JP4851248B2 - 窪み型湯溜り付浸漬ノズルを用いた中炭素鋼の連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
しかし、鋳型厚み方向の速度勾配を有する溶鋼がこの浸漬ノズルに注湯されると、又は、この浸漬ノズルに注湯された溶鋼に鋳型厚み方向の速度勾配が生じると、前記湯溜り部内における溶鋼の圧力差に起因して、当該湯溜り部を鋳型厚み方向へ横切る溶鋼流れが生じてしまう(図6(a)参照)。この横切る溶鋼流れは、鋳型幅方向と平行な軸を有する回転流を誘起し(図6(b)参照)、その結果、前記浸漬ノズルの吐出孔からの溶鋼吐出流に鋳型厚み方向の偏流が生じてしまう。
そして、この溶鋼吐出流の偏流により、既に凝固して形成された鋳型コーナ部近傍のシェルが再融解してしまい、その結果、シェル成長の不均一さである所謂凝固遅れ(本明細書中、「凝固遅れ」とはコーナ部における凝固遅れを主として指す。)を発生させてしまう。
この凝固遅れが著しい場合には、シェルが破れて溶鋼が当該シェルの外部へ流れ出る所謂ブレークアウトが懸念されるし、著しくなくとも鋳片の品質に相当の悪影響を及ぼす(詳しくは後述)。
なお、上記の溶鋼吐出流の偏流は、浸漬ノズルに注湯される溶鋼の流量を調節するためのスライドプレートの開閉方向には依存しないことが既に明らかとなっている(非特許文献1及び非特許文献2)。
この発明は、端的に言えば、浸漬ノズルのノズル内側底面にノズル径方向に延在する凹部を設け、この凹部の形状等を様々に限定するものである。
また、上記特許文献1には、鋳型内の溶鋼を電磁攪拌する点の記載はあるものの、その具体的な攪拌の程度(本願発明でいうところの、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS)に関して一切記載されていない。
即ち、ノズル内側底面の近傍に一対の対向する吐出孔が穿孔されるとともに、前記ノズル内側底面にはノズル径方向に延在する凹部が凹設される、連続鋳造用の浸漬ノズルであって、以下の特徴を有する浸漬ノズルを用いる。
・前記凹部の長手方向の垂直断面は、長方形又は台形である。
・前記凹部の長手方向の垂直断面の側辺は、前記浸漬ノズルの長手方向に平行であり又は前記浸漬ノズルの長手方向を基準として0度を越え50度以下外側へ傾斜している。
・前記凹部は、その長手方向の垂直断面の内角であって、ノズル内側底面に対して遠い側のものが90度以上140度以下となるように形成されている。
・前記凹部の長手方向の垂直断面の深さhと、前記浸漬ノズルの内径Dと、の比であるh/Dは、0.1≦h/D≦1.0の範囲内である。
・前記凹部の長手方向の垂直断面の下辺の幅yと、前記吐出孔の内周側開口端の開口幅Yと、の比であるy/Yは、0.4≦y/Y≦1.0の範囲内である。
・平面視においてノズル内径の中心点と吐出孔の開口中心とを結ぶ方向である前記吐出孔の方向と、前記凹部の長手方向と、が成す角度θ2と、前記吐出孔の方向と、前記吐出孔の内周側開口端の側辺と前記浸漬ノズルの軸心とを結ぶ面と、が成す角度θ3と、の比であるθ2/θ3は、0≦θ2/θ3≦1.0の範囲内である。
・前記吐出孔の内周側開口端の開口面積Na[cm2]が35〜115である。
・前記浸漬ノズルの軸線と、前記吐出孔の方向と、を含む断面に一対で現れる前記吐出孔の輪郭線のうち前記浸漬ノズルの先端側の輪郭線と、前記浸漬ノズルの軸線に垂直な面と、の成す角度θ4[deg.]が15〜55である。
また、溶鋼を冷却し所定形状の凝固シェルを形成するための鋳型であって、以下の特徴を有する鋳型を用いる。
・その鋳型の上端における鋳型幅W[mm]が800〜2100である。
・その鋳型の上端における鋳型厚P[mm]が200〜320である。
・また、鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とし、過熱度ΔT[℃]を20〜45とする。
更に、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を0〜1000として連続鋳造する。
なお、上記の鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]は、前記鋳型の幅方向中央であって、鋳型の上端を基準とし下端へ向かって250mmだけ離れ、且つ、鋳型の広面側内壁面から15mmだけ離れた地点において適宜のガウスメータにより測定される値(単位は[gauss]とする。)とする。
