近年、冷凍冷蔵庫などの冷凍装置に使用される密閉型圧縮機については、消費電力を低減させるための高効率化の観点からシャフトのスラスト下部と軸受上端との隙間にスラストボールベアリングを設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、軸受上端を延長し、その外周部にスラストボールベアリングを設けたものがある(例えば、特許文献2参照)。
以下、図面を参照しながら上記従来の密閉型圧縮機を説明する。
まず、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機を説明する。
図16は、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機の縦断面図であり、図17は、図16の要部の斜視図である。
図16および図17において、密閉容器1内には、潤滑油2が貯留されている。圧縮機本体4は、固定子12と回転子14を備える電動要素10と、電動要素10の上方に配置される圧縮要素20とからなり、密閉容器1内に収容されている。密閉容器1は、ターミナル8を備えており、リード線(図示せず)により、電動要素10と接続されている。
圧縮要素20を構成するシャフト21は、主軸22と、主軸22に対して偏心して形成された偏心軸24を有している。シリンダブロック26は、略円筒形のシリンダ30と、主軸22を軸支する軸受部27を有している。また、軸受部27の上端面上部に上レース92、スラストボールベアリング90、下レース93が配置されている。
上レース92および下レース93は環状で金属製の平板で、上下の面が平行である。
スラスト面60の上に、下レース93、スラストボールベアリング90、上レース92の順に互いに接した状態で積み重なり、上レース92の上面にシャフト21のフランジ部21aが着座している。そして、スラストボールベアリング90はボール91が上レース92と下レース93に点接触の状態で転がる軸受であり、シャフト21や回転子14の自重などの垂直方向の荷重を支持しながら回転が可能である。そしてスラスト面60にはオイルを引き込むためのオイルスロット60aが設けられている。
軸受部27はシリンダブロック26と一体に形成され、軸受部27は周囲の支持部27aにより支持されている。ピストン28はシリンダ30に往復自在に挿入され、シリンダ30の端面に配設されるバルブプレート32とともに圧縮室34を形成する。また、ピストン28は、偏心軸24と連結手段36によって連結されている。吸入マフラ39は、バルブプレート32とシリンダヘッド38に挟持されることで固定されている。
さらに、固定子12は、回転子14と略一定の隙間を保つように、回転子14の外径側に配置され、シリンダブロック26の脚部26aに固定されている。
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
電動要素10に通電されると、固定子12に発生する磁界により回転子14はシャフト21とともに回転する。主軸22の回転に伴い、偏心軸24は偏心回転し、この偏心運動は連結手段36を介して往復運動に変換され、ピストン28をシリンダ30内で往復運動させることで密閉容器1内の冷媒を圧縮室34内に吸入し、圧縮する圧縮動作を行う。
なお、連結手段36は、両端に設けた穴部がそれぞれピストン28に取り付けられたピストンピン29と、偏心軸24に嵌挿されることで、偏心軸24とピストン28と連結している。
また、シャフト21下端は潤滑油2に浸漬しており、シャフト21が回転することにより、潤滑油2は給油機構64により圧縮要素20各部に供給され、摺動部の潤滑を行う。ピストン28が冷媒を圧縮する際、ピストン28にかかる圧縮荷重は、連結手段36を介して偏心軸24に作用し、最終的に主軸22と軸受部27によって受け止めている。
スラストボールベアリング90は、一般的に用いられている滑り軸受の形式のスラストベアリングと比べ摩擦が少なく、近年高効率化を目的に採用されることが増えてきている。一方、ボール91は、上レース92と下レース93と点接触をしているため、接触点での面圧は非常に高く、接触荷重が数倍程度大きくなることで、塑性変形を生じる場合があるため、接触荷重が過大となることを防止する必要がある。
また、片持ち軸受の構成では圧縮荷重がかかった際、主軸22と軸受部27の隙間の範囲でわずかに傾斜することが避けられず、このようなわずかな傾斜によっても、ボール91と上レース92および下レース93の接触が不均一となりうるが、スラスト面60に設けられたオイルスロット60aで発生する油圧により各ボール91へ作用する荷重を均等にすることができる。
