以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本実施形態に係るイオン源は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素からなるイオン原料ガスを電界電離し、高輝度のイオンビームを得るためのイオン源である。図1(a)乃至図2に示されるように、イオン源10は、微小開孔21を有し、外部からイオン原料ガスが充填(供給)される容器20と、この容器20にイオン原料ガスを供給する原料ガス供給管(原料ガス供給手段)30と、容器20内に配置されるビーム照射電極25と、容器20の前方に配置される引出電極40と、ビーム照射電極25に付着した被膜を除去可能な被膜除去装置50とを備える。これら容器20、ビーム照射電極25、引出電極40及び被膜除去装置50は、真空容器(図示省略)内に配置されている。この真空容器は、いわゆる真空チャンバーであり、真空ポンプ等の排気手段が設けられ、その内部がイオン源10の作動時に排気されて高真空状態に保たれる。また、ビーム照射電極25と引出電極40とには印加用電源60が接続され、ビーム照射電極25と被膜除去装置50とには二次電子放出用電源62が接続されている。尚、本実施形態において、照射されるイオンビームの照射方向を前方(又は先端側)とする(図1(a)においては下方向)。また、本実施形態に係るイオン源10に組み込まれる被膜除去装置50は、イオン源10の製造時において予め組み込まれてもよく、設置後のイオン源10に対して後から組み込まれてもよい。
容器20は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素などの常温で気体状態のイオン原料ガスが充填される容器であり、絶縁体で形成されている。本実施形態では、容器20は、アルミナセラミクスで形成されているが、ジルコニウム系セラミクスやガラス等で形成されてもよい。この容器20の内部にはイオンビームのビーム軸K方向に延びるビーム照射電極25が配置されている。また、容器20の前部には、強電界生成用電極26が取り付けられている。
具体的に、容器20は、円筒状の容器周面部22と、その前方を微小開孔21を残して塞ぐ容器先端部23と、容器周面部22の後方を塞ぐ容器後端部24とからなる。容器先端部23は、その中央部(ビーム軸Kと交差する位置)に、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスが噴出する微小開孔21が設けられている。また、容器先端部23には微小開孔21を囲むように強電界生成用電極26を配設するための段差部23bが設けられている。容器後端部24は、ビーム軸Kと直交する方向に拡がる板状の部位であり、容器20内部において支持体27を介してビーム照射電極25を支持する。この支持体27は、ビーム軸K方向に延びる柱状体であり、絶縁体により形成されている。本実施形態において支持体27は、アルミナセラミクスで形成されている。容器周面部22には、容器20内部にイオン原料ガスを供給可能に原料ガス供給管30が接続されている。この原料ガス供給管30の上流側には、容器20に供給するイオン原料ガスの供給量を制御するための供給量制御手段31が設けられている。
微小開孔21は、容器20の内部に配設されたビーム照射電極25の中心軸(イオンビームのビーム軸K)にその中心を一致させ、容器20の内部と外部とを連通するように容器先端部23に設けられている。この微小開孔21は、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスを容器20の外部へ噴出するための孔であり、内部から外部に向かって、即ち、イオンの引き出し方向に向かって先細りに形成された内周面縮径部23aの先端に形成されている。この内周面縮径部23aは、容器20の内部空間を囲む内周面のうちの前方側の部位であり、先端に向かって径が小さくなるテーパ形状に形成されている。本実施形態においては、内周面縮径部23aの小径側(容器20の前面側)の孔径は、20μmである。また、内周面縮径部23aのビーム軸Kに対する傾斜角αは、ビーム照射電極25の先端部のビーム軸Kに対する傾斜角βに比べて大きくなるように形成されている。
強電界生成用電極26は、微小開孔21を囲むように配置され、イオン原料ガスを電界電離現象によってイオン化するための強電界をビーム照射電極25の先端部周辺に形成するための電極である。具体的に、強電界生成用電極26は、ビーム軸Kを中心とする円板状の電極であり、容器先端部23先端に形成された段差部23bに配置される。本実施形態では、強電界生成用電極26は、ステンレスで形成されている。この強電界生成用電極26には、ビーム照射電極25との間に電圧を印加する強電界生成用電源64が接続されている。この強電界生成用電源64は、直流電源であり、照射されるイオンビームのビーム量を変化できるよう、ビーム照射電極25と強電界生成用電極26との間に加える電圧の大きさを変更可能に構成される。
ビーム照射電極25は、イオン原料ガスを電界電離してイオン化するために、その先端部に強電界を発生させるための電極である。このビーム照射電極25は、先端が尖り且つビーム軸K方向に延びる。具体的には、ビーム照射電極25は、タングステンで形成され、長さが20mm、直径が0.2〜1mmの細線であり、先端部(テーパ部)が先細りのテーパ形状となっている。このテーパ部は、全角で35°であり、その先端半径が50nmとなるように電界研磨により形成される。このようなビーム照射電極25は、その中心軸とビーム軸Kとが一致し、且つ先端が微小開孔21から容器20の外側へ僅かに突出するように容器20内に配置されている。本実施形態では、ビーム照射電極25は、その先端が容器20の外側へ5μm程度突出するように配置されている。尚、ビーム照射電極25の素材は、タングステンに限定されず、イリジウム等の金属やシリコン、又はそれらを含む合金、若しくはそれらに貴金属、高融点金属、高融点金属の炭化物若しくは窒化物等でコーティング処理を施したものであってもよい。また、ビーム照射電極25は、先端が微小開孔21から外側に突出する必要もなく、ビーム軸K方向において先端面と一致してもよく、僅かに後方側(容器20の内部側)となるように配置されてもよい。
