次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態)
図1及び図2は本発明の実施形態に係る基板12を搬送するためのトレイ11が使用されるICP(誘導結合プラズマ)型のドライエッチング装置13を示す。
まず、ドライエッチング装置13の概要を説明する。ドライエッチング装置13の減圧可能なチャンバ(真空容器)15には、基板12を保持したトレイ11を搬入出するための開閉可能なゲート15aが設けられている。本実施形態におけるトレイ11は4インチ(直径約100mm)の基板12を6枚保持できる。チャンバ15には、エッチングガス供給源16に接続されたエッチングガス供給口15bと、真空排気装置17に接続された排気口15cとが設けられている。さらに、チャンバ15内の底部側には、バイアス電圧が印加される下部電極としての機能と、基板12及びトレイ11の保持台としての機能とを有する基板サセプタ(基板保持部)18が配設されている。この基板サセプタ18と対向するチャンバ15の上端開口は石英等の誘電体からなる天板19で閉鎖されている。天板19の上方に配設されたICPコイル20には、高周波電源21Aが電気的に接続されている。
基板サセプタ18は、セラミクス等の誘電体からなる静電チャック(ESC)22、表面にアルマイト被覆を形成したアルミニウム等からなり本実施形態ではペデスタル電極として機能する金属板23、及びセラミクス等の誘電体からなるスペーサ板24を備える。
基板サセプタ18の最上部を構成するESC22は、全体として薄い円板状であり平面視での外形が円形である。ESC22の上端面であるトレイ支持面22aから、トレイ11が保持する基板12の枚数に対応する6個の基板載置部27A〜27Fが上向きに突出している。本実施形態では、基板載置部27A〜27Fは扁平な短円柱状である。トレイ支持面22aの中央に1個の基板載置部27Aが配置され、この基板載置部27Aの周囲に残りの5個の基板載置部27B〜27Fが平面視で等角度間隔に配置されている。個々の基板載置部27A〜27Bは、伝熱ガス源28に接続された供給孔27aを備えると共に、直流電源29に接続され静電吸着用電極30が内蔵されている。金属板23には、バイアス電圧としての高周波電圧を印加する高周波電源21Bが電気的に接続されている。また、金属板23には冷媒循環装置31に接続された冷媒流路23aが設けられている。
次に、図2から図4A及び図5を参照して、本実施形態のトレイ11について説明する。トレイ11は均一な厚みTHtryを有する薄板円板状のトレイ本体41を備える。トレイ本体41の上面41aと下面41bはいずれも平坦面である。トレイ本体41には、上面41aから下面41bまで厚み方向に貫通する円形孔である6個の基板収容孔42A〜42Fが設けられている。個々の基板収容孔42A〜42Fに基板12が収容される。トレイ本体41の中心に1個の基板収容孔42Aが配置され、この基板収容孔42の周囲に残り5個の基板収容孔42B〜42Fが平面視で等角度間隔に配置されている。本実施形態における基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aは、トレイ本体41の上面41aから下面41bに向かうほど基板収容孔42A〜42Fの中心に近付くように傾斜している。
個々の基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aのトレイ本体41の下面41b側には、基板収容孔42A〜42Fの中心に向けて突出する基板支持部44が設けられている。本実施形態では、基板支持部44は基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの全周に設けられており、平面視では幅一定の円環状である。ただし、基板支持部44は円環状ではなく基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周方向に間隔をあけて複数個設けられたものでもよい。基板支持部44の上面である基板支持面44aは、基板収容孔42A〜42Fに収容された基板12の下面12bの周縁付近を支持する。本実施形態における基板支持面44aは、孔壁42aと接続する基端側から基板収容孔42A〜42Fに向けて下向きに傾斜している。前述のように基板収容孔42A〜42Fはトレイ本体41を厚み方向に貫通するように形成されているので、トレイ本体41の下面41b側から見ると、基板収容孔42A〜42F(基板支持部44の先端で囲まれた円形の領域)により基板12の下面12bが露出している。
