以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
図1〜3に示すのは本発明の一実施形態であって、図1は、本発明が適用される遊星耳組装置の一部断面側面図であり、図2は、遊星耳組装置における遊星ギヤ機構部分の背面断面図である。また、図3は、図1の遊星耳組装置における本発明の要部である遊星ギヤ機構の周辺部分を拡大した断面図である。なお、図1、3の遊星ギヤ機構部分は、図2のB−B断面を矢印の方向で見た図として示してあり、また、図2は、図1のA−A断面を矢印の方向で見た図として示してある。但し、図2には、本来なら示されない後述のプーリ等が参考のために仮想線で示されている。また、図3では、図1に示されている後述のボビンホルダは省略してある。
先に述べた様に、本発明が適用される遊星耳組装置1は、中心軸としての回転軸2、遊星キャリア3、太陽ギヤ41を含む太陽ギヤ形成部材4、一対の遊星ギヤ5、5、一対の中継ギヤ6、6、及び一対のボビンホルダBHを含む。なお、ボビンホルダBHは、例えば、特開平9−137334号公報等に開示された公知のものである。よって、以下では、ボビンホルダに関する説明については省略する。また、以下の説明において、前(前側)は、回転軸2の軸線方向におけるボビンホルダBH側(図1における図面右側)をいい、後(後側)は、ボビンホルダBHとは反対の側(図1における図面左側)をいう。また、軸線方向とは、回転軸2の中心軸線(回転軸線)と平行な方向(向きは問わず)をいい、半径方向とは、前記の軸線方向と直交する方向をいう。
前記の様に、本実施例では、本発明でいう中心軸が、後述の駆動機構によって回転駆動される回転軸2として設けられており、この回転軸2が、太陽ギヤ形成部材4に形成された貫通孔44を貫通し、その貫通孔44内に配設された軸受を介して太陽ギヤ形成部材4に対し回転自在に支持されている。
太陽ギヤ形成部材4は、前側に位置する部分であって外周部にギヤ歯が形成されたギヤ部である太陽ギヤ41と、太陽ギヤ41から後方へ延びる軸部42と、軸部42から半径方向へ放射状に拡がる様に形成されたフランジ部43とを形成している。そして、前記の貫通孔44は、軸部42及び太陽ギヤ41を貫通する様に形成されている。なお、貫通孔44内において、後側の端部には、貫通孔44の内周面と回転軸2との間の間隙にオイルシール等のシール部材46が介装されている。
また、太陽ギヤ形成部材4には、カバー部材としての円筒状のギヤカバー7が取り付けられている。このギヤカバー7は、前記した太陽ギヤ41、遊星ギヤ5及び中継ギヤ6から成るギヤ列19及び遊星キャリア3を含む遊星ギヤ機構を囲繞するように設けられている。そして、ギヤカバー7は、太陽ギヤ形成部材4の軸部42が嵌挿される貫通孔74を有しており、この貫通孔74と太陽ギヤ形成部材4の軸部42とが嵌め合わされると共に、フランジ部43を通して螺挿されるネジ部材45により、太陽ギヤ形成部材4に対し一体的に固定されている。なお、太陽ギヤ形成部材4とギヤカバー7との当接面には、適当なシール剤を塗布してシールされているものとする。
前記の様にして一体化された太陽ギヤ形成部材4及びギヤカバー7は、支持ブラケット11によって支持されている。支持ブラケット11は、図示しない織機のフレーム間に架設されたステー等の上面に立設されており、後述の駆動機構を収容する様に箱状の形態を為している。そして、太陽ギヤ形成部材4及びギヤカバー7は、太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43が支持ブラケット11の前側の側壁に形成された貫通孔に嵌挿されると共に、ギヤカバー7の貫通孔74周りの後面が支持ブラケット11の貫通孔周りの外壁面に当接して位置決めされた状態で、支持ブラケット11の前記前側の側壁を通して螺挿された複数のネジ部材(図示せず)によって支持ブラケット11に対し固定されている。従って、太陽ギヤ形成部材4(太陽ギヤ41)は、遊星耳組装置1において回転不能な状態で設けられており、また、本実施例では、ギヤカバー7も太陽ギヤ形成部材4と一体化されて回転不能に設けられた状態となっている。
