JP5344948B2 - 湾曲型連続鋳造機向けの浸漬ノズル - Google Patents

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Description

本発明は、湾曲型連続鋳造機向けの浸漬ノズルに関する。
湾曲型連続鋳造機を用いて連続鋳造するに際し、凝固シェルの湾曲内側への介在物の捕捉・集積を抑制する技術として、例えば、特許文献1(特開昭51−138526号公報)や特許文献2(実開平3−47645号公報)は、浸漬ノズルの吐出孔の向きを平面視で湾曲内側に方向付けする構成を開示する。このような方向付けによれば吐出流が湾曲内側に方向付けされ、例えば特許文献1の第5図や特許文献2の第2図のように、吐出流の流動パターンは、湾曲内側では下降流となり湾曲外側では上昇流となり、もって、凝固シェルの湾曲内側への介在物の捕捉・集積を抑制できるようになっている。
しかし、上記特許文献1等に開示の技術を採用するには、吐出孔の流路断面積を小さく設定しなければならない。というのは、仮に上記技術を利用するに際し吐出孔の流路断面積を大きくとると、浸漬ノズルの内側底面近傍で形成される単一の大径な渦流の旋回方向が吐出孔の向きよりも吐出流の向きに対して支配的となり、また、この大径の渦流の旋回方向はランダムに切り替わるものだから、結局のところ、吐出流が湾曲内側を向くか湾曲外側を向くかは定かでなくなるからである。
このように上記特許文献1等に開示の技術は、吐出孔の流路断面積を小さく設定しなければならないという技術的制約があるので、スループット(吐出流の単位時間あたりの流量)が比較的低く設定された連続鋳造を実施するには問題なかったが、スループットが比較的高く設定される連続鋳造を実施する昨今の操業では大きな問題となる。というのは、吐出孔の流路断面積が小さく、スループットが高いと、必然的に吐出流の流速が高くなり、凝固シェルの抜熱し難いコーナー部への入熱が過大となって、ブレークアウトを引き起こすような著しい凝固遅れを招く虞があるからである。また、吐出孔の流路断面積が小さいと詰まりも発生し易い。
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、上記の技術的制約をブレークスルーするものであって、即ち、湾曲内側では下降流となり湾曲外側では上昇流となるような吐出流の流動パターンを実現しつつ、吐出孔の流路断面積を大きく設定することが可能な、全く新規な技術を提供することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本願発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、本願発明の発明者は、鋭意研究の末、浸漬ノズルの内側底面近傍で形成される単一の大径な渦流の旋回方向を固定する技術を見出し、以下の発明を完成させた。
本願発明の観点によれば、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、湾曲型連続鋳造機向けであり、前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する吐出孔が形成される、浸漬ノズルは、以下のように構成される。即ち、前記浸漬ノズルの湾曲外側の内周面であって、平面視で前記一対の吐出孔の間に挟まれる位置に、整流突起が設けられる。・前記浸漬ノズルの内径φ[mm]と、・前記整流突起の、平面視で鋳型厚み方向において特定する突起水平厚みA[mm]と、・前記整流突起の、平面視で鋳型幅方向において特定する突起水平長さB[mm]と、・前記整流突起の下端である整流突起下端と、前記浸漬ノズルの内側底面との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]と、・前記整流突起の上端である整流突起上端と、上記の整流突起下端との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]と、は、下記式(1)〜(4)の条件を満足する。
以下、本願発明に係る浸漬ノズルによる効果を、上記特許文献1等の浸漬ノズルと対比させながら説明する。
