第1の発明は、鍋を載置するためのトッププレートと、前記トッププレートの下方に略同一平面に配置され、異なる円心を有する複数の加熱コイルと、前記複数の加熱コイルに電力を供給するインバータと、前記インバータの出力を制御する制御部と、前記制御部に加熱の開始/停止や火力設定などを指示する操作部と、を有し、前記複数の加熱コイルのうち、最も近接して配置される二つの加熱コイルの最短距離は加熱コイルの半径以下とし、少なくとも前記二つの加熱コイルを同時に動作して一つの鍋を加熱する場合は、前記二つの加熱コイルに流れる電流は同一周波数とし、且つ同期を取るとともに、電流の位相差がπ/2〜0の間であることを特徴とする誘導加熱調理器とすることにより、二つの加熱コイル間の磁界は打ち消し合い、二つの加熱コイル間で磁界を強く発生して加熱し過ぎることはなくなるため、二つの加熱コイル間距離を短くして設置面積を減らしながらも鍋を均一に加熱することができる。
第2の発明は、特に、第1の発明の誘導加熱調理器に位相差切替部を備え、前記二つの加熱コイルに流れる電流の位相差がπ〜π/2の間である状態と、π/2〜0の間である状態とを切り替える。
このことにより、鍋を均一に加熱することを必要とせず、高出力高加熱が要求される時は、電流の位相差をπ〜π/2の間とすることにより、二つの加熱コイル間では磁界が協調して強くなるため、発生させた磁界を効率よく加熱に寄与させることができ、加熱効率を高くして加熱することができる。
さらに、電流の位相差をπ〜π/2の間で動作させる磁界の協調動作では、同時に動作している複数の加熱コイルの外側、特に二つの加熱コイルの中心を結ぶ線と加熱コイル外径との交わる点を接点とする加熱コイルの接線方向近傍では磁界が打ち消し合い、磁界が加熱コイルの遠方に漏洩し難くなるため、調理器利用者への輻射レベルを低減したり制御
回路の誤動作を起こし難くしたりするなど、安全性の高い誘導加熱調理器を提供することができる。特に、同時に動作して一つの鍋を加熱する加熱コイルの総数のサイズより加熱する鍋のサイズの方が小さい場合はその効果が著しく表れるため、小鍋時の加熱を協調動作により行うことは有効である。
また、位相差の切り替えを、例えばリレーなどを用いて電気的接続を変化させて、位相差をπと0の2パターンのみとすることにより、位相差を任意に制御するための複雑な手段を設けることなく、容易且つ安価に加熱特性の異なる誘導加熱調理器を実現することができる。
第3の発明は、特に、第1または第2の発明のインバータを、複数のインバータから成り立たせ、前記複数の加熱コイルを前記複数のインバータの数だけの加熱コイル群に分け、同一加熱コイル群内の加熱コイルを直列または並列に接続し、前記加熱コイル群ごとに1対1で対応させた前記インバータに接続する。
インバータの数を複数とすることにより、鍋が載置されていなかったり、加熱が不要な部分があったりした場合に、通電する必要のない加熱コイルに接続しているインバータを動作させず、不要な磁界を発生して加熱効率を下げたり漏洩磁界を増大させることのない誘導加熱調理器を提供することができる。
また、インバータの動作を個々で変えることにより、加熱コイルに流す電流を調節できるため、例えば同じ鍋内でも強く加熱したいところと弱く加熱したいところを設けることができるなど、多彩な加熱パターンを有する誘導加熱調理器を提供することができる。
さらに、加熱コイルの配置と結線を工夫することにより、インバータの数と加熱コイルの数が1対1の関係でなくとも、全ての加熱コイルにおいて、最も近接する二つの加熱コイルが、磁界の打ち消し合いの動作、または協調の動作を行うことができるようにすることができる。
第4の発明は、特に、第3の発明の誘導加熱調理器の位相差の切り替えを、前記複数のインバータ間において、前記インバータを構成するスイッチング素子が導通状態や非導通状態に遷移するタイミングをずらすことにより行う。
このことにより、スイッチング素子のオンやオフに遷移するタイミングを二つのインバータ間でずらして加熱コイルに流れる電流の位相差を制御することにより、加熱コイルに流れる電流の位相差がπ〜0の任意の状態を簡単に作り出すことができる。
また、上記制御方法であれば、一つのインバータを構成するスイッチング素子の数が最低数である一つであっても異なる二つのインバータ間で位相差を作り出すことができるため、安価なインバータ構成であっても均一に加熱することができる誘導加熱調理器を実現することが可能になる。