トレイ本体41の上面41aには、個々の基板収容孔42A〜42F毎に複数個(本実施形態では3個)の突起45が設けられている。具体的には、上面41aのうち基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周囲に、平面視で基板収容孔42A〜42Fの中心に対して等角度間隔(120度間隔)をあけて3個の突起が設けられている。ただし、個々の基板収容孔毎に2個又は4個以上の突起を設けてもよいし、後述する参考例のように突起を平面視で円環状としてもよい。また、本実施形態では、突起45はトレイ本体41と一体であるが、別部品の突起45をトレイ本体41に取り付けてもよい。
図4Aを参照すると、本実施形態における突起45は全体として概ね直方体状であり、トレイ本体41の上面41aからの高さ(突起高さHpro)が一定の平坦面である頂端面45aを備える。また、突起45の基板収容孔42A〜42Fに臨む側面(基板規正面45b)は、基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aと同一の傾斜をなして連続している。ただし、突起45の具体的な形状は図4Aのものに限定されず、例えば図4Bに示すように扁平な円柱状であってもよい。
トレイ11の材質としては、例えばアルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア(ZrO)、イットリア(Y2O3)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)等のセラミクス材や、アルマイトで被覆したアルミニウム、表面にセラミクスを溶射したアルミニウム、樹脂材料で被覆したアルミニウム等の金属を使用できる。
次に、トレイ11を使用したドライエッチング装置13によるドライエッチング処理の概要を説明する。
図5の矢印A1で示すように、トレイ11の個々の基板収容孔42A〜42Fには、トレイ本体41の上面41a側から基板12が予め収容される。このトレイ11への基板12の収容は作業者の手作業で実行しても、自動移載機により実行してもよい。基板収容孔42A〜42Fに収容された基板12は下面12bの周縁付近が基板支持部44の基板支持面44aによって支持される。
基板収容孔42A〜42Fにそれぞれ基板12が収容された複数のトレイ4が図示しないカセットに収容され、このカセットがドライエッチング装置13にセットされる。カセットをドライエッチング装置13にセットする作業は、通常は作業者が手作業で実行する。続いて、トレイ4はドライエッチング装置13に並設された搬送装置が備える搬送アーム(図示せず)によって、カセットからゲート15aを経てチャンバ15内に搬入され、上昇位置にある昇降ピン32の先端に移載される(このとき昇降ピン32の先端は基板サセプタ18よりも上方に位置する。)。次に、昇降ピン32が降下することで、図5において矢印A2で示すように、基板12とトレイ11が基板サセプタ18のESC22に向けて降下する。トレイ11の個々の基板収容孔42A〜42Fにおける基板支持部44の先端で囲まれた領域の直径DI1は、基板載置部27A〜27Fの直径DI2よりも大きく設定されている。そのため、トレイ11がトレイ支持面22aに向けて降下すると、基板載置部27A〜27Fが基板収容孔42A〜42F内へトレイ本体41の下面41b側から進入する。基板収容孔42A〜42Fの基板支持部44厚みTHssは、トレイ支持面22aから基板載置部27A〜27Fの上端までの距離(基板載置部27A〜27Fの高さHsp)よりも短い。そのため、図6Aに示すように、トレイ11がトレイ支持面22aに載置されると、個々の基板収容孔42A〜42F内の基板12は基板支持面44aから持ち上げられて基板載置部27A〜27Fの上端に配置される。
