本発明の定着装置、及び画像形成装置の第1実施形態を図面に基づき説明する。
図1には、画像形成装置としてのプリンタ10が示されている。
プリンタ10において、プリンタ10の本体を構成する筐体12に光走査装置54が固定されており、光走査装置54に隣接する位置に、光走査装置54及びプリンタ10の各部の動作を制御する制御ユニット50が設けられている。
光走査装置54は、図示しない光源から出射された光ビームを回転多面鏡(ポリゴンミラー)で走査し、反射ミラー等の複数の光学部品で反射して、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及び ブラック(K)の各トナーに対応した光ビーム60Y、60M、60C、60Kを出射するようになっている。
光ビーム60Y、60M、60C、60Kは、それぞれ対応する各感光体20Y、20M、20C、20Kに導かれる。
プリンタ10の下方側には、記録用紙Pを収納する用紙トレイ14が設けられている。用紙トレイ14の上方には、記録用紙Pの先端部位置を調整する一対のレジストローラ16が設けられている。
プリンタ10の中央部には、画像形成ユニット18が設けられている。画像形成ユニット18は、前述の4つの感光体20Y、20M、20C、20Kを備えており、これらが上下一列に並んでいる。
感光体20Y、20M、20C、20Kの回転方向上流側には、感光体20Y、20M、20C、20Kの表面を帯電する帯電ローラ22Y、22M、22C、22Kが設けられている。
また、感光体20Y、20M、20C、20Kの回転方向下流側には、Y、M、C、Kの各トナーをそれぞれ感光体20Y、20M、20C、20K上に現像する現像器24Y、24M、24C、24Kが設けられている。
一方、感光体20Y、20Mには第1中間転写体26が接触し、感光体20C、20Kには第2中間転写体28が接触している。そして、第1中間転写体26、第2中間転写体28には第3中間転写体30が接触している。
第3中間転写体30と対向する位置には、転写ロール32が設けられている。転写ロール32と第3中間転写体30との間を記録用紙Pが搬送され、第3中間転写体30上のトナー画像を記録用紙Pに転写させる。
記録用紙Pが搬送される用紙搬送路34の下流には、定着装置100が設けられている。定着装置100は、定着ベルト102と加圧ロール104を有しており、記録用紙Pを加熱・加圧してトナー画像を記録用紙P上に定着させる。
トナー画像が定着された記録用紙Pは、用紙搬送ロール36でプリンタ10の上部に設けられたトレイ38に排出される。
ここで、プリンタ10の画像形成について説明する。
画像形成が開始されると、各感光体20Y〜20Kの表面が帯電ローラ22Y〜22Kによって一様に帯電される。
光走査装置54から出力画像に対応した光ビーム60Y〜60Kが、帯電後の感光体20Y〜20Kの表面に照射され、感光体20Y〜20K上に各色分解画像に応じた静電潜像が形成される。
この静電潜像に対して、現像装置24Y〜24Kが選択的に各色、すなわちY〜Kのトナーを付与し、感光体20Y〜20K上にY〜K色のトナー画像が形成される。
その後、マゼンタ用の感光体20Mから第1中間転写体26にマゼンタのトナー画像が一次転写される。また、イエロー用の感光体20Yから第1中間転写体26にイエローのトナー画像が一次転写され、第1中間転写体26上で前記マゼンタのトナー画像に重ね合わされる。
一方、同様にブラック用の感光体20Kから第2中間転写体28にブラックのトナー画像が一次転写される。また、シアン用の感光体20Cから第2中間転写体28にシアンのトナー画像が一次転写され、第2中間転写体28上で前記ブラックのトナー画像に重ね合わされる。
第1中間転写体26へ一次転写されたマゼンタとイエローのトナー画像は、第3中間転写体30へ二次転写される。一方、第2中間転写体28へ一次転写されたブラックとシアンのトナー画像も、第3中間転写体30へ二次転写される。
ここで先に二次転写されているマゼンタ 、イエローのトナー画像と、シアンおよびブラックのトナー画像とが重ね合わされ、カラー(3色)とブラックのフルカラートナー画像が第3中間転写体30上に形成される。
