JP5257178B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温強度と層間付着強度を有し、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材の、例えば、フライス加工、ドリル加工等の切削工具として用いた場合にも、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金または炭窒化チタン基(TiCN基)サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、チタン化合物層、
(b)中間層として、酸化アルミニウム層、
(c)上部層として、酸化クロム層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具において、
上記(c)の上部層として、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にCrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す酸化クロム層を蒸着形成することが知られており、上記(a)〜(c)からなる硬質被覆層を設けた被覆工具を、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材の旋削加工に用いた場合には、優れた耐チッピング性を示すことが知られている。
また、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、チタン化合物層、
(b)上部層として、酸化アルミニウム層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具において、
上記(b)の上部層として、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す酸化アルミニウム層を蒸着形成することも知られており、上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を設けた被覆工具を、高硬度鋼の旋削加工に用いた場合には、優れた耐チッピング性を示すことも知られている。
特開2007−105807号公報 特開2006−297579号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削条件は益々厳しいものになってきているが、上記の従来被覆工具においては、下部層は相対的に高温強度の高いチタン化合物層で、また、中間層は高温硬さ、耐熱性とともにすぐれた酸化アルミニウム層で構成し、さらに、上部層は、Σ3対応粒界比率を高め耐摩耗性を改善した酸化クロム層で構成することにより、難削材の高速切削における耐チッピング性の改善を図っているが、上記の従来被覆工具を、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材のフライス加工、ドリル加工等の切削工具として用いた場合には、中間層である酸化アルミニウム層と上部層である酸化クロム層の層間密着強度が十分でないため、層間剥離、チッピングを起こしやすく、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆工具の硬質被覆層の層間付着強度の向上による耐チッピング性の改善をはかり、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供すべく、特に、硬質被覆層の中間層である酸化アルミニウム層と上部層である酸化クロム層の結晶粒界構造に着目し、鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
上記の従来被覆工具の硬質被覆層の中間層を構成する酸化アルミニウム層は、例えば、Ti化合物層からなる下部層の上に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:2〜4%、CO:6〜8%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(従来条件という)で蒸着形成されるが、
これを、例えば、上記下部層の上に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:6〜10%、CO:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で形成すると、この結果形成した酸化アルミニウム層(以下、「改質Al23層」という)は、酸化アルミニウム層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、Ti化合物層からなる下部層との層間付着強度にもすぐれるため、Ti化合物層と改質Al23層間での層間剥離の発生を防止し得るようになること。
また、上記の従来被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成する酸化クロム層は、同じく通常の化学蒸着装置で、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:2〜4%、CO:4.5〜7%、HCl:2.5〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件(従来条件という)で蒸着形成されるが、
これを、上記で蒸着形成した改質Al23層を中間層とし、この上に、例えば、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:0.5〜1.5%、CO:2〜4%、HCl:2.5〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち、上記の従来条件に比して反応ガス組成では、CrClおよびCOの含有割合を相対的に低く、かつ、雰囲気温度を相対的に高く、雰囲気圧力を相対的に低くした条件(以下、上部層初期形成条件という)で10〜60分間蒸着形成し、
次いで、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:2〜4%、CO:4.5〜7%、HCl:2.5〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で酸化クロム層を蒸着形成すると、中間層である改質Al23層上に蒸着形成されたこの酸化クロム層(以下、「改質Cr23層」という)は、すぐれた潤滑性と高温強度を有するようになるとともに、改質Al23層からなる中間層との密着強度が向上し、中間層−上部層間での層間剥離、チッピング、欠損等の発生を防止し得るようになること。
そして、上記改質Al23層(中間層)と上記改質Cr23層(上部層)のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒はコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、
上記中間層及び上記上部層のいずれも、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が、60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示し、
