JP5258179B2 - 地下水の浄化方法 - Google Patents

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本発明は、有機化合物により汚染された地下水を浄化する方法に関し、とくに、揮発性有機化合物、ダイオキシン類、PCB等の有機塩素化合物等に汚染された地下水の浄化に好適な浄化方法に関する。
近年、トリクロロエチレン(TCE)やテトラクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物による地下水等の汚染が深刻化しているが、これらの浄化方法としては地下水を揚水した後に活性炭や曝気等により地下水中の汚染物質の処理を行うポンプアンドトリート法や地下水中に酸化剤もしくは還元剤等の化学物質を添加して汚染物質を化学的に分解する手法等の物理化学的処理法が多用されている。また、近年では汚染環境中に栄養塩や有機物、酸素等を混合することにより汚染環境中の微生物群の活動を活発化させて汚染物質の分解・無害化を行う生物学的処理法(バイオレメディエーション)も物理化学的手段と比較してコスト的に有利であるなどの理由から一部の汚染物質に対して適用され始めている。特に、最近では低コストな浄化技術として有機塩素化合物汚染土壌や地下水中に有機物や栄養塩等を添加し、汚染環境を還元的雰囲気にし、水素生成菌により発生した水素を使用して有機塩素化合物の脱塩素化を行う菌群を活性化させて無害化を行う嫌気性バイオスティミュレーション法が使用されてきている。このときの有機物源としてはエタノール、メタノール、クエン酸等の低分子化合物から、油脂やポリ乳酸グリセリンエステルのような高分子化合物まで様々なものが使用されている。
嫌気性バイオスティミュレーション法においては、地中に水素供与体として有機物を注入する必要があり、現状ではポリ乳酸エステル(特許文献1)、酵母エキス(特許文献2)、クエン酸塩(特許文献3)等が用いられている。
しかしながら、酵母エキスやクエン酸塩類は微生物による分解性が非常に高く、汚染土壌・地下水中に供給されると直ちに分解され、地中での持続性が低いため浄化が完了するまで継続的に薬剤を供給、もしくは初期に多量の薬剤を注入する必要が生じている。また、ポリ乳酸エステルおよびクエン酸塩は薬剤中に窒素やリン等の栄養塩を含まないため、必要に応じて別途添加を行う必要がある。さらに、ポリ乳酸エステルや酵母エキスは非常に高価な有機物源であるため、浄化にかかるコストが高くなる等の問題点があった。
特許第3239899号 特許第3564573号 特許第3695292号
そこで本発明の課題は、有機化合物、とくに有機塩素化合物等により汚染された地下水を短期間のうちに効率よく、かつ低コストで浄化処理することが可能な地下水の浄化方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するため浄化処理のための様々な添加物を検討した結果、植物体からの抽出物、特にコーンスターチ製造過程の副生成物であるコーンスティープリカー(以下、CSLと略称することもある。)が高性能かつ低コストな水素供与体として使用できることを見出し、地下水の効率のよい浄化方法として確立した。
すなわち、本発明に係る地下水の浄化方法は、有機化合物で汚染された地下水にコーンスティープリカーおよび廃糖蜜を添加し、嫌気性条件下で微生物により有機化合物を分解することを特徴とする方法からなる。
この地下水の浄化方法においては、処理効果の面から、コーンスティープリカーを、添加後の地下水中のTOC(全有機炭素)が50mg/L以上となるように添加することが好ましい。また、処理コストの面からは、コーンスティープリカーを、添加後の地下水中のTOCが2000mg/L以下となるように添加することが好ましい。
また、本発明に係る地下水の浄化方法においては、予備試験等により予め効果を確認して、適切な量のコーンスティープリカーを添加することもでき、TOC測定、BOD測定、CODCr測定、過マンガン酸消費量測定のいずれか少なくとも一つの測定によりモニターしつつ浄化を進めることもできる。
有機化合物の種類としてはとくに限定しないが、本発明はとくに有機塩素化合物で汚染された地下水の浄化に好適なものである。
