以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。図1はエンジンの排気浄化装置の概略構成を示している。
図1においてエンジン1の吸気コレクタ8の上流には、吸入空気量を調整するスロットル弁7が設置されている。スロットル弁7は、エンジンコントローラ21からの信号により作動するステップモータ15によりその開度が制御される。
吸気ポート2の燃焼室4への開口部に吸気バルブ5が、排気ポート3の燃焼室4への開口部に排気バルブ6を備える。エンジン1の燃焼室4には、点火プラグ14と共に燃料噴射弁13が設置されている。燃料噴射弁13は、エンジンコントローラ21から出力される燃料噴射パルス信号を受けて開弁し、燃料ポンプ12により吐出され所定圧力に調圧された燃料タンク11からの燃料を、エンジン回転に同期した所定のタイミングで燃焼室4に直接的に噴射するようになっている。
エンジン1の排気通路8(正確には排気マニホールド集合部の下流)には、排気浄化用の触媒16が設けられている。
エンジン1にはまた、吸気バルブ5のバルブリフト量や作動角を変化させることなく、吸気バルブ5の作動角の中心角(この中心角を、以下「吸気中心角」という。)を連続的に進角もしくは遅角させることにより、吸気バルブ5の開閉時期を連続的に変更可能な可変バルブタイミング機構(この可変バルブタイミング機構を、以下「吸気VTC機構」という。)31を備えている。同様に、排気バルブ6のバルブリフト量や作動角を変化させることなく、排気バルブ6の作動角の中心角(この中心角を、以下「排気中心角」という。)を連続的に進角もしくは遅角させることにより、排気バルブ6の開閉時期を連続的に変更可能な可変バルブタイミング機構(この可変バルブタイミング機構を、以下「排気VTC機構」という。)32を備えている。これら各VTC機構31、32には油圧式や電動式のアクチュエータ31a、32aを備えており、これら各アクチュエータ31a、32aはエンジンコントローラ21からの信号により駆動されるようになっている。各VTC機構31、32は公知であるため、その詳細な説明は省略する。
エンジン1にはさらに、タービンとコンプレッサとが同軸に配置される図示しないターボチャージャ(過給装置)を備えている。タービンは排気マニホールド集合部のすぐ下流位置(触媒16よりは上流位置)に、コンプレッサはエアフローメータ22の下流でスロットル弁7の上流の位置に設けられている。排気エネルギーにより回転されるタービンがコンプレッサを駆動して吸入空気を過給する。また、タービン上流の排気通路からタービンをバイパスしてタービン下流の排気通路に合流するバイパス通路に、エンジンコントローラ21からの信号により開閉駆動されるウエイストゲートバルブ35が設けられている。
エンジンコントローラ21には、アクセルペダルセンサ(図示しない)により検出されるアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)、クランク角センサ24により検出されるエンジン回転速度、エアフローメータ22により検出される吸入空気流量、スロットルセンサ23により検出されるスロットル開度、水温センサ25により検出されるエンジン冷却水温、温度センサ26により検出される触媒16の温度が入力されている。
エンジンコントローラ21は、これらの入力信号より検出されるエンジン運転条件に基づいて、均質燃焼(燃焼室4の全体に混合気を行き渡らせた状態での燃焼)を行うのか、それとも成層燃焼(点火プラグ周りに混合気を集中させた状態での燃焼)を行うのかの燃焼方式を設定し、設定した燃焼方式に合わせて、スロットル弁7の開度、燃料噴射弁13の燃料噴射時期及び燃料噴射弁13からの燃料噴射量、点火プラグ14の点火時期を、さらには吸気VTC機構31、排気VTC機構32を介して吸排気バルブ5、6のバルブタイミングを制御する。
さて、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、エンジンの冷間始動後のアイドル状態で一部の気筒(噴射停止気筒)の燃料噴射を停止すると共に、残りの気筒(運転気筒)について空燃比が理論空燃比付近または少しリーン側となるように燃料噴射を行うと共に点火時期を圧縮上死点後(例えばATDC10°CA)まで遅角することで、運転気筒からの排気を昇温しつつこの高温の排気中の未燃HC、COを噴射停止気筒からの新気中の酸素と混合させて排気通路内で後燃えを生じさせ、このようにして一段と昇温した排気を触媒に導入することによって、エンジン始動後の触媒の早期活性化(早期暖機)を図る従来装置がある。
ここで、エンジンの冷間始動後のアイドル状態で触媒16を暖機しているときにはエンジンも冷間状態にあり、エンジンフリクションが大きく、従って触媒16の暖機中はエンジントルクが必要な運転領域である。このため、触媒16暖機のためとはいえ上記従来装置のように点火時期の遅角と気筒停止とを行えば、エンジン全体のエンジントルクが低下するばかりか噴射停止気筒と運転気筒との間のエンジントルクのバラツキによりエンジン振動が非常に大きくなるという問題がある。