遊星キャリア3は、図示の例では、円盤状の支持ディスク31と、支持ディスク31の前側の端部において半径方向へ放射状に拡がる様に一体形成されたフランジ部32とから成っている。支持ディスク31は、外周にリムを形成した円盤状の形態を為しており、中心部に回転軸2が嵌挿される貫通孔31aが形成されている。また、図示の例では、支持ディスク31は、その直径が、一対の遊星ギヤ5、5の歯端間距離よりも大きいものとなっている。
更に、遊星キャリア3において、支持ディスク31の貫通孔31aが形成される部分(回転軸2が嵌挿される部分)及び後述の遊星ギヤ5等を支持する支持軸が支持される部分は、他の部分と比べて肉厚のボス部として形成されている。そして、回転軸2が嵌挿される貫通孔31aには、回転軸2に装着されたキー23が嵌合されるキー溝31dが形成されている。従って、遊星キャリア3は、回転軸2に対し相対回転不能と組み付けられており、太陽ギヤ形成部材4に対し回転軸2と共に回転自在に支持されている。すなわち、遊星耳組装置1において、遊星キャリア3は、回転軸(中心軸)2の軸心周りに回転自在に設けられた状態となっている。
因みに、貫通孔31aは、後端側において内径が拡径されており、貫通孔31a内に段部31eが形成されている。また、回転軸2は、貫通孔31aの内径の小さい部分に対応した先端の小径部21に対し、それよりも後側の部分は先端部よりも径の大きい大径部22となっている。そこで、この構成によれば、回転軸2に対し遊星キャリア3を組み付けるにあたり、先ず、回転軸2に嵌め込まれたキー23と遊星キャリア3のキー溝31dとの位置を一致させた状態で、先端側から小径部21に対し遊星キャリア3の貫通孔31aを嵌め込む。そして、貫通孔31a内の段部31eを回転軸2の大径部22の前面に当接させることにより、回転軸2に対し遊星キャリア3が位置決めされる。なお、その状態では、回転軸2の先端は貫通孔31aの内部に位置している。そして、その状態で、貫通孔31aよりも径の大きいワッシャ24を介して回転軸2の先端面に螺挿されるネジ部材25を締め込むことにより、遊星キャリア3が回転軸2の大径部22とワッシャ24とで挟み込まれ、回転軸2に対する遊星キャリア3の軸線方向の位置も固定される。
また、遊星キャリア3には、それぞれが一対で、回転軸の軸心に対し対称的な位置に配置された2組の支持軸対51、51及び61、61が支持されている。
一対の支持軸51、51は、一端にボビンホルダBHが取り付けられると共に、支持ディスク31を貫通し、他端側で遊星ギヤ5を支持している。各支持軸51は、ボビンホルダBH及び遊星ギヤ5を相対回転不能に支持すると共に、支持ディスク31に対し軸受を介して回転自在に支持されている。従って、各ボビンホルダBH及び各遊星ギヤ5は、支持軸51を介し、支持ディスク31に対し回転自在に支持された状態となっている。また、支持ディスク31の支持軸51が挿通される貫通孔31b内には、前側の端部において、貫通孔31bの内周面と支持軸51との間にオイルシール等のシール部材52が介装されている。
なお、各遊星ギヤ5、5の配置は、支持軸51に支持された状態で、太陽ギヤ形成部材4の太陽ギヤ41と噛合しない位置となっている。言い換えると、支持軸51の支持ディスク31上での配置は、回転軸2との軸心間の距離が、太陽ギヤ41の半径と遊星ギヤ5の半径とを合せた寸法よりも大きくなる様な位置に設定されている。
また、一対の支持軸61、61は、各々が中継ギヤ6を支持するためのものである。各支持軸61は、それによって支持される中継ギヤ6が太陽ギヤ41及び遊星ギヤ5の両ギヤに噛合する様な位置で、支持ディスク31に形成された貫通孔に嵌挿されて支持されている。各支持軸61は、支持ディスク31に対し回転不能に支持されており、中継ギヤ6が支持軸61に対し軸受を介して回転自在に支持されている。従って、中継ギヤ6も、支持ディスク31に対し回転自在な状態で、支持軸61を介して支持ディスク31に支持されている。