引出電極40は、ビーム照射電極25の先端部周辺に強電界を発生させ、当該強電界によってイオン原料ガスをイオン化すると同時に、このイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す役目を担う。この引出電極40は、ステンレス製の板状の電極で、イオンビームの通過するビーム通過孔41が中央に設けられている。このビーム通過孔41は、ビーム照射電極25の先端部周辺から引き出されたイオンビームの外径よりも大きな内径を有している。このように構成される引出電極40は、容器20の前方側にビーム照射電極25の先端と対向するように配置されている。具体的に、引出電極40は、容器20の前方側において、中央に設けられたビーム通過孔41の中心が微小開孔21の中心と同一直線上(イオンビームのビーム軸K上)に位置するように配置されている。
印加用電源60は、ビーム照射電極25と引出電極40との間に電圧を加えるための電源である。この印加用電源60は、直流電源であり、引出電極40に対してビーム照射電極25が1k〜30kV程度(本実施形態の場合、10kV)の正電位を印加する。
被膜除去装置50は、二次電子を放出し、この二次電子をビーム照射電極25の先端部に当ることによって当該部位を加熱し、当該部に付着している被膜を除去可能な装置である。前記被膜は、イオンビームを照射し続けることでビーム照射電極25の先端部表面に徐々に付着・形成されるもので、具体的には、酸化被膜や炭素被膜である。被膜除去装置50は、二次電子放出部51を有する移動部材(ビーム照射電極の被膜除去用部材)150と、この移動部材150の位置を切り換える駆動手段(位置切換手段)55とを備える。
移動部材150は、本実施形態では、二次電子を放出する二次電子放出部51と、イオンビームの発散角を抑制するアパーチャ部(発散角抑制部)52とを有する。この移動部材150は、イオン源10において、引出電極40よりも前方、即ち、イオンビームの照射方向(ビーム照射方向)下流側に配置される。移動部材150は、矩形の板状部材である移動部材本体53を有し、この移動部材本体53の異なる部位に二次電子放出部51とアパーチャ部52とが設けられる。具体的に、移動部材本体53の一方側(図1(b)において左側)の部位が二次電子放出部51を構成し、他方側(図1(b)において右側)の部位がアパーチャ部52を構成する。この移動部材150は、導電材料によって形成されており、本実施形態ではステンレスにより形成されている。尚、移動部材150は、導電材料によって形成されていればよい。即ち、移動部材150の素材は、ステンレスに限定されず、アルミニウム等でもよい。
二次電子放出部51は、ビーム照射電極25との間に電圧を加えられることによってビーム照射電極25の先端部周辺に強電界を形成し、ビーム照射電極25の先端部に供給されたイオン原料ガスを前記強電界により電界電離してイオン化しこのイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出し、このイオンビームと衝突して二次電子を放出する役目を担う。この二次電子放出部51は、ビーム照射電極25の先端と対向する位置(放出位置P2(図2参照))にあるときに当該電極25先端から照射されるイオンビームの進行を遮る形状を有する。
具体的に、二次電子放出部51は、放出位置P2のときにビーム照射電極25から離れる方向、即ち、ビーム照射方向に窪んだ凹部51aを有する。この凹部51aは、移動部材本体53のビーム照射電極25側(図1(a)において上側)の面からビーム照射電極25(図1(a)において上方)に向って突出する円柱状の突出部51bの突出方向先端に設けられている。このように凹部51aが突出部51bの先端に設けられることで、放出位置P2のときに凹部51aがよりビーム照射電極25の先端に近づき、当該凹部51aから放出される二次電子がビーム照射電極25の先端部により当り易くなる。具体的に、凹部51aは、放出位置P2のときに各部位の法線方向が当該部位を通りビーム軸Kに平行な線よりもビーム照射電極25の先端に接近する形状を有する。より具体的には、凹部51aは、放出位置P2のときに、曲率中心がビーム照射電極25の先端部と重なるような球面形状を有する。
二次電子放出部51の表面にはコーティング(被膜)が施されており(図1(a)における凹部51a表面の太線部)、このコーティングは、二次電子放出比の大きな素材(物質)によりなされている。本実施形態では、ステンレス製の突出部51b(凹部51aを含む)の表面にMgOやBaO等の金属酸化物膜がコーティングされている。尚、二次電子放出比とは、加速されたイオンが固体表面に衝突したときに当該イオンと固体原子との粒子間衝突によって固体中の電子が励起されて二次電子として放出されるが、このとき1個のイオンが固体表面に衝突することでこの固体表面から放出される二次電子の数のことをいう。即ち、二次電子放出比が大きい素材ほど、イオンが衝突したときに多くの二次電子を放出する。通常、二次電子放出比が大きな素材とは、二次電子放出比が1以上の素材のことをいう。
