表示された入力画面上などから、被測定物の第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、被測定物の第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを入力するとともに、被測定物に係る第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2の初期値を入力する(ステップS110)。
さらに、CPU200は、ユーザ入力されたパラメータに基づいて、反射率スペクトルの理論値を算出する(ステップS112)。続いて、CPU200は、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルの実測値と反射率スペクトルの理論値との間の二乗偏差を各波長について順次算出し、両者の間の残差を算出する(ステップS114)。さらに、CPU200は、算出した残差が所定のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS116)。
算出した残差が所定のしきい値以下でない場合(ステップS116においてNOの場合)には、CPU200は、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2の現在値を変更する(ステップS118)。なお、膜厚d1およびd2をどの方向にどの程度変更するかについては、残差の発生度合いに応じて決定される。そして、処理はステップS112に戻る。
これに対して、算出した残差が所定のしきい値以下である場合(ステップS116においてYESの場合)には、CPU200は、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2の現在値を被測定物の各層の膜厚(解析値)として出力する(ステップS120)。そして、処理は終了する。
なお、図11に示すブロック図では、屈折率n1,n2および消衰係数k1,k2として固定値を入力する構成について例示したが、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数を用いてもよい。たとえば、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数としては、以下に示すようなCauchyモデルの式を用いてもよい。
このような式を用いる場合には、式中の各係数についても予め初期値または既知の値を入力しておき、これらの係数についてもフィッティング対象とされる。
あるいは、以下に示すようなSellmeierモデルの式を用いてもよい。
(2)処理パターン2
処理パターン2は、第1層および第2層の屈折率および消衰係数が既知である場合に実行可能な膜厚算出処理である。この処理パターン2では、膜厚の大きい第1層を離散的なフーリエ変換を用いた周波数変換によって求め、この第1層の膜厚を固定値として、第2層の膜厚をフィッティング法によって決定する。なお、フィッティング法として、代表的に、最小二乗法を用いる場合について例示する。
図13は、この発明の実施の形態に従う処理パターン2に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図13に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図13を参照して、データ処理部70(図1)は、バッファ部71と、波数変換部731と、バッファ部732と、フーリエ変換部733と、ピーク探索部734と、モデル化部735と、フィッティング部736とをその機能として含む。
バッファ部71は、分光測定部60(図1)から出力される実測された反射率スペクトルR(λ)を一時的に格納する。なお、その具体的な構成に処理内容については、上述したので詳細な説明は繰返さない。
波数変換部731は、第1層に係るパラメータ(屈折率n1および消衰係数k1)を受付けて、当該受付けたパラメータに基づいて、バッファ部71に一時的に格納される反射率スペクトルR(λ)を波数変換する。すなわち、波数変換部731は、反射率スペクトルR(λ)における各波長とその波長における反射率との対応関係を、各波長についての波数K1(λ)と上述の関係式に従って算出される対応の波数変換反射率R1’との対応関係に変換する。より具体的には、波数変換部731は、バッファ部71に格納される波長毎に、波数K1(λ)および波数変換反射率R1’(λ)(=R(λ)/(1−R(λ)))を順次算出し、バッファ部732へ出力する。
バッファ部732は、波数変換部731から順次出力される波数K1(λ)と波数変換反射率R1’(λ)とを対応付けて格納する。すなわち、バッファ部732には、波数K1(λ)に関する波数変換反射率の波数分布特性である波数変換反射率R1’(K1)が格納される。
フーリエ変換部733は、バッファ部732に格納される波数変換反射率R1’(K1)を波数K1についてフーリエ変換を行って、パワースペクトルP1を算出する。なお、フーリエ変換の方法としては、高速フーリエ変換(FFT)や離散コサイン変換(DCT:Discrete Cosine Transform)などを用いることができる。
ピーク探索部734は、フーリエ変換部733によって算出されたパワースペクトルP1の中に現れるピークを探索し、当該ピークに対応する膜厚を取得し、第1層の膜厚d1として出力する。
