JP5284769B2 - 耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材、原油タンクおよび原油タンカーの上甲板 - Google Patents

耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材、原油タンクおよび原油タンカーの上甲板 Download PDF

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Description

本発明は、原油タンクの天井に用いられ、硫化水素、硫黄酸化物(SO)等が内部で発生する原油タンク内環境における耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材と、その原油タンク天井用鋼材を用いて形成された天井を備えた原油タンクおよび原油タンカーの上甲板に関するものである。
原油タンカー、貨物船、貨客船、客船、軍艦等の船舶において、外板、バラストタンク、原油タンク等に用いられる鋼材は、海水に含まれる塩分の影響や、高温多湿に曝される影響で、腐食損傷を受けることが多い。このような腐食損傷を受けると、浸水や沈没などの海難事故を招く原因となる可能性もあることから、従来から鋼材には何らかの防食手段が施されていた。
その防食手段の代表が、防食塗装と電気防食である。重塗装に代表される防食塗装や、電気防食といった防食手段を鋼材に施すことによって、海水に含まれる塩分の影響や、高温多湿に曝される影響による錆や腐食の発生は、ある程度防止することはできた。
しかしながら、原油タンク内で発生する硫化水素、硫黄酸化物(SO)等の影響による腐食は、これら従来からの防食手段では十分には防止することはできなかった。
また、防食塗装だけでは、製造工程における衝突や経年劣化等で、塗装に疵がついたり、塗装が剥離してしまったりして防食性能が維持できない場合があり、その検査、補修に要する時間、費用が多大にかかってしまうという問題があった。更には、原油タンクの天井(下面)の補修には、原油タンク内で足場を組む必要があるといった問題もあった。一方、電気防食は、犠牲陽極との電気回路を形成する必要があり、原油タンクの天井などの気相部においては、電気回路を形成することができず、効果が現れないという問題があった。
以上のような様々な問題があったため、原油タンク用の鋼材として、鋼材の化学成分を調整することで耐食性を向上させた鋼材に関する提案が、特許文献1〜3としてなされている。これら特許文献1〜3に記載された技術によって、従来の防食手段よりある程度優れた防食性を確保することはできたといえる。
しかしながら、硫化水素や硫黄酸化物(SO)等が内部で発生する原油タンク内環境といったより厳しい環境下では、依然として十分な防食性が確保できたとはいえず、更なる耐食性の向上が要求されている。
すなわち、従来の原油タンク用鋼材では、原油タンク内の天井の下面などに発生する鉄錆と硫黄からなる生成スラッジが脱落することがあり、そのスラッジ中の硫黄がカソードサイトとなって底板の孔食の原因となっていた。従って、気相部の腐食量を低減させることのほか、生成スラッジが脱落することを抑制することが、併せて耐食性の向上という観点から要求されている。
特開2004−204344号公報 特開2007−63610号公報 特開2007−291494号公報
本発明は、これら従来の問題を解決せんとしてなされたもので、腐食の発生量が低減できると共に、生成スラッジが脱落することも抑制されている耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材と、その原油タンク天井用鋼材を用いて形成された天井を備えた原油タンクおよび原油タンカーの上甲板を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、Al:0.005〜0.10%、S:0.010%以下(0%を含まない)、Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%、Ti:0.005〜0.20%、Cr:0.01〜5.0%、Ca:0.0005〜0.20%、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であって、([Cu]+[Ni])/[S]=100〜800という要件を満足すると共に、表面粗さが、十点平均粗さRzで、20μm〜60μmであり、且つ、表面に、有機ジンクリッチプライマー、無機ジンクリッチプライマー、ジンクリッチペイント、亜鉛溶射皮膜、亜鉛合金溶射皮膜、亜鉛メッキ、亜鉛合金メッキのいずれかからなる被覆層が膜厚:10μm〜80μmで形成されていることを特徴とする耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材である。
