以下に、本発明にかかるクラッチ制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図7を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、軸方向に相対移動して係合または解放する一対の係合部材と、入力される指令値に応じて一対の係合部材の少なくともいずれか一方に対して他方に向かう駆動力を作用させる駆動手段とを有するクラッチを制御するクラッチ制御装置に関する。図1は、本発明にかかるクラッチ制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャート、図2は、本発明にかかるクラッチ制御装置の第1実施形態が適用された車両の動力伝達経路の概略構成を示す図である。
本実施形態のクラッチ制御装置は、カムを備えた電磁式のクラッチ装置(図2の符号50参照)をオンした際に正常にクラッチ装置50が作動しないオフ故障が起こった場合、クラッチ装置50を正常に復帰させるための復帰制御を行う。具体的には、クラッチ装置50を完全係合状態とする制御では、電磁コイル(図2の符号56参照)に供給する電流の指令値として予め設定された係合時電流i1をクラッチ装置50に入力する。係合時電流i1を入力した後にクラッチ装置50が完全係合状態であると判定されない場合、係合時電流i1よりも大きな値に電流の指令値を変更する。これにより、クラッチ装置50に作用する駆動力を増加させ、完全係合しやすくすることができる。たとえば、電磁コイル56の抵抗値上昇による電磁力(推力)の減少や、異物の挟まり等により完全係合していなかった場合であっても、係合させる向きの駆動力を増加させることで、完全係合しやすい状態とすることができる。
図2において、符号1は、ハイブリッド車両(図示せず)に搭載された変速装置(動力伝達装置)を示す。なお、以下の説明では、軸方向とは、どの軸線かを記載していない場合、後述する変速装置1のインプットシャフト5が回転をする際に回転の中心となる軸である中心軸線に平行な方向をいう。また、同様な場合における径方向とは、インプットシャフト5の中心軸線と直交する方向をいい、周方向とは、インプットシャフト5の中心軸線が中心となる円周方向をいう。
符号Eは、エンジンを示す。このエンジンEとしては内燃機関、具体的にはガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンまたはメタノールエンジンまたは水素エンジンなどを用いることができる。この実施形態においては、便宜上、エンジンEとしてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジンEは、燃料の燃焼により図示しないクランクシャフト(回転軸)から動力を出力する装置であって、吸気装置、排気装置、燃料噴射装置、点火装置、冷却装置などを備えた公知のものである。
変速装置1は、インプットシャフト5、動力分割機構10、およびクラッチ装置50を有している。インプットシャフト5は、エンジンEの図示しないクランクシャフトと同軸上に配置されている。インプットシャフト5におけるエンジンE側の端部は、クランクシャフトと連結されており、エンジンEの動力がインプットシャフト5に伝達される。
インプットシャフト5の径方向外側には、中空シャフト17が配置されている。中空シャフト17は、インプットシャフト5と相対回転可能に支持されている。中空シャフト17の径方向外側には、第1のモータジェネレータ6が配置されている。動力分割機構10を挟んで第1のモータジェネレータ6と軸方向に対向する位置には、第2のモータジェネレータ9が配置されている。
第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9に電力を供給する電力供給装置としては、バッテリ、キャパシタなどの蓄電装置、あるいは公知の燃料電池などを用いることができる。
第1のモータジェネレータ6は、ハウジング4に固定されたステータ61と、回転自在なロータ62とを有している。ステータ61は、固定された鉄心と、鉄心に巻かれたコイル63とを有している。ステータ61およびロータ62は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、インプットシャフト5の軸線方向に積層されている。ロータ62は、中空シャフト17の外周側に連結されており、中空シャフト17と一体に回転する。中空シャフト17には、第1のモータジェネレータ6のロータ62の回転数および回転位相(回転位置)を検出するレゾルバ41が配置されている。レゾルバ41は、中空シャフト17に固定されて中空シャフト17と一体に回転するロータと固定されたステータとを有する周知のものであり、ロータ62の回転数および回転位相を高精度に検出することができる。
第2のモータジェネレータ9は、ハウジング4に固定されたステータ91と、回転自在なロータ92とを有している。ステータ91は、鉄心と、鉄心に巻かれたコイル93とを有している。ステータ91およびロータ92は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、MGシャフト45の軸線方向に積層されている。ロータ92は、MGシャフト45の外周側に連結されており、MGシャフト45と一体に回転する。MGシャフト45には、第2のモータジェネレータ9のロータ92の回転数および回転位相を検出するレゾルバ42が配置されている。レゾルバ42は、レゾルバ41と同様の構成を有し、ロータ92の回転数および回転位相を高精度に検出することができる。
動力分割機構(言い換えれば動力合成機構)10は、第1遊星歯車機構11と第2遊星歯車機構21とを有している。第1遊星歯車機構11は、互いに同軸的に配置されたサンギア12及びリングギア14と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア13と、プラネタリギア13を回転自在に支持するプラネタリキャリア15とを有している。プラネタリキャリア15は、ハウジング4に回転不能に固定されている。すなわち、第1遊星歯車機構11のプラネタリギア13は、自転は可能であるが、サンギア12の周りの公転は規制されている。
サンギア12は、MGシャフト45の外周側に連結されており、MGシャフト45と一体に回転する。つまり、サンギア12は、MGシャフト45を介して第2のモータジェネレータ9のロータ92と接続されており、第2のモータジェネレータ9の出力がサンギア12に伝達される。
