JP5280883B2 - 内周面に一対の段差を設けて鋳型厚み方向の偏流を抑制する浸漬ノズル - Google Patents
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Description
浸漬ノズル1は、図3に示すように、内径φ[mm]を有する有底円筒状であって、整流突起5と共に耐火物で一体形成される。浸漬ノズル1の内径φ[mm]は60〜100とされる。
吐出孔2は、図5に示すように一対で対向するように浸漬ノズル1の周壁に形成され、図4に示すように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって若干斜め下向きに傾斜し、図3に示すように浸漬ノズル1の内周面4においては丸みを帯びた矩形の縁8を有し、浸漬ノズル1の外周面7においても同様に丸みを帯びた矩形の縁9を有する(図4を併せて参照)。また、吐出孔2は、図5に示されるように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって緩やかに幅広となるように形成される。
<断面形状>図3に示すように、鋳型幅方向に対して垂直な断面において、整流突起5は略台形状であって、内周面4から浸漬ノズル1の軸心Cに向かって次第に窄まる形状である。即ち、整流突起5は、軸心C側下方へ向かって傾斜する平面としての突起上面11と、軸心C側上方へ向かって傾斜する平面としての突起下面12と、突起上面11と突起下面12を連結する突起内周面13と、を有する。図3に示す断面視で突起上面11及び突起下面12は水平に対して概ね30〜60度で傾斜する。上記の突起内周面13は平面であって、鋳型厚み方向に対して直交する関係にある。この突起内周面13は図4に示す断面視において鋳型幅方向に延在し、特に突起内周面13の下端線13d(整流突起5の下端部5d)は、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。同様に、突起内周面13の上端線13u(整流突起5の上端部5u)も、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。端的に言えば、本実施形態において整流突起5は、鋳型幅方向に延在するように形成される。
各試験は、鋳型と溶鋼に代えて水槽と水を採用した所謂水モデル試験である。各試験は、浸漬ノズル1の構造や水槽のサイズなどに細かな変更を加えながら実施した。浸漬ノズル1の構造や水槽のサイズなどの詳細な設定値は後述の表1を参照されたい。各試験に採用された浸漬ノズル1は、二つの観点から評価した。即ち、図8に示す鋳型厚み方向の偏流を評価する試験と、図9に示す水面流速を評価する試験である。
本試験においては、浸漬ノズル1に所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、100秒間、太丸で図示した地点A〜D(広面の流速が最も大きくなる位置、即ち、流速の差が最も顕著に現れる位置)における水の流速を電磁流速計(型番:KENEK VM−806H VMT2−200−04PL)を用いて0.1秒間隔で測定した。図8における数値の単位はmmであり、符号Wは水槽の幅(鋳型幅に相当する。)を、符号Dは水槽の厚み(鋳型厚みに相当する。)を夫々示す。そして、下記式(6)に従って鋳型厚み方向における偏流度TW[m/s]を求める。ただし、下記式(6)において、T1は任意の測定開始時点を意味し、ΔTは100秒であり、vX(t)はX地点における水の流速の測定結果(ただし、離散データである。)を意味する。
本試験においては、浸漬ノズルに所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、10分間、太丸で図示した地点E〜Fにおける水の流速を第一評価試験で用いたものと同じ電磁流速計を用いて1秒ごとに測定する。図9における数値の単位はmmであり、符号Wは水槽の幅(鋳型幅に相当する。)を、符号Dは水槽の厚み(鋳型厚みに相当する。)を夫々示す。地点Eにおける水の流速の測定結果(離散データである。)を10秒ごとに区分し、各区分における平均値を求め、60個の平均値のうち最大の平均値を選出する。地点Fについても同様とする。そして、地点Eにおいて選出した最大の平均値と、地点Fにおいて選出した最大の平均値と、のうち大きい方で定義される「水面流速vm[m/s]」を求め、この水面流速vm[m/s]が下記式(8)を満たすとき、該当する試験について、「○(パウダー巻き込みが発生する可能性が低い)」と評価し、満たさないとき、「×(パウダー巻き込みが発生する可能性が高い)」と評価することとする。下記式(8)における評価の閾値の根拠については、本明細書の末尾に添付する。
次に、各試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1に示す。下記表1において、列タイトル「W mm」は水槽のサイズであって、実機における鋳型幅に相当する。列タイトル「D mm」も水槽のサイズであって、実機における鋳型厚みに相当する。下記表1の水槽のサイズは、一般的なスラブ向けの鋳型を想定したものである。列タイトル「Air NL/min」は試験中に浸漬ノズルに導入する空気の流量を意味する。この空気は、図2に示される浸漬ノズルの上端近傍から吹き込んだ。列タイトル「SV開閉方向」とあるのは、スライドバルブの開閉方向を意味する。即ち、一般に、浸漬ノズル1の上端には、鋳型への溶鋼の流量を調整するためのスライドバルブが設けられており、このスライドバルブは、バルブをある特定の方向にスライドさせ、このスライドの開度を調整することで上記流量を調整できるようになっている。このバルブのスライド方向が鋳型厚み方向と一致する場合、列タイトル「SV開閉方向」において該当する箇所に「鋳型厚方向」と記載し、このバルブのスライド方向が鋳型幅方向と一致する場合、同様に、「鋳型幅方向」と記載した。列タイトル「整流段差形状」において、「直線型」とあるのは図5に相当し、「円弧型」とあるのは図7(a1)に相当し、「切欠き型」とあるのは図7(b1)に相当する。列タイトル「整流段差位置」において、「吐出孔の間」とあるのは、図5の平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に整流突起5を夫々配置したことを意味し、「吐出孔の上」とあるのは、図3の立面視において吐出孔2の縁8の吐出孔上端8uの上方の位置に整流突起5を夫々配置したことを意味する。列タイトル「数式(1)」などについては、各数式を参照されたい。なお、該当する数式を満足する場合を「○」とし、そうでない場合を「×」とした。列タイトル「総合評価」には、上記数式(7)及び(8)の両方が同時に満足されている場合を「○」とし、それ以外のすべてを「×」とした。なお、試験No.34では、他の特別な理由でこの総合評価の欄が「×」となっている。