但し、上式で[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
請求項2記載の発明は、更に、質量%で、Zrおよび/またはHfを0.005〜0.20%含有することを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材である。
請求項3記載の発明は、更に、質量%で、Mg、Sr、Baの中から選ばれる1種以上を0.0005〜0.020%含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材である。
請求項4記載の発明は、更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%、およびNb:0.003〜0.50%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材である。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の原油タンク天井用鋼材を用いて形成された天井を備えた原油タンクである。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の原油タンク天井用鋼材を用いて形成された原油タンカーの上甲板である。
本発明の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材、原油タンクおよび原油タンカーの上甲板によると、鋼材の腐食の発生量を低減することができるうえに、生成スラッジが脱落することも抑制することができる。
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
鋼材の化学成分を調整することで耐食性を向上させた鋼材では、従来の防食手段よりある程度優れた防食性を確保することはできたとはいえるものの、硫化水素や硫黄酸化物(SO)等が内部で発生する原油タンク内環境といったより厳しい環境下では、依然として十分な防食性が確保できたとはいえないため、本発明者らは、腐食の発生量を低減できるうえに、生成スラッジの脱落を抑制することができる原油タンク天井用鋼材の開発を進めることとした。
鋭意、検討、探求を重ねた結果、鋼材の成分として、特に(Cu+Ni)/Sと、Sの含有量を制御し、鋼材の表面粗さを適切に調整し、更にその表面に亜鉛を主成分とする被覆層を形成することで、初期の目的が達成されることを見出し、本発明の完成に至った。
また、本発明の原油タンク天井用鋼材にあっては、その鋼材としての基本的特性を満足させるために、C、Si、Mn、Al等の化学成分の含有量も適切に調整する必要がある。以下、本発明の原油タンク天井用鋼材中の化学成分の含有量の範囲限定理由について、元素毎に詳細に説明する。尚、本明細書中に記載する%は全て質量%を示す。
C:0.01〜0.30%
Cは、材料の強度を確保するために必要な元素である。原油タンク用の構造部材として必要な最低強度は概ね400MPa程度であり、その強度を得るためには、少なくとも0.01%以上は含有させる必要がある。一方で、0.30%を超えて過剰に含有させると靭性が劣化すると共に、所望のパーライト面積率を得ることができない。こうしたことから、Cの含有量は、0.01〜0.30%の範囲とした。尚、Cの含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましい下限は0.04%である。一方、Cの含有量の好ましい上限は0.28%であり、より好ましい上限は0.26%である。
Si:0.01〜2.0%
Siは、製鋼時の脱酸元素として有用であり、鋼材の強度確保にも寄与する元素である。その含有量が0.01%に満たないと、原油タンク用の構造部材としての最低強度を確保することができない。一方で、2.0%を超えて過剰に含有させると溶接性が劣化する。こうしたことから、Siの含有量は、0.01〜2.0%の範囲とした。尚、Siの含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましい下限は0.05%である。一方、Siの含有量の好ましい上限は1.5%であり、より好ましい上限は1.0%である。
Mn:0.01〜2.0%