次に、特許文献2に記載された従来の密閉型圧縮機を説明する。なお、特許文献1と同一構成については同符号を付して、詳細な説明を省略する。
図18は、特許文献2に記載された従来の密閉型圧縮機の縦断面図であり、スラストボールベアリングを用いている。図19は、図18の要部拡大図である。図20は、従来の密閉型圧縮機における支持部材の形状を示した斜視図である。
図18から図20において、軸受部27は、軸心と直角な平面部であるスラスト面60と、スラスト面60よりさらに上方に延長され、主軸22に対向する内面を有する管状延長部62を有している。
そして、管状延長部62の外周側に、上レース92、スラストボールベアリング90、下レース93、および支持部材95が配置されている。
上レース92および下レース93は環状で金属製の平板で、上下の面が平行である。
支持部材95は、環状の金属の平板に下側の突起95f,95gと、上側の突起95h,95iを設けたものである。これらの突起は同じ半径の曲面で形成され、上側と下側の頂点をそれぞれ結ぶ線が直角になるように配置されている。
そして、スラスト面60の上に、支持部材95、下レース93、スラストボールベアリング90、上レース92の順に互いに接した状態で積み重なり、上レース92の上面にシャフト21のフランジ部が着座している。そして、支持部材95は、下側の突起95f,
95gが線接触の状態でスラスト面60と接し、上側の突起95h,95iが線接触の状態で下レース93と接している。
スラストボールベアリング90はボール91が上レース92と下レース93に点接触の状態で転がる軸受であり、シャフト21や回転子14の自重などの垂直方向の荷重を支持しながら回転が可能である
以上のように構成された密閉型圧縮機において以下その動作を説明する。
スラストボールベアリング90は、一般的に用いられている滑り軸受の形式のスラストベアリングと比べ摩擦が少なく、近年高効率化を目的に採用されることが増えてきている。一方、ボール91は、上レース92と下レース93と点接触をしているため、接触点での面圧は非常に高く、接触荷重が数倍程度大きくなることで、塑性変形を生じる場合があるため、接触荷重が過大となることを防止する必要がある。
片持ち軸受の構成では、シャフト21は圧縮による荷重などにより、主軸22と軸受部27の隙間の範囲でわずかに傾斜することが避けられず、このようなわずかな傾斜によっても、ボール91と上レース92および下レース93の接触が不均一となりうるが、支持部材95により、これに着座する下レース93は任意の方向に傾斜可能である。
そのため、上レース92と下レース93は平行な状態を維持する調心機能の効果により、各ボール91へ作用する荷重を均等にすることができ、一部のボール91に大きな荷重が作用することによる寿命の低下を防止できる。
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に電動要素と前記電動要素によって駆動される圧縮要素とを収容し、前記圧縮要素は、前記電動要素によって回転駆動される主軸および前記主軸の一端に前記主軸と一体運動するように形成された偏心軸を有するシャフトと、前記シャフトの前記主軸を軸支することによって片持ち軸受を形成する軸受部と、前記軸受部に対して、一定の位置に固定されるように配置され、略円筒形の圧縮室を形成するシリンダブロックと、前記圧縮室の内部に往復動可能に挿設されたピストンと、前記偏心軸と前記ピストンとを連結する連結手段と、前記軸受部のスラスト面に配設されたスラストボールベアリングとを備え、前記軸受部の軸心を示す第1の中心線または前記第1の中心線に平行な第3の中心線と前記圧縮室の軸心を示す第2の中心線とが互いに交差するように前記軸受部および前記圧縮室が配置され、前記第1の中心線または前記第3の中心線と前記第2の中心線とのなす角度をαとし、あらかじめ設定した値をβとしたとき、上記(数1)で表される前記αを前記圧縮室の軸心の角度の設計値とし、前記軸受部と前記主軸の組立時におけるクリアランスに基づく前記軸受部に対する前記主軸の傾きの絶対値がγであるとき、前記βと前記γとが上記(数2)を満足する関係にあるもので、ピストンと圧縮室との間のこじりを防止することができ、これによって、ピストンの摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記軸受部と前記主軸とが同種の材料で形成されているとき、βとγとが下記(数3)を満足する関係にあるもので、ピストンと圧縮室との間のこじりを防止することができ、請求項1に記載の発明の効果に加えてさらに、ピストンの摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