以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
[溶液製膜方法]
図1に、本実施形態で用いるフイルム製造ライン10の概略図を示す。フイルム製造ライン10は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
ストックタンク11には、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとが備えられており、その内部にはフイルム20の原料となるドープ21が貯留されている。ストックタンク11は、常時、その外周面に設けられているジャケット11cにより、ドープ21の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼11bが回転されているので、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、ドープ21の均一な品質が保持されている。また、ストックタンク11の下流には、ギアポンプ25と濾過装置26とが備えられている。なお、ドープ21の調製方法に関しては、後で詳細に説明する。
流延室12には、ドープ21の流出口を有する流延ダイ30と、支持体であるキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)32と、流延ドラム32から流延膜33を剥ぎ取る剥取ローラ34と、流延室12の内部温度を調整する温調設備35とが備えられている。また、減圧チャンバ36は、流延ダイ30と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の周面32b近傍に配される。
流延ダイ30は、その下方に配置される流延ドラム32上にドープ21を流出する。流延ダイ30の材質は、電解質水溶液やジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性や低い熱膨張率などを有する素材から形成される。また、流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。こうして、流延ダイ30は、スジ及びムラのない流延膜33を流延ドラム32上に形成する。
円柱状、或いは円筒形状に形成される流延ドラム32は、駆動装置によりその軸32aを中心に回転する。流延ドラム32の周面32bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、流延ドラム32の周面32bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体循環装置37が取り付けられている。この伝熱媒体循環装置37にて所望の温度に保持されている伝熱媒体が、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面32bの温度を所望の温度に保持できる。
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面32bの表面粗さは0.01m以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面32bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム32の回転に伴う周面32b上下方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム32の速度変動を3%以下とし、流延ドラム32が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面32bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
流延ダイ30から流延ドラム32の周面32bへドープ21が流延される。この流延工程では、この流延ダイ30から流延ドラム32にかけて流延ビードを形成し、流延ドラム32の周面32b上に流延膜33を形成する。減圧チャンバ36は、流延ダイ30から流延するドープ21の背面(後に、流延ドラム32の周面32bに接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム32の高速回転時に流延膜33と周面32bとの間の密着性を向上させつつ、流延ビードの安定化を図る。流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34は、流延ドラム32上の流延膜33を湿潤フイルム38として剥ぎ取る。
流延室12内には、気化している溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)39aと凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40aとが備えられている。凝縮器39aで凝縮液化した有機溶媒は、回収装置40aにより回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
