JP5302273B2 - 多孔性構造体を具備する医療用装置又は器具 - Google Patents

多孔性構造体を具備する医療用装置又は器具 Download PDF

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Description

本発明は、生体内に長期間留置して使用できる医療用装置又は器具であって、血栓アンカリング機能を有する多孔性構造体を具備する医療用装置又は器具、並びにそれの製造法および使用法に関する。
近年、心不全等の疾患によって心機能が低下した場合には、人工心臓等を用いて全身の血液循環を補助することが行われており、補助人工心臓装置についても、心疾患、外傷又は心臓発作等により失われた心臓機能が回復する間もしくは心臓移植を待つ間の一時的な心臓機能の置き換え、あるいは恒久的な心臓機能の置き換えとして患者の生命を維持する重要性が認知されている。
特に、左心補助人工心臓装置は、鬱血性心不全患者の症状改善に非常に効果的であることが広く知られている。左心補助人工心臓装置は、長期の循環サポートを必要とする重度鬱血性心不全の、例えば、一時的に又は恒久的に心臓移植のできない患者の最後の治療として開発されてきた。左心補助人工心臓装置は、肺で酸素を取り込み戻ってきた血液を全身へ送り出す左心室の機能を代替することが可能であり、患者の心臓と血管に取り付けられ、自然の心臓が回復した場合には取り除くことが可能である。
一般的な補助人工心臓装置は、主に、血液ポンプ、コントローラ、バッテリ、カニューレおよびアウトフローグラフト等の装置・器具等から構成される。これらは外科的に患者の胸部空腔に埋め込まれるが、その際、心室(左心室もしくは右心室)又は心房(左心房もしくは右心房)にカニューレを挿入し、脱血して、血液ポンプで流れを作り、アウトフローグラフトを介して大動脈へ血液を戻す。これによって、心機能が低下した患者における血液循環を担保することが可能である。
ここで、人工心臓や補助人工心臓装置は長期間生体内に留置させるものであるため、これらを構成する各装置・器具に対しては、生体内において長期間安定した構造を維持できるだけの機械的強度が要求される。これらの装置・器具の一部が破損し、その破損片等が血液中に脱落してしまった場合には、塞栓症を引き起こす可能性があるため、このような機械的強度は厳格に保証されていなければならない。
さらに、人工心臓や補助人工心臓装置を長期間使用する場合には、上記の機械的強度に加えて、血栓による血行障害も大きな問題となる。例えば、血栓が血液ポンプ内で発生、成長した場合には、血液流路の閉塞又はポンプの停止を来たし、たとえ生じた血栓が微小なものであったとしても、それが万が一剥離した場合には末梢血管を閉塞させ、人命に重篤な危険を及ぼす虞がある。これらの不具合を回避するために、従来から、人工心臓や補助人工心臓装置等を構成する装置や器具等には、抗血栓性を有する材料や表面に抗血栓性手段を施した材料が用いられてきた。
ただし、このような材料を人工心臓や補助人工心臓装置等を構成する装置や器具等に使用したとしても、例えば、心臓に挿入されたカニューレ、すなわち、インフローカニューレの外周面等では血栓が形成しやすい傾向がある。これは、インフローカニューレが心室(左心室もしくは右心室)又は心房(左心房もしくは右心房)内に突出して配置されるためにインフローカニューレ外周面と自己心の内壁の間に空間が生じ、そこに血液が滞留するためであり、流れの遅いところにおいては凝固し易いという血液の性質によるところである。実際に、従来から用いられてきたスムースサーフェイス(smooth surface)、すなわち、研磨等により平滑化された表面を有するチタン製インフローカニューレを心臓に挿入して使用した場合には、短時間のうちにカニューレ表面上に血栓が形成され得ることが判明している。血栓が左心室等の中に脱落してしまうと、直ちに血流に乗って全身に流れ、血管の径が細いところで梗塞を引き起こす虞があり、脳梗塞や腎梗塞等の患者に甚大な影響を及ぼす疾患を引き起こしてしまう虞がある。そして、人工心臓又は補助人工心臓装置を構成するインフローカニューレ以外の他の装置・器具、例えば血液ポンプ(特に血液と接触するポンプ内面)やコネクタ等に関しても、血液が滞留しやすい部位に留置されるものに関しては同様の問題が生じ得る。
このような問題に関して、補助人工心臓装置においては、該補助人工心臓装置を構成する装置・器具等の血液接触面をテクスチャードサーフェイス(textured surface)、すなわち、凹凸や孔を形成させた表面とするか、又は上記装置・器具等の血液接触面上にテクスチャードサーフェイスを有する構造体を別途配置・固定することにより、テクスチャードサーフェイスの凹凸や孔、特に孔によって生じる空隙を利用して血栓を安定的にアンカリングすることが試みられてきた。この血栓のアンカリングによって、血液中への血栓の脱落を防ぐことができ、上記テクスチャードサーフェイスを設ける部位によっては、アンカリングされた血栓の上にさらに内皮細胞が定着することも期待できる。ここで、内皮細胞は極めて高い抗血栓性を発揮することが知られており、血栓形成の防止という観点からは、究極的には補助人工心臓装置内の血液接触面全てを内皮細胞で覆うことが理想的であるとも考えられている。
このようなテクスチャードサーフェイスを補助人工心臓装置に採用した例としては、例えば、非特許文献1に、焼結チタン合金ビーズによって表面をコーティングした拍動型血液ポンプが記載されている。非特許文献1の血液ポンプでは、多数のチタン合金ビーズを血液ポンプの表面に焼結することによって、血液ポンプ上に焼結チタン合金ビーズからなるテクスチャードサーフェイスを形成させており、粒子径分布が75〜150μmの範囲内にあるチタン合金ビーズを使用した場合に最も良好なアンカリング効果を得られることが観察されている。なお、このような粒子径範囲を有する多数のビーズを用いた場合に各ビーズ間に形成される孔の開口面積を、これらのビーズが全て規則正しく配列されていると仮定し、さらに、最小粒子径(75μm)を有するビーズを稠密配列した場合に各ビーズ間に形成される孔が最小になるものとして計算してみると、上記の孔は概ね0.22×10−3mm以上の開口面積を有していることがわかる(これは円直径に換算すると約17μmとなる)。
また、特許文献1には、一部の部品にテクスチャードサーフェイスを採用した血液ポンプが記載されており、この場合にも非特許文献1の場合と同様にチタンビーズを上記部品の表面に焼結することによって形成した焼結チタンビーズ層をテクスチャードサーフェイスとして使用している。
さらに、特許文献2には、血液ポンプを左心室内に直接挿入するタイプの軸流ポンプに関して、焼結チタンビーズ層を有する構造体を血液と接触する血液ポンプ外周面に配置した血液ポンプが記載されている。この場合においても上記の焼結チタンビーズ層がテクスチャードサーフェイスとしての役割を果たしているが、特許文献2に記載の血液ポンプの場合には、チタンビーズはウォールシェル(wall shell)と呼ばれる部材上に血液ポンプとは別個に焼結され、その後、この焼結チタンビーズ層を有するウォールシェルが血液ポンプの外周面上に嵌め込まれている。
なお、上述のように、補助人工心臓装置内の血液接触面全てをテクスチャードサーフェイスを介して内皮細胞で覆うことが抗血栓性を考慮すると理想的であるが、現実には内皮細胞の細胞分裂回数は限られたものであるため、生体組織から距離を隔てている部位までは内皮細胞の伸展が起こらず、従って、補助人工心臓装置内の血液接触面全体を内皮細胞で覆うことは不可能に近い。よって、もし上記血液接触面の全面にテクスチャードサーフェイスを採用した場合には、上記血液接触面の一部は内皮細胞で覆われるが、その他の部位は覆われないというような状態が生じてしまう。テクスチャードサーフェイスのうちで内皮細胞に覆われない部位は、もし血液中に細菌が混入した場合に細菌の温床となってしまい、一度細菌の温床になってしまうと、その部位が正常化する可能性は極めて低く、抗生物質等でも細菌を除去することは難しく、いずれ敗血症を引き起こしてしまう。
従って、現実的には、補助人工心臓装置の血液接触面のうち必要な部位のみにテクスチャードサーフェイスを採用して、その部位のみにおいて血栓のアンカリングが行われる状態および/又はその部位のみが内皮細胞で覆われる状態を作り出し、それ以外の部位に関しては鏡面仕上げおよび/又は抗血栓コーティングを施すことが補助人工心臓装置に関して現時点で最も優れた設計であるということができる。そして、このことを考慮した場合には、補助人工心臓装置を構成する装置・器具もしくは部品ごとにスムースサーフェイス又はテクスチャードサーフェイスのいずれかを適宜選択して製造できることは勿論のこと、1つの装置・器具又は部品中にテクスチャードサーフェイス部分とスムースサーフェイス部分が混在するような装置・器具又は部品を製造できることも必要になる。
