以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、ステータと、永久磁石ロータと、巻線ロータとを備え、永久磁石と巻線ロータとの間にクラッチが設けられ、巻線ロータの回転軸の一方側がエンジンに接続され、永久磁石ロータが変速機に接続される動力伝達機構を説明するが、これ以外の構造であっても、スリップリングとブラシとが用いられる回転電機であればよい。また、以下で述べる材質、形状、寸法等は説明のための例示であり、回転電機の仕様等に適合するように適宜変更が可能である。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、スリップリングとブラシが用いられるハイブリッド駆動システム10の構成を説明する図である。このハイブリッド駆動システム10は車両の駆動に用いられるもので、エンジン12と変速機14との間に動力伝達機構としての回転電機20が設けられる。変速機14の先は、車輪16に接続される。
回転電機20は、3相信号で作動し、回転軸22と、ロータ巻線25が巻回され回転軸22周りに回転可能な巻線ロータ24と、永久磁石が取り付けられ回転軸22周りに回転可能な永久磁石ロータ26と、永久磁石ロータ26の外周側に配置され回転電機筐体部に固定されるステータ28とを含む。そして、回転軸22には、スリップリング30が取り付けられ、このスリップリング30に押し付けられるようにブラシ部32が設けられる。スリップリング30とブラシ部32は、3相信号のそれぞれに対応し、3つの電気的に分離された部分を有する構成となっている。3相に対応する3つのスリップリング30のそれぞれは、巻線ロータ24の巻線であるロータ巻線25における3相巻線のそれぞれに接続される。
ハイブリッド駆動システム10は、電源回路部として、ブラシ部32から取り出される3相信号を直流に整流する整流器60と、整流器60の出力を昇圧するDC/DCコンバータ62と、DC/DCコンバータ62の正極母線と負極母線に両端子が接続されるものとして、バッテリ64と、インバータ66と、クランキング用インバータ68を含んで構成される。また、図1には図示されていないが、ハイブリッド駆動システム10を構成する各要素の作動を全体として制御する制御部を含んで構成される。
かかるハイブリッド駆動システムの動作は以下の通りである。図1の構成において、エンジン12の動力により回転軸22を介して巻線ロータ24が回転駆動され、巻線ロータ24の回転速度が永久磁石ロータ26の回転速度よりも高くなると、巻線ロータ24の巻線であるロータ巻線25に誘起起電力が発生する。ここで、DC/DCコンバータ62の出力電圧がバッテリ64の電圧よりも高くなるようにDC/DCコンバータ62の昇圧比を制御することで、ロータ巻線25に誘導電流が流れ、巻線ロータ24と永久磁石ロータ26との間にトルクが作用して永久磁石ロータ26が回転駆動される。
このパワー伝達経路は、エンジン12の機械的動力によるものであるので、これを機械パスと呼ぶことができる。巻線ロータ24と永久磁石ロータ26との間に作用するトルクは、DC/DCコンバータ62の昇圧比、すなわち、DC/DCコンバータ62を構成するスイッチング素子のデューティ比により制御可能である。上記構成によって、巻線ロータ24と永久磁石ロータ26との回転差を許容できるため、車輪16の回転が停止してもエンジン12がストールすることがなく、いわゆるトルクコンバータとしての機能を実現できる。
さらに、ロータ巻線25に発生した3相交流電力は、スリップリング30とブラシ部32を介して取り出される。取り出された交流電力は、整流器60で直流に整流され、整流された直流電力はDC/DCコンバータ62で昇圧される。そしてDC/DCコンバータ62からの直流電力がインバータ66によって再び3相交流に変換されてからステータ28の巻線であるステータ巻線29に供給されることで、ステータ28と永久磁石ロータ26との間にトルクが作用する。このパワー経路は、電力によるものであるので、これを電気パスと呼ぶことができる。
