以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)、(b)、図2は、本発明の一実施の形態に係る蓋開閉構造が適用される鍵盤楽器の模式的な右側面図である。これらの図では、後述する側板部15(左側板部15L、右側板部15R)(図3(b)参照)のうち右側板部15Rが取り外された状態が示されている。これらの図において、左方が、鍵盤楽器10の奏者が位置する前方であり、以降、鍵盤楽器10の左右方向については、奏者からみた方向で呼称する。
図3(a)は、図2のA−A線に沿う鍵盤楽器10の断面図である。図3(b)は、図3(a)のB−B線に沿う鍵盤楽器10の断面図である。
図1、図2に示すように、この鍵盤楽器10の蓋開閉構造は、分割して構成される前蓋31及び後蓋32を有する蓋体30を有する。鍵盤楽器10は、電子鍵盤楽器として構成されるが、本発明の蓋開閉構造は、アコ−スティックの鍵盤楽器や、脚部付きの鍵盤楽器にも適用可能である。
鍵盤楽器10の筐体は、主に、図1、図2等に示す棚板11、天板12及び背板13と、さらに図3(b)に示す側板部15(15L、15R)、左前板部14L及び右前板部14Rとから構成される。図1、図2に示すように、筐体内において、棚板11の上には鍵フレーム16が配設され、鍵フレーム16に、それぞれ複数の白鍵及び黒鍵からなる鍵盤部KBが配設される。楽音発生等のための電気・電子部品の図示は省略されている。
本蓋開閉構造は、主に、蓋体30と、後述する回転体50(50L、50R)周りの構成要素と、筐体における左側板部15L、右側板部15Rとにおいて構成される。本蓋開閉構造は、左右対称であるので、左右対称の構成要素の左側/右側のものを区別するときは、それぞれ、符号「L」/「R」を付して説明する。また、以降、側板部15周りの構成については主に左側板部15L周りのものを説明するが、右側板部15R周りのものも同様に構成される。
蓋体30は、前後スライド式であり、全開時には、後蓋32と前蓋31とが上下に重なって、筐体後部に収容される構成となっている。ここで、図1(a)が、蓋体30を閉じた「閉蓋状態」を示し、図1(b)は開閉行程の途中の状態を示す。また、図2が、蓋体30を全開した「開蓋状態」を示す。
図3(a)、(b)に示すように、左側板部15Lは、棚板11、天板12及び背板13に固着され、一般の鍵盤楽器の側板乃至腕木に相当する。左側板部15Lは、木質材等によって一体的に構成され、前端に左前板部14Lが固着されている。左側板部15Lの外側面15aLが鍵盤楽器10の筐体の左外側面に相当し、左側板部15Lの内側面15bLが、鍵盤楽器10の筐体の左内側面に相当する。
図1(a)、(b)、図2、図3(b)に示すように、左側板部15Lの内側面15bLにおいて鍵盤部KBよりやや上方位置には、蓋体30の開閉時に前蓋31の前端部をスライド自在に支持する前蓋支持部20Lが前後方向に沿って突設されている。前蓋支持部20Lは、左側板部15Lに対して一体であるか別体であるかを問わない。前蓋支持部20Lの後半部は、開蓋行程後半において前蓋31がほぼ水平となるように、水平となっているが、前半部は前方にいくにつれて下方に傾斜している。
図1〜図3に示すように、左側板部15Lの内側面15bLには、ガイド溝穴19Lが前後方向に沿って形成されている。ガイド溝穴19Lは、鍵盤部KBよりも上方において、左側板部15Lの前半部の途中から後半部の途中にかけて設けられる。ガイド溝穴19Lは、主に前後方向中間部分が上方に凸となるように湾曲していて、後半部はほぼ水平であるが、前半部は前方にいくにつれて下方に傾斜している。
図1、図2、図3(b)に示すように、左側板部15Lの内側面15bLには、ガイド溝穴19Lの直上であってガイド溝穴19Lに平行に、突設部17Lが設けられる。突設部17Lは、左側板部15Lと一体でもよいし、別体のものを固着したものでもよい。突設部17Lの主に前半部は、上方乃至奏者側からガイド溝穴19Lを目隠しする機能を果たす。突設部17Lの主に後半部は、前半部よりも幅広となっていて、蓋体30の開閉時に後蓋32の後端部をスライド自在に支持する機能を果たす。