アパーチャ部52は、イオンビームの発散角を抑制する部位である。このアパーチャ部52は、発散角抑制孔52aを有し、この発散角抑制孔52aにイオンビームを通過させることによりイオンビームの発散角を抑制する。発散角抑制孔52aは、移動部材本体53をビーム軸K方向に貫通する孔で、イオンビームの外径よりも小さな内径を有する。本実施形態では、発散角抑制孔52aは、ビーム照射方向において、上流側から下流側に向けて内径が大きくなるテーパ形状の内周面を有する。アパーチャ部52には、内径の異なる2つの発散角抑制孔52aが設けられている。これら内径の異なる2つの発散角抑制孔52aは、移動部材150の移動方向(図1(a)の矢印γ参照)に沿って並んでいる。
駆動手段55は、移動部材150の位置を切り換えるものである。即ち、駆動手段55は、移動部材150の位置を切り換えることにより、この移動部材150に設けられた二次電子放出部51の位置を切り換えることができる。この駆動手段55は、移動部材150の姿勢を保った状態でこの移動部材150を往復移動させる。本実施形態では、駆動手段55は、いわゆる直線導入機が用いられ、移動部材150をビーム軸Kと直交する方向に往復移動させる。この駆動手段55は、二次電子放出部51(詳細には、凹部51a)がビーム照射電極25の先端と対向して二次電子の放出が可能な放出位置P2と、この放出位置P2から二次電子放出部51が待避してイオンビームの通過を許容することが可能な発散角抑制位置P1とに移動部材150の位置を切り換える。この発散角抑制位置P1とは、イオンビームが発散角抑制孔52aを通過可能な位置である。具体的に、発散角抑制孔52aがビーム照射電極25の先端と対向し且つ発散角抑制孔52aの中心とビーム軸Kとが一致するような位置である。
二次電子放出用電源62は、ビーム照射電極25と二次電子放出部51(移動部材150)との間に電圧を加えるための電源であり、ビーム照射電極25と移動部材150とに接続されている。この二次電子放出用電源62は、直流電源であり、電圧を変更することができる。本実施形態では、二次電子放出用電源62は、0〜500Vの範囲内で、ビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に加える電圧の大きさを変更可能に構成される。
以上のように構成されるイオン源10では、以下のようにしてイオンビームが照射される。
先ず、発散角抑制位置P1となるように移動部材150の位置が駆動手段55により切り換えられる(図1(a)参照)。本実施形態では、イオンビームが内径の大きな発散角抑制孔52a(図1(a)における左側の発散角抑制孔52a)を通過するような位置に移動部材150の位置が切り換えられる。一方、真空容器では排気手段によって真空引きされ、当該真空容器内が高真空状態(10−6Pa以下)となる。その後、原料ガス供給管30を通じて容器20内にイオン原料ガス(本実施形態においては、ヘリウム)が供給される。このとき、容器20内の圧力が100Pa程度となるように供給量制御手段31によってイオン原料ガスの容器20内への供給量が調整される。
容器20内に供給されたイオン原料ガスは、容器20の微小開孔21から真空容器内に噴出するときにビーム照射電極25の先端部周辺を通過する。言い換えると、ビーム照射電極25の先端部にイオン原料ガスが供給される。このとき、ビーム照射電極25と引出電極40との間に印加用電源60によって電圧が加えられると共にビーム照射電極25と強電界生成用電極26との間に強電界生成用電源64によって電圧が加えられ、ビーム照射電極25の先端部周辺に強電界が形成される。これにより、イオン原料ガスが容器20の微小開孔21から真空容器内に噴出するときにイオン原料ガスが前記強電界中を通過し、その際、電界電離現象によってイオン原料ガスがイオン化される。
詳細には、微小開孔21に連通している内周面縮径部23aとビーム照射電極25の外周面とで挟まれた原料ガス流路Rにおいて、その流路断面積(即ち、ビーム軸Kと直交する断面において、内周面縮径部23aに囲まれた部位からビーム照射電極25の断面を除いた部位(原料ガス流路R)の面積)は、前方に向かって徐々に小さくなり、微小開孔21の位置で最も小さくなる。そのため、イオン原料ガスのガス圧は、微小開孔21の位置で最も高くなり、本実施形態では10Pa程度に維持される。ビーム照射電極25先端が微小開孔21から僅かにしか突出していないため、強電界が形成されたビーム照射電極25の先端部周辺にも、この高圧の(即ち、ガス分子の密度の高くなった)イオン原料ガスが供給されることになり、ビーム照射電極25の先端部周辺に形成された強電界中で多数のイオンが形成される。
このイオン化されたイオン原料ガスが引出電極40によってビーム照射方向に引き出される。このとき、容器20の外側が高真空状態であるため、微小開孔21から噴出したイオン化されたイオン原料ガス(イオン)以外のイオン原料ガスが一気に拡散する。その結果、微小開孔21の前方側では、引き出されたイオンビームのイオンが雰囲気ガス等と衝突する確率が低い(イオン消滅確率が低い)高真空領域となり、引き出されたイオンの消滅及び引き出されたイオンのエネルギー低下が抑制され、高輝度なイオンビームが得られる。
このようにして引き出されたイオンビームは、引出電極40のビーム通過孔41を通過して引出電極40の下流側に配置された移動部材150に到達する。具体的には、移動部材150の位置が発散角抑制位置P1に切り換えられているため、イオンビームは、移動部材150のアパーチャ部52の発散角抑制孔52aに到達する。この発散角抑制孔52aは、前記ビーム照射電極25から到達したイオンビームの外径よりも小さな内径を有する。そのため、この到達したイオンビームは、当該発散角抑制孔52aを通過することにより、この発散角抑制孔52aの内径、詳細には、発散角抑制孔52aの上流側の内径に対応する外径となる。これにより、イオンビームの発散角が抑制され、イオン源10から照射されるイオンビームは、高輝度なイオンビームとなる。