これらの構成から成る遊星ギヤ機構では、遊星キャリア3が回転軸2の軸心を中心として回転駆動されることにより、回転軸2の軸心から偏心した位置で遊星キャリア3に支持された一対の遊星ギヤ5、5及び一対の中継ギヤ6、6が回転軸2の軸心周りを公転する。その際、各中継ギヤ6は、太陽ギヤ41に噛合した状態で前記公転を行うため、その公転に伴い、支持軸61の軸心を中心として回転する。これにより、中継ギヤ6と噛合する遊星ギヤ5も中継ギヤ6の回転に伴って支持軸51を軸心を中心に回転(自転)する。その結果、遊星ギヤ5を相対回転不能に支持する支持軸51に取り付けられたボビンホルダBHは、回転軸2(遊星キャリア3)の回転に伴い、回転軸2の軸心周りで公転しつつ自転する遊星運動を行う。
前記のボビンホルダBHに遊星運動を行わせるための遊星キャリア3の回転駆動について、図示の例では、遊星キャリア3の回転中心に位置する回転軸2を、太陽ギヤ形成部材4を貫通させて太陽ギヤ形成部材4に対し相対回転可能に設けている。そして、回転軸2が遊星キャリア3を相対回転不能に支持する構成とし、回転軸2を回転駆動することによって遊星キャリア3を回転させている。
回転軸2を回転駆動するための駆動機構として、図示の例では、図示しない織機の主軸(原動モータ)を駆動源として回転する駆動軸12の回転を回転軸2に伝達する機構を採用している。具体的には、回転軸2に対しその後端部に従動プーリ13が相対回転不能に組み付けられており、この従動プーリ13が駆動軸12上に設けられた駆動プーリ14とタイミングベルト16によって連結されている。従って、駆動軸12の回転が、駆動プーリ14、タイミングベルト16及び従動プーリ13を介して回転軸2へ伝達され、回転軸2が回転駆動されて遊星キャリア3が回転する。
なお、図示の駆動機構において、駆動軸12は、軸受ブッシュを介して支持ブラケット11を貫通している。また、駆動プーリ14は、割り締め構造によって駆動軸12の軸線方向における任意の位置で固定可能なプーリ支持部材14aを介して駆動軸12に取り付けられており、その回転中心を駆動軸12の軸心に一致させた状態で設けられている。
また、回転軸2は、先に述べた様に、ギヤカバー7を介して支持ブラケット11に固定された太陽ギヤ形成部材4に対し軸受を介して支持されているが、図示の構成では、前記駆動機構中においても、軸線方向における従動プーリ13の位置で軸受によって支持される構造となっている。
詳しくは、従動プーリ13には、回転軸2に嵌め合わされる基部とタイミングベルト16が巻き掛けられる外周部との間に、後側に開口するリング状の溝13aが形成されている。一方で、支持ブラケット11の後端面には、前側(プーリ側)へ延びる円筒部15aが形成された軸受ケース15が取り付けられている。この円筒部15aは、軸受ケース15を支持ブラケット11に組み付けた状態で、従動プーリ13の溝13a内に侵入した状態となる。そして、軸受ケース15の円筒部15aの内周面と従動プーリ13の基部の外周面との間には、軸受が介装されている。この構成により、回転軸2は、従動プーリ13の基部を介して軸受により支持されており、太陽ギヤ形成部材4を貫通する部分だけでなく、後端部においても軸受により支持された状態となっている。従って、回転軸2の半径方向の支持が安定したものとなり、回転軸2の高速回転に伴う振動(軸の振れ)を十分に抑制できる。
そして、本発明では、以上において構成を例示した遊星耳組装置1において、太陽ギヤ41、一対の遊星ギヤ5、5及び中継ギヤ6、6から成るギヤ列19を収容する空間を、液密性が保たれた密閉空間とし、その収容空間内に潤滑用の油(機械油)MOを貯留してオイルバス化している。そのギヤ列19を収容する空間(収容空間RS)は、図示の構成では、主として遊星キャリア3の支持ディスク31とカバー部材としてギヤカバー7とによって画定されている。
ギヤカバー7は、貫通孔74に嵌め込まれた太陽ギヤ形成部材4の軸部42から半径方向へ放射状に拡がる円盤状の後部壁であって外周径が一対の遊星ギヤ5、5の歯端間距離よりも大きい後部壁71と、後部壁71の外周部から前方へ向かって延びる円筒状の外周壁72とを一体的に形成したものとなっている。更に、ギヤカバー7の外周壁72は、遊星キャリア3のフランジ部32の近傍まで延びると共に、ギヤ列19を超えた位置で拡径されており、小径部72aと大径部72bとを形成している。