モデル化部735は、被測定物に係るパラメータを受付けて、当該受付けたパラメータに基づいて、被測定物における理論反射率を示すモデル式(関数)を決定し、当該決定した関数に従って、各波長における理論反射率(スペクトル)を算出する。この算出した各波長における理論反射率は、フィッティング部736へ出力される。より具体的には、モデル化部735は、ピーク探索部734から出力される第1層の膜厚d1と、第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを受付けるとともに、第2層の膜厚d2の初期値を受付ける。なお、ユーザが各パラメータを入力してもよいが、予め標準的な材質のパラメータをファイルなどとして格納しておき、必要に応じて読出すようにしてもよい。理論反射率を示すモデル式については、上述した3層系の被測定物OBJにおける反射率Rと同様であり、少なくとも各層の膜厚の値を含む関数となる。
また、モデル化部735は、フィッティング部736からのパラメータ更新指令に従って、理論反射率を示す関数を更新し、更新後の関数に従って、各波長における理論反射率(スペクトル)を再度算出する。より具体的には、モデル化部735は、パラメータとして、第2層の膜厚d2を順次更新する。
フィッティング部736は、バッファ部71から反射率スペクトルの実測値を読出し、モデル化部735から出力される反射率スペクトルの理論値との間の二乗偏差を各波長について順次算出する。そして、フィッティング部736は、各波長における偏差から残差を算出し、この残差が所定のしきい値以下であるか否かを判断する。すなわち、フィッティング部736は、現時点のパラメータにおいて収束しているか否かを判断する。
残差が所定のしきい値以下でなければ、フィッティング部736は、モデル化部735に対してパラメータ更新指令を与え、新たに反射率スペクトルの理論値が出力されるまで待つ。一方、残差が所定のしきい値以下であれば、フィッティング部736は、現時点の第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2を解析値として出力する。
図14は、この発明の実施の形態に従う処理パターン2に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。図14に示すフローチャートの各ステップのうち、ステップS100〜S108の処理については、図12に示すフローチャートの同一符号を付した各ステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。以下、図12に示すフローチャートと異なるステップS132以降の膜厚算出処理について説明する。
ステップS132において、ユーザは、表示された入力画面上などから、被測定物の第1層の屈折率n1および消衰係数k1、ならびに被測定物の第2層の屈折率n2および消衰係数k2を入力するとともに、第2層の膜厚d2の初期値を入力する。
すると、CPU200は、入力された第1層の屈折率n1および消衰係数k1に基づいて、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルを波数変換する(ステップS134)。そして、CPU200は、この波数変換して得られる波数変換反射率をメモリ部212などに格納する(ステップS136)。さらに、CPU200は、波数変換反射率を波数K1についてフーリエ変換を行って、パワースペクトルを算出する(ステップS138)。さらに、CPU200は、算出したパワースペクトルに現れるピークおよびそのピークに対応する膜厚を第1層の膜厚d1として取得する(ステップS140)。
続いて、CPU200は、ステップS210で取得された第1層の膜厚d1と、ユーザ入力された第2層に係るパラメータとに基づいて、反射率スペクトルの理論値を算出する(ステップS142)。そして、CPU200は、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルの実測値と反射率スペクトルの理論値との間の二乗偏差を各波長について順次算出し、両者の間の残差を算出する(ステップS144)。さらに、CPU200は、算出した残差が所定のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS146)。
算出した残差が所定のしきい値以下でない場合(ステップS146においてNOの場合)には、CPU200は、第2層の膜厚d2の現在値を変更する(ステップS148)。なお、膜厚d2をどの方向にどの程度変更するかについては、残差の発生度合いに応じて決定される。そして、処理はステップS142に戻る。
これに対して、算出した残差が所定のしきい値以下である場合(ステップS146においてYESの場合)には、CPU200は、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2の現在値を被測定物の各層の膜厚(解析値)として出力する(ステップS150)。そして、処理は終了する。
なお、上述の処理パターン1と同様に、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数を用いてもよい。その詳細な関数については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