流延室12の下流には、剥取ローラ34によって剥ぎ取られた湿潤フイルム38を乾燥させてフイルム20とするピンテンタ13が設けられている。ピンテンタ13は、湿潤フイルムを乾燥してフイルム20とする装置である。
ピンテンタ13の下流には耳切装置43が設けられている。この耳切装置43には、クラッシャ44が備えられており、ここで、フイルム20の両側端部は切断された後、クラッシャ44に送り込まれて粉砕されて、再利用が図られる。
乾燥室15には、多数のローラ47と吸着回収装置48とが備えられている。さらに、乾燥室15に併設された冷却室16の下流には、強制除電装置(除電バー)49が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置49の下流側に、ナーリング付与ローラ50を設けている。巻取室17の内部には、巻取ローラ51とプレスローラ52とが備えられている。
図2のように、ピンテンタ13は、担持開始部100と第1反転部101と第2反転部102と、担持解除部103と、チェーン105と、ブラシロール106と、除塵装置107と、ダクト108a〜108fとを有する。
チェーン105は、担持開始部100、第1反転部101、第2反転部102及び担持解除部103に設けられるプーリに掛け渡される。担持開始部101に設けられるプーリ120は、図示しない制御部と接続する。図示しない制御部の制御の下、プーリ120は、軸125を中心に回転する。プーリ120の回転により、チェーン105は、担持開始部100、第1反転部101、第2反転部102及び担持解除部103をエンドレスで順次巡回する。そして、担持開始部100では、湿潤フイルム38の両側端部の担持を開始し、担持解除部103では、湿潤フイルム38の両側端部の担持を解除する。こうして、流延室12から送られる湿潤フイルム38は、担持開始部100、第1反転部101、第2反転部102及び担持解除部103を順次通過した後、フイルム20となって耳切装置43へ送られる。
担持開始部100では、流延室12から送られた湿潤フイルム38の両側端部がチェーン105によって担持される。そして、チェーン105の走行方向X1への走行により、湿潤フイルム38が第1反転部101へ送られる。
第1反転部101では、プーリ120の周面に沿って走行するため、チェーン105の走行方向が方向X1から次第に変わる。このとき、後述するチェーン105に設けられたピンの先端がプーリ120の径方向外側に向かった状態のまま、チェーン105が走行する。チェーン105が第1反転部101を通過することにより、チェーン105の走行方向が、走行方向X1と略逆の搬送方向X2になる。したがって、第1反転部101の通過により、走行方向X1に搬送される湿潤フイルム38は、長手方向に曲がるように走行方向を徐々に変えながら、最終的に走行方向X2に向かって送られる。
第2反転部102では、プーリ120の周面に沿って走行するため、チェーン105の走行方向が走行方向X2から次第に変わる。このとき、後述するチェーン105に設けられたピンの先端がプーリ120の径方向中心に向かった状態のまま、チェーン105が走行する。チェーン105が第2反転部102を通過することにより、チェーン105の走行方向が、再び搬送方向X1と略同一方向になる。したがって、第2反転部102の通過により、走行方向X2に搬送される湿潤フイルム38は、長手方向に曲がるように走行方向を徐々に変えながら、最終的に走行方向X1と略同一方向に向かって送られる。
担持解除部103では、チェーン105による湿潤フイルム38の両側端部の担持が解除される。そして、両側端部の担持が解除された湿潤フイルム38は、フイルム20として、耳切装置43へ送られる。
ダクト108a〜108fは、ピンテンタ13内の湿潤フイルム38に、所定の条件に調節された乾燥風を送る。乾燥風が湿潤フイルム38にあたることにより、湿潤フイルム38に含まれる溶媒が気化し、湿潤フイルム38が乾燥する。
ピンテンタ13には、気化している溶媒を凝縮回収するための凝縮器39b(図1参照)と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40b(図1参照)とが備えられている。凝縮器39b(図1参照)で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置40b(図1参照)により回収される。その溶媒は図示しない再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
図3のように、チェーン105は、チェーン状に且つエンドレスに連結する無数のピンプレート110からなる。ピンプレート110は、チェーン105の搬送方向に長さA1の略四角形状に形成され、ピン111と切欠部112とを有する。ピン111及び切欠部112は、チェーン105の長手方向に列設される。また、隣り合うピンプレート110に設けられるピン111の搬送方向の間隔は長さA2となる。