二次転写されたフルカラートナー画像は、第3中間転写体30と転写ロール32との間のニップ部に達する。そのタイミングに同期して、レジストロール16から記録用紙Pが当該ニップ部分に搬送され、記録用紙P上にフルカラートナー画像が三次転写(最終転写)される。
この記録用紙Pは、その後、定着装置100に送られ、定着ベルト102と加圧ロール104とのニップ部を通過する。その際、定着ベルト102と加圧ロール104とから与えられる熱と圧力との作用により、フルカラートナー画像が記録用紙Pに定着する。定着後、記録用紙Pは用紙搬送ロール36によりトレイ38に排出され、記録用紙Pへのフルカラー画像形成が終了する。
次に、本実施形態に係る定着装置100について説明する。
図2aに示すように、定着装置100は、記録用紙Pの進入又は排出を行うための開口が形成された筐体126を備えている。
筐体126の内部には、矢印D方向へ回転する無端状の定着ベルト102が設けられている。
図2bに示すように、定着ベルト102は、内側から外側に向けて基層134、弾性層132、及び離型層130で構成されており、これらが積層され一体となっている。
基層134は、定着ベルト102の機械強度を保持でき、また、それ自体が電磁誘導により発熱しにくい非磁性体(比透磁率が概ね1の常磁性体)で構成されることが好ましい。本実施形態ではポリイミドを用いているが、非磁性SUSを用いてもよい。厚さは50μmとしている。
弾性層132は、優れた弾性と耐熱性が得られる等の観点から、シリコン系ゴム、又はフッ素系ゴムが好ましく、本実施形態ではシリコンゴムを用いている。本実施形態では、弾性層132の厚さを200μmとしている。
離型層130は、記録用紙P上で溶融されたトナーT(図2a参照)との接着力を弱めて、記録用紙Pを定着ベルト102から剥離し易くするために設けられる。優れた表面離型性を得るためには、離型層130として、フッ素樹脂、シリコン樹脂、又はポリイミド樹脂を用いることが好ましく、本実施形態ではPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)を用いている。離型層130の厚さは10μmとしている。
図2aに示すように、定着ベルト102の外周面と対向する位置には、絶縁性の材料で構成されたボビン108が配置されている。ボビン108と定着ベルト102との間隔は1〜3mm程度となっている。ボビン108は、定着ベルト102の外周面に倣った略円弧状に形成されており、凸部108Aが突設されている。
ボビン108には、励磁コイル110が、凸部108Aを中心として軸方向(図2aの紙面奥行き方向)に複数回巻き回されている。励磁コイル110は、後述の通電回路144(図3参照)によって通電され、磁界Hを発生するようになっている。
励磁コイル110と対向する位置には、ボビン108の円弧状に倣って略円弧状に形成された磁性体コア112が配置され、ボビン108に支持されている。
一方、定着ベルト102の内側には、定着ベルト102の内周面と面接触し、発熱して定着ベルト102を定着設定温度まで昇温する発熱体118が設けられている。
また、定着ベルト102の内側には、発熱体118と非接触で支持部材114が設けられている。支持部材114は、非磁性体であるアルミニウムからなり、両端が定着装置100の図示しない筐体に固定されている。
支持部材114の端面には、定着ベルト102を所定の圧力で外側に向けて押圧するための押圧パッド116が固定されている。これにより、押圧パッド116を支持する部材を別途設ける必要がなく、定着装置100の小型化が可能となっている。
押圧パッド116は、ウレタンゴム又はスポンジ等の弾性を有する部材で構成され、一端面が定着ベルト102の内周面と接触して定着ベルト102を押圧している。
一方、定着ベルト102の外周面と対向する位置には、定着ベルト102を押圧パッド116に向けて加圧するとともに、図示しないモータ及びギアからなる駆動機構により矢印E方向に回転する加圧ロール104が配置されている。
加圧ロール104は、アルミニウム等の金属からなる芯金106の周囲に、シリコンゴム及びPFAが被覆された構成となっている。また、加圧ロール104は、図示しないソレノイド等の電磁スイッチ、又はカム機構を用いて矢印A、B方向に移動可能となっており、矢印A方向に移動したときは定着ベルト102の外周面と接触して加圧し、矢印B方向に移動したときは定着ベルト102の外周面から離間するようになっている。