本発明に係る地下水の浄化方法によれば、コーンスティープリカーを添加して嫌気性条件下で微生物により有機化合物を分解することにより、その有機化合物により汚染された地下水、特に有機塩素化合物により汚染された地下水を短期間のうちに効率よく、しかも低コストで浄化処理することが可能になる。
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、詳細に説明し、とくに揮発性有機化合物で汚染された地下水の浄化に本発明方法を適用する場合を中心に説明する。
有機化合物としては、主に四塩化炭素、ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、cis-ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC)を対象としているが、VOC以外の油、ダイオキシン類、その他の地下水汚染の浄化に対しても本発明は有効である。また、有機物および栄養塩を添加して汚染環境中の微生物を増殖、活性化させて浄化を行うバイオスティミュレーションの他、汚染物質およびそこから生成する副生成物を分解する微生物を積極的に外部から添加するバイオオーギュメンテーションに対しても本発明は好適に使用することができる。
本発明においては、まず現地調査により汚染された地下水の範囲およびその濃度範囲を確定することができる。これに基づき実験室でプレテストを行い、最適な有機物添加量、添加方法を決定する。このプレテストは地下水中に対象汚染物質もしくは汚染物質が分解して生成する分解性生物を分解することのできる微生物が存在するかどうかの微生物学的試験および実際に採取した地下水に有機物を添加して汚染物質濃度の濃度変化を確認するビーカースケール試験、実際に汚染現場において有機物を添加して汚染物質濃度の変化を確認する現場試験等から適宜選択する。ただし、汚染現場の状態から明らかに有機物の添加により汚染物質の分解が起こるであろうことが予測される場合(汚染現場において対象汚染物質が分解して無害化された分解産物が確認される場合等)はこれらのプレテストを省略することができる。
本発明においては、この添加有機物源として、植物体からの抽出液、より詳しくはトウモロコシより抽出したコーンスティープリカー(CSL)を使用することを特徴としている。このCSLはコーンスターチの精製過程で製造される副生成物であり、コーンウエットミリングで発生するものが一般的である。コーンウエットミリングではトウモロコシを亜硫酸水溶液中に浸漬し、水に可溶な成分が抽出される。この抽出液を濃縮したものがCSLであり、抽出液は亜硫酸浸漬中に一部乳酸発酵するため、糖類やアミノ酸類を豊富に含んでおり、微生物に対して非常に有効な栄養源となりうる。さらに、CSLは含有有機物の1/4程度を微細な粒子状物質で構成されており、これが比較的ゆっくり微生物分解を受けるため、有機基質としての持続性も有している。また、CSLにコーンウエットミリング工程で分離される繊維分を添加したものはコーングルテンフィードと呼ばれるが、これも嫌気バイオレメディエーション法において有用な有機物源となる(本発明では、これも本発明で言うCSLの範疇に含める)。なお、嫌気性バイオレメディエーションにCSLを使用する場合、有機物源として単独で用いることのほか、他の有機物源と混合して使用してもよい。
浄化対象となる地下水に対しCSLを添加・注入する方法としては、一般的な方法が使用でき、特に限定はないが、例えば、対象エリアに薬剤注入用の井戸を設置して注入する方法等が好適に使用できる。この際、薬剤の注入は重力により行う方法や圧力をかけて注入する方法等が選択できる。また、井戸は地表面に対して垂直である必要はなく、斜めもしくは水平井戸等により注入を行うことも可能である。