ブラシロール106は担持開始部100近傍に設けられる。ブラシロール106は、ピン111に付着するバリやクズを除去する。このバリやクズは、ピン111が湿潤フイルム38を貫通する際に湿潤フイルム38から発生したものである。また、除塵装置107は、担持解除部103近傍に設けられる。湿潤フイルム38を貫通するピン111を抜きとる際、湿潤フイルム38とピン111との擦れ等により発生するバリやクズを除去する。除塵装置107は、湿潤フイルム38に風をあてて、バリやクズを吹き飛ばすものでもよいし、湿潤フイルム38近傍の空気を吸引し、この空気とともにバリやクズを吸引するものでもよい。
図4及び図5のように、第1反転部101は、一対のプーリ120と、一対のプーリ120の間に配されるエア供給装置121とを有する。
プーリ120は、図示しない制御部に接続する軸125を有する。プーリ120の周面には、切欠部112(図3参照)に嵌合可能な形状に形成される歯126が設けられる。チェーン105は、切欠部112と歯126が嵌合するようにプーリ120に掛け渡され、プーリ120の回転に伴い、走行する。なお、プーリ120は、円盤状に形成されているが、環状に形成されていてもよい。なお、プーリ120が駆動する場合に限らず、他の各部100、102、103におけるプーリが駆動してもよい。
エア供給装置121は、第1反転部101における湿潤フィルム38の搬送路よりも内側に設けられ、湿潤フィルム38との距離が略一定となる外周面121aを有する。外周面121aは、軸125の方向に直交する断面において、直径dの半円弧状となるように形成される。エア供給装置121の外周面121aには、スリット130が設けられる。なお、スリット130間の外周面121a上に、湿潤フイルム38の幅方向におけるスリット幅が、スリット130よりも長い或いは、短い補助スリットを設けてもよい。
図5及び図6のように、更に、外周面121aの湿潤フイルム38の幅方向の両側端部には、湿潤フイルム38に当たらない程度に外周面121aから突出した略三日月状の第1の静圧維持板135が設けられる。外周面121aの湿潤フイルム38の搬送方向の両側端部には、反転する湿潤フイルム38に当たらない程度に外周面121aから突出した第2の静圧維持板136が設けられる。この第1の静圧維持板135及び第2の静圧維持板136により、湿潤フイルム38の内側面38aとエア供給装置121の外周面121aとの間には、エア158が流出しにくい囲み空間CA1が形成される。
外周面121a上には、センサ部150a〜150cを設けることが好ましい。センサ部150a〜150cは、囲み空間CA1内のエアの圧力P1a〜P1cを検出する圧力センサと、湿潤フイルム38とセンサ部150a〜150cとの距離L1a〜L1cを検出する測距センサとを有する。また、図示しない圧力センサは、湿潤フイルム38の外側面38b近傍の圧力P2a〜P2cを検出する。
センサ部150a〜150cに用いられる測距センサとしては、湿潤フイルム38の内側面に光を反射させる反射型の光学センサを用いることができる。湿潤フイルム38が透明で反射型の光学センサを用いることができない場合には、音波を利用した超音波センサを用いることもできる。更に、光学センサの検出部に汚れが付着し易いなどの理由により光学センサを使用できない場合は、予め製造実験を行い、湿潤フイルム38の条件(残留溶媒、ウエブの膜厚、乾燥温度等)に基づいて、距離Lを決定してもよい。第1反転部101における距離Lとは、湿潤フイルム38と外周面121aとの最短距離である。湿潤フイルム38が、幅方向の略中央部を中心にして弛む場合は、湿潤フイルム38の幅方向の略中央部と外周面121aとの距離をLとする。また、センサ部150a〜150cに用いられる圧力センサとしては、公知の圧力センサを用いることができる。なお、各圧力センサの設置を行わない場合でも、各圧力値が所望の範囲になるような条件に基づいて、第1反転部101にて湿潤フイルム38を反転してもよい。
図4及び図6のように、エア供給装置121は、エア配管156を介して、エア供給装置157と接続する。エア供給装置157は、エア配管156、エア供給装置121に設けられる中空部159及びスリット130を介して、囲み空間CA1に所定量のエア158を供給する。
エア供給量制御装置160は、エア供給装置157、センサ部150a〜150cと接続する。エア供給量制御装置160は、センサ部150a〜150cが検出した検出値を読み取る。そして、この検出値に基づいて、距離L、L1a〜L1c或いは囲み空間CA1における圧力P1a〜P1c等が所定の値となるように、エア供給装置157から囲み空間CA1へのエア158の供給量を調節する。
また、エア供給量制御装置160は、図示しない乾燥風供給装置とも接続している。乾燥風供給装置は、所定の条件に調節された乾燥風を、ダクト108a〜108f(図2参照)を介して、湿潤フイルム38にあてる。エア供給量制御装置160は、乾燥風供給装置からの乾燥風の温度や湿度、或いは乾燥風の風量などを調節する。
図7及び図8のように、第2反転部102は、一対のプーリ220と、一対のプーリ220の間に配されるエア供給装置221とを有する。