ここで、加圧ロール104が定着ベルト102を押圧パッド116側に加圧すると、定着ベルト102と加圧ロール104の接触部(ニップ部)において、定着ベルト102に凹部103が形成され、凹部103の両側に凸部105が形成される。
このニップ部の形状は、トナーTが載った記録用紙Pが通過するときに、定着ベルト102から記録用紙Pを剥離させる方向に湾曲した形状となっている。このため、矢印IN方向から搬送されてきた記録用紙Pは、それ自体の腰の強さでニップ部の形状に倣って矢印OUT方向に排出される。
また、押圧パッド116は、定着ベルト102を加圧ロール104側に押圧するとともに定着ベルト102の内周面に倣って湾曲し、ニップ部の面積を広げている。
定着ベルト102の表面で、励磁コイル110と対向しない領域で且つ記録用紙Pの排出側の領域には、定着ベルト102表面の温度を測定するサーミスタ124が接触して設けられている。サーミスタ124の接触位置は、記録用紙Pのサイズの大小によって測定値が変わらないように、定着ベルト102の軸方向(図2の紙面奥行き方向)の略中央部となっている。
サーミスタ124は、定着ベルト102表面から与えられる熱量に応じて抵抗値が変化することで、定着ベルト102表面の温度を計測する。
図3に示すように、サーミスタ124は、配線138を介して、前述の制御ユニット50(図1参照)の内部に設けられた制御回路140に接続されている。また、制御回路140は、配線142を介して通電回路144に接続されており、通電回路144は、配線146、148を介して前述の励磁コイル110に接続されている。
ここで、制御回路140は、サーミスタ124から送られた電気量に基づいて定着ベルト102表面の温度を測定し、この測定温度と予め記憶させてある定着設定温度(本実施形態では170℃)と比較する。そして、測定温度が定着設定温度よりも低い場合は、通電回路144を駆動して励磁コイル110に通電し、磁気回路としての磁界H(図2a参照)を発生させる。一方、測定温度が定着設定温度よりも高い場合は、通電回路144を停止するようになっている。
通電回路144は、制御回路140から送られる電気信号に基づいて駆動又は駆動停止され、配線146、148を介して励磁コイル110に所定の周波数の交流電流を供給(矢印方向)又は供給停止するようになっている。
次に発熱体118について説明する。
図2a及び図2bに示すように、発熱体118は、定着ベルト102の内周面と面接触する発熱層120と、発熱層120の裏側(定着ベルト102と反対側)に配置される熱伝導層122とで構成されており、これらが積層され一体となっている。
発熱層120は、磁界H(図2a参照)を打ち消す磁界を生成するように渦電流が流れる電磁誘導作用により発熱する金属材料であり、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、SUS、又はこれらの合金の金属材料を用いることができる。本実施形態では、発熱層120として鉄−ニッケル合金を用いている。
発熱層120の厚さは、定着装置100のウォームアップ時間を短くするためにできるだけ薄くした方がよい。しかし、磁界H(図2a参照)が発熱層120を抜けて熱伝導層122に到達すると、僅かではあるが熱伝導層122でも発熱する。このため、発熱層120の厚さは、磁界Hを侵入させて、且つ熱伝導層122に磁界Hが届きにくい表皮深さ以上の厚さであることが好ましい。
本実施形態では、表皮深さ以上で、且つウォームアップ時間を短縮できる厚さとして、発熱層120の厚さを0.9mmとしている。
一方、熱伝導層122は、銀、銅、金、アルミニウム等の金属、又はこれらの合金で構成されるもので、本実施形態では銅を使用している。
熱伝導層122は銅で構成され、発熱層120は鉄−ニッケル合金で構成されている。このため、熱伝導層122の方が、発熱層120よりも熱伝導率(熱流束密度(単位時間に単位面積を通過する熱エネルギー)を温度勾配で割ったもの)が大きくなっている。なお、熱伝導層122の厚さは、1mmとしている。