第2遊星歯車機構21は、互いに同軸的に配置されたサンギア22及びリングギア24と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア23と、プラネタリギア23を回転自在に支持するプラネタリキャリア25とを有している。プラネタリキャリア25は、インプットシャフト5と一体回転可能に連結されている。サンギア22は、中空シャフト17と一体回転可能に連結されている。つまり、サンギア22は、中空シャフト17を介して第1のモータジェネレータ6のロータ62と接続されており、ロータ62との間で動力を伝達する。言い換えると、第1のモータジェネレータ6が発電機として機能する場合には、サンギア22からロータ62に中空シャフト17を介して動力が伝達され、第1のモータジェネレータ6が電動機として機能する場合には、第1のモータジェネレータ6の出力が中空シャフト17を介してサンギア22に伝達される。
また、第1遊星歯車機構11のリングギア14と第2遊星歯車機構21のリングギア24とは連結部材26により一体回転可能に連結されている。連結部材26の外周側には、カウンタドライブギア33が形成されている。カウンタドライブギア33は、カウンタドリブンギア35と噛合っている。カウンタドリブンギア35の回転軸であるカウンタシャフト34には、カウンタドリブンギア35と同軸上にファイナルドライブピニオンギア36が設けられている。カウンタドライブギア33からカウンタドリブンギア35に伝達された動力は、ファイナルドライブピニオンギア36からデファレンシャル37を介してドライブシャフト(駆動軸)38に伝達される。
クラッチ装置50は、中空シャフト17の回転を規制するブレーキとして機能するものである。クラッチ装置50は、第一カム部材51、第二カム部材52、ヨーク55、電磁コイル56、および転動体57を有する。
第一カム部材51および第二カム部材52は、それぞれ円環形状をなしており、軸方向に互いに対向している。第一カム部材51は、中空シャフト17のエンジンE側の端部と連結されている。第一カム部材51は、中空シャフト17に対して一体回転可能でかつ軸方向に相対移動不能に連結されている。第二カム部材52は、第一カム部材51よりもエンジンE側に配置されている。第二カム部材52は、第一カム部材51と同軸上に配置されており、回転可能かつ第一カム部材51およびヨーク55に対して軸方向に相対移動可能に支持されている。第二カム部材52は、図示しないばね等の付勢手段により、第一カム部材51に向けて軸方向に付勢されている。言い換えると、第二カム部材52は、付勢手段によりヨーク55から離間する方向に付勢されている。第一カム部材51と第二カム部材52との間には、複数の転動体57が保持されている。ヨーク55は、第二カム部材52よりもエンジンE側に配置されており、ハウジング4に固定されている。ヨーク55は、円環形状をなしており、第二カム部材52と軸方向に対向している。インプットシャフト5は、第一カム部材51、第二カム部材52、およびヨーク55の径方向内側をそれぞれ軸方向に貫通している。ヨーク55内には、電磁コイル56が配置されている。
図3は、クラッチ装置50の要部を示す模式図である。図3には、径方向の外側から見た転動体57の近傍が示されている。第一カム部材51および第二カム部材52には、それぞれカム面53,54が形成されている。
カム面53は、第一カム部材51における第二カム部材52と対向する面に形成されており、第二カム部材52から離間する方向に凹む溝部51aを形成している。溝部51aは、断面V字形状をなしている。
カム面54は、第二カム部材52における第一カム部材51と対向する面に形成されており、第一カム部材51から離間する方向に凹む溝部52aを形成している。溝部52aは、断面V字形状をなしている。転動体57は、溝部51aと溝部52aとにより保持されている。
図2に示すように、車両には、クラッチ装置50の係合または解放の状態を制御する制御部100が設けられている。制御部100は、たとえば、周知のマイクロコンピュータによって構成されたECUであり、電磁コイル56に流す電流を制御することで電磁コイル56により発生させる電磁力を制御する。電磁コイル56には、電磁コイル56に流す電流値を調節する図示しない駆動回路が接続されている。制御部100から制御回路に対して、電磁コイル56に流す電流の指令値が入力されると、制御回路は、電磁コイル56に流れる電流値が指令値となるように、電磁コイル56への電流の供給を制御する。
図3には、電磁コイル56に電流が流されておらず、電磁コイル56が非励磁の状態とされているときのクラッチ装置50が示されている。図4は、電磁コイル56に電流が流されて、電磁コイル56が励磁状態とされているときのクラッチ装置50を示す図である。電磁コイル56が非励磁の状態である場合には、第二カム部材52には、電磁力による吸引力が作用しない。このため、第二カム部材52は、第一カム部材51に向けて押圧する付勢手段の付勢力により、図3に示すようにヨーク55から軸方向に離間した状態となる。よって、第二カム部材52の回転は規制されず、第二カム部材52は回転自在の状態(解放状態)となる。これにより、第二カム部材52は、回転する第一カム部材51に駆動されて第一カム部材51と等しい回転速度で回転する。つまり、中空シャフト17は、クラッチ装置50により回転が規制されることなく回転することができる。以下の説明において、第二カム部材52とヨーク55との間に電磁力による吸引力が作用しておらず、ヨーク55に対する第二カム部材52の相対回転が規制されていない状態をクラッチ装置50の「解放状態」と記述する。
この場合、第1のモータジェネレータ6の回転数を制御することにより、第2遊星歯車機構21におけるプラネタリキャリア25の回転数とリングギア24の回転数との関係を任意に制御することができる。図5は、クラッチ装置50が解放状態である場合の第2遊星歯車機構21の共線図である。図5において、符号Sはサンギア22、符号Cはプラネタリキャリア25、符号Rはリングギア24であり、縦軸は各ギアの回転数を示す。クラッチ装置50が解放状態である場合、中空シャフト17の回転が規制されないため、サンギア22も回転可能である。したがって、第1のモータジェネレータ6の回転数を制御して中空シャフト17およびサンギア22の回転数を可変に制御することができる。これにより、エンジンEの出力が伝達されるインプットシャフト5の回転数を任意の変速比で変速してリングギア24から出力することができる。言い換えると、クラッチ装置50を解放状態とした場合、変速装置1は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機(CVT)として機能することができる。
