従来の車両用燃料電池においては、テンションシャフトが積層体を積層方向に締め付けることにより、積層方向に対して垂直な方向への単位セルのずれを抑制している。しかしながら、車両の衝突時などに、積層方向に交差する方向に強い衝撃が燃料電池に与えられた場合、積層体内部に大きなせん断力が発生し、このせん断力によりテンションシャフトが撓むとともに、単位セルがずれてしまうという問題があった。
車両用燃料電池の耐衝撃性の向上を図るために、上記特許文献1の燃料電池支持体のように、衝突時に最も大きく撓むスタックの中間位置に中間プレートを設け、この中間プレートの移動を規制する構造を新たに設けることが考えられる。しかし、部品点数が増加してしまい、コスト及び組み立て工数が増加してしまうという問題がある。
また、上記特許文献2の車載用燃料電池スタックのように、締結棒を車両から支持し、締結棒を補強する構造を新たに設けることが考えられる。しかし、燃料電池スタックの車載用スペースが大きくなってしまうという問題がある。
さらに、従来の車両用燃料電池のテンションシャフトの剛性を大きくすることが考えられる。しかし、テンションシャフトの重量が大きくなり、車両用燃料電池自体の重量が大きくなってしまうという問題がある。
本発明の目的は、簡易な構造で、車載用スペースが増大することなく、積層体の耐衝撃性の向上を図ることができる車両用燃料電池を提供することにある。
本発明は、複数の単位セルを積層して構成される積層体と、積層方向における積層体の両端に設けられる一組のエンドプレートと、積層方向における積層体の側面に嵌り、前記両端側から積層体を締め付けるように前記一組のエンドプレートを締結するテンションシャフトと、を有する車両用燃料電池において、積層方向におけるテンションシャフトの中央部と、前記側面上における燃料電池の隅部であって、前記中央部から最も離れた2つの隅部とを連結する連結部材を有することを特徴とする。
また、テンションシャフトは、積層体の側面に互いに間隔を空けて設けられた第1テンションシャフトと第2テンションシャフトとを有し、連結部材は、第1テンションシャフトの中央部と、この中央部に対応する2つの第1隅部とを連結する第1連結部材と、第2テンションシャフトの中央部と、この中央部に対応する2つの第2隅部とを連結する第2連結部材と、を有することができる。
また、第1テンションシャフトと第2テンションシャフトは前記側面の対向する両辺にそれぞれ設けられることが好適である。
また、テンションシャフトは、さらに、第1テンションシャフトと第2テンションシャフトとの間に第3テンションシャフトを有し、連結部材は、第3テンションシャフトの中央部と、第1及び第2隅部とを連結する第3連結部材を有することができる。
また、各連結部材は帯状であることができる。
また、第1及び第2連結部材と第3連結部材とは、第1及び第2隅部に向かう途中で合流して一体化することができる。
また、第1及び第2連結部材と第3連結部とが一体化した部分の幅は、その部分以外の第1及び第2連結部材の幅より大きいことが好適である。
また、前記一体化した部分の幅と、その部分以外の第1及び第2連結部材の幅との比は2:1であることが好適である。
また、前記隅部は、積層方向におけるテンションシャフトの端部であることが好適である。
本発明の車両用燃料電池によれば、簡易な構造で、車載用スペースが増大することなく、積層体の耐衝撃性の向上を図ることができる。
以下、本発明に係る車両用燃料電池の実施形態について、図を用いて説明する。一例として、単位セルの積層方向が車幅方向になるように車両に搭載される車両用燃料電池を挙げ、この車両用燃料電池の構成について説明する。なお、本発明は、単位セルの積層方向と車幅方向とが一致するように車両に搭載される車両用燃料電池に限らず、他の方向、例えば積層方向と車両の進行方向とが一致するように車両に搭載される車両用燃料電池にも適用できる。
図1は、本実施形態の車両用燃料電池(以下、単に燃料電池という)10の構成を示す図であり、図2は、図1のA−A線による断面図である。燃料電池10は、複数の単位セル12を積層して構成される積層体14を有する。単位セル12は、図示しないが、一方の電極であるアノードと、高分子電解質膜と、他方の電極であるカソードとが順に積層した膜電極接合体を、2枚のセパレータで狭持した構造である。
また、燃料電池10は、積層方向における積層体14の両端に設けられる一組のエンドプレート16を有する。エンドプレート16は金属製であり、例えばステンレス鋼である。エンドプレート16には、積層体14に燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却媒体を供給するための開口(図示せず)と、積層体14から排出燃料ガス、排出酸化剤ガス及び冷却媒体を排出するための開口(図示せず)とが形成される。また、エンドプレート16には、後述するテンションシャフト18を締結するボルト用の孔(図示せず)が形成される。
また、燃料電池10は、積層方向における積層体14の側面14aに、積層方向に伸びて設けられるテンションシャフト18を有する。テンションシャフト18は金属製であり、例えば炭素鋼、ステンレス鋼またはこれらを組み合わせた複合材である。テンションシャフト18はエンドプレート16に固定される。具体的には、テンションシャフト18の両端は、ボルト(図示せず)を介してエンドプレート16にそれぞれ締結される。この締結により、エンドプレート16が積層体14の両端側から積層体14を所定の圧力で押し付け、単位セル12間を密着させるとともに、単位セル12間のずれを抑制する。