プーリ220は、軸225を有する。プーリ220の周面には、切欠部112(図3参照)に嵌合可能な形状に形成される歯226が設けられる。担持手段は、切欠部112と歯226が嵌合するようにプーリ220に掛け渡される。チェーン105は、プーリ120(図2参照)の回転に伴い、走行する。こうして、プーリ220が軸225を中心に回転する。なお、プーリ220は、円盤状に形成されているが、環状に形成されていてもよい。
エア供給装置221は、第2反転部102における湿潤フィルム38の搬送路よりも内側に設けられ、湿潤フィルム38との距離が略一定となる外周面221aを有する。外周面121aは、軸225の方向に直交する断面において、直径dの半円弧状となるように形成される。
エア供給装置221の外周面221aには、スリット230が設けられる。なお、スリット230間の外周面221a上に、湿潤フイルム38の幅方向におけるスリット幅が、スリット230よりも長い或いは、短い補助スリットを設けてもよい。
図8及び図9のように、外周面221aの湿潤フイルム38の幅方向の両側端部には、反転する湿潤フイルム38に当たらない程度に外周面221aから突出した第1の静圧維持板235が設けられる。外周面221aの湿潤フイルム38の搬送方向の両側端部には、反転する湿潤フイルム38に当たらない程度に外周面221aから突出した第2の静圧維持板236が設けられる。この第1の静圧維持板235及び第2の静圧維持板236により、湿潤フイルム38の内側面38aとエア供給装置221の外周面221aとの間には、エアが流出しにくい囲み空間CA3が形成される。
図9のように、外周面221a上には、センサ部250a〜250cが設けられることが好ましい。センサ部250a〜250cは、前記囲み空間CA3内のエアの圧力である圧力P3a〜P3cを検出する圧力センサと、湿潤フイルム38とセンサ部250a〜250cとの距離L2a〜L2cを検出する測距センサとを有する。また、図示しない圧力センサは、湿潤フイルム38の外側面38b近傍の圧力P4a〜P4cを検出する。なお、各圧力センサの設置を行わない場合でも、各圧力値が所望の範囲になるような条件に基づいて、第2反転部102にて湿潤フイルム38を反転してもよい。
センサ部250a〜250cとしては、センサ部150a〜150cと同一のものを用いることができる。また、センサ部250a〜250cの設置位置は、センサ部150a〜150cと同様にして決定することができる。第2反転部102における距離Lとは、湿潤フイルム38と外周面221aとの最短距離である。湿潤フイルム38が、幅方向の略中央部を中心にして弛む場合は、湿潤フイルム38の幅方向の略中央部と外周面221aとの距離をLとする。
図7及び図9のように、エア供給装置221は、エア配管256を介して、エア供給装置257と接続する。エア供給装置257は、エア配管256、エア供給装置221に設けられる中空部259(図9参照)及びスリット230を介して、囲み空間CA3に所定量のエア258を供給する。
エア供給量制御装置160は、エア供給装置257及びセンサ部250a〜250cと接続する。エア量制御装置260は、センサ部250a〜250cが検出した検出値を読み取る。そして、この検出値に基づいて、距離L、L2a〜L2c或いは囲み空間CA3における圧力P3a〜P3c等が所定の値となるように、エア供給装置157から囲み空間CA3へのエア258の供給量を調節する。
次に、図1を用いて、フイルム製造ライン10によりフイルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転により常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ギアポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込み濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。そして、このドープ21を流延ダイ30から流延ビードを形成させながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム32の周面32b上に流延する。流延時のドープ21の温度は、30〜35℃の範囲内で略一定に保持されることが好ましい。
流延ドラム32は、駆動装置により軸32aを中心に回転している。この回転により、周面32bは、方向Z1へ所定の速度で走行している。また、流延ドラム32の周面32bの温度は所定の範囲内を満たすように調整されている。その周面32bの温度は、−10〜10℃の範囲内で略一定とすることが好ましい。このように冷却された流延ドラム32を用いると、流延させたドープ21から形成される流延膜33を冷却固化(ゲル化)させて自己支持性を持たせることができる。なお、周面32bの温度の管理は、伝熱媒体循環装置37により行われ、流延ドラム32の周面32bの温度を所定の値に保持する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