また、バッテリ64からステータ巻線29へ電力供給を行うようにインバータ66のスイッチング動作を制御して、ステータ28と永久磁石ロータ26との間にトルクを作用させることで、エンジン12が動力を発生していなくても、永久磁石ロータ26を回転駆動させることができる。すなわち、いわゆるEV(Electrical Vehicle)走行を行うことができる。
また、バッテリ64からの電力を用いてクランキング用インバータ68によって3相信号を生成し、ブラシ部32とスリップリング30を介して巻線ロータ24のロータ巻線25に駆動電流を供給することができる。これによって永久磁石ロータ26と巻線ロータ24との間にトルクを発生させ、エンジン12を起動させることができる。すなわち、クランキング機能を持たせることができる。さらに、クラッチ18を切断することで、巻線ロータ24のロータ巻線25に発生する電力を取り出すことができる。すなわち、発電機としての機能を持たせることができる。
上記のように、図1で説明した回転電機20は、トルク増幅機能を有するトルクコンバータとしての機能、エンジン直結駆動機能、モータとして用いてハイブリッド走行とEV走行を可能とする機能、エンジン始動のクランキング機能、発電機としての機能等を車両の運転状況に合わせ選択的に用いることができる多機能の動力伝達機構である。
次に、この回転電機20におけるスリップリング30とブラシ部32の詳細について説明する。図2は、スリップリング30とブラシ部32の様子を示す図で、正面図と側面図が示されている。
スリップリング30は、回転電機20の回転軸22に回転止めされて固定され、回転軸22と一体的に回転する金属製のリングである。図2の側面図に示されるように、スリップリング30は、3相信号に対応して3つ並列に回転軸に設けられ、それらの間は絶縁材料の環状部材で仕切られている。各スリップリング30は図示されていない引出配線によって、回転電機20の巻線ロータ24の3相のロータ巻線25のそれぞれに接続される。
かかるスリップリング30としては、例えば、純銅製の材料を加工してリング状としたものを用いることができる。3つのリングを互いに電気的に絶縁して並列に整列配置するには、絶縁材料と一体成形する方法を用いることができる。
ブラシ部32は、ブラシ34と、押付機構40と、ブラシ筐体部36とを含んで構成される。ブラシ筐体部36は、図2の正面図に示されるように円環状の部材で、回転電機20の筐体に固定して取り付けられ、押付機構40とブラシ34を保持する機能を有する。
ブラシ34は、回転軸22と共に回転するスリップリング30に押し付けられて電気的に接触する導電性の摺動部材である。ブラシ34は、3つのスリップリング30のそれぞれに対応して3系統に電気的に分離して設けられる。図2では、各相に対応して3つのブラシ34が設けられる様子が示されているが、勿論1つずつでもよく、2つ、あるいは4以上であってもよい。1つのスリップリング30に対して複数のブラシを周方向に沿って均等間隔で配置することで、スリップリング30に対する摺動負荷を均等化することができる。
複数のブラシ34は、適当な引出線を用いて各相ごとにまとめられ、図1で説明したように、整流器60、クランキング用インバータ68に接続される。かかるブラシ34としては、例えば銅入りのカーボンを材料として、金型等を用いて所定の形状に成形したものを用いることができる。
ブラシ34は、スリップリング30と摺動することで次第に摩耗するので、回転電機20の設計寿命を考慮して、その寿命の最後のときでも十分な高さ寸法となるように、初期高さ寸法が設定される。例えば、設計寿命の期間において、約15mm程度摩耗することが予測されるときは、スリップリング30に接触するときの回転軸22を中心として径方向に沿った寸法を高さ寸法として、初期高さ寸法を約20mm程度とすることができる。