蓋体30については、次のように構成される。まず、前蓋31の後端部31a(図1(a)、(b)、図3(b)参照)の左右両端部からは、側方に向かってピン40(40L、40R)が突設されている。
図1、図2、図3(a)に示すように、後蓋32の左端部、右端部の各下側には、前後方向に沿って段差部32aが形成され、各段差部32aに、金属製等の係合部材34(34L、34R)が固着されている。係合部材34Lは、後蓋32の左端部の段差部32aから下方に垂下した下端が左方に水平に延び、その左端から下方に延びた部分が、前蓋31の左端に近接している(図3(a)参照)。上記下方に延びた部分には、係合溝34aLが前後方向に沿って形成されている。係合部材34R、係合溝34aR(図1(a)参照)及びその周りの構成は、係合部材34Lと左右対称で同様である。
そして、係合溝34a(34aL、34aR)をピン40L、40Rがそれぞれ貫通している。従って、ピン40L、40Rと係合溝34aL、34aRとの係合により、後蓋32と前蓋31とが完全分離してしまわないように常に係合する。
ピン40L、40Rは、ガイド溝穴19(19L、19R)(図3(b)参照)に嵌入されている。前蓋31を前後方向に移動させる際、ガイド溝穴19L、19Rはピン40L、40Rを摺動自在に支持して前蓋31のスライド移動をガイドする機能を果たす。それと共に、ガイド溝穴19は、ピン40及び係合溝34aを介して、後蓋32のスライド移動を間接的にガイドする機能をも果たす。
図3(a)、(b)に示すように、左側板部15Lの内側面15bLには、金属製等の軸部材57Lが固着等によって突設して設けられる。軸部材57Lの右端部には、軸部材57Lの軸心を中心に回転自在なように回転体50Lが配設されている。回転体50Lは、蓋体30の後方に位置する。回転体50Lは、いずれも円形の外周部を有する大車51Lと小車52Lとからなる。これら大車51L、小車52Lは互いに同心で且つ回転一体であればよく、一体に形成されていてもよい。外径は、大車51Lよりも小車52Lの方が小さい。大車51Lと小車52Lとの左右方向の位置関係は問わない。
一方、図1〜図3に示すように、前蓋31の後端部31a、後蓋32の後端部32bのそれぞれの左右両端部には、引張部材としてのワイヤ53(53L、53R)、ワイヤ54(54L、54R)の各一端(前端)が取り付けられて接続されている。ワイヤ53、54は、それぞれ、大車51、小車52に対して上側から架け回されている。ワイヤ53、54の、大車51(51L、51R)、小車52(52L、52R)の後部から下方に垂下した部分である各他端には、錘55(55L、55R)、錘56(56L、56R)が取り付けられている。
右側板部15R(図3(b)等参照)において、内側面15bR、外側面15aR、右前板部14R、前蓋支持部20R、ガイド溝穴19R及び突設部17Rについては、左側板部15Lにおける、内側面15bL、外側面15aL、左前板部14L、前蓋支持部20L、ガイド溝穴19L及び突設部17Lと左右対称に同様に構成される。また、回転体50R、軸部材57R、ワイヤ53R、54R及び錘55R、56Rについても、回転体50L、軸部材57L、ワイヤ53L、54L及び錘55L、56Lと左右対称に同様に構成される。従って、回転体50は、筐体の左側部近傍と右側部近傍とに1対が配設されることになる。
ところで、大車51、小車52の外周部とワイヤ53、54とは、両者間の滑り止めを施した構成によって、互いが係合する部分の摩擦が大きく作用するように構成されている。その結果、大車51、小車52が回転すると、それぞれの外周部の動きに応じた量だけワイヤ53、54が前後に変位するようになっている。このように、回転に応じた距離だけ前後に変位するように構成すれば、その構成は問わない。例えば、大車51、小車52の外周部はギヤとし、ワイヤ53、54についてはそのギヤに噛み合うチェーンとして構成してもよい。ワイヤ53、54については、引張力を伝えることができる素材で構成されればよく、紐のように圧縮力を受けると撓むものであってもよい。