また、燃焼室内で燃焼しなかったHCが排気ポートに出てから燃えること、いわゆる後燃え(後酸化)は、そのほとんどが排気バルブ6から排気ポート3出口(エンジン出口)までで主に生じていることを実験やシミュレーションによって確認している。従って、排気マニホールド集合部の下流に触媒16が配置されている構成の場合、触媒16入口に到達するまでのガス経路上(排気通路上)のヒートマスを温めるために排気熱が消費されてしまうため、触媒16入口で排気中の未燃HCを後燃えさせて触媒16を昇温させることは不可能である。
そこで本発明は、冷間始動直後のアイドル状態である場合(アイドル状態で触媒が不活性状態にある場合)に、触媒早期暖機を行わせると共に、ターボチャージャ(過給装置)を駆動して過給状態とし、かつこの過給状態で吸気VTC機構31や排気VTC機構32(可変動弁装置)を用いて吸気バルブ5の開期間と排気バルブ6の開期間とが重なるバルブオーバーラップ(以下、単に「バルブオーバーラップ」という。)を生じさせ、吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介し排気ポート3に吹抜けさせることで、最も温度が高い排気ポート3での後燃えを効率良く促進させ、吸気ポート出口(エンジン出口)の未燃HCの濃度を低減させる。過給により過給しない場合よりも多くの高温のガスが発生するため、排気ポート3出口から触媒16までの排気通路8のヒートマスを急速に加熱することが可能となり、これによって触媒16を早期に活性化することができ、テールパイプ出口のHC濃度も同時に低減させることができる。
この本発明の制御を図2A、図2Bを参照してさらに説明する。図2A、図2Bはエンジン冷間始動からアクセルペダルを踏み込むことなくアイドル状態を保った場合に、エンジン回転速度、燃焼切換フラグ、スロットル開度、吸気コレクタ8の圧力(以下「コレクタ圧」という。)、バルブオーバーラップ量、バルブオーバーラップによる吸気ポート2から排気ポート3への吹き抜け空気量、点火時期、排気ポート3の排気温度、排気中の酸素濃度、触媒16の温度、触媒16入口のHC濃度がどのように変化するのかをモデルで示している。ただし、エンジン回転速度から点火時期までは図2Aと図2Bとで共通である。
図2A、図2Bの最上段に示すように、クランキングの開始と共にエンジン回転速度Neは急上昇して所定値N1を横切り少しオーバーシュートした後、ファーストアイドル回転速度(例えば1000rpm〜1200rpm程度)へと落ち着く。この場合に、エンジン回転速度Neと所定値N1(例えば1400rpm程度)とを比較し、エンジン回転速度Neが所定値N1以上となるt2のタイミングでエンジンの始動が完了したと判断して触媒早期暖機を行わせる。
ここでの触媒早期暖機手段として、現状の超リタード成層燃焼実現手段を用いる。
超リタード成層燃焼そのものは公知(特開2008−25535号公報参照)である。この超リタード成層燃焼について概説すると、触媒16が活性化していない場合に、点火時期を圧縮上死点後の例えば15〜30degに設定して点火を行う。また、燃料噴射時期(燃料噴射開始時期のこと。以下同じ。)を、圧縮上死点後でかつ点火時期の前、つまり膨張行程に設定して燃料噴射を行う。燃料噴射はさらに2回に分割し、2回目の燃料噴射を膨張行程での燃料噴射とし、これに先立つ1回目の燃料噴射として圧縮行程で燃料噴射を行う。また、燃料噴射による燃焼室内の空燃比(燃料噴射を2回に分割しているので2回の燃料噴射トータルによる燃焼室内の空燃比)は、理論空燃比から若干リーン側の空燃比(例えば16〜17)とする。このように2回目の燃料噴射に先立ち、1回目の燃料噴射として圧縮行程での燃料噴射を行うと、1回目の燃料噴射が吸気行程での燃料噴射である場合に比べて、圧縮行程での燃料噴射のほうがその燃料噴霧によるガス乱れの減衰が遅くなる分、1回目の燃料噴射によるガス乱れが燃焼室内に残るため、その状態で2回目の燃料噴射(膨張行程での燃料噴射)を行うことで、1回目の燃料噴射で生成したガス乱れを助長するようにガス乱れを強化でき、膨張行程においても燃焼室内ガス流動を十分に強化できることとなる。点火時期を圧縮上死点後に遅らせてのこうした燃焼も成層燃焼であるが、点火時期が圧縮上死点前にくる通常の成層燃焼と区別するため、点火時期を圧縮上死点後に遅らせているこのような燃焼形態を「超リタード成層燃焼」と名付けている。
特開2008−25535号公報に記載の超リタード成層燃焼はスプレーガイド方式といわれるものであるが、本実施形態で採用する超リタード成層燃焼はこれに限らずウォールガイド方式の超リタード成層燃焼でもかまわない。このウォールガイド式も公知である(例えば特開2006−307691号公報参照)。上記のスプレーガイド方式の超リタード成層燃焼では、ピストン冠面は平面であるため、燃料噴射弁からの噴霧(特に2回目の燃料噴射による噴霧)を噴霧の貫徹力を利用して直接点火プラグ周りに到達させるようにしているが、ウォールガイド方式の超リタード成層燃焼では、ピストン冠面にキャビティを形成し、燃料噴射弁13からの噴霧(特に2回目の燃料噴射による噴霧)をこのキャビティに向かわせた後に、キャビティ内で反転させて点火プラグ14周りに到達させるようにしている。このため、ウォールガイド方式の超リタード成層燃焼では噴射時期がスプレーガイド方式の超リタード成層燃焼と若干相違し、1回目の燃料噴射は圧縮行程前半での燃料噴射、2回目の燃料噴射は圧縮行程後半での燃料噴射となっている。なお、図1は燃料噴射弁13とピストン冠面に設けられるキャビティとの配置を正確に表すものでない。