米国特許第6050975号明細書 米国特許出願公開第2007/0299297号明細書
H. Harasaki et al,. Powdered Metal Surface for Blood Pump. Trans Am Soc Artif Intern Organs, 1979; 25;225−230.
本発明の第一の課題は、堅牢な構造を持ち、血栓のアンカリング効果を持ち、それにより内皮細胞の定着を可能とし、さらに、製造過程での変形や寸法精度の低下がない、血液循環補助装置用インフローカニューレを提供することである。
本発明の第二の課題は、さらに、均一な開口面積や開口形状を有する孔によって形成されるテクスチャードサーフェイスを有し、それによって、向上した血栓のアンカリング効果、それゆえより安定した内皮細胞の定着をもたらす、上記インフローカニューレを提供することである。
本発明の第三の課題は、機械的強度が一層高く、かつ適用部位への挿入の容易さが向上された、上記インフローカニューレを提供することである。
本発明の第四の課題は、さらに、インフローカニューレ先端部への細胞の過剰増殖を首尾良く抑制することができる、血液循環補助装置用インフローカニューレを提供することである。
本発明の第五の課題は、製造過程において構造体の変形を招かず、高い寸法精度を保障する、インフローカニューレの製造方法を提供することである。
本発明の第六の課題は、堅牢な構造を持ち、血栓のアンカリング効果を持ち、さらに、製造過程での変形や寸法精度の低下がない、血液循環補助装置における導管と血液ポンプとを連結するためのコネクタを提供することである。
本発明のさらなる課題は、上記インフローカニューレを具備する導管アセンブリおよび補助人工心臓装置、並びに上記インフローカニューレを製造および使用する方法を提供することである。
本願発明の他の課題は、以下の記載から明らかとなろう。
上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、線条から多孔性の構造体を形成するか、又は多孔性成形体を用いることにより、上記の課題が達成できることを見出した。
従って、本発明は、上記第一の課題に対応して、一部又は全体が多孔性構造体からなる血液循環補助装置用インフローカニューレであって、この多孔性構造体が線条から形成されるものであるか、又は多孔性成形体からなる、上記インフローカニューレに関する。
さらに、本発明は、上記第二の課題に対応して、上記多孔性構造体が、1本又は2本以上の線条を中空管状体が形成されるように螺旋状に巻いてなる、上記インフローカニューレに関する。
さらに、本発明は、上記第三の課題に対応して、半径方向内側に非孔性支持体をさらに具備した、上記インフローカニューレに関する。
さらに、本発明は、上記第四の課題に対応して、半径方向内側に非孔性支持体をさらに具備し、この非孔性支持体が、それの一方の端部に突き当て(リム)部を有する、上記インフローカニューレに関する。
さらに、本発明は、上記第五の課題に対応して、次の工程、すなわち
(a)線条を管状の芯材に、一方の端から他方の端まで螺旋状に巻き付ける工程、
(b)工程(a)で巻き付けた螺旋と交差させるように、同じか又は別の線条を螺旋状に巻き付ける工程、
(c)工程(a)および(b)により得られた管状構造体の焼結を行う工程、
(d)工程(c)で得られた焼結された管状構造体から、上記の芯材を抜き取る工程、必要に応じて上記(a)〜(d)に加えて下記の(e)および/又は(f):
(e)工程(d)で得られた管状構造体の半径方向内側に、該構造体の内部に嵌め込み得るようにかつそうして該構造体を支持し得るように外径が適合された管状の非孔性支持体を嵌め込む工程、および/又は
(f)工程(d)で得られた管状構造体又は工程(e)で得られた非孔性支持体付きの管状構造体全体に抗血栓性コーティングを施す工程、
を含む、インフローカニューレを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、上記第五の課題に対応して、次の工程、すなわち
(a)台座と、その上に同心円状に配置された内型枠および外型枠とを具備する型枠内に、線条を不規則に入れてその後固定し、不織体からなる管状構造体を得る工程、必要に応じて上記(a)に加えて下記の(b)および/又は(c):
(b)工程(a)で得られた管状構造体の半径方向内側に、該構造体の内部に嵌め込み得るようにかつそうして該構造体を支持し得るように外径が適合された管状の非孔性支持体を嵌め込む工程、および/又は
(c)工程(a)で得られた管状構造体又は工程(b)で得られた非孔性支持体付きの管状構造体全体に抗血栓性コーティングを施す工程、
を含む、インフローカニューレを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、上記第六の課題に対応して、血液循環補助装置におけるインフローカニューレ又は人工血管と血液ポンプとを連結するためのコネクタであって、その半径方向内側表面上に多孔性構造体が接合又は嵌合されており、そして上記多孔性構造体が線条から形成されるものであるか、又は多孔性成形体からなる、上記コネクタに関する。
さらに、本発明は、上記インフローカニューレおよび/又は上記コネクタを含む導管アセンブリ、並びにこの導管アセンブリを備えた補助人工心臓装置に関する。
さらに、本発明は、上記血液循環補助装置用インフローカニューレを、血液ポンプに直接的に又は間接的に接続することにより使用する方法に関する。
さらに、本発明は、上記血液循環補助装置用インフローカニューレを含む補助人工心臓装置によって、鬱血性心不全、拡張型心筋症、虚血性心疾患、心サルコイドーシスおよび心アミロイドーシスからなる群から選択される症状、疾患又は障害を改善又は治療する方法に関する。
上記の課題に対応する本願に係る他の発明形態および好ましい態様等は、以下におよび従属形式の請求項に記載される。
本明細書において使用する場合に「血液循環補助装置」とは、心不全等の疾患によって心機能が低下した場合に、血液循環を担う心臓のポンプ機能を代行又は補助するための装置を意味する。
本明細書において使用する場合に「補助人工心臓装置」とは、上記血液循環補助装置のうち、自己心を残した状態にある患者の血液循環を補助するための装置を意味する。そして、この補助人工心臓装置は、主に、血液ポンプ、その機能を調節するコントローラ、電源供給源としてのバッテリ、および各種導管、例えばインフローカニューレ、アウトフローグラフトおよび人工血管等から構成され、上記血液ポンプが心臓の一部に直接的に又はインフローカニューレ等を介して間接的に装着されることにより、血液が該血液ポンプから十分な量および圧力をもって体中へ送り出される。
本明細書において使用する場合に「インフローカニューレ」とは、脱血のために心臓の心室又は心房、好ましくは左心室に挿入される導管であって、人工血管等を介して又は直接的に血液ポンプに接続され、血液ポンプに心室又は心房(好ましくは左心室)からの血液を供給する役割を果たす管状の器具を意味する。ここでは、補助人工心臓装置の血液ポンプに直接的に又は間接的に接続して使用されるインフローカニューレを特に補助人工心臓装置用インフローカニューレと呼ぶ。
本明細書において使用する場合に「コネクタ」とは、補助人工心臓装置において血液ポンプと導管(インフローカニューレ、アウトフローグラフト又は人工血管)とを連結するための継手となる器具を意味する。
インフローカニューレが血液ポンプに直接的に接続される場合には、コネクタはインフローカニューレと血液ポンプとを連結し、インフローカニューレが人工血管を介して間接的に血液ポンプに接続される場合には、コネクタは人工血管と血液ポンプとを連結する。そして、このコネクタは、インフローカニューレ又は人工血管と血液ポンプとを連結するのと同様に、アウトフローグラフトと血液ポンプとを連結する継手としても使用することができる。
本明細書において使用する場合に、「導管アセンブリ」とは、補助人工心臓装置のうちの、心臓の心室又は心房から血液を血液ポンプに供給するまでの領域を構成する導管や関連部品一式からなるアセンブリを意味し、これはインフローカニューレおよびコネクタを必須の構成要素とする。