なお、浸漬ノズルとは、例えば連続鋳造機において、図示しないタンディッシュに一時的に貯められた溶鋼を、鋳片のシェルを形成するための鋳型へスムーズに注湯するためのガイドとして用いられるものである。
また本実施形態において前記浸漬ノズル100は、図1に示す如く前記吐出孔2・2の内周側開口端2a・2aの下辺と、前記ノズル内側底面1と、が前記浸漬ノズル100の軸心方向において一致するように構成されている。
なお前述の如く符号yは前記凹部4の長手方向の垂直断面の下辺の幅であるとしたが、本図に示す如く当該垂直断面の角部が円弧状に形成されている場合は、前記幅yを、当該下辺と一の前記側辺4aとの第1仮想交点と、同じく当該下辺と他の前記側辺4aとの第2仮想交点と、の間の距離として観念するものとする。
一方、図7に示す如く本実施形態に係る浸漬ノズル100には、上記比較例のようには湯溜り部は形成されておらず、その代わりに、前述した如く前記ノズル内側底面1に径方向に延在する凹部4であって、その幅(y)が少なくとも前記吐出孔2・2の内周側開口端2a・2aの開口幅Yよりも小さいものが凹設されている(図3も併せて参照)。従って、例え、鋳型厚み方向の速度勾配を有する溶鋼が注湯されたとしても、または何らかの原因により注湯された溶鋼に鋳型厚み方向の速度勾配が生じたとしても、前記の回転流を誘起する前記の横切る溶鋼流れが極めて発生し難くなっており、溶鋼吐出流が前記吐出孔2・2の穿孔方向に沿ったかたちで吐出されるようになっている。これにより、上記従来の浸漬ノズルと比較して、本実施形態に係る浸漬ノズル100は、溶鋼吐出流の鋳型厚み方向の偏流を大幅に軽減できるのである。併せて、前記凹部4が前記ノズル内側底面1に適宜に凹設されることにより、前述した鋳造開始時におけるスプラッシュ現象も抑制できるようになっている。
上記表1における『偏流』の評価は、具体的に、以下のように行われたものである。図8は浸漬ノズルの正面図である。
即ち、図8に示す如く浸漬ノズルの吐出孔から吐出される水流の流速を適宜の流速検出装置(例えば、電磁流速計など)を用いて碁盤状に9点、計測した。その計測結果の一例を図9及び図10に示す。
そして、上記計測結果のうち、下行右列と下行左列との速度差を算出し(図8太線丸印参照)、当該速度差の絶対値が0.2m/s未満であるときを「○(鋳型厚み方向の偏流無し)」とし、同じく0.2m/s以上であるときを「×(鋳型厚み方向の偏流有り)」と評価した。
なお、前記の下行右列としての測定地点は、具体的には、吐出孔2・2の外周側開口端の一の側辺及び下辺から夫々10mmだけ離れた地点としている。同様に、前記の下行左列としての測定地点は、具体的には、吐出孔2・2の外周側開口端の他の側辺及び下辺から夫々10mmだけ離れた地点としている。
なお、本評価において、浸漬ノズルの吐出孔からの水の合計吐出量は、550[L/min]とした。
ところで、上記の「スプラッシュ現象」とは、前述の如く、鋳造開始時において浸漬ノズルに注湯された溶鋼がその底面に勢いよく当たることで跳ね上がるように吐出される現象のことをいうが、それに限らず、浸漬ノズルの吐出孔から下方へ向かって溶鋼が勢いよく吐出され、その溶鋼が、鋳造開始時に予め鋳型内に挿入されているダミーバーの上端面と鋳型の狭面とを順に介して跳ね上がってしまう現象をも含むものである。
上記表1における「飛散高さ」とは前者の現象に係るものであり、同じく表1における「気泡潜り深さ」とは後者の現象に係るものである。なお、後者の現象は、吐出孔から下向きに吐出される水流の強さ(気泡潜り深さ)を評価することにより間接的に評価した。なお、これらスプラッシュ現象は、生産性が低下するなどの理由から好ましくないとされる。
即ち、本図に示す如く浸漬ノズルの吐出孔から上方に向かって飛散する水滴の到達高さを、当該吐出孔の外周側開口端の上辺を基準として、目視により計測し、当該到達高さを飛散高さとした。
そして、この飛散高さが15cm未満であるときを「○(飛散高さ小)」とし、同じく15cm以上であるときを「×(飛散高さ大)」と評価した。
なお、このとき、浸漬ノズルの吐出孔からの水の吐出量は、800[L/min]とした。