以上のようにしてイオン源10からイオンビームが照射される。このイオンビームの照射が続けられると、ビーム照射電極25の表面において徐々に被膜(本実施形態では炭素被膜)が付着・形成される。ビーム照射電極25に被膜が付着すると、照射されるイオンビームのイオン電流が不安定となるため、当該イオン源10では、以下のようにしてこの被膜の除去が行われる。
イオン源10からイオンビームが照射されている場合は、先ず、印加用電源60によるビーム照射電極25と引出電極40との間の印加を止め、前記イオンビームの照射を止める。イオンビームがイオン源10から照射されていない状態で、二次電子放出部51が放出位置P2となるように移動部材150の位置が切り換えられる(図2参照)。この位置の切り換えが完了すると、二次電子放出用電源62によって、印加用電源60と同じ電圧でビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧が加えられる。このとき、容器20へのイオン原料ガスの供給や真空容器内の高真空状態は、通常運転(イオン源10からイオンビームが照射されている状態)と同じ状態に保たれているため、二次電子放出用電源62の印加によりビーム照射電極25の先端からイオンビームが照射される。即ち、二次電子放出用電源62の印加により、ビーム照射電極25の先端部周辺に強電界が形成され、これによりイオン原料ガスが電界電離によってイオン化される。そして、このイオン化されたイオン原料ガスは、二次電子放出部51によって引き出されてイオンビームとなる。
二次電子放出部51が放出位置P2にあるため、前記イオンビームは、二次電子放出部51、詳細には、凹部51aに衝突する。二次電子放出部51の表面が二次電子放出比の大きなMgO等の金属酸化物膜によってコーティングされているため、このイオンビームの衝突により、多数の二次電子が凹部51aから放出される。一方、ビーム照射電極25との間で電圧が加えられている凹部51aが前記の球面形状を有しているため、当該凹部51aとビーム照射電極25の先端との間に形成される電界の各等電位面では、当該等電位面の各部位の法線方向がビーム照射電極25の先端部を向いている(図2参照)。そのため、凹部51aからこの電界中に放出された二次電子は、当該電界によってビーム照射電極25の先端部に向かって加速され、凹部51aから放出された多数の二次電子が効率よくビーム照射電極25の先端部に当る。
このようにして多数の二次電子がビーム照射電極25の先端部に当ることで当該部位が加熱されて高温となる。この高温となったビーム照射電極25の熱によって当該電極25に付着した被膜も加熱され、これにより被膜が効果的に除去される。
ビーム照射電極25に付着した被膜の除去が終了すると、二次電子放出用電源62による印加が停止され、二次電子放出部51に照射されていたイオンビームが止まる。イオンビームが止まると、発散角抑制位置P1となるように移動部材150の位置が駆動手段55により切り換えられる(図1(a)参照)。この位置の切り換え後、印加用電源60によってビーム照射電極25と引出電極40との間に電圧が加えられると、イオン源10からイオンビームの照射が開始される。
以上のように、本実施形態に係るイオン源10では、イオンビームを照射できる一方、使用によりビーム照射電極25に付着した被膜を除去し、この被膜に基づくイオンビームのイオン電流の不安定化を防止又は解消することが可能となる。即ち、被膜除去装置50において、移動部材150の位置を二次電子放出部51がビーム照射電極25の先端と対向して二次電子の放出が可能な放出位置P2と、この放出位置P2から二次電子放出部51が待避してイオンビームの通過を許容することが可能な発散角抑制位置P1とに切り換えるだけで、当該被膜除去装置50が用いられたイオン源10において、イオンビームを照射する運転と、使用によりビーム照射電極25に付着した被膜を除去する運転とを切り換えることができる。
しかも、二次電子放出部51は、放出位置P2にあるときにイオンビームの進行を遮る形状を有しているため、イオンビームと確実に衝突し、これにより多数の二次電子が放出されるため、この二次電子によりビーム照射電極25が効果的に加熱され、その結果、ビーム照射電極25に付着した被膜が効果的に除去される。
具体的に、二次電子放出部51が放出位置P2となるように移動部材150の位置が切り換えられると共にビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧が加えられることにより、ビーム照射電極25から照射されたイオンビームが二次電子放出部51(凹部51a)と衝突して当該二次電子放出部51から多数の二次電子が放出される。この放出された二次電子がビーム照射電極25の先端と凹部51aとの間に形成された電界により効率よくビーム照射電極25の先端部に当ることにより、当該部位が効果的に加熱され、これによりビーム照射電極25に付着した被膜が加熱されて当該被膜が効果的に除去される。
さらに、イオンビームの衝突により二次電子放出部51から放出される二次電子は、放電やスパッタ等によって金属表面から叩き出されるイオン(金属粒子)等に比べて極めて質量が小さいため、ビーム照射電極25や他の部位に当っても当該部位を損傷させ難い。