押付機構40は、上記のようにブラシ筐体部36に取り付けられ、スリップリング30に対するブラシ34の押付力を与える機構である。ブラシ34の押付力は、スリップリング30とブラシ34の材料、回転電機20の回転軸22の回転速度等によって適当に設定されるが、一例を上げると、全部のスリップリング30に対する全体の押付力の合計が約数N程度となるように設定することができる。
押付機構40は、ブラシ34を押付方向に付勢力を与える付勢手段としての板バネ42および案内ピン44,46と、ブラシ34の摩耗量に応じて予め定めた移動プロファイル溝を有し案内ピン44,46を案内する案内溝部材50,70と、案内溝部材50,70を移動駆動し、移動プロファイル溝を回転軸22に対し周方向に回転させる移動機構80を含んで構成される。ここで、案内溝部材50,70と移動機構80は、ブラシ34の摩耗に従って板バネ42の付勢力の原点位置を調整する調整部に対応する。
なお、図2の正面図では、3相のうちの1つの相に対応する1つのスリップリング30に対し、3つのブラシ34が図示されているが、押付機構40は、そのうちの1つのブラシ34に対するものについて示してある。他の2つのブラシ34については板バネ42と案内ピン44,46のみを示して他の要素の図示を省略してあるが、いずれのブラシ34についても同じ構造の押付機構40が設けられ、また、他の相に対応する各ブラシ34についても同様である。
板バネ42は、ブラシ34と一体となって取り付けられる接触部38に接触し、ブラシ34にスリップリング30に対する押付力として、スリップリング30の外周面に垂直方向である押付方向に付勢力を与える付勢手段である。板バネ42は、ブラシ34側に凸部を有し、その凸部で接触部38に接触する。
板バネ42のバネ定数は、スリップリング30の偏心やその摺動面の凹凸等による摺動位置の変動に対して、ブラシ34を十分に追従させる程度に適当な大きさに設定される。これによって、スリップリング30が回転するときに、ブラシ34がはねること等を十分に抑制することができる。
案内ピン44,46は、板バネ42のブラシ34に接触する側の反対側で、板バネ42の凸部を挟んで左右両側に設けられるピンである。ここで、一方側を右案内ピン44、他方側を左案内ピン46と呼ぶことができる。なお、左右案内ピン44,46は、板バネ42に一体化して取り付けられる。
案内ピン44,46は、このように板バネ42の凸部を挟んだ両側にそれぞれ一体化して取り付けられるので、板バネ42の付勢力の大きさは、この案内ピン44,46と接触部38との相対関係で定まる。その意味で、案内ピン44,46のブラシ筐体部36における径方向に沿った位置が、板バネ42の付勢力の原点位置となる。
案内溝部材50,70は、ブラシ筐体部36と外形がほぼ同じ円板状部材で、回転軸22に同軸に配置され、ブラシ筐体部36の平板面に平行に積層するように配置される。図2の例では、ブラシ筐体部36の次に2つの案内溝部材50,70の他方である第2案内溝部材70、その次に2つの案内溝部材50,70の一方である第1案内溝部材50がこの順に積層して配置される。案内溝部材50,70は、回転軸22の周りにそれぞれ回転可能に支持される。
案内溝部材がこのように2枚あるのは、2つの案内ピン44,46のブラシ筐体部36における径方向に沿った位置を、同時に同じ方向に移動させるためである。そのメカニズムは次のような構造で実現される。
すなわち、第1案内溝部材50には、左右の案内ピン44,46にそれぞれ対応して2つの第1移動プロファイル溝52,54が設けられる。また、2つの案内溝部材の他方である第2案内溝部材70には、左右の案内ピン44,46にそれぞれ対応して2つの第2移動プロファイル溝72,74が設けられる。それぞれの移動プロファイル溝52,54,72,74は、それぞれ回転軸22まわりの角度位置に応じて、回転軸22からの径方向の距離が変化する曲線的なプロファイルを有するスリット溝である。