次に、チャンバ15内は、真空排気装置17により真空排気された後、エッチングガス供給源16によりエッチングガスが供給されて所定圧力で維持される。エッチングガス供給後、静電吸着用電極30に対して直流電源29から直流電圧が印加され、個々の基板載置部27A〜27Fの上端に基板12が静電吸着される。また、高周波電源21A,21BからICPコイル20と基板サセプタ18にそれぞれ高周波電圧を印加される。続いて、個々の基板載置部27A〜27Fの上端と基板12の下面12bとの間の空間に、伝熱ガス源28から供給孔27aを通って供給される伝熱ガスが充填される。ICPコイル20が発生する高周波磁界によりチャンバ3内に誘導電界を発生させ、電子を加速してプラズマを発生させる。このプラズマにより基板12の上面12aがエッチングされる。エッチング中は、冷媒循環装置31により金属板23の冷媒流路23a中で冷媒を循環させることでESC22を冷却し、基板載置部27A〜27Fとの伝熱ガスを介した熱伝導により個々の基板12を冷却する。
エッチング終了後は、昇降ピン32が上昇することで、基板12を基板収容孔42A〜42Fに収容したトレイ11が基板サセプタ18から上昇する。その後、図示しない搬送アームにより、基板12を保持したトレイ11がゲート15aを通ってチャンバ15からカセットへ搬出される。トレイ11からドライエッチング処理済みの基板12が取り出され、新たな未処理の基板12が基板収容孔42A〜42Fに収容される。以上の手順で、トレイ11はドライエッチング処理に繰り返し使用される。
ドライエッチング処理により基板12の上面12aがエッチングされるだけでなく、トレイ11(トレイ本体41の上面41a)もエッチングされる。ドライエッチング処理に繰り返し使用されることで、トレイ本体41の上面41aのエッチングによる削れが進行し、トレイ本体41の厚みTHtryが減少していく。このトレイ本体41の厚みTHtryの減少に伴い、基板支持部44の基板支持面44aからトレイ本体41の上面41aまでの距離(基板収容孔42A〜42Fの深さ)は、使用開始当初の初期深さDEPiから徐々に減少していく。
図7A及び図7Bに示す比較例のように突起45が設けられていない場合、基板収容孔42A〜42Fの深さが初期深さDEPiから最小深さDEPmin(基板12の厚みTHsubに対する割合がある値を下回る)まで減少すると、孔壁42aの高さが不足して基板収容孔42A〜42Fに収容された状態で維持されるように基板12を規正できなくなる。具体的には、トレイ11を収容しているカセットをドライエッチング装置13にセットする際の作業にトレイ11に加わる振動や、トレイ11のチャンバ15への搬入出時にトレイ11に加わる振動に対して、基板収容孔42A〜42Fに収容された状態で維持されるように基板12を規正することができず、基板12の位置ずれが生じる。この場合、ドライエッチング処理の繰り返しによるトレイ11の削れの許容量(許容削れ量ETAtol)は初期深さDEPiから最小深さDEPminを引いた差となる。
しかし、図6A及び図6Bに示すように、本実施形態では、ドライエッチング処理に繰り返し使用されることで、トレイ本体41の上面41aの削れが進行した結果、基板収容孔42の深さ(基板支持部44の基板支持面44aからトレイ11の上面41aまでの距離)が最小深さDEPminよりも小さくなった状態(基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aが基板12の位置ずれを規正できない状態)となっても、突起45の基板規正面45bが位置ずれを生じることなく基板収容孔42A〜F内に保持されるように基板12を規正する。具体的には、基板収容孔42の深さが最小深さDEPminよりも小さくなっても、基板支持面44aから突起45の頂端面45aまでは十分な高さを有するので、突起45の基板規正面45bで規正されることで基板12は基板収容孔42A〜42F内に保持される。従って、本実施形態では、ドライエッチング処理の繰り返しによるトレイ11の許容削れ量ETAtolは、前述した突起45がない場合(図7A及び図7B)の削れ許容量ETAtol(初期深さDEPiから最小深さDEPminを引いた差)よりも大きくなる。
このように本実施形態のトレイ11は突起45を備えているので、ドライエッチング処理に繰り返し使用されてトレイ本体41の削れが進行しても、カセットをドライエッチング装置にセットする際にトレイに加わる振動や、搬入出時のトレイ11の振動による基板収容孔42A〜42Fに対して基板12の位置ずれが生じて搬送エラーとなるのを防止できる。特に、チャンバ15への搬入時における基板12の位置ずれは、基板12の基板サセプタ18に対する位置ずれを招き、エッチング処理品質の低下の原因となる。また、基板12の基板サセプタ18に対する位置ずれにより本来は全面が基板12で覆われているはずのESC22の頂端面の一部が露出していると、プラズマに曝されたESC22が破損するおそれがある。本実施形態では突起45を設けたことでチャンバ15への搬入時における基板12の位置ずれを確実に防止できるので、これら基板12の位置ずれに起因するエッチング処理品質の低下やESC22の破損を確実に防止できる。このようトレイ本体41の削れがある程度進行しても基板12の位置ずれが生じないので、トレイ11の使用寿命が延び、ドライエッチング装置13の運用コストを低減できる。