(3)処理パターン3
処理パターン3は、第1層および第2層の屈折率および消衰係数が既知である場合に実行可能な膜厚算出処理である。この処理パターン3は、上述の処理パターン2に比較して、第1層の膜厚の算出に際して、フーリエ変換ではなく最適化法を用いる点が異なる。その他の処理については、上述の処理パターン2と同様である。
図15は、この発明の実施の形態に従う処理パターン3に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図15に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図15を参照して、データ処理部70(図1)は、バッファ部71と、最適化演算部741と、モデル化部742と、フィッティング部743とをその機能として含む。
バッファ部71は、分光測定部60(図1)から出力される実測された反射率スペクトルR(λ)を一時的に格納する。なお、その具体的な構成に処理内容については、上述したので詳細な説明は繰返さない。
最適化演算部741は、MEMなどの最適化法を用いて、バッファ部71に格納されている反射率スペクトルの周波数成分を解析し、第1層の膜厚d1を算出する。より具体的には、最適化演算部741は、自己回帰モデルを用いて反射率スペクトルの実測値に対する自己相関関数を求め、これらの値から自己回帰モデルを記述する自己回帰係数を決定する。最適化演算部741は、このようにして周波数解析を行うことで得られる主成分の波長に対応する膜厚を取得し、第1層の膜厚d1として出力する。なお、最適化演算部741は、最適化法の実行前に、第1層の膜厚d1の検索範囲と、第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを受付けるとともに、第2層の膜厚d2の暫定値を受付ける。また、ユーザが各パラメータを入力してもよいが、予め標準的な材質のパラメータをファイルなどとして格納しておき、必要に応じて読出すようにしてもよい。
モデル化部742およびフィッティング部743は、最適化演算部741によって算出された第1層の膜厚d1と被測定物に係るパラメータを受付けて、第2層の膜厚d2をフィッティングによって決定する。モデル化部742およびフィッティング部743の処理は、それぞれ上述した処理パターン2のモデル化部735およびフィッティング部736と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図16は、この発明の実施の形態に従う処理パターン3に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。図16に示すフローチャートの各ステップのうち、ステップS100〜S106の処理については、図12に示すフローチャートの同一符号を付した各ステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。以下、図12に示すフローチャートと異なるステップS162以降の膜厚算出処理について説明する。
ステップS162において、ユーザは、表示された入力画面上などから、被測定物の第1層の膜厚d1の検索範囲と、被測定物の第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、被測定物の第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを入力する。
すると、CPU200は、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルについて、最適化法を用いて周波数成分を解析することで、第1層の膜厚d1を算出する(ステップS164)。
続いて、CPU200は、ステップS164で取得された第1層の膜厚d1と、ユーザ入力された第2層に係るパラメータとに基づいて、反射率スペクトルの理論値を算出する(ステップS166)。そして、CPU200は、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルの実測値と反射率スペクトルの理論値との間の二乗偏差を各波長について順次算出し、両者の間の残差を算出する(ステップS168)。さらに、CPU200は、算出した残差が所定のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS170)。
算出した残差が所定のしきい値以下でない場合(ステップS170においてNOの場合)には、CPU200は、第2層の膜厚d2の現在値を変更する(ステップS172)。なお、膜厚d2をどの方向にどの程度変更するかについては、残差の発生度合いに応じて決定される。そして、処理はステップS166に戻る。
これに対して、算出した残差が所定のしきい値以下である場合(ステップS170においてYESの場合)には、CPU200は、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2の現在値を被測定物の各層の膜厚(解析値)として出力する(ステップS174)。そして、処理は終了する。
なお、上述の処理パターン1と同様に、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数を用いてもよい。その詳細な関数については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