凹部51aの曲率中心がビーム照射電極25の先端部と重なるような球面形状を当該凹部51aが有することで、ビーム照射電極25先端と凹部51aとの間に形成される電界における各等電位面は、当該等電位面の各部位の法線方向が全てビーム照射電極25の先端部に向かうような形状となる。そのため、凹部51aから放出された二次電子がよりビーム照射電極25の先端部に向けて加速され易い。そのため、この電界によって凹部51aから放出された二次電子は、より多くビーム照射電極25の先端部に向かうため、より多くの二次電子がビーム照射電極25の先端部に当たり、当該部位がより効果的に加熱される。
二次電子放出部51は、二次電子放出比の大きな金属酸化物膜でコーティングされることにより、当該二次電子放出部51にイオンビームが衝突することでより多くの二次電子が当該二次電子放出部51から放出される。その結果、ビーム照射電極25の先端部に二次電子がより当たり易くなる。
共通の移動部材150に二次電子放出部51と発散角抑制部52とが設けられることで、当該移動部材150は、ビーム照射電極25の被膜を除去するための部材と、イオンビームの発散角を抑制する部材(いわゆるアパーチャ)とを兼用することができる。そのため、イオン源10の構成の簡素化若しくは小型化を図ることが可能となる。しかも、この移動部材150の位置の切り換えにより、この被膜除去装置50が用いられたイオン源10において、発散角が抑制されたイオンビームを照射する運転と、使用によりビーム照射電極25に付着した被膜を除去する運転とに切り換えることができる。
また、二次電子放出部51とアパーチャ部52とが共通の移動部材150に設けられているため、二次電子放出部51とアパーチャ部52とが別体として構成されたイオン源10に比べ、これら二次電子放出部51とアパーチャ部52との交換作業の簡素化を図ることができる。具体的に、二次電子放出部51とアパーチャ部52とは、共にイオンビームに曝される部位であるため所定の照射時間の経過によって損傷(消耗)するため交換の必要が生じる。そのため、二次電子放出部とアパーチャ部とが別体として構成されているイオン源では、これら二次電子放出部とアパーチャ部とを個別に交換する必要があるが、本実施形態に係るイオン源10では、二次電子放出部51とアパーチャ部52とが共通の部材(移動部材150)に設けられているため、一部材(移動部材150)を交換するだけで両方を交換することができる。
次に、本発明の第2実施形態について図3(a)及び図3(b)を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
イオン源10は、容器20と、原料ガス供給管30と、ビーム照射電極25と、被膜除去装置50aと、容器20の前方側に配置されるアパーチャ(発散角抑制部材)65とを備える。これら容器20、ビーム照射電極25、被膜除去装置50a及びアパーチャ65は、真空容器(図示省略)内に配置されている。ビーム照射電極25と被膜除去装置50aとには印加用電源60が接続されている。
被膜除去装置50aは、二次電子放出部51を有する移動部材250と、この移動部材250の位置を切り換える駆動手段55とを備える。
移動部材250は、本実施形態では、二次電子を放出する二次電子放出部51と、ビーム照射電極25の先端部周辺でイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す引出電極部240とを有する。この移動部材250は、イオン源10において、ビーム照射電極25の先端とアパーチャ65との中間位置に配置される。移動部材250は、矩形の板状部材である移動部材本体53を有し、この移動部材本体53の異なる部位に二次電子放出部51と引出電極部240とが設けられる。具体的には、移動部材250の一方側(図3(b)において左側)の部位に二次電子放出部51構成され、他方側(図3(b)において右側)の部位に引出電極部240が構成されている。この移動部材250は、導電材料で形成されており、本実施形態ではステンレスで形成されている。尚、移動部材250は、導電材料で形成されていればよい。即ち、移動部材250の素材は、ステンレスに限定されず、アルミニウム等でもよい。
二次電子放出部51は、放出位置P2のときにビーム照射電極25から離れる方向に窪んだ凹部51aにより構成される。この凹部51aは、移動部材本体53のビーム照射電極25側(図3(a)において上側)の面に含まれる。この凹部51aには二次電子放出比の大きな素材によってコーティング(被膜)が施されている。このコーティングは、第1実施形態同様、MgOやBaO等の金属酸化物膜によりなされている。
引出電極部240は、第1実施形態のイオン源10における引出電極40(図1(a)参照)を兼ねる部分、即ち、ビーム照射電極25の先端部周辺に強電界を発生させ、当該強電界によってイオン原料ガスをイオン化すると同時に、このイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す役目を担う部分である。この引出電極部240は、ビーム通過孔240aを有し、このビーム通過孔240aを通過するようにビーム照射電極25の先端部周辺でイオン化されたイオンを引き出す。ビーム通過孔240aは、移動部材本体53をビーム軸K方向に貫通する孔で、イオンビームの外径よりも大きな内径を有する。本実施形態では、ビーム通過孔240aは、ビーム照射方向において、上流側から下流側に向けて内径が大きくなるテーパ形状の内周面を有する。
印加用電源60は、ビーム照射電極25と二次電子放出部51及び引出電極部240との間に電圧を加えるために、ビーム照射電極25と移動部材250とに接続されている。ここで、移動部材250は、全体が導電材料(本実施形態ではステンレス)で形成されているため、二次電子放出部51と引出電極部240とは導通している。従って、前記のようにビーム照射電極25と移動部材250とに印加用電源60が接続されることで、この印加用電源により、ビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧が加えられると共に、ビーム照射電極25と引出電極部240との間にも電圧が加えられる。