、βとγとが下記(数4)を満足する関係にあるもので、ピストンと圧縮室との間のこじりをより確実に防止することができ、請求項2に記載の発明の効果に加えてさらに、ピストンの摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記軸受部がアルミニウムで形成され前記主軸が鉄で形成されているとき、βとγとが下記(数5)を満足する関係にあるもので、ピストンと圧縮室との間のこじりを防止することができ、請求項1に記載の発明の効果に加えてさらに、ピストンの摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、βとγとが下記(数6)を満足する関係にあるもので、ピストンと圧縮室との間のこじりをより確実に防止することができ、請求項4に記載の発明の効果に加えてさらに、ピストンの摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、前記スラストボールベアリングの内周部に前記軸受部の薄肉部が延出した管状延長部が配設されたもので、圧縮荷重の作用点と支持点の距離を縮めることによりシャフト主軸にかかる負荷を低減することができ、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに、シャフト主軸の摩耗低減による高信頼性化と、摺動損失軽減による高効率化とを達成することができる。
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の発明において、前記軸受部のスラスト面に、調心機能を備えた支持部材を配設したもので、それによりスラストボールベアリングのボールへ偏荷重がかかるのを防止でき、請求項1から6に記載の発明の効果に加えてさらに、スラストボールベアリングのボールの摩耗低減による高信頼性化を達成することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図、図2は、同実施の形態における要部拡大図、図3は、同実施の形態における圧縮荷重が作用しないときの要部の拡大断面図、図4は、同実施の形態における圧縮荷重が作用するときの要部の拡大断面図、図5は、同実施の形態における軸受部と圧縮室との位置関係を示す要部の断面図、図6は、同実施の形態における実験の結果を示す特性図であり、同実施の形態に基づいて行
った実験の結果を示している。
図1から図5において、密閉容器101内底部に潤滑油102を貯留するとともに、圧縮機本体104がサスペンションスプリング106により密閉容器101内で内部懸架されている。また、密閉容器101には、温暖化係数の低い冷媒であるR600a(イソブタン)が充填されている。
圧縮機本体104は、電動要素110と、これにより駆動される圧縮要素120とからなり、密閉容器101には電動要素110に電源を供給するための電源端子108が取り付けられている。
まず、電動要素110について説明する。
電動要素110は、薄板を積層した鉄心に銅製の巻線が巻かれて形成される固定子112と、固定子112の内径側に配置される回転子114とを備え、固定子112の巻線が電源端子108を経由して密閉型圧縮機外の電源(図示せず)と導線により接続されている。
次に圧縮要素120について説明する。
圧縮要素120は、電動要素110の上方に配設されている。圧縮要素120を構成するシャフト121は、主軸122と、主軸122と平行な偏心軸124と、主軸122と偏心軸124の間にフランジ部121aとを備えている。また、主軸122には回転子114が固定されている。
シャフト121の下端は、密閉容器101底部の潤滑油102に浸漬しており、シャフト121は、主軸122の表面に設けた螺旋溝164aなどからなり、シャフト121の下端から上端に至る給油機構164を備えている。
シリンダブロック126は、円筒形の内面を有する軸受部127を備え、軸受部127に主軸122が回転自在な状態で挿入され、支持されている。そして、圧縮要素120は、偏心軸124に作用した荷重を偏心軸124の下側に配置された主軸122と軸受部127で支持する片持ち軸受の構成になっている。
また、シリンダブロック126は円筒状の穴部であるシリンダ130を備えており、ピストン128がシリンダ130に往復自在に挿入されている。また、連結手段136は、両端に設けた穴部がそれぞれピストン128に取り付けられたピストンピン129と、偏心軸124に嵌挿されることで、偏心軸124とピストン128と連結している。
