JP5417070B2 - 土壌および/または地下水の浄化方法 - Google Patents
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バイオレメディエーションとしては、バイオオーグメンテーションと、バイオスティムレーションがある。
バイオオーグメンテーションは、汚染物質を分解する微生物を培養し、該微生物を浄化対象の土壌・地下水中に注入する方法である。バイオオーグメンテーションについては、対象地に直接微生物を注入することから、高度な管理を要求される。また、もとより土壌・地下水中に存在しない微生物を注入しても、該微生物が長期に安定して生存しない場合も多い。
一方、バイオスティムレーションは、微生物を注入せず、汚染物質を分解する微生物として、もとより土壌中または地下水中に存在している微生物を利用する方法であり、該微生物を活性化するための栄養剤、微量元素等を土壌・地下水中に注入することによってその活性を向上させる。バイオスティムレーションは、微生物を注入しないため、比較的管理も容易であり、多くの現場で採用されている。
有機塩素化合物としては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物が挙げられる。これらの揮発性有機塩素化合物は、高い脂溶性および不燃性から、金属加工工程における脱脂洗浄、ドライクリーニング等に用いられてきたが、生分解性が低いことから土壌や地下水の汚染原因として近年問題となっている。
硝酸性または亜硝酸性窒素は、酸化窒素のイオンの形で存在する窒素であり、通常は環境中に広く低濃度で分布している。しかし近年、過剰な施肥や家畜排せつ物の不適正処理、生活排水の地下浸透などが原因で、土壌・地下水中の硝酸または亜硝酸濃度が高くなっている。硝酸性または亜硝酸性窒素が飲料水などに多く含まれていると、血液の酸素運搬能力を阻害するメトヘモグロビン血症を引き起こすなど、人の健康を害するおそれがある。
バイオスティムレーションで有機塩素化合物や硝酸性または亜硝酸性窒素による汚染を浄化する場合、一般的に嫌気的処理が行われている。
栄養剤として有機物を添加する目的は、有機物の好気分解による嫌気的/還元的雰囲気の造成と、嫌気代謝過程において生成する水素生成などである。これら有機物が好気性微生物によって好気的に分解される際に、土壌・地下水中の溶存酸素が消費され、土壌・地下水中が無酸素状態または嫌気的雰囲気となる。また嫌気代謝過程において生成する水素により、さらに還元的雰囲気が生成される。
嫌気的雰囲気が生成されると、脱塩素細菌が成育する。脱塩素細菌は、有機塩素化合物を電子受容体として利用可能な絶対嫌気性微生物である。
よって、汚染物質として有機塩素化合物が存在し、微生物として脱塩素細菌が存在する場合は、土壌・地下水中の溶存酸素が低下し、水素濃度が増加することにより、脱塩素細菌による有機塩素化合物の脱塩素反応が促進される。たとえばテトラクロロエチレンは脱塩素反応により、トリクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレンまたはtrans−1,2ジクロロエチレンを経て、エチレンにまで還元される。エチレンは他の微生物の作用により最終的に水と二酸化炭素に酸化されることもある。
また、汚染物質として硝酸性または亜硝酸性窒素が存在し、微生物として脱窒素細菌が存在する場合は、脱窒素細菌の作用により、硝酸や亜硝酸の脱窒素反応が促進される。脱窒素細菌は、有機物を電子供与体として、硝酸や亜硝酸を電子受容体として利用することが可能である。硝酸や亜硝酸は、最終的に窒素分子にまで還元され、土壌地下水中から大気へ気散する。
栄養剤を土壌・地下水中に注入する方法としては、栄養剤を適切な濃度に希釈した水溶液を作製し、該水溶液を、汚染範囲に設置した注入井戸等から流入させる方法が採られている。注入された栄養剤は、分子拡散作用または地下水流れによる移流作用により、汚染範囲全体に拡散する。
特許文献2には、有機塩素化合物で汚染された地下土壌から揚水した地下水を、減圧状態に保持した蒸発缶または脱気缶内に供給して脱気し、この脱気処理水に嫌気性微生物の栄養剤を添加した後、該地下水の汲み上げ箇所より離れた箇所に戻す方法が開示されている。