即ち、本図に示す如く浸漬ノズルの下方に、当該浸漬ノズルの下端に対する鉛直方向距離が5cmとなるように水面高さが調整された水槽を設置し、浸漬ノズルの吐出孔から下方へ向かって勢いよく吐出された水流が巻き込む気泡の到達深さを、当該水面を基準として、目視により測定した。
そして、この到達深さが35cm未満であるときを「○(気泡潜り深さ小)」とし、同じく35cm以上であるときを「×(気泡潜り深さ大)」と評価した。
なお、この到達深さを計測する際の観測対象は、水流により巻き込まれた気泡のうち、その径が5mm以上のものに限定した。
なおまた、このときも、浸漬ノズルの吐出孔からの水の吐出量は、同様に、800[L/min]とした。
・前記凹部4の長手方向の垂直断面は、長方形又は台形である。
・前記凹部4の長手方向の垂直断面の側辺4aは、前記浸漬ノズル100の長手方向に平行であり又は前記浸漬ノズルの長手方向を基準として0度を越え50度以下外側へ傾斜している。
・前記凹部は、その長手方向の垂直断面の内角であって、ノズル内側底面に対して遠い側のものが90度以上140度以下となるように形成されている。
・前記凹部4の長手方向の垂直断面の深さhと、前記浸漬ノズルの内径Dと、の比であるh/Dは、0.1≦h/D≦1.0の範囲内である。
・前記凹部4の長手方向の垂直断面の下辺の幅yと、前記吐出孔2・2の内周側開口端2a・2aの開口幅Yと、の比であるy/Yは、0.4≦y/Y≦1.0の範囲内である。
・平面視においてノズル内径の中心点と吐出孔の開口中心とを結ぶ方向である前記吐出孔2・2の方向と、前記凹部4の長手方向と、が成す角度θ2と、前記吐出孔2・2の方向と、前記吐出孔2・2の内周側開口端2a・2aの側辺と前記浸漬ノズル100の軸心とを結ぶ面と、が成す角度θ3と、の比であるθ2/θ3は、0≦θ2/θ3≦1.0の範囲内である。
なお、厳密に言えば前記浸漬ノズル100の内周側壁面は環状、即ち曲面であることを踏まえ、上記の開口面積Naは以下の如く観念するものとする。即ち、図12の紙面上に投影されている内周側開口端2aによって囲まれる面積を開口面積Naとするものとする。端的に言えば、前記内周側開口端2aが曲面に現れるという実際を考慮せずに、縦断面図のみに基づいて開口面積Naを求めることとするのである。この点、当該開口面積Naは、前記吐出孔2の内周側開口端2a近傍における断面積ということもできる。
即ち、図13は、浸漬ノズル100の軸線と、前記吐出孔の方向と、を断面内に同時に含む前記浸漬ノズル100の縦断面図である。本図の断面には、一の吐出孔2について、当該吐出孔2の輪郭線は一対で現れている。そして、図13において一対で現れる前記吐出孔2の輪郭線のうち前記浸漬ノズル100の先端側(本図において下側)の輪郭線2rと、前記浸漬ノズル100の軸線に垂直な面Srcと、の成す角度θ4[deg.]を15〜55としている。(なお、後述するように前記吐出孔2が断面略矩形ではなく円形などに形成されていたとしても、勿論、この輪郭線2rは容易に観念できよう。)
また、同様に鋳型200の上端における鋳型厚P[mm]は200〜320としている。
なお、ここでいう過熱度ΔTは、以下のように求めることとする。即ち、タンディッシュ内から、当該タンディッシュの底面に連通状態で接続されている前記の浸漬ノズル100内へ、流入する直前の溶鋼の溶鋼温度を例えば熱電対などを用いて測定し、その測定結果に基づいて前記過熱度ΔTを算出するものとする。
即ち、前記の鋳型200に、所定の電磁攪拌装置(コイルなど)を、例えば前記浸漬ノズル100を鋳型厚み方向で挟むように一対で設ける。そして、この電磁攪拌装置の作用により、前記浸漬ノズル100の軸線に対して垂直な面でみたときに(即ち、図14において)、鋳型200内の溶鋼が浸漬ノズル100周りに時計周り又は反時計周りに緩やかに旋回するように構成する。
なお、上記の鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]は、前記鋳型200の幅方向中央であって、鋳型200の上端を基準とし下端へ向かって250mmだけ離れ、且つ、鋳型200の広面側内壁面から15mmだけ離れた地点において適宜のガウスメータにより測定された値(単位は[gauss]とする。)とする。