注入用の井戸を設置して飽和層中にCSLを含有する有機基質を注入する場合には、汚染物質の濃度にもよるが、対象エリア地下水中の全有機炭素(TOC)として50mg/L以上となるように注入することが望ましい。ただし、CSLを他の有機物と混合して使用する場合にはCSL単独ではなく、注入するすべての有機物を含めたTOCとして50mg/L以上となるように調整する。この際、注入する基質の濃度には規定はなく、対象エリアの地下水量より計算された必要量を満足するように注入量を調整することになるため濃縮液として注入することもできるが適切な濃度に希釈した水溶液を注入することが有機基質を汚染エリアへ速やかに拡散させるためにも望ましい。また、別途揚水用の井戸を設置し、揚水を行うことにより地下水の飽和層内の流動を促進させることによって有機基質を拡散させる手法も好適に用いることができる。注入は必要量を一度に添加する方法のほか、浄化終了までに間欠的にもしくは連続的に注入することができる。なお、CSLを他の有機物と混合して使用する場合には混合液TOC中のCSLの割合は20〜80%程度となるように調整することが望ましい。
CSLには豊富な窒素およびリンを含有しており、通常はこれらの栄養塩を添加する必要はないが、他の有機基質を混合することなどでこれらの栄養塩が不足する場合には別途もしくは同時に添加を行うことができる。また、有機塩素化合物の分解によって精製する塩酸や、有機基質の分解によって精製する有機酸によってアルカリ度が消費されるため、地下水中のアルカリ度が不足する場合(おおむね100mgCaCO3/L程度以下)の場合には炭酸塩等のアルカリ化合物を添加することが望ましい。
以下に、CSLの好ましい使用条件について説明する。
(1)pH:6.0〜8.5(より望ましくは7.0〜8.0)
CSLの添加により嫌気性条件で有機酸が生成する。そのため、対象となる地下水中にはある程度(100mgCaCO3/L以上)のアルカリ度があることが望ましい。アルカリ度が不足している場合には炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸塩、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム等の一般的なアルカリ物質を添加することにより調整可能である。
(2)硫酸イオン濃度:1500mgSO4 2-以下(より望ましくは1000mg/L以下)
硫酸イオンが高濃度に存在する場合、有機物を添加することにより嫌気性硫酸還元菌の働きが活発になり、硫化水素を生成する。また、脱塩素を担う微生物の活性を阻害する。そのため硫酸イオン濃度は低いことが好ましい。(ちなみに海水中硫酸イオン濃度は2700mg/L程度である。)
(3)注入方法:
注入用の井戸から帯水層中に注入することが望ましい。注入濃度はTOCとして50〜20000mg/L程度が好ましく、より好ましくは100〜5000mg/L 程度、さらに好ましくは200〜2000mg/L 程度である。注入は連続、間欠、一度のみ等いずれでも可能である。
(4)注入量:
浄化対象エリアを仮定し、その範囲内において地下水中の有機物質濃度がTOCとして50〜2000mgTOC/L、より好ましくは70〜1000mgTOC/L、さらに好ましくは100〜500mgTOC/L となるように調整する。
(5)希釈水:
特に規定はないが、有害物質を含まないものを使用することが好ましい。また、固形物を多く含む水は井戸のスクリーンや地層を閉塞する可能性があるので使用しないことが好ましい。また、微量元素を考慮する観点からは純水よりも工水、水道水、地下水等の方が望ましい。
(6)希釈方法:
CSLは上記の希釈水を用いて希釈する。希釈方法はラインミキサー等による混合、タンク等の容器内での混合(ミキサーの使用可)等が挙げられる。また、気温が低い場合などに固形物が生成している場合には加温することによって溶解して使用する。
(6)注入CSLのモニタリング:
注入したCSLはTOC計によるTOC測定、BOD測定、CODCr測定、過マンガン酸消費量の測定等により濃度のモニタリングを行うことができる。このうち現場においてはCODCr測定キットを使用した測定方法や過マンガン酸消費量を測定することが簡便である。
(7)温度:
温度は一般的な地下水温度(10〜20℃程度)で使用することができる。ただし、環境が許せば加温(20〜35℃)を行うことによって浄化の期間を短縮することが可能である。
<試験1>
参考例1>