特許文献3には、嫌気性微生物によって揮発性水溶性物質に分解される有機塩素化合物に汚染された土壌を浄化するため、該分解を促進する嫌気性微生物分解促進剤を、前記土壌中を流れる地下水の上流側に注入し、該地下水の下流側で、前記分解により生成した揮発性水溶性物質が溶解した地下水を取水し、該地下水を曝気処理して該揮発性水溶性物質を気化させる方法が公開されている。
たとえば有機物を添加する場合、該有機物は通常水溶液として土壌・地下水中に注入されるが、該水溶液を作製する際に腐敗が生じ、土壌・地下水中における栄養剤としての効果の低下や、作業時の悪臭発生などの問題が生じやすい。
また、有機物を高濃度で地下水中に注入した場合、初期段階においては、地下水中または栄養剤の水溶液中の溶存酸素による有機物の分解が促進されるため有機酸等の蓄積は生じにくいが、有機物の分解に伴い溶存酸素が低下すると、有機酸等が蓄積しやすくなる。有機酸等が過剰に蓄積すると、微生物活性が低下するといった問題が生じる。
また、有機物を高濃度で地下水中に注入した場合、該有機物を電子供与体として利用可能な微生物が過剰に増殖し、微生物集合体(バイオフィルム)を形成して、土壌中に存在する間隙を閉塞する問題もある。該間隙の閉塞は、地下水の流動の減少または変動を引き起こしてしまう。地下水の流動が減少すると栄養剤の水溶液を適切に拡散させることが困難になる。また、地下水の流動が大きく変動すると汚染物質を非汚染地帯にまで拡散させてしまうおそれがある。
また、上記方法では、脱塩素細菌の電子供与体として有効である水素を、有機物の分解過程にて発生させている。そのため、有機物を高濃度に供給すると、脱塩素細菌にとって適切な水素濃度を維持することが困難となる。すなわち、土壌・地下水中の水素濃度が過剰になると、脱塩素細菌による脱塩素反応が阻害されてしまい、さらに脱塩素細菌に対して競合となるメタン生成菌または硫酸還元菌などの増殖を促進してしまうといった問題が生じる。
また、特許文献2の方法は、脱気処理水の作製に大型の装置が必要であり、時間もかかる。また、一度作製した脱気処理水を全て土壌・地下水中に注入するまでに時間がかかるため、脱気処理水に酸素が再溶解して溶存酸素濃度が増加してしまう。
また、特許文献3の方法は、曝気処理に大型の装置が必要であり、時間もかかる。また、曝気に多量のガスを必要とするため、空気以外のガスを曝気ガスに用いた場合、コストがかかる。空気を曝気ガスとして用いた場合、溶存酸素濃度が増加してしまう。また、一度作製した曝気処理水を全て土壌・地下水中に注入するまでに時間がかかるため、曝気処理水に酸素が再溶解して溶存酸素濃度が増加してしまう。
有機塩素化合物の酸化分解または脱塩素還元を行う微生物のなかには絶対嫌気性の微生物も多く存在している。そのため、溶存酸素濃度の増加した水を汚染対象地、すなわち浄化を実施したい土壌・地下水中に注入すると、嫌気的雰囲気が損なわれ、絶対嫌気性微生物が失活し、汚染物質の分解効率が低下するおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、多量の有機物を添加しなくても、簡便かつ効率的に土壌および/または地下水中の嫌気的雰囲気を維持でき、微生物による土壌および/または地下水の浄化効率の向上が可能な浄化方法を提供することを目的とする。
[1]浄化対象地中の汚染物質を微生物により分解させて該浄化対象地の土壌および/または地下水を浄化する浄化方法であって、
液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存酸素濃度を低下させることにより浄化用液体を調製する工程と、
前記浄化用液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存水素濃度を上昇させる工程と、
前記溶存水素濃度を上昇させた浄化用液体を前記浄化対象地中に注入する工程と、
を行う、浄化方法。
[2]前記溶存水素濃度を上昇させる工程にて用いられる気体透過性膜モジュールは、当該気体透過性膜モジュールの内部に、前記浄化用液体が流通する流路と、水素ガスが供給される空間部とが存在し、前記流路と前記空間部とが気体透過性膜で分離されているものである[1]に記載の浄化方法。