(4)処理パターン4
処理パターン4は、処理パターン1を改良した方法であり、フィッティングによる収束をより確実にする。すなわち、SOI基板のように、第1層と第2層との膜厚が大きく異なっているような被測定物では、各層の膜厚をフィッティングするための初期値が重要である。そこで、処理パターン4では、まず最適化法を用いて各層の膜厚の初期値を決定し、これらの初期値を用いてフィッティング法によって、第1層および第2層の膜厚を決定する。
図17は、この発明の実施の形態に従う処理パターン4に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図17に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図17に示す処理パターン4に係る制御構造は、図11に示す処理パターン1に係る制御構造に、最適化演算部751を追加したものと実質的に同一である。
最適化演算部751は、MEMなどの最適化法を用いて、バッファ部71に格納されている反射率スペクトルの周波数成分を解析し、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2をそれぞれ算出する。特に、最適化演算部751は、実測の反射率スペクトルを周波数解析して得られる2つ以上のピークを抽出し、これらのピークに対応する膜厚から第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2をそれぞれ算出する。なお、この算出される第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2は、フィッティングの初期値として用いられるものであり、厳密な精度は必要とされない。なお、最適化演算部751における具体的な周波数解析方法は、上述の最適化演算部741と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
モデル化部721およびフィッティング部722は、最適化演算部751によって算出された第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2を初期値として、本来の第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2をフィッティングによって決定する。モデル化部721およびフィッティング部722の処理内容は、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
図18は、この発明の実施の形態に従う処理パターン4に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。図18に示すフローチャートは、図12に示すフローチャートにおいてステップS110に代えて、ステップS111AおよびS111Bの処理を設けたものであり、その他の処理については同一符号を付した各ステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。以下、図12と異なる処理について説明する。
図18を参照して、ステップS108の実行後、ステップS111Aの処理が実行される。ステップS111Aにおいて、ユーザは、表示された入力画面上などから、被測定物の第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、被測定物の第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを入力するとともに、第1層の膜厚d1の検索範囲および第2層の膜厚d2の検索範囲を入力する。続くステップS111Bにおいて、CPU200は、メモリ部212などに格納されている反射率スペクトルについて、最適化法を用いて周波数成分を解析することで、第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2を算出する。このステップS111Aにおいて算出された第1層の膜厚d1および第2層の膜厚d2が、フィッティングの初期値として用いられる。そして、このステップS111Bの後、図12のステップS112以降の処理と同様の処理が実行される。
なお、上述の処理パターン1と同様に、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数を用いてもよい。その詳細な関数については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
(5)処理パターン5
処理パターン5は、一方の層の膜厚が既知であって、他方の層の膜厚のみを解析する場合に適用される方法であり、上述の処理パターン1を変形したものである。以下の説明では、被測定物の第2層の膜厚が既知であり、第1層の膜厚をフィッティングによって決定する方法を例示する。
図19は、この発明の実施の形態に従う処理パターン5に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図19に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図19に示す処理パターン4に係る制御構造は、図11に示す処理パターン1に係る制御構造において、モデル化部721に代えて、モデル化部721Aを配置したものである。