テンションシャフト18は、側面14aの対向する辺にそれぞれ設けられ、図2に示されるように、側面14aに嵌るように設けられている。テンションシャフト18が側面14aに嵌るとは、側面14の一部が積層方向に沿って凹んで形成され、ここにテンションシャフト18が嵌るということである。この構成により、積層体14とテンションシャフト18とは、積層方向に垂直な方向において互いに当接する。つまり、本実施形態においては、積層体14とテンションシャフト18とは、車両進行方向またはこれに反対の方向において互いに当接する。よって、テンションシャフト18は、車両の振動等により生ずるこれらの方向へ移動体14の移動、すなわち単位セル12間のずれを規制することができる。
図2に示されるように、テンションシャフト18は、軽量化を考慮した角パイプ形状であり、その内部が中空である。なお、テンションシャフト18が角パイプ形状であることに限定されず、丸パイプ形状とすることもでき、または内部を中実にすることもできる。
従来技術で上述したように従来の燃料電池においては、車両の衝突時などに、積層方向に交差する方向に強い衝撃が燃料電池に与えられた場合、積層体内部に大きなせん断力が発生し、このせん断力によりテンションシャフトが撓んで変形するとともに、単位セルがずれてしまうという問題があった。
この問題を解消するために、本実施形態においては、積層方向におけるテンションシャフト18の中央部20と、側面14a上における燃料電池10の隅部であって、中央部20から最も離れた2つの隅部とを連結する連結部材22を有することを特徴とする。本実施形態の隅部とは、積層方向におけるテンションシャフト18の端部24のことである。しかし、本発明はこれに限定されず、隅部をエンドプレート16の端部とすることもできる。
連結部材22は金属製であり、テンションシャフト18の中央部20及び端部24において、例えば溶接により固着される。連結部材22は平板状であり、具体的には、所定の幅t1を有する帯状である。なお、連結部材22は平板状に限定されず、他の形状、例えば棒状であってもよい。
連結部材22は、第1連結部材22aと第2連結部材22bを有する。第1連結部材22aは、車両進行方向側のテンションシャフト18の中央部20と、車両進行方向に反対側のテンションシャフト18の各端部24とを連結するように設けられる。また、第2連結部材22bは、車両進行方向に反対側のテンションシャフト18の中央部20と、車両進行方向のテンションシャフト18の各端部24とを連結するように設けられる。第1及び第2連結部材22a,22bは、図1に示されるように、それぞれV字状であり、これらが交差する領域において一体化されている。
このような構成により、車両の衝突時などに、積層方向に交差する方向に強い衝撃が燃料電池10に与えられた場合、テンションシャフト18の撓みを抑制することができる。具体的に説明すると、上記衝撃により積層体14の慣性質量の影響を受けてテンションシャフト18が最も変形してしまう領域、すなわち最も撓む領域は中央部20であり、逆に最も変形しない領域、すなわち最も撓まない領域は各端部24である。つまり、テンションシャフト18の中央部20は最も剛性が小さく、各端部24は最も剛性が大きい。そこで、連結部材22により、一方のテンションシャフト18の、最も撓む領域である中央部20と、他方のテンションシャフト18の、最も撓まない領域である各端部24とを連結し、剛性の小さい中央部20を補強する。これにより、例えば車両前突時に、積層体14が車両進行方向に移動しようとして車両進行方向側のテンションシャフト18に力を付勢した場合であっても、このテンションシャフト18の中央部20(最も撓む領域)が他方のテンションシャフト18の各端部24(最も撓まない領域)に対して連結部材22aを介して連結され補強されているために、テンションシャフト18の撓みが抑制される。なお、車両後突時の場合も同様に、連結部材22bにより、車両進行方向に反対側のテンションシャフト18の撓みが抑制される。
したがって、従来の燃料電池の構成から連結部材22という簡易な構造を追加するだけで、車両の衝突時におけるテンションシャフト18の撓みを抑制するとともに、単位セル12のずれを抑制することができ、結果として、積層体14の耐衝撃性を向上させることができる。
本実施形態においては、テンションシャフト18が側面14aの対向する辺にそれぞれ設けられる場合について説明したが、この構成に限定されない。テンションシャフト18が、側面14aに互いに間隔を空けて設けられれば、側面14aの辺より内側に設けられてもよい。
本実施形態においては、第1及び第2連結部材22a,22bはそれぞれV字状である場合について説明したが、この構成に限定されない。連結部材22は、一方のテンションシャフト18の中央部20と、他方のテンションシャフト18の1つの端部24、またはこの端部24よりさらに積層方向において外側のエンドプレート16の端部とを連結するように設けられてもよい。この構成でも、一方のテンションシャフト18の撓みを抑制することができる。