ここで、発熱層120及び熱伝導層122は、クラッド材として一体成型されている。
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
図1〜図3に示すように、前述のプリンタ10の画像形成工程を経て、トナーTが転写された記録用紙Pが定着装置100に送られる。
定着装置100において、前述の制御ユニット50の制御により、定着ベルト102表面の温度が定着設定温度に到達するまでは、加圧ロール104が定着ベルト102表面から離間されており、定着ベルト102表面の温度が定着設定温度に到達すると、加圧ロール104が移動して定着ベルト102表面に接触する。
定着ベルト102表面の温度は、加圧ロール104との接触により一時的に低下するが、発熱層120が継続して発熱することで、定着設定温度に到達する。
このように、定着ベルト102の昇温時に加圧ロール104が接触しておらず、定着ベルト102単体で昇温できるので、定着ベルト102と加圧ロール104とが接触した状態で昇温するよりも、ウォームアップ時間を短くすることができる。
続いて、定着装置100では、加圧ロール104が矢印E方向への回転駆動を開始し、定着ベルト102がそれに従動して矢印D方向へ回転する。このとき、前述の制御回路140からの電気信号に基づいて通電回路144が駆動され、励磁コイル110に交流電流が供給される。
励磁コイル110に交流電流が供給されると、励磁コイル110の周囲に磁気回路としての磁界H(図2a参照)が生成消滅を繰り返す。
そして、図4に示すように、磁界Hが発熱体118の発熱層120に侵入すると、磁界Hの変化を妨げる磁界が生じるように発熱層120に渦電流(図示せず)が発生する。
発熱層120は、発熱層120の表皮抵抗、及び発熱層120を流れる渦電流の大きさに比例して発熱し、これによって定着ベルト102が加熱される。
定着ベルト102表面の温度は、図3に示すようにサーミスタ124で検知され、定着設定温度170℃に到達していない場合は、制御回路140が通電回路144を駆動制御して励磁コイル110に所定の周波数(20kHz〜100kHz)の交流電流を通電する。また、定着設定温度に到達している場合は、制御回路140が通電回路144の制御を停止する。
続いて、図2に示すように、定着装置100に送り込まれた記録用紙Pは、発熱層120が発熱して所定の定着設定温度(170℃)となっている定着ベルト102と、加圧ロール104とによって加熱押圧され、トナー画像が記録用紙P表面に定着される。
記録用紙Pは、定着ベルト102と加圧ロール104との間のニップ部から送り出されるとき、それ自体の剛性によってニップ部に沿った方向に直進しようとするため、定着ベルト102から剥離される。
定着装置100から排出された記録用紙Pは、用紙搬送ロール36によりトレイ38に排出される。
ここで、小サイズの記録用紙Pを連続して通紙して定着を行い、続いて大サイズの記録用紙Pを通紙する場合について説明する。
図5a及び図5bに示すように、定着ベルト102において、小サイズの記録用紙Pが通過する領域をB、大サイズの記録用紙Pが通過する領域をA+B+C、記録用紙Pが通過せず励磁コイル110(図2a参照)が配置されていない領域をD及びEとする。また、熱伝導層122が無い場合の定着ベルト102の温度グラフをT1、本実施形態の定着ベルト102の温度グラフをT2とする。
まず、小サイズの記録用紙Pが連続して通紙され定着が行われると、定着ベルト102における記録用紙Pの通過領域Bでは、記録用紙Pに熱量が奪われて定着ベルト102の温度が定着設定温度(170℃)よりも低下する。
制御回路140(図3参照)は、サーミスタ124で検知された温度と定着設定温度の差に基づいて、定着ベルト102の温度を定着設定温度に近づけるように通電回路144(図3参照)を制御し、発熱層120が発熱する。これにより、定着ベルト102の温度が上昇する。
定着ベルト102における記録用紙Pの非通過領域A、C(D、E含む)では、記録用紙Pに熱量が奪われることがないので、発熱層120の発熱によって温度がさらに上昇する。