第5の発明は、特に、第2〜4のいずれか1つの発明の誘導加熱調理器の一つの鍋を加熱するために動作する加熱コイルの数を偶数個とする。
このことにより、複数の加熱コイルは任意に定めた一定の規則のもとに配置され、その中で同時に動作させる加熱コイルの数は偶数個とすることにより、磁界の協調動作時においては、加熱コイルの中心を結ぶ線分に垂直であって、且つ加熱コイルを結ぶ線分の中心点を通過する直線上が最も漏洩磁界が弱くなるため、加熱コイルを最適に配置することにより漏洩磁界を弱めたい所に漏洩磁界の最低ポイントを位置させることができる。
また、三つ以上の加熱コイルで一つの鍋を加熱するとき、近接する加熱コイルで磁界の協調動作または打ち消し合い動作をさせた場合を想定する。磁界を打ち消し合う動作では、加熱コイルは奇数であっても近接する全ての加熱コイルで動作が成り立つが、磁界を協調する動作では、加熱コイルが奇数だと協調できない部分が少なくとも一点は生じてしまうため、全ての近接する加熱コイル間で協調動作を実現することができない。従って、一つの鍋を加熱する加熱コイルの数は偶数の方が、近接する全ての加熱コイル間で磁界を協調させる動作を行うことができるため、高出力/高効率で加熱することができる。
第6の発明は、特に、第2〜5のいずれか1つの発明の誘導加熱調理器の同時に動作する前記複数の加熱コイルのうち、誘導加熱調理器を操作する場所から最も近くで動作する前記二つの加熱コイルは、操作する場所から最も近い筐体の一辺と略平行になるように配置する。
加熱コイルからの距離が近ければ近いほど、磁界は強くなる。複数の加熱コイルを用いて一つの鍋を加熱する場合、調理器の操作部または調理器を操作する使用者が位置する場所から最も近くで動作する二つの加熱コイルの配置を、前に述べたように、二つの加熱コイルの中心を結ぶ線分に垂直であって、且つ加熱コイルを結ぶ線分の中心点を通過する直線近傍となるように配置することにより、漏洩磁界の曝露を最低限にすることができるため、特にペースメーカーの使用者にとっても安全性の高い調理器を提供することができる。
第7の発明は、特に、第1〜6のいずれか1つの発明の誘導加熱調理器に漏洩磁界を低減するための防磁リングを備え、前記防磁リングは、同時に動作して一つの鍋を加熱する可能性がある全ての加熱コイルを囲うように配置する。
磁界を協調させる動作をしたときの漏洩磁界は、互いの加熱コイルから発生する磁界が打ち消し合うため、加熱コイルの遠方には漏洩しにくい。しかし、磁界を打ち消し合う動作をしたときは、逆に漏洩しやすい形となる。従って、磁界が加熱コイル外部へ漏洩するのを低減させるために防磁リングが必要となる。そこで、同時に動作して一つの鍋を加熱する可能性のある加熱コイルを一塊として、防磁リングをその複数の加熱コイルの外周に配置することにより、防磁リングに発生する起電力は複数の加熱コイルの合算されたものとなり、防磁リングに流れる電流によって防磁リング外周には磁界が漏洩しないようにすることができる。
また、従来の誘導加熱調理器のように、加熱コイルと同じ円心を有するように、加熱コイルと同じ数の防磁リングを配置した場合、磁界の打ち消し合いや協調など、異なる加熱コイルが発生する磁界の干渉が起こらなくなるため、防磁リングを複数の加熱コイルの外周に一つ配置する構成の方が本発明においては有効である。
第8の発明は、特に、第2の発明の誘導加熱調理器の二つの加熱コイルに流れる電流の位相差がπ/2〜0の間のときの動作周波数は、電流の位相差がπ〜π/2の間のときの動作周波数よりも高いことを特徴とする。
打ち消し合いの動作と協調動作ではインダクタンスが変化するため、共振コンデンサが同一の場合は共振周波数も変化する。磁界の打ち消し合いの動作の方が協調の動作よりもインダクタンスが小さくなるため、共振周波数は高くなる。また、打ち消し合いの動作のほうが抵抗分は小さくなる。よって、打ち消し合いの動作である電流の位相差がπ/2〜0の間のときの動作周波数と協調の動作である電流の位相差がπ〜π/2の間のときの動作周波数を同一とすると、同じ鍋を加熱する場合であっても、動作周波数の設定と鍋を含