前蓋31、後蓋32の開閉行程において、錘55、56は、常に大車51、小車52の後部から下方に垂下する。従って、錘55、56の自重により、大車51、小車52を介して、前蓋31、後蓋32が開蓋方向である後方に常に付勢力を受け、蓋体30全体としては常に一定の付勢力を受ける。錘55、56が、回転体50に対して図1の時計方向へのトルクを付与する「トルク発生手段」として機能する。
蓋体30の開閉操作に伴い、錘55、56が上下方向に可動するが、棚板11には錘55、56が通過するための穴11a(図1、図2参照)が設けられていて、可動範囲が鍵盤楽器10内に確保されている。大車51及び小車52は一体に回転するので、錘55と錘56との質量配分はあまり問題とならない。それぞれの質量により大車51及び小車52を介して回転体50の全体に対して与える図1の時計方向の回転モーメントが、前蓋31、後蓋32を開蓋方向に付勢する力の元となる。
後蓋32は、回転体50からの付勢力を受けないと仮定すれば、係合溝34aとピン40を介した係合による規制を除けば、前蓋31とは独立して前後に移動自在である。しかし、実際には回転体50からの付勢力を受けることから、前後方向の位置は、前蓋31、後蓋32共に、回転体50の回転位置で規定されることになる。
閉蓋状態では、ピン40が後蓋32の係合部材34の係合溝34aの前端にほぼ当接している(図1(a)参照)。開蓋状態では、ピン40が係合溝34aの後端にほぼ当接している(図2参照)。開蓋状態から閉蓋状態までの必要な移動量は、前蓋31の方が後蓋32よりも大きい。そのため、回転体50が回転することによる大車51、小車52の外周部の変位量の比を考慮して、大車51、小車52の各外径比が設定されている。すなわち、回転体50の回転によるワイヤ53の変位量とワイヤ54の変位量との比が、閉蓋状態から開蓋状態までの前蓋31の変位量と後蓋32の変位量との比に一致するように、大車51、小車52の各外径が設定されている。
上述したように、前蓋支持部20(20L、20R)、ガイド溝穴19は、共に、前方にいくにつれて前半部が下方に傾斜している。従って、前蓋31の前端部を持ち上げすぎないで、これら双方に支持させてスライド操作する場合を考えると、前蓋31は、閉蓋状態に近い位置にあるときほど、前蓋31の前部が下方に傾斜する、いわゆる前傾姿勢の度合いが強くなる。
このことは、後蓋32の関しても同様である。すなわち、ガイド溝穴19、突設部17(17L、17R)は共に、後蓋32が係合する範囲における前部が前方にいくにつれて下方に傾斜している。従って、後蓋32は、閉蓋状態に近い位置にあるときほど前傾姿勢の度合いが強くなる。
前蓋31、後蓋32は、各々、前傾姿勢の度合いが強いほど、自重によって閉蓋方向に付勢される度合いが高い。開蓋状態では、いずれも自重による閉蓋方向への付勢力はほとんどない。
一方、上述したように、錘55、56の自重により、回転体50を介して蓋体30全体は開蓋方向に常に一定の付勢力を受けている。本実施の形態では、閉蓋状態及びそれに近い状態においては、前蓋31、後蓋32の各自重による閉蓋方向への付勢力の和(蓋体30全体の自重による蓋体30全体に対する閉蓋方向への付勢力)の方が、錘55及び錘56の自重の和による蓋体30全体に対する開蓋方向への付勢力よりも強くなっている。
従って、閉蓋状態近くになると、前蓋31、後蓋32は閉蓋方向に移動しやすくなり、閉蓋状態にて安定する。一方、開蓋状態及びそれに近い状態においては、前蓋31、後蓋32の各自重による閉蓋方向への付勢力の和よりも、錘55及び錘56の自重の和による開蓋方向への付勢力の方が強くなっている。従って、開蓋状態近くになると、前蓋31、後蓋32は開蓋方向に移動しやすくなり、開蓋状態にて安定する。