<特許文献1等の浸漬ノズル>図1(a)は上記特許文献1に開示の浸漬ノズルであって、吐出孔の流路断面積を比較的大きく設定したものの斜視図であり、図1(b)は図1(a)の一部切欠き斜視図であり、図1(c)〜(d)は図1(b)に類似する図であって、溶鋼の流れをイメージした図である。図1に示す浸漬ノズルでは、内側底面に衝突した溶鋼は、内側底面と内周面によって形成される所謂湯溜り部にて、図1(c2)に示すように鋳型幅方向を軸とする大きな単一の渦流を形成する。吐出孔の流路断面積が比較的大きく設定される場合は、この渦流が型崩れすることなく吐出孔の外方へと連続するので、鋳型厚み方向に偏りを持った吐出流が形成される。ところで、この大きな単一の渦流の旋回方向は、図1(c2)に示すように上記内側底面から湾曲内側へ向かって上昇する反時計回りとなる場合と、図1(d2)に示すように上記内側底面から湾曲外側へ向かって上昇する時計回りとなる場合と、の二つの場合があり、その旋回方向はランダムに切り替わる。従って、図1(a2)に示すように吐出孔の流路断面積を比較的大きく設定すると、例え図1(a1)に示すように吐出孔の向きを湾曲内側へ大きく方向付けしたとしても、図1(c1)及び(d1)に示すように吐出流が湾曲外側を向く(図12(a)参照)か湾曲内側(図12(b)参照)を向くかは定かではない。
<本願発明に係る浸漬ノズル>図2(a)は本願発明に係る浸漬ノズルの斜視図であり、図2(b)は図2(a)の一部切欠き斜視図であり、図2(c)は図2(b)に類似する図であって、溶鋼の流れをイメージした図である。図2に示す本願発明の浸漬ノズルでは、溶鋼は、内側底面に衝突する前に、湾曲外側に設けられた整流突起と衝突する。そして、この衝突によって浸漬ノズル内の溶鋼の流れは一旦、湾曲内側寄りに集約される。このとき、前記整流突起と内側底面との間に大きな負圧域が形成され、上記溶鋼の流れはこの負圧域に引き寄せられるかたちで、図2(c2)に示すように鋳型幅方向を軸とし、内側底面から湾曲外側へ向かって上昇する時計回りの、単一の大径な渦流を形成する。このように、本願発明に係る浸漬ノズルでは、上記の単一の大径な渦流の旋回方向が上記の整流突起によって固定されるので、吐出流の向きは湾曲内側に固定され、図12(b)に示すような、湾曲内側では下降流となり湾曲外側では上昇流となるような吐出流の流動パターンが安定して実現される。また、図2に開示の浸漬ノズルは上記の単一の大径な渦流を積極利用するものであるから、もはや上記の流動パターンを実現するために吐出孔の流路断面積を小さく設定しなければならないという技術的制約から解放され、従って、図12(b)に示すような上記の流動パターンを実現しつつ、吐出孔の流路断面積を大きく設定することが可能となる。
以上に説明した本願発明に係る浸漬ノズルを採用すれば、凝固シェルの湾曲内側への介在物の捕捉・集積を抑制できることはもちろん、高スループットの操業において、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大となるのを回避することが可能となる。
なお、図2に開示の浸漬ノズルは本願発明を具現化した一例であり、本願発明の技術的範囲は図2によっては何ら限定されるものではない。
特許文献1に開示の浸漬ノズルであって、吐出孔の流路断面積を比較的大きく設定したものの斜視図 本願発明に係る浸漬ノズルの斜視図 図5の3−3線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの立面断面図 図5の4−4線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの立面断面図 図4の5−5線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの水平断面図 本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルによって実現される溶鋼の流れをイメージした図 整流突起の変形例を示す図 吐出孔の変形例を示す図 技術的効果の確認試験の試験方法に関する説明図 整流突起による流体の剥離現象と、再付着の可能性について説明するための図 湾曲内側への吐出角度と、介在物量と、の関係を示すグラフ 湾曲型連続鋳造機の全体図