図2では、第1案内溝部材50に設けられる2つの第1移動プロファイル溝52,54が実線で示され、正面図では第1案内溝部材50の背後に配置される第2案内溝部材70に設けられる2つの第2移動プロファイル溝72,74が破線で示されている。
図2で示されるように、2つの第1移動プロファイル溝52,54と2つの第2移動プロファイル溝72,74とは、回転軸22からの径方向の距離の変化が、回転軸22のまわりの角度位置に関し、対称的になっている。すなわち、図2の紙面上で、回転軸22まわりの角度位置について時計方向を正の角度位置として、2つの第1移動プロファイル溝52,54は、回転軸22のまわりの角度位置が正方向に行くにつれ、回転軸22からの径方向の距離が小さくなるのに対し、2つの第2移動プロファイル溝72,74は、回転軸22のまわりの角度位置が負方向に行くにつれ、回転軸22からの径方向の距離が小さくなる。
したがって、案内溝部材50,70が回転軸22に同軸に配置されると、第1移動プロファイル溝52と第2移動プロファイル溝72とは、X字形に重ねられ、その交差するところに交差空間が形成される。また、第1移動プロファイル溝54と第2移動プロファイル溝74とも、X字形に重ねられ、その交差するところにやはり交差空間が形成される。この2つの交差空間に、それぞれ左右の案内ピン44,46が配置される。すなわち、第1移動プロファイル溝52と第2移動プロファイル溝72とが重ねられて形成される交差空間に右案内ピン44が配置され、第1移動プロファイル溝54と第2移動プロファイル溝74とが重ねられて形成される交差空間に左案内ピン46が配置される。
そして、このようにして構成される2つの案内溝部材50,70の間には駆動輪76が配置される。駆動輪76は、案内溝部材50の外周の外側縁と、案内溝部材70の外周における内側縁とにそれぞれ摩擦接触している。したがって、駆動輪76を回転させることで、案内溝部材50と案内溝部材70とを、同時に回転軸22のまわりに相互に逆方向に回転させることができる。
案内溝部材50と案内溝部材70とが、回転軸22のまわりに相互に逆方向に回転すると、第1移動プロファイル溝52と第2移動プロファイル溝72とが重ねられて形成される交差空間も、第1移動プロファイル溝54と第2移動プロファイル溝74とが重ねられて形成される交差空間も、同時に、ブラシ筐体部36の径方向に沿って同じ方向に移動する。つまり、各交差空間の移動軌跡は、ブラシ筐体部36の径方向に沿って同じ方向に移動し、したがって、各交差空間にそれぞれ配置される案内ピン44,46の移動軌跡も、径方向に沿って同じ方向に移動する。
図2に示されるラチェット歯車78とラチェット爪79は、案内溝部材50と案内溝部材70との間の相互に逆方向の回転を確実にするために設けられる逆転防止手段である。また、これらの逆転防止手段は、ブラシ34が摩耗したときに、板バネ42の付勢力の原点位置である案内ピン44,46の位置が不変のままで固定されているとスリップリング30に対するブラシ34の押付力が不十分となって隙間が生じ得ることを避けて、摩耗の進行に応じてこの隙間を順次詰めて行く機能を有する。これらの逆転防止手段には、必要に応じ解除することができるように、図示されていない逆転防止解除手段が設けられる。
移動機構80は、駆動輪76を介して2つの案内溝部材50,70を回転軸22の周りに相互に逆方向に回転駆動させる機能を有し、具体的には、駆動輪76を所定の回転方向に回転駆動させる機能を有する。かかる移動機構80としては、例えば、小型モータ等で構成することができる。
上記構成の作用を図3から図5を用いて説明する。なお、これらの各図では、ブラシ34に対する押付力に関する要素を抜き出して示し、その他の要素の図示を省略してある。