んだ加熱コイルのインピーダンスによっては、協調の動作時に定格の電力が出力できない、または、打ち消し合いの動作時に動作周波数のほうが共振周波数よりも小さくなって、ゼロ電圧スイッチングができなくなることでスイッチング素子の損失増大や破壊を招くことも考えられる。従って、スイッチング素子の動作周波数は、協調の動作よりも打ち消し合いの動作の方を高くすることが有効となる。
第9の発明は、特に、第1〜8のいずれか1つの発明の誘導加熱調理器の電力の調節は、前記インバータを構成するスイッチング素子の導通時間、Duty、または動作周波数の少なくとも一つを変化して行う。
複数のインバータを用いた構成により、電力の調節は、インバータ間で位相差を一定にしておけば、Dutyや動作周波数など、さまざまな電力制御手法を適用することができる。特に、周波数を変化させないDuty制御などの電力調整法は、二つのバーナを同時に動作させても動作周波数を一致させていればうなり干渉音が発生しないといったメリットが大きいため、本発明では有効である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。トッププレート11はガラスやセラミックなどの電気絶縁物からなる。トッププレート11の下方には図2に示す複数の加熱コイル12が配置されるが、図1では、複数の加熱コイル12の中から代表して、最も近接して配置される2つの加熱コイル13を図示している。複数の加熱コイル12の上面とトッププレート11の下面との距離は鍋と加熱コイルの結合の関係から10mm以内が現実的である。
複数の加熱コイル12に電力を供給するインバータ14と、インバータ14の出力を制御する制御部15と、加熱の開始/停止や火力設定などを指示する操作部16の接続関係は図1に示す通りである。操作部16はトッププレート11の上端に配置され、使用者に使いやすい形態となっている。
トッププレート11の上面には鍋17が載置されている。複数の加熱コイル12からトッププレート11を介した直上は少なくとも加熱可能領域となる。
図2に、本発明の実施の形態1の、複数の加熱コイル12の配置関係を示す。複数の加熱コイル12はマトリックス状に配置されており、図2では9つの加熱コイルを代表して図示している。
最も近接して配置される2つの加熱コイル13のコイル間距離をa、加熱コイルの半径をbとすると、0≦a≦bの関係となるように配置する。この根拠については後に記載することにする。
図3は、2つの加熱コイル13に流れる電流の向きを定義している。図3の左加熱コイル27に流れる電流をI1、右加熱コイル28に流れる電流をI2とし、両加熱コイルとも左回りに電流が流れた場合を正の値とする。
図4は、電流I1と電流I2の位相差θが0のときの電流波形を示す。位相差θが0の場合、2つの加熱コイル13の近接部付近では、加熱コイルに流れる電流が常に反対方向となり、互いの加熱コイルが発生する磁界を打ち消し合う。すると、隣接する加熱コイル
間の距離a内での磁界は殆どなくなり、鍋は加熱されにくくなる。しかし、加熱コイル間の距離aは加熱コイルの半径b以下と近いため、加熱コイル線上の磁界が強く発生して鍋が高温となる部分が近づくことによる保温性の向上や、加熱コイル間への伝熱量が増大することなどが寄与して、結果として鍋を均一に加熱することができる。
図5は、電流I1と電流I2の位相差θがπ/2のときの電流波形を示す。位相差θがπ/2の場合、2つの加熱コイル13の近接部付近では、加熱コイルに流れる電流が反対方向と同一方向に半々ずつになり、互いの加熱コイルが発生する磁界の打ち消し合いと協調が半々ずつ起こる形となる。その状態では、隣接する加熱コイル間の距離a内での磁界の干渉は発熱量的には無視でき、鍋の発熱量は各々単独の加熱コイルのみで動作した場合の足し合わせとなる。
図6は、外径8cm、内径3cmの加熱コイル一つに電力を約200W入力し、磁性SUS鍋を加熱したときの、加熱コイルの中心からの距離と鍋の温度上昇の関係を図示したものである。ここで、本実験では、トッププレート11と加熱コイルの距離は8mmとしている。図6をみると、加熱コイル線直上である加熱コイル中心からの距離が2cmの点で温度上昇が最も高いことがわかる。
2つの加熱コイル13を、位相差θがπ/2で動作させた場合の発熱分布は、図6で得られた結果を加熱コイルの距離aに応じて足し合わせればよく、その結果を図7に示す。図7の横軸は2つの加熱コイル13の内の一つの加熱コイルの中心を0cmとし、二つ目の加熱コイルの中心に向かう直線上の距離を表している。図7における縦軸は、鍋の温度上昇の最大値を100%とした温度上昇の割合を示している。