シリンダ130端面にはバルブプレート132が取り付けられ、シリンダ130およびピストン128とともに圧縮室134を形成する。さらに、バルブプレート132を覆って蓋をするようにシリンダヘッド138が固定されている。吸入マフラ139は、PBTなどの樹脂で成型され、内部に消音空間を形成し、シリンダヘッド138に取り付けられている。
次にスラスト軸受について説明する。スラスト軸受とは、回転体の回転軸方向に働く力を受け止める軸受である。本実施の形態におけるスラスト軸受は、シャフト121や回転子114に働く重力などによる鉛直下向きの荷重を支持している。
具体的には、図2に示すように、スラスト軸受は、シリンダブロック126上部の管状
延長部162の外周側にあるスラスト面160の上に、上レース192、スラストボールベアリング190、下レース193、支持部材195が互いに接した状態で積み重なって構成されている。
スラストボールベアリング190は、環状のホルダー189の円周方向に複数設けた穴部に、ボールで形成されるボール191を転動自在に収納している。
上レース192の上面はシャフト121のフランジ部121aの下側に当接している。さらに、上レース192の下側にスラストボールベアリング190が配置され、ボール191が接している。さらに、スラストボールベアリング190の下側には下レース193が配置され、ボール191と下レース193が接している。さらに下レース193の下面は支持部材195上部と当接している。さらに、支持部材195はその下面においてシリンダブロック126と接している。
本実施の形態1が従来の密閉型圧縮機と異なる点は、冷媒ガスを圧縮する圧縮荷重が作用したとき、シャフト121の傾きに伴ってピストン128の軸心Cも傾くが、このピストン128の傾きに対応させて、シリンダ130の軸心Dをあらかじめ傾けて形成したことにある。
軸心C、軸心Dの傾きの状態は、図1のみでは十分に表現できないので、圧縮荷重が作用しない場合に、軸心Dを傾けて形成したシリンダ130に対して軸心Cが傾いていないピストン128の状態を図3の拡大断面図で示し、圧縮荷重が作用した場合に、シリンダ130の軸心Dと軸心Cが合致するように傾くピストン128の状態を図4の拡大断面図で示している。
圧縮室134の傾きについては、図5に示したように、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143とが互いに見かけ上交差するように軸受部127および圧縮室134が配置され、第1の中心線141と第2の中心線143とのなす角度αを、従来の密閉型圧縮機ではαは下記(数7)であるのに対して、本実施の形態では、あらかじめ設定した値をβとしたとき、αは上記(数1)としている。
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作作用を説明する。
電源端子108より電動要素110に通電されると、固定子112に発生する磁界により回転子114はシャフト121とともに回転する。主軸122の回転に伴う偏心軸124の偏心回転は、連結手段136により変換され、ピストン128をシリンダ130内で往復運動させる。そして、圧縮室134が容積変化することで、密閉容器101内の冷媒を圧縮室134内に吸入し、圧縮する圧縮動作を行う。
この圧縮動作に伴う吸入行程において、密閉容器101内の冷媒は、吸入マフラ139を介して圧縮室134内に間欠的に吸入され、圧縮室134内で圧縮された後、高温高圧の冷媒は吐出配管などを経由して密閉容器101からの冷凍サイクル(図示せず)へ送られる。
また、シャフト121下端は潤滑油102に浸漬しており、シャフト121が回転する
ことにより、潤滑油102は給油機構164により圧縮要素120各部に供給され、摺動部の潤滑を行う。
次に、スラスト軸受について説明する。
スラストボールベアリング190は、一般的に用いられている滑り軸受の形式のスラストベアリングより摩擦が少なく、近年高効率化を目的に採用されることが増えてきている。また、本実施の形態では調心機能を有する支持部材195によりスラストボールベアリング190の各ボール191に偏荷重がかかることを防止している。
次に圧縮荷重によるシャフト121の傾きについて説明する。
従来の片持ち軸受の構成では、シャフト121は圧縮による荷重などにより、主軸122と軸受部127の隙間の範囲でわずかに傾斜し得る構成である。また、管状延長部162を有する場合の管状延長部162の剛性が低くシャフト121は傾き易くなる。