ゲル化の進行により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34により流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フイルム38を形成する。そして、この湿潤フイルム38をピンテンタ13に送り込む。
流延室12の内部温度は、温調設備35により所定の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部温度は、10℃以上57℃以下の範囲内で略一定に保持されることが好ましい。また、流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が蒸発後に気化している。そこで、本実施形態では、この気化した溶媒を凝縮器39aにより凝縮液化した後、回収装置40aに回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
ピンテンタ13では、湿潤フイルム38の乾燥を促進させてフイルム20とする。ピンテンタ13内部で気化した溶媒を凝縮器39bにより凝縮液化した後、回収装置40bに回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。ピンテンタ13における湿潤フイルム38の乾燥の詳細は、後述する。
ピンテンタ13から送り出されたフイルム20は、耳切装置43によりの両側端部が切断される。両側端部が切断されたフイルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取ローラ51で巻き取られる。なお、耳切装置43によって切断された両側端部は、クラッシャ44により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
巻取ローラ51に巻き取られるフイルム20は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより大きい場合にも効果がある。フイルム20の厚みが20μm以上80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
次に、ピンテンタ13の作用の概要を説明する。図2及び図4のように、チェーン105は、各部100〜103のプーリに設けられる歯が、切欠部112(図3参照)と嵌合するように掛け渡されている。図示しない制御部の軸125の駆動により、第1反転部101のプーリ120が回転する。プーリ120の回転により、チェーン105が走行する。これにより、チェーン105は、エンドレスで各部100〜103を順次巡回する。
また、エア供給量制御装置160の制御の下、乾燥風供給装置は、所定の条件に調節された乾燥風を、ダクト108a〜108fから送り出す。乾燥風が湿潤フイルム38にあたることにより、湿潤フイルム38に含まれる溶媒が気化する。こうして、ピンテンタ14において、湿潤フイルム38の乾燥処理が行われる。
更に、凝縮器は、ピンテンタ13内で気化している溶媒を凝縮する。回収装置は、この凝縮によって得られる液化した溶媒を回収する。凝縮器で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
流延室12から送られる湿潤フイルム38は、ピンテンタ13へ導入される。ピンテンタ13に導入された湿潤フイルム38の両側端部は、担持開始部100にて、チェーン105のピン111により保持される。このチェーン105の走行により、湿潤フイルム38は、両側端部を担持され、弛みがほとんどない状態で第1反転部101へ案内される。
第1反転部101では、湿潤フイルム38の走行方向が方向X1から方向X2に反転し、第2反転部102では、湿潤フイルム38の走行方向が、再度反転して、方向X1となる。そして、担持解除部103では、ピン111による湿潤フイルム38の担持が解除される。担持が解除された湿潤フイルム38は、フイルム20として、耳切装置43に案内される。また、湿潤フイルム38の担持を解除されたチェーン105は、担持開始部100へと走行する。
図4のように、両側端部をチェーン105のピン110により担持された湿潤フイルム38は、チェーン105の走行により、第1反転部101に案内される。第1反転部101では、チェーン105がプーリ120の周面に従い、走行する。これにより、チェーン105により担持される湿潤フイルム38の走行方向が、方向X1から徐々に変わり、最終的に方向X2になる。
また、図2及び図7のように、第1反転部101を経た湿潤フイルム38は、第2反転部102へ案内される。第2反転部102では、チェーン105がプーリ220の周面に従い、走行する。これにより、チェーン105により担持される湿潤フイルム38の走行方向が再度反転し、方向X1となる。
ダクト108a〜108f(図2参照)からの乾燥風により、湿潤フイルム38は乾燥する。図6及び図9のように、湿潤フイルム38の中央部はピン111により固定されていないため、湿潤フイルム38の中央部が凹み、乾燥した湿潤フイルム38は、第1反転部101や第2反転部102にて、鼓状に変形する。