2つの加熱コイルの距離aが4cmの場合、加熱コイルの半径4cmと距離aの半分である2cmを足した6cmが2つの加熱コイル間の中心点となるが、図7を見ると、温度上昇が他のポイントに比べて低くなっていることがわかる。これは、2つの加熱コイル間距離が離れ過ぎているために、加熱コイル間での熱量が少なくなっているためである。この加熱コイル間距離で鍋を均一に加熱をするのであれば、特許文献3に挙げた発明が有効となる。しかし、前にも述べたように、加熱コイル間の距離aが長いと、加熱コイルが大型化してしまうなど課題が多く、加熱コイルを配置することができる有効面を十分に活用できなくなる。
次に加熱コイル間の距離aが2cmの場合をみると、加熱コイル間の中心点となる5cmを中心として長い距離に渡り、加熱分布が10%未満と、鍋を均一に加熱することができていることがわかる。つまり、加熱コイル間の距離aが2cmでは、2つの加熱コイルを同時に動作して、加熱コイルに流れる電流の位相差θをπ/2とすると、鍋を均一に加熱することができることになる。2つの加熱コイルで実験を行うと保温性が増し、図7の加熱コイル間の距離aが2cmのデータにおいて、4cm〜6cmでやや温度上昇が落ち込んでいる部分は殆ど平坦か、やや膨らみを持った状態となる。
最後に加熱コイル間の距離aが0cmの場合をみると、加熱コイル間の中心点(=接点)となる4cmに温度上昇ピーク値をもつ凸状態となっている。これは、加熱コイル間距離が近いために加熱コイル間の中心点付近での磁界が強くなり、一つの加熱コイルによる発熱量の2倍とした場合では、加熱コイル線直上の磁界よりも強くなるためである。この場合、位相差θをπ/2〜0の間とすることにより、互いの加熱コイルから発生する磁界を打ち消し合わせるとともに、位相差θを調整することで打ち消し合いのレベルを制御することにより、干渉が起きている加熱コイル間の中心点近傍では加熱をしにくくし、温度分布のピーク値のレベルを低減し、温度分布をよくして鍋を均一に加熱させることができる。
図8は鍋の種類を多層鍋に変えたときの場合であり、温度データを図6で示した場合と同様に測定して、加熱コイル間距離に応じて足し合わせた結果である。多層鍋は磁性SUS鍋のような単層且つ伝熱の悪い鍋よりも伝熱性能をよくしたものであり、加熱温度の均一化はし易いが、図8に示すように、加熱コイル間の距離に応じて温度勾配ができているとともに、磁性SUS鍋と同様に2cmで温度分布の平坦化が起こっていることがわかる。
図9は、鍋は磁性SUS鍋とし、加熱コイルのサイズを約2倍の外径18cmとした場合の、図7や図8と同様の図である。図8をみると、今度は加熱コイル間の距離aが4.5cmのときに温度勾配の平坦化が表れている。これは、加熱コイルの半径が大きくなることにより、2つの加熱コイルの中心を結ぶ直線近傍の加熱領域が増大し、保温性の向上と、測定点へ熱を伝熱できる領域が増えたことが原因と考えられる。この結果から、加熱コイル間の距離aと加熱コイルの半径bとの関係は実験的にa≦bとなることから、加熱コイル間の距離aを定義している。
2つの加熱コイル13に流れる電流の位相差θがπ/2の状態において、2つの加熱コイルの中心間で鍋を均一に加熱できる加熱コイル間の距離aは略半径となり、それよりも加熱コイル間距離が短くなれば、加熱コイル間の中心点に温度上昇ピーク値を有する温度分布となる。その場合においては、位相差θをπ/2〜0の間で変化させることにより、温度上昇ピーク値を抑えることができる。位相差θがπ/2〜0の間には、均一に加熱することができる位相差θが存在するため、加熱コイル間の距離aが短くても、本発明の技術を用いて鍋などの加熱容器を均一に加熱することができる。
また、発明者らは、加熱コイル間の距離aを0cm、位相差θを0として実験を試みたところ、2つの加熱コイルの中心間において鍋を均一に加熱できることを確認できた。
加熱コイルサイズと加熱コイル間距離の関係により、鍋を均一に加熱することができる位相差θは略決定できるが、より正確に鍋を均一に加熱したいときは、鍋の温度を測定する温度センサを設け、鍋の温度状態に応じて位相差を制御するようにしてもよい。その場合、加熱コイル線上方の鍋の温度に対し、加熱コイル間の中心上方の鍋の温度が高いと判断すると、位相差θを小さくて加熱コイル間の中心上方の鍋の温度を下げるようにする。逆に、加熱コイル線上方の鍋の温度に対し、加熱コイル間の中心上方の鍋の温度が低いと判断した場合には、位相差θを大きくして加熱コイル間の中心上方の鍋の温度を上げるようにする。