一方、電磁コイル56に通電されて電磁コイル56が励磁状態となると、電磁コイル56の周囲に発生する磁界により、ヨーク55と第二カム部材52との間に吸引力が作用する。ここで、ヨーク55はハウジング4に固定されているため、電磁コイル56が発生させる吸引力により、第二カム部材52がヨーク55に向けて駆動される。つまり、電磁コイル56に電流が流されると、図4に示すように、第二カム部材52に対してヨーク55に向かう駆動力F1が作用する。これにより、第二カム部材52はヨーク55に向けて移動し、ヨーク55と当接する。第二カム部材52およびヨーク55における軸方向に互いに対向する面(摩擦面)は、摩擦係合可能に構成されており、第二カム部材52がヨーク55と当接すると、第二カム部材52とヨーク55とは摩擦係合する。これにより、ヨーク55に対する第二カム部材52の相対回転が規制されることで、第二カム部材52の回転が規制される。
本実施形態では、第二カム部材52とヨーク55とで軸方向に相対移動して係合または解放する一対の係合部材が構成されている。また、電磁コイル56は、入力される指令値に応じて一対の係合部材の少なくともいずれか一方に対して他方に向かう駆動力を作用させる駆動手段として機能する。
第二カム部材52の回転が規制されると、第一カム部材51は、第二カム部材52に対して相対回転する。これにより、図4に示すように、転動体57が、第一カム部材51のカム面53と、第二カム部材52のカム面54とにおける回転方向に互いに対向する部分にそれぞれ当接し、第一カム部材51の更なる回転を規制する。このため、第一カム部材51が第二カム部材52に対して相対回転することが規制され、第一カム部材51の回転が規制される。以下の説明において、ヨーク55と第二カム部材52とが摩擦係合している状態をクラッチ装置50の「係合状態」と記述し、特に、摩擦係合により相対回転が規制されてヨーク55に対して第二カム部材52が相対回転していない状態を「完全係合状態」と記述する。
第一カム部材51の回転が規制されると、中空シャフト17および第2遊星歯車機構21のサンギア22の回転も規制される。図6は、クラッチ装置50が完全係合状態である場合の第2遊星歯車機構21の共線図である。クラッチ装置50が完全係合状態である場合、サンギア22の回転が規制され、サンギア22の回転数が0に固定される。このようにサンギア22の回転が規制されることで、第2遊星歯車機構21において、プラネタリキャリア25の回転数とリングギア24の回転数との比(回転比)が固定される。このとき、エンジンEの回転軸とドライブシャフト38との回転比の変動が規制される。つまり、サンギア22は、エンジンEの回転軸とハイブリッド車両の駆動軸との回転比の変動を規制する規制手段として機能し、第二カム部材52とヨーク55とは、係合することでサンギア22により上記回転比の変動を規制させる。クラッチ装置50を完全係合状態とすることで、変速装置1において、エンジンEの出力が伝達されるインプットシャフト5の回転数とリングギア24の回転数との変速比を固定した固定段走行モードを実現することができる。固定段走行モードでは、無段変速機として機能する場合と比較して変速装置1における損失が低減されることで、燃費の向上が可能となる。
クラッチ装置50の完全係合状態において、電磁コイル56への通電が停止され、電磁コイル56が非励磁の状態とされると、第二カム部材52とヨーク55との間には、電磁力による吸引力が作用しなくなる。これにより、第二カム部材52は、付勢手段の付勢力により第一カム部材51に向けて軸方向に移動し、ヨーク55から離間する。第二カム部材52とヨーク55とは、摩擦係合した状態から、軸方向に離間して相対回転可能な状態となり、第二カム部材52の回転は規制されなくなる。よって、第二カム部材52は、転動体57を介して第一カム部材51から伝達される動力により回転する。これにより、変速装置1は、インプットシャフト5の回転数とリングギア24の回転数との変速比を固定した固定段走行モードから、変速比を連続的に変更可能な無段変速モードへ移行する。
クラッチ装置50を解放状態として変速装置1を無段変速機として機能させるか、クラッチ装置50を完全係合状態として固定段走行モードとするかは、車両の走行状態に応じて決定される。ここで、走行状態とは、例えば、車速や負荷等であり、制御部100は走行状態が予め定められた所定の走行状態である場合にクラッチ装置50を係合させる制御を行う。所定の走行状態としては、例えば、車速が高車速である場合が含まれる。
制御部100は、走行状態に基づいてクラッチ装置50を係合させると判定した場合、クラッチ装置50を係合させる制御を実行する。制御部100は、解放されたクラッチ装置50を係合させる係合時には、電磁コイル56に大きな電流を流し、クラッチ装置50が係合した後には、電磁コイル56に流す電流値を係合時と比較して小さな電流値とする。また、制御部100は、完全係合状態のクラッチ装置50を解放状態とすると判定した場合、クラッチ装置50を解放させる制御(解放制御)を実行する。制御部100は、解放制御として、電磁コイル56に流す電流値を0とし、第二カム部材52に対して電磁力による駆動力が作用しない状態とする。これにより、第二カム部材52がヨーク55から離間し、クラッチ装置50が解放される。
ここで、クラッチ装置50を完全係合状態とするべく電磁コイル56に対する通電の指令がなされたにもかかわらず、クラッチ装置50が完全係合状態とならない異常が発生する場合が考えられる。以下の説明において、クラッチ装置50を完全係合状態とする制御がなされたにもかかわらず、クラッチ装置50が解放状態のままである異常のことを「オフ故障」と記述する。
オフ故障が起こる原因としては、以下のようなものが考えられる。
(1)制御部100とクラッチ装置50の駆動回路との間、あるいは、駆動回路と電磁コイル56との間の配線の破断。
(2)何らかの原因による電磁コイル56の抵抗値の上昇による電磁力(推力)の減少。
(3)異物の挟まりや、吸引物の傾き等による、アーマチュアの途中停止。
(1)の原因については、制御部100や駆動回路のモニタ機能で管理可能である。つまり、配線の破断が生じてクラッチ装置50が完全係合状態とならない場合に、その原因が配線の破断によるものと特定可能である。
(2)の原因でクラッチ装置50が完全係合しないのであれば、電磁コイル56に供給する電流値を上げれば、正常にクラッチ装置50を完全係合状態とできる場合がある。つまり、クラッチ装置50を完全係合状態とするために必要な電流の定常値が上昇しているだけであれば、電流値の調整により、正常に係合・解放させられる状態に復帰可能である。