従って、インフローカニューレが人工血管を介して間接的に血液ポンプに接続される場合には、この導管アセンブリは、インフローカニューレおよび人工血管、これらを血液ポンプに連結するコネクタ、並びにカフ、スリーブ、クランプや保持リング等の各種組み立て用および/又は固定用部品とから構成されるが、一方、インフローカニューレが血液ポンプに直接的に接続される場合には、上記導管アセンブリはインフローカニューレおよびそれを血液ポンプに連結するコネクタという最小構成要素のみからも構成され得る。そして、このように導管アセンブリがインフローカニューレおよびコネクタからなる場合には、該導管アセンブリは、両者が螺合等により直接接続されたものであってもよく、あるいは、インフローカニューレの機能を有する部分とコネクタの機能を有する部分の両部分からなる1つの器具として一体的に製造されたものであってもよい。
いずれの場合であっても、上記導管アセンブリは、導管による心臓からの脱血および血液のポンプへの供給、該導管の血液ポンプへの連結という機能を有するものであり、この機能は、インフローカニューレとコネクタとが同一の導管アセンブリ内に連続的に(人工血管を介する場合もあるが)配置されることによって担保されるものである。
本発明のインフローカニューレはその一部もしくは大部分が又は全体が、表面上に開口の孔を有する特定の多孔性構造体からなる。本発明のコネクタは、この特定の多孔性構造体を該コネクタの一部としてその半径方向内側に接合もしくは嵌合して具備する。
本発明の1つの態様において、上記多孔性構造体は線条から形成される。
上記多孔性構造体が線条から形成されるものである場合に、該多孔性構造体は、1本又は2本以上の線条をその構成要素して含む多孔性のテクスチャを含む。この場合、この構造体は、1本又は2本以上の線条が交差および/又は接触して形成されたものであり、この又はこれらの線条が、上記多孔性構造体の表面において、互いに隣り合うその交差点および/又は接触点を結ぶ線によって囲まれる領域内に孔を形成してなることができる。すなわち、1本又は2本以上の線条が、例えば巻かれるか、又は織成もしくは編成されるか、あるいは不織体が形成されるように不規則に配列されるかもしくはもつれされるなどして形成された多孔性のテクスチャを形成する。この際、線条が、その構造体表面上で、あるいはその構造体表面上およびその厚み方向内部で、同一の線条同士で又は異なる線条と幾度となく交差および/又は接触し、この結果として、生じる線条の交差点および/又は接触点のうち互いに隣り合う交差点および/又は接触点を結ぶ線によって囲まれる領域が、例えば、方形、三角形、菱形、平行四辺形、多角形等の種々の任意の形状又はこれらの任意の組み合わせを呈して、これが上記構造体の孔となり得る。
本発明の別の態様においては、上記多孔性構造体は多孔性成形体からなる。
本発明の上記多孔性構造体では、このような表面上の孔から血液が該構造体中に流入するが、構造体内部に行くに従って血液の流れが遅くなるために、流入した血液が該構造体内部で固まって適度な大きさを有する血栓となり、この血栓が該構造体中にしっかりと保持されることによって血栓のアンカリングが達成される(本明細書においては、このような血栓の構造体内での保持を「血栓のアンカリング」と呼ぶ)。
上記の「孔」は、血球が該孔を通過可能であればよく、通常、約1.9×10−5mm(円直径に換算して約5.0μm)以上の開口面積を有する。他方、上限は、一般的には、上記多孔性構造体の機械的強度が維持されるように約20mm(円直径に換算して約5.0mm)であることができる。なお、上記の約1.9×10−5mm〜約20mmの範囲の中でも、開口面積が大きいほうが、血液の構造体中への流入が容易となり、逆に、開口面積が小さいほうが、血栓が構造体内部によりしっかりと保持されるために血栓のアンカリングの安定性が増加する。また、開口面積が大きい場合には、上記多孔性構造体を製造する際の加工が容易になるという利点も享受できる。従って、これらの点を総合的に考慮すると、1つの態様では、上記孔は約0.22×10−3mm〜約0.80mm(円直径に換算して約17μm〜約1.0mm)の開口面積を有し、例えば、約3.0×10−2mm〜約15×10−2mm(円直径に換算すると約0.20mm〜約0.44mm)の開口面積を有するのが好ましい。
ここで、本発明の多孔性構造体における孔の開口面積は、上記構造体の正面拡大写真から孔の各寸法を測定することにより、拡大倍率に関する補正後の各寸法と該孔の幾何学形状に基づいて数学的に求めることが可能である。該構造体に形成される孔の全てが上記の1.9×10−5mm〜20mmの範囲にある開口面積を有する必要はなく、本発明の所期の目的が達成される程度で、形成される孔のうちの一部がこの範囲の大きさで開口していれば足りるが、主たる割合のもの、望ましくは全て又は実質的に全てのものが上記の孔サイズを有することが望ましいであろう。
なお、本発明の多孔性構造体では、その厚み方向にも「孔」が形成され得る。すなわち、上記多孔性構造体が線条から形成される場合には、その層の数、線条の径や、製造方法に依存して、線条が、構造体の厚み方向に水平な面上で互いに隣り合う交差点および/又は接触点を結ぶ線によって囲まれる領域においても、上述のような「孔」が形成され得る。また、上記多孔性構造体が多孔性成形体からなる場合にも、該構造体の厚みや製造方法に依存して、厚み方向にも「孔」が形成され得る。
このような厚み方向に「孔」が形成される態様も、当然に本願発明の範囲内のものとして含まれる。このような厚み方向の孔は、該構造体中における血栓保持可能空間を増加させるため、アンカリングの強化をもたらすものである。
本明細書において使用される場合に「多孔性構造体」とは、中が空洞になった棒状の多孔性構造体を意味し、その断面形状については特に限定されない。この構造体には、例えば断面形状が円形、楕円形もしくは多角形(例えば三角形や四角形)であるもの、および断面形状が概ね円形や楕円形であるものが含まれる。さらに、本発明の構造体は、必ずしも径・厚みや断面形状が構造体全体で一定である必要はなく、従って、装置・器具として求められる形状や該構造体を配置する装置・器具等の形状に合致させることが可能である。
上記多孔性構造体の内径は、該構造体をインフローカニューレとして使用する場合であっても、コネクタの一部として使用する場合であっても、大きすぎると心臓内又は胸部腔内において占める割合が不必要に大きくなってしまい、一方、内径が小さすぎると十分な脱血量を確保できない虞があるため、一般的に6〜30mm、特に10〜20mmである。
上記多孔性構造体の厚みは、例えば、線条の径や、線条からの上記構造体の作り方にも依存するが、血栓アンカリングおよび内皮細胞の定着のための空間を厚み方向に関しても十分に確保できること等を考慮すると、該構造体をインフローカニューレとして使用する場合であっても、コネクタの一部として使用する場合であっても、一般的には0.2〜5mmの範囲内、特に0.5〜2mmの範囲内であるのがよい。
上記多孔性構造体の長さは、該構造体をインフローカニューレとして使用する場合には、該構造体のうちで心尖壁を貫通し心臓内(例えば左心室内)に露出する部分の長さや十分な脱血量の確保可能性を考慮して適宜設定することができるが、露出部分が短すぎると該構造体の先端開口部が周囲の組織や筋肉内の成長により閉塞してしまう虞がある。これらを考慮して、通常、該構造体の長さは、10mm〜50mmの範囲、特に15〜35mmとされる。
また、該構造体をコネクタの一部として使用する場合には、それの長さはコネクタの形態に合致するように適宜設定される。
本明細書において使用する場合に「線条」とは、金属製の線状材料および非金属製の線状材料を意味する。
本発明の多孔性構造体において使用される線条は、例えば、金属材料線条、ポリマー系材料線条又は炭素繊維を使用することができる。
金属材料としては例えば、ステンレス鋼、純チタン又はチタン合金等が挙げられ、ポリマー系材料としては、例えばポリエステル、ポリアミド又はポリプロピレン、フッ素樹脂等が挙げられるがこれらに限定はされない。
ただし、材料自体の強度、生体適合性および加工容易性等を総合的に考慮すると、純チタン又はチタン合金を材料とする線条を使用するのが好ましい。本発明の多孔性構造体においては、線条の長さ方向と垂直な面で切断した際のそれの断面形状は原則的に任意であるが、血液が孔を介して該構造体中に流れ込む時の流れをスムースにする観点から、角を有さずに滑らかな表面を有する線条を使用するのが好ましい。