(実施の形態2)
図10に、本発明の実施の形態2の誘導加熱調理器の構成を示す。図1に示す誘導加熱調理器の構成と異なるのは、位相差切替部18を有する点である。図10に示す位相差切替部18は、一つのインバータから近接する2つの加熱コイル13の両方の加熱コイルに電力を供給する場合において、インバータ14と2つの加熱コイルのうちの片方の加熱コイルとの接続間にリレーを有し、接続を物理的に切り替えている。本実施の形態に示した位相差切替部18により、近接する2つの加熱コイル13に流れる電流の位相差は0またはπの二通りを実現することができる。
例えば、図11に示すように位相差θをπとすることにより、2つの加熱コイルから発生する磁界は最も強く協調する。加熱コイル間の距離a<加熱コイルの半径bの関係で磁界を協調させると、加熱コイル間の中心点上方の鍋の温度は位相差θをπ/2で動作させた以上に上昇して温度分布は更に悪くなるが、磁界の打ち消し合いが少なくなるため、高効率で加熱することができる。
また、磁界を協調させることにより、加熱コイルと鍋との磁気結合が良くなるため、加熱コイルからみた鍋込みの抵抗分が増大し、同じ加熱電力で比較すると、打ち消し合いの動作の場合に比べて加熱コイルに流れる電流が少なくなるため、回路部品の負担が減り高出力をしやすい。
さらに、同じ加熱電力の場合は、高効率で加熱するほうが加熱コイルやインバータ14の冷却が少なくて済むため、冷却ファンの回転数ダウンによる騒音の低下など、効率以外のメリットも出すことができる。
このような点から、位相差θをπ〜π/2とすることにより、鍋を均一に加熱することはできなくなるが、高出力化や高効率化には適しているため、調理メニューによって使い分けることが望ましい。例えば、玉子焼きやホットケーキなど、高出力があまり必要ではなく、均一に加熱するほうがメリットの高い調理物においては、位相差θをπ/2〜0の間として動作して均一に加熱させることを優先させる。また、湯沸しなど高出力や高効率が要求される場合には位相差θをπ〜π/2の間として動作することにより、調理性能のよい誘導加熱調理器を提供することができる。
(実施の形態3)
インバータ14は複数のインバータで構成してもよい。その場合、複数のインバータのうちの個々のインバータには、少なくとも一つの加熱コイルの接続が必須となる。インバータの数がn個、加熱コイルの数がk個の場合、k個の加熱コイルをn個に分割することにより、一つのインバータに少なくとも一つの加熱コイルが接続することができる。ここで、n≦kである必要があり、n=kのときは、一つの加熱コイルに一つのインバータが接続される状態になる。
図12に、本発明の実施の形態3の、インバータの数と加熱コイルの数の関係及びその接続方法の一例を示す。
図12は、2つのインバータと4つの加熱コイルから成り立つ誘導加熱調理器を示している。4つの加熱コイルを2つの加熱コイル群に分け、同一群の加熱コイルを直列に接続し、四角形の対角線上に加熱コイルを配置した構成をとったものである。
複数のインバータを設けることにより、インバータごとに出力の開始/停止や出力調整を行うことができ、鍋を載置していないなどの理由で出力する必要のない加熱コイルには電力を供給しないようにして、加熱効率の向上を図ったり、漏洩磁界を低減したりすることができる。
また、図12に示すように、加熱コイルを内側から外側に巻くとき、同一方向に巻いた(図12では左巻き)加熱コイル4つを配置した場合、同一群内の加熱コイル同士の結線は片方の加熱コイルを内側としたときは、もう一方の加熱コイルは外側とする。すると、図12中のインバータ1とインバータ2の位相差θが0の時は、インバータ1に接続している加熱コイルと、インバータ2に接続している加熱コイルから発生する磁界は近接するコイル間で常に打ち消し合う状態となる。逆に、インバータ1とインバータ2の位相差θがπの時は、インバータ1に接続している加熱コイルと、インバータ2に接続している加熱コイルから発生する磁界は近接するコイル間で常に協調する状態となる。つまり、加熱コイルとインバータが同一の数でなくとも打ち消し合いや協調の動作を全加熱コイルで実現することができるため、本発明を適用することにより、インバータの数を減らして安価に、均一に加熱することや高効率で加熱をすることができる。