本鍵盤楽器10の蓋開閉構造の主要部は次のようにして製造される。まず、蓋体30については、前蓋31にピン40、ワイヤ53の一端を取り付けると共に、後蓋32に係合部材34、ワイヤ54の一端を取り付け、ピン40が係合部材34の係合溝34aを貫通するように、前蓋31と後蓋32とを連結する。
一方、左側板部15L、右側板部15Rにおいては、ガイド溝穴19を機械加工や金型成形等によって形成すると共に、前蓋支持部20、突設部17を固着等によって設ける。さらに、回転体50を軸支した軸部材57(57L、57R)を固定する。
左側板部15L、右側板部15Rの前側から左前板部14L、右前板部14Rをネジや接着剤で固着する。左側板部15L、右側板部15Rは、左前板部14L、右前板部14Rが固着される前または後に、棚板11、天板12及び背板13に対してネジ等の固着具で固着する。
蓋体30の開閉動作は次のようになる。まず、閉蓋状態では、図1(a)に示すように、前蓋31と後蓋32とが前後に隣接して鍵盤部KBを上方から覆う。このとき、前蓋31の前端部は左前板部14L、右前板部14Rに支持される。前蓋31の後端部31aは、ピン40を介してガイド溝穴19によって支持され、後蓋32の前端部も、係合部材34、ピン40を介してガイド溝穴19に支持される。後蓋32の後端部は、突設部17の上に乗って、支持されている。
次に、前蓋31を操作して後方に押していくと、ピン40がガイド溝穴19内を後方に摺動する。その際、前蓋31の前端部は、持ち上げてもよいが、前蓋支持部20上をスライドさせていってもよい。錘55、56の自重により、蓋体30全体が開蓋方向に付勢力を受けているので、開閉操作初期から軽い力で前蓋31を動かすことができる。開蓋行程において、前蓋31と共に後蓋32が後方に移動していくが(図1(b)参照)、上述した大車51、小車52の外径比により、変位量は、後蓋32よりも前蓋31の方が大きい。ピン40は、後蓋32の係合部材34の係合溝34a内を、相対的に後方に摺動していく。
ピン40がガイド溝穴19の後端にだんだん近接していくと、やがて蓋体30の自重による閉蓋方向への付勢力よりも回転体50からの開蓋方向への付勢力が勝って、後方に押圧しなくても自然に開蓋方向に蓋体30が移動するようになる。
そして、ピン40が係合部材34の係合溝34aの後端にほぼ当接する頃、ちょうどピン40がガイド溝穴19の後端に当接する。ピン40がガイド溝穴19の後端に当接することで、前蓋31及び後蓋32の後方位置が規制され、開蓋状態となる(図2(a)、図3(a)参照)。前蓋31及び後蓋32は上下にほぼ平行に重なるので、筐体内にコンパクトに収容される。開蓋状態においては、突設部17によってガイド溝穴19が隠れるので、外観が悪化しないで済む。
次に、開蓋状態から閉蓋するためには、前蓋31を前方に引っ張る。閉蓋行程では、前蓋31及び後蓋32は開蓋行程とは逆の行程を辿る。ピン40がガイド溝穴19の前端にだんだん近接していくと、やがて蓋体30の自重による閉蓋方向への付勢力の方が回転体50からの開蓋方向への付勢力よりも勝って、前方に引っ張らなくても自然に閉蓋方向に蓋体30が移動するようになる。そして、ピン40が係合部材34の係合溝34aの前端にほぼ当接する頃、ちょうどピン40がガイド溝穴19の前端に当接する。そしてその時点で前蓋31及び後蓋32の前方位置が規制され、手を離せば閉蓋状態となる(図1(a)参照)。
本実施の形態によれば、まず、開蓋時には、分割構成の前蓋31及び後蓋32が重なって筐体後部に収容されるので、楽器筐体の省スペースを図ることができる。特に、分割構成でない蓋体を採用する鍵盤楽器に比し、筐体高さをあまり高くすることなく筐体の前後長を短くすることができる。また、錘55、56の自重により回転体50に付与されるトルクによって、前蓋31及び後蓋32が、各々開蓋方向への付勢力を受けるので、開蓋操作をアシストして軽くすることができる。さらに、回転体50の回転により、外径が異なる大車51、小車52の各外周部の動きに応じた量だけワイヤ53、54が前後に変位する。これにより、例えば、上記特許文献1(特開平8−263051号公報)のように、後蓋が、開閉行程の途中から前蓋に係合して連動移動し、前蓋の自重に後蓋の自重が加わる構成に比し、分割型の蓋体において開閉操作途中での急激な負荷変化を抑制することができる。