さらに、上記多孔性構造体の製造工程において、線条から作った構造体を焼結等の手段を用いて固定する場合には、焼結後に得られる上記構造体の機械的強度を大きくするために、線条の交差点および/又は接触点での接触面積が大きくなるような線条を使用することが好ましい。
これらの点を考慮すると、本発明の多孔性構造体においては扁平楕円形の線条(以下、扁平線条と略す)を使用するのが好ましく、このような扁平線条は、例えば円形断面を有する線条の圧延により製造することができる。本発明においては、通常、円形断面を有する線条の圧延により得られ、1.1〜10の扁平率を有する扁平線条が使用される。
本明細書において使用する場合に「扁平率」とは、上記扁平線条の断面形状において、その短径と長径の比、すなわち、断面形状の長径を短径で除した値(長径/短径)である。本発明においては、各線条同士の接触面積を大きくするために1.1〜5の扁平率を有する扁平線条を使用するのが好ましく、特に1.5〜2.5の扁平率を有する扁平線条を使用するのが特に好ましい。
また、本発明の多孔性構造体において使用される線条の径の大きさは、径が小さすぎると機械的強度が低下し、逆に大きすぎると加工性が低下するため、20μm〜500μmの径を有する線条を使用するのが好ましく、上記多孔性構造体の取り扱い容易性も考慮すると(例えば、該構造体表面の凹凸が極端に大きすぎると、患者への埋め込み手術中において手術用手袋を破いてしまう等の事態が生じ得る)、特に、30μm〜200μmの径を有する線条を使用するのが好ましい。この径は、断面形状が円の場合にはその円の直径に、楕円や扁平楕円の場合にはその短径に、長方形の場合にはその短辺に当たる値である。
本発明の多孔性構造体に使用される線条の例としては、例えば、ASTM F67−95−Gr.2の規格を満たす純チタン製ワイヤ(85±20μmの径を有するワイヤを50±20μmの厚さに圧延したもの)、Ti−6Al−4V合金ELI、Ti−6Al−7Nb、Ti−13Zr−13Nb、Ti−15Mo−5Zr−3AlもしくはTi−6Al−2Nb−1Taの規格を満たすチタン合金製ワイヤ(85±20μmの径を有するワイヤを50±20μmの厚さに圧延したもの)、ポリエステル繊維が挙げられる。
また、本発明の多孔性構造体が線条から形成される場合に、該構造体は、主に、1本又は2本以上の線条を使用して作ることができるが、2本以上の線条を使用する場合には、全て同一材料の線条を用いても、又はそれぞれ異なる材料の線条を組み合わせて用いてもよい。1個の多孔性構造体を製造するのに1本の線条を使用する場合でも、2本以上の線条を使用する場合でも、該構造体表面上での血流の偏りを減らし、血液が孔を介して該構造体中に流れ込む時の流れをスムースにするために、継ぎ目がなく滑らかな表面を有する線条を使用することが好ましい。
本発明の多孔性構造体は、一つの形態として、1本又は2本以上の線条を、中空管状に巻くことによって形成することができる。
この場合は、例えばセラミックス製の管状の芯材に、1本又は2本以上の線条を、上記の孔が形成されるように、ランダムに又は螺旋状に幾重に巻き付け、焼結し、最後に上記の芯材を抜き取ることにより該多孔性構造体を製造することができる。
螺旋状に巻き付けて該多孔性構造体を製造する場合は、線条の巻き付けはS巻きおよびZ巻きの両方を含むことができ、例えば両方を交互に含むことができる。
具体的には、例えば、1本の線条を管状の芯材に、一方の端から他方の端に向かって適当なピッチで螺旋状に巻き付け(巻き方向:S巻き)、他方の端まで巻いたところで折り返して、このように巻き付けた螺旋と交差させるように線条を適当なピッチで螺旋状に巻き付ける(巻き方向:Z巻き)。そして、このような線条の巻き付けを所望の層の数(構造体の厚み)が得られるまで繰り返すことによって、上記の線条を螺旋状に幾重に巻いた構造体を得ることができる。
複数本の線条を使用する場合は、例えば、1本の線条を管状の芯材に、一方の端から他方の端に向かって適当なピッチで螺旋状に巻き付け、その上からもう1本の別の線条を適当なピッチで巻き方向を逆にして螺旋状に巻き付ける、といったように各層毎に別の線条を使用して上記の線条を螺旋状に幾重に巻いた管状構造体を製造することも可能である。
このようにして得られた多孔性構造体においては、図1Aに示すように、線条の交差から孔が形成され、生じる線条の交差点のうち平面上で互いに隣り合う交差点を結ぶ線によって囲まれる領域(図1Aにおける斜線部分)が上記構造体の孔を形成する。
なお、「S巻き」および「Z巻き」とは、JIS G3525「ワイヤロープ」に記載される「Sより」および「Zより」にそれぞれ準ずる意味を有し、すなわち、「S巻き」は上記「Sより」と同じ方向に線条を巻くこと、「Z巻き」は上記「Zより」と同じ方向に線条を巻くことを意味する。「ピッチ」とは、線条を螺旋状に巻く際、螺旋が1回転する間に軸方向に進む距離を表し、例えば10〜20000μmの範囲である。
焼結は、使用する線条の素材の融点未満の温度で、但し、線条の交差および/又は接触点での十分に強い結合を保証するのに十分な温度および時間で行われる。例えば純チタン製線条を用いる場合には、通常1200〜1300℃において約0.5〜5時間焼結を行うことができる。焼結炉としては、通常、赤外線輻射式又は誘導加熱式の真空加熱炉が用いられるがこれらに限定はされない。この焼結工程によって各線条の交差および/又は接触部分が完全に結合されるため、線条の剥離が起こらず、高い機械的強度を有する構造体を得ることができる。
また、本発明の多孔性構造体は、台座とその上に同心円状に配置された内型枠および外型枠とを具備する例えばセラミックス製の型枠内に、線条を不規則に入れてその後固定することにより、上記の孔を有し、管状の形態を有するシート状の不織体として製造することができ、あるいは、また別の態様では、線条を、織成又は編成してから焼結等により線条間を結合して、上記の孔を有するシート状の編成体又は織成体を線条から作製し、得られたシート状の編成体又は織成体を、管状に丸めるか又は管状の芯材上に巻いた後に、両端部辺間を溶接し、そして芯材を用いた場合には次いでこの芯材を抜き取ることにより製造することもできる。この際、これらのシート状の編成体又は織成体あるいは不織体を、二枚以上重ねて該多孔性構造体とすることもできる。
「固定」とは、上記の型枠内に不規則に入れた線条を、不織体の組織が固定されるように処理することを意味する。このような固定処理としては、例えば、プレス、焼結、溶接、圧着、接着等が挙げられるが、線条を固定できる処理であればこれらに限定はされない。
「編成体」とは、上記に定義される線条で編目を作りながら布状に編まれたものを意味し、「織成体」とは、上記に定義される線条を縦と横に組み合わせて一定の規則によって交錯し、シート状に仕上げたものを意味する。「不織体」とは、上記に定義されるような線条を素材として、これらを不規則に配列させるかもしくはもつれさせるなどして形成させたものを意味し、線条が一方向又はランダムに配向したものを表す。これらは、焼結等によって線条間が結合される。
シート状の不織体から製造される多孔性構造体においては、図1Bに示すように、線条が交差および/又は接触し、生じる線条の交差点および/又は接触点のうち平面上で互いに隣り合う交差点および/又は接触点を結ぶ線によって囲まれる領域(図1Bにおける斜線部分)が上記構造体の孔を形成する。
さらに、このように作製された構造体は、単位体積当たりの表面積の増加および機械的強度の向上を目的として、7N以下、好ましくは5N以下のアルカリ水溶液、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液に、25〜100℃、好ましくは60℃の温度で1〜8時間浸漬し、室温の蒸留水で0.5〜5分洗浄してから使用することもできる。
上記の固定処理は、プレス、焼結、溶接、圧着、接着等に関連して従来から公知の任意の方法で行うことができ、具体的には、例えば、固定処理として焼結を行う場合には、上記のような条件において焼結を行うことができる。
本明細書において使用する場合に「多孔性成形体」とは、金属材料や樹脂系材料等を中空管状体に成形したものであって、その表面に、あるいはその表面および内部に多数の孔を有するものを意味する。
上記の金属材料や樹脂系材料としては、例えば、ステンレス鋼、純チタン、又はチタン合金、およびフッ素樹脂等を使用することができるが、これらに限定はされない。