(実施の形態4)
図13は、本発明の実施の形態4の、近接する2つの加熱コイル13に高周波電流を流すためのインバータ14の回路図を示す。商用電源19をダイオードブリッジ20で全波整流した電源を、フィルタ部21を介してインバータ部22に供給する。インバータ部22は、定周波数電力変換(VPCF)回路の典型的な回路であるSEPP回路である。第1のスイッチング素子23と第2のスイッチング素子24のペア、及び第3のスイッチング素子25と第4のスイッチング素子26のペアが排他的にオンオフ動作をすることにより、左加熱コイル27や右加熱コイル28には高周波電流が流れる。図13における第1〜第4のスイッチング素子はIGBTにより構成されており、ゲート信号g1〜g4をIGBTのゲートに入力することによりオンオフ動作を行う。
図14に示すようなゲート信号g1及びg2を第1のスイッチング素子23と第2のスイッチング素子24に入力することにより、図14の下方に示すような高周波電流が左加熱コイル27に流れ、この高周波電流により発生する高周波磁界を鍋17に与えることによって鍋17に渦電流を発生させ、その渦電流と鍋17の持つ固有抵抗でもって鍋17を加熱する。
図13では、加熱コイルとインバータが1対1の関係で二つずつ存在する。第3のスイッチング素子25及び第4のスイッチング素子26、右加熱コイル28などから成る二つ目のインバータは、一つ目のインバータとダイオードブリッジ20およびフィルタ部21を共有し、一つ目のインバータと並列に接続されている。
2つのインバータは制御部15からのゲート信号g1〜g4により第1〜第4のスイッチング素子を駆動する。その際、ゲート信号g1のタイミングとゲート信号g3のタイミングを同一のタイミング、つまり位相差θを0にすると、左加熱コイル27に流れる電流I1が正の時に右加熱コイル28に流れる電流I2も正となり、電流I1が負の時には電流I2も負となることから、2つの近接する加熱コイルの間での磁界は打ち消し合いの状態にすることができる。
逆に、図15に示すように、ゲート信号g1に対してゲート信号g3のタイミングをπずらした位相差θ1で動作すると、左加熱コイル27に流れる電流I1が正の時に右加熱コイル28に流れる電流I2は負となり、電流I1が負の時には電流I2は正となることから、2つの近接する加熱コイルの間での磁界は協調の状態にすることができる。
更に、ゲート信号g1とゲート信号g3のタイミングをπ/2ずらした位相差θ2で動作すると、磁界の打ち消し合いの状態と協調の状態を半々ずつにすることになるため、2つの独立した加熱コイルが干渉なく動作しているのと同じ熱量を発生し、加熱分布は2つの加熱コイルが発生する熱量の和となるような状態にすることができる。
インバータを2つ独立して有することにより、左加熱コイル27のみの通電や、左加熱コイル27と右加熱コイル28の加熱電力バランスの変化など、色々な加熱パターンを実現することができる。
位相差の切り替えは、複数のインバータ間において、インバータを構成するスイッチング素子が導通状態や非導通状態に遷移するタイミングをずらすことで行うことにより、リレーなどメカ動作を有して壊れやすい部品を使用することなく位相差を変化させることができるため、製品の信頼性を向上させるとともに、使用部品点数の削減により安価な製品にすることができる。また、導通タイミングをずらすことによる位相差制御では、位相差をπ〜0の間で連続的に変化させることができるため、干渉の状態をきめ細かく制御することができるため、鍋の材質やサイズの変化に対応させることや温度センサを導入するこ
とにより、より均一に加熱することができる。
(実施の形態5)
図16は、実施の形態5における、一つの鍋を加熱する加熱コイルの数と電流の向きの関係を示す図である。