次に、第1反転部101近傍における作用の詳細について説明する。図4及び図6のように、エア供給量制御装置160は、センサ部150a〜150cから、囲み空間CA1の圧力P1a〜P1c、及び、距離L、L1a〜L1cを読み取り、エア供給装置157によるエア158の供給量を調節する。こうして、所定量のエア158が、各スリット130から、囲み空間CA1に供給され、距離Lが所定の範囲に維持される。
ここで、湿潤フイルム38の両側端部とエア供給装置121の外周面121aとの距離をh1とすると、距離Lは、0.25h1以上3h1以下であることが好ましく、0.5h1以上2h1以下であることがより好ましい。これにより、第1反転部101での鼓状変形に起因する湿潤フイルム38の不均一な変形や破断を回避することができる。なお、距離h1を、鼓状の変形前における湿潤フイルム38と外周面121aとの距離としてもよい。
エア供給量制御装置160は、囲み空間CA1の圧力P1xと湿潤フイルム38の外周面38b近傍の圧力P2xとの差Pd1が0Pa以上200Pa以下になるようにエア供給装置157を制御することが好ましい。ここで、Pd1は、|P1x−P2x|(添字xは、a〜c)である。これにより、距離Lを容易に上記範囲に保持することが可能になり、湿潤フイルム38の鼓状変形の程度を低減することができる。
更に、エア供給量制御装置160は、湿潤フイルム38の幅方向中央部における圧力差をPd1c、湿潤フイルム38の幅方向端部における圧力差をPd1eとするときに、(Pd1c−Pd1e)の値が、0Pa以上190Pa以下となるように、エア供給装置157を制御することが好ましい。これにより、幅方向における、湿潤フイルム38と外周面121aとの距離を略均一にし、湿潤フイルム38の不均一な変形を低減することができる。
なお、幅方向中央部や端部における圧力差は、読み取った圧力値P1a〜P1cから、幅方向における圧力差の分布のプロファイルから求めても良いし、幅方向の中央部や端部に配されるセンサ部や圧力センサから得られる圧力値から求めてもよい。また、スリットへの遮風板の設置やスリットの形状の変更により、幅方向の圧力差分布が式29を満たすようにすることができる。これらの具体的な方法については、後述する。
第1反転部101において、式27を満たすことが好ましい。ここで、ピン111を有するピンプレート110の中心部の軌跡の直径をDとし、ピン111に保持された湿潤フイルム38と、ピンプレート110との間隔をh2とする。ここでピンプレート110の中心部とは、搬送方向に対して略中央の部分を指す。これにより、反転時における湿潤フイルム38の鼓状を変形の程度を抑えることができる。
次に、第2反転部102近傍における作用の詳細について説明する。図7及び図9のように、第1反転部101と同様にして、エア供給量制御装置160は、センサ部250a〜250cから、囲み空間CA3の圧力P3a〜P3c及び、距離L、L2a〜L2cを読み取り、エア供給装置257によるエア258の供給量を調節する。こうして、所定量のエア258が、各スリット230から、囲み空間CA3に供給され、距離Lが所定の範囲に維持される。
湿潤フイルム38の両側端部とエア供給装置221の外周面221aとの距離をh1とすると、距離Lは、0.25h1以上3h1以下であることが好ましく、0.5h1以上2h1以下であることがより好ましい。なお、距離Lが0.25h1以上1h1未満である場合は湿潤フイルム38が幅方向の略中央部を中心にして弛んでいない場合であり、距離Lが1h1以上3h1以下である場合は湿潤フイルム38が幅方向の略中央部を中心にして弛んでいる場合である。これにより、第2反転部102での鼓状変形に起因する湿潤フイルム38の不均一な変形や破断を回避することができる。なお、距離h1を、鼓状の変形前における湿潤フイルム38と外周面221aとの距離としてもよい。
エア供給量制御装置160は、囲み空間CA3の圧力P3xと外側面38b近傍の圧力P4a〜P4cとの差Pd2が0Pa以上200Pa以下になるようにエア供給装置257を制御することが好ましい。ここで、Pd2は、|P3x−P4x|(添字xは、a〜c)である。これにより、距離Lを容易に上記範囲に保持することが可能になり、湿潤フイルム38の鼓状変形の程度を低減することができる。
更に、エア供給量制御装置160は、湿潤フイルム38の幅方向中央部における圧力差をPd2c、湿潤フイルム38の幅方向端部における圧力差をPd2eとするときに、(Pd2c−Pd2e)の値が、0Pa以上190Pa以下となるように、エア供給装置257を制御することが好ましい。これにより、幅方向における、湿潤フイルム38と外周面221aとの距離を略均一にし、湿潤フイルム38の不均一な変形を低減することができる。
なお、幅方向中央部や端部における圧力差は、読み取った圧力値P3a〜P3c及びP4a〜P4cから、幅方向における圧力差の分布のプロファイルから求めても良いし、幅方向の中央部や端部に配されるセンサ部や圧力センサから得られる圧力値から求めてもよい。