[3]前記液体として浄化対象地またはその周縁部から揚水した地下水を用いる[1]または[2]に記載の浄化方法。
[4]前記地下水として汚染対象地から揚水した地下水を用い、該地下水に対し、溶存酸素濃度を低下させる前に、曝気処理を行う[3]に記載の浄化方法。
[5]前記浄化用液体に、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を添加する工程を行う[1]〜[4]のいずれか一項に記載の浄化方法。
[6]前記汚染物質が、揮発性有機塩素化合物および硝酸性または亜硝酸性窒素からなる群から選択される少なくとも1種である[1]〜[5]のいずれか一項に記載の浄化方法。
<第一の実施形態>
図1は、本発明の浄化方法の第一の実施形態の説明図である。
本実施形態は、浄化用液体の調製に用いる液体(以下、原水という。)として地下水を使用する例である。
本実施形態では、汚染物質により土壌および地下水汚染の生じている浄化対象地80に設置された注入口20と、原水源としての揚水口21と、曝気装置40と、気体透過性膜モジュール11を備える脱酸素装置10と、浄化用液体槽60と、気体透過性膜モジュール51を備える水素添加装置50と、水質モニター装置70と、を備える浄化システムを使用して浄化対象地80の土壌および/または地下水の浄化を行う。
揚水口21と曝気装置40を連絡する流路91上には送液ポンプP1が設置され、揚水口21で地下水を揚水し、曝気装置40に送液できるようになっている。
曝気装置40は、揚水口21と脱酸素装置10との間に設置されている。曝気装置40は、曝気用送風機41および曝気槽42を備えており、曝気槽42内の原水(地下水)を必要に応じて曝気処理できるようになっている。また、曝気槽42には汚染物質回収処理装置43が取り付けられている。
気体透過性膜モジュール11は、曝気槽42と浄化用液体槽60とを連絡する流路92上に設置され、同じく流路92上に設置された送液ポンプP2により、曝気槽42内の原水を気体透過性膜モジュール11に通液し、浄化用液体槽60に送ることができるようになっている。
浄化用液体槽60には、浄化用液体に対し、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を供給するための栄養剤供給装置61が取り付けられている。
気体透過性膜モジュール11に用いられる気体透過性膜としては、酸素の透過性に優れ目的とする酸素除去が可能なものであればよく、形状、材質等は任意に選択することができる。
該気体透過性膜は、酸素透過量が0.03m3/(m2・h・MPa)以上であることが好ましい。該酸素透過量は高いほど好ましく、上限は特に限定されない。
中空糸膜としては、多孔質膜、非多孔質膜、またはそれらの組み合わせのいずれであってもよい。好ましい中空糸膜として、多孔質膜と非多孔質膜とからなる多層構造の中空糸膜が挙げられ、特に、気体透過性の非多孔質膜の両面に、多孔質膜が配された三層構造の複合中空糸膜が好ましい。このような複合中空糸膜は、処理液の漏れが無く、かつ溶存気体の除去効率にも優れる。さらに、優れた機械的強度も備えている。三層構造の複合中空糸膜の具体例としては、たとえば三菱レイヨン・エンジニアリング(株)製の三層複合中空糸膜(商品名:MHF)が挙げられる。
前記複合中空糸膜の多孔質膜を構成する材質は、ポリマー等の有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、好ましくは有機材料である。ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ3−メチルブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
非多孔質膜を構成する材質と、多孔質層を構成する材質との組み合わせについては特に限定されず、たとえば異種のポリマーを組み合わせてもよく、同種のポリマーを組み合わせてもよい。
ここで、液体を中空糸膜内部に通液して液体の処理を行う場合、内径は大きい方が圧力損失は抑えられる。しかし、内径を大きくするとケースに充填可能な中空糸膜量が制限され、処理性能の低下に繋がる。そのため、中空糸膜の内径は、100〜300μmが好ましい。