互いの加熱コイルから発生させた磁界を干渉させ一つの鍋17を加熱する複数の加熱コイルにおいて、例えば鍋17の載置位置の中心から個々の加熱コイルの中心までの距離を等しい距離とするように加熱コイルを配置するものとする。図16(A)のように、3つ(奇数)の加熱コイルで一つの鍋17を加熱する場合、磁界を打ち消し合う干渉は2つの加熱コイルが近接する三点全てにおいて実現可能であるが、磁界が干渉する三点全てにおいて協調動作を行うことは不可能である。例えば図16(A)の矢印が示す向きに電流をしてみた場合、干渉を行わせる三点中二点では協調動作を行うが、破線で示す残りの一点では打ち消し合いの動作が必ず生じてしまう。しかし、図16(B)のように、4つ(偶数)の加熱コイルで一つの鍋17を加熱する場合、磁界を打ち消し合う干渉と協調する干渉の両方を2つの加熱コイルが最も近接する四点全てにおいて実現可能となるため、加熱分布に偏りが生じず、調理性能のよい調理器を提供することができる。
(実施の形態6)
図17は、2つの加熱コイル13が発生する磁界が協調しているときの、2つの加熱コイル13の断面図を示す。磁界を協調させると、図6の実線の矢印のように磁界の大ループが形成され、その結果、加熱コイル間(領域A)直上の鍋17へ磁界が十分に与えられ、鍋17の中心部が強く加熱する。このとき、加熱コイルからトッププレート11を介した鍋17の加熱面では磁界が協調されるが、加熱コイル線の間である領域Aにおいては、左側の加熱コイルから発生する図面上方から下方に向いている磁界と、右側の加熱コイルから発生する図面下方から上方に向いている磁界とが打ち消し合い、合成された磁界は小さくなる。従って、図18に示すように、加熱コイルに流れる電流Iaと電流Ibが同じ方向の場合、加熱コイルの配置面近傍においては、領域Aでの漏洩する磁界は殆どなくなるため、安全性の高い調理器を提供することができる。また、領域Bにおいても、領域Aと比較すると漏洩磁界は増大するものの、一つの加熱コイルで一つの鍋を加熱するものと比較すると格段に漏洩磁界を低減することが可能となる。
図19は、誘導加熱調理器の上面図であり、操作部と加熱コイルの配置の関係を示す。誘導加熱調理器の筐体30には、4つの加熱コイルで一つの鍋を加熱する加熱コイル12と、加熱コイルやインバータ回路を冷却するための空気の通り道となる吸排気口29と、操作部16が配置されている。ここで、操作部16は使用者の操作位置31に近い場所に配置されている。図19に示すように、同時に動作して一つの鍋を加熱する4つの加熱コイルのうち、調理器の使用者が位置する場所から最も近くで動作する2つの加熱コイルは、使用者が位置する場所から最も近い筐体の一辺と略平行になるように配置されている。これにより、図18で示した漏洩磁界の少ない領域Aや領域Bに使用者が位置することになり、安全性を高めることができる。特に、ペースメーカーを取り付けている使用者や磁気に弱い腕時計などを身に付けている使用者が誘導加熱調理器を操作して調理する際には、誤動作を防止する効果が高くなり、安全に調理できる誘導加熱調理器を提供できる。
(実施の形態7)
図20は、4つの加熱コイルで一つの鍋を加熱する誘導加熱調理器の、加熱コイルと防磁リングの配置関係を示す。
図20の右上に配置された加熱コイルに電流Iaが実線の矢印の方向に流れたとき、発生する磁界は右ネジの法則により、破線で示すように、コイル内側→コイル上面→コイル
外側→コイル下面→コイル内側の閉ループ状態になる。
従来のような、一つの加熱コイルで一つの鍋を加熱する場合、加熱に寄与されない外部への漏洩磁界を低減するための防磁リングは、加熱コイルと中心を略同じとし、且つ加熱コイルの外周をループさせるように配置される。すると、防磁リングの外部をループしようとする磁界の量に応じて防磁リングには逆起電力が発生し、磁界を打ち消す方向に電流が流れるため、漏洩磁界を低減できるというものである。しかし、本発明のように複数の加熱コイルで一つの鍋を加熱する場合、加熱コイル一つ一つの外周に防磁リングを配置すると、防磁リングの外方向には磁界が殆ど発生しなくなり、隣接する2つの加熱コイル間の磁界の干渉もなくなってしまい、本発明の効果が得られなくなる。
そこで、複数の加熱コイルで一つの鍋を加熱する場合、防磁リング32は、同時に動作して一つの鍋を加熱する可能性がある全ての加熱コイルを囲うように配置する。図20に示す加熱コイル電流Ia、Ib、Ic及びIdが矢印の方向に流れている場合、近接する2つの加熱コイルに流れる電流の向きはどこも逆向きとなるため、均一に加熱している状態となる。このとき、4つの加熱コイルが発生している磁界の向きは破線で示す向きとなる。防磁リング32に最も近い個々の加熱コイル部が発生する磁界が防磁リング32の外側をループしようとする磁界の向きは、4つの加熱コイル全てが上方から下方の向きとなっているため、起電力の発生する向きが同一となり、4つの加熱コイルから外部に漏れようとする合成磁界を打ち消すような向きに電流Ieが流れる。その結果、防磁リング32の外周に漏洩する磁界を低減することができる。