図3は、ブラシ34の摩耗が余りない状態、例えば初期状態の様子を示す図である。ここでは、ブラシ34の高さが十分あるので、その高さに応じて板バネ42が所定の押付圧を接触部38に与えるように、第1移動プロファイル溝52と第2移動プロファイル溝72とが重ねられて形成される交差空間と、第1移動プロファイル溝54と第2移動プロファイル溝74とが重ねられて形成される交差空間とが、回転軸22から遠い位置になるように設定される。
図4は、ブラシ34の摩耗が進んできた状態の様子を示す図である。ここでは、ブラシ34が摩耗したときに生じ得るスリップリング30との間の隙間を詰めるように、第1案内溝部材50と第2案内溝部材70とが回転軸22の周りに相互に逆方向に回転される。図4では、紙面上で第1案内溝部材50が反時計方向に回転し、第2案内溝部材70が時計方向に回転する様子が示されている。これによって、第1移動プロファイル溝52と第2移動プロファイル溝72とが重ねられて形成される交差空間と、第1移動プロファイル溝54と第2移動プロファイル溝74とが重ねられて形成される交差空間とが、共に同時に、回転軸22の方に向かって径方向に移動する。
このように、回転軸22まわりの角度に対し、回転軸22からの径方向の距離の変化の仕方の異なる2種類の移動プロファイルを有するスリット溝を、回転軸22の周りに相互に逆方向に回転させることで、板バネ42の付勢力の原点位置である案内ピン44,46の位置を、ブラシ34の摩耗に応じて調整することができる。
ブラシ34の摩耗に応じた回転角度で第1案内溝部材50と第2案内溝部材70とを相互に逆方向に回転させるには、例えば、ハイブリッド駆動システム10の累積作動時間、回転電機20の累積作動時間、回転軸22の累積回転数、ブラシ34とスリップリング30との間の通電の累積時間等を用い、これらの累積量に応じて移動機構80が駆動輪76の回転量を制御する。また、ブラシ34の摩耗は短期間で生じるものではないので、摩耗量の進行に応じ、少しずつ第1案内溝部材50と第2案内溝部材70とを相互に逆方向に回転させることになるが、ラチェット歯車78、ラチェット爪79の逆転防止手段によって、この順次少量ずつ行われる回転量が逆転防止しながら確実に保持される。
図3、図4は、回転電機20が通常の運転モードの場合であるが、図5は、回転電機20が予め定めた所定の運転モードとして、スリップリング30とブラシ34との間の通電を要しないときの様子を示す図である。ここでは、上記の逆転防止手段の作用が解除され、通常状態とは反対方向に、第1案内溝部材50と第2案内溝部材70とが相互に逆方向に回転する。図5では、紙面上で第1案内溝部材50が時計方向に回転し、第2案内溝部材70が反時計方向に回転する様子が示されているが、この回転方向は図4の運転モードの場合と反対方向である。
このように、ブラシ34の摩耗に対応する通常状態の動作とは反対方向に、第1案内溝部材50と第2案内溝部材70とを相互に逆方向に回転させることで、板バネ42の付勢力の原点位置である案内ピン44,46を回転軸22から遠い方向へ移動させる。これによって、板バネ42のブラシ34に対する付勢力が小さくなり、ブラシ34のスリップリング30に対する押付力を軽減することができる。場合によっては、ブラシ34をスリップリング30に全く接触しないようにもできる。これによって、ブラシ34の不必要な摩耗を抑制することができる。
上記では、ブラシ34に対する押付力の調整を2種類の移動プロファイル部材を用いて行うものとしたが、これをブラシ34の頂部に取り付けられる接触部の形状を工夫することで、1種類の移動プロファイル部材を用いて行うことができる。
例えば、接触部の形状を回転軸22の周りの周方向に沿ってなだらかに変化する曲線部を有するものとし、移動プロファイル部材をこの曲線部に合わせたプロファイル曲線部を有するものとする。そして、移動プロファイル部材を回転軸の周りに回転させると、移動プロファイル部材のプロファイル曲線部が接触部の曲線部に倣うようにして、接触部、すなわちブラシ34を径方向に押し付けるものとできる。これによって、例えば、ブラシ34の摩耗によって生じ得るスリップリング30との間の径方向の隙間を詰めることができる。