すなわち、ギヤカバー7は、後面がほぼ閉塞されると共に前面が開放された円筒形状を為しており、外周壁72(小径部72a)でギヤ列19の外周を囲繞している。この様に、ギヤ列19は、ギヤカバー7の後部壁71と外周壁72の小径部72aとで囲まれた空間内に収容されている。従って、ギヤ列19を収容する収容空間RSは、ギヤカバー7の後部壁71と外周壁72とで囲まれた空間であり、その収容空間RSを画定する後側の境界及び半径径方向の境界を画定する面は、ギヤカバー71における後部壁71の前面71a及び外周壁72の内周面73となる。
ここで、収容空間RSの後側の境界をギヤカバー7における後部壁71の前面71aの位置とすると、その位置において太陽ギヤ形成部材4の軸部42の一部が収容空間RSに露出している。詳しくは、太陽ギヤ形成部材4の軸部42のうち、ギヤカバー7に嵌挿される部分は、それよりも太陽ギヤ41側の部分と比べて大径となっている。そのため、ギヤカバー7よりも回転軸2の軸心側において、太陽ギヤ形成部材4の一部(軸部42の前記大径部の前面)が収容空間RSに露出している。
更に、前記収容空間RSについて、ギヤカバー7自体は前面が開放されているため、ギヤカバー7のみによって画定される空間は前方に開放されたものとなる。しかし、図示の構成では、ギヤカバー7の外周壁72で囲まれた領域内に遊星キャリア3の支持ディスク31が配置されている。そのため、ギヤカバー7の前部の開放領域である大径部72bで囲まれた領域の大部分が遊星キャリア3の支持ディスク31によって閉塞されている。従って、ギヤ列19を収容する収容空間RSにおいて、その前側の境界を画定する面は、遊星キャリア3(支持ディスク31)のギヤ列19側の端面(後面)31fとなる。この様に、収容空間RSは、ギヤカバー7における後部壁71の前面71aとそれに対向する支持ディスク31の後面31fとの間の領域であってギヤカバー7の外周壁72の内周面73に囲まれた領域内の空間となる。
但し、支持ディスク31は、その外径がギヤカバー7の小径部72aの内径よりも小さいため、支持ディスク31の外周面31gとギヤカバー7の外周壁72の内周面73との間に間隙が存在している。そもそも、遊星キャリア3は高速で回転駆動されるため、遊星キャリア3とカバー部材であるギヤカバー7とを直接的に接触させるのは好ましくなく、両者間には必然的に間隙が存在することになる。その結果、遊星キャリア3とギヤカバー7との間に、前記の収容空間RSを外部に連通させる間隙が存在するかたちとになる。そこで、本発明では、この遊星キャリア3とギヤカバー7との間の間隙に接触式のシール部材であるオイルシール91を介装することによって前記間隙を閉塞し、前記収容空間を外部との連通が遮断された密閉状態としている。
前述の様に、遊星キャリア3の支持ディスク31は、ギヤカバー7の外周壁72に囲まれた領域に位置している。言い換えると、遊星キャリア3は、その一部である支持ディスク31の外周面(前述の円周面に相当)31gが、カバー部材であるギヤカバー7によって囲繞されており、支持ディスク31の外周面31gは、回転軸2の半径方向において、その全周に亘ってギヤカバー7の一部(大径部72b)の内周面73aと対向している。従って、図示の例では、ギヤカバー7の大径部72bの内周面73aが、前述のカバー部材の対向面に相当する。
そして、図示の構成では、ギヤカバー7の外周壁72のうちの支持ディスク31を囲繞する部分を、ギヤ列19を囲繞する部分である小径部72aよりも径の大きい大径部72bとし、前記対向面73aと支持ディスク31の外周面31gとの間の間隙を大きくして、この空間に前記のオイルシール91を介装している。従って、前記収容空間RSを外部と連通させる支持ディスク31とギヤカバー7との間の間隙は、オイルシール91によって閉塞される。因みに、図示のオイルシール91は、それ自体公知のものであって、その外周面においてギヤカバー7の大径部72bの内周面73aに圧入固定され、内周面側のシールリップ部等が支持ディスク31に圧接している。そして、遊星キャリア3の回転に伴い、支持ディスク31の外周面がオイルシール91に対し摺動する。