さらに、上部層との界面に臨んで存在する中間層のΣ3対応粒界(以下、中間層Σ3対応粒界という)の数と位置を測定し、また、中間層との界面に臨んで存在する上部層のΣ3対応粒界(以下、上部層Σ3対応粒界という)の数と位置を測定した場合に、中間層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の中間層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されており、そして、中間層−上部層間にこのような連続する結晶粒界構造が存在することによって、中間層と上部層の層間付着強度が著しく向上すること。
上記のとおり、硬質被覆層の中間層と上部層が、それぞれ、改質Al23層と改質Cr23層で構成され、中間層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の中間層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として構成されている被覆工具は、中間層と上部層間の層間付着強度が格段に向上し、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材のフライス加工、ドリル加工等の切削加工に用いた場合にも、チッピング、欠損、層間剥離等の発生もなく、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、チタンの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの少なくとも1層以上からなり、0.5〜7μmの合計層厚を有するチタン化合物層、
(b)中間層は、0.5〜4μmの層厚を有する酸化アルミニウム層、
(c)上部層は、0.5〜3μmの層厚を有する酸化クロム層からなり、
(d)上記(b)の中間層及び上記(c)の上部層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒はコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、上記(b)の中間層及び上記(c)の上部層のいずれも、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が、60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示し、
(e)さらに、上部層との界面に臨んで存在する中間層のΣ3対応粒界の数と位置を測定し、また、中間層との界面に臨んで存在する上部層のΣ3対応粒界の数と位置を測定した場合に、中間層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層のΣ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の中間層のΣ3対応粒界に対して、上部層のΣ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、以下に詳細に説明する。
下部層:
下部層を構成するTi化合物層としては、既によく知られているTiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化物(TiCNO)層のうちの1層以上からなるTi化合物層を蒸着形成することができる。そして、上記TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層以上からなるTi化合物層は、その合計層厚が0.5〜7μmの範囲内である場合には、工具基体及び中間層(改質Al23層)のいずれにも強固に密着し、もって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有する。
中間層:
中間層の改質Al23層は、Ti化合物層からなる下部層の上に、例えば、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:6〜10%、CO:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着することにより形成することができる。
この改質Al23層は、従来のAl23層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、下部層及び上部層のいずれに対しても強固な密着強度を有し、その結果、すぐれた耐チッピング性、耐層間剥離性を具備するようになる。
そして、上記の改質Al23層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角(図1aには前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒はコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、この構成原子共有格子点分布グラフにおいて、上記改質Al23層はΣ3に最高ピークが存在し、しかも、Σ3のΣN+1全体に占める分布割合は60%以上のきわめて高い比率となっており、このような改質Al23層は、すぐれた高温強度を示す。
また、前記電界放出型走査電子顕微鏡を用いた測定により得られた、結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす測定傾斜角に基づいて、(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、相互に隣接する結晶粒界で、その構成原子共有格子点形態が、構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在するΣ3であって、かつ、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(中間層Σ3対応粒界)の数と位置を求める。
そして、後記する上部層について特定した上部層Σ3対応粒界の位置と、上記改質Al23層について求めた中間層Σ3対応粒界の位置とをつき合わせ、中間層と上部層の界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成している結晶粒界構造を備える場合(図6(a)参照)には、中間層(改質Al23層)と上部層(改質Cr23層)との層間付着強度は著しく向上する。
しかし、上部層Σ3対応粒界と連続して形成されている中間層Σ3対応粒界が、全中間層Σ3対応粒界のうちの30%未満にすぎないような場合(図6(b)参照)、あるいは、70%を超えるような場合には、中間層と上部層での結晶粒界の連続性が少ないため、層間付着強度の向上を確保することができず、あるいは、中間層と上部層での結晶粒界の連続性が多すぎるために中間層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示すようになるため、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることが必要である。
また、上記改質Al23層からなる中間層の平均層厚が0.5μm未満では、すぐれた高温硬さ、耐熱性とすぐれた層間付着強度を発揮することができず、一方、その平均層厚が4μmを越えると、難削材のフライス加工、ドリル加工切削下では、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜4μmと定めた。
上部層:
上部層の改質Cr23層は、上記改質Al23層からなる中間層の上に、例えば、
(a)まず、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:0.5〜1.5%、CO:2〜4%、HCl:2.5〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件(以下、上部層初期形成条件という)で10〜60分間蒸着形成し、