ESC22の基板載置部27A〜27Fに配置された基板12(図6A〜図7B参照)の周縁に対して僅かな隙間δ1を隔ててトレイ11が存在している。そして、トレイ11の基板12に隣接する部分の高さが高いほど、基板12の周縁における加工された形状の均一性低下等のエッチング品質の低下が生じる傾向がある。本実施形態では、トレイ本体41の上面41aから突出する突起45は基板収容孔42A〜42Fの周囲に間隔をあけて3個設けている。従って、トレイ11と共に基板サセプタ18に配置された基板12(図6A参照)を基板12を平面視で見たとすると、基板12の周縁のうち突起45が設けられ3箇所ではトレイ11の上面41aからさらに上方に突起45の頂端面45aが存在するが(いわば高い壁で囲まれた状態にある)、突起45を設けた以外では基板12の上面12aよりも上にあるのはトレイ11の上面41aのみである(いわば低い壁で囲まれた状態にある)。従って、基板収容孔42A〜42Fの周囲に間隔をあけて設けることで、突起45が存在することによる基板12の周縁におけるドライエッチングに対する影響を緩和でき、ドライエッチングの品質向上を図ることができる。
以下、本実施形態によるトレイ11の長寿命化について具体的な条件を示して説明する。まず、基板12及びトレイ11に関する条件は以下の通りである。基板12のエッチングされる面である上面12aは窒化ガリウム(GaN)層である。基板12のサイズは4インチ(直径約100mm)で、厚みTHsubは0.65mmである(4インチの基板12の厚みTHsubは通常は0.65〜0.90mm程度)。トレイ11については基板収容孔42A〜42Fの直径DI3が101mmで、基板支持部44の先端で囲まれた領域の直径DI1が98mmである。トレイ11の初期の厚みTHtryは1.65mm〜2.50mmである。基板支持部44の厚みはTHssは0.7mmである。基板収容孔27A〜27Fの初期深さDEPiは、0.95〜1.7mmである。また、トレイ11の材質はSiCである。以下では、基板12とトレイ11の寸法等がこの条件にあるものとする。
図7A及び図7Bのように突起45がない場合に孔壁42aで基板12の位置ずれを防止できる基板収容孔42の最小深さDEPminは、基板12の厚みTHsubの1.2倍を下回る0.5mmである。また、この場合のトレイ11の許容削れ量ETAtolは、初期深さDEPi(0.95〜1.7mm)から最小深さDEPmin(0.5mm)を引いた差の0.45〜1.20mmである。一方、図6A及び図6Bのように突起高さHproが最小深さDEPminと同一0.5mmの突起45を設けた場合、基板収容孔42A〜42Fの深さが零、つまり基板支持面44aよりも上方の孔壁42aが消失しても、基板支持部44の基板支持面44aから突出している突起45(最小深さDEPminと同一の突起高さHproを有する)の基板規正面45bによって基板12が規正される。その結果、基板12は位置ずれを生じることなく基板収容孔42A〜42F内に収容される。この場合の許容削れ量ETAtolは初期深さDEPiと等しい0.95〜1.7mmとなる。
図1のドライエッチング装置13を使用して基板12の上面12a(前述のようにGaN層)に高さ1.5μmのメサ構造を形成する。つまり、1回のドライエッチング処理における個々の基板12のエッチング量ETsubが1.5μmである。エッチング条件は以下の通りである。チャンバ15内にエッチングガスとしてCl2ガスを10〜100sccmの流量で供給し、チャンバ15内を1.0Paで維持する。ICPコイル20と基板サセプタ18に供給する高周波電力はそれぞれ1500Wと1800Wである。基板サセプタ18は15℃維持されるように温調する。このエッチング条件のもとでは、基板12の上面12aであるGaN層のエッチング速度ERsubは500nm/minで、トレイ11の上面41a(SiC)がドライエッチングにより削れられる速度ERtryは200nm/minである。