以上の様に、図示の遊星耳組装置1では、太陽ギヤ41、遊星ギヤ5及び中継ギヤ6から成るギヤ列19は、遊星キャリア3とカバー部材であるギヤカバー7(及び太陽ギヤ形成部材4の軸部42)とで画定形成される収容空間RS内に収容されており、遊星キャリア3及びカバー部材によってその全周囲を包囲されている。そして、高速で回転駆動される支持ディスク3とギヤカバー7との対向面間の間隙をシール部材が装設可能な空間とし、この空間にオイルシール91を介装することにより、収容空間RSを液密性に優れた密閉空間としている。
但し、太陽ギヤ形成部材4には、回転軸2が貫通すると共に軸受を介して回転軸2が支持される貫通孔44が形成されている。この貫通孔44は、前記収容空間RSの領域(後側の境界)よりも後方へ延在し、後端部が開放されて外部と連通している。この場合、貫通孔44内における回転軸2の周りの空間は、軸受が介装されているものの、軸受内の間隙が存在するために外部と連通した状態となる。そこで、図示の構成では、前述の様に、貫通孔44の後端部側において回転軸2との間隙にシール部材46を介装し、このシール部材46によって貫通孔44における回転軸2周りの間隙を閉塞し、外部に対する密封性を保っている。
なお、図示の例では、軸受として外部から潤滑油が供給される形式のものを採用してためにシール部材46が軸受よりも後側に配置される構成となっているが、軸受として潤滑剤が密封された密封軸受を採用する場合には、シール部材46を貫通孔44の前端部(収容空間RSの境界付近)に配置することも可能である。
この様に、収容空間RSは、その領域外に位置する貫通孔44と連通しているが、貫通孔44内の空間がシール部材46によって閉塞されており、貫通孔44内の収容空間RS側の空間が外部に対し密閉されているため、結果として収容空間RSの密閉状態も保たれている。
同様に、遊星キャリア3においても、遊星ギヤ5及びボビンホルダBHを支持する支持軸51が貫通すると共に軸受を介して支持軸51が支持される貫通孔31bが形成されている。しかし、この貫通孔31bも、その前端部に設けられたシール部材52によって支持軸51との間隙が閉塞されている。よって、収容空間RSの密閉状態が損なわれることはない。
更に、回転軸2と回転軸2が嵌挿される遊星キャリア3の貫通孔31aとの間には、Oリング等のシール部材が介装されており、両者間の隙間をシールしている。同様に、中継ギヤ6を支持する支持軸61が嵌挿される貫通孔31cと支持軸61の間にも、Oリング等のシール部材が介装されており、両者間の隙間をシールしている。
この様に、ギヤ列19を収容する収容空間RSは、外部に対し密閉された密閉空間となっており、液密性の高いものとなっている。そして、この収容空間RSには、潤滑剤としての潤滑油(機械油)MOが貯留され、オイルバスが形成されている。なお、この潤滑油MOは、ギヤカバー7の外周壁72に設けられた給油口(図示せず)から給油される。また、図示の例では、潤滑油MOは、太陽ギヤ41の下部が浸漬する程度に貯留されている。
以上の様な構成から成る遊星耳組装置1では、太陽ギヤ41等から成るギヤ列19を収容する収容空間RSが液密性を保たれた状態でオイルバス化されているため、遊星ギヤ5の公転に伴って収容空間RSの内部に貯留された潤滑油MOが掻き上げられ、収容空間RS内で飛散してギヤ列19に供給される。遊星ギヤ5による潤滑油MOの掻き上げは、織機主軸の1回転毎に行われるため、ギヤ列19に対する潤滑油MOの供給が織機主軸の1回転毎に行われることとなり、長期間に亘って継続的な潤滑状態を保つことができる。
また、図示の構成では、ギヤカバー7の内周面に圧入固定されるオイルシール91が、遊星キャリア3における支持ディスク31を囲繞する位置に設けられている。しかも、遊星キャリア3は、支持ディスク31の外径が一対の遊星ギヤ5、5の歯端間距離よりも大きく、且つ、支持ディスク31とオイルシール91との摺接部よりも後側において支持ディスク31の外径よりも径の大きい部分を有していない。従って、この構成によれば、回転軸2に対し遊星キャリア3を固定しているネジ部材25及びワッシャ24を外すことにより、支持軸51によって支持された遊星ギヤ5及びボビンホルダBHを遊星キャリア3から外すことなく、遊星キャリア3を回転軸2から取り外すことができる。よって、ボビンホルダBHや内部のギヤのメンテナンスが容易に行える。