(b)次いで、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:2〜4%、CO:4.5〜7%、HCl:2.5〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着することにより形成することができ、この改質Cr23層は、すぐれた潤滑性と高温強度を有するとともに、改質Al23層からなる中間層との密着強度が向上し、その結果、中間層−上部層間での層間剥離の発生を防止し得るとともに、すぐれた耐チッピング性を具備するようになる。
上記の改質Cr23層について、前記改質Al23層の場合と同様に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒はコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、この構成原子共有格子点分布グラフにおいて、上記改質Cr23層はΣ3に最高ピークが存在し、しかも、Σ3のΣN+1全体に占める分布割合は60%以上のきわめて高い比率となっており、このような改質Cr23層は、すぐれた高温強度を示す。
また、前記電界放出型走査電子顕微鏡を用いた測定により得られた、結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす測定傾斜角に基づいて、(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、相互に隣接する結晶粒界で、その構成原子共有格子点形態が、構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在するΣ3であって、かつ、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(中間層Σ3対応粒界)の数と位置を求める。
そして、改質Cr23層について求めた上部層Σ3対応粒界の位置と、前記改質Al23層について求めた中間層Σ3対応粒界の位置とをつき合わせ、中間層と上部層の界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成している結晶粒界構造を備える場合(図6(a)参照)には、中間層(改質Al23層)と上部層(改質Cr23層)との層間付着強度は著しく向上する。
しかし、中間層について既に述べたように、上部層Σ3対応粒界と連続して形成されている中間層Σ3対応粒界が、全中間層Σ3対応粒界のうちの30%未満にすぎないような場合(図6(b)参照)、あるいは、70%を超えるような場合には、中間層と上部層での結晶粒界の連続性が少ないため、層間付着強度の向上を確保することができず、あるいは、中間層と上部層での結晶粒界の連続性が多すぎるために中間層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示すようになるため、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることが必要である。
さらに、上記改質Cr23層からなる上部層の平均層厚が0.5μm未満では、すぐれた潤滑性、高温強度とすぐれた層間付着強度を発揮することができず、一方、その平均層厚が3μmを越えると、難削材のフライス加工、ドリル加工では、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜3μmと定めた。
この発明の被覆工具は、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材の、フライス加工、ドリル加工等の切削工具として用いた場合にも、特に、硬質被覆層の中間層および上部層が、一段とすぐれた層間付着強度を有することから、硬質被覆層に剥離、チッピング、欠損の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を準備し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアルコール中で10時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で、ISO・CNMG120408(超硬基体A〜D)およびISO・SEEN1203AFTN1(超硬基体E、F)の所定の形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部に幅0.15mm、角度20度のチャンフォーホーニング加工することにより、WC基超硬合金製のミーリング用超硬基体A〜Cをそれぞれ製造した。
ついで、これらのミーリング用超硬基体A〜Cのそれぞれを、通常の化学蒸着装置に装入し、まず、表2〜4に示される条件にて、それぞれ表7に示される目標層厚のTi化合物層、改質Al23層、改質Cr23層、それぞれ、硬質被覆層の下部層、中間層及び上部層として蒸着形成することにより本発明被覆インサート1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、改質Al23層、改質Cr23層に代えて、表5、6に示される条件で、表7に示される目標層厚の従来Al23層、従来Cr23層を同じく表8に示される組み合わせで、硬質被覆層の中間層、上部層として蒸着形成する以外は同一の条件で比較被覆インサート1〜8をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆インサートおよび比較被覆インサートの硬質被覆層の中間層を構成する改質Al23層及び従来Al23層について、また、上部層を構成する改質Cr23層及び従来Cr23層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記のAl23層、Cr23層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求めることにより作成した。
この結果得られた各種のAl23層、Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体(上記の結果からΣ3、Σ7、Σ11、Σ13、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、およびΣ29のそれぞれの分布割合の合計)に占めるΣ3の分布割合をそれぞれ表7,8にそれぞれ示した。
上記の各種のAl23層、Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、表7,8にそれぞれ示される通り、本発明被覆インサートの改質Al23層、改質Cr23層は、いずれもΣ3の占める分布割合が60%以上の構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、比較被覆インサートの従来Al23層、従来Cr23層は、いずれもΣ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示すものであった。
次に、上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界の数と位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、上部層との界面に臨んで存在する全ての中間層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
また、上部層Σ3対応粒界の数および位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、中間層との界面に臨んで存在する全ての上部層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