MnもSiと同様に、製鋼時の脱酸元素として有用であり、鋼材の強度確保にも寄与する元素である。その含有量が0.01%に満たないと、原油タンク用の構造部材としての最低強度を確保することができない。一方で、2.0%を超えて過剰に含有させると靭性が劣化する。こうしたことから、Mnの含有量は、0.01〜2.0%の範囲とした。尚、Mnの含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましい下限は0.10%である。一方、Mnの含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましい下限は1.60%である。
Al:0.005〜0.1%
AlもSi、Mnと同様に、製鋼時の脱酸元素として有用であり、強度確保にも寄与する元素である。その含有量が0.005%に満たないと、製鋼時の脱酸に効果がない。一方で、0.1%を超えて過剰に含有させると溶接性を害してしまう。従って、Alの含有量は、0.005〜0.1%の範囲とした。尚、Alの含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましい下限は0.015%である。一方、Alの含有量の好ましい上限は0.040%であり、より好ましい上限は0.050%である。
S:0.010%以下(0%を含まない)
Sは、溶解原料中に不可避的に存在する元素であるが、鋼材の靭性や溶接性を劣化させる元素であり、可能な限りその含有量を抑えることが好ましい。Sの含有量の許容される上限は、最高でも0.010%であり、含有量が0.010%を超えると、原油タンク天井用鋼材としての溶接性を確保することができない。従って、Sの含有量の上限を0.010%とした。Sの含有量の好ましい上限は0.008%である。
Cu:0.05〜0.5%
Cuは、耐食性の向上に大きく寄与する緻密な表面錆被膜を形成するために有用な元素であり、錆層中の硫黄量の増加を抑え、錆層の脱落を抑制する効果がある。こうした効果を発現させるためには、0.05%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.5%を超えて過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化する。従って、Cuの含有量は、0.05〜0.5%の範囲とした。尚、Cuの含有量の好ましい下限は0.07%であり、好ましい上限は0.48%である。
Ni:0.05〜0.5%
Niは、耐食性の向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜を安定させるために有用な元素である。こうした効果を発現させるためには、0.05%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.5%を超えて過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化する。従って、Niの含有量は、0.05〜0.5%の範囲とした。尚、Niの含有量の好ましい下限は0.07%であり、好ましい上限は0.48%である。
Ti:0.005〜0.20%
Tiは、耐食性の向上に大きく寄与する表面錆皮膜を緻密化して、その環境遮断性を向上させる元素である。こうした環境下で要求される耐食性を確保するためには、0.005%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.20%を超えて過剰に含有させると加工性と溶接性を劣化させる。従って、Tiの含有量は、0.005〜0.20%の範囲とした。尚、Tiの含有量の好ましい下限は0.008%であり、好ましい上限は0.15%である。
Cr:0.01〜5.0%
Crは、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜を形成するために有用な元素である。こうした効果を発現させるためには、0.01%以上含有させることが必要である。しかしながら、5.0%を超えて過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化する。従って、Crの含有量は、0.01〜5.0%の範囲とした。尚、Crの含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は4.50%である。
Ca:0.0005〜0.020%