ただし、材料自体の強度、生体適合性および加工容易性等を総合的に考慮すると、純チタン又はチタン合金を上記多孔性成形体の材料として使用するのが好ましい。例えば、ASTM F67−95−Gr.2の規格を満たす純チタン、Ti−6Al−4V合金ELI、Ti−6Al−7Nb、Ti−13Zr−13Nb、Ti−15Mo−5Zr−3AlもしくはTi−6Al−2Nb−1Taの規格を満たすチタン合金が用いられる。
上記の多孔性成形体は、例えば金属材料を用いる場合には、金属粉末と低温で蒸発するスペーサー材料粉末とを混合して中空管状体に成形し、次いで該スペーサー材料粉末の蒸発温度に加熱して該スペーサー材料を蒸発させた後、これより高温の焼結温度で焼結処理して、上記金属粉末を焼結することにより製造することができる。このようなスペーサー材料を用いる手段等によってその表面および内部に積極的に空隙を導入して孔を形成させた金属材料は、一般的には「ポーラス金属」とも呼ばれる。
ここで、上記スペーサー材料としては、例えば、炭酸水素アンモニウム、尿素、ポリオキシメチレン樹脂、尿素樹脂、発泡ポリスチレン樹脂又は発泡ポリウレタン樹脂等を使用することができ、これらは、例えば球状、柱状、繊維状の粉末として使用することが可能である。
焼結は、線条を用いた場合と同様の条件で行うことができ、例えば、金属材料として純チタンを、スペーサー材料としてポリオキシメチレン樹脂を用いる場合には、スペーサー材料の蒸発のために通常300〜500℃で0.5〜5時間加熱した後に、通常1200〜1300℃において約0.5〜5時間焼結を行うことができる。
また、上記のように作製された多孔性構造体中の線条表面又は多孔性成形体表面には抗血栓性コーティングを施すこともできる。抗血栓性コーティングを施すことにより、該構造体中にアンカリングされた血栓が過剰に大きくなることを抑制することができ、従って、血栓のアンカリングが不安定になることを抑制することができる。抗血栓性コーティングとしては、例えばMPCポリマーコーティングを使用することができる。MPCポリマーは、細胞膜を構成するホスファチジルコリンの極性基と同一の構造を持つMPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)を構成単位とするため、これをコーティングした場合には、該構造体表面に細胞膜様の構造が形成し、この細胞膜様構造が血小板等の粘着性を抑制することによって抗血栓性を発揮する。なお、MPCは市販のものを入手することができる。
抗血栓性コーティングは、材料表面に抗血栓性を付与するためのコーティングに関連して従来から公知の任意の方法で行うことができる。例えば、抗血栓性コーティングがMPCコーティングである場合には、以下のような手順で行うことができる:
− MPCをエタノールで希釈して0.1〜10重量%、好ましくは0.5重量%MPCエタノール溶液を調製する、
− 該溶液に、作製された多孔性構造体を室温で1〜60分間、好ましくは5〜10分間浸漬する、
− 該構造体を溶液から取り出し室温で乾燥する。
本発明の多孔性構造体は、通常、血栓の保持および/又は内皮細胞の定着のための空間の確保と該構造体全体の機械的強度との間のバランスを考慮して、5〜90体積%、好ましくは30〜80体積%の空隙率を有することが好ましい。ここで、「空隙率」とは、上記構造体の全体積に対する空間の体積の割合(体積%)を意味する。この空隙率は以下のようにして近似的に求めることができる:
− 上記多孔性構造体の平均的な幾何学形状(例えば、半径方向に均一な厚みを有する中空の円柱)を仮定して該幾何学形状の体積(V)を数学的に算出する、
− 実際に線条を用いて製造した構造体又は実際の多孔性成形体の重量を測定する、
− 上記構造体の線条又は多孔性成形体部分の体積(V)を上記の重量と上記線条又は上記成形体の比重とから求める、
− 仮定した幾何学形状の体積(V)から線条又は成形体部分の体積(V)を引くことにより、上記構造体における全空隙体積(V)を求める、
− 上記構造体における全空隙体積(V)を、仮定した幾何学形状の体積(V)で除した値に100を乗じた値を空隙率(体積%)とする。
上記空隙率は、例えば、線条を中空管状に巻き付けることによって上記構造体を製造する場合には、主に、使用する線条の径、線条を巻き付けるピッチや線条を巻き付けた層の数等を調節することによって制御が可能であり、線条からなり中空管状の形態を有するシート状不織体から上記多孔性構造体を製造する場合には、主に、線条の密集度を調節することによって制御が可能である。
また、上記多孔性構造体が多孔性成形体からなる場合には、金属粉末とスペーサー材料粉末との混合比率や、スペーサー材料粉末の平均粒子径を調節することにより、空隙率を制御することが可能である。
このように線条から作製されるか又は多孔性成形体からなる本発明の多孔性構造体は堅牢であり、生体内での使用中に構造体材料の一部が剥離して血流中に脱落してしまうような危険性が非常に少ない。従って、本発明の多孔性構造体は非常に高い機械的強度を有し、例えば数ヶ月〜数年という長期間にわたっても安全に生体内に留置させることが可能である。
また、本発明の多孔性構造体では、該構造体の層構造を、例えば線条を巻き付けて製造された構造体の場合にはその製造工程において例えば線条の形態(特に径)、線条を巻き付ける層の数を適宜選択することにより容易に制御することができ、例えば線条から製造されたシート状の不織体からなる管状構造体の場合には、その製造工程において例えば線条の形態(特に径)や線条を積層する厚み等を適宜選択することにより容易に制御することができる。そして、上記多孔性構造体が多孔性成形体からなる場合にも、成形工程において使用する型枠の選択等によって、該構造体の厚みを容易に制御することができる。従って、上記多孔性構造体では、平面的な方向だけでなく厚み方向に関しても孔を多数形成させて空隙率を調整し、厚み方向に関しても適度に大きな空隙を有する三次元構造、すなわち血栓を保持するためおよび/又は内皮細胞を定着させるための空間を十分に確保できるような三次元構造を容易に得ることができるため、高いアンカリング効果が達成され、生体組織と隣接する部位に配置された場合には安定した内皮細胞の定着が達成される。
特に、一定のピッチで螺旋状に線条を巻き付けて製造された多孔性構造体の場合には、該構造体は、形成される孔の開口形状・開口面積が均一となり、さらに、構造体全体としての三次元構造も均一でかつ適度に大きな空隙を有する。そして、最終的に製造される構造体の個体間のばらつきも非常に小さくなる。
このように孔の開口形状・開口面積が均一に、そして構造体全体としての三次元構造が均一でかつ適度に大きな空隙を有するように製造された多孔性構造体では、極めて安定な血栓のアンカリングが達成され、生体組織に隣接した場所、例えば心臓内において使用した場合には、該構造体の孔から進入した線維芽細胞が該構造体の空隙中に定着し、そこに心筋等から成長した内皮細胞が乗ることにより、上記構造体の表面に生体と同じ内皮細胞が全面にわたって非常に均一に形成されることが確認された。
これは、このような多孔性構造体においては、該構造体内の空隙における内皮細胞形成前の初期血栓の付着状況が安定するためであると考えられる。すなわち、血栓が該構造体に付着すると線溶系によって縮小させられるが、上記構造体ではこの初期の血栓の付着・縮小過程が構造体全体にわたって均一に進行する。そして、このように初期血栓が付着した場合には、当該初期血栓の付着部分に対して内皮細胞が進入してきて定着するため、内皮細胞の形成も本体全体にわたって均質に進行し、その結果として極めて均一で安定した内皮細胞組織が形成されるためと考えられる。
具体的には、上記多孔性構造体を例えば左心室においてインフローカニューレとして(又はその一部として)使用した場合には、内皮細胞が左心室の内面からこのインフローカニューレ外周面に向かって伸展する。通常は各内皮細胞あたり50〜100回程度の細胞分裂が起こるが、これは通常の大きさを有するインフローカニューレの外周面全体を細胞で覆うのには十分な分裂回数である。
上記多孔性構造体は内皮細胞に覆われると血液が凝固する虞が無くなり、極めて高度な抗血栓性を発揮する。これは、血管内皮細胞上や血管内皮細胞周辺には決して血栓ができないように、あるいは何らかの原因で血栓が生じたとしても速やかに溶解できるように、血管内皮細胞自身が制御を行っているためであると考えられる。このような制御は、血管内皮細胞が主にt−PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)やPAI−1(プラスミノーゲンアクチベータ・インヒビター1)の発現量を調節することによって発揮している能力であり、一般的には血管内皮細胞の抗血栓性と呼ばれ、血管内皮細胞の多くの機能の中でも特に重要な機能である。