周知の通り、連続鋳造機の鋳造経路に着目すると、湾曲型連続鋳造機と垂直曲げ型連続鋳造機なるものがある。前者は、鋳型から鋳造経路に沿って、円弧経路部と矯正経路部、水平経路部を有するものであり、後者は、上記円弧経路部の上流に垂直経路部を設け、溶鋼中の介在物浮上を図ったものである。また、連続鋳造機の鋳造する鋳片の断面形状に着目すると、断面形状のアスペクト比が2以上であるスラブと2以下のブルーム、更に、断面形状が正方形であるビレットなるものがある。本願発明の適用対象は、湾曲型連続鋳造機におけるスラブ又はブルームの連続鋳造で用いられる浸漬ノズルに限られる。以下、本明細書では、一例として、本願発明を、湾曲型連続鋳造機におけるスラブの連続鋳造で用いられる浸漬ノズルに適用した例を説明する。
以下、図面を参照しつつ、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの構成を説明する。図2に示される浸漬ノズル1は、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供されるものであって、有底円筒状に形成される。この浸漬ノズル1の周壁には、一対の対向する吐出孔2が、浸漬ノズル1の内側底面3から若干上方へ離れた位置に、形成される。そして、本実施形態に係る浸漬ノズル1の湾曲外側の内周面4であって、平面視で前記一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が設けられる。ここで、浸漬ノズル1の吐出孔2から吐出される溶鋼の吐出流の向きと、鋳型幅方向及び鋳型厚み方向は技術的に密接に関連するので、各図には極力、鋳型幅方向と鋳型厚み方向を図示した。図2に示すように浸漬ノズル1は、吐出孔2の形成方向6が鋳型幅方向と一致するように鋳型内に配される。各図には極力、鋳型幅方向及び鋳型厚み方向の何れにも直交する関係にある浸漬ノズル1の軸心方向も併せて図示した。以下、上記の浸漬ノズル1の構成を詳細に説明する。
(浸漬ノズル1)
浸漬ノズル1は、図3に示すように、内径φ[mm]を有する有底円筒状であって、整流突起5と共に耐火物で一体形成される。浸漬ノズル1の内径φ[mm]は例えば、60〜100とされる。
(吐出孔2)
吐出孔2は、図5に示すように一対で対向するように浸漬ノズル1の周壁に形成され、図4に示すように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって若干斜め下向きに傾斜し、図3に示すように浸漬ノズル1の内周面4においては丸みを帯びた矩形の縁8を有し、浸漬ノズル1の外周面7においても同様に丸みを帯びた矩形の縁9を有する(図4を併せて参照)。また、吐出孔2の形成方向6は、図5の平面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。また、吐出孔2は、図5に示されるように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって緩やかに幅広となるように形成される。
図3に示すように、浸漬ノズル1の内周面4における吐出孔2の縁8の下端である吐出孔下端8dと内側底面3との間の垂直方向における距離である吐出孔下端距離hd[mm]は例えば、20〜40とされる。同様に、上記の縁8の上端である吐出孔上端8uと内側底面3との間の垂直方向における距離である吐出孔上端距離hu[mm]は例えば、50〜120とされる。また、図3に示す立面視において、浸漬ノズル1の内周面4における吐出孔2の縁8を投影することで二次元的に特定できる、吐出孔2の流路断面積は、高スループットの操業のため、直径が70〜110[mm]の円の面積相当となっている。具体的には、図3に示す立面視において、浸漬ノズル1の内周面4における吐出孔2の縁8を投影することで二次元的に特定できる、吐出孔2の流路幅Wi[mm]及び流路高さHi[mm]は、夫々、50〜95、80〜100とされる。そして、図3において内側底面3と吐出孔下端8dと内周面4によって囲まれる空間は、一般に湯溜り部10と称され、この湯溜り部10は、主として鋳造開始時の溶鋼の飛び散りを防止する機能を発揮するものである。図4に示す立面視で吐出孔2の内底面2aが水平と成す角度θである下向き吐出角θ[deg.]は概ね10〜55とされる。
(整流突起5)