Caは、溶解することによってpH上昇作用を示すことから、鉄の溶解が起こっている局部アノードにおける加水分解反応によるpH低下を抑制して、腐食反応を抑制し、耐食性を向上させる作用を有する。その効果は、Caを0.0005%以上含有させることで発現される。しかしながら、0.020%を超えて含有させると加工性と溶接性を劣化させる。このような理由で、Caの含有量は、0.005〜0.20%の範囲とした。
以上が本発明の必須含有元素であるが、本発明の原油タンク天井用鋼材には、次に示す各元素を含有させることが好ましい。
Zrおよび/またはHf:0.005〜0.20%
ZrとHfは、共に耐食性の向上に大きく寄与する表面錆皮膜を緻密化して、その環境遮断性を向上させる元素であって、また、隙間内部における腐食を抑制して、耐隙間腐食性を向上させる元素である。こうした環境下で要求される耐食性を確保するためには、合計で0.005%以上含有させることが好ましい。しかしながら、合計で0.20%を超えて含有させると加工性と溶接性を劣化させてしまう。こうしたことから、Zrおよび/またはHfを含有させる場合は、合計で0.005〜0.20%の範囲とする。尚、Zrおよび/またはHfを含有させる場合の好ましい下限は合計で0.008%であり、好ましい上限は合計で0.15%である。
Mg、Sr、Ba:0.0005〜0.020%
Mg、Sr、およびBaは、溶解することによってpH上昇作用を示すことから、鉄の溶解が起こっている局部アノードにおける加水分解反応によるpH低下を抑制して、腐食反応を抑制し、耐食性を向上させる作用を有する。その効果は、合計で0.0005%以上含有させることで発現される。しかしながら、合計で0.020%を超えて含有させると加工性と溶接性を劣化させる。このような理由で、Mg、Sr、およびBaを含有させる場合は、合計で0.005〜0.20%の範囲とした。
B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%、Nb:0.003〜0.50%
原油タンク天井用鋼材は高強度化が必要であるが、これらの元素は強度向上に寄与する元素である。これらのうち、Bは、0.0001%以上含有させることによって焼入れ性が向上するため、強度向上に有効であるが、0.010%を超えて過剰に含有させると母材靭性の劣化を招くことになる。Vは、0.01以上含有させることによって、強度向上に有効であるが、0.50%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化を招くことになる。また、Nbは、0.003以上含有させることによって、強度向上に有効であるが、0.50%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化を招くことになる。尚、これら元素のより好ましい下限は、Bについては0.0003%、Vについては0.02%、Nbについては0.005%である。一方、これら元素のより好ましい上限は、Bについては0.0090%、Vについては0.45%、Nbについては0.45%である。
本発明の原油タンク天井用鋼材に含有させる各元素の含有量の範囲は以上の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物である。この不可避的不純物としては、P、O、Wを例示することができる。これら以外にも鋼材の特性を阻害しない範囲の元素は含有させることは可能である。例えば、Nを例示することができるが、それら不純物の含有量が過剰になると靭性が劣化するため、不純物の含有量は、0.5%以下、好ましくは0.1%以下に抑える必要がある。
更に、本発明の原油タンク天井用鋼材は、([Cu]+[Ni])/[S]=100〜800という要件を満足する必要がある。尚、各式に示す[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
原油タンク天井用鋼材は、硫化水素、二酸化炭素、硫黄酸化物などのガス雰囲気で高湿度環境である原油タンク内環境に曝されると腐食が進行し、その表面(下面)に硫化鉄を含む鉄錆が発生する。この鉄錆が触媒となり、ガス成分から硫黄が生成され、鋼材表面に形成される錆が、鉄錆と硫黄の層状構造になる。ここで、温度変化や外部応力があると、層状構造の錆はその硫黄の部分で剥離が生じ、原油タンク内に鉄錆と硫黄からなるスラッジが脱落することになる。その脱落したスラッジ中の硫黄がカソードサイトとなることで、底板の孔食の原因となっていた。
特に、鋼材中に硫黄成分(S)が多い場合は、MnSを起点とする腐食が発生し、鉄錆が触媒となってガス成分由来の硫黄が生成しやすくなり、腐食が激しくなると共に、スラッジの脱落量が増加する。