また、上記では、ブラシ34に対する押付力の調整を、ブラシ34の摩耗に対応するためにハイブリッド駆動システム10の累積作動時間等を用い、回転電機20の運転状態に対応するためにその運転モードの区別を用いるものとしたが、これをシステムの周期的な動作によって生じる温度サイクル、通電サイクルを用いるものとすることができる。
ブラシの摩耗は徐々に進むので、例えば、1日単位程度の間隔で付勢手段の付勢力の原点位置を順次変更することで十分間に合うことが多い。1日単位程度の間隔の周期の動作としては、回転電機20の運転周期、または回転電機20が搭載されるハイブリッド駆動システム10の運転周期がある。そこで、回転電機等が運転されるときに発熱によって温度が上昇し、運転が休止するときは温度が下ることによるある程度長い周期の温度サイクルを利用することができる。これによって、特別な摩耗量検出手段を用いることなく、ブラシ34の摩耗に応じて、付勢手段の付勢力の原点位置を順次変更するものとできる。
また、回転電機20の運転状態によってはブラシ34とスリップリング30との間の通電を要しないことの検出は、回転電機20のロータ巻線25等の温度サイクルの検出で行うことができる。例えば、ロータ巻線25の温度が上昇したときをブラシ34への通電がONに対応するものとし、その温度が低下したときをブラシ34への通電のOFFに対応するものとできる。これによって、特別なブラシ34の通電検出手段を用いることなく、ロータ巻線25の温度が低下したときに、ブラシの押付力を軽減する方向に付勢手段の付勢力の原点位置を変更し、再び温度が上昇したときに元に戻すようにすることができる。
図6は、1種類のスリット溝を用い、また、回転電機20または回転電機20が搭載されるシステムの温度サイクルの検出と、ロータ巻線25等の温度サイクルによるブラシ34の通電サイクルの検出を用いて、ブラシ34に対する付勢力の原点位置の調整を行うことができる形態の構成を説明する図である。
ここでは、図2と同様に、回転電機20における押付機構90の詳細について、正面図と側面図が示されている。また、図2と同様に、正面図では、3相のうちの1つの相に対応する1つのスリップリング30に対し、3つのブラシ34が図示されているが、押付機構90は、そのうちの1つのブラシ34に対するものについて示してある。他の2つのブラシ34については、ブラシ34の頂部に設けられる接触部92のみを示して他の要素の図示を省略してあるが、いずれのブラシ34についても同じ構造の押付機構90が設けられ、また、他の相に対応する各ブラシ34についても同様である。
ブラシ34の頂部に設けられる接触部92は、回転軸22の周りの周方向に沿ってなだらかに変化する外周曲線部を有する部材である。この外周曲線部は、図6の例では、回転軸22の周方向に沿って、時計方向に向かうにつれて、回転軸22からの距離が次第に高くなる形状を有する。
移動プロファイル部材94は、接触部92の曲線部に合わせたプロファイル曲線部を有し、回転軸22の周りに回転可能な部材である。すなわち、上記の接触部92の外周曲線部の形状に対応し、プロファイル曲線部は、回転軸22の周りの周方向に沿ってなだらかに変化する形状を有する。この曲線部の形状は、ブラシ34が摩耗したときに、移動プロファイル部材94を回転軸22の周りに回転して、接触部92の曲線部を押し付けることで、ブラシ34の摩耗量を補償するように設定される。
なお、図6では図示が省略されているが、接触部92と移動プロファイル部材94との間には、ブラシ34に付勢力を与える適当なバネ部材が設けられる。バネ部材は、接触部92と一体として設けられる。例えば、接触部92の曲線部の形状を有する板バネをブラシ34の頂部に取り付け、これをそのまま接触部92として用いることもできる。