さらに、このような内皮細胞で覆われた場合には、細菌等の異物の上記多孔性構造体内部への侵入も阻止されるため、人工心臓や補助人工心臓装置等の体内留置型医療機器を使用する場合に頻出する問題であり、患者にとっては致命的な問題でもある感染症の発生リスクも低下する。
また、上記多孔性構造体の留置される部位が心筋から遠い部位である場合や、又は上記構造体を留置させる患者が高齢である場合等、内皮細胞が上記構造体の表面全体にわたって成長しない場合であっても、良性の肉芽が上記構造体を覆い、この肉芽は血栓の成長を抑止するため、上記構造体は高度な抗血栓性を獲得することができる。
また、本発明の多孔性構造体は線条から作られるか又は多孔性成形体からなるため、非特許文献1等に記載される焼結チタンビーズの場合と異なり、上述のウォールシェルのような部材を使用しなくとも上記構造体単独で製作することが可能であるという利点を有する。
従って、上記多孔性構造体は、テクスチャードサーフェイスを有する装置・器具等として独立して製造することが可能であり、あるいは、上記多孔性構造体は、別途製造された後に、補助人工心臓装置の血液接触面の所望の部位上に配置・固定することも可能である。この場合に、上記多孔性構造体を配置させたい装置・器具等については焼結炉に導入する必要がなく、テクスチャードサーフェイスとしたい部位に別途製造した上記構造体を配置すればよいだけなので、これらの装置・器具等の変形や荒れ、寸法精度の低下等が起こらず、例えば研磨粉や切削粉等を用いてこれらに追加工を施すような必要性が生じることもない。従って、スムースサーフェイス部分とテクスチャードサーフェイス部分が混在するような装置・器具等についても容易に製作することが可能である。
そして、上述のように本発明の多孔性構造体は単独で製造できるため、該多孔性構造体自体も、焼結における他の部材の変形・歪みに伴って寸法精度が低下する虞がなく、さらに、上述のウォールシェルのような他の部材に起因する設計上の制約を受けることもないため、各装置・器具もしくは部品内に精度良く組み込むことが可能である。
さらに、本発明の態様の一つでは、本発明のインフローカニューレは、上記多孔性構造体の半径方向内側に、該構造体の内部に嵌め込み得るようにかつそうして該構造体を支持し得るように外径が適合された管状の非孔性支持体をさらに具備する。
この支持体は、一つの態様では、中央部の支持体胴部、一方の端部の突き当て部、および他方の端部のねじ部からなることができる。胴部は、該多孔性構造体を支持する部分であり、その長さは該構造体の長さに相当し、突き当て部は、支持体の一方の端に設けたリム部であり、該構造体に支持体を嵌め込む際のストッパーの役割をし、そしてねじ部は、支持体の他方の端部に設けられ、他のインフローカニューレ部材の取り付けおよび人工血管又は血液ポンプへの取り付けのためのものである。
また、上記支持体突き当て部は、ストッパーとしての役割の他に、組織・細胞の過度の成長を抑制するという役割も果たす。該構造体の効果により、内皮細胞等が構造体内部に進入して定着するが、これらは過度に成長すると血液滞留域を形成し、梗塞のリスクを上昇させてしまう虞がある。そのため、該構造体の先端側に非孔性の支持体突き当て部を配置して内皮細胞等の過度の成長を抑制することによって、インフローカニューレの閉塞が防止されるため、十分な脱血量を維持することができる。
このような組織・細胞の過度の成長の抑制効果を最大にするためには、支持体突き当て部、特にその外周面は研磨されて平滑化されているのが好ましい。支持体突き当て部の外周面のRaが1μm以下であれば、該外周面への組織・細胞の過剰な成長が抑制されると考えられ、該外周面のRaは0.1μm以下であることが特に好ましい。
「Ra」はJIS B 0601で定義される算術平均粗さRaを意味し、Raの測定は接触式又は非接触式の各種市販装置を用いて行うことができる。具体的には、例えば、触針式の表面粗さ計を用いて、カットオフ値を0.25mmに、評価長さを1.25mmに、測定スピードを0.5mm/sに設定することにより、Raの測定を行うことができる。
ここで、支持体の全長や支持体胴部、支持体突き当て部および支持体ねじ部の幅や、これらの外径、内径、厚み等は、該多孔性構造体の形態に合致することやインフローカニューレ全体としての内径等を考慮しながら適宜設定される。
ただし、上述したように、支持体突き当て部は、組織・細胞の過度の成長を抑制するという役割も果たすため、支持体突き当て部の幅が短かすぎる場合にはこのような抑制効果が得られず、逆に長すぎる場合には内皮細胞で覆われない部分が増えてしまい、該構造体により奏される効果が低減してしまう。このような点を考慮すると、支持体突き当て部の幅は、0.5mm〜15mm、特に1mm〜5mmであるのが好ましい。
また、該多孔性構造体の外周面と支持体突き当て部の外周面の間の段差は、インフローカニューレを心臓(心室又は心房)へ挿入する際又はこれから脱着するために必要となる力を小さくし、また体内の組織の損傷が軽減するために、できだけ小さくするべきである。具体的には、この外径の差は好ましくは0〜1mmの範囲、特に0〜0.5mmの範囲に抑えるのがよい。
このような支持体を具備するインフローカニューレにおいては、支持体の内径がインフローカニューレとしての内径に相当する。それゆえ、好ましい内径は、該多孔性構造体についての上に述べた値と同じであることができる。
また、この場合のインフローカニューレ全体としての外径(支持体胴部の外形に多孔性構造体の厚みを足した径)は、通常、6mm〜30mmの範囲内であれば問題なくインフローカニューレとして生体内で使用することが可能である。
上記支持体の材料としては、機械的強度、生体適合性および加工容易性等を考慮して、例えば純チタン、ステンレス鋼又はチタン合金等を使用することができる。
支持体を備える上記インフローカニューレの組み立ては、例えば、以下のように行われる。
− 支持体の突き当て部が多孔性構造体に当たるまで、支持体を多孔性構造体の半径方向内側に嵌め込む、
− スリーブ、カフを順番に支持体に通し、最後にカフ押さえねじを支持体ねじ部と螺合することによって、多孔性構造体を支持体上に固定する。
この際、上記非孔性支持体にも、上記の抗血栓性コーティングを施すことができる。この際、この抗血栓性コーティングは、予め非孔性支持体に施してもよいし、非孔性支持体を多孔性構造体に嵌め込んでから一緒に抗血栓性コーティングに付してもよい。
加えて、半径方向内側に上記の非孔性支持体を装備したインフローカニューレにおいては、この支持体の半径方向内側に、追加的に本発明による上記多孔性構造体をさらに配置することができる。
本発明の多孔性構造体は、例えば、補助人工心臓装置を構成する各装置・器具もしくは部品として又は各装置・器具もしくは部品の一部として、あるいは補助人工心臓装置を構成する各装置・器具もしくは部品上に配置して使用することができ、特に、補助人工心臓装置中の血液と接触する部位において使用した場合にその効果を最大限発揮する。
具体的には、本発明の多孔性構造体は、例えば、補助人工心臓装置の血液ポンプとインフローカニューレもしくは人工血管とを接続するためのコネクタの内面に、あるいはインフローカニューレとして(もしくはインフローカニューレの一部として)使用することができる。さらに、本発明の多孔性構造体は、補助人工心臓装置の血液ポンプ内壁やインペラーに適用することも可能である。