このスラッジの脱落量を低減するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、鋼材中に含有されるCu+NiとSの質量%比を適切に制御することで、鋼材に生成する錆中に含まれる硫黄を低減できることを見出した。
鋼材中のSの含有量を低減することで、腐食のカソード点となるMnSの生成を抑制することができ、硫黄生成の触媒となる鉄錆の発生を抑制することができる。更に、鋼材にCuとNiを添加することで、前記した([Cu]+[Ni])/[S]を、100〜800の範囲に調整すると、Cu、Niと、後述するプライマーの亜鉛(Zn)とが、鋼材の表面に緻密な錆層を形成し、硫黄分を含むガスが錆中へ侵入することを抑制することができる。その結果、鉄錆の発生と、錆内部に層状になって含まれる硫黄の生成を大幅に低減でき、鉄錆と硫黄からなるスラッジの脱落を抑制することができる。
尚、鋼材にCuとNiを添加しても、([Cu]+[Ni])/[S]が100未満の場合は、腐食起点となるSに対して、CuとNiの添加による錆の緻密化が不十分となり、十分な耐食性を確保することができず、スラッジの脱落量が多くなる。これに対し、([Cu]+[Ni])/[S]が800を超える場合は、CuとNiの添加量の増加による効果と原料コストが見合わなくなり、また、Sの含有量を低減するとしても技術的、経済的に難しいため、上限を800とした。尚、([Cu]+[Ni])/[S]の好ましい範囲は、120〜780である。
以上が、本発明の原油タンク天井用鋼材における化学成分の成分範囲限定理由であるが、本発明者らは、更に、鋼材の表面粗さを適切に調整すると共に、その表面に亜鉛を主成分とする被覆層を形成することで、鋼材の腐食の発生量を低減することができるうえに、生成スラッジが脱落することも抑制することができることを見出した。
まず、鋼材の表面粗さであるが、表面粗さを、十点平均粗さRz(JIS Z 0601(2001)に記載の表面の十点平均粗さRzJIS)で、20μm〜60μmの範囲とすることで、鋼材表面の緻密な錆層に、後述する亜鉛を主成分とする被覆層を強固に密着させることができる。鋼材の表面粗さ(十点平均粗さRz)は、好ましくは、25μm〜55μmの範囲とすれば更に良い。
十点平均粗さRzが20μm未満では、密着性に寄与するアンカー効果が小さくなり、被覆層が剥離しやすくなり、腐食の抑制効果に乏しくなる。一方、十点平均粗さRzが60μmを超える場合は、被覆層と鋼材の界面に気泡を巻き込むことになり、欠陥が発生するため、防食性能が発現できなくなる。また、被覆層を形成する塗料の乾燥時の凹凸を起点とした残留応力が生じやすくなり、被覆層の密着性を低下させる。更には、腐食が進行すると、ガスが内部まで浸透して錆内部に硫黄が生成し、その結果、スラッジの脱落量が多くなってしまう。
また、十点平均粗さRzが20μm未満の場合、鋼材の表面が平滑になるため、たとえ、([Cu]+[Ni])/[S]を、100〜800の範囲に調整することで緻密な錆層を形成しても、環境の温度変化や応力付加により生成する錆層の剥離が発生しやすくなる。つまり、緻密な錆層による効果が発現されにくくなる。一方、十点平均粗さRzが60μmを超える場合は、鋼材の表面の凹部の錆の生成が凸部の錆の生成より遅れることになり、錆層に応力が入ることでクラックが発生しやすくなり、緻密な錆層による遮断効果が低減される。
尚、スチールショットなどの直径2mm程度以下の金属球を、鋼材の表面に圧縮空気で打ちつけたり、スチールグリッドのような2mm程度以下の金属小片を、鋼材の表面に圧縮空気で打ちつけたりすることで、所望の表面粗さ(十点平均粗さRz)とすることができる。表面粗さ(十点平均粗さRz)は、小坂研究所製の触針式三次元形状測定装置「SE3500」で測定することで、確認することが可能である。
次に、亜鉛を主成分とする被覆層であるが、この亜鉛を主成分とする被覆層により、被覆層の主成分の亜鉛が、鋼材に対して犠牲陽極となり防食効果を発現すること、そして、生成する亜鉛の腐食生成物による環境遮断効果によって、鋼材の耐食性が向上する。この亜鉛を主成分とする被覆層は、有機ジンクリッチプライマー、無機ジンクリッチプライマー、ジンクリッチペイント、亜鉛溶射皮膜、亜鉛合金溶射皮膜、亜鉛メッキ、亜鉛合金メッキ等で形成されていることが適当であり、それらの中でも、有機ジンクリッチプライマー、無機ジンクリッチプライマー、ジンクリッチペイント等の塗料を用いて形成されていることが、経済性、作業性の観点から望ましい。