また、気体透過性膜モジュール11においては中空糸膜の外側が減圧されることから、該減圧に対する耐久性を有することが必要である。かかる観点から、液体を中空糸膜内部に通液して液体の処理を行う場合、中空糸膜の膜厚は、30〜80μmが好ましい。
更に、孔径が0.01〜1μmの多孔質膜を備える複合中空糸膜を用いると、非多孔質層が濡れにくく、気体の透過量が高くなり好ましい。
中空糸膜は、一般的に、複数本を接着剤でケースに固定した形で使用される。
この中空糸膜モジュール1は、中空糸膜2が筒状のケース3に多数本挿入され、各中空糸膜2は、一方の端部2a側がポッティング材4aを介してケース3に固定され、他方の端部2b側がポッティング材4bを介してケース3に固定されている。ケース3は、原水の流入口3aおよび流出口3bを有している。
中空糸膜2の端部2a、2bは、それぞれ、ポッティング材4a、4bの端面4c、4dに露出し、流入口3a側、流出口3b側に通じている。これにより、流入口3aから流入した液体が中空糸膜2の内部を通過し、流出口3bから流出するようになっている。
また、ポッティング材4a、4bに挟まれた空間部5は、ケース3に設けられた給排気口3c、3dに通じるように構成されており、給排気口3c、3dを介して、当該空間部5内の脱気または当該空間部5内へ気体の供給ができるようになっている。
なお、この例では給排気口を2つ有する例を示したが、給排気口の数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
浄化用液体槽60と注入口20とを連絡する流路93上に気体透過性膜モジュール51が設置され、同じく流路93上に設置された送液ポンプP3により、浄化用液体槽60内の浄化用液体を気体透過性膜モジュール51に通液し、注入口20から浄化対象地80に注入できるようになっている。
浄化対象地80の、注入口20に隣接する位置にはモニタリング用井戸23が設けられている。モニタリング用井戸23内には、水質モニター装置70のセンサ71が配置され、浄化対象地80の地下水の水質をモニタリングできるようになっている。
気体透過性膜モジュール51における気体透過性膜は、水素を透過可能で、目的とする水素添加が可能なものであればよく、前記形状、材質等は任意に選択することができる。たとえば前記気体透過性膜モジュール11における気体透過性膜と同じものを用いてもよく、異なるもの、たとえば該気体透過性膜よりも酸素透過量の少ないものを用いてもよい。
まず、原水として地下水を、送液ポンプP1を用いて揚水口21から揚水し、曝気装置40の曝気槽42に送液する(工程(1))。
次に、曝気槽42内の地下水を、送液ポンプP2を用いて気体透過性膜モジュール11を通過させて溶存酸素濃度を低下させ、得られた浄化用液体を浄化用液体槽60に回収する(工程(2))。
次に、浄化用液体槽60内の浄化用液体を、送液ポンプP3を用いて気体透過性膜モジュール51を通過させて溶存水素濃度を上昇させた後、そのまま、送液ポンプP3を用いて、注入口20から浄化対象地80に注入する(工程(3))。
特に、該地下水中に汚染物質として揮発性有機塩素化合物が含まれる場合は、曝気処理を行うことが好ましい。
曝気処理により原水から除去された汚染物質またはその分解物は、曝気槽42に取り付けられた汚染物質回収処理装置43により回収し、適宜無害化等の処理を行うことができる。
ただし曝気処理は必ずしも必要ではなく、行わなくてもよい。たとえば原水として上記のような汚染物質を含まない、または含んでいてもその濃度が低いものを用いる場合は、曝気処理は不要である。
曝気処理を行わない場合は、曝気装置40の代わりに、単に原水を貯留するだけの貯留槽を使用してもよい。
なお、図1には、気体透過性膜モジュール11を1つ使用した例を示しているが本発明はこれに限定されず、2以上の気体透過性膜モジュール11を併用してもよい。
気体透過性膜モジュール11内の減圧状態は、地下水の溶存酸素濃度を低下させ得る範囲であれば特に限定されず、調製しようとする浄化用液体の所望の溶存酸素濃度、原水である地下水の溶存酸素濃度、流量、使用する気体透過性膜モジュール11の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、−60kPa以上の高真空に設定されるが、効率よく溶存酸素濃度を下げるためには、より高真空、例えば−80kPa以上の高真空に設定するのが好ましい。