なおまた、上述したように、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を0とする電磁攪拌を実施してもよい。勿論、これは電磁攪拌を実施しなくてもよいことを意味している。即ち電磁攪拌を実施するか否かは任意である。
次に、前記浸漬ノズル100が取り付けられた前記タンディッシュが所定位置まで降下されることで、当該浸漬ノズル100の先端(下端)が前記鋳型200内へ適宜の深さまで挿入される。
次いで、前記連続鋳造機内に、鋳片を引き抜くためのダミーバーが挿入される。
そして、前記タンディッシュの槽底に設けられるスライドバルブが適宜に開口され、これにより、前記タンディッシュ内に保持されている溶鋼が前記浸漬ノズル100を介して前記鋳型200へ注湯され始める。
次いで、鋳型200内で冷却されて形成される鋳片(凝固シェル)は、上述範囲内の鋳造速度でダミーバーに引き抜かれていく。これにより、連続的な鋳造が開始されるようになっている。
以下、評価項目の一つとしての凝固遅れ度に関して説明する。図15は凝固遅れ度に関する説明図である。
上記の『凝固遅れ度』とは、以下のように測定し求めるものである。即ち、図15に示す如く、第1に、鋳造された鋳片を長手方向に垂直な方向で切断する。そして第2に、この垂直断面に現れている白線湯模様(ホワイトバンド)と鋳片広面との距離を測定する。より具体的には、鋳片狭面から鋳片広面に沿って5cm離れた箇所と、当該白線湯模様が当該鋳片広面に最も接近して現れている箇所と、の2箇所において前記の距離を測定する。本図において、前者箇所において測定された上記距離が符号Aに相当し、後者箇所において測定された上記距離が符号Bに相当する。そして第3に、距離Aから距離Bを引いて求められる距離を距離Aで除することにより、上記『凝固遅れ度』は求められる。
ここで、本願発明の発明者などが実施した他の試験の結果を紹介する。図16は、凝固遅れ度に関する他の試験結果を示す図である。本図に示されるグラフにおいて、横軸は狭面テーパ量(端的に言えば、鋳型の内壁面(狭面)が鋳造方向に進むに連れて狭くなる程度)を示し、縦軸は上記凝固遅れ度を示している。そして、本グラフ中の複数のプロットの夫々は、各狭面テーパ量において複数回実施された試験の結果に対応しており、白抜きプロットはその試験条件においてブレークアウトが発生しなかったことを表し、塗りつぶしプロットはその試験条件においてブレークアウトが発生してしまったことを表す。本グラフによれば、ブレークアウトの発生を回避するという観点から、凝固遅れ度は少なくとも40%以下に抑えるべきだと言える。
従って、上記の如く凝固遅れ度を求め、その値が40%以下だった場合は、良好と評価した。
以下、評価項目の一つとしての圧延後表面疵に関して説明する。
上記の『圧延後表面疵』とは、鋳造された鋳片を圧延した後の段階において、圧延された鋳片の表面を観察することによって把握される疵の程度や有無に関するものである。即ち、溶鋼が凝固する際に溶鋼の中に気泡や介在物が混入していたり、モールドパウダーが混在していたりすると、鋳造された鋳片を圧延したときに、これらの不純物が圧延された鋳片の表面に線状の疵(所謂スリバー疵)となって現れてしまう。
従って、圧延された鋳片の表面を長手方向に1000m単位で観察し、そのときに観測されるスリバーの数に応じて各試験を評価した。
具体的には、上記観察においてスリバーが3箇所以上発見された場合は「×」の評価を、1〜2箇所発見された場合は「△」の評価を、全く発見されなかった場合は「○」の評価を下した。
以下、評価項目の一つとしてのスラブ品質に関して説明する。
この『スラブ品質』は、鋳片表面において鋳造方向に沿って発生する鋳片表面割(以下、縦割と称する。)の有無を評価対象とするものであり、この縦割は以下の原因により発生すると考えられている。即ち、凝固遅れ度が過大となったことを理由とするものと、鋳片の表面温度が不均一となった結果として鋳片表面に発生する応力を理由とするものである。
そして、鋳造後の鋳片の表面を観測し、縦割が観測された場合はその試験条件の評価を「縦割(即ち、縦割有り)」とし、縦割が全く観測されなかった場合はその試験条件の評価を「○」とした。
<試験1:吐出孔の内周側開口端の開口面積>