そして、上記の通り求めた上部層との界面に臨んで存在する中間層Σ3対応粒界について、中間層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応粒界の位置と対応させ、上部層と中間層との界面において、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している中間層Σ3対応粒界の、全ての中間層Σ3対応粒界に占める割合を求めた。この値を表7,8に、Σ3対応粒界連続割合(%)として示す。
なお、中間層のΣ3比率は、中間層と上部層との界面から、基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたって求めたΣ3の比率の平均値であり、上部層のΣ3比率は、上部層全体にわたって求めたΣ3の比率の平均値である。
表7,8にそれぞれ示される通り、本発明被覆インサートおよび従来被覆インサートのいずれにおいても、中間層のΣ3比率は60%以上となっており、中間層はすぐれた高温強度を備える。
一方、同じく表7,8に示されるように、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している中間層Σ3対応粒界の、全ての中間層Σ3対応粒界に占める割合をあらわすΣ3対応粒界連続割合については、本発明被覆インサートにおいては、30〜70%の範囲を示しており、その結果、すぐれた層間付着強度を有するのに対して、従来被覆インサートにおいては、その値が30%未満の値となっているため層間付着強度は不満足なものとなっている。
さらに、上記の本発明被覆インサート1〜8および従来被覆インサート1〜8について、これの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有する層からなることが確認された。また、これらの被覆インサートの硬質被覆層の各構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記本発明被覆インサート1〜8および比較被覆インサート1〜8について、次の切削条件A〜Cにより、ミーリング加工評価を実施した。
[切削条件A]
被削材: JIS・SCMnH3のブロック材
切削速度: 250 m/min、
切り込み: 2 mm、
一刃送り量: 0.20 mm/刃、
切削時間: 10 分、
の条件での高マンガン鋼の乾式切削試験
[切削条件B]
被削材: JIS・SS490のブロック材
切削速度: 280 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
一刃送り量: 0.20 mm/刃、
切削時間: 10 分、
の条件での軟鋼の湿式切削試験、
[切削条件C]
被削材: JIS・SUS301のブロック材
切削速度: 220 m/min、
切り込み: 2 mm、
一刃送り量: 0.20 mm/刃、
切削時間: 10 分、
の条件でのステンレス鋼の乾式切削試験、
そして、上記の各切削試験A〜Cにおける切刃の逃げ面摩耗幅を測定し、この測定結果を表7、表8に示した。
Figure 0005257178
Figure 0005257178
Figure 0005257178
Figure 0005257178
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Figure 0005257178
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原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するCo粉末、(Ti,WC)粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、VC粉末およびWC粉末を用意し、これら原料粉末を、表9に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で36時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、前記3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(ドリル用超硬基体D〜Fを使用)、8mm×22mm(ドリル用超硬基体D〜Fを使用)、および16mm×45mm(ドリル用超硬基体D、Fを使用)の寸法、並びにいずれもねじれ角:30度の2枚刃形状をもったドリル用超硬基体D〜Fをそれぞれ製造した。
ついで、これらのドリル用超硬基体D〜Fのそれぞれを、通常の化学蒸着装置に装入し、まず、表2〜4に示される条件にて、それぞれ表10に示される目標層厚のTi化合物層、改質Al23層および改質Cr23層を、硬質被覆層の下部層、中間層および上部層として蒸着形成することにより本発明被覆ドリル1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、改質Al23層、改質Cr23層に代えて、表5,6に示される条件で、表11に示される目標層厚の従来Al23層および従来Cr23層を、硬質被覆層の中間層および上部層として蒸着形成する以外は同一の条件で比較被覆ドリル1〜8をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆ドリルおよび比較被覆ドリルの硬質被覆層の中間層を構成する改質Al23層及び従来Al23層について、また、上部層を構成する改質Cr23層及び従来Cr23層について、本発明被覆エンドミル、比較被覆エンドミルの場合と同様に、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ作成し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求めた。
この結果得られた各種のAl23層、Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体(上記の結果からΣ3、Σ7、Σ11、Σ13、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、およびΣ29のそれぞれの分布割合の合計)に占めるΣ3の分布割合をそれぞれ表10,11にそれぞれ示した。
上記の各種のAl23層、Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、表10,11にそれぞれ示される通り、本発明被覆エンドミルの改質Al23層、改質Cr23層は、いずれもΣ3の占める分布割合が60%以上の構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、比較被覆サーメット工具の従来Al23層、従来Cr23層は、いずれもΣ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示すものであった。
なお、図2は、本発明被覆ドリル4の硬質被覆層の上部層である改質Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフ、図3は、中間層である改質Al23層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示す。
また、図4は、比較被覆ドリル5の硬質被覆層の上部層である従来Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフ、図5は、中間層である従来Al23層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示す。