次に、別の態様の燃料電池10について、図を用いて説明する。図3は、別の態様の燃料電池10の構成を示す図であり、図4は、図3のB−B線による断面図である。なお、上記実施形態と同じ構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
この実施形態の燃料電池10は、側面14aの対向する辺にそれぞれ設けられたテンションシャフト18のほかに、これらのテンションシャフト18の間に、さらにテンションシャフト18を有する。このテンションシャフト18は、側面14aの中央に設けられ、エンドプレート16に固定される。具体的には、テンションシャフト18の両端は、ボルト(図示せず)を介してエンドプレート16にそれぞれ締結される。図4に示されるように、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18は、両辺に設けられたテンションシャフト18と同様に、角パイプ形状であり、その内部が中空である。しかし、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18には、より強い剛性が求められるため、このテンションシャフト18の中空部分は、他のテンションシャフト18のそれよりも小さく形成されている。
連結部材22は、第1連結部材22aと第2連結部材22bの他に、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18の中央部20と、両辺に設けられた各テンションシャフト18の計4個の端部24とをそれぞれ連結する第3連結部材22cを有する。
本実施形態の第3連結部材22cは、各端部24に向かう途中で第1及び第2連結部材22a,22bに合流して一体化される。各連結部材22a,22b,22cが一体化されることにより、部品点数を削減することができ、組み立て工数を削減することができる。しかし、本発明は、この構成に限定されず、第3連結部材22cと第1及び第2連結部材22a,22bとが別々に設けられてもよい。
また、第1及び第2連結部材22a,22bと第3連結部材22cとが一体化した部分の幅t2は、この部分以外の第1及び第2連結部材22a,22bの幅t1より大きく形成される。具体的には、幅t2と幅t1との比は、2:1であることが好適である。上述の一体化した部分の幅t2がそれ以外に部分の幅t1より大きく形成されることにより、一体化した部分が、第1または第2連結部材22a,22bと、第3連結部材22cとがそれぞれ連結する中央部20から受ける合計の反力を許容することができる。
なお、図3に示されるように、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18の中央部20領域の第3連結部材22cの幅が、他の中央部20領域の第1及び第2連結部材22a,22bの幅より大きく形成されている。これは、両辺のテンションシャフト18より大きい肉厚を有する、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18と第3連結部材22cとを溶接により固着するとき、第3連結部材22cに生じるひずみを防止するためである。
また、図3に示されるように、各連結部材22a,22b,22cが合流する部分には孔26が形成されている。この合流部分の幅は、上述の幅t1,t2より大きく、無駄な領域が含まれる。そこで、孔26を形成することにより、無駄な領域を削減し、燃料電池10の軽量化を図っている。なお、合流部分の無駄な領域を削減するためには孔26を形成することに限らず、切り欠きを形成することもできる。
次に、このように構成される燃料電池10において、車両前突時などに、車両進行方向に強い衝撃が積層体14に与えられた場合について説明する。
上記衝撃による積層体14の慣性質量の影響を受けて、車両進行方向側のテンションシャフト18と、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18とが撓もうとする。これらのテンションシャフト18の各中央部20と、車両進行方向の反対側のテンションシャフト18の各端部24とにはそれぞれ連結部材22a,22cが連結されている。つまり、車両進行方向側のテンションシャフト18と、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18との最も剛性が小さい部分と、車両進行方向の反対側のテンションシャフト18の最も剛性が大きい部分とがそれぞれ連結部材22a,22cにより連結されている。この構成により、車両進行方向側のテンションシャフト18と、側面14aの中央に設けられたテンションシャフト18との最も剛性が小さい部分である中央部20が補強され剛性が大きくなるので、これらのテンションシャフト18の撓みが抑制される。なお、車両後突時の場合も同様に、各連結部材22b,22cにより、車両進行方向に反対側のテンションシャフト18の撓みが抑制される。
したがって、本実施形態においては、上述した実施形態の構成から連結部材22cという簡易な構造を追加するだけで、単位セル12のずれを確実に抑制することができ、結果として、積層体14の耐衝撃性をさらに向上させることができる。