たとえば浄化対象地80中における微生物の生育を補助する微量元素の濃度が低い場合には、微量元素を適宜添加することによって、微生物の増殖が促進され微生物による浄化をより促進することが可能となる。
微生物の生育を補助する微量元素は、微生物の増殖・活性において不可欠な元素のうち生物の体内に保持されている量が比較的少ない元素を示す。一般に、生体含有量が鉄以下の元素を指す。かかる微量元素のうち、生命活動に欠かせない元素として、亜鉛・カリウム・カルシウム・クロム・セレン・鉄・銅・ナトリウム・マグネシウム・マンガン・ヨウ素・リンが知られている。
脱窒反応における電子供与体の濃度は、バイオレメディエーションによる浄化作業条件(例えば、浄化対象の汚染物質の種類、汚染物質濃度、浄化対象土壌量、浄化対象地下水量、浄化対象地に設置した注入口20および揚水口21の数量、浄化対象土壌および地下水中に存在する嫌気性微生物の種類・量・活性度)に応じて最適な数値を選定すればよい。
また、汚染物質が揮発性有機塩素化合物である場合であっても、脱塩素細菌の増殖を促進させることを目的として、有機物を添加することも可能である。
ただし有機物を添加する場合には、前記のとおり、有機物を炭素源およびエネルギー源として利用可能である微生物が過剰に増殖することがないように、その濃度を適宜調整することが好ましい。
アルコール醸造工場、製糖工場などから排出される食品残査およびそれらの生成物は、糖類など上記複数の物質を含むものであり、微生物の栄養分となり得る。
上記有機物のうち、脱窒反応における電子供与体としての有機物としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が好ましいが、これに限るものではない。
このようにして溶存水素濃度を上昇させた浄化用液体(低溶存酸素濃度・高溶存水素濃度の液体)は、気体透過性膜モジュール51から注入口20へと送出され、浄化対象地80中に注入される。
なお、図1には、気体透過性膜モジュール51を1つ使用した例を示しているが本発明はこれに限定されず、2以上の気体透過性膜モジュール51を併用してもよい。
気体透過性膜モジュール51内の水素の圧力は、浄化用液体の溶存水素濃度を上昇させ得る範囲であれば特に限定されず、気体透過性膜モジュール51内を通過させる前の浄化用液体の溶存水素濃度、目的の溶存水素濃度、流量、使用する気体透過性膜モジュール51の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、5〜200kPaの範囲内で設定される。
該溶存水素濃度は、好ましくは、0.5〜20mg/Lであり、より好ましくは1〜10mg/Lである。0.5mg/L以下では、土壌中に注入し地下水と混合したときに薄くなりすぎてしまう。20mg/L以上では可飽和となりすぎてしまい、操作中に大気揮発量も増加してしまうため、経済的に不利となる。
特に、該浄化用液体の溶存水素濃度を上昇させていると、汚染対象地80の土壌および地下水中の水素濃度が上昇し、より還元的雰囲気へと移行する。その結果、脱塩素細菌等の絶対嫌気性微生物の増殖および活性化が促進される。また、汚染物質が揮発性有機塩素化合物である場合には、水素が、脱塩素細菌による揮発性有機塩素化合物の脱塩素還元における電子供与体となり得る。そのため、揮発性有機塩素化合物による汚染の浄化がさらに促進される。
汚染物質が揮発性有機化合物である場合には、汚染対象地80の地下水中の酸化還元電位が、−100〜−900mVであることが望ましい。
汚染物質が硝酸性および亜硝酸性窒素である場合には、汚染対象地80の地下水中の酸化還元電位が、−100〜−200mVであることが好ましい。
前記の有機物を添加していないことによる効果は、汚染物質が硝酸性および亜硝酸性窒素であり、水素濃度を上昇させていない低溶存酸素濃度の浄化用液体を汚染対象地80に注入する場合であっても同様である。