ここで、熱伝導層122が無い場合は、記録用紙Pの非通過領域A、Cにおける温度上昇を低減する手段を有していないため、グラフT1のように、定着ベルト102における記録用紙Pの通過領域Bと非通過領域A、Cの温度差が大きくなる。
記録用紙Pの通過領域Bと非通過領域A、Cの温度差が大きくなると、小サイズの記録用紙Pの後に大サイズの記録用紙Pを定着したときに、記録用紙Pの端部に過剰な熱量が与えられてしまい、トナーTの一部が定着ベルト102側に残ってしまう、いわゆるホットオフセット現象となって、画像の定着むらが生じる。
一方、本実施形態の定着装置100では、発熱層120の単位長さ当りの発熱量は領域A、B、Cで変わらないが、定着ベルト102における記録用紙Pの非通過領域A、Cで発熱層120の温度が上昇し、熱伝導層122との間で温度勾配が生じる。
この温度勾配により、非通過領域A、Cにおける発熱層120の過剰な熱量が、矢印H1に示すように熱伝導層122に熱伝導し、非通過領域A、Cにおける発熱層120及び定着ベルト102の温度が下がる。
熱伝導層122では、発熱層120から伝導した熱量によって、非通過領域A、Cの温度が通過領域Bの温度よりも高くなっており、熱伝導層122内で温度勾配が生じている。このため、発熱層120から熱伝導層122に移動した熱量は、矢印H2に示すように熱伝導層122内を移動する。
定着ベルト102における記録用紙Pの通過領域Bでは、定着ベルト102及び発熱層120の熱量が記録用紙Pに奪われて温度が低下しているため、発熱層120の温度が熱伝導層122の温度よりも低くなり、温度勾配が生じる。これにより、熱伝導層122の熱量が、矢印H3に示すように、記録用紙Pの通過領域Bにおける発熱層120及び定着ベルト102に伝導する。
このように、過剰な熱量が矢印H1からH3の経路で移動することにより、発熱層120における温度分布が均一になる。また、定着ベルト102における記録用紙Pの非通過領域A、Cの温度上昇が低減されるとともに、温度低下した通過領域Bの温度が上昇するので、温度分布のグラフはT2のようになる。
こうして、非通過領域A、Cと通過領域Bの温度差が低減され、定着ベルト102の温度が各領域で略均一になると、小サイズの記録用紙Pの定着後に大サイズの記録用紙Pを定着しても、大サイズの記録用紙Pの端部で前述のホットオフセット現象が起こりにくく、定着むらが生じにくい。
また、発熱体118がクラッド材で構成されており、発熱層120と熱伝導層122界面の金属結合が強いため、発熱層120から熱伝導層122への熱移動がスムーズに行われ、発熱層120と熱伝導層122の熱膨張率の違いによる発熱層120と熱伝導層122界面の剥がれが発生しにくい。
さらに、熱伝導層122に用いる材料が磁界H発生による電磁誘導効果で僅かに発熱するものであったとしても、発熱層120が表皮深さ以上の厚さとなっているので、磁界Hが熱伝導層122に到達しない。このため、熱伝導層122自体が発熱することがなく、定着ベルト102が過剰に昇温されることがない。
次に、本発明の定着装置及び画像形成装置の第2実施形態を図面に基づき説明する。
なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図6aに示すように、定着装置100において、前述の定着ベルト102に替えて定着ベルト158が設けられている。また、定着ベルト158の内側にはヒートパイプ150、160が設けられ、前述の発熱層120は、ヒートパイプ150、160表面に被覆されている。
図6bに示すように、定着ベルト158は、内側から外側に向けて基層166、誘導発熱層164、弾性層132、及び離型層130で構成されており、これらが積層され一体となっている。基層166は、ポリイミドで構成され、厚さは60μmとなっている。また、誘導発熱層164は、銅合金で構成されており、磁界Hが貫通可能となるように、厚さが表皮深さ以下の10μmとなっている。
一方、図7aに示すように、ヒートパイプ150は、略半円筒状に形成されたコンテナ152と、コンテナ152の内壁に取り付けられた毛細管構造のウィック154と、コンテナ152の内部に減圧封入された作動液Lとで構成されている。また、ヒートパイプ150は、長手方向に、入熱部(蒸発部)L1、断熱部L2、放熱部(凝縮部)L3を有している。