トリクロロエチレン(TCE)およびcis-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)に汚染された地下水60mLを容積100mLのバイアル瓶に入れ、嫌気条件を創出するため、上部の空気を窒素パージした。これに対して、有機基質であるCSLをTOCとして100mg/Lとなるように添加して15℃に設定したインキュベーター内で培養を行った。この試料のヘッドスペース(HS)部分を定期的にサンプリングして、PID検出器付のガスクロマトグラフでTCEおよびcis-DCEの分析を行い、水溶液中のそれぞれの濃度を定量した。結果を表1に示す。
<実施例2>
参考例1の有機基質をCSLおよび廃糖蜜をそれぞれTOCとして50mg/Lとなるように(総TOCとして100mg/L)添加をして同様の試験を行った。結果を表1に示す。
参考例3>
CSL濃度を20mg/Lとし、それ以外は参考例1と同様の条件で試験を実施した。結果を表1に示す。
<比較例1>
有機基質を添加せずに参考例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
Figure 0005258179
<試験結果>
表1に試験結果を示すように、比較例1においては汚染物質であるTCEおよびcis-DCEの濃度は試験期間にわたってほとんど変化しなかったが、参考例1および実施例2においてはいずれも速やかに分解されることが分かった。また、参考例3においては添加した有機基質の濃度が低いため、反応の途中で有機基質不足となり、反応が途中で停止している。
<試験2>
参考例4>
地下水60mLを容積100mLのバイアル瓶に入れ、嫌気条件を創出するため、上部の空気を窒素パージした。これに対して、TCEを10mg/Lおよび有機基質であるCSLをTOCとして100mg/Lとなるように添加して15℃に設定したインキュベーター内で培養を行った。この試料のヘッドスペース(HS)部分を定期的にサンプリングして、PID検出器付のガスクロマトグラフでTCEおよびcis-DCEの分析を行い、水溶液中のそれぞれの濃度を定量した。結果を図1、図2に示す。
<比較例2>
CSLの代わりにポリ乳酸グリセリンエステル(商品名HRC:Regenesis社製)を使用して参考例4と同様の試験を実施した。結果を図1、図2に示す。
<比較例3>
CSLの代わりに酵母エキスを使用して参考例4と同様の試験を実施した。結果を図1、図2に示す。
<比較例4>
CSLの代わりに廃糖蜜を使用して参考例4と同様の試験を実施した。結果を図1、図2に示す。
<比較例5>
CSLを添加せず、その他は参考例4と同様の試験を実施した。結果を図1、図2に示す。
<試験結果>
図1および図2にTCEおよびcis-DCEの経時変化を示すように、CSLを使用した参考例4においては他の有機基質を使用した比較例2〜4と比較してとくにTCEの脱塩素化反応の発現が早いことが確認された。
本発明は、有機化合物により汚染された地下水の浄化、とくに有機塩素化合物に汚染された地下水の浄化に好適に適用できる。
参考例4、比較例2〜5の結果を示すTCE濃度特性図である。 参考例4、比較例2〜5の結果を示すcis−DCE濃度特性図である。

Claims (6)

  1. 有機化合物で汚染された地下水にコーンスティープリカーおよび廃糖蜜を添加し、嫌気性条件下で微生物により有機化合物を分解することを特徴とする、地下水の浄化方法。
  2. 前記コーンスティープリカーおよび廃糖蜜を混合水溶液にして前記地下水に添加し、該混合水溶液の全有機炭素中のコーンスティープリカーの割合が20〜80%となるように該混合水溶液を調整する、請求項1に記載の地下水の浄化方法。
  3. コーンスティープリカーを、添加後の地下水中のTOCが50mg/L以上となるように添加する、請求項1または2に記載の地下水の浄化方法。
  4. コーンスティープリカーを、添加後の地下水中のTOCが2000mg/L以下となるように添加する、請求項1〜3のいずれかに記載の地下水の浄化方法。
  5. TOC測定、BOD測定、CODCr測定、過マンガン酸消費量測定のいずれか少なくとも一つの測定によりモニターしつつ浄化を進める、請求項1〜のいずれかに記載の地下水の浄化方法。
  6. 有機化合物が有機塩素化合物からなる、請求項1〜のいずれかに記載の地下水の浄化方法。
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