(3)の原因でクラッチ装置50が完全係合しない場合、オフ故障の発生は一時的なものであり、オフ故障の原因である異物の挟まりや吸引物の傾きが解消すれば、正常復帰する可能性がある。
本実施形態では、オフ故障が検出された場合、電磁コイル56に流す電流である印加電流iを増加させる。これにより、クラッチ装置50の係合を促進させる。例えば、異物の挟まりや傾きにより、第二カム部材52がヨーク55に吸引されて移動する途中で停止した(引掛かった)ような場合に、吸引力を増加させて引掛かりを解消させることが可能となる。また、電磁コイル56の抵抗値が初期の値(設計値)から上昇し、吸引力が不足しているような場合に、印加電流iを増加させることで、駆動力F1を増加させ、クラッチ装置50を完全係合させることが可能となる。
図1を参照して本実施形態の動作について説明する。
まず、ステップS10では、制御部100により、「MG1ロック条件」が成立していることが確認される。MG1ロックとは、クラッチ装置50を完全係合させて第1のモータジェネレータ6の回転およびサンギア22の回転を規制(ロック)することであり、変速装置1を固定段走行モードとすることである。つまり、ステップS10では、クラッチ装置50を完全係合させて変速装置1においてプラネタリキャリア25の回転数とリングギア24の回転数との比を固定させる条件が成立していることが確認される。制御部100は、例えば、車両の走行状態に基づいてMG1ロック条件が成立していることを確認する。
次に、ステップS20では、制御部100によりMG1ロック係合制御が実行される。制御部100は、電磁コイル56に電流を供給して第二カム部材52に駆動力F1を作用させるために、電磁コイル56に供給する印加電流iの指令値を設定する。ここで、設定される印加電流iの大きさは、本制御フローの実行回数をカウントする連続オフ故障カウンタIの値によって可変に設定される。この連続オフ故障カウンタIは、電磁コイル56に供給する印加電流iの指令値をクラッチ装置50に入力したにもかかわらず、クラッチ装置50が完全係合状態とならなかった回数をカウントするものである。制御部100は、図7を参照して説明するように、連続オフ故障カウンタIの値が大きな値であるほど印加電流iの指令値を大きな値に設定する。
図7は、オフ故障の検知回数と印加電流iとの関係の一例を示す図である。制御部100は、連続オフ故障カウンタIが初期値の0である場合、印加電流iの指令値として、クラッチ装置50を完全係合状態とする印加電流iの指令値として予め設定された係合時電流(所定指令値)i1を設定する。この係合時電流i1は、計算結果あるいは適合実験の結果等に基づいて設定されるものであり、クラッチ装置50を完全係合状態とするための適切な駆動力F1を発生させることができる値として予め定められている。つまり、制御部100は、連続オフ故障カウンタIが0であるときに、一対の係合部材を完全係合状態とする指令値として予め設定された所定指令値を駆動手段としての電磁コイル56に入力する係合制御を実行する。
クラッチ装置50に印加電流iの指令値を入力してもクラッチ装置50が完全係合状態とならないオフ故障が検知された場合、図7に示すように、オフ故障が検知されるごとに係合時電流i1から段階的に印加電流iを増加させていく。オフ故障が検知されるごとに連続オフ故障カウンタIが1加算され、連続オフ故障カウンタIの増加に応じて印加電流iの指令値がi2、i3と順次大きくされる。ここで、電磁コイル56が励磁状態とされることで発生する電磁力(駆動力F1)は、印加電流iが大きいほど大きな力となる。たとえば、図7に符号i2で示す電流値に対応する駆動力F1は、係合時電流i1に対応する駆動力F1と比較して大きい。つまり、本実施形態では、クラッチ装置50が完全係合状態とならない場合には、印加電流iを増加させることでより大きな駆動力F1を第二カム部材52に作用させる。
後述するように、印加電流iは、クラッチ装置50が完全係合状態となるまで増加される。つまり、制御部100は、クラッチ装置50が完全係合状態であると判定されない間、駆動力F1が段階的に増加するように印加電流iの指令値を変化させる。印加電流iが予め定められた最大値に達しても完全係合状態とならない場合には、クラッチ装置50の機械的な故障(復帰不能な故障)と判定される。ステップS20で連続オフ故障カウンタIに応じた印加電流iの指令値が設定されると、ステップS30に進む。
ステップS30では、制御部100により、ロック電流がオンとされる。制御部100は、ステップS20で設定した印加電流iの指令値を電磁コイル56の制御回路に出力する。制御回路は、電磁コイル56に流れる電流値が、入力された指令値となるように、電磁コイル56への電流の供給を制御する。電磁コイル56に電流が供給されることで、電磁コイル56が励磁状態となり、第二カム部材52には電磁力による駆動力F1が作用する。
次に、ステップS40では、制御部100により、クラッチ装置50が正常に係合したか否かが判定される。制御部100は、例えば、レゾルバ41の検出結果に基づいてステップS40の判定を行う。制御部100は、レゾルバ41の検出結果を示す信号に基づいて、中空シャフト17の回転の状態を検出する。中空シャフト17が回転している場合には、第二カム部材52が回転している、すなわち、クラッチ装置50が完全係合していないと判定することができる。制御部100は、レゾルバ41の検出結果に基づいて、中空シャフト17の回転が検出された場合、ステップS40において否定判定を行い、中空シャフト17の回転が検出されない場合、肯定判定を行う。その判定の結果、クラッチ装置50が正常に係合した(完全係合した)と判定された場合(ステップS40−Y)にはステップS80に進み、そうでない場合(ステップS40−N)にはステップS50に進む。
ステップS50では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIがインクリメントされる。制御部100は、連続オフ故障カウンタIに1を加算した値(I+1)を連続オフ故障カウンタIに代入する。
次に、ステップS60では、CVT走行制御がなされる。制御部100は、印加電流iの指令値を0に設定し、クラッチ装置50を解放状態とする。これにより、変速装置1は、CVTとして機能することができる。ハイブリッド車両では、変速装置1をCVTとして機能させて走行する走行制御であるCVT走行制御が行われる。