第2反転部102において、式28を満たすことが好ましい。ここで、ピン111を有するピンプレート110の中心部の軌跡の直径をDとし、ピン111に保持された湿潤フイルム38と、ピンプレート110との間隔をh2とする。ここでピンプレート110の中心部とは、搬送方向に対して略中央の部分を指す。これにより、反転時における湿潤フイルム38の鼓状を変形の程度を抑えることができる。
第1反転部101及び第2反転部102において、反転される前の湿潤フイルム38の残留溶媒量ZYaとし、反転された後の湿潤フイルム38の残留溶媒量ZYbとするときに、ZYa/ZYbが式29を満たすことが好ましい。
残留溶媒量の比ZYa/ZYbが上記の範囲となるように調節する方法としては、乾燥風の温度、湿度、風量などの乾燥条件の調節や、ダクトの設置位置、設置数などが挙げられる。これらの方法を用いて、残留溶媒量の比ZYa/ZYbを所望の範囲に調節することにより、第1反転部101や第2反転部102における湿潤フイルム38の凹み鼓状の変形の程度を抑え、湿潤フイルム38の破断を回避することができる。
ピンテンタ13に案内される湿潤フイルム38の残留溶媒量は、100重量%以上400重量%以下であることが好ましい。ピンテンタ13から送られるフイルム20の残留溶媒量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。なお、本発明では、フイルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフイルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
また、第1反転部101及び第2反転部102において、反転される前後の湿潤フイルム38の収縮率をSSR1とするときに、SSR1が、式30を満たすことが好ましい。ここで、収縮率SSR1は、反転前後における湿潤フイルム38の長手方向における収縮率であり、湿潤フイルム38上の任意の2点の長さ方向の距離のうち、反転前の距離をW1、反転後の距離をW2とするときに、W2/W1で与えられる値である。
また、湿潤フイルム38の断面における角度θe(図6及び図9参照)は、−30°以上30°以下であることが好ましい。ここで角度θeは、ピン111に保持される湿潤フイルム38の両側端部を結ぶ直線SL1と、ピン111に保持される両側端部における湿潤フイルム38の接線SS1とがなす角の角度である。接線SS1が直線SL1よりも内面38a側である場合には、θeは負の値となり接線SS1が直線SL1よりも外面38b側である場合には、θeは正の値となる。なお、直線SL1を湿潤フイルム38の両側端部を保持するピンプレート110を結ぶ直線やプーリ120、220の周面を結ぶ直線としてもよい。
本発明の長尺物搬送装置及び搬送方法は、乾燥に起因する、第1反転部101及び第2反転部102における湿潤フイルム38の中央部の凹み、すなわち鼓状の変形を抑えるともに、湿潤フイルム38とエア供給装置121との接触による湿潤フイルムの損傷や、凹みによって生ずる湿潤フイルム38の破断を回避しながら、省スペースで湿潤フイルムを乾燥することができる。また、本発明の溶液製膜設備及び溶液製膜方法は、湿潤フイルムの不均一な変形を抑え、結果として、厚さが均一のフイルムを効率よく製造することができる。
上記実施形態では、湿潤フイルム38の不均一な変形を低減するために、湿潤フイルム38の両面についての圧力差が所定の範囲になるように、エア158、258の供給量を調節載したが、本発明はこれに限られない。
図10のように、エア供給装置は、外周面にスリット430を有する。エアの通過を遮る遮風板435は、スリット430近傍のエア供給装置に設けられ、スリット430を塞ぐ閉塞位置と、スリット430を開放する開放位置とを移動自在となっている。遮風板435は、エア供給量制御装置160と接続する。エア供給量制御装置160の制御の下、遮風板435は、閉塞位置と開放位置との間を移動する。この遮風板435の移動により、スリット430の開口面積を調節することができるため、囲み空間における幅方向のエアの供給量の分布や圧力差分布を所望のものに調節することができる。
なお、遮風板435の移動方向を、湿潤フイルム38の搬送方向と略水平の方向としてもよいし、湿潤フイルム38の幅方向と略水平の方向としてもよい。また、遮風板435を、幅方向或いは搬送方向に並べるようにスリット430に設け、これらの遮風板435の移動を個別に制御することにより、囲み空間における幅方向のエア158や258の供給量の分布を所望のものに調節してもよい。
上記実施形態では、エア供給装置121,221,321として半ドーナツ状の形状のものを用いたが、本発明は、これに限られず、ドラム状の形状のエア供給装置を用いてもよい。
以下、本発明においてドープ21を調製する際に使用する原料について説明する。
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。