本試験では、下記表2に示す如く、浸漬ノズル100の前記吐出孔2・2の内周側開口端2a・2aの開口面積Naに着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=70[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=55[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.57, θ2/θ3=0
--------------------
θ4=35[deg.]
W=1240[mm], P=240[mm]
Vc=1.7[m/min], M-EMS=550[gauss]
--------------------
即ち、所定の鋳造速度を確保するために、溶鋼の浸漬ノズルからの吐出流量は適宜に確保しなければならない。そこで、浸漬ノズルの吐出孔の開口面積Naが比して小であると、相対的に、溶鋼の浸漬ノズルからの吐出流速が大となる。その結果、鋳型の中で形成過程にある凝固シェルの例えば隅部に熱が供給され過ぎてしまい、凝固遅れが促進されると共に、それに伴って前述の如く縦割が発生したものと考えられる。
即ち、一般に、メニスカス近傍の溶鋼は、気泡やCaO、Al2O3などの介在物が留まるのを回避するために適宜の流速が確保されている必要がある(これは一般に、洗浄効果と呼ばれている。)。それなのに、浸漬ノズルの吐出孔の開口面積Naが比して大であると、相対的に、溶鋼の浸漬ノズルからの吐出流速が小となり、溶鋼の浸漬ノズルからの吐出流によって形成される所謂反転流が十分に確保されないので、メニスカス近傍の溶鋼に流れが失われてしまい、その結果、メニスカス近傍の溶鋼がやがて、気泡や介在物を含んだままの状態で凝固してしまったからだと考えられる。
本試験では、下記表3に示す如く、前記吐出孔2・2の穿孔方向と、前記浸漬ノズル100の軸線に垂直な面Srcと、の成す角度θ4に着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=65[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=50[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.62, θ2/θ3=0
--------------------
Na=60[cm2]
W=1240[mm], P=240[mm]
Vc=1.6[m/min], M-EMS=550[gauss]
--------------------
凝固遅れ度が40%を超えてしまったし、圧延後表面疵も観測され、更にスラブ品質の評価も良好ではなかった。
凝固遅れ度が40%を超え、また、スラブ品質の評価が良好ではなかったのは以下の理由によるものと考えられる。即ち、一般に、浸漬ノズルからの吐出流の吐出方向は水平方向ではなく、十分に斜め下向き方向となるように設定されている。これにより、吐出孔から吐出された極めて高温な溶鋼は、吐出流に乗って凝固シェルに到達するまでに若干の時間を要することから若干冷却されるようになっている。それなのに、本試験では、浸漬ノズルからの吐出流の吐出方向が十分には斜め下向きとはなっておらず、寧ろ水平方向に近かった。このため、吐出孔から吐出された極めて高温な溶鋼が、殆ど抜熱されることなく高温なまま吐出流に乗って凝固シェルに到達してしまったから、凝固シェルの凝固遅れを促進してしまったものと考えられる。なお、鉛直方向において、吐出孔と略同レベルにある凝固シェルの部分(所謂初期凝固部)は厚みが極めて薄い。また、凝固遅れが促進されてしまった結果、スラブ品質が劣るのは、前述した通りである。
また、圧延後表面疵が観測されたのは以下の理由によるものと考えられる。即ち、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流の吐出方向が水平方向に近かったために、当該吐出方向が斜め下向きに設定されている場合と比較して、メニスカス近傍の溶鋼に対して流速を与えたり熱を供給したりする重要な役割を担う上記の反転流が相当大きくなってしまった。その結果、メニスカス近傍の溶鋼に対して過大な流速が付加されたため、メニスカスが波立ち、メニスカス上に浮設されているモールドパウダーが溶鋼へ巻き込まれてしまったからだと考えられる。