次に、ステップS70では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIが予め定められた判定回数αよりも大であるか否かが判定される。この判定回数αは、クラッチ装置50において機械的な故障(正常復帰できない故障)が発生しているか否かを判定するための値である。判定回数αは、例えば、電磁コイル56に供給する印加電流iについて予め設定された上限値に基づいて設定される。判定回数αは、連続オフ故障カウンタIが判定回数αである場合に、印加電流iの指令値が印加電流iの上限値となるように設定される。これにより、印加電流iの指令値を上限値まで増加させてもクラッチ装置50が完全係合状態とならない場合に、連続オフ故障カウンタIが判定回数αを超えて故障判定がなされることとなる。ステップS70の判定の結果、連続オフ故障カウンタIが判定回数αよりも大であると判定された場合(ステップS70−Y)にはステップS90に進み、そうでない場合(ステップS70−N)には本制御フローは終了する。
ステップS90では、制御部100により、クラッチ装置50の機械的な故障(復帰不能な故障)であるとの判定がなされる。制御部100は、コーションランプを点灯させ、かつ、MG1ロックを禁止する。コーションランプは、運転者にクラッチ装置50の機械的な故障を知らせる警告手段として設けられるものであり、たとえば、運転者の前方のインストルメントパネルに設置されている。制御部100は、コーションランプを点灯させて運転者に警告すると共に、クラッチ装置50の係合を禁止する。これにより、ハイブリッド車両では固定段走行モードへの移行は禁止され、CVT走行制御がなされる。ステップS90が実行されると、本制御フローは終了する。
なお、ステップS40で肯定判定がなされてステップS80に進むと、ステップS80では、ロック走行制御への移行がなされる。クラッチ装置50が完全係合状態となることで、サンギア22の回転が規制され、変速装置1は、インプットシャフト5の回転数とリングギア24の回転数との変速比を固定した固定段走行モードとなる。ハイブリッド車両では、変速装置1の変速比が固定された状態での走行制御であるロック走行制御が行われる。クラッチ装置50が完全係合状態となったことで、制御部100は、連続オフ故障カウンタIをリセットして初期値0に設定する。ステップS80が実行されると、本制御フローは終了する。
以上説明したように、本実施形態によれば、クラッチ装置50を係合させるときの印加電流iの初期値である係合時電流i1を電磁コイル56に供給してもクラッチ装置50が完全係合状態とならない場合、印加電流iの指令値が大きな値に変更される。これにより、第二カム部材52に作用する駆動力F1を増加させ、クラッチ装置50を完全係合状態としやすくする。さらに、印加電流iの指令値を増加させても完全係合状態となったことが検知されない場合には、段階的に駆動力F1が増加するように、印加電流iの指令値を変化させる。よって、クラッチ装置50を完全係合状態とするために適切な駆動力F1を第二カム部材52に作用させることができる。
また、連続オフ故障カウンタIが所定回数αよりも大となった場合には、駆動力F1を増加させてもクラッチ装置50を完全係合状態とすることができない、あるいは、印加電流iの指令値を増加させても駆動力F1が増加しない等の機械的な故障が生じていると判定する。これにより、印加電流iの指令値を増加させることなく、指令値として係合時電流i1をクラッチ装置50に入力したのみで故障判定を行う場合と比較して、故障判定の精度を向上させることができる。
一時的な引掛かりなど、駆動力F1を増加させれば解消して正常に復帰するような軽微な不具合であるにもかかわらずクラッチ装置50の機械的な(復帰不能な)故障であると判定してしまうような誤判定を抑制することができる。
なお、本実施形態では、クラッチ装置50のアクチュエータが、供給される電流による電磁力で第二カム部材52を駆動する電磁コイル56である場合について説明したが、一対の係合部材としてのヨーク55と第二カム部材52とを係合させる駆動力を発生させるアクチュエータは、これには限定されない。一対の係合部材に作用させる駆動力を可変に制御可能な公知のアクチュエータを有するクラッチ装置に対して、本実施形態のクラッチ制御装置を適用可能である。
(第2実施形態)
図8を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記第1実施形態では、オフ故障の連続発生回数をカウントする連続オフ故障カウンタIに基づいて、クラッチ装置50の機械的な故障が判定された。本実施形態では、これに加えて、オフ故障の累積発生回数に基づいてクラッチ装置50の機械的な故障の判定がなされる。これにより、駆動力F1を増加させればクラッチ装置50が完全係合するものの、オフ故障が繰り返し発生する場合に、クラッチ装置50の機械的な故障と判定することができる。
図8は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
ステップS110からステップS140までは、上記第1実施形態(図1)のステップS10からステップS40までと同様とすることができる。すなわち、ステップS110で「MG1ロック条件」が成立していることを確認すると、ステップS120でMG1同期制御がなされる。制御部100は、印加電流iの指令値を設定する。このときの印加電流iの指令値は、上記第1実施形態と同様に、連続オフ故障カウンタIに応じて可変に設定される。また、制御部100は、MG1ロックに備えて、第1のモータジェネレータ6の回転を停止させるMG1同期制御を実行する。
ステップS130では、制御部100は、ロック電流をオンとし、アクチュエータを作動させる。制御部100は、ステップS120で設定した印加電流iの指令値を電磁コイル56の制御回路に出力する。ステップS140では、制御部100は、クラッチ装置50の完全係合が検知されたか否かを判定する。その判定の結果、クラッチ装置50の完全係合が検知された場合(ステップS140−Y)にはステップS180に進み、そうでない場合(ステップS140−N)にはステップS150に進む。
ステップS150では、制御部100により、オフ故障が検知される。制御部100は、累積オフ故障カウンタkに1を加算した値(k+1)を累積オフ故障カウンタkに代入する。この累積オフ故障カウンタkは、オフ故障が検知された回数の累積値をカウントするものである。累積オフ故障カウンタkは、連続オフ故障カウンタIとは異なり、クラッチ装置50の完全係合状態が検知されてもリセットされない。