モデル化部721Aは、第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを受付けるとともに、第1層の膜厚d1の初期値および第2層の膜厚d2の既知の値(固定値)を受付ける。なお、ユーザが各パラメータを入力してもよいが、予め標準的な材質のパラメータをファイルなどとして格納しておき、必要に応じて読出すようにしてもよい。また、必要に応じて、雰囲気層の屈折率n0および消衰係数k0についても入力される。
また、モデル化部721Aは、フィッティング部722からのパラメータ更新指令に従って第1層の膜厚d1を順次更新し、この更新後の第1層の膜厚d1に従って理論反射率を示す関数を更新する。さらに、モデル化部721Aは、更新後の関数に従って、各波長における理論反射率(スペクトル)を繰返し算出する。このような手順によって、第1層の膜厚d1がフィッティングによって決定される。
その他の構成については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
図20は、この発明の実施の形態に従う処理パターン5に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。図20に示すフローチャートは、図12に示すフローチャートにおいてステップS110,S118,S120に代えて、それぞれステップS110A,S118A,S120Aの処理を設けたものであり、その他の処理については同一符号を付した各ステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。以下、図12と異なる処理について説明する。
図20を参照して、ステップS110Aにおいて、ユーザは、表示された入力画面上などから、被測定物の第1層の屈折率n1および消衰係数k1と、被測定物の第2層の屈折率n2および消衰係数k2とを入力するとともに、第1層の膜厚d1の初期値および第2層の膜厚d2の既知の値を入力する。
ステップS118Aにおいて、CPU200は、第1層の膜厚d1の現在値を変更する。すなわち、処理パターン5では、第1層の膜厚d1のみがフィッティング対象となる。
ステップS120Aにおいて、CPU200は、算出した残差が所定のしきい値以下である場合には、第1層の膜厚d1の現在値を被測定物の各層の膜厚(解析値)として出力する
なお、上述の処理パターン1と同様に、波長分散を考慮した屈折率および消衰係数を用いてもよい。その詳細な関数については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
(6)処理パターン6
処理パターン6は、一方の層の膜厚が既知であって、他方の層の膜厚のみを解析する場合に適用される方法であり、上述の処理パターン5を変形したものである。以下の説明では、被測定物の第2層の膜厚が既知であり、第1層の膜厚をフィッティングまたはフーリエ変換によって決定する方法を例示する。
図21は、この発明の実施の形態に従う処理パターン6に係る膜厚算出処理を実行する制御構造を示すブロック図である。図21に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
図21に示す処理パターン4に係る制御構造は、図19に示す処理パターン4に係る制御構造において、フィッティング部722に代えて、フィッティング部722Aを配置するとともに、波数変換部731と、バッファ部732と、フーリエ変換部733と、ピーク探索部734とをさらに加えたものに相当する。
すなわち、本処理パターンでは、被測定物の第1層の膜厚d1がフィッティングによって決定されるが、フィッティングが規定回数以内に収束しなかった場合には、フーリエ変換を用いて、第1層の膜厚d1が決定される。
フィッティング部722Aは、バッファ部71から反射率スペクトルの実測値を読出し、モデル化部721Aから出力される反射率スペクトルの理論値との間の残差が所定のしきい値以下となるように、モデル化部721Aに対してパラメータ更新指令を順次与える。さらに、フィッティング部722Aは、所定回数の演算によっても残差が所定のしきい値以下とならない場合には、フーリエ変換を用いて第1層の膜厚d1を決定するように、波数変換部731に切替指令を与える。
なお、波数変換部731、バッファ部732、フーリエ変換部733、およびピーク探索部734については、図13に示す処理パターン2において説明したので、詳細な説明は繰返さない。
図22は、この発明の実施の形態に従う処理パターン6に係る膜厚算出処理の手順を示すフローチャートである。図22に示すフローチャートは、図20に示すフローチャートにおいてステップS117の処理を追加するとともに、図14に示すフローチャートのステップS134〜S140の処理を追加したものである。その他の処理については同一符号を付した各ステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。以下、図14および図20と異なる処理について説明する。