さらに、本構成により、近接する2つの加熱コイルの干渉は防磁リング32によって抑制されることがないため、打ち消し合いの動作による均一加熱や協調の動作による高効率高出力加熱の効果は維持することができる。
(実施の形態8)
図21は、同一鍋において、位相差θを0とπで動作させたときの動作周波数と加熱電力の関係を示す。ここで、図13のSEPP回路において、第1のスイッチング素子23と第2のスイッチング素子24、第3のスイッチング素子25と第4のスイッチング素子26の導通比(Duty)は、それぞれ一定としている。
共振周波数と動作周波数が一致したとき、電力が最も入る状態となる。
位相差θを0で動作させたものに比べ、位相差θをπで動作させると、磁界が協調するために鍋に与えられる磁束も増大し結合がよくなる。その結果、加熱コイルの端子から見た鍋込みの等価抵抗分が大きくなるとともに、インダクタンスも増大する。共振コンデンサが一定の場合、インダクタンスが大きくなると共振周波数は低くなるため、図21に示すように、加熱電力のピーク点の動作周波数は低くなる。スイッチング損失の低減のため、ゼロ電圧ソフトスイッチング動作を行うために、共振周波数よりも動作周波数のほうを高くして動作させることが必須であるということを勘案すると、協調動作では打ち消し合いの動作よりもインバータの動作周波数を低くしなければ定格電力を出力できなくなる可能性が生じるため、磁界の協調の動作では打ち消し合いの動作よりも動作周波数を低くする。
逆に、インバータの動作周波数を協調で動作させて定格電力を出力できる周波数で一定にすると、打ち消し合いの動作のときは、共振周波数よりも動作周波数のほうが低くなる可能性があり、その場合はスイッチング損失が増大してしまうため、打ち消し合いの動作の時の動作周波数は協調の動作周波数よりも高くする必要がある。この条件を満たすにより、図13に示す電圧源供給型SEPPインバータの特性上、電力制御を共振周波数以上
の領域で行うことができスイッチング損失を低減することができるので、冷却構成の簡素化による安価な誘導加熱調理器や、加熱効率の良い誘導加熱調理器を提供することができる。
(実施の形態9)
図22は、第1のスイッチング素子23と第2のスイッチング素子24の導通状態と非導通状態の割合である時比率Dutyを0.5以外に変化させたときの、2つの近接する加熱コイルに流れる電流波形を示す。ここで、第3のスイッチング素子25と第4のスイッチング素子26の時比率Dutyも0.5以外に変化させている。
本実施の形態では、Dutyを変化させることにより電力調節を行っているが、無論、スイッチング素子の動作周波数を変化させても、図21に示すように電力調節は可能である。
Dutyを変化させる電力調節手段は、加熱コイル電流の基本周波数は変化しないが、n時の高調波成分が含まれて波形は正弦波に比べて歪むため、スイッチング素子の導通状態と非導通状態のタイミングを変化させて位相差の変化を行う場合、図13に示す接続では、協調動作させたときの瞬時毎の電流I1と電流I2の値は異なる。しかし、電流の瞬時値は一致しないものの、電流の向きが正と負に切り替わるタイミングは殆ど変わらないため、本発明における磁界の協調の効果は十分に発揮される。加熱コイルの接続方法によっては、磁界の打ち消し合いの場合に電流の瞬時値が異なる場合も発生するが、その場合でも同様に磁界の打ち消し合いの効果は十分に発揮される。
また、動作周波数を変化させない本実施の形態のような電力調節では、隣り合うバーナと動作周波数を同一とすることにより、うなり干渉音が発生せず、使用者にとって異音による不快感を与えることのない誘導加熱調理器を提供することができる。
上記全ての実施の形態は、近接した2つの加熱コイルの関係を明らかにするため、加熱コイルを2つまたは4つ用いて動作や原理を説明しているが、一つの鍋を加熱する複数の加熱コイルの数は2つや4つに限定されるものではなく、図2に示すようなマトリックス状になったものなど、加熱コイルから発生する磁界を干渉させる構成のものであれば全てに適用できる技術である。