<断面形状>図3に示すように、鋳型幅方向に対して垂直な断面において、整流突起5は略台形状であって、内周面4から浸漬ノズル1の軸心Cに向かって次第に窄まる形状である。即ち、整流突起5は、軸心C側下方へ向かって傾斜する平面としての突起上面11と、軸心C側上方へ向かって傾斜する平面としての突起下面12と、突起上面11と突起下面12を連結する突起内周面13と、を有する。図3に示す断面視で突起上面11及び突起下面12は水平に対して概ね30〜60度で傾斜する。上記の突起内周面13は平面であって、鋳型厚み方向に対して直交する関係にある。この突起内周面13は図4に示す断面視において鋳型幅方向に延在し、特に突起内周面13の下端線13d(整流突起5の下端部5d)は、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。同様に、突起内周面13の上端線13u(整流突起5の上端部5u)も、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。端的に言えば、本実施形態において整流突起5は、鋳型幅方向に延在するように形成される。
<突起垂直厚み>図4に示す符号d2は、上記の上端線13u(整流突起上端)と下端線13d(整流突起下端)との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]である。即ち、整流突起5の突起垂直厚みd2[mm]は、突起内周面13に着目して特定する。
<整流突起下端距離>図4に示す符号d1は、上記の下端線13dと内側底面3との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]である。即ち、整流突起5の整流突起下端距離d1[mm]は、突起内周面13と内側底面3に着目して特定する。
<突起水平厚み>図5に示す符号Aは、整流突起5の、図5の平面視で鋳型厚み方向(吐出孔2の形成方向6に対して垂直な方向)において特定する突起水平厚みA[mm]である。具体的には、突起水平厚みA[mm]は、図5の平面視で鋳型幅方向に対して垂直であり、浸漬ノズル1の軸心Cを通る直線Eと整流突起5との重複距離として特定される。
<突起水平長さ>図5に示す符号Bは、整流突起5の、図5の平面視で鋳型幅方向(吐出孔2の形成方向6に対して平行な方向)において特定する突起水平長さB[mm]である。具体的には、突起水平長さB[mm]は、図5において破線と実線で特定される整流突起5の、鋳型幅方向における最大長さそのものとして特定される。
以上の形状をした整流突起5は、更に、下記式(1)〜(4)の条件を満足する。
以上に、本実施形態に係る浸漬ノズル1の構成を説明した。なお、強度や溶損などの観点から、面と面は鈍角で交差するものとし、面と面の交差する部位には適度な丸みを付すのが好ましい。ただし、丸みを付すことで上記各寸法が不明瞭となった場合は、丸みが付されていない場合を想定したときに特定できる寸法を代わりに採用するものとする。
次に、図6に基づいて、本実施形態に係る浸漬ノズル1の作用を説明する。本実施形態に係る浸漬ノズル1では、図6(a)に示すように浸漬ノズル1の上端から下端へ向かって流れてきた溶鋼は、内側底面3に衝突する前に、湾曲外側に設けられた整流突起5と衝突する。そして、この衝突によって、浸漬ノズル1内の溶鋼の流れは一旦、湾曲内側寄りに集約される。このとき、整流突起5と内側底面3との間に大きな負圧域Fが形成され、上記溶鋼の流れはこの負圧域Fに引き寄せられるかたちで、図6(b)に示すように鋳型幅方向を軸とし、内側底面3から湾曲外側へ向かって上昇する時計回りの、単一の大径な渦流Pを形成する。このように、本実施形態に係る浸漬ノズル1では、上記の単一の大径な渦流Pの旋回方向が上記の整流突起5によって固定されるので、吐出流の向きは湾曲内側に固定され、図12(b)に示すような、湾曲内側では下降流となり湾曲外側では上昇流となるような吐出流の流動パターンが安定して実現される。また、図2に開示の浸漬ノズル1は上記の単一の大径な渦流Pを積極利用するものであるから、もはや上記の流動パターンを実現するために吐出孔2の流路断面積を小さく設定しなければならないという技術的制約から解放され、従って、図12(b)に示すような上記の流動パターンを実現しつつ、吐出孔2の流路断面積を大きく設定することが可能となる。
従って、上記の浸漬ノズル1を採用すれば、凝固シェルの湾曲内側への介在物の捕捉・集積を抑制できることはもちろん、高スループットの操業において、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大となるのを回避することが可能となる。