図1は、本発明の多孔性構造体における孔を示す。(A)線条を螺旋状に巻き付けて製造した多孔性構造体における孔(斜線部分)。(B)シート状の不織体を用いて製造した多孔性構造体における孔(斜線部分)。 図2は、本発明のインフローカニューレを示す図である。 図3(A)は、図2に示したインフローカニューレの斜視図である。図3(B)は、図2に示したインフローカニューレの分解図である。 図4は、図2に示したインフローカニューレを含む導管アセンブリの斜視図である。 図5は、図2〜4に示したインフローカニューレの断面図である。 図6は、本発明のインフローカニューレの変形例として、一部に二層構造を有するインフローカニューレを示す。 図7は、本発明のインフローカニューレの変形例として、一層構造を有するインフローカニューレを示す 図8は、典型的な補助人工心臓装置の患者の心臓への接続状況を示す患者の正面図である。 図9(A)および(B)は、典型的な補助人工心臓装置の患者の心臓への接続状況を示す患者の正面図である。 図10は、補助人工心臓装置の一部が肩掛けバッグ中に収められた状態を示すものである。 図11は、本発明の構造体を具備するコネクタの斜視図である。 図12は、本発明の構造体を具備するコネクタの断面図である。 図13は、本発明のインフローカニューレを動物の生体内に植込み、65日間左心室に挿入した後に剖検を行った際の、上記インフローカニューレの状態を撮影した写真を示す。インフローカニューレの外周面上に、組織の成長が確認できる。 図14は、従来のスムースサーフェイスを有するインフローカニューレを動物の生体内に植込み、65日間左心室に挿入した後に剖検を行った際の、上記インフローカニューレの状態を撮影した写真を示す。インフローカニューレの外周面上に大きな血栓が形成しているのがわかる。
図2に、本発明の一例として、非孔性支持体を具備した本発明のインフローカニューレの図を示す。
図2において、1は、補助人工心臓装置用の支持体を具備したインフローカニューレであり、患者の心室、最も好ましくは左心室に挿入される。これは、管状の多孔性構造体の形のインフローカニューレ本体2と支持体3(スムースサーフェイスを有する非孔性の純チタン製管状体)とから構成される。図2における4は純チタン製のスリーブ、5はPTFE製の繊維から構成されるカフである。
支持体突き当て部3の外周面は、0.1以下のRaを有する。
本体2は、1本の純チタン製ワイヤを管状芯材(セラミックス製)上に螺旋状に、S巻きおよびZ巻きを繰り返して巻きつけた後に焼結し、焼結後に芯材を取り除いて得たものである。
そして、図2に示すように、本体2は、純チタン製ワイヤから形成された該ワイヤの交差を含み、孔が形成されている。本体2(長さ:24mm、外径:20mm、内径:18.6mm、厚み:0.7mm)は、各孔の面積が3.9×10−2mm〜約13.4×10−2mmの範囲内であり、全体として約40〜70体積%の空隙率を有する。
図3は、図2に示したインフローカニューレ1の模式図(図3A)および分解図(図3B)である。
図3Aおよび図3Bに示すように、インフローカニューレ1では、支持体3が本体2の半径方向内側に嵌め込まれており、インフローカニューレ1全体としての長さL1(図3A)は30mmである。
支持体3(全長約50mm)は、支持体胴部3a(外径:18.6mm、内径:16mm)、突き当て部3b(外径:20mm、内径:16mm)およびねじ部3c(外径:18mm、内径:16mm)からなり、支持体胴部3aが本体2の内径より僅かに小さい外径を有するため、本体2に適切に合致させて嵌め込むことができる。さらに、支持体3は、支持体胴部3aの外径より大きい外径を有する突き当て部3bを備えており、この突き当て部3bが本体2への嵌め込みに際してストッパーの役割をするため、この突き当て部3bとスリーブ4(および/又はカフ5、カフ押さえねじ6)で本体2を挟み込むことによって本体2を支持体上にしっかりと固定することができる。そして、ねじ部3cを介してインフローカニューレ1は人工血管又は血液ポンプに接続される。
なお、本体2および支持体3にはMPCポリマーコーティングが全面にわたって施されている。
図4に示すように、インフローカニューレ1は支持体ねじ部3cを介して人工血管7に接続され、この人工血管7、外クランプ8、内クランプ9、コネクタ18および保持リング19(図5、11および12も参照)とともに導管アセンブリ10を構成し、最終的に血液ポンプと連結される。
図5は、図2〜4に示したインフローカニューレ1の断面図である。本発明におけるインフローカニューレ1は、図5に示されるような構造の他、別の形態をとることもでき、そのような例を、図6および7に断面図で示す。
図5〜7において、1(又は1b)は補助人工心臓装置用の非孔性支持体付きのインフローカニューレ、1cは非孔性支持体を持たないインフローカニューレであり、2は多孔性構造体からなるインフローカニューレ本体、3は支持体、4はスリーブ、5はカフ、6はカフ押さえねじ、7は人工血管、8は外クランプ、9は内クランプを示す。
図5のインフローカニューレ1では、突き当て部3bを除く支持体3の外周面を覆うように本体2が配置されているのに対して、図6のインフローカニューレ1bでは、突き当て部を持たず長さの短い支持体3が用いられており、心臓(心室又は心房)に挿入される部分の大部分が本体2による一層構造となっている。なお、この図6のインフローカニューレ1bでは、これの内面の支持体3と本体2との境界においては血栓や内皮細胞が不安定な状態で定着し易い傾向があることを考慮して、このような境界が血流の速い部位に生じるように支持体3の長さを調節し、上記の不安定な定着を抑制できるように設計されている。また、図7のインフローカニューレ1cでは、支持体が用いられておらず、カニューレ全体が本体2のみの一層構造となっている。
上記のインフローカニューレ1、1bおよび1cはいずれも、補助人工心臓装置用インフローカニューレとして使用することが可能であるが、インフローカニューレ全体としての機械的強度、心臓(心室又は心房)への挿入の容易さおよびインフローカニューレ先端部への細胞の過剰増殖の防止等を総合的に判断すると、図2〜5に記載されるような二層構造を有するインフローカニューレを使用することが好ましい。
なお、補助人工心臓装置用のインフローカニューレの内側には豊富な流量で血液が流れており、この部分に血液が滞留する可能性は低いため、インフローカニューレ内側には、図5および図6のインフローカニューレのように通常のスムースサーフェイスを有する支持体を配置しても、通常血栓は形成されない。しかし、図5および図6のようにスムースサーフェイスを有する支持体を配置した場合には、場合により、支持体の半径方向内側に本発明の多孔性構造体をさらにもう一層配置することも可能である。
このように支持体の半径方向内側に多孔性構造体を配置する場合において、インフローカニューレがコネクタに直接接続されている場合には、上記の多孔性構造体の長さをコネクタまで覆うことができる長さに調節することにより、インフローカニューレとコネクタの両者の半径方向内側の表面を1つの多孔性構造体によって連続的に覆うことも可能である。
以下、補助人工心臓装置の左心室への装着例について、図8〜10を参照しながら説明する。ここで補助人工心臓装置とは、インフローカニューレ1を接続した導管アセンブリ10、血液ポンプ11、ポンプケーブル12、コントローラ13、バッテリ14等を含めた循環補助装置全体を指す。
図8は、1つの例としての補助人工心臓装置装着図であり、患者16の部分正面図を示している。外科的に、補助人工心臓装置の血液ポンプ11が、患者の胸部腔17に植設される。補助人工心臓装置は、インフローカニューレ1を備えた導管アセンブリ10によって、患者の左心室から血液を血液ポンプ11に導入し、血液ポンプ11からアウトフローグラフト15により患者の胸部上行大動脈まで血液を運搬している。
インフローカニューレ1は、心臓の心尖壁を通って左心室へと挿入され(実際には左心室中へと挿入されているため外部から視認することはできないが、図8ではインフローカニューレ1の形状を該カニューレが挿入されている位置に実線で記載している)、末端部に配置したカフ5を心臓に縫い付けることによって患者の心臓に固定しながら接続されており、アウトフローグラフト15は終端を上行大動脈に縫い付けることによって当該大動脈に接続されている。
ポンプケーブル12は、血液ポンプ11から患者の体を貫通しており、図9AおよびBに示すようにコンパクトなコントローラ13にまで伸びている。電源はバッテリ14であり、コントローラ13と接続されている。
ポンプケーブル12に繋がれたコントローラ13とバッテリ14は、例えば図10に示されるように肩掛けのバッグ中にコンパクトに収められ、患者自身が持ち運ぶことも可能である。