また、回転体50が回転することによるワイヤ53、54の変位量の比が、閉蓋状態から開蓋状態までの前蓋31と後蓋32との変位量の比に一致するので、閉蓋状態と開蓋状態の双方で、前蓋31及び後蓋32の位置を常に決まった正規の位置で合わせることができる。
さらに、回転体50は、筐体の左側部近傍と右側部近傍とに1対が配設されたので、前蓋31及び後蓋32に後方への安定した付勢力を与えると共に、楽器筐体内の左右方向中間部分に有効利用可能なスペースを確保することができる。
また、蓋体30全体に対する付勢力については、蓋体30の自重による閉蓋方向への付勢力と回転体50に付与されるトルクによる開蓋方向への付勢力とを比較すると、閉蓋状態では前者が強く、開蓋状態では後者が強い。これにより、回転体50にトルクを常に付与しつつも、閉蓋状態及び開蓋状態において、蓋体30をその状態に安定させることができる。
また、トルク発生手段は、ワイヤ53、54の垂下部に取り付けた錘55、56の自重によるので、簡単な構成で回転体50にトルクを付与することができる。
さらに、ガイド溝穴19が突設部17によって目隠しされるので、開蓋時の外観の悪化を抑制することができる。さらに、突設部17は、蓋体30の後蓋32の後端部を支持する機能を兼ねて一体に構成されるので、簡単な構成で済む。
なお、これら目隠し機能と支持機能の双方を果たすことに限れば、突設部17は、前半部と後半部とを分離した構成としてもよい。特に、目隠し機能を単独で考えた場合、開蓋状態において、ガイド溝穴19のうち蓋体30では隠れない前半部だけを目隠しできればよいので、突設部17を設ける領域や形状も、それに応じたものとすればよい。後蓋32の後端部の支持機能についても同様で、主にガイド溝穴19の後半部に対応する領域に設ければその機能は果たされる。
また、ピン40は、常に後蓋32の係合部材34の係合溝34a内にあるので、仮に、大車51、小車52とワイヤ53、54との間に滑りが生じてワイヤ53、54のいずれか一方のみに撓みが生じたとしても、前蓋31と後蓋32との前後方向の相対的位置のずれが、所定の範囲内に収まり、ばらばらになることがない。
ところで、本実施の形態では、回転体50に対して一方向へのトルクを付与するトルク発生手段として、錘55、56を例示したが、これに限るものでなく、各種の変形例が考えられる。
図4(a)〜(e)は、変形例のトルク発生手段を採用した回転体の模式図である。いずれも、左側板部15Lに設けられるものを示すが、右側板部15Rに設けられるものはこれと左右対称である。
まず、図4(a)、(b)に、第1変形例のトルク発生手段を採用した回転体の正面図、右側面図を示す。回転体50Lにおいて、大車51Lには、前蓋31に接続されたワイヤ53Lが係合している点は、図1〜図3の例と同様である。小車52Lには、後蓋32に接続されたワイヤ54Lが、小車52Lの図4(b)の時計方向への回転によって巻きとられるように巻回されている。ワイヤ53Lの垂下した部分に取り付けられる錘55Lが、図1〜図3の例でいえば、錘55Lと錘56Lを合わせた重さとなっていて、トルク発生手段として機能する。
このような構成によっても、図1〜図3の構成と同様の効果を奏することができる。なお、図4(a)、(b)の例とは逆に、大車51Lにワイヤ53Lを巻き付けると共に、小車52Lにワイヤ54Lを係合させ、ワイヤ54Lにだけ錘を取り付けるようにしてもよい。