また、本実施の形態のように支持部材195によってシャフト121のフランジ部121aと上レース192のクリアランスは常に一定であり、油膜による反力を利用できないため、シャフト121がさらに傾き易くなっている。
その結果、連結手段136によってシャフト121の偏心軸124に連結しているピストン128も傾斜する。このため、傾いたシャフト121の主軸軸心145と、シリンダ130の軸心を示す第2の中心線143との相対角度がπ/2[rad]よりも小さくなる。
このシャフト121の傾きによるピストン128のシリンダ130に対するこじりを防止するために、本実施の形態では、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143との相対角度をあらかじめπ/2[rad]よりもわずかに大きくしている。
図5において、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143との見かけ上の交点をOとし、軸受部127とシャフト121の主軸122のクリアランスに基づく軸受部127に対するシャフト121の傾きの絶対値をγとし、あらかじめ設定した値をβとしたとき、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143との相対角度αが上記(数1)と上記(数2)を満たすようにシリンダ130を形成している。
設定値βをシャフト121の傾きの絶対値γに関係付ける具体的な値として実験値を採用することができる。
図6は、シリンダ130の軸心の角度を変えた4種類のシリンダブロック126を用意し、これらのシリンダブロック126を組み込んだ密閉型圧縮機の効率を測定した結果である。すなわち、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143のなす角度がπ/2[rad]からずれている角度βを横軸にとり、それぞれの角度に対する効率COPを縦軸にとって、各測定値を2次曲線で近似した特性図である。
ここで、角度βが零の時の効率は、従来の密閉型圧縮機の平均値を示しており、本実験でのクリアランスによるシャフト121の傾きの絶対値γは約3.7×10−4[rad]であった。図6より、βの角度が約3.7〜10×10−4[rad]の範囲(A)で
効率が最も高くなり、βの角度が約2〜12×10−4[rad]の範囲(B)で、従来の密閉型圧縮機よりも効率が高くなることが分かる。
したがって、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143の角度を上記(数1)で表されるαとしたとき、βとγとが上記(数3)を満足する関係とすることが好ましく、βとγとが上記(数4)を満足する関係とすることが最適であると結論付けられる。
以上のように、上記(数1)で表されるαをシリンダ130の軸心の角度の設計値とし、設定値βを、軸受部127に対するシャフト121の傾きの絶対値γと関連付けて実際の値に近づくように決定することにより、ピストン128と圧縮室134との間のこじりを防止することができる。
また、高効率化のために、圧縮室134の軸心を示す第2の中心線143と軸受部127を示す第1の中心線141とが交わらないように配置されることがある。
具体的に、同実施の形態における軸受部と圧縮室との位置関係を示す上面の断面図である図7を参照して説明する。
シリンダ130の軸心を示す第2の中心線143に対して、軸受部127を示す第1の中心線141(図7では点となる)はE寸法だけ平行にずれており、一般にオフセットと呼ばれる構成である。
上記構成では、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141(図7では点となる)に平行な第3の中心線144(図7では点となる)とシリンダ130の軸心を示す第2の中心線143とが互いに交差し、E寸法が3mm以内であれば本構成においても、図6に示した試験結果と同様の結果が得られている。
したがって、軸受部127に対するシリンダ130のオフセットが3mm(E寸法)以内であれば同様の効果が得られるものであり、軸受部127の軸心を示す第1の中心線141または第1の中心線141に平行な第3の中心線144とが互いに交差するように軸受部127およびシリンダ130が配置され、第1の中心線141または第3の中心線144と第2の中心線143とのなす角度を下記(数1)で表されるαとしたとき、βとγとが上記(数3)を満足する関係とすることが好ましく、βとγとが上記(数4)を満足する関係とすることが最適であると結論付けられる。