以上に本願発明の好適な実施形態を説明したが、上記の整流突起5や吐出孔2は、以下のように変更することができる。
即ち、図7(a1)に示す平面視で、整流突起5の突起内周面13は、内周面4と同じように円弧を描くように形成されてもよい。突起水平厚みA[mm]や突起水平長さB[mm]、整流突起下端距離d1[mm]、突起垂直厚みd2[mm]の測定基準については、図7(a1)及び(a2)に示すように、上記実施形態と全く同様である。
また、図7(b1)に示す平面視で、上記実施形態に係る整流突起5は、鋳型幅方向における端が斜めにカットされて形成されてもよい。突起水平厚みA[mm]や突起水平長さB[mm]、整流突起下端距離d1[mm]、突起垂直厚みd2[mm]の測定基準については、図7(b1)及び(b2)に示すように、上記実施形態と全く同様である。
また、図8(c1)に示す平面視で、上記実施形態に係る吐出孔2は、内周面4から外周面7にかけて、一定の流路幅に形成されてもよい。
以下、上記実施形態に係る浸漬ノズル1の技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した各数値範囲などは、下記の試験により合理的に裏付けられている。
≪試験:試験概要≫
各試験は、鋳型と溶鋼に代えて水槽と水を採用した所謂水モデル試験である。各試験は、浸漬ノズル1の構造や水槽のサイズなどに細かな変更を加えながら実施した。
≪試験:試験方法:図9≫
本試験においては、浸漬ノズル1に所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、100秒間、浸漬ノズル1からの吐出流の様子を図9(a)の平面視で市販のビデオカメラを用いて撮影し記録した。このとき、浸漬ノズル1内を流れる水に対して空気を含ませることで、上記吐出流の様子を可視化した。そして、このときの映像を適宜の画像処理を踏まえて解析することで、上記100秒のうちどれくらいの時間、吐出流の向きが湾曲内側へ十分に方向付けされていたかを調査した。この調査の結果、吐出流の向きが湾曲内側へ十分に方向付けされていた時間、具体的には湾曲内側への方向付けを正とする吐出流の吐出角α[deg.]が5以上であった時間を、上記100秒で除した値としての内側吐出時間率Rを求めた。そして、この内側吐出時間率Rが略100%であったとき、その浸漬ノズル1は、吐出流の向きを湾曲内側へ十分に方向付けできるとして「○」と評価し、そうでない場合を「×」と評価した。なお、図9における数値の単位はmmであり、符号Wは水槽の幅(鋳型幅に相当する。)を、符号Dは水槽の厚み(鋳型厚みに相当する。)を夫々示す。また、吐出流の吐出角α[deg.]の閾値として5を採用した根拠は、本願明細書の末尾に記載する。
≪試験:個別の試験条件及び試験結果≫
次に、各試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1に示す。下記表1において、列タイトル「W mm」は水槽のサイズであって、実機における鋳型幅に相当する。列タイトル「D mm」も水槽のサイズであって、実機における鋳型厚みに相当する。下記表1の水槽のサイズは、一般的なスラブ向けの鋳型を想定したものである。列タイトル「Air NL/min」は試験中に浸漬ノズルに導入する空気の流量を意味する。この空気は、図2に示される浸漬ノズルの上端近傍から吹き込んだ。列タイトル「SV開閉方向」とあるのは、スライドバルブの開閉方向を意味する。即ち、一般に、浸漬ノズル1の上端には、鋳型への溶鋼の流量を調整するためのスライドバルブが設けられており、このスライドバルブは、バルブをある特定の方向にスライドさせ、このスライドの開度を調整することで上記流量を調整できるようになっている。このバルブのスライド方向が鋳型厚み方向と一致する場合、列タイトル「SV開閉方向」において該当する箇所に「鋳型厚方向」と記載し、このバルブのスライド方向が鋳型幅方向と一致する場合、同様に、「鋳型幅方向」と記載した。列タイトル「吐出孔形状」において、「ラッパ」とあるのは図5に相当し、「平行」とあるのは図8(c1)に相当する。列タイトル「S mm」とあるのは、図3に示す立面視において、浸漬ノズル1の内周面4における吐出孔2の縁8を投影することで二次元的に特定できる吐出孔2の流路断面積を意味し、この流路断面積を同一の面積を有する円の直径で表現した場合のその直径[mm]を記載した。