図4(c)、(d)に、第2変形例のトルク発生手段を採用した回転体の正面図、右側面図を示す。この回転体50Lでは、大車51L、小車52Lに加えて、これらと同心で回転一体の第3車58が、軸部材57Lに軸支されている。大車51L、小車52Lには、前蓋31、後蓋32に接続されたワイヤ53L、54Lが、回転体50Lの図4(d)の時計方向への回転によって巻きとられるようにそれぞれ巻回されている。第3車58には、第3ワイヤ59が巻き付けられ、第3ワイヤ59の垂下した部分だけに錘60が取り付けられている。錘60が、図1〜図3の例でいえば、錘55Lと錘56Lを合わせた重さとなっていて、トルク発生手段として機能する。第3車58の外径や、左右方向における配置位置は問わない。このような構成によっても、図1〜図3の構成と同様の効果を奏することができる。
また、トルク発生手段は錘を用いたものでなくてもよい。図4(e)に、第3変形例のトルク発生手段を採用した回転体の右側面図を示す。この構成では、第2変形例(図4(c)、(d))に比し、第3車58に巻き付けられた第3ワイヤ59の垂下部に、錘60に代えて、筐体の固定的な部分に一端が固定されたバネ61の他端を取り付けた点が異なる。その他の構成は第2変形例と同様である。バネ61は、常に引張力を発揮するように配設される。
この構成では、図1〜図3の構成と同様の効果を奏することができる。厳密には、バネ61による付勢力が一定でなく、蓋体30が開蓋状態に近いときほど付勢力が強くなる。従って、ガイド溝穴19、前蓋支持部20、突設部17の各傾斜の形状とバネ61による引張力とを併せ考慮して、開蓋方向と閉蓋方向の付勢力のバランスを設計すればよい。なお、バネ61に代えて、ソレノイドコイルを採用してもよい。
また、トルク発生手段は、図5(a)に示すように、上下方向の可動を伴わない構成としてもよい。図5(a)に、第4変形例のトルク発生手段を採用した回転体の右側面図を示す。
この回転体50Lには、大車51L、小車52Lに加えて、これらと同心で且つ回転一体の回転軸部62が設けられている。一方、左側板部15Lには、出力軸63aを有するモータ63が埋設されている。そして、出力軸63aと回転軸部62とが、回転を伝達可能に連結されている。大車51L、小車52Lに対するワイヤ53L、54Lの配設(巻き付き)の態様は、第2変形例(図4(c)、(d))と同様である。モータ63の電源がオンされると、出力軸63aを介して回転体50Lが、第2変形例と同様にワイヤ53L、54Lを巻き取る方向に回転する。
この構成によれば、図1〜図3の例と同様の効果を奏するだけでなく、トルク発生のための機構を上下方向においてコンパクトに配設することができる。従って、錘55、56が可動するための上下方向のスペースを確保する必要がない。なお、この観点からは、トルクを発生させる出力軸を有するものであれば、モータ63に限られず、例えば、ゼンマイ等の機械的な機構を採用してもよい。
ところで、図5(a)に例示したような、電気的にトルクを発生させるトルク発生手段を採用した場合は、その電源のオンオフを切り替えるためのスイッチを鍵盤楽器10に設けるとよい。例えば、電源が、開蓋時にのみオンされ、閉蓋時にはオフされるようにすれば、閉蓋操作を重くしないで開蓋操作だけを軽くすることができる等、アシスト機能の自由度を高めることができる。これは、図4(e)の構成において、ソレノイドコイルを採用する場合にも適用できる。
上記スイッチを設ける構成を図5(b)、(c)に例示する。例えば、図5(b)に示すように、前板部14(14L、14R)等の、閉蓋状態において前蓋31に押圧されるような箇所に、第1スイッチ64を設ける。さらに、ガイド溝穴19の後端等の、開蓋状態においてピン40(あるいは前蓋31、後蓋32)に押圧されるような箇所に第2スイッチ65を設ける。
第1スイッチ64がオン(押圧)/オフされるのに伴って、トルク発生手段の電源がオフ/オンされる。一方、第2スイッチ65がオン(押圧)される度に、トルク発生手段の電源のオンオフの状態が反転する。