即ち、第1に、一般に、タンディッシュから浸漬ノズルを介して鋳型へ供給される溶鋼に当初から含まれている介在物は、溶鋼との比重の差を利用して、鋳型内で浮上され、メニスカス上に浮設されているスラグ中へ吸収されて回収されるようになっている。それなのに、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流の吐出方向が相当に斜め下向き(換言すれば、より鉛直方向下向きに近い方向)に設定されていたので、溶鋼中の介在物が浮上により回収される機会が失われ、その結果、溶鋼が介在物を含んだまま凝固してしまったからだと考えられる。
第2に、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流の吐出方向が相当に斜め下向きに設定されていたので、(吐出孔から吐出された溶鋼が鋳型狭面に衝突してその流れの向きが上向きに変更され、メニスカスへ向かって上昇し、やがて浸漬ノズル側へと流れの向きを変えながら消滅する)上記の反転流が形成されにくく、そのため、メニスカス近傍の溶鋼に対して十分な上記洗浄効果が発揮されなかったためだと考えられる。
また、表3に示すように、スプラッシュ現象に関する評価が好ましくはなかった。しかし、これは、上述したように一般的には設定され得ない角度に故意に上記角度θ4[deg.]を設定したからであって、特に憂慮すべきことではない。なお、一般的に、上記角度θ4[deg.]のおおよその上限は45程度とされている。また、稀に、角度θ4[deg.]が45以上に設定された浸漬ノズルを使用する場合も見受けられている。
本試験では、下記表4に示す如く、前記鋳型幅Wに着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=70[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=55[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.57, θ2/θ3=0
--------------------
Na=50[cm2], θ4=35[deg.]
P=240[mm]
Vc=1.6[m/min], M-EMS=550[gauss]
--------------------
即ち、一般に、上述したように浸漬ノズルから吐出された極めて高温な溶鋼は、鋳型内で形成される凝固シェルの狭面に到達するまでに若干の時間を要し、それ故、溶鋼は若干冷却されてから凝固シェルの狭面に到達するようになっている。この点、本試験のように鋳型幅Wが過小である鋳型を用いると、溶鋼が十分に冷却される前に、当該鋳型内に形成された凝固シェルの狭面に到達し、即ち、凝固シェルに過大な熱が供給され、その結果として、凝固遅れが促進されてしまったものと考えられる。
即ち、一般に、メニスカス上に浮設されたモールドパウダーが鋳型内で形成される凝固シェルと鋳型内壁面との間に流入されることによって、凝固シェルに対する鋳型の抜熱特性が制御されるようになっている。それなのに、本試験のように鋳型幅Wが過大な鋳型を用いると、やはり、鋳型の幅方向においてモールパウダーの流入量(即ち、モールドパウダーの厚み、換言すれば抜熱特性の制御量)にムラが出てきてしまう。これが原因となって、鋳型の幅方向において凝固シェル内に温度ムラが生じてしまい、凝固シェル内で当該温度ムラによる応力が生じたからだと考えられる。なお、この問題は、鋳型の幅方向にのみならず、厚み方向においても同時に多少なりとも生じる。
本試験では、下記表5に示す如く、前記鋳型厚Pに着目したものである。
--------------------
D=80[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=65[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=54[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.31, y/Y=0.62, θ2/θ3=0
--------------------
Na=60[cm2], θ4=45[deg.]