列タイトル「整流段差位置」において、「外側」とあるのは、図5の平面視で、湾曲外側に整流突起5を配置したことを意味し、「内側」とあるのは、図5の平面視で、湾曲内側に整流突起5を配置したことを意味する。列タイトル「数式(1)」などについては、各数式を参照されたい。なお、該当する数式を満足する場合を「○」とし、そうでない場合を「×」とした。列タイトル「R %」は、上記の内側吐出時間率R[%]を意味する。参考までに、列タイトル「Ave(α) deg.」欄には、吐出角α[deg.]の平均値を記載した。列タイトル「総合評価」には、上記内側吐出時間率Rの基づく評価の結果を記載した。なお、試験No.6、11、25、30、44、49では、他の特別な理由でこの総合評価の欄が「×」となっている。
(まとめ)
(請求項1)
以上説明したように上記実施形態において、浸漬ノズル1は、以下のように構成される。即ち、浸漬ノズル1の湾曲外側の内周面4であって、平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が設けられる。下記式(1)〜(4)の条件を満足する。
以上の構成によれば、上記の単一の大径な渦流Pの旋回方向が上記の整流突起5によって固定されるので、吐出流の向きは湾曲内側に固定され、図12(b)に示すような、湾曲内側では下降流となり湾曲外側では上昇流となるような吐出流の流動パターンが安定して実現される。また、図2に開示の浸漬ノズル1は上記の単一の大径な渦流Pを積極利用するものであるから、もはや上記の流動パターンを実現するために吐出孔2の流路断面積を小さく設定しなければならないという技術的制約から解放され、従って、図12(b)に示すような上記の流動パターンを実現しつつ、吐出孔2の流路断面積を大きく設定することが可能となる。
上記実施形態に係る浸漬ノズル1を採用すれば、凝固シェルの湾曲内側への介在物の捕捉・集積を抑制できることはもちろん、高スループットの操業において、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大となるのを回避することが可能となる。
(考察)
以下、上記表1の結果を詳細に考察する。
(吐出孔形状)
試験No.1〜57によれば、吐出孔形状のバリエーションとして、図5に示すラッパ型に加え、図8(c1)に示す平行型も十分、有効であることが実証された。
(吐出孔の流路断面積)
試験No.1〜57によれば、吐出流の向きを湾曲内側に方向付けしつつ、吐出孔2の流路断面積を特許文献1等と比較して大きく設定することが可能であることが示された。
(整流段差位置)
試験No.1、20、39と、その他の試験と、の対比によれば、上記の整流突起5を湾曲内側に配置するか湾曲外側に配置するかということと、吐出流の向きが湾曲内側に方向付けされるか湾曲外側に方向付けされるかということと、が密接に一対一で対応していることが判る。なお、実際に試験してはいないが、整流突起5を湾曲外側でも湾曲内側でもない他の位置へ配置した場合は、理屈で考えると図6に示すような渦流Pは形成されないだろう。また、試験No.2、21、40では、整流突起5を設けなかった。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c2)及び(d2)の行き来だった。
(数式1、数式2)
試験No.2〜11、21〜30、40〜49によれば、図5の平面視において整流突起5が過小であると、内側吐出時間率Rに関する評価が良好ではなかったことが判る。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c2)及び(d2)の行き来だっただろう。即ち、図6(a)に示す負圧域Fが十分には確保されなかったからだと考えられる。
また、試験No.6、25、44のように図5の平面視において整流突起5の厚みが過大であると、内側吐出時間率Rに関する評価は良好ではあるものの、熱衝撃に弱くなり、実際に使用するにあたって十分な強度を確保することが難しい。従って、これらの試験No.における総合評価は「×」とした。