従来のバイオスティムレーション技術においては、栄養分や微量元素等を溶解させるための液体として浄化対象地の地下水を揚水して利用する場合、曝気処理等の処理を行ったり、その処理に時間がかかる等により、該地下水中の溶存酸素が高くなる。かかる地下水を注入した場合、嫌気性微生物の増殖・活性を低下させる問題が生じる。また、コストもかかる。そのため、現在、栄養分や微量元素等を注入する場合においては水道水等が主に利用されている。しかしこの場合、注入後に、浄化対象地の土壌や地下水中に存在する微生物量や、該微生物の生育を補助する微量元素の濃度が低減していた。
本浄化方法では、原水の溶存酸素を低減させて浄化用液体として利用するため、汚染範囲の地下水を揚水し曝気処理した地下水を利用することが可能である。また、該地下水中には土着の微生物および該微生物の生育に適している微量元素が存在しているため、浄化対象地の土壌や地下水中に存在する微生物量や、該微生物の生育を補助する微量元素が低減することが無く、該微生物による浄化をより促進することが可能となる。
ただし本発明はこれに限定されず、浄化対象地80またはその周縁部に揚水口21を設置することが困難である場合、揚水口21より揚水した地下水の汚染物質除去が困難である場合などは、浄化用液体の原水として、上水、工業用水、雨水、河川水等を用いることができる。
水質モニター装置70による測定対象としては、酸化還元電位、pH、水温、溶存酸素濃度、溶存水素濃度等が挙げられる。
たとえば水質モニター装置70により該地下水中の溶存水素濃度を適宜モニタリングし、該溶存水素濃度が過剰となった場合には、水素添加装置50にフィードバックし、該水素添加装置50内の気体透過性膜モジュール51を通過する浄化用液体の溶存水素濃度上昇量を低減させる。これによって、汚染対象地80内の地下水中の溶存水素濃度を適切な濃度に維持することが可能となり、過剰な水素濃度に起因する問題(脱塩素細菌による脱塩素反応の阻害、脱塩素細菌に対して競合となるメタン生成菌または硫酸還元菌などの増殖等)が抑制され、脱塩素細菌による浄化をより促進することが可能となる。
浄化用液体の溶存水素濃度の上昇量の低減は、たとえば、(1)水素タンク52から気体透過性膜モジュール51へ供給する水素の圧力を低下させる、(2)気体透過性膜モジュール51の通液速度を増加させる、等の方法により実施できる。
該微生物としては、Dehalococcoides属菌、Desulfitobacterium属菌、Desulfuromonas属菌、Dehalobactor属菌等が挙げられる。
該微生物としては、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes denitrificans、Thiobacillus denitrificans、Pseudomonas aeruginosa等が挙げられる。
脱酸素工程を行うことによる効果を確認するため、実際の地下水を用いて以下の試験を行った。
三菱レイヨン株式会社豊橋事業所内に設置された揚水井戸より揚水した地下水(水温:19.2℃)を、気体透過性膜モジュール(商品名:MHF304KMD、三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社製)に通水し、真空ポンプにより該気体透過性膜モジュール内部を減圧することにより、浄化用液体を生成した。
このとき、気体透過性膜モジュールあたりの流量を320、540、1100および2010mL/分(min)のいずれかに設定し、各流量において気体透過性膜モジュール内の真空度を−80、−90および−96kPaのいずれかに設定して浄化用液体を得た。
なお、MHF304KMDの仕様は以下の通りである。
気体透過性膜:気体透過性の非多孔質膜の両面に多孔質膜が配された三層構造の複合中空糸膜、モジュール長:215mm、モジュール径:72mm、複合中空糸膜の膜面積:2.4m2。
DOは、1気圧、19.2℃における値であり、携帯用蛍光式溶存酸素計LDO HQ−10 (HACH社製)により測定した。
ORPは、1気圧、19.2℃における値であり、ポータブルORP計 RM−20P(東亜ディーケーケー社製)により測定した。
その結果、原水のDOは6.8mg/Lであり、ORPは+120mVあった。