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2における密閉型圧縮機の縦断面図、図9は、同実施の形態における要部拡大図、図10は、同実施の形態における圧縮荷重が作用しないときの要部の拡大断面図、図11は、同実施の形態における圧縮荷重が作用するときの要部の拡大断面図、図12は、同実施の形態における軸受部と圧縮室との位置関係を示す要部の断面図である。
また、図13は同実施の形態における実験の結果を示す特性図であり、同実施の形態に基づいて、軸受部と主軸がともに鉄で形成された場合の実験結果であり、図14は、同実施の形態におけるクリアランスの温度依存性を示す特性図であり、軸受部と主軸が異種金属の場合の実験結果を示している。
図8から図12において、密閉容器201内底部に潤滑油202を貯留するとともに、圧縮機本体204がサスペンションスプリング206により密閉容器201内で内部懸架
されている。また、密閉容器201には、温暖化係数の低い冷媒であるR600a(イソブタン)が充填されている。
圧縮機本体204は、電動要素210と、これにより駆動される圧縮要素220とからなり、密閉容器201には電動要素210に電源を供給するための電源端子208が取り付けられている。
まず、電動要素210について説明する。
電動要素210は、薄板を積層した鉄心に銅製の巻線が巻かれて形成される固定子212と、固定子212の内径側に配置される回転子214とを備え、固定子212の巻線が電源端子208を経由して密閉型圧縮機外の電源(図示せず)と導線により接続されている。
次に圧縮要素220について説明する。
圧縮要素220は、電動要素210の上方に配設されている。圧縮要素220を構成するシャフト221は、主軸222と、主軸222と平行な偏心軸224の間にフランジ部221aを備えている。また、主軸222には回転子214が固定されている。
シャフト221の下端は、密閉容器201底部の潤滑油202に浸漬しており、シャフト221は、主軸222の表面に設けた螺旋溝264aなどからなり、シャフト221の下端から上端に至る給油機構264を備えている。
略円筒形の圧縮室234を備えた例えば鉄系の鋳物材からなるシリンダブロック226と、シリンダブロック226に固定されシャフト221の主軸222を軸支するアルミニウム材からなる軸受部227とを備えている。
軸受部227のシリンダブロック226への固定には、例えば、ねじ、リベット等が使用できる。
また、シリンダブロック226は円筒状の穴部であるシリンダ230を備えており、ピストン228がシリンダ230に往復自在に挿入されている。また、連結手段236は、両端に設けた穴部がそれぞれピストン228に取り付けられたピストンピン229と、偏心軸224に嵌挿されることで、偏心軸224とピストン228と連結している。
シリンダ230端面にはバルブプレート232が取り付けられ、シリンダ230およびピストン228とともに圧縮室234を形成する。さらに、バルブプレート232を覆って蓋をするようにシリンダヘッド238が固定されている。吸入マフラ239は、PBTなどの樹脂で成型され、内部に消音空間を形成し、シリンダヘッド238に取り付けられている。
次にスラスト軸受について説明する。スラスト軸受とは、回転体の回転軸方向に働く力を受け止める軸受である。本実施の形態におけるスラスト軸受は、シャフト221や回転子214に働く重力などによる鉛直下向きの荷重を支持している。
具体的には、図8および図9に示すように、スラスト軸受は、シリンダブロック226上部の管状延長部262の外周側にあるスラスト面260の上に、上レース292、スラストボールベアリング290、下レース293、支持部材295が互いに接した状態で積み重なって構成されている。
スラストボールベアリング290は、環状のホルダー289の円周方向に複数設けた穴部に、ボールで形成されるボール291を転動自在に収納している。
上レース292の上面はシャフト221のフランジ部221aの下側に当接している。さらに、上レース292の下側にスラストボールベアリング290が配置され、ボール291が接している。さらに、スラストボールベアリング290の下側には下レース293が配置され、ボール291と下レース293が接している。さらに下レース293の下面は支持部材295上部と当接している。さらに、支持部材295はその下面においてシリンダブロック226と接している。
また、シャフト221の主軸222には、給油機構264の螺旋溝264aが設けられている。
本実施の形態2が従来の密閉型圧縮機と異なる点は、冷媒ガスを圧縮する圧縮荷重が作用したとき、シャフト221の傾きに伴ってピストン228の軸心Cも傾くが、このピストン228の傾きに対応させて、シリンダ230の軸心Dをあらかじめ傾けて形成したことにある。