ここで、ヒートパイプ150の入熱部L1が、発熱層120(図6参照)又は定着ベルト158により加熱され、矢印H1のように熱量が与えられると、入熱部L1で作動液Lが蒸発する。
続いて、入熱部L1、断熱部L2、及び放熱部L3の圧力差によって、矢印H2に示すように、作動液Lの蒸気が断熱部L2を越えて放熱部L3に移動する。
続いて、入熱部L1よりも低温の放熱部L3で、作動液Lの蒸気が凝縮さされるとともに矢印H3に示すように蒸発潜熱を放出(放熱)する。
続いて、放熱部L3で凝縮された作動液Lは、矢印H4に示すように、ウィック154における毛細管現象により入熱部L1に環流する。
このように、作動液Lの一連の相変化が連続的に生じることで、入熱部L1の熱が素早く放熱部L3に移動するようになっている。
なお、ヒートパイプ160はヒートパイプ150と同じ構成であるため、説明を省略する。
また、図7bに示すように、ヒートパイプ150、160は、定着ベルト158の軸方向に並んで配置されており、定着ベルト158における小サイズ及び大サイズの記録用紙Pの通過領域をカバーしている。
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
図1〜図3に示すように、前述のプリンタ10の画像形成工程を経て、トナーTが転写された記録用紙Pが定着装置100に送られる。
続いて、定着装置100では、加圧ロール104が矢印E方向への回転駆動を開始し、定着ベルト158がそれに従動して矢印D方向へ回転する。このとき、前述の制御回路140からの電気信号に基づいて通電回路144が駆動され、励磁コイル110に交流電流が供給される。
励磁コイル110に交流電流が供給されると、励磁コイル110の周囲に磁気回路としての磁界H(図2a参照)が生成消滅を繰り返す。
そして、図6bに示すように、磁界Hが定着ベルト158の誘導発熱層164を横切り、発熱層120に侵入すると、磁界Hの変化を妨げる磁界が生じるように誘導発熱層164及び発熱層120に渦電流(図示せず)が発生する。
誘導発熱層164及び発熱層120は、表皮抵抗、及び渦電流の大きさに比例して発熱し、これによって定着ベルト158が加熱される。
定着ベルト158表面の温度は、図3に示すようにサーミスタ124で検知され、定着設定温度170℃に到達していない場合は、制御回路140が通電回路144を駆動制御して励磁コイル110に所定の周波数(20kHz〜100kHz)の交流電流を通電する。また、定着設定温度に到達している場合は、制御回路140が通電回路144の制御を停止する。
続いて、図6aに示すように、定着装置100に送り込まれた記録用紙Pは、発熱層120が発熱して所定の定着設定温度(170℃)となっている定着ベルト158と、加圧ロール104とによって加熱押圧され、トナー画像が記録用紙P表面に定着される。
記録用紙Pは、定着ベルト158と加圧ロール104との間のニップ部から送り出されるとき、それ自体の剛性によってニップ部に沿った方向に直進しようとするため、定着ベルト158から剥離される。
定着装置100から排出された記録用紙Pは、用紙搬送ロール36によりトレイ38に排出される。
ここで、小サイズの記録用紙Pを連続して通紙して定着を行い、続いて大サイズの記録用紙Pを通紙する場合について説明する。なお、定着ベルト158の温度については、第1実施形態と同様に図5bを用いて説明する。
図5bに示すように、定着ベルト158において、小サイズの記録用紙Pが通過する領域をB、大サイズの記録用紙Pが通過する領域をA+B+C、記録用紙Pが通過せず励磁コイル110(図2a参照)が配置されていない領域をD及びEとする。また、ヒートパイプ150、160が無い場合の定着ベルト158の温度グラフをT1、本実施形態の定着ベルト158の温度グラフをT2とする。
まず、小サイズの記録用紙Pが連続して通紙され定着が行われると、定着ベルト158における記録用紙Pの通過領域Bでは、記録用紙Pに熱量が奪われて定着ベルト158の温度が定着設定温度(170℃)よりも低下する。
制御回路140(図3参照)は、サーミスタ124で検知された温度と定着設定温度の差に基づいて、定着ベルト158の温度を定着設定温度に近づけるように通電回路144(図3参照)を制御し、誘導発熱層164(図6b参照)及び発熱層120が発熱する。これにより、定着ベルト158の温度が上昇する。