各流量および真空度で得られた浄化用液体のDOおよびORPをそれぞれ図2〜3に示す。
図2に示すとおり、浄化用液体中のDOは、いずれの流量および真空度においても、原水に比べて低減されていた。
また、図3に示すとおり、浄化用液体中のORPは、いずれの流量および真空度においても、原水に比べて低減されていた。このORPは、水素添加を併用すればさらに低減することが可能である。
このように、脱酸素工程を行うことで、原水よりもDOおよびORPが低減された浄化用液体が得られた。したがって、該浄化用液体を、該原水を揚水した場所に注入することで、その土壌および地下水中の嫌気的雰囲気および還元的雰囲気を高めることができる。
また、気体透過性膜を用いて酸化還元電位を低下させた液体を汚染範囲地下水に注入することにより、水素発生源としての有機物等を多量に地下水中に注入することなく、微生物による還元反応において必要な還元的雰囲気を醸成することが可能となる。
さらに、気体透過性膜を用いて水素濃度を上昇させた液体を汚染範囲地下水に注入することにより、水素発生源としての有機物等を多量に地下水中に注入することなく、微生物による還元反応において必要な水素を供給することが可能となる。
このように、本発明においては、気体透過性膜を用いることにより、従来の浄化手法のように、浄化対象地に過剰な有機物を注入する必要が無くなるため、汚染物質のバイオレメディエーションにおいて不必要な微生物の増殖を抑制することができる。また、過剰な有機物によって発生するバイオフィルムにより土壌間隙が閉塞し、地下水流動が変化してしまうことを抑制することができる。そのため、バイオレメディエーション実施による土壌中自然環境の変動を小さくすることが可能となる。
また、気体透過性膜を用いることにより、浄化用液体を連続的に生成することが可能となる。そのため、浄化用液体を用時に必要量だけ生成し、即時に注入を行うことができるため、生成した浄化用液体への酸素が再溶解を防止できる。
20…注入口、21…揚水口、23…モニタリング用井戸、40…曝気装置、41…曝気用送風機、42…曝気槽、43…汚染物質回収処理装置、50…水素添加装置、51…気体透過性膜モジュール、52…水素タンク、53…配管、54…調圧弁、60…浄化用液体槽、61…栄養剤供給装置、70…水質モニター装置、71…センサ、80…浄化対象地、91〜93…流路、P1〜P3…送液ポンプ
Claims (6)
- 浄化対象地中の汚染物質を微生物により分解させて該浄化対象地の土壌および/または地下水を浄化する浄化方法であって、
液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存酸素濃度を低下させることにより浄化用液体を調製する工程と、
前記浄化用液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存水素濃度を上昇させる工程と、
前記溶存水素濃度を上昇させた浄化用液体を前記浄化対象地中に注入する工程と、
を行う、浄化方法。 - 前記溶存水素濃度を上昇させる工程にて用いられる気体透過性膜モジュールは、当該気体透過性膜モジュール内に、前記浄化用液体が流通する流路と、水素ガスが供給される空間部とが存在し、前記流路と前記空間部とが気体透過性膜で分離されているものである請求項1に記載の浄化方法。
- 前記液体として、浄化対象地またはその周縁部から揚水した地下水を用いる請求項1または2に記載の浄化方法。
- 前記地下水として汚染対象地から揚水した地下水を用い、該地下水に対し、溶存酸素濃度を低下させる前に、曝気処理を行う請求項3に記載の浄化方法。
- 前記浄化用液体に、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を添加する工程を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の浄化方法。
- 前記汚染物質が、揮発性有機塩素化合物および硝酸性または亜硝酸性窒素からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか一項に記載の浄化方法。
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