軸心C、軸心Dの傾きの状態は、図8のみでは十分に表現できないので、圧縮荷重が作用しない場合に、軸心Dを傾けて形成した圧縮室234に対して軸心Cが傾いていないピストン228の状態を図10の拡大断面図で示し、圧縮荷重が作用した場合に、シリンダ230の軸心Dと軸心Cが合致するように傾くピストン228の状態を図11の拡大断面図で示している。
圧縮室234の傾きについては、図11に示したように、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243とが互いに見かけ上交差するように軸受部227および圧縮室234が配置され、第1の中心線241と第2の中心線243とのなす角度αを、従来の密閉型圧縮機ではαは上記(数7)であるのに対して、本実施の形態では、あらかじめ設定した値をβとしたとき、αは上記(数1)としている。
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
電源端子208より電動要素210に通電されると、固定子212に発生する磁界により回転子214はシャフト221とともに回転する。主軸222の回転に伴う偏心軸224の偏心回転は、連結手段236により変換され、ピストン228をシリンダ230内で往復運動させる。そして、圧縮室234が容積変化することで、密閉容器201内の冷媒を圧縮室234内に吸入し、圧縮する圧縮動作を行う。
この圧縮動作に伴う吸入行程において、密閉容器201内の冷媒は、吸入マフラ239を介して圧縮室234内に間欠的に吸入され、圧縮室234内で圧縮された後、高温高圧の冷媒は吐出配管などを経由して密閉容器201からの冷凍サイクル(図示せず)へ送られる。
また、シャフト221下端は潤滑油202に浸漬しており、シャフト221が回転することにより、潤滑油202は給油機構264により圧縮要素220各部に供給され、摺動部の潤滑を行う。
次に、スラスト軸受について説明する。
スラストボールベアリング290は、一般的に用いられている滑り軸受の形式のスラストベアリングより摩擦が少なく、近年高効率化を目的に採用されることが増えてきている。また、本実施の形態では、調心機能を有する支持部材295により、スラストボールベアリング290の各ボール291に偏荷重がかかることを防止している。
次に圧縮荷重によるシャフト221の傾きについて説明する。
片持ち軸受の構成では、シャフト221は圧縮による荷重などにより、主軸222と軸受部227の隙間の範囲でわずかに傾斜し得る構成である。さらに、連結手段236によってシャフト221の偏心軸224に連結しているピストン228も傾斜する。このため、傾いたシャフト221の主軸軸心245と、シリンダ230の軸心を示す第2の中心線243との相対角度がπ/2[rad]よりも小さくなる。
また、本実施の形態では管状延長部262の剛性が低く、また、支持部材295によってシャフト221のフランジ部221aと上レース292のクリアランスは常に一定であり、油膜による反力を利用できないため、従来の密閉型圧縮機と比較し、シャフト221が傾きやすくなっている。
従来の片持ち軸受の構成では、シャフト221は圧縮による荷重などにより、主軸222と軸受部227の隙間の範囲でわずかに傾斜し得る構成である。また、管状延長部262を有する場合、の管状延長部262の剛性が低くシャフト221は傾き易くなる。
また、本実施の形態のように支持部材295によってシャフト221のフランジ部221aと上レース292のクリアランスは常に一定であり、油膜による反力を利用できないため、シャフト221がさらに傾き易くなっている。
その結果、連結手段236によってシャフト221の偏心軸224に連結しているピストン228も傾斜する。このため、傾いたシャフト221の主軸軸心245と、シリンダ230の軸心を示す第2の中心線243との相対角度がπ/2[rad]よりも小さくなる。
このシャフト221の傾きによるピストン228のシリンダ230に対するこじりを防止するために、本実施の形態では、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243との相対角度をπ/2[rad]よりもあらかじめわずかに大きくしている。
図12において、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243との見かけ上の交点をOとし、軸受部227と主軸222のクリアランスに基づく軸受部227に対するシャフト221の傾きの絶対値をγとし、あらかじめ設定した値をβとしたとき、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243との相対角度αが上記(数1)と上記(数2)を満たすように圧縮室234を形成している。