更に、図示の構成では、オイルシール91の内周面が、支持ディスク31の外周面31gに圧接されており、遊星キャリア3の回転に伴って支持ディスク31の外周面31gがオイルシール91に対し摺動する。従って、遊星キャリア3は、オイルシール91による摺動抵抗(回転抵抗)を受けた状態で回転駆動されることとなる。
この構成によれば、織機の主軸を駆動源とする駆動軸12によって回転軸2及び遊星キャリア3が回転駆動される遊星耳組装置1において、主軸に回転変動が生じているとしても、それに起因する遊星キャリア3の回転方向の振動が吸収され、その影響を抑制することができる。しかも、図示の例では、オイルシール91は、径の大きい支持ディスク31の外周面31gで接触しているため、遊星キャリア3の回転中心から接触面までの距離が大きく、且つ、接触面積が大きいものとなっている。従って、オイルシール91が遊星キャリア3に与える摺動抵抗の摺動トルク(抵抗トルク)がより大きいものとなり、前記の遊星キャリア3における回転方向の振動の吸収がより効果的に行われる。
なお、このオイルシール91は、前記の様に潤滑油MOが貯留されている収容空間RSに露出した状態で設けられており、ギヤの回転に伴って掻き上げられて飛散する機械油MOに晒される状態となっている。従って、図示の構成では、オイルシール91に対しても潤滑油MOが供給されるため、オイルシール91が高速で回転する遊星キャリア3(支持ディスク31)と摺接する構成であっても、オイルシール91の発熱や摩耗がその潤滑油MOの供給によって抑えられる。
また、図示の構成では、遊星キャリア3が後端にフランジ部32を有しており、このフランジ部32がオイルシール91の前面を覆うかたちとなっている。この構成によれば、本発明よる遊星耳組装置が水噴射式織機で使用される場合において、緯入れに伴って飛散する水がオイルシール91の前面にかかり、収容空間RS内の潤滑油MOに水が混入されるのを防止できる。すなわち、オイルシールは、その特性として、内部からの流体の漏れは防げるが、外部からの流体の侵入については完全には遮断できないため、図示の構成の様にフランジ部32でオイルシール91の前面を覆うことにより、水噴射式織機での収容空間RSへの水の侵入を防ぐことができる。なお、フランジ部32とオイルシール91との間の間隙にグリスを充填すれば、前記の水の侵入防止がより確実なものとなる。
以上で説明した実施例の遊星耳組装置1では、太陽ギヤ41、遊星ギヤ5及び中継ギヤ6から成るギヤ列19の外周部を囲繞するカバー部材を固定のギヤカバー7としたが、これに代えて、図4に示すように、遊星キャリア3の一部がカバー部材として構成することも可能である。なお、図4は、遊星耳組装置における遊星ギヤ機構、及びその周辺部分のみを示すものであり、一部を断面図で示した側面図である。そして、図4に示された構成において、回転軸2、太陽ギヤ形成部材4及び遊星キャリア3の支持ディスク31は、前述の実施例のものとほぼ同じ形態のものである。但し、太陽ギヤ形成部材4において、フランジ部43は、軸線方向において前述の実施例のものよりも前方に形成されている。
図4に示す構成では、前記のように、遊星キャリア3がカバー部材としてのギヤカバー部34を含んでいる。このギヤカバー部34は、支持ディスク31及びフランジ部32とは別体に形成されたものであり、フランジ部32に対しネジ部材で固定されている。
このギヤカバー部34は、ギヤ列19及び支持ディスク31を囲繞してフランジ部32から後方へ延びる円筒状の外周壁34aと、円筒部34aの後端から回転軸2の半径方向内側へ向かって延びる後部壁34bとを一体的に形成した形態を為している。また、ギヤカバー部34の後部壁34bには、太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43の外径よりも大きい内径の貫通孔34cが形成されている。
図示の様に、軸線方向におけるギヤカバー部34の後部壁34bの位置は、太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43の位置と一致している。従って、後部壁34bに形成された貫通孔34cの内周面34dは、太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43の外周面43aと全周に亘って半径方向で対向している。