次に、ステップS160では、制御部100により、「連続オフ故障カウンタIが判定回数αよりも大」あるいは「累積オフ故障カウンタkが累積判定回数γよりも大」の少なくともいずれか一方が成立しているか否かが判定される。ここで、累積判定回数γは、累積オフ故障カウンタkに基づいてクラッチ装置50の機械的な故障を判定するための予め定められた判定値である。累積判定回数γは、判定回数αよりも大きな値に設定されている。つまり、制御部100は、印加電流iの指令値を変更した回数としての連続オフ故障カウンタIおよび累積オフ故障カウンタkに基づいてクラッチ装置50の機械的な故障を判定する。
ステップS160の判定の結果、「連続オフ故障カウンタIが判定回数αよりも大」あるいは「累積オフ故障カウンタkが累積判定回数γよりも大」の少なくともいずれか一方が成立していると判定された場合(ステップS160−Y)にはステップS190に進み、そうでない場合(ステップS160−N)にはステップS170に進む。
ステップS170では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIに1を加算した値(I+1)が連続オフ故障カウンタIに代入される。また、オフ故障が検知されているため、クラッチ装置50が解放され、CVT走行が実行される。ステップS170が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS190では、制御部100により、クラッチ装置50の機械的な故障(復帰不能な故障)であるとの判定がなされる。制御部100は、コーションランプを点灯させ、かつ、MG1ロックを禁止する。ステップS190が実行されると、本制御フローは終了する。
なお、ステップS140で肯定判定がなされてステップS180に進むと、ステップS180では、ロック走行制御への移行がなされる。制御部100は、連続オフ故障カウンタIをリセットして初期値0に設定する。ステップS180が実行されると、本制御フローは終了する。
本実施形態では、「累積オフ故障カウンタkが累積判定回数γよりも大」の条件が成立している場合に、クラッチ装置50の機械的な故障と判定したが、さらに、クラッチ装置50の故障判定を行うパラメータとして、クラッチ装置50が完全係合状態と判定されたときの連続オフ故障カウンタIの推移を加えてもよい。例えば、印加電流iの指令値を増加させることでクラッチ装置50が完全係合状態となるものの、完全係合状態とするために必要な印加電流iが増加していく(完全係合状態と判定されたときの連続オフ故障カウンタIの値が時間の経過と共に増加していく)場合には、故障の程度が進んでいると推定できる。この場合に、クラッチ装置50の機械的な故障と判定することで、クラッチ装置50の故障の程度が進みすぎる前に運転者に警告し対処を促すことができる。
(第3実施形態)
図9および図10を参照して第3実施形態について説明する。第3実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の制御が、上記各実施形態の制御と異なる点は、オフ故障が発生したときに駆動力F1を増加させる制御で復帰した回数やその頻度に基づいてクラッチ装置50の故障判定を行う点、および、オフ故障が発生した後にオフ故障を発生することなく正常に完全係合した回数に基づいて異常なしの判定を行う点である。
図9および図10は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS210では、制御部100により、オフ故障復帰カウンタrが0であるか否かが判定される。このオフ故障復帰カウンタrは、オフ故障が発生し、印加電流iを増加させる制御によりクラッチ装置50が完全係合した回数をカウントするものである。つまり、オフ故障復帰カウンタrが0である場合、これまでに駆動力F1を増加させる制御が実行されていないことを示す。ステップS210の判定の結果、オフ故障復帰カウンタrが0であると判定された場合(ステップS210−Y)にはステップS220に進み、そうでない場合(ステップS210−N)にはステップS270へ進む。
ステップS220では、制御部100により、図10に示すロック係合フローが実行される。ロック係合フローのステップS410からステップS470までの動作は、上記第2実施形態(図8)のステップS110からステップS170までと同様であることができる。すなわち、ステップS410で「MG1ロック条件」が成立していることを確認すると、ステップS420で印加電流iの指令値が設定され、ステップS430では、ロック電流がオンとされて電磁コイル56に指令値に応じた印加電流iが流される。ステップS440では、制御部100により、クラッチ装置50の完全係合状態が検知されたか否かが判定される。その判定の結果、クラッチ装置50の完全係合状態が検知されたと判定された場合(ステップS440−Y)にはステップS480に進み、そうでない場合(ステップS440−N)にはステップS450に進む。
ステップS450では、制御部100により、オフ故障が検知され、累積オフ故障カウンタkが1加算される。
次に、ステップS460では、制御部100により、クラッチ装置50の機械的な故障であるか否かが判定される。「連続オフ故障カウンタIが判定回数αよりも大」あるいは「累積オフ故障カウンタkが累積判定回数γよりも大」の少なくともいずれか一方が成立していると判定された場合(ステップS460−Y)には、図9のステップS350に進み、そうでない場合(ステップS460−N)にはステップS470に進む。
ステップS470では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIが1加算される。オフ故障が検知されているため、クラッチ装置50が解放され、CVT走行が実行される。ステップS470が実行されると、本制御フローは終了し、図9のステップS230に進む。
また、ステップS440で肯定判定がなされてステップS480に進むと、ステップS480では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIの値が制御部100のメモリに格納され、次いで、連続オフ故障カウンタIが初期値0にリセットされる。このときにメモリに格納される値は、クラッチ装置50が完全係合状態であると判定された(完全係合した)ときの連続オフ故障カウンタIの値である。クラッチ装置50は完全係合状態となり、通常ロック走行(ロック走行制御)へ移行する。ステップS480が実行されると、本制御フローは終了し、図9のステップS230に進む。