尚、その亜鉛を主成分とする被覆層の膜厚は、10μm〜80μmの範囲であることが好ましい。その膜厚が10μm未満であれば、被覆層としての効果が発現できず、逆に、その膜厚が80μm超であれば、その効果が飽和してしまう。
本発明の原油タンク天井用鋼材は、原油タンクの天井に好適に用いることができる。上記原油タンクとしては、天井が固定式となっており、内容物である原油と天井との間に空隙が生じるようなタンクが特に好適である。
また、本発明の原油タンク天井用鋼材は、上甲板が原油タンクの天井部分となっている原油タンカーの上甲板にも好適に用いることができる。
次に、本発明の原油タンク天井用鋼材の製造方法について説明する。本発明の原油タンク天井用鋼材は、規定の成分に調整することで製造することが可能であるが、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、転炉、電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼に対して、RH(Ruhrstahl−Heraeus)真空脱ガス装置を用いて、成分調整、温度調整を含む二次精錬を行う。この二次精錬工程においては、必要に応じて、LF(Ladle Furnace)による脱S処理など、RH以外の装置による処理を付加することが可能である。二次精錬の後、連続鋳造法や造塊法等の通常の鋳造方法によって鋼塊とする。尚、二次精錬における脱酸形式としては、機械特性や溶接性の観点でキルド鋼を用いることが好ましく、キルド鋼の中でもAlキルド鋼を用いることが特に推奨される。
以上の鋳造方法で得られた鋼塊を1100〜1200℃の温度域に加熱した後に熱間圧延を行って所望の形状にすることが好ましい。熱間圧延を行う際は、その終了温度は680〜780℃とし、熱間圧延終了後から500℃までの冷却速度を0.1〜10℃/sの範囲に制御することが好ましい。
以下実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施例では、転炉で溶製した溶鋼に対して、成分調整、温度調整を含んだ二次精錬を行った後、連続鋳造法によってスラブを作製し、1100〜1200℃の温度域に加熱した後に熱間圧延を行って、表1に示す各成分組成の鋼板を作製した。
得られた鋼板を適宜サイズに切断し、表面研削を行って、最終的に、W300mm×L300mm×t25mmの大きさの試験片Aと、W50mm×L50mm×t5mmの大きさの試験片Bを作製した。次に、スチールショットなどの直径2mm程度以下の金属球を、試験片の表面に圧縮空気で打ちつけたり、スチールグリッドのような2mm程度以下の金属小片を、試験片の表面に圧縮空気で打ちつけたりして、表2に示す各表面粗さ(十点平均粗さRz)に調整した。
更に、水洗およびアセトン洗浄を行った後、亜鉛を主成分とする無機ジンクリッチプライマー(中国塗料製:セラボンド2000)を、その乾燥膜厚が15μmになるように塗布して、試験片の表面に亜鉛を主成分とする被覆層を形成した。尚、表1,2に示すNo.1が従来鋼であり、各試験の評価基準とする。
Figure 0005284769
Figure 0005284769
(1)実船暴露試験
原油を積載した実船の原油タンカーの上甲板(原油タンクの天井)の下面(タンク内側)に、試験片Aを各々5個ずつ取り付け、2年半の期間で暴露試験を実施した。腐食量は暴露試験前後の試験片Aの質量測定の差から算出し、暴露試験後の質量測定は、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法(JIS K 8284)によって鉄錆等の腐食生成物を試験片Aから除去した後に実施した。
この暴露試験では、評価基準の従来鋼であるNo.1の腐食量を1.0としたときの、腐食量が0.3未満のものを◎、腐食量が0.3以上0.6未満のものを○として、合格と判定し、腐食量が0.6以上0.9未満のものを△、腐食量が0.9以上のものを×として、不合格と判定した。
(2)原油タンク模擬環境試験
図1に示す試験装置を用いて、原油タンクの気相部の模擬環境として試験を行った。具体的には、原油タンクを模擬した恒温槽1の上面に試験片Bを各々5個ずつ取り付け、その恒温槽1内の純水2中に、通気管3を介してガス(13%CO−5%O−0.01%SO−0.3%HS−bal.N)を通気し、図2に示す温度サイクルで、実船における昼夜の温度変化を模擬して試験を実施した。尚、試験期間は90日間とした。剥離錆量については、試験片Bを試験後に取り出し、ワイヤブラシ等で固着していない錆層を脱落させた後の試験片Bの質量測定を行い、試験前に測定した試験片Bの質量との差から求めた。また、腐食量は試験前後の試験片Bの質量測定の差から算出し、試験後の質量測定は、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法(JIS K 8284)によって鉄錆等の腐食生成物を試験片Bから除去した後に実施した。