そして、遊星キャリア3における支持ディスク31、ギヤカバー部34及び太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43とによって囲まれた空間が、ギヤ列19を収容する収容空間RSとなる。より詳しくは、図示の例では、ギヤ列19を収容する収容空間RSは、遊星キャリア3における支持ディスク31の後面31f、ギヤカバー部34における外周壁34aの内周面及び後部壁34bの前面、並びに太陽ギヤ形成部材4のフランジ部43の前面によって画定されている。
その上で、この収容空間RSを密閉された空間とすべく、遊星キャリア3におけるギヤカバー部34に形成された貫通孔34cの内周面(円周面)34dと太陽ギヤ形成部材4におけるフランジ部43の外周面(対向面)43aとの間、すなわち、遊星キャリア3と太陽ギヤ形成部材4との間の間隙であって収容空間RSを外部と連通させる空間に、接触式のシール部材であるオイルシール92が介装されている。従って、収容空間RSは、オイルシール92によって外部との連通が断たれた密閉状態となる。
また、以上の例では、遊星キャリア3が回転軸に対し相対回転不能に支持され、回転軸を回転駆動することによって遊星キャリア3を回転させる構成としたが、本発明が適用される遊星耳組装置はこれに限定されず、図5、6に示すように、遊星キャリア3が直接的に回転駆動されるものであってもよい。なお、図5は、図4と同様の部分を示す側面断面図であり、図6は、図5におけるC−C断面を矢印の方向に見た図である。
図5、6に示す構成では、太陽ギヤ形成部材4は、太陽ギヤ41と中心軸線を一致させて太陽ギヤ41よりも前方に延在する軸部47を有している。そして、この軸部47に対し、遊星キャリア3が軸受を介して回転自在に支持されている。すなわち、図示の例では、固定の中心軸(軸部47)に対し遊星キャリア3が回転自在に設けられている。そして、太陽ギヤ形成部材4は、先の実施例と異なり、軸等が貫通される貫通孔を有していない。
また、図示の構成では、遊星キャリア3の支持ディスクは、外周部にギヤ歯(歯部)が形成されたギヤの形態を為しており、支持ギヤ33として形成されている。そして、この支持ギヤ33には、遊星キャリア3を回転駆動するための駆動ギヤ17が噛合している。この駆動ギヤ17は、駆動軸12上に位置固定され、駆動軸12に対し相対回転不能に設けられている。
カバー部材であるギヤカバー8は、先の実施例のギヤカバー7と同様に、太陽ギヤ形成部材4に対し一体的に組み付けられている。但し、ギヤカバー8は、その内部に前記の支持ギヤ33と噛合する駆動ギヤ17をも収容するために、その後部壁81の一部が、先の実施例のものと比べて下方へ延長されたものとなっている。そして、駆動軸12は、ギヤカバー8を貫通するかたちで延在している。従って、ギヤカバー8の後部壁81には、駆動軸12が貫通するための貫通孔81aが形成されており、この貫通孔81aの内周面と駆動軸12との間の間隙には、ギヤカバー8の内部の空間を密閉状態とすべく、この間隙を閉塞するシール部材が介装されている。
また、ギヤカバー8は、後部壁81の外周部から前方に延びる外周壁82が支持ギヤ33の前面を超えた位置にまで延びており、更に、駆動ギヤ17を収容する空間の前面を覆う前部壁83を有している。この前部壁83は、外周壁82の内周面82aから駆動軸12と支持ギヤ33との間までの範囲で、外周壁82によって囲まれた空間の前面を覆う様に形成されている。そして、この前部壁83にも、駆動軸12が貫通するための貫通孔83aが形成されており、貫通孔83aの内周面と駆動軸12との間の間隙にシール部材が介装されている。
また、遊星キャリア3には、支持ギヤ33の前面から突出する円筒部35が、支持ギヤ33と一体的に形成されている。この円筒部35は、その外周面35aが支持ギヤ33の外周部に形成された歯部の先端よりも半径方向内側に位置する様な外径寸法で形成されており、更に、前端部において半径方向に放射状に延びるフランジ部35bを有している。