なお、本実施形態は、これらの成層燃焼を2回の分割噴射により行うものに限定されるものでもない。すなわち、成層燃焼を1回のみの燃料噴射により行う場合(たとえば、成層燃焼を2回の分割噴射により行うものにおいて1回目の燃料噴射を省略し、2回目の燃料噴射だけを行う場合)でもかまわない。
図2A、図2Bに戻り、点火時期を所定値ADV0(MBTの得られる点火時期より若干リタード側の点火時期)にし、均質燃焼を行わせてエンジンを始動する。エンジンの始動が完了したと判定されるt2のタイミングで超リタード成層燃焼へと切換える。すなわち、点火時期を所定値ADV0から所定値ADV1(ターボチャージャを備えない場合における成層燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界)へとステップ的に遅角すると共に、燃焼形態を均質燃焼から成層燃焼に切換える。
さらに、t2でスロットル開度をアイドル相当値TVOidlから所定値ΔTVOだけステップ的に大きくした所定値TVO1(=TVOidl+ΔTVO)とする。スロットル開度をアイドル相当値TVOidlから所定値ΔTVOだけステップ的に大きくするのは、超リタード成層燃焼における点火時期の所定値ADV1への遅角によってエンジン発生トルクが減少するので、そのエンジン発生トルクの減少分を、スロットル開度を所定値ΔTVOだけステップ的に大きくすることによって燃料噴射弁13からの燃料噴射量を増やしエンジン発生トルクを増加させることで相殺し、ファーストアイドル時の目標アイドル回転速度が得られるようにするためである。なお、ファーストアイドルとは、周知のようにエンジンの暖機完了後のアイドル回転速度よりもアップさせたアイドル回転速度としてエンジンの暖機を促進するためのものである。このため、ファーストアイドル時にはエンジン暖機完了後の目標アイドル回転速度より一定値だけ高い値(図2A、図2Bでは1000rpm〜1200rpm程度)にされている。
以上が現状の超リタード成層燃焼の内容であるが、本発明ではさらに、ターボチャージャを駆動して過給状態とし、かつこの過給状態で吸気VTC機構31や排気VTC機構32を用いてバルブオーバーラップを生じさせる。この部分について次に説明する。
エンジン1は通常、図3実線で示したように、吸気バルブ5の開期間と排気バルブ6の開期間とが重ならない状態で、つまりバルブオーバーラップバルブがない状態で始動されるのであるが、本発明ではエンジンが始動を完了するタイミング(図2A、図2Bのt2)において、排気VTC機構32を非作動とした状態で図3一点鎖線で示したように吸気中心角を所定クランク角だけ進角補正することにより、バルブオーバーラップが生じるようにする。図4にはバルブオーバーラップを生じさせるときの吸排気バルブ5、6の各バルブタイミング(吸気バルブ開時期IVO、吸気バルブ閉時期IVC、排気バルブ開時期EVO、排気バルブ閉時期EVC)の一例を示している。
図2A、図2Bにおいて、エンジンが始動を完了するt2のタイミングはエンジンの仕様により予め知り得るので、そのt2のタイミングよりも前のt1でウエイストゲートバルブ35を閉じておくと、排気エネルギーによってターボチャージャが働き始め、t2のタイミングではコレクタ圧が図2A、図2B第4段目に実線で示したように大気圧P0より所定値だけ高くなっている。そして、t2のタイミングでスロットル開度をアイドル相当値TVOidlより所定値TVO1へと大きくしたことによって、コレクタ圧はt2よりさらに上昇し、所定値P1へと収束する。所定値P1(つまり過給圧)はそのときのスロットル開度(=所定値TVO1)とそのときのエンジン回転速度(=ファーストアイドル回転速度)とで定まる。比較のため、図2A、図2B第4段目にターボチャージャを備えない場合のコレクタ圧の変化を一点鎖線で重ねて示すと、ターボチャージャを備えない場合にはt1のタイミングからコレクタ圧が低下して大気圧P0より低い所定値P2へと収束することとなる。
t2のタイミングでバルブオーバーラップを生じさせたとき、ターボチャージャが働いてコレクタ圧が大気圧P0より高い所定値P1となっているため、吸気コレクタ8内にある吸入空気が吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3へと吹き抜ける。つまり、排気バルブ6の開弁によって燃焼室4から排気ポート3へと排出されるが、その排出中の燃焼ガスに対して、吸気ポート2より排気ポート3へと吹き抜けた吸入空気が混じるため、排気ポート3での後燃えが効率よく促進されることとなる。なお、図1にはEGR通路とEGRバルブとが記載されているが、本発明の触媒早期暖機を実行するときにはEGRバルブを全閉保持するものとする。従って、吸気ポート2から排気ポート3へと吹き抜ける吸入空気は全て新気であり、新気中の酸素が排気ポートでの未燃HCの後燃えに用いられる。