図22を参照して、ステップS117において、CPU200は、フィッティング処理が規定回数以上繰返されたか否かを判断する。フィッティング処理が規定回数以上繰返されていない場合(ステップS117においてNOの場合)には、処理はステップS112に戻る。これに対して、フィッティング処理が規定回数以上繰返されている場合(ステップS117においてYESの場合)には、処理はステップS134へ進む。
ステップS134〜S140では、フーリエ変換を用いて第1層の膜厚d1が決定される。これらの各ステップの処理については、上述したので、詳細な説明は繰返さない。
<測定例>
図23は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定装置を用いてSOI基板の膜厚を測定した結果例を示す。なお、図23には、反射率スペクトルを周波数変換(FFT変換)して得られたパワースペクトルを示す。
図23(a)は、第1層であるSi層の膜厚が22.0μm、第2層であるSiO2層の膜厚が3.0μmとなることを目標として形成したSOI基板を測定した結果を示す。図23(a)では、測定された反射率スペクトルのうち1470〜1600nmの成分を用いて周波数変換を行った。その結果、21.8613μmに対応する位置に第1のピークが生じている。
図23(b)は、第1層であるSi層の膜厚が32.0μm、第2層であるSiO2層の膜厚が2.0μmとなることを目標として形成したSOI基板を測定した結果を示す。図23(b)では、測定された反射率スペクトルのうち1500〜1600nmの成分を用いて周波数変換を行った。その結果、30.6269μmに対応する位置に第1のピークが生じている。
図23(c)は、第1層であるSi層の膜厚が16.0μm、第2層であるSiO2層の膜厚が1.3μmとなることを目標として形成したSOI基板を測定した結果を示す。図23(v)では、測定された反射率スペクトルのうち1400〜1600nmの成分を用いて周波数変換を行った。その結果、15.9069μmに対応する位置に第1のピークが生じている。
いずれの測定結果についても、概ね良好であることがわかる。
<遮蔽部材の介在>
上述したように、本実施の形態に従う膜厚測定装置100は、主として赤外帯域における反射率スペクトルに基づいて被測定物OBJの膜厚を測定するので、測定用光源10(図1)から被測定物OBJまでの経路上に高分子樹脂のような遮蔽部材が存在していても測定が可能である。すなわち、高分子樹脂のような部材は、可視帯域の光を透過させないが、赤外帯域の光を透過させることができる。
図24は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定装置100を用いてその上面に不透明Padが配置された被測定物OBJ上を測定する場合の構成を示す模式図である。
図24を参照して、ステージ50上にはスペーサを介して平面状の被測定物OBJが載置されており、被測定物OBJの上面(測定光の照射側)には、平面状の不透明Pad52が配置されている。この不透明Pad52は、研磨工程で用いられる研磨体などに相当し、主として高分子樹脂などからなる。このような不透明Pad52は、その透過量は少ないが、赤外帯域(たとえば、900〜1600nm)の光を透過させる。
図25および図26は、この発明の実施の形態に従う膜厚測定装置を用いて不透明Pad52が配置されたSOI基板を測定した結果を示す。図25は、対物レンズ40(図1,図24)として10倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合の結果を示し、図26は、対物レンズ40(図1,図24)として2.83倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合の結果を示す。
また、図25および図26には、比較のため、不透明Pad52が配置されていない状態での結果を重ねて表示する。なお、それぞれの反射率スペクトルのレンジ(絶対値)は異なっていることに注意されたい。
図27は、図25および図26に示すPad52が配置されていない状態の反射率スペクトルから得られるパワースペクトルを示し、図28は、図25および図26に示すPad52が配置されている状態の反射率スペクトルから得られるパワースペクトルを示す。
図25を参照して、対物レンズ40として10倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合には、不透明Pad52が存在するときの結果は、不透明Pad52が存在しないときの結果に比較してノイズ成分が増加している。
一方、図26を参照して、対物レンズ40として2.83倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合には、不透明Pad52が存在するときの結果は、不透明Pad52が存在しないときの結果とほぼ同様に、その周期性については十分に測定されている。
図27および図28に示すように、対物レンズ40として2.83倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合には、不透明Padの有無にかかわらず、ほぼ同一のパワースペクトルを得られることがわかる。
これに対して、対物レンズ40として10倍の倍率をもつ拡大レンズを用いた場合には、十分な精度のパワースペクトルが得られていないことがわかる。これは、対物レンズ40の倍率を変更に伴って開口数が変化し、この結果、10倍の倍率をもつレンズを用いた場合には、拡散光が増大し、ノイズ成分が増加するものと考えられる。