基板12の位置ずれを生じることなくトレイ11をドライエッチングに繰り返し使用可能な回数(処理可能回数N)は、トレイ11の削れ許容量ETAtol、1回のドライエッチング処理での基板12のエッチング量ETsub、基板12のエッチング速度ERsub、ドライエッチングによるトレイ11の削れ速度ERtryにより以下の式(1)で表される。
ここでエッチング量ETsubは1.5μm、エッチング速度ERsubは500nm/min、削れ速度ERtryは200nm/minであり、突起45がない場合(図7A及び図7B)のトレイ11の許容削れ量ETAtolは0.45〜1.20mmで、突起45を設けた場合(図6A及び図6B)のトレイ11の許容削れ量ETAtolは0.95〜1.70mmである。これらの数値を式(1)に代入して計算すると、突起45がない場合(図7A及び図7B)の処理可能回数Nが750〜2000回程度であるのに対し、突起45を設けた場合(図6A及び図6B)の処理可能回数Nは1583〜2833回程度である。つまり、突起45を設けたことで処理可能回数Nが概ね1.4〜2.1倍程度となり、トレイ11の使用寿命が大幅に長くなることが確認できる。
なお、図6A及び図7Bを参照すると、基板12とトレイ11が前述の条件であり、基板載置部27A〜27Fの直径DI2が97mmで高さHspが1.0mmであれば、基板載置部27A〜27Fの上端に載置された基板12の周縁と基板収容孔42の孔壁42aとの隙間δ1が0.5mm、基板12の下面12bと基板支持部44の基板支持面44aとの隙間δ2が0.3mm、基板載置部27A〜27Fの側壁と基板支持部44の先端との隙間δ3が1.5mmである。隙間δ1を0.1〜0.2mm程度、隙間δ2を0.2〜0.3mm程度に設定し、かつ隙間δ3を隙間δ2よりも大きく設定すれば、基板載置部27に対する基板12の位置決め精度を確保しつつ、ドライエッチング処理中にプラズマが基板12の下面12b側に回り込むのを防止できる。
基板12のサイズが4インチ(直径約100mm)の場合を例に、許容削れ量ETAtol等の具体的な数値を例示したが、基板12のサイズが2インチ(直径約50.8mm)、3インチ(直径約76.2mm)、及び6インチ(直径約150mm)の場合にも本実施形態の突起45を設けることで、許容削れ量ETAtolを増加させてトレイ11を長寿命化できる。表1に基板12のサイズが2,3,4,6インチの場合の厚みTHsub、初期深さDEPi、最小深さDEPmin、及び許容削れ量ETAtol(突起を設けない場合と最小深さDEPminと同一の高さHpro(0.5mm)の突起を設けた場合)を示す。
前述のように基板載置部27A〜27Fに配置された基板12(図6A〜図7B参照)の周縁におけるエッチング品質に対してトレイ11の存在が影響する。この影響は、GaN層をエッチングする場合(エッチングされる基板12の上面12aがGaN層の場合)よりも、サファイア(SF)をエッチングする場合(基板12がSF基板の場合)の方が顕著である。そのため、SFのエッチングの場合、トレイ11の存在がエッチング品質に及ぼす影響を可能な限り低減するために、エッチング時には基板12の上面12aとトレイ本体41の上面41aとを可能な限り同一の高さ位置となるように設定することが要求される。つまり、SF基板のエッチングの場合、図7A,7Bにおいて符号ε,ε’で示す、エッチング前後の基板12の上面12aとトレイ本体41の上面41aとの高さ位置の差を可能な限り小さくすることが要求される。そのため、SFをエッチングする場合、トレイ11の初期の厚みTHtryはGaN層をエッチングする場合(表1)よりも薄く設定する必要がある。具体的には、SFをエッチングする場合のトレイ11の厚みTHtryは、基板12が2インチであれば1.5mm、3インチであれば1.6〜1.7mm、4インチであれば1.9〜2.0mm、6インチであれば2.3〜2.4mmに設定される。トレイ11の厚みTHtryが薄くなると、突起45を設けないときの許容削れ量ETAtol(図7A及び図7B)もそれに対応して減少するので処理可能回数Nが減少する。つまり、トレイ11の厚みTHtryが薄くなると、それに対応してトレイ11の使用寿命がさらに短くなる。従って、基板12がSF基板の場合のようにトレイ11の厚みTHtryを薄く設定する必要があるときには、突起45を設けることによるトレイ11の長寿命化の効果がより有効である。
(参考例)