ここで、排気ポート3での未燃HCの後燃え効果が最大となる排気中の酸素濃度は3%であることが公知であるので、排気中の酸素濃度が3%となるように吸気ポート2から排気ポート3への吹き抜け空気量を、つまりバルブオーバーラップ量を定めることが必要となる。これについてさらに説明すると、図5は実施形態のエンジン1についてバルブオーバーラップ量と排気中の酸素濃度との関係をシミュレーションした結果である。図5より、排気中の酸素濃度が3%となるようにするにはバルブオーバラップ量は所定値O/L1とすればよいことがわかる。この所定値O/L1は、ターボチャージャ、吸気VTC機構31、排気VTC機構32を含めたエンジン1の仕様に依存する。従って、ターボチャージャ、吸気VTC機構31、排気VTC機構32を含めたエンジン1の仕様が定まれば、シミュレーションを行うことで、排気中の酸素濃度が3%となるバルブオーバーラップ量、つまり所定値O/L1が定まる。
ここで、吸気VTC機構31と排気VTC機構32とが初期位置(非作動状態)にあるときの排気バルブ閉時期EVCと吸気バルブ開時期IVOとの間のクランク角区間は所定値Δ[deg]であるとし(図3参照)、排気VTC機構32は初期位置のまま動かさず吸気VTC機構31だけを駆動して吸気中心角を進角補正することにより、排気中の酸素濃度が3%となるバルブオーバーラップ量(=O/L1)[deg]を得ようとすると、吸気中心角の進角補正量[deg]は、
進角補正量=O/L1+Δ …(1)
の式により求めることができる。ここで、所定値Δもエンジンと吸気VTC機構31、排気VTC機構32の仕様により予め定まるため、(1)式の進角補正量が一義的に定まる。
なお、エンジンや吸気VTC機構31、排気VTC機構32には個体差があるため、排気中の酸素濃度が実際には3%とならないことが考え得る。この場合には次のようにすればよい。すなわち、排気中の酸素濃度が3%となるバルブオーバーラップ量がシミュレーションにより定まったとして、そのバルブオーバーラップ量(=O/L1)を目標バルブオーバーラップ量とし、実際のバルブオーバーラップ量を検出または算出し、その検出または算出した実際のバルブオーバーラップ量が目標バルブオーバーラップ量と一致するように吸気VTC機構31のアクチュエータ31aを介して吸気中心角をフィードバック補正する。
上記では排気VTC機構32を非作動とした状態で吸気VTC機構31により吸気中心角を進角補正することによりバルブオーバーラップを生じさせる場合で説明したが(図3参照)、本発明はこの場合に限定されるものでない。例えば、吸気VTC機構31を非作動とした状態で排気VTC機構32により排気中心角を遅角補正することによって、あるいは吸気VTC機構31により吸気中心角を進角補正すると共に排気VTC機構32により排気中心角を遅角補正することによってバルブオーバーラップが生じるようにしてもかまわない。さらに、スロットルレスエンジンのように吸排気バルブを電磁アクチュエータで駆動するようなものでもバルブオーバーラップを生じさせることができる。ただし、吸気中心角と排気中心角がクランク角度上でいずれの位置にあるかは燃焼状態に大きく影響するので、燃焼状態が悪化することのないように望みのバルブオーバーラップを生じさせる場合の吸気中心角、排気中心角を定める必要がある。
一方、ターボチャージャによる過給により、図2A、図2Bにおいてt2以降ではコレクタ圧がターボチャージャを備えない場合との差圧ΔPの分だけ高くなっている。このようにターボチャージャを備えない場合よりコレクタ圧が高くなると、差圧ΔPの分だけ燃焼室4に流入する吸入空気量が増え、燃焼ガス量が増しエンジンの発生するトルクが増加する。ということは、同じファーストアイドル回転速度を保つためには、この差圧ΔPに応じたトルク増加分だけ点火時期をさらに遅角できることを意味する。
そこで、本発明では、t2より点火時期を、現状の超リタード成層燃焼で採用している所定値ADV1よりも所定値ΔADVだけ大きな所定値ADV2にまで遅角させている。ここで、所定値ADV2は、スロットル開度を所定値TVO1としかつターボチャージャにより過給を行っている状態における、成層燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界である。この所定値ADV2は、エンジン1の仕様とターボチャージャの仕様とにより定まる。このように本発明では、点火時期を現状の超リタード成層燃焼の場合の点火時期(ADV1)よりもさらに所定値ΔADVだけ遅角させた所定値ADV2とすることが可能となっている。これによって排気ポート3で生じる後燃えガス量が増え、触媒16の活性化をさらに早めることができる。