したがって、移動プロファイル部材94を回転軸22の周りに回転させると、移動プロファイル部材94のプロファイル曲線部が接触部92の曲線部に倣うようにして、接触部92、すなわちブラシ34を径方向に押し付けるものとできる。これによって、例えば、ブラシ34の摩耗によって生じ得るスリップリング30との間の径方向の隙間を詰めることができる。
ラチェット機構96は、移動プロファイル部材94が一方向にのみ回転可能にする逆転防止機構である。これらの逆転防止手段は、ブラシ34が摩耗したときに、接触部92の高さ位置が不変のままで固定されているとスリップリング30に対するブラシ34の押付力が不十分となって隙間が生じ得ることを避けて、摩耗の進行に応じてこの隙間を順次詰めて行く機能を有する。これらの逆転防止手段には、必要に応じ解除することができるように、図示されていない逆転防止解除手段が設けられる。
移動機構98は、移動プロファイル部材94を回転軸22の周りに回転駆動する機能を有し、例えば、小型モータ等で構成することができる。移動機構98は、温度サイクル検出部100からの信号に応じて、比較的に長期的な周期の移動駆動を行い、通電サイクル検出部102からの信号に応じて、比較的に短期的な周期の移動駆動を行う。比較的長期的な周期とは、例えば、1日単位以上の長い周期であり、比較的短期的な周期とは、ブラシ34とスリップリング30に通電が行われる周期程度の長さの周期である。
温度サイクル検出部100は、回転電機20の温度の上昇、低下の周期の検出、または回転電機20が搭載されるハイブリッド駆動システム10の他の構成要素の温度の上昇、低下の周期の検出を行い、その周期を示す信号を移動機構98に出力する機能を有する。ここでは、エンジン12の温度を検出するセンサの信号を利用し、エンジン12の温度の上昇、低下の周期を検出して、その1周期に相当する周期信号を移動機構98に出力する信号処理回路が温度サイクル検出部100として用いられる。温度サイクル検出部100から出力される信号は、ブラシ34とスリップリング30が用いられるシステムの使用頻度を示すものであるので、これをブラシ34の使用頻度、すなわち摩耗の進行程度を示す信号として用いられる。
通電サイクル検出部102は、ブラシ34に通電されるサイクルを示す信号を出力する機能を有する信号処理回路で、具体的には、ロータ巻線25の温度の上昇、低下の周期の検出を行い、その周期を示す信号を、ブラシ34の通電サイクルを示す信号として移動機構98に出力する機能を有する。通電サイクル検出部102から出力される信号は、ブラシ34とスリップリング30との間の通電が行われない回転電機20の運転状態を検出する信号として用いられる。
かかる構成の作用を図7から図9を用いて説明する。なお、これらの各図では、ブラシ34に対する押付力に関する要素を抜き出して示し、その他の要素の図示を省略してある。
図7は、ブラシ34の摩耗が余りない状態、例えば初期状態の様子を示す図である。ここでは、ブラシ34の高さが十分あるので、その高さに応じて移動プロファイル部材94の回転位置が設定され、移動プロファイル部材94の曲線部が接触部92の曲線部に倣うようにして、接触部92を押し付ける。これによって、図示されていないバネ部材を介して所定の押付圧をブラシ34に与える。
図8は、ブラシ34の摩耗が進んできた状態の様子を示す図である。ここでは、ブラシ34が摩耗したときに生じ得るスリップリング30との間の隙間を詰めるように、移動プロファイル部材94が移動機構98によって回転軸22の周りに回転駆動される。上記のように、移動プロファイル部材94の曲線部は、回転軸22の周りの周方向に沿って、回転軸22からの距離がなだらかに変化するように形成されている。したがって、ブラシ34の摩耗量に応じて移動プロファイル部材94の回転軸22の周りの回転角度を調整するように回転移動することで、ブラシ34の摩耗量を補償して、ブラシ34に所定の押付力を与えることができる。図8の例では、移動プロファイル部材94が時計方向に回転駆動され、移動プロファイル部材94の曲線部がブラシ34の摩耗によって生じる隙間を詰めるように、接触部92を押し付ける様子が示される。