図9へ戻り、ステップS230では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIが0であるか否かが判定される。制御部100は、図10のロック係合フローでメモリに格納された連続オフ故障カウンタIの値に基づいてステップS230の判定を行う。連続オフ故障カウンタIが0であるとは、ロック係合フローでオフ故障が検知されることなくクラッチ装置50が完全係合状態となったことを意味する。ステップS230の判定の結果、連続オフ故障カウンタIが0であると判定された場合(ステップS230−Y)にはステップS240に進み、そうでない場合(ステップS230−N)にはステップS300に進む。
ステップS240では、ロック走行制御がなされる。ロック走行制御の実行中に、MG1ロックを解除する指令がなされると、ステップS250でクラッチ装置50の解放制御が実行される。制御部100は、印加電流iの指令値を0とし、クラッチ装置50を解放させる。クラッチ装置50が解放されると、ステップS260でCVT走行制御がなされる。ステップS260が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS210で否定判定がなされてステップS270に進むと、ステップS270では、図10のロック係合フローが実行される。ロック係合フローが実行されると、ステップS280において、復帰制御後ロック移行カウンタmが1加算される。この復帰制御後ロック移行カウンタmは、オフ故障の発生後にステップS260でロック係合フローが実行された回数を示す。言い換えると、復帰制御後ロック移行カウンタmは、オフ故障の発生履歴がある状態で、クラッチ装置50の完全係合を試みた回数を示す。
ステップS290では、制御部100により、連続オフ故障カウンタIが0のままでクラッチ装置50が完全係合したか否かが判定される。制御部100は、ステップS270で実行されたロック係合フローでメモリに格納された連続オフ故障カウンタIの値に基づいてステップS290の判定を行う。その判定の結果、連続オフ故障カウンタIが0のままでクラッチ装置50が完全係合したと判定された場合(ステップS290−Y)にはステップS310に進み、そうでない場合(ステップS290−N)にはステップS300に進む。
ステップS290で否定判定がなされて、あるいはステップS230で否定判定がなされてステップS300に進むと、ステップS300では、制御部100により、オフ故障から復帰したと判定される。制御部100は、オフ故障復帰カウンタrを1加算する。ステップS300が実行されると、ステップS270へ移行し、ロック係合フローを実行する。
ステップS290で肯定判定がなされてステップS310に進むと、ステップS310では、制御部100により、MG1ロックが正常に実行されたと判定され、復帰後正常係合カウンタJが1加算される。この復帰後正常係合カウンタJは、オフ故障の発生履歴がある状態で、ステップS270のロック係合フローが実行され、オフ故障が検知されることなくクラッチ装置50が完全係合した回数を示す。言い換えると、復帰後正常係合カウンタJは、過去にオフ故障が発生し、駆動力F1を増加させて完全係合状態に復帰させたものの、その後にオフ故障が発生することなくクラッチ装置50が完全係合した回数である。
ステップS320では、制御部100により、復帰後正常係合カウンタJが正常判定回数βよりも大であるか否かが判定される。正常判定回数βは、クラッチ装置50において機械的な故障が生じておらず正常に機能しているか否かを判定するための値である。その判定の結果、復帰後正常係合カウンタJが正常判定回数βよりも大であると判定された場合(ステップS320−Y)にはステップS330に進み、そうでない場合(ステップS320−N)にはステップS340に進む。
ステップS330では、制御部100により、クラッチ装置50のハードが正常であると判定され、復帰後正常係合カウンタJが初期値0にリセットされる。ステップS330が実行されると、ステップS240に進む。
ステップS320で否定判定がなされてステップS340に進むと、制御部100により、「オフ故障復帰カウンタrが判定回数Δよりも大」あるいは「故障検知頻度が判定値Sよりも大」の少なくともいずれか一方が成立しているか否かが判定される。「オフ故障復帰カウンタrが判定回数Δよりも大」である場合には、何回もオフ故障が発生し、その度に復帰制御で完全係合する状態であり、機械的に何らかの不具合があると判断することができる。「故障検知頻度が判定値Sよりも大」における故障検知頻度とは、クラッチ装置50の完全係合を試みたうち、オフ故障が発生して駆動力F1を増加させることで完全係合した頻度を示すものであり、具体的には、オフ故障復帰カウンタrと復帰制御後ロック移行カウンタmとの比(r/m)である。言い換えると、故障検知頻度は、印加電流iの指令値を係合時電流i1から変更した頻度を示す。
故障検知頻度が大きいことは、MG1ロックへ移行しようとするときに、高い頻度でオフ故障が発生する(印加電流iを増加させる復帰制御を実行しないと完全係合状態に復帰しないことが頻繁である)ことを示しており、機械的に何らかの不具合があると判断することができる。このように故障検知頻度に基づいてクラッチ装置50の故障判定を行うことにより、復帰制御で復帰可能なうちにクラッチ装置50の不具合について運転者に警告することができる。なお、「故障検知頻度が判定値Sよりも大」であるか否かの判定は、復帰制御後ロック移行カウンタmが、予め定められた所定値Pよりも大である場合に限り行われる。これは、クラッチ装置50の完全係合を試みた回数(分母)が少なすぎると、故障検知頻度が安定しないためである。ステップS340の判定の結果、「オフ故障復帰カウンタrが判定回数Δよりも大」あるいは「故障検知頻度が判定値Sよりも大」の少なくともいずれか一方が成立すると判定された場合(ステップS340−Y)にはステップS350に進み、そうでない場合(ステップS340−N)にはステップS240に進む。
ステップS340で肯定判定がなされて、あるいはロック係合フロー(図10)のステップS460で肯定判定がなされてステップS350に進むと、ステップS350では、制御部100により、クラッチ装置50の機械的な故障(復帰不能な故障)であるとの判定がなされる。制御部100は、コーションランプを点灯させ、かつ、MG1ロックを禁止する。ステップS350が実行されると、ステップS260に進み、CVT走行制御へ移行する。
なお、「オフ故障復帰カウンタrが判定回数Δよりも大」であるか否かの判定や、「故障検知頻度が判定値Sよりも大」であるか否かの判定は、図9に示す以外のタイミングで実行されてもよい。例えば、復帰制御後ロック移行カウンタmの更新後(ステップS280とS290の間)や、オフ故障復帰カウンタrの更新後(ステップS300とS270の間)のタイミングでこれらの判定がなされてもよい。