実施形態では、過給を行わせるためにターボチャージャを用いているが、これに限られるものでなく、スーパーチャージャや電動式ターボチャージャを用いることができる。スーパーチャージャを用いるときには、エンジンの始動が完了するt2のタイミングでスーパーチャージャを非作動状態から作動状態へと切換える。電動式ターボチャージャは、タービン軸をモータによっても駆動可能に構成したものである。このものでは、t2のタイミングでモータを非作動状態から作動状態へと切換えることによってターボチャージャを働かせればよい。
このように、本実施形態では、始動完了後のアイドル状態で超リタード成層燃焼を行わせつつ、ターボチャージャにより過給した吸入空気をバルブオーバーラップを利用して吸気ポート2から排気ポート3へと吹き抜けさせることで、図2A下から2段目に実線で示したように、排気ポート3の排気温度が現状の超リタード成層燃焼の場合の排気ポート3の排気温度(図2A下から2段目の一点鎖線参照)よりも上昇する。このため、触媒16の温度は、図2B下から2段目に実線で示したように、現状の超リタード成層燃焼の場合の触媒16の温度(図2B下から2段目の一点鎖線参照)よりも上昇することとなり、t3のタイミングで触媒16が活性化する温度である所定値T2に到達している。
t3で触媒16の活性化を終了するので、本実施形態では後処理を行わせる。すなわち、t3になるとバルブオーバーラップがなくなるように吸気中心角の進角補正を中止して吸気中心角を進角補正する前の値に戻し、かつ点火時期を所定値ADV2からMBTの得られる基本点火時期ADV3へと移行させる。
エンジンコントローラ15で実行されるこの制御を図6〜図10のフローチャートに基づいて詳述する。なお、図6〜図9ではアイドル状態以外の制御については省略している。
まず、図6は始動完了フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ1ではイグニッションスイッチをみる。イグニッションスイッチがONであるときにはステップ2に進み、スタータスイッチをみる。スタータスイッチがOFFのときにはステップ3に進み、スタータスイッチがONよりOFFへと切換わったタイミングより所定時間が経過したか否かをみる。所定時間は、ウエイストゲートバルブ35を閉状態とするか否かを判定するための値である。所定時間が経過していなければステップ4に進んでウエイストゲートバルブ35を開状態とし、所定時間が経過していればステップ5に進んでウエイストゲートバルブ35を閉状態とする。所定時間はエンジン回転速度Neが所定値N1以上になる前にウエイストゲートバルブ35が閉じられるように予め定めておく。
ステップ6ではクランク角センサ24により検出されるエンジン回転速度Neと所定値N1を比較する。所定値N1はエンジンが始動を完了したか否かを判定するための値で、予め適合により定めておく。たとえば1400rpm程度である。エンジン回転速度Neが所定値N1未満であるときにはまだエンジンが始動を完了していないと判断しステップ7で始動完了フラグ=0とする。これに対して、ステップ6でエンジン回転速度Neが所定値N1以上になるとエンジンの始動が完了したと判断しステップ8で始動完了フラグ=1とする。
一方、ステップ2でスタータスイッチがONのときにはまだクランキングが続いていると判断しステップ9、10に進んでウエイストゲートバルブを開状態とすると共に、始動完了フラグ=0とする。
図7は燃焼切換フラグを設定するためのもので、図6に続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ11ではエンジン始動時の冷却水温Tstと所定値T1を比較する。所定値T1はエンジン冷間始動であるか否かを判定するための値である。エンジン始動時の冷却水温を得るには、イグニッションスイッチのOFFからONへの切換時にそのときの冷却水温Twをエンジン始動時の冷却水温Tstとしてメモリに保存すればよい。エンジン始動時の冷却水温Tstが所定値T1を超えていればホットスタート時であると判断してそのまま今回の処理を終了する。
エンジン始動時の冷却水温Tstが所定値T1以下であればエンジン冷間始動であると判断し、ステップ12、13に進む。ステップ2では始動完了フラグ(図6により設定済み)=1であるか否か、前回に始動完了フラグ=1であったか否かをみる。始動完了フラグ=0であるときにはまだエンジンが始動を完了していないと判断しステップ12よりステップ14に進み燃焼切換フラグ=0とする。燃焼切換フラグは燃焼形態を指示するためのフラグで、燃焼切換フラグ=0は均質燃焼を指示するものとなる。
ステップ12、13で始動完了フラグ=1でありかつ前回に始動完了フラグ=0であった、つまり今回に初めて始動完了フラグ=1となったときにはエンジン始動完了タイミングであると判断しステップ15に進み、燃焼切換フラグをゼロから1に切換える。この燃焼切換フラグのゼロから1への切換によって、後述するように燃焼形態が均質燃焼から超リタード成層燃焼へと切換えられると共に、ターボチャージャにより過給した吸入空気をオーバーラップを利用して吸気ポート2から排気ポート3へと吹き抜けさせる処理が行われる。