定着ベルト158における記録用紙Pの非通過領域A、C(D、E含む)では、記録用紙Pに熱量が奪われることがないので、誘導発熱層164及び発熱層120の発熱によって温度がさらに上昇する。
ここで、ヒートパイプ150、160が無い場合は、記録用紙Pの非通過領域A、Cにおける温度上昇を低減する手段を有していないため、グラフT1のように、定着ベルト102における記録用紙Pの通過領域Bと非通過領域A、Cの温度差が大きくなる。
記録用紙Pの通過領域Bと非通過領域A、Cの温度差が大きくなると、小サイズの記録用紙Pの後に大サイズの記録用紙Pを定着したときに、記録用紙Pの端部に過剰な熱量が与えられてしまい、トナーTの一部が定着ベルト158側に残ってしまう、いわゆるホットオフセット現象となって、画像の定着むらが生じる。
一方、図7bに示すように、本実施形態の定着装置100では、定着ベルト158における記録用紙Pの非通過領域A、Cで発熱層120の温度が上昇した場合、発熱層120の単位長さ当りの発熱量は記録用紙Pの通過領域Bと変わらないが、発熱層120自体の温度が高くなっているために、発熱層120とヒートパイプ150、160との間で温度勾配が生じる。
この温度勾配により、非通過領域A、Cにおける発熱層120の過剰な熱量が、矢印H1に示すようにヒートパイプ150、160に熱伝導し、非通過領域A、Cにおける発熱層120及び定着ベルト102の温度が下がる。
ヒートパイプ150、160は、発熱層120から伝導した熱量によって、非通過領域A、Cの温度が通過領域Bの温度よりも高くなっている。このため、ヒートパイプ150、160では、前述の作動液Lの一連の相変化によって熱量が移動し(矢印H2)、記録用紙Pの通過領域Bにおいて放熱を行う(矢印H3)。
定着ベルト158における記録用紙Pの通過領域Bでは、誘導発熱層164及び発熱層120の発熱と、ヒートパイプ150、160からの放熱によって温度が定着設定温度近くまで上昇する。
このように、非通過領域A、Cの過剰な熱量が、矢印H1からH3の経路で移動することにより、発熱層120における温度分布が均一になる。また、定着ベルト158における記録用紙Pの非通過領域A、Cの温度上昇が低減されるとともに、温度低下した通過領域Bの温度が上昇するので、温度分布のグラフは図5bのT2のようになる。
こうして、非通過領域A、Cと通過領域Bの温度差が低減され、定着ベルト158の温度が各領域で略均一になると、小サイズの記録用紙Pの定着後に大サイズの記録用紙Pを定着しても、大サイズの記録用紙Pの端部で前述のホットオフセット現象が起こりにくく、定着むらが生じにくい。
また、ヒートパイプ150、160によって熱量移動が短時間で行われるので、定着ベルト158における記録用紙Pの非通過領域A、Cの過剰な蓄熱が短時間で低減される。
さらに、記録用紙Pの通過領域Bが温度低下しても、誘導発熱層164が発熱して定着ベルト158の温度低下を抑えるので、記録用紙Pを連続して定着することができ、生産性が維持される。
また、定着ベルト158の誘導発熱層164の厚さは、誘導発熱層164に電流が流れる表皮深さ以下の厚さとなっているので、磁界Hは定着ベルト158を貫通して発熱層120に到達する。これにより、定着ベルト158によって発熱層120への磁界Hの到達が遮断されることがなくなる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
プリンタ10は、固体の現像剤を用いる乾式の電子写真方式だけでなく、液体現像剤を用いるものであってもよい。
定着ベルト102の温度の検知手段として、サーミスタ124の代わりに熱電対を用いてもよい。
サーミスタ124の取付け位置は、定着ベルト102の表面に限定されず、定着ベルト102の内周面に取付けてもよい。この場合、定着ベルト102の表面が摩耗しにくくなる。また、サーミスタ124は、加圧ロール104の表面に取付けてもよい。
ヒートパイプ150、160は、3本以上の複数のヒートパイプで構成してもよく、定着ベルト158の周方向(回転方向)に並列してもよい。