また、本発明の別の例として、本発明の多孔性構造体を具備するコネクタを図11および12に示す。図11は上記コネクタの斜視図であり、図12は上記コネクタの断面図である。図11および12に示されるように、コネクタ18は、保持リング19とともに血液ポンプと人工血管とを連結している。図12の18aが本発明の多孔性構造体であって、コネクタ18の半径方向内側に嵌め込まれている。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
図2〜5で示されるインフローカニューレを用いて、動物実験を2例実施した(2個のインフローカニューレを2頭のウシ(年齢3ヶ月、オス、埋め込み時体重86.5kg;および年齢3ヶ月、オス、埋め込み時体重88.0kg)にそれぞれ使用)。それぞれPOD65(術後65日目)、POD63(術後63日目)で選択的に犠牲死をした。植込み手術は左開胸で行い、左室拍動下で行った。左心室に上記のインフローカニューレを挿入し、血液ポンプは胸腔内に配置して、アウトフローグラフトは下降大動脈に端側吻合を行った。植込み後は血液ポンプの回転数は1864−1897rpm、消費電力は4.4−6.1Wで安定的に駆動した。また、ウシの健康状態は良好で、血液検査結果から腎機能の低下なども見られず、血栓形成による梗塞などの兆候も見られなかった。剖検では、左心室の中に配置したインフローカニューレのテクスチャードサーフェイス上に組織が成長していることが確認された(図13)。また、図13に見られるように、突き当て部のところで、内皮細胞の成長が停止したことも確認された。
これに対し、従来のスムースサーフェイスを有するインフローカニューレを用いた場合には、カニューレの根本部に生じる血栓が見られることが多いが(図14)、本実験においては見られなかった。本現象は、実施した2例とも確認された。病理学評価の結果、テクスチャードサーフェイス上の組織の表面には内皮細胞が覆っていることが解った。本実験より、左心室内壁の内皮細胞がテクスチャードサーフェイス上に伸びる方向に成長したことが示唆された。また、内皮細胞は血液凝固を制御する機能があるので、高い抗血栓性が得られていることが証明された。
さらに、実施例で製造したインフローカニューレは、上記動物実験でウシの左心室中に挿入された場合であっても安定した構造を維持し、剖検の際にも破損・剥離等は確認されなかった。
[発明の効果]
本発明における多孔性構造体は、高い機械的強度を有し、さらに表面上だけではなく厚み方向に関しても孔を多数形成させて、厚み方向に関しても適度に大きな空隙を有する三次元構造を得ることができるため、高いアンカリング効果が達成され、生体組織と隣接する部位に配置された場合には安定した内皮細胞の定着が達成される。従って、本発明の構造体は、生体内の血液が滞留しやすい部位であっても長期間留置させることが可能であり、本発明の構造体を使用した場合には血栓の脱落や血栓の血管への流入を防ぐことが可能である。
また、本発明の多孔性構造体は単独で製作できるため、テクスチャードサーフェイスを有する装置・器具等として独立して製造することが可能であり、あるいは、上記構造体は、別途製造された後に、補助人工心臓装置の血液接触面の所望の部位上に配置・固定することも可能である。そしてこの場合には、上記多孔性構造体を配置させたい装置・器具等については焼結炉に導入する必要がなく、テクスチャードサーフェイスとしたい部位に別途製造した上記構造体を配置すればよいだけなので、これらの装置・器具等の変形や荒れ、寸法精度の低下等が起こらず、スムースサーフェイス部分とテクスチャードサーフェイス部分が混在するような装置・器具等についても容易に製作することが可能である。
1 非孔性支持体付きのインフローカニューレ
1b 非孔性支持体付きのインフローカニューレ
1c 非孔性支持体を持たないインフローカニューレ
2 本体
3 支持体
3a 支持体胴部
3b 支持体突き当て部
3c 支持体ねじ部
4 スリーブ
5 カフ
6 カフ押さえねじ
7 人工血管
8 外クランプ
9 内クランプ
10 導管アセンブリ
11 血液ポンプ
12 ポンプケーブル
13 コントローラ
14 バッテリ
15 アウトフローグラフト
16 患者
17 胸部腔
18 コネクタ
18a 本発明の多孔性構造体
19 保持リング

Claims (13)

  1. 一部又は全体が多孔性構造体からなる血液循環補助装置用インフローカニューレであって、半径方向内側に管状の非孔性支持体をさらに具備し、当該非孔性支持体がそれの一方の端部に突き当て(リム)部を有し、そして、上記多孔性構造体が線条から形成されるものである、上記インフローカニューレ。
  2. 上記多孔性構造体が、1本又は2本以上の線条が交差および/又は接触して形成されたものであり、この又はこれらの線条が、上記多孔性構造体の表面において、互いに隣り合うその交差点および/又は接触点を結ぶ線によって囲まれる領域内に孔を形成している、請求項1記載のインフローカニューレ。
  3. 上記多孔性構造体が、1本又は2本以上の線条を中空管状体が形成されるように螺旋状に巻いてなる、請求項1又は2のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  4. 上記多孔性構造体が、1本又は2本以上の線条から形成された不織体からなる、請求項1又は2のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  5. 上記線条が金属材料線条、ポリマー系材料線条又は炭素繊維から選択される、請求項1〜4のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  6. 上記線条が金属材料線条であって、この金属材料がステンレス鋼、純チタン又はチタン合金から選択される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  7. 上記多孔性構造体が、1.9×10−5mm〜20mmの開口面積を有する孔を含む、請求項1〜6のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  8. 多孔性構造体に抗血栓性コーティングが施されている、請求項1〜7のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  9. 上記血液循環補助装置が補助人工心臓装置である、請求項1〜8のいずれか1つに記載のインフローカニューレ。
  10. 請求項1〜9のいずれか1つに記載のインフローカニューレを含む導管アセンブリ。
  11. 請求項10に記載の導管アセンブリを備えた補助人工心臓装置。
  12. 次の工程、すなわち
    (a)線条を管状の芯材に、一方の端から他方の端まで螺旋状に巻き付ける工程、
    (b)工程(a)で巻き付けた螺旋と交差させるように、同じか又は別の線条を螺旋状に巻き付ける工程、
    (c)工程(a)および(b)により得られた管状構造体の焼結を行う工程、
    (d)工程(c)で得られた焼結された管状構造体から、上記の芯材を抜き取る工程
    (e)工程(d)で得られた管状構造体の半径方向内側に、該構造体の内部に嵌め込み得るようにかつそうして該構造体を支持し得るように外径が適合された管状の非孔性支持体であってそれの一方の端部に突き当て(リム)部を有する非孔性支持体を嵌め込む工程、必要に応じて上記(a)〜(e)に加えて下記の(f):
    (f)工程(e)で得られた非孔性支持体付きの管状構造体全体に抗血栓性コーティングを施す工程、
    を含む、請求項1〜3、および5〜9のいずれか1つに記載のインフローカニューレを製造する方法。
  13. 次の工程、すなわち
    (a)台座と、その上に同心円状に配置された内型枠および外型枠とを具備する型枠内に、線条を不規則に入れてその後固定し、不織体の形の管状構造体を得る工程
    (b)工程(a)で得られた管状構造体の半径方向内側に、該構造体の内部に嵌め込み得るようにかつそうして該構造体を支持し得るように外径が適合された管状の非孔性支持体であってそれの一方の端部に突き当て(リム)部を有する非孔性支持体を嵌め込む工程、必要に応じて上記(a)および(b)に加えて下記の(c):
    (c)工程(b)で得られた非孔性支持体付きの管状構造体全体に抗血栓性コーティングを施す工程、
    を含む、請求項1、2、および4〜9のいずれか1つに記載のインフローカニューレを製造する方法。
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