W=1240[mm]
Vc=1.7[m/min], M-EMS=550[gauss]
--------------------
即ち、鋳型厚Pが比して小であったために、浸漬ノズルと広面側鋳型内壁面との間の隙間が狭くなってしまっていた。そのせいで、せっかく浸漬ノズル周囲の溶鋼に対して上記洗浄効果を奏するために前記の反転流が生成されたのにも関わらず、浸漬ノズルと広面側鋳型内壁面との間の隙間(流路)が狭く、当該隙間における溶鋼の流れが極めて滞り、結果として、浸漬ノズルと広面側鋳型内壁面との間の隙間においては溶鋼に対して十分な洗浄効果が奏し得なかったからだと考えられる。
即ち、鋳型の厚み方向においてモールドパウダーの流入量にムラが出たために同じく厚み方向において凝固シェル内に温度ムラが生じ、当該温度ムラに起因して応力が発生してしまったからだと考えられる。なお、この問題は、鋳型の厚み方向にのみならず、幅方向においても同時に多少なりとも生じる。
本試験では、下記表6に示す如く、前記鋳造速度に着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=70[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=55[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.57, θ2/θ3=0
--------------------
Na=60[cm2], θ4=45[deg.]
W=1240[mm], P=240[mm]
M-EMS=500[gauss]
--------------------
即ち、鋳造速度が比して小さいということは、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出量が比して小さいということに他ならない。端的に言えば、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流速が比して小さいので、この溶鋼の吐出流に依って形成される前述の吐出流が十分には形成されず、その結果、メニスカス近傍の溶鋼に対して、洗浄効果を発揮するために必要となる十分な流速が付加され得なかったからだと考えられる。
即ち、鋳造速度が比して大きいということは、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出量が比して大きいということに他ならない。端的に言えば、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流速が比して大きいので、浸漬ノズルから吐出された溶鋼が凝固シェルへ到達するまでに要する時間が比して小さくなっていた。即ち、浸漬ノズルから吐出された溶鋼が、殆ど冷却されることなく極めて高温な状態のままで凝固シェルに到達し、その結果、凝固シェルに対して過大な熱が供給されてしまったから凝固遅れが促進されたのだと考えられる。なお、凝固遅れが促進されたことに伴い、スラブ品質に関する評価が悪化するのは前述した通りである。
本試験では、下記表7に示す如く、前記過熱度に着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=70[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=55[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.57, θ2/θ3=0
--------------------
Na=60[cm2], θ4=35[deg.]
W=1240[mm], P=240[mm]
Vc=1.4[m/min], M-EMS=550[gauss]
--------------------
また、このように過熱度ΔT[℃]が20を下回ってしまうと、例え上記の反転流が適度に形成され生じていたとしても、メニスカスに殆ど熱が供給され得ないので、メニスカスに所謂皮張り(溶鋼が膜状に凝固して生成されたもの)が発生してしまったという別の問題も発生した。
本試験では、下記表8に示す如く、前記鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]に着目したものである。
--------------------
D=85[mm]
h=25[mm], y=40[mm], Y=70[mm]
θ1=10[deg.], θ2=0[deg.], θ3=55[deg.], R1=2[mm]
h/D=0.29, y/Y=0.57, θ2/θ3=0
--------------------
Na=60[cm2], θ4=35[deg.]