次に、被覆インサートの場合と同様にして、上部層との界面に臨んで存在する全ての中間層Σ3対応粒界の数と位置、また、中間層との界面に臨んで存在する全ての上部層Σ3対応粒界の数と位置を求め、上部層と中間層との界面におけるΣ3対応粒界連続割合(%)を求めた。この値を表10、11に示す。
なお、被覆インサートの場合と同様、中間層のΣ3比率は、中間層と上部層との界面から、基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたって求めたΣ3の比率の平均値であり、上部層のΣ3比率は、上部層全体にわたって求めたΣ3の比率の平均値である。
表10、11にそれぞれ示される通り、本発明被覆ドリルおよび従来被覆ドリルのいずれにおいても、中間層のΣ3比率は60%以上となっており、中間層はすぐれた高温強度を備える。
一方、同じく表10、11に示されるように、Σ3対応粒界連続割合については、本発明被覆ドリルにおいては、30〜70%の範囲を示しており、その結果、すぐれた層間付着強度を有するのに対して、従来被覆ドリルにおいては、その値が30%未満の値となっているため層間付着強度は不満足なものとなっている。
さらに、上記の本発明被覆ドリル1〜8および従来被覆ドリル1〜8について、これの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有する層からなることが確認された。また、これらの被覆ドリルの硬質被覆層の各構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および比較被覆ドリル1〜8のうち、本発明被覆ドリル1〜3および比較被覆ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS301の板材、
切削速度: 40 m/min.、
送り: 0.26 mm/rev.、
穴深さ: 8 mm
の条件でのステンレス鋼の湿式穴あけ切削加工試験、
本発明被覆ドリル4〜6および比較被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCMnH3の板材、
切削速度: 45 m/min.、
送り: 0.27 mm/rev.、
穴深さ: 25 mm
の条件での高マンガン鋼の湿式穴あけ切削加工試験、
本発明被覆ドリル7,8および比較被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SS490の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.31 mm/rev、
穴深さ: 35 mm
の条件での軟鋼の湿式穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10、11に示した。
Figure 0005257178
Figure 0005257178
Figure 0005257178
表7、8、10、11に示される結果から、本発明被覆工具(本発明被覆インサート1〜8、本発明被覆ドリル1〜8)は、中間層Σ3比率及び上部層Σ3比率が60%以上であってすぐれた高温強度を有し、かつ、硬質被覆層の中間層と上部層との界面で、全ての中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の中間層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成し中間層−上部層間ですぐれた層間付着強度を有するため、層間剥離の発生もなくすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を示す。
しかるに、硬質被覆層の中間層が従来Al23層、上部層が従来Cr23層で構成された従来被覆工具(従来被覆インサート1〜8、従来被覆ドリル1〜8)においては、特に、上部層と中間層の層間付着強度が不十分なため、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材のフライス加工、ドリル加工等の切削加工で、硬質被覆層に剥離、チッピング等が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に、軟鋼、ステンレス鋼及び高マンガン鋼などの難削材のフライス加工、ドリル加工でもすぐれた耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Al23層、Cr23層における結晶粒の(0001)面および(10−10)面の傾斜角の測定態様を示す概略説明図である。 本発明被覆ドリル4の硬質被覆層の上部層である改質Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフである。 本発明被覆ドリル4の硬質被覆層の中間層である改質Al23層の構成原子共有格子点分布グラフである。 比較被覆ドリル5の硬質被覆層の上部層である従来Cr23層の構成原子共有格子点分布グラフである。 比較被覆ドリル5の硬質被覆層の中間層である従来Al23層の構成原子共有格子点分布グラフである。 (a)は、上部層と中間層の界面で、全ての中間層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の中間層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界を形成している本発明被覆ドリル4の結晶粒界構造の模式図、(b)は、上部層と中間層の界面で、全ての中間層Σ3対応粒界のうちの30%未満の中間層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界を形成している従来被覆ドリル5の結晶粒界構造の模式図である。

Claims (1)

  1. 工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
    (a)下部層は、チタンの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの少なくとも1層以上からなり、0.5〜7μmの合計層厚を有するチタン化合物層、
    (b)中間層は、0.5〜4μmの層厚を有する酸化アルミニウム層、
    (c)上部層は、0.5〜3μmの層厚を有する酸化クロム層からなり、
    (d)上記(b)の中間層及び上記(c)の上部層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒はコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、上記(b)の中間層及び上記(c)の上部層のいずれも、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が、60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示し、
    (e)さらに、上部層との界面に臨んで存在する中間層のΣ3対応粒界の数と位置を測定し、また、中間層との界面に臨んで存在する上部層のΣ3対応粒界の数と位置を測定した場合に、中間層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する中間層のΣ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の中間層のΣ3対応粒界に対して、上部層のΣ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
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