ステップ12、13で始動完了フラグ=1でありかつ前回にも始動完了フラグ=1であった、つまり継続して始動完了フラグ=1であるときにはエンジン始動完了後であると判断しステップ16に進み、温度センサ26により検出される触媒温度Tcatと所定値T2を比較する。所定値T2は触媒16が活性化したか否かを判定するための値である。触媒温度Tcatが所定値T2未満であるときにはまだ触媒16が活性化していないと判断し、ステップ15に進んで燃焼切換フラグ=1とする。
触媒16が未活性状態であるあいだステップ16、15の操作を実行する。これにより、後述するように超リタード成層燃焼を行いつつターボチャージャにより過給した吸入空気をオーバーラップを利用して排気ポートへと吹き抜けさせる処理が継続して行われる。この処理の継続によってやがて触媒温度Tcatが所定値T2以上になると触媒16が活性化したと判断し、超リタード成層燃焼をやめて均質燃焼に切換え、かつバルブオーバーラップがなくなるように吸気中心角の進角補正を中止して吸気中心角を進角補正する前の値に戻すため、ステップ17に進んで燃焼切換フラグ=0とする。
図8は目標スロットル開度を算出するためのもので、図7のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ21ではアイドル状態であるか否かをみる。アイドル状態であるか否かはアクセルペダルセンサ(図示しない)からの信号に基づきアクセル開度がゼロ(つまりアクセルペダルが踏み込まれていない)であればアイドル状態であると、またアクセル開度がゼロでなければアイドル状態でないと判定すればよい。アイドル状態でないときには今回の処理をそのまま終了する。
アイドル状態であるときにはステップ22に進み燃焼切換フラグ(図7により設定済み)をみる。燃焼切換フラグ=0であるとき、つまり均質燃焼を行わせるときにはステップ23に進みスロットル開度基本値TVObにアイドル相当値TVOidl(アイドル状態でのスロットル開度)を入れる。これに対してステップ22で燃焼切換フラグ=1であるとき、つまり超リタード成層燃焼(成層燃焼)を行わせるときにはステップ24に進み、アイドル相当値TVOidlに所定値ΔTVOを加算した値(図2A、図2Bでいう所定値TVO1)をスロットル開度基本値TVObに入れる。
ステップ25〜31は実エンジン回転速度が目標アイドル回転速度と一致するようにスロットル開度のフィードバック制御を行う部分である。ステップ25では、目標アイドル回転速度NSETと実エンジン回転速度Neの偏差を、つまり
ΔN=NSET−Ne …(2)
ただし、NSET;目標アイドル回転速度、
Ne;実エンジン回転速度、
の式により回転速度偏差ΔNを算出し、ステップ26でこの回転速度偏差ΔNの絶対値|ΔN|と許容値を比較する。許容値はアイドル状態で実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっているか否かを判定するための値で、例えば25rpmである。回転速度偏差絶対値|ΔN|が許容値を超えているときには実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっていないと判断しステップ27に進んで回転速度偏差ΔNとゼロとを比較する。回転速度偏差ΔNが正、つまり実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSET−許容値を下回っているときには実回転速度Neを高くして目標アイドル回転速度NSETの付近に戻すためステップ28で前回のフィードバック量に所定値ZOUを加算した値を今回のフィードバック量として、つまり、
FB=FB(前回)+ZOU …(3)
ただし、FB(前回):前回のFB、
ZOU:所定値、
の式によりスロットル開度のフィードバック量FBを更新する。これに対して、ステップ27で回転速度偏差ΔNが負、つまり実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSET+許容値を上回っているときには実回転速度Neを低くして目標アイドル回転速度NSETの付近に戻すためステップ29に進み前回のフィードバック量から所定値GENを減算した値を今回のフィードバック量として、つまり、
FB=FB(前回)−GEN …(4)
ただし、FB(前回):前回のFB、
GEN:所定値、
の式によりスロットル開度のフィードバック量FBを更新する。一方、ステップ26で回転速度偏差ΔNの絶対値|ΔN|が許容値以下であるときには実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっていると判断しステップ30に進み、スロットル開度のフィードバック量を維持、つまり前回のフィードバック量を今回のフィードバック量に移す。
ステップ31では、このようにして得たスロットル開度のフィードバック量FBをスロットル開度基本値TVObに加算して、つまり