W=1240[mm], P=240[mm]
Vc=1.7[m/min]
--------------------
凝固遅れ度が40%を超えてしまったのは以下の理由によるものだと考えられる。即ち、前述した通り、一般に、浸漬ノズルから吐出される溶鋼の吐出流によって、(吐出孔から出発し狭面側鋳型内壁面に沿って上昇しメニスカスとの衝突によって浸漬ノズル側へ流れの向きが変換される)上記の反転流が形成される。また、一般に、鋳型内電磁攪拌は鋳型内の溶鋼のうち、特にメニスカス近傍の溶鋼を、浸漬ノズル周りに緩やかに旋回させるようにして攪拌するように行われる。従って、前記反転流と、電磁攪拌による溶鋼の旋回流とはメニスカス近傍において互いに衝突する。その結果、通常、前記の反転流は、この旋回流との衝突により、鋳型内に形成されてつつある中空略矩形の凝固シェルの対角隅部へと流れの向きが強制的に湾曲されるので、凝固シェルの当該一対の対角隅部は、他の一対の対角隅部に比べて若干、熱の供給が多いため凝固遅れが生じやすくなっている。この点、前記の鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]が過大であると、前記の旋回流がより強力に生じるため、前記の反転流が更に大きく湾曲され、その結果、前記一対の対角隅部に対して熱が更に供給されて凝固遅れ度がより一層促進されてしまうからだと考えられる。
即ち、上述した所定形状の浸漬ノズル100と、所定の鋳型幅W及び鋳型厚Pの鋳型と、を用いて、鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とし、過熱度ΔT[℃]を20〜45とし、電磁攪拌を一切行わないか或いは鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を1000以下として、中炭素鋼は連続鋳造される。
また、凝固シェルの凝固遅れを抑制できると共に、鋳片の表面品質等(上記各試験における圧延後表面疵及びスラブ品質の評価項目がこれに相当する。)を良好とできる。
2a 内周側開口端
100 浸漬ノズル
200 鋳型
W 鋳型幅
P 鋳型厚
θ4 角度
Vc 鋳造速度
Src 浸漬ノズルの軸線に対して垂直な面
ΔT 過熱度
M-EMS 鋳型内電磁攪拌強度
Claims (2)
- ノズル内側底面の近傍に一対の対向する吐出孔が穿孔されるとともに、前記ノズル内側底面にはノズル径方向に延在する凹部が凹設される、連続鋳造用の浸漬ノズルであって、
前記凹部の長手方向の垂直断面は、長方形又は台形であり、
前記凹部の長手方向の垂直断面の側辺は、前記浸漬ノズルの長手方向に平行であり又は前記浸漬ノズルの長手方向を基準として0度を越え50度以下外側へ傾斜しており、
前記凹部は、その長手方向の垂直断面の内角であって、ノズル内側底面に対して遠い側のものが90度以上140度以下となるように形成されており、
前記凹部の長手方向の垂直断面の深さhと、前記浸漬ノズルの内径Dと、の比であるh/Dは、0.1≦h/D≦1.0の範囲内であり、
前記凹部の長手方向の垂直断面の下辺の幅yと、前記吐出孔の内周側開口端の開口幅Yと、の比であるy/Yは、0.4≦y/Y≦1.0の範囲内であり、
平面視においてノズル内径の中心点と吐出孔の開口中心とを結ぶ方向である前記吐出孔の方向と、前記凹部の長手方向と、が成す角度θ2と、前記吐出孔の方向と、前記吐出孔の内周側開口端の側辺と前記浸漬ノズルの軸心とを結ぶ面と、が成す角度θ3と、の比であるθ2/θ3は、0≦θ2/θ3≦1.0の範囲内であり、
前記吐出孔の内周側開口端の開口面積Na[cm2]が35〜115であり、
前記浸漬ノズルの軸線と、前記吐出孔の方向と、を含む断面に一対で現れる前記吐出孔の輪郭線のうち前記浸漬ノズルの先端側の輪郭線と、前記浸漬ノズルの軸線に垂直な面と、の成す角度θ4[deg.]が15〜55である浸漬ノズルと、
溶鋼を冷却し所定形状の凝固シェルを形成するための鋳型であって、
その鋳型の上端における鋳型幅W[mm]が800〜2100であり、
その鋳型の上端における鋳型厚P[mm]が200〜320である鋳型と、
を用い、
鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とし、
過熱度ΔT[℃]を20〜45とし、
鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を0〜1000として、
炭素含有量C[wt%]が0.08〜0.19である中炭素鋼を連続鋳造する、ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造方法。 - 請求項1に記載の中炭素鋼の連続鋳造方法において、
前記鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を500〜1000とする、ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造方法。
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