(第4実施形態)
図11を参照して第4実施形態について説明する。第4実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の制御が、上記各実施形態の制御と異なる点は、オフ故障が発生して復帰制御により復帰した場合に、復帰したときの印加電流iに基づいて、係合時電流i1が更新される点である。配線の抵抗値の変化等により、印加電流iの指令値が同じであっても、実際に発生する電磁力(駆動力F1)が低下している場合がある。このような場合、MG1ロックへ移行する場合に、クラッチ装置50を完全係合状態とするために、毎回印加電流iを増加させていく復帰制御を行わなければならない。これに対して、完全係合した時の印加電流iに基づいて、クラッチ装置50を係合させるときの印加電流iの指令値の初期値を変化させていくことで、適切な印加電流iを設定して速やかにクラッチ装置50を完全係合させることができる。
図11は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
ステップS510からステップS570まで、およびステップS610は、第1実施形態(図1)のステップS10からステップS70まで、およびステップS90とそれぞれ同様であることができる。すなわち、ステップS510で「MG1ロック条件」が成立していることが確認され、ステップS520で連続オフ故障カウンタIに応じた印加電流iが設定され、ステップS530でロック電流がオンされると、ステップS540でクラッチ装置50が正常に係合したか否かが判定される。その判定の結果、クラッチ装置50が正常に係合したと判定された場合(ステップS540−Y)にはステップS580に進み、そうでない場合(ステップS540−N)にはステップS550に進む。
ステップS580では、制御部100により、前回復帰時の連続オフ故障カウンタIの値と、現在の連続オフ故障カウンタIとが比較される。制御部100は、後述するステップS600において、クラッチ装置50が完全係合したときの連続オフ故障カウンタIの値を前回連続オフ故障回数Tとして記憶している。連続オフ故障カウンタIが前回連続オフ故障回数Tの近傍の回数であるときにクラッチ装置50が完全係合した場合には、完全係合に必要な印加電流iが、係合時電流i1と異なる一定の値にシフトしたと推定することが可能である。
制御部100は、完全係合したときの連続オフ故障カウンタIが、前回連続オフ故障回数Tの前後一定の回数の範囲にある場合に、係合時電流i1を更新する。具体的には、連続オフ故障カウンタIが、前回連続オフ故障回数Tから所定値nを減じた値よりも大きく、前回連続オフ故障回数Tに所定値nを加えた値以下である場合に、ステップS580で肯定判定がなされてステップS590で係合時電流i1の更新がなされる。言い換えると、クラッチ装置50が完全係合状態であると判定された場合、完全係合状態であると判定されたときの印加電流iの指令値に基づいて、所定指令値としての係合時電流i1が更新される。現在の連続オフ故障カウンタIが、前回連続オフ故障回数Tの前後一定の回数の範囲にない場合には、係合時電流i1を更新することが適当ではないため、係合時電流i1は更新されない。ステップS580の判定の結果、現在の連続オフ故障カウンタIが、前回連続オフ故障回数Tの前後一定の回数の範囲にあると判定された場合(ステップS580−Y)にはステップS590に進み、そうでない場合(ステップS580−N)にはステップS600に進む。
ステップS590では、制御部100により、係合時電流i1が更新される。制御部100は、係合時電流i1を、連続オフ故障カウンタIが前回連続オフ故障回数Tの値である場合に設定される印加電流iの値で更新する。これにより、次回のMG1ロック係合制御では、印加電流iの指令値の初期値がクラッチ装置50の完全係合に必要な下限値に近い値となり、速やかにクラッチ装置50を完全係合させることができる。係合時電流i1が、クラッチ装置50の完全係合に必要な下限値未満であったとしても、完全係合状態に至るまでの連続オフ故障カウンタIのカウント数が低減し、MG1ロックの応答性が向上する。
次に、ステップS600では、制御部100により、現在の連続オフ故障カウンタIの値が、前回連続オフ故障回数Tに代入される。次いで、連続オフ故障カウンタIが初期値0にリセットされる。ステップS600が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS540で否定判定がなされた場合の動作(ステップS550からS570、およびS610)については、上記第1実施形態のステップS50からS70、およびS90と同様であることができるため、説明を省略する。
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。第5実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記第4実施形態では、クラッチ装置50が完全係合したときの印加電流iに基づいて係合時電流i1が更新されることにより、速やかにクラッチ装置50を完全係合状態とさせることが可能となった。しかしながら、何らかの理由で係合時電流i1が過大な電流値に更新された場合には、損失が増大してしまう虞がある。たとえば、一過性の原因により、復帰制御において連続して大きな電流値で完全係合したことで、係合時電流i1が大きな値に更新されてしまうような場合が想定できる。この場合に、係合時電流i1が更新された後で一過性の原因が解消し、クラッチ装置50を完全係合させるために大きな印加電流iが必要なくなったときには、係合時電流i1を適切な値に下げることができることが望ましい。
本実施形態では、MG1ロック係合制御を行う場合に、何サイクルかに1回、印加電流iの初期値を係合時電流i1よりも小さな電流値(係合時電流i1に対応する駆動力F1よりも小さな駆動力F1に対応する値)に設定する。このサイクルにおいて、係合時電流i1よりも小さな印加電流iでクラッチ装置50が完全係合した場合には、そのときの印加電流iで係合時電流i1を更新する。これにより、クラッチ装置50の状態の変化に応じて、係合時電流i1を適切な値に更新していくことが可能となる。よって、MG1ロック係合制御の高い応答性を維持しつつ、クラッチ装置50における損失の増大を抑制することができる。
なお、係合時電流i1よりも小さな電流値を印加電流iの指令値として設定することは、クラッチ装置50が完全係合したときの印加電流iに基づいて係合時電流i1が更新された後の係合制御において少なくとも1回行われればよいが、定期的に行われることが好ましい。