この場合に、移動機構98は、図6で説明した温度サイクル検出部100から出力される温度サイクル周期信号に応じて、移動プロファイル部材94を回転駆動する。すなわち、例えば、1日単位で温度サイクル周期信号が出力されるとすると、1日に1回、所定の回転角度で移動プロファイル部材94が回転駆動される。その回転角度は、ブラシ34の位置の摩耗量を補償するのに必要な移動プロファイル部材94の回転角度である。したがって、その回転角度は僅かな量であるが、これを各温度サイクル周期で摩耗量に応じて累積するように、ラチェット機構96が作用する。このようにして、ブラシ34の摩耗に応じて、バネ部材の付勢力の原点位置を調整し、ブラシ34に所定の押付力を与え続けることができる。
図7、図8は、回転電機20が通常の運転モードの場合であるが、図9は、回転電機20が予め定めた所定の運転モードとして、スリップリング30とブラシ34との間の通電を要しないときの様子を示す図である。ここでは、上記の逆転防止手段の作用が解除され、通常状態とは反対方向に、移動プロファイル部材が移動駆動される。図9では、その移動駆動の前後を示すために、通常の運転モードにおける移動プロファイル部材94の位置を破線で示し、所定の運転モードとされたときの移動プロファイル部材95の位置を実線で示してある。ここで示されるように、所定の運転モードとされたときの移動プロファイル部材95の位置は、通常の運転モードのときの移動プロファイル部材94の位置から、反時計方向に回転移動された状態である。
これによって、移動プロファイル部材95の曲線部は、接触部92の曲線部から離れる方向となって、ブラシ34のスリップリング30に対する押付力が軽減される。場合によっては、ブラシ34をスリップリング30に全く接触しないようにもできる。これによって、ブラシ34の不必要な摩耗を抑制することができる。
この場合に、移動機構98は、図6で説明した通電サイクル検出部102から出力されるロータ巻線25の温度サイクル周期信号に応じて、移動プロファイル部材94を回転駆動する。すなわち、ロータ巻線25の温度が上昇したときをブラシ34への通電がONに対応するものとして、通常モードの状態と判断し、移動プロファイル部材94を時計方向に回転させた状態とし、その温度が低下したときをブラシ34への通電のOFFに対応するものとして、所定モードの状態と判断し、移動プロファイル部材94を反時計方向に回転させて押付力が軽減された状態とする。そして、再び温度が上昇すれば、通常モードの状態に戻ったと判断し、移動プロファイル部材94を時計方向に回転させ、押付力を元に戻す。
このようにして、ブラシ摩耗に関する特別な検出手段を用いずに、従来から備えられる温度検出手段を用いて、ブラシ34のスリップリング30に対する押付圧をブラシ摩耗に関わらず所定の値に維持することができる。また、ブラシ通電に関する特別な検出手段を用いずに、従来から備えられる温度検出手段を用いて、ブラシ34とスリップリング30の間の通電が行われない運転モードのときにブラシ34の押付圧を軽減して、不必要なブラシ34の摩耗を抑制することができる。
10 ハイブリッド駆動システム、12 エンジン、14 変速機、16 車輪、18 クラッチ、20 回転電機、22 回転軸、24 巻線ロータ、25 ロータ巻線、26 永久磁石ロータ、28 ステータ、29 ステータ巻線、30 スリップリング、32 ブラシ部、34 ブラシ、36 ブラシ筐体部、38,92 接触部、40,90 押付機構、42 板バネ、44,46 案内ピン、50,70 案内溝部材、52,54,72,74 移動プロファイル溝、60 整流器、62 DC/DCコンバータ、64 バッテリ、66 インバータ、68 クランキング用インバータ、76 駆動輪、78 ラチェット歯車、79 ラチェット爪、80,98 移動機構、94,95 移動プロファイル部材、96 ラチェット機構、100 温度サイクル検出部、102 通電サイクル検出部。