そして、ギヤカバー8の外周壁82と遊星キャリア3の前記円筒部35との間には、接触式のシール部材であるオイルシール93が介装されている。詳しくは、ギヤカバー8の外周壁82は、前方へ向けて遊星キャリア3の支持ギヤ33を超えた位置まで延在しており、その内周面82aの先端部が遊星キャリア3における円筒部35の外周面35aと対向している。そして、このギヤカバー8における外周壁82の内周面82aの先端部と遊星キャリア3における円筒部35の外周面35aとの間にオイルシール93が介装されている。なお、先の実施例と同様に、オイルシール92は、遊星キャリア3に形成された円筒部35のフランジ部35bによってその前面が覆われている。
因みに、この構成の場合は、外周壁82の内周面82aがカバー部材における対向面に相当し、円筒部35の外周面35aが遊星キャリア3における円周面に相当する。但し、駆動ギヤ17を収容するために後部壁81が延長された部分については、外周壁82の先端部から中心軸側へ延びる前記の前部壁83が形成されており、前部壁83の内側面83bと円筒部35の外周面35aとが対向する状態となっている。よって、この部分については、前部壁83の内側面83bがカバー部材における対向面に相当する。
なお、図示の構成では、遊星キャリア3における円筒部35は、円筒部35よりもギヤ列19側に位置する支持ギヤ33よりも小さい径のものとして形成されており、支持ギヤ33の歯部先端よりも半径方向内側に位置する外周面35aに対しオイルシール92が圧接する構成となっている。但し、円筒部35を、支持ギヤ33から前方へ離間した位置で拡径した形状として支持ギヤ33以上の外径を有する部分(大径部)が形成されたものとし、この支持ギヤ33(支持ディスク)以上の外径を持つ大径部の外周面に対しオイルシール92が圧接する構成とすることも可能である。
そして、この図5、6に示す構成によっても、太陽ギヤ41等から成るギヤ列19は、ギヤカバー8、太陽ギヤ形成部材4の軸部42及び遊星キャリア3のよって画定される収容空間RS内に収容されており、この収容空間RSは、ギヤカバー8及び遊星キャリア3における前記の対向面82a、83bと円周面35aとの間に介装されたオイルシール93によって外部との連通が遮断されて密閉空間となっている。そして、この密閉状態の収容空間RSに潤滑油MOが貯留されており、前述の実施例と同様の潤滑効果が得られる。
また、図示の例では、遊星キャリア3自体が駆動機構の一部を構成しており、支持ギヤ33及び駆動ギヤ17の外周周りの空間が前記の収容空間RSに連通している。従って、図示の構成では、遊星キャリア3を回転駆動するための駆動機構に対しても、前述の実施例で述べたようなオイルバスによる潤滑効果が作用する。言い換えると、図示の構成は、遊星ギヤ機構全体に対し潤滑効果が作用するものとなっている。
さらに、図示の例では、収容空間RS内において、太陽ギヤ41が没入する位置まで潤滑油MOが貯留されている。この場合、太陽ギヤ41と中継ギヤ6との噛合部分、及び中継ギヤ6と遊星ギヤ5との噛合部分が常時潤滑油MO内に位置することとなる。この様な構成によれば、前述の遊星キャリア3の回転方向の振動に伴って発生する衝撃が、ギヤの歯面間に存在する潤滑油MOによる緩衝効果によって緩和され、ボビンホルダBH等の破損防止効果をよりいっそう高めることができる。
なお、図5に示す構成において、円筒部35を支持ギヤ33の後面から突出させると共に、ギヤカバー8の前部壁83を駆動ギヤ17の後面側に設け、ギヤ列19の外周周りにオイルシール93が位置する構成とすることも可能である。また、その構成の場合には、ギヤカバー8の前側壁83を省略することも可能である(図7)。但し、その構成の場合は、支持ギヤ33及び駆動ギヤ17が収容空間RS外に存在する状態となるため、これらのギヤを潤滑するための別の潤滑剤(グリス等)が必要となる。
また、以上の例では、駆動軸12が織機の主軸を駆動源とするものとしたが、本発明の遊星耳組装置はこれに限定されず、駆動軸12が専用モータで駆動されるものであってもよい。また、先の実施例における回転軸2を直接的に専用モータで駆動するものであってもよい。
さらに、本発明は、以上で説明したいずれの実施形態にも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々に変更することが可能である。