図8から図10Aに示す本発明の参考例に係るトレイ11には、個々の基板収容孔42A〜42F毎にトレイ本体41とは別体の突起55が設けられている。具体的には、トレイ本体41を構成する材料とは異なる材料を溶射することでトレイ本体41の上面41aに突起55を形成している。突起55を形成する材料は、トレイ本体41を構成する材料よりも基板12のドライエッチングにより削れにくいものが選択される。具体的には、突起55を形成する材料の基板12の材料に対するエッチング選択比は、トレイ本体41を形成する材料の基板12の材料に対するエッチング選択比よりも大きい。例えば、SiCからなるトレイ本体41の上面41aにイットリアを溶射することで突起55を形成できる。
本参考例では、前述のようにトレイ本体41と別体の突起55は、個々の基板収容孔42A〜42F毎に1個だけ設けられている。具体的には、突起55は平面視で基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周囲の全周を取り囲む環状ないし無端状をなすようにトレイ本体41の上面41aに設けられている。突起55の頂端面55aはトレイ本体41の上面41aからの高さHproが一定の平坦面である。
トレイ11がドライエッチング処理に繰り返し使用されることで、トレイ本体41の上面41aのエッチングによる削れが進行し、トレイ本体41の厚みTHtryは図10Aに示す初期の厚みから図10Bに示すように減少していく。同様に、ドライエッチング処理に繰り返し使用されることで、突起55の頂端面55aのエッチングによる削れが進行し、突起55の高さHproは図10Aに示す初期高さから図10Bに示すように減少していく。しかし、前述のように突起55の方がトレイ本体41よりも基板12に対するエッチング選択比が大きいので、削れの進行によるトレイ本体41の厚みTHtryの減少の速度(トレイ本体41の上面41aの降下の速度)は、削れの進行による突起55の高さHproの減少の速度(突起55の頂端面55aの降下の速度)よりも速い。そのため、図10Bに示すように、突起55の下側に第1実施形態における突起45と同様にトレイ本体41と一体の突起45’が形成される。
図10Cに示すように、頂端面55aのエッチングによる削れの進行により突起55が消失しても、トレイ本体41と一体の突起45’が残る。前述のように突起55の下側に形成されるので、突起45’も平面視で基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周囲の全周を取り囲む環状ないし無端状である。トレイ11がさらにドライエッチング処理に使用されるとトレイ本体41の上面41aのエッチングによる削れがさらに進行し、図10Dに示すように基板収容孔42の深さ(基板支持部44の基板支持面44aからトレイ11の上面41aまでの距離)が最小深さDEPminよりも小さくなった状態(基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aが基板12の位置ずれを規正できない状態)となる。しかし、この状態となっても、突起45’の高さHpro'(基板支持面44aから突起45’の頂端面45a’までの距離)は十分残っているので、突起45’の側面である基板規正面45b’が、位置ずれを生じることなく基板収容孔42A〜F内に保持されるように基板12を規正する。このようにトレイ本体41の削れが進行しても基板12の位置ずれが防止されるので、トレイ11の使用寿命が延び、ドライエッチング装置13の運用コストを低減できる。
特に、本参考例ではトレイ本体41を構成する材料よりも高エッチング選択比の材料からなる別体の突起55を採用しているので、初期の突起55の高さHproを低く設定しても、ドライエッチング処理の繰り返しによりトレイ本体41の削れが進行した際に基板収容孔42A〜42Fに収容された基板12を位置ずれが生じない程度に規正できる程度の突起45の高さが確保できる。つまり、高エッチング選択比の材料で突起45を形成することで、トレイ本体41の削れが進行した際に基板12を規正する機能を維持しつつ、突起高さHproを低くできる。その結果、突起が存在することの基板の周縁のプラズマ処理に対する影響を緩和でき、プラズマ処理の処理品質を向上できる。例えば、SiCからなるトレイ本体41の上面41aにイットリアを溶射することで突起45を形成する場合、100μm〜200μmの突起高さHproは、SiCで突起45を形成する場合の300μm〜600μmの突起高さHproに相当する。