(請求項1)
以上説明したように上記実施形態において、浸漬ノズル1は、以下のように構成される。即ち、浸漬ノズル1の内周面4であって、平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が夫々設けられる。各整流突起5の下端部5dは、立面視で鋳型幅方向に対して略平行である。下記式(1)〜(5)の条件を満足する。
以下、上記表1の結果を詳細に考察する。
試験No.1〜38と、試験No.39〜42、試験No.43〜46によれば、整流段差形状のバリエーションとして、図5に示す直線型に加え、図7(a1)に示す円弧型、図7(b1)に示す切欠き型も十分、有効であることが実証された。
試験No.14と、その他の試験と、の対比によれば、上記の整流突起5を吐出孔2の上方に配置すると、鋳型厚み方向の偏流を抑制できなかった。これは、整流突起5を吐出孔2の上方に配置すると、先ず、図1(c)に示す大きな単一の渦流の形成を許容することになるからだと考えられる。なお、実際に試験してはいないが、整流突起5が一対で設けられず片方だけしか設けられない場合は、もはや、一対の渦流Pの形成は期待できないだろう。また、試験No.15では、整流突起5を設けなかった。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c)の通りだった。
試験No.15〜26によれば、図5の平面視において整流突起5が過小であると、十分な偏流抑制効果が得られなかった。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c)の通りだろう。即ち、図6(a)に示す負圧域Fが十分には確保されなかったからだと考えられる。一方、図5の平面視において整流突起5が過大であると、水面流速vm[m/s]が過大となり、パウダー巻き込みが発生する可能性が高くなった。これは、図5の平面視において整流突起5が過大となったため、この平面視で特定できる浸漬ノズル1の流路断面積が小さくなって溶鋼の流速が上昇し、この結果、吐出流の流速が過大となったからだと考えられる。また、吐出流の流速が過大となったため、凝固シェルのコーナー部への入熱も同様に過大となったと推測できる。なお、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大であると、凝固シェルの成長が阻害され、凝固シェルの厚み不足に起因するブレークアウトが発生する可能性が高くなる。
試験No.27〜33によれば、d1/φが0.5に近いほど、偏流抑制効果が高いことが判る。これは、図6(a)に示すように、整流突起5と内側底面3との間に形成される負圧域Fがより正方形に近く、この負圧域Fが正方形に近ければ近いほど各渦流Pが発生し易く、また、発生した渦流Pが真円形に近く、更には、発生した渦流Pが型崩れし難いからだと考えられる。
試験No.27によれば、整流突起5の整流突起下端距離d1[mm]が吐出孔2の吐出孔下端8dを下回るほど過小であると、偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、一対の小径な渦流Pが浸漬ノズル1の内周面4によって出口を塞がれた状態となり、安定した吐出を実現できないからだと考えられる。また、試験No.33によれば、整流突起下端距離d1[mm]が吐出孔2の吐出孔上端8uを上回るほど過大であると、十分な偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、数式3を満たさないこととなるからだと考えられる。また、それでも数式3を満たすようにすると、必然的に吐出孔の面積が過小となって吐出流の流速が過大となり、凝固シェルのコーナー部への入熱も同様に過大となるだろう。
試験No.34によれば、図3に示す整流突起5の断面を正方形に近づけた場合、試験の評価は一応は良好だったが、実機の鋳造で使用に耐え得る十分な強度を確保することはできない。この意味で、試験No.34の総合評価は×としている。また、試験No.38によれば、図3に示す整流突起5の断面を扁平形状とすると、十分な偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、図10に示すように、整流突起5の突起上面11との衝突で剥離した溶鋼の流れが整流突起5の突起内周面13上に再付着し、この結果、整流突起5の下方に、十分な大きさの負圧域Fが形成されなかったからだと考えられる。なお、『機械工学便覧 基礎編α4 流体工学 初版P.47』には、『流れ方向の長さがBで厚さがHである角柱において、・・・、B/H>6.0では、前縁角から剥離した剪断層は側壁上で再付着し・・・』なる記載がある。この記載は、上記実施形態において数式(5)の右辺に6.0を採用することとした補強的な裏付けとなっている。
(凝固遅れ度の定義)