TVOm=TVOb+FB …(5)
の式によりDレンジアイドル状態での目標スロットル開度TVOmを算出する。
このようにして算出した目標スロットル開度TVOmは、図示しないフローにおいてステップモータ15へのステップ数に変換され、このステップ数がステップモータ15に出力される。これによりアイドル状態で実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETと一致するようにスロットル開度のフィードバック制御が行われる。冷間始動後のファーストアイドル状態では、目標アイドル回転速度NSETとしてエンジン暖機完了後の目標アイドル回転速度よりも所定値高い回転速度(例えば1000rpm〜1200rpm程度)が入れられている。
図9は点火時期を算出すると共に、燃焼形態に応じた燃料噴射時期及びバルブオーバーラップ指示フラグを設定するためのもので、図8のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ここで、均質燃焼での点火時期は圧縮上死点前にあり、超リタード成層燃焼での点火時期は圧縮上死点後にある。このため、圧縮上死点を起点として進角側に計測するクランク角[degBTDC]を採用すると、超リタード成層燃焼での点火時期は負の値となって扱いにくい。そこで、本実施形態では、例えば吸気下死点(BDC)を起点として遅角側に計測するクランク角[degABDC]を採用している。このように点火時期の起点を取り直すことで、均質燃焼時、超リタード成層燃焼時のいずれも点火時期を正の値で扱うことができる。
ステップ41ではアイドル状態であるか否かをみる。アイドル状態であるときにはステップ42に進み、始動完了フラグ(図6により設定済み)をみる。始動完了フラグ=0であるときにはまだエンジンの始動が完了していないと判断してステップ43に進み、バルブオーバーラップ指示フラグ=0とする。バルブオーバーラップ指示フラグはアイドル状態であっても吸気中心角を進角補正してバルブオーバーラップが生じるよう吸気VTC機構31のアクチュエータ31aに指示するためのフラグで、バルブオーバーラップ指示フラグ=0のときには、バルブオーバーラップが生じることは指示されない。
ステップ44では点火時期ADV[degABDC]に所定値ADV0[degABDC]を入れる。所定値ADV0は均質燃焼で始動を行わせるときの最適な点火時期、つまりMBTより若干遅角側の点火時期である。ステップ45では均質燃焼での燃料噴射時期を設定する。均質燃焼での燃料噴射時期は吸気行程前半にある。
ステップ42で始動完了フラグ=1であるときにはエンジンの始動が完了していると判断しステップ46、47に進んで燃焼切換フラグ(図7により設定済み)=1であるか否か、前回に燃焼切換フラグ=0であったか否かをみる。燃焼切換フラグ=1かつ前回に燃焼切換フラグ=0であった、つまり今回に燃焼切換フラグがゼロより1に切換わったときにはステップ48に進み、バルブオーバーラップ指示フラグ=1とし、ステップ49で点火時期ADVに所定値ADV2[degABDC]を入れる。所定値ADV2は、スロットル開度を所定値TVO1としかつターボチャージャにより過給を行っている状態における、成層燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界である。
ステップ50では成層燃焼での燃料噴射時期を設定する。成層燃焼での燃料噴射時期はウォールガイド方式の場合、1回目は圧縮行程前半、2回目は圧縮行程後半にある。
一方、ステップ46、47で燃焼切換フラグ=1かつ前回にも燃焼切換フラグ=1であった、つまり燃焼切換フラグ=1が継続しているときにはステップ51に進み、温度センサ26により検出される触媒温度Tcatと所定値T2を比較する。所定値T2は触媒16が活性化したか否かを判定するための値である。触媒温度Tcatが所定値T2未満であるときにはまだ触媒16が活性化していないと判断し、ステップ48、49、50に進んでステップ48、49、50の操作を実行する。
触媒16が未活性であるあいだステップ51、48、49、50の操作を実行する。これにより、超リタード成層燃焼を行いつつターボチャージャにより過給した吸入空気をオーバーラップを利用して吸気ポート2から排気ポート3へと吹き抜けさせる処理が継続して行われる。
やがてステップ51で触媒温度Tcatが所定値T2以上になると触媒16が活性化したと判断し、超リタード成層燃焼をやめて均質燃焼に切換えると共にバルブオーバーラップを中止して吸気中心角を進角補正する前の値に戻すため、ステップ52に進んでバルブオーバーラップ指示フラグ=0とする。ステップ53では点火時期ADVにMBTの得られる基本点火時期ADV3[degABDC]を入れる。ステップ54では均質燃焼での燃料噴射時期を設定する。均質燃焼での燃料噴射時期は吸気行程前半にある。
触媒温度Tcatが所定値T2以上になると燃焼切換フラグ=0となるので(図7ステップ16、17参照)、このあとにはステップ46よりステップ52、53、54と進むことになり、ステップ52、53、54の操作を繰り返す。