この試験では、評価基準の従来鋼であるNo.1の剥離錆量を1.0としたときの、剥離錆量が0.3未満のものを◎、剥離錆量が0.3以上0.6未満のものを○として、合格と判定し、剥離錆量が0.6以上0.9未満のものを△、剥離錆量が0.9以上のものを×として、不合格と判定した。また、腐食量については、実船暴露試験と同様で、評価基準の従来鋼であるNo.1の腐食量を1.0としたときの、腐食量が0.3未満のものを◎、腐食量が0.3以上0.6未満のものを○として、合格と判定し、腐食量が0.6以上0.9未満のものを△、腐食量が0.9以上のものを×として、不合格と判定した。
(3)試験結果
試験結果を表3に示す。従来鋼であるNo.1や、S,Cu,Niの含有量が適正に調整されておらず、本発明で規定する範囲から外れるNo.2〜4、([Cu]+[Ni])/[S]が100〜800でないNo.5(同様にNo.2〜4も外れる)、表面粗さが、十点平均粗さRzで20μm〜60μmでないNo.6,7では、各試験結果(腐食量、剥離錆量)が全て△或いは×で不合格であったのに対し、本発明で規定する要件を全て満たすNo.8〜29は、耐食性を表す各試験結果が全て◎或いは○で合格であった。
Figure 0005284769
試験から求められた腐食量が合格判定基準を満足したことは、鋼材の腐食の発生量を低減することができたことを示し、試験から求められた剥離錆量が合格判定基準を満足したことは、生成スラッジが脱落することが抑制できたことを示す。すなわち、本発明で規定する要件を全て満たすことで、所望の効果を達成できることが確認できた。
実施例の原油タンク模擬環境試験で用いる試験装置を示す縦断面図である。 実施例の原油タンク模擬環境試験での実船における昼夜の温度変化を模擬した温度サイクルを示す説明図である。
符号の説明
1…恒温槽
2…純水
3…通気管

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.01〜0.30%、
    Si:0.01〜2.0%、
    Mn:0.01〜2.0%、
    Al:0.005〜0.10%、
    S:0.010%以下(0%を含まない)、
    Cu:0.05〜0.5%、
    Ni:0.05〜0.5%、
    Ti:0.005〜0.20%、
    Cr:0.01〜5.0%、
    Ca:0.0005〜0.20%、
    を含有し、
    残部がFe及び不可避的不純物であって、
    ([Cu]+[Ni])/[S]=100〜800という要件を満足すると共に、
    表面粗さが、十点平均粗さRzで、20μm〜60μmであり、
    且つ、表面に、有機ジンクリッチプライマー、無機ジンクリッチプライマー、ジンクリッチペイント、亜鉛溶射皮膜、亜鉛合金溶射皮膜、亜鉛メッキ、亜鉛合金メッキのいずれかからなる被覆層が膜厚:10μm〜80μmで形成されていることを特徴とする耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材。
    但し、上式で[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 更に、質量%で、Zrおよび/またはHfを0.005〜0.20%含有することを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材。
  3. 更に、質量%で、Mg、Sr、Baの中から選ばれる1種以上を0.0005〜0.020%含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材。
  4. 更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%、およびNb:0.003〜0.50%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性に優れた原油タンク天井用鋼材。
  5. 請求項1乃至4のいずれかに記載の原油タンク天井用鋼材を用いて形成された天井を備えた原油タンク。
  6. 請求項1乃至4のいずれかに記載の原油タンク天井用鋼材を用いて形成された原油タンカーの上甲板。
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