駆動手段55は、移動部材250の位置を切り換えるものである。この駆動手段55は、放出位置P2と、この放出位置P2から二次電子放出部51が待避してイオンビームの通過を許容することが可能な引出位置P3とに移動部材250の位置を切り換える。この引出位置P3とは、イオンビームがビーム通過孔240aを通過可能な位置である。具体的に、ビーム通過孔240aがビーム照射電極25の先端と対向し且つビーム通過孔240aの中心とビーム軸Kとが一致するような位置である。
アパーチャ65は、第1実施形態の移動部材150のアパーチャ部52(図1(b)参照)と同様に、イオンビームの発散角を抑制する部材である。このアパーチャ65は、ステンレス製の板状部材で、イオンビームの発散角を抑制する発散角抑制孔65aが中央に設けられている。この発散角抑制孔65aは、ビーム照射電極25の先端部周辺から引き出されたイオンビームの外径よりも小さな内径を有している。このように構成されるアパーチャ65は、移動部材250よりもさらに前方側において、ビーム照射電極25の先端と対向するように配置されている。具体的に、アパーチャ65は、中央に設けられた発散角抑制孔65aの中心が微小開孔21の中心と同一直線上(イオンビームのビーム軸K上)に位置するように配置されている。
以上のように構成されるイオン源10では、以下のようにしてイオンビームが照射される。
引出位置P3となるように移動部材250の位置が駆動手段55により切り換えられる(図3(a)参照)。一方、真空容器が真空引きされて当該真空容器内が高真空状態になった後、原料ガス供給管30により容器20内にイオン原料ガスが供給される。
ビーム照射電極25と引出電極部240(移動部材250)との間に印加用電源60によって電圧が加えられると共にビーム照射電極25と強電界生成用電極26との間に強電界生成用電源64によって電圧が加えられ、ビーム照射電極25の先端部周辺には強電界が形成される。容器20内に供給されたイオン原料ガスが容器20の微小開孔21から噴出するときに前記強電界中で電界電離現象によりイオン化され、このイオン化されたイオン原料ガスが引出電極部240により引き出される。
このようにして引き出されたイオンビームは、引出電極部240のビーム通過孔240aを通過し、アパーチャ65に到達する。この到達したイオンビームは、アパーチャ65の発散角抑制孔65aを通過することにより、この通過した発散角抑制孔65aの内径に対応する外径となる。これによりイオンビームの発散角が抑制され、イオン源10から照射されるイオンビームは、高輝度なイオンビームとなる。
次に、本実施形態に係るイオン源10での被膜の除去について説明する。
イオン源10からイオンビームが照射されている場合は、印加用電源60によるビーム照射電極25と引出電極部240(移動部材250)との間の印加を止め、前記イオンビームの照射を止める。イオンビームがイオン源10から照射されていない状態で、二次電子放出部51が放出位置P2となるように移動部材250に位置が切り換えられる。この位置の切り換えが完了すると、再度、印加用電源60によって照射電極25と移動部材250との間電圧が加えられる。これによりビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧が加わり、ビーム照射電極25の先端からイオンビームが照射される。
二次電子放出部51が放出位置P2であるため前記イオンビームが二次電子放出部51(凹部51a)に衝突し、これにより凹部51aから多数の二次電子が放出される。凹部51aから放出された二次電子は、ビーム照射電極25先端と凹部51aとの間に形成された電界によってビーム照射電極25の先端部に向かって加速され、効率よくビーム照射電極25の先端部に当る。このようにして凹部51aから放出された多数の二次電子が効率よくビーム照射電極25の先端部に当ることにより当該部位が加熱され、これによりビーム照射電極25から被膜が効果的に除去される。
以上のように、本実施形態に係るイオン源10では、第1実施形態同様に、イオンビームを照射できる一方、使用によりビーム照射電極25へ付着した被膜を除去し、この被膜に基づくイオンビームのイオン電流の不安定化を防止又は解消することが可能となる。即ち、被膜除去装置50aにおいて、移動部材250の位置を放出位置P2と引出位置P3とに切り換えるだけで、当該被膜除去装置50aが用いられたイオン源10において、イオンビームを照射する運転と、使用によりビーム照射電極25へ付着した被膜を除去する運転とを切り換えることができる。
二次電子放出部51は、放出位置P2にあるときにイオンビームの進行を遮る形状を有しているため、イオンビームと確実に衝突し、これにより多数の二次電子が放出されるため、この二次電子によりビーム照射電極25が効果的に加熱され、その結果、ビーム照射電極25に付着した被膜が効果的に除去される。
また、イオンビームの衝突により二次電子放出部51から放出される二次電子は、放電やスパッタ等によって金属表面から叩き出されるイオン等に比べて極めて質量が小さいため、ビーム照射電極25や他の部位に当っても当該部位を損傷させ難い。
凹部51aが当該凹部51aの曲率中心がビーム照射電極25の先端部と重なるような球面形状を有することで、凹部51aから放出された二次電子がよりビーム照射電極25の先端部に向けて加速され易い。そのため、この電界によって凹部51aから放出された二次電子は、より多くビーム照射電極25の先端部に向かうため、より多くの二次電子がビーム照射電極25の先端部に当たり、当該部位がより効果的に加熱される。