凝固遅れ度は凝固遅れの程度の指標である。図11を参照されたい。図11は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第一説明図(凝固遅れ度の定義)である。この凝固遅れ度Cg[%]は鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断して得られる切断面に視認し得る負偏析線に基づき鋳片のコーナー部夫々において観念でき、凝固遅れ度Cg[%]は下記式(9)に基づいて求められる。下記式(9)中、A[mm]は狭面から5[cm]離れた地点における負偏析線と広面との間の距離であり、B[mm]は負偏析線が広面に最も接近する地点における負偏析線と広面との間の距離である。本明細書中において「凝固遅れ度Cg[%]」とは、原則として、一の切断面から観念できる4つの凝固遅れ度Cg[%]のうち最大のものを意味するものとする。
次に、図12を参照されたい。図12は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第二説明図(ブレークアウトの実績)である。即ち、100チャージ分、連続鋳造(種々の鋳造条件は完全には統一していない。)を実施し、各チャージごとに、(1)任意に1本の1次切断スラブを選択し、この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡があった場合は、当該痕跡を含むように鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定し、(2)この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡がなかった場合は、任意に選択した箇所で鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定した。そして、本図の横軸に、凝固遅れ度Cg[%]ごとに分類し、各凝固遅れ度Cg[%]に属するチャージのうち湯漏れの痕跡があったチャージの回数の割合を縦軸に対応させて描いた。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]が40未満となるように操業すれば、鋳型直下B.O.の発生を防止できることが判る。
次に、図13を参照されたい。図13は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第三説明図(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)である。即ち、ある形状の浸漬ノズルをアクリルで作成し、水モデル試験にて、この浸漬ノズルの上述した偏流度TW[m/s]を求めた。次に、この浸漬ノズルと同じ形状の浸漬ノズルを耐火物で作成し、作成した浸漬ノズルを用いて、実機試験にて概ね100チャージ分、操業した。その際の鋳造条件は、鋳型幅D[mm]:800〜2100、鋳型厚みD[mm]:230〜280、鋳造速度Vc[m/min]:1.0〜2.2とした。そして、各チャージに対応する鋳片をボトム側から25mの地点で切断し、上記の凝固遅れ度Cg[%]を夫々測定した。これで、ある形状の浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]と、この浸漬ノズルに対応する凝固遅れ度Cg[%]の100サンプルと、を取得したこととなる。上記の試験を、形状が異なる3つの浸漬ノズルを用いて同様に実施した。そして、図13に示されるように、浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]を横軸にとり、凝固遅れ度Cg[%]の平均値に3σを加えた値を縦軸にとって、グラフ化した。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]を40未満とするには、水モデル試験における偏流度TW[m/s]を0.35以下とする必要があることが判る。
例えば特開2003−80353号公報に記載されているように、メニスカス流速が0.6m/sを超えるとパウダー巻き込みが発生する可能性が高くなる。
2 吐出孔
3 内側底面
5 整流突起
Claims (1)
- タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、
前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する吐出孔が、前記浸漬ノズルの内側底面から上方へ離れた位置に、形成され、
前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の下端である吐出孔下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔下端距離hd[mm]が20〜40であり、
前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の上端である吐出孔上端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔上端距離hu[mm]が50〜120であり、
前記浸漬ノズルの内径φ[mm]が60〜100である、
浸漬ノズルにおいて、
前記浸漬ノズルの内周面であって、平面視で前記一対の吐出孔の間に挟まれる位置に、整流突起が夫々設けられ、
各整流突起の下端部は、立面視で鋳型幅方向に対して略平行であり、
・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して垂直な方向において特定する突起水平厚みA[mm]と、
・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して平行な方向において特定する突起水平長さB[mm]と、
・各整流突起の下端である整流突起下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]と、
・各整流突起の上端である整流突起上端と上記の整流突起下端との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]と、
は、下記式(1)〜(5)の条件を満足する、
ことを特徴とする浸漬ノズル。
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