トレイ11をドライエッチング処理に使用し始めた段階では、トレイ本体41の上面41aのうち個々の基板収容孔42A〜42Fの周囲には突起55が存在する(図10A及び図10B参照)。つまり、この段階ではトレイ本体41の上面41aは、トレイ本体41自体を構成する材料(例えばSiC)からなる領域と、突起55を構成する材料(例えばイットリア)からなる領域とがある。そして、トレイ11がドライエッチング処理に繰り返し使用されてエッチングによる削れで突起55が消失すると、トレイ本体41の上面41aの上面41aの全領域がトレイ本体41自体を構成する材料(例えばSiC)となる。つまり、トレイ11のドライエッチングへの使用回数の増加によって突起55が消失すると、トレイ本体41の上面41aのうち突起55が設けられていた部分には材質(言わばエッチングされる物の材質)に変化が起こる。
しかし、本参考例では、突起55は個々の基板収容孔42A〜42Fの周囲にのみ設けられている。つまり、トレイ本体41自体を構成する材料(例えばSiC)とは異なる材料(例えばイットリア)で構成された突起55の面積は、トレイ本体41の上面41aの残りの領域の面積と比較して非常に小さい。そのため、エッチングの進行によって突起55が消滅することによるトレイ本体41の上面41aの材質の変化は、基板12のエッチング条件に対して殆ど影響を及ぼさない。このように、本参考例では、トレイ本体41の上面41aの全領域ではなく、個々の基板収容孔42A〜42Fの周囲にのみトレイ本体41と異なる高エッチング選択比の材料からなる突起55を設けることで、突起が存在することによる基板の周縁のプラズマ処理に対する影響を緩和と、トレイ本体41の上面41aの材質の変化による影響の防止の両方を実現している。図8及び後述する図11Bに示すように突起55が平面視で環状又は実質的に環状である場合、突起55の幅が2mmから5mm程度で、トレイ本体41の上面41aの面積に対する個々の基板収容孔42A〜42Fに設けられた突起55の面積の合計の割合が12%以下であることが好ましい。一方、後述する図11Aのように複数の突起55が点状に配置される場合、突起55の幅が2mmから5mm程度で、トレイ本体41の上面41aの面積に対する個々の基板収容孔42A〜42Fに設けられた突起55の面積の合計の割合が2%以下であることが好ましい。
図11A及び図11Bは、イットリア等の高選択比の材料の溶射により形成したトレイ本体41とは別体の突起55を備えるトレイ11の代案を示す。
図11Aの代案では、平面視で基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周囲に周方向に一定間隔で3個の点状の突起55を設けている。この図11Aの例では、同一寸法の突起55を等間隔で3個設けている。しかし、突起55の寸法は互いに異なっていてもよく、突起55間の間隔も均一である必要はない。また、突起55の個数は2個又は4個以上であってもよい。基板収容孔42A〜42Fの間隔が接近したトレイ11の場合、突起55の配置に制約が生じるので、設計自由度が高い図11Aのような点状の突起55を設けることが実用上好ましい。
図11Bの代案では、平面視で基板収容孔42A〜42Fの孔壁42aの周囲を取り囲む環状の単一の突起55を設けているが、この突起55には部分的に切除部56が形成されている。この図11Bの例では、同一寸法の切除部56を等間隔で3個設けている。しかし、切除部56の寸法は互いに異なっていてもよく、切除部56間の間隔も均一である必要はない。また、切除部56の個数は特に限定されない。
参考例のその他の構成及び作用は実施形態と同様であるので、同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本発明は実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、有底の基板収容孔を有するトレイの場合でも、基板収容孔の孔壁の周囲でトレイ本体の上面から突出する突起を設けることで、プラズマ処理の繰り返しに伴うトレイの削れに起因する基板の位置ずれを防止し、トレイの長寿命化によるプラズマ処理装置の運用コスト低減を図ることができる。さらに、本発明に係るトレイはドライエッチング装置に限定されずCVD装置等の他のプラズマ処理装置における基板の搬送にも適用できる。