二次電子放出部51は、二次電子放出比の大きな金属酸化物膜でコーティングされることにより、当該二次電子放出部51にイオンビームが衝突することでより多くの二次電子が当該二次電子放出部51から放出される。その結果、ビーム照射電極25の先端部に二次電子がより当たり易くなる。
共通の移動部材250に二次電子放出部51と引出電極部240とが設けられることで、当該移動部材250は、ビーム照射電極25の被膜を除去するための部材と、ビーム照射電極25の先端部周辺でイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す部材とを兼用することができる。そのため、イオン源10の簡素化若しくは小型化を図ることが可能となる。しかも、この移動部材250の位置の切り換えのみで、この被膜除去装置50aが用いられたイオン源10において、イオンビームを照射する運転と、使用によりビーム照射電極25へ付着した被膜を除去する運転とに切り換えることができる。
被膜除去装置50aがイオン源10に用いられることにより、ビーム照射電極25と引出電極部240との間に電圧を加える電源によってビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧を加えることができ、これによりイオン源10に接続される電源の数を少なくすることができる。即ち、イオン源10からイオンビームを照射させるためにビーム照射電極25と引出電極部240との間に電圧を加える電源と、ビーム照射電極25の被膜を除去するために当該ビーム照射電極25と二次電子放出部51との間に電圧を加える電源とを共通の印加用電源60とすることができる。
具体的には、第1実施形態で用いられている二次電子放出用電源62(図1(a)参照)を本実施形態のイオン源では配置しなくてもよい。
次に、本発明の第3実施形態について図4を参照しつつ説明するが、上記第1及び第2実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
イオン源10は、容器20と、原料ガス供給管30と、ビーム照射電極25と、引出電極40と、被膜除去装置50bと、アパーチャ65とを備える。これら容器20、ビーム照射電極25、引出電極40、被膜除去装置50b及びアパーチャ65は、真空容器(図示省略)内に配置されている。ビーム照射電極25と被膜除去装置50bとには二次電子放出用電源62が接続されている。
被膜除去装置50aは、二次電子放出部51を有する移動部材350と、この移動部材350の位置を切り換える駆動手段55とを備える。
移動部材350は、本実施形態では、二次電子放出部51のみで構成される。この移動部材350は、ビーム軸K方向において、引出電極40とアパーチャ65との中間位置で、且つ引出電極40とアパーチャ65との何れにも接触しない位置に配置される。
駆動手段55は、放出位置P2と、この放出位置P2から移動部材350全体がイオンビームの軌道から外れた待避位置とに移動部材350の位置を切り換える。
以上のように構成されるイオン源10では、以下のようにしてイオンビームが照射される。
移動部材350が待避位置に駆動手段55により切り換えられる。真空容器が真空引きされ、その後、容器20内にイオン原料ガスが供給される。そして、ビーム照射電極25と引出電極40との間に電圧が加えられると共にビーム照射電極25と強電界生成用電極26との間に強電界生成用電源64によって電圧が加えられ、これによりビーム照射電極25の先端部周辺に強電界が形成される。このビーム照射電極25の先端部周辺に供給されたイオン原料ガスが前記強電界中を通過することにより、当該イオン原料ガスが電界電離現象によりイオン化される。このイオン化されたイオン原料ガスが引出電極40により引き出されてイオンビームとなり、このイオンビームがアパーチャ65においてその発散角が抑制されることにより、イオン源10から高輝度なイオンビームが照射される。
本実施形態に係るイオン源10では、以下のように被膜の除去が行われる。
印加用電源60によるビーム照射電極25と引出電極40との間の印加を止め、イオンビームの照射を止める。待避位置から放出位置P2となるように移動部材350の位置が駆動手段55により切り換えられる。二次電子放出用電源62によりビーム照射電極25と移動部材350との間に電圧が加えられ、これによりビーム照射電極25の先端部周辺に強電界が形成され、この強電界によりイオン原料ガスがイオン化される。このイオン化されたイオン原料ガスが引出電極40に引き出されることにより移動部材350(凹部51a)にイオンビームが照射される。
このイオンビームが凹部51aに衝突し、これにより凹部51aから多数の二次電子が放出される。この二次電子は、ビーム照射電極25先端と凹部51aとの間に形成された電界によってビーム照射電極25の先端部に向かって加速され、効率よくビーム照射電極25の先端部に当る。凹部51aからこのようにして多数の二次電子が効率よくビーム照射電極25の先端部に当ることで当該部位が効果的に加熱され、これによりビーム照射電極25から被膜が効果的に除去される。
以上のように、移動部材350全体が二次電子放出部51であっても、第1及び第2実施形態同様に、イオンビームを照射できる一方、使用によりビーム照射電極25へ付着した被膜を除去し、この被膜に基づくイオンビームのイオン電流の不安定化を防止又は解消することが可能となる。