また、試験No.11、30、49のように図5の平面視において整流突起5の幅が過大であると、内側吐出時間率Rに関する評価は良好ではあるものの、段差位置の方向性がなくなり(特に、図7(a1)のケースで、B/φ=1.0の場合は完全に内周面4に沿った段差となってしまい、方向性が完全に失われる。)、渦流Pの発生は不安定になると考えられる。また、浸漬ノズル1の平面視で特定できる流路断面積が小さくなるので、浸漬ノズル1内の流速が増大し、流速が大きいまま吐出孔2から吐出されるので、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大になりかねない。従って、これらの試験No.における総合評価は「×」とした。
(数式3)
試験No.12〜15、31〜34、50〜53によれば、d1/φが1.0に近いほど内側吐出時間率Rに関する評価が良好であることが判る。これは、d1/φが1.0に近いほど、図6(a)に示すように、整流突起5と内側底面3と内周面4に囲まれる領域が一層正方形に近づき、この領域が正方形に近ければ近いほど渦流Pが発生し易く、また、発生した渦流Pが真円形に近く、更には、発生した渦流Pが型崩れし難いからだと考えられる。
(数式4)
試験No.16、35、54に係る整流突起5の断面形状では、実機の鋳造で使用に耐え得る十分な強度を確保することはできない。この意味で、いずれにせよ、これらの試験No.の総合評価は×となる。また、試験No.19、38、57によれば、図3に示す整流突起5の断面形状を扁平形状とすると、内側吐出時間率Rに関する評価が良好ではないことが判る。これは、図10に示すように、整流突起5の突起上面11との衝突で剥離した溶鋼の流れが整流突起5の突起内周面13上に再付着し、この結果、整流突起5の下方に、十分な大きさの負圧域Fが形成されなかったからだと考えられる。なお、『機械工学便覧 基礎編α4 流体工学 初版P.47』には、『流れ方向の長さがBで厚さがHである角柱において、・・・、B/H>6.0では、前縁角から剥離した剪断層は側壁上で再付着し・・・』なる記載がある。この記載は、上記実施形態において数式(4)の右辺に6.0を採用することとした補強的な裏付けとなっている。
なお、上記式(1)〜(4)において、比を用いて表現してるのは、以下の理由による。即ち、一般的な連続鋳造において、浸漬ノズル1の管内や湯溜り部10は十分に乱流場となっており、浸漬ノズル1の内側の形状や、浸漬ノズル1の内側における溶鋼の流れには相似則が適用され、サイズが異なっても比が一定であれば溶鋼の流れも変化しないだろうからである。
<閾値の根拠:図11>
図11に、特開昭51−138526号公報に開示のデータをグラフ化したものを示す。なお、下向き吐出角θ[deg.]は何れのプロットにおいても15である。このグラフによれば、吐出角α[deg.]を5以上とすれば、吐出角α[deg.]が0の場合と比較して介在物量を概ね6割程度、低減し、鋳片品質を改善できることが判る。従って、得られる鋳片品質の観点から、吐出角α[deg.]の閾値として5を採用した。
1 浸漬ノズル
2 吐出孔
3 内側底面
5 整流突起

Claims (1)

  1. タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、湾曲型連続鋳造機向けであり、前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する吐出孔が形成される、浸漬ノズルにおいて、
    前記浸漬ノズルの湾曲外側の内周面であって、平面視で前記一対の吐出孔の間に挟まれる位置に、整流突起が設けられ、
    ・前記浸漬ノズルの内径φ[mm]と、
    ・前記整流突起の、平面視で鋳型厚み方向において特定する突起水平厚みA[mm]と、
    ・前記整流突起の、平面視で鋳型幅方向において特定する突起水平長さB[mm]と、
    ・前記整流突起の下端である整流突起下端と、前記浸漬ノズルの内側底面との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]と、
    ・前記整流突起の上端である整流突起上端と、上記の整流突起下端との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]と、
    は、下記式(1)〜(4)の条件を満足する。
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