通常の開閉操作においては、閉蓋状態ではトルク発生手段の電源がオフとなっており、前蓋31を持ち上げて後方に移動させている間はトルク発生手段の電源がオンとなっていて、軽い力で開蓋できる。そして、開蓋状態になると、トルク発生手段の電源がオフに反転する。そのまま閉蓋操作を行えば、トルクがかからない状態で操作が行える。しかも、スイッチの操作を特に気にすることなく、閉蓋操作を重くしないで開蓋操作だけを軽くすることができる。
なお、前蓋31の前後方向の変位を把握し、前蓋31が開蓋方向に変位しているときにだけ、トルク発生手段の電源がオンとなるように構成してもよい。前蓋31の変位方向を把握する構成は、物理的なスイッチでもよいし、センサによるものであってもよい。
また、より構成を簡単にする観点からは、図5(c)に示すように、前蓋31の、開蓋捜査時に手を添えるような箇所の前側に、第3スイッチ66を設けてもよい。第3スイッチ66は、押圧されているときのみオンされ、離すとオフされる。そして、第3スイッチ66のオン/オフに連動して、トルク発生手段の電源がオン/オフされるように構成する。通常の開蓋操作時には、第3スイッチ66を押圧しながら前蓋31を後方に押せば、軽い力で操作できる。一方、閉蓋操作時には、第3スイッチ66を押圧しないように前蓋31を引っ張れば、トルクがかからない状態で操作が行える。
ところで、上記実施の形態において、前蓋31、後蓋32は、互いが常時係合することなく独立に支持されるように構成してもよい。また、前蓋31、後蓋32の積層の上下関係を逆にしてもよい。
例えば、図5(d)に蓋体30の変形例の模式図を示すように、後蓋32の前端部と後端部とに、それぞれピン40に相当するピン44、45を設けると共に、側板部15の内側面15bにおいてはガイド溝穴19の少し下に、ガイド溝穴19に相当するガイド溝穴46を設ける。そして、ピン44、45をガイド溝穴46に対して摺動自在に係合させることで、後蓋32が独自に前後にスライド自在となる。ピン40の構成は上記と同様である。
また、ワイヤ53、54がトラブルにより撓んだ場合を考慮して、前蓋31と後蓋32とが独立に支持される構成とした場合においても、上記実施の形態と同様に、図5(d)に示すように、前蓋31と後蓋32とが前後方向において所定の範囲で係合するようにしておいてもよい。すなわち、前蓋31の後部下部に係合部36を突設する。さらに、後蓋32の前端部上部と後端部上部とに、それぞれ被係合部37、38を突設する。そして、被係合部37、38間に係合部36が位置するように前蓋31及び後蓋32を配設する。
ここで、前蓋31と後蓋32との前後方向の係合に関して、上述した実施の形態と対比すれば、ピン40の役割を係合部36が果たし、係合部材34の係合溝34a(34aL、34aR)の前端、後端の役割を、被係合部37、38が果たすことになる。このような係合関係となる構成は、例示したものに限られず、各種考えられる。
なお、図5(d)のような構成において、前蓋31、後蓋32の積層の上下関係を図1〜図3に示すものと同じとする場合は、図5(e)に示すような構成とすればよい。この場合、係合部及び被係合部は、前蓋31、後蓋32の左右端位置ではなく、左右方向における中間位置に設ければ見えなくなるので、外観が悪化しなくて済む。
なお、回転体50の回転軸は、必ずしも左右方向に沿ったものでなくてもよく、回転体50から蓋体30までの間に滑車やリンク機構を介在させて、ワイヤ53、54を介して回転体50が蓋体30を引っ張るように構成できればよい。従って、蓋体30を引っ張るように構成できれば、回転体50の回転方向も問わない。
なお、前蓋31と後蓋32を前後方向に移動自在に支持する構成は、ラックギヤとピニオンギヤの組み合わせにより実現してもよい。
なお、上記した実施の形態において、蓋体30は、前蓋31及び後蓋32の2枚の分割構成であったが、これらに相当する連結されて開蓋時に積層される分割構成の2枚の蓋を有し、これら2枚の蓋が、トルクによって操作がアシストされる対象となるような構成であればよい。従って、これら2枚の蓋の前部または後部に、別の蓋が連結され、3枚以上となった構成であってもよい。