以上のように、本実施の形態に従う膜厚測定装置100を用いて、不透明Pad52が配置された被測定物OBJの膜厚を測定することは可能であることが示された。但し、測定光を照射するための光学系および反射光を受光するための光学系について、拡散光の影響を排除するように設計する必要はあるといえる。
[変形例]
被測定物OBJに対する測定光の照射および反射光の受光を行うための光学系として、Y型ファイバを用いてもよい。
図29は、この発明の実施の形態の変形例に従う膜厚測定装置100#の光学系の構造を示す模式図である。
図29を参照して、膜厚測定装置100#は、測定用光源10(図1)からの測定光を被測定物OBJまで導き、かつ被測定物OBJからの反射光を検出部64(図1)まで導く光学系として、投受光ファイバ56を含んでいる。
投受光ファイバ56は、2つの光線を1つの光線に結合可能であるとともに、1つの光線を2つの光線に分離可能なY型ファイバである。より具体的な一例として、投受光ファイバ56は、Geドープされた単線Y型ファイバからなる。
測定用光源10(図1)から発生した測定光は、第1分岐ファイバ56aを通って被測定物OBJへ入射し、被測定物OBJで反射して生じた反射光は、第2分岐ファイバ56bを通って検出部64へ導かれる。
また、投受光ファイバ56と被測定物OBJとの間には、「絞り」として機能するピンホール光学系54が配置される。
図29に示す膜厚測定装置100#を用いることで、研磨液などの溶液中に被測定物OBJが配置された場合であってもその膜厚を測定することができる。
図30は、この発明の実施の形態の変形例に従う膜厚測定装置100#を用いて溶液中の被測定物OBJの膜厚を測定する形態を示す模式図である。
図30を参照して、容器内に配置されたテーブル57上にスペーサを介して被測定物OBJが配置されており、当該容器内は、研磨液などの溶液58で満たされている。そして、投受光ファイバ56の投受光口側の一部が溶液58中に浸漬されている。このような構成によって、溶液中の被測定物OBJの膜厚を測定することができる。
なお、水を溶媒とする溶液58を用いる場合には、上述の赤外帯域(900〜1600nm)のうち、水の吸収波長を除く帯域を膜厚測定に用いることが好ましい。具体的には、水には約1320nm以上の波長帯域に吸収があるため、被測定物OBJの膜厚測定には、900〜1320nmの範囲の反射光スペクトルを用いることが好ましい。
[その他の実施の形態]
本発明に係るプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明に係るプログラムに含まれ得る。
さらに、本発明に係るプログラムは、他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明に係るプログラムに含まれ得る。
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記憶された記憶媒体とを含む。
さらに、本発明に係るプログラムによって実現される機能の一部または全部を専用のハードウェアによって構成してもよい。
この発明の実施の形態によれば、被測定物に測定光を照射して取得された反射率スペクトル(もしくは、透過率スペクトル)に基づいて、被測定物を構成する各層の膜厚をそれぞれ独立に算出する際に、(1)FFTなどの離散的なフーリエ変換、またはMEMなどの最適化法を用いて主要な波数成分を算出して膜厚を決定する方法と、(2)モデル式を用いたフィッティングを用いて膜厚を決定する方法とを、選択的に実行できる。これにより、被測定物を構成する層が多数であったり、各層の膜厚に大きな差があったりするような場合であっても、各層の膜厚をより正確に測定することができる。
また、この発明の実施の形態によれば、測定対象とする被測定物を構成する各層の膜厚に応じて、測定光の波長範囲(あるいは、波長検出範囲)および検出部の波長分解能を適切に設定できるので、各層の膜厚をより正確に測定することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 測定用光源、12 コリメートレンズ、14 カットフィルタ、16,36 結像レンズ、18 絞り部、20,30 ビームスプリッタ、22 観察用光源、24 光ファイバ、26 出射部、26a マスク部、32 ピンホールミラー、32a ピンホール、34 軸変換ミラー、38 観察用カメラ、39 表示部、40 対物レンズ、50 ステージ、51 可動機構、52 不透明Pad、54 ピンホール光学系、56 投受光ファイバ、56a,56b 分岐ファイバ、57 テーブル、58 溶液、60 分光測定部、62 回折格子、64 検出部、66 カットフィルタ、68 シャッタ、70 データ処理部、71,732 バッファ部、100,100# 膜厚測定装置、200 CPU、202 バス、204 ディスプレイ部、208 入力部、210 ハードディスク部(HDD)、212 メモリ部、214 CD−ROMドライブ、214a CD−ROM、216 フレキシブルディスクドライブ(FDD)、216a フレキシブルディスク、721,721A,735,742 モデル化部、722,722A,736,743 フィッティング部、731 波数変換部、733 フーリエ変換部、734 ピーク探索部、741,751 最適化演算部、OBJ 被測定物。