さらに、イオンビームの衝突により凹部51aから放出される二次電子は、放電やスパッタ等によって金属表面から叩き出されるイオン等に比べて極めて質量が小さいため、ビーム照射電極25や他の部位に当っても当該部位を損傷させ難い。
凹部51aが当該凹部51aの曲率中心がビーム照射電極25の先端部と重なるような球面形状を有することで、凹部51aから放出された二次電子がよりビーム照射電極25の先端部に向けて加速され易い。そのため、この電界によって凹部51aから放出された二次電子は、より多くビーム照射電極25の先端部に向かうため、より多くの二次電子がビーム照射電極25の先端部に当たり、当該部位がより効果的に加熱される。
二次電子放出部51は、二次電子放出比の大きな金属酸化物膜でコーティングされることにより、当該二次電子放出部51にイオンビームが衝突することでより多くの二次電子が当該二次電子放出部51から放出される。その結果、ビーム照射電極25の先端部に二次電子がより当たり易くなる。
尚、本発明のイオン源は、上記第1乃至第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、前記第1乃至第3実施形態に係るイオン源10は、気相のイオン原料ガスを用いてイオンビームを照射する電界電離イオン源(GFIS)であるが、ガリウム等の液体金属を用いてイオンビームを照射する液体金属イオン源(LMIS)であってもよい。即ち、液体金属イオン源において前記の被膜除去装置50,50a,50bが組み込まれることにより、当該液体金属イオン源では、イオンビームを照射できる一方、使用によりビーム照射電極25に付着した被膜を除去し、この被膜に基づくイオンビームのイオン電流の不安定化を防止又は解消することが可能となる。尚、液体金属イオン源では、液体金属がビーム照射電極25の表面を伝ってビーム照射電極25の先端に供給され、このビーム照射電極25表面の液体金属の表面に被膜が形成される。そのため、この被膜を被膜除去装置50,50a,50bにより除去するときには、被膜除去装置50,50a,50b(二次電子放出部)から放出された二次電子によりビーム照射電極25の先端部が加熱され、この熱が電極25表面の液体金属を経て被膜に伝わり、この熱によって被膜が加熱・除去される。
また、移動部材に設けられた二次電子放出部51の具体的な形状は限定されない。例えば、前記第1乃至第3実施形態では前記の球面形状の凹部に形成されているが、各部位の法線方向が当該部位を通りビーム軸Kに平行な線よりもビーム照射電極25の先端に接近する形状の凹部であればよく、例えば、図5(a)に示されるように、断面形状が多角形となるような凹部151aであってもよい。このような凹部151aであっても、ビーム照射電極25と凹部151aとの間に電圧が加えられたときに、ビーム照射電極25先端と凹部151aとの間に形成される電界における各等電位面は、当該等電位面の各部位の法線方向が当該部位を通りビーム軸K方向に平行な線よりもビーム照射電極25の先端に接近する形状となるため、凹部151aから放出された二次電子がビーム照射電極25の先端部に向けて加速され易い。そのため、この電界によって凹部151aから放出された二次電子の多くがビーム照射電極25の先端部に向かい、これら二次電子がビーム照射電極25の先端部に当ることにより当該部位が効果的に加熱される。
また、図5(b)に示されるように、二次電子放出部251aは、少なくともその表面が二次電子放出比の大きな素材で形成されていれば、平板状に形成されていてもよい。このような形状であっても、少なくともその表面が二次電子放出比の大きな素材で形成されることで、イオンビームが当該二次電子放出部251aに衝突したときに、当該部位よりも二次電子放出比の小さな素材で形成された部材と比べ、より多くの二次電子が放出されるためビーム照射電極25の先端部に当る二次電子の数が多くなり、前記先端部が効果的に加熱される。
二次電子放出部51の位置の切り換えのときの具体的な移動状態は限定されない。例えば、前記第1乃至第3実施形態では、移動部材150,250,350がビーム軸Kと直交する方向に沿って往復移動することによって、二次電子放出部51もビーム軸Kと直交する方向に沿って往復移動することにより位置の切り換えが行われるが、図6(a)に示されるように、円板状の移動部材450において周方向に凹部(二次電子放出部)51a、発散角抑制孔52aが設けられ、この円板状の移動部材450の中心cを回転中心にして当該移動部材450を回動駆動することにより凹部51aの位置の切り換えを行ってもよい。
また、二次電子放出部のみで構成される移動部材350の具体的な移動状態は、限定されない。例えば、第3実施形態では、移動部材350は、他の部材と接することなくビーム軸Kと直交する方向に沿って往復移動するが、図6(b)及び図6(c)に示されるように、引出電極40上で当該引出電極40の面に沿ってスライド移動してもよく、また、前記面上で回動移動するように構成されてもよい。
前記第1乃至第3実施形態では、凹部51a(二次電子放出部51)の表面に二次電子放出比の大きな素材によりコーティングが施されているが、凹部51aを含む部材又は凹部51aを含む部位全体が二次電子放出比の大きな素材で形成されてもよい。このように形成されても、イオンビームが照射されることで多数の二次電子が放出される。
また、イオン源10に、ビーム照射電極25の先端部周辺に水素ガス又は酸素ガスを供給可能なガス供給手段をさらに備えてもよい。このように構成されることで、被膜除去装置50によってビーム照射電極25に付着した被膜を除去する際に、ビーム照射電極25の先端部周辺に水素ガス又は酸素ガスが供給されることにより、加熱された被膜と当該ガスとが反応し、より効率よくビーム照射電極25に付着した被膜の除去が可能となる。