設定値βをシャフト221の傾きの絶対値γに関係付ける具体的な値として軸受部227と主軸222が鉄で形成された場合の密閉型圧縮機の効率を測定した結果から推測することができる。
図13はシリンダ230の軸心の角度を変えた4種類のシリンダブロック226を用意し、これらのシリンダブロック226を組み込んだ密閉型圧縮機の効率を測定した結果で
ある。すなわち、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243のなす角度がπ/2[rad]からずれている角度βを横軸にとり、それぞれの角度に対する効率COPを縦軸にとって、各測定値を2次曲線で近似した特性図である。
ここで、圧縮室の角度が0における効率は従来の密閉型圧縮機の平均値を示しており、本実験でのクリアランスによるシャフト221の傾きの絶対値γは約3.7×10−4[rad]であった。図13より、βの角度が約3.7〜10×10−4[rad]の範囲(A)で効率が最も高くなり、βの角度が約2〜12×10−4[rad]の範囲(B)で、従来の密閉型圧縮機よりも効率が高くなることが分かる。
図14は軸受部227がアルミニウム、主軸222が鉄で形成されている場合と、軸受部227と主軸222がともに鉄で形成されている場合に生じる傾きの温度依存性の計算値を示している。アルミニウムと鉄は線膨張係数に差があるため、運転時の温度によって軸受部227と主軸222のクリアランスが大きく変化する。
密閉型圧縮機の通常の運転領域である60℃付近においてシャフト221のとりうる傾きは軸受部227と主軸222がともに鉄で形成されている場合3.3×10−4[rad]に対し、軸受部227がアルミニウム、主軸222が鉄で形成されているときのシャフト221が取り得る傾きは4.9×10−4[rad]となり、本実施の形態において運転時のシャフト221の傾きは軸受部227と主軸222がともに鉄で形成されている場合よりも傾きやすくなることが分かる。
その結果、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243の角度を上記(数1)で表されるαとしたとき、運転時の温度である60℃の場合のシャフト221の傾きが軸受部227と主軸222がともに鉄で形成されている場合より約1.5倍大きくなることを考慮して、βとγとが上記(数5)を満足する関係とすることが好ましく、βとγとが上記(数6)を満足する関係とすることが最適であると結論付けられる。
以上のように、上記(数1)で表されるαをシリンダ230の軸心の角度の設計値とし、設定値βを、軸受部227に対するシャフト221の傾きの絶対値γと関連付けて実際の値に近づくように決定することにより、ピストン228と圧縮室234との間のこじりを防止することができる。
また、高効率化のために、圧縮室234の軸心を示す第2の中心線243と軸受部227を示す第1の中心線241とが交わらないように配置されることがある。
具体的に、同実施の形態における軸受部と圧縮室との位置関係を示す上面の断面図である図15を参照して説明する。
シリンダ230の軸心を示す第2の中心線243に対して、軸受部227を示す第1の中心線241(図15では点となる)はE寸法だけ平行にずれており、一般にオフセットと呼ばれる構成である。
上記構成では、軸受部227の軸心を示す第1の中心線241(図15では点となる)に平行な第3の中心線244(図15では点となる)とシリンダ230の軸心を示す第2の中心線243とが互いに交差し、E寸法が3mm以内であれば本構成においても、図13に示した試験結果と同様の結果が得られている。
したがって、軸受部227に対するシリンダ230のオフセットが3mm(E寸法)以内であれば同様の効果が得られるものであり、軸受部227の軸心を示す第1の中心線141または第1の中心線241に平行な第3の中心線244とが互いに交差するように軸受部227およびシリンダ230が配置され、第1の中心線241または第3の中心線244と第2の中心線243とのなす角度を下記(数1)で表されるαとしたとき、βとγとが上記(数5)を満足する関係とすることが好ましく、βとγとが上記(数6)を満足する関係とすることが最適であると結論付けられる。
また、アルミニウム材を軸受部227に用いることで、軸受部227の摩擦係数を下げ、摺動ロスを減らすことができ、更なる効率の向上が得られる。