なお、図9では、触媒温度Tcatが所定値T2以上となったタイミングで点火時期を所定値ADV2から基本点火時期ADV3へとステップ的に切換える場合を示しているが、これに限らず、触媒温度Tcatが所定値T2以上となったタイミングより点火時期を所定の傾きで基本点火時期ADV3へと切換えるようにしてもかまわない。
図10は目標吸気中心角、目標排気中心角を算出するためのもので、図9のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。なお、ここでのフローは、吸気VTC機構31のみを用いてバルブオーバーラップを生じさせる場合のものである。
ステップ61ではエンジンの負荷と回転速度Neから所定のマップを検索することにより基本吸気中心角(吸気中心角の基本値)tVTCi0を算出する。ここで、基本吸気中心角tVTCi0の単位としては、例えば図3に示したように吸気下死点(吸気BDC)から進角側に計測したクランク角[degBBDC]とする。なお、基本吸気中心角の算出方法は公知である。例えば、特開2006−57573号公報にその詳細が記載されている。
ステップ62ではエンジンの負荷と回転速度Neから所定のマップを検索することにより基本排気中心角(排気中心角の基本値)tVTCe0を算出する。ここで、基本排気中心角tVTCe0の単位も、図3に示したように吸気下死点から進角側に計測したクランク角[degBBDC]とする。
ステップ63、64では、アイドル状態であるか否か、バルブオーバーラップ指示フラグ(図9により設定済み)=1であるか否かをみる。アイドル状態でかつバルブオーバーラップ指示フラグ=1であるときだけステップ65に進む。アイドル状態で算出される上記基本吸気中心角tVTCi0及び基本排気中心角tVTCe0によれば、図3実線に示したように吸気バルブ5の開期間と排気バルブ6の開期間とが重ならない状態で吸気バルブ5と排気バルブ6とが開閉される。
ステップ65では、排気ポート3の排気温度Tepと所定値Tep1を比較する。所定値Tep1は、アイドル状態で吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3に吹き抜けさせても排気ポート3で後燃え(後酸化)が生じない温度の上限値である。所定値Tep1は、エンジン仕様には依存せず、使用燃料の燃料組成に依存する値で、例えば約600℃である。
排気ポート排気温度Tepは算出させればよい。例えば、エンジン冷却水温Twをパラメータとする排気ポート排気温度のテーブルを適合により予め作成しておき、エンジン冷却水温Twからこのテーブルを検索することにより排気ポート排気温度Tepを算出する。このようにして算出される排気ポート排気温度Tepが所定値Tep1を超えていれば、ステップ66に進み、基本排気中心角tVTCe0を目標排気中心角tVTCe[degBBDC]に移す。
ステップ67では、ステップ61で得ている基本吸気中心角tVTCi0に上記(1)式の進角補正量[deg](=O/L1+Δ)を加算した値を目標吸気中心角tVTCi[degBBDC]として、つまり
tVTCi=tVTCi0+進角補正量 …(6)
の式により目標吸気中心角tVTCi[degBBDC]を算出する。ここで、基本吸気中心角tVTCi0に進角補正量を加算することは目標吸気中心角tVTCiを進角補正量の分だけ進角させることを意味する。この進角補正によって、図3に示したようにバルブオーバーラップ量が所定値O/L1となるオーバーラップが生じ、このオーバーラップを利用して過給された吸入空気が吸気ポート2から排気ポート3へと吹き抜ける。
一方、ステップ65で排気ポート排気温度Tepが所定値Tep1以下であるときには、バルブオーバーラップを生じさせることにより、吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3に吹き抜けさせても排気ポート3で後燃え(後酸化)が生じないと判断し、このときにはステップ68に進み、基本排気中心角tVTCe0から所定の遅角補正量[deg]を減算した値を目標排気中心角tVTCe[degBBDC]とする。ここで、遅角補正量を減算することは目標排気中心角tVTCeを遅角補正量の分だけ遅角させることを意味し、目標排気中心角tVTCeを遅角補正量の分だけ遅角させると、排気バルブ開時期EVOが遅角補正量の分だけ遅くなる。排気バルブ開時期EVOが遅くなると、そのぶん燃焼室4内でのHCの燃焼が促進される。この燃焼室4内における燃焼の促進により排気ポート3の排気温度が上昇し、触媒16の活性化が早くなり、テールパイプ出口のHC濃度も低減できる。上記の遅角補正量は適合により定める。
ステップ69では、ステップ61で得ている基本吸気中心角tVTCi0に上記(1)式の進角補正量[deg](=O/L1+Δ)を加算した値からステップ68で用いた遅角補正量を減算した値を目標吸気中心角tVTCi[degBBDC]として、つまり
tVTCi=tVTCi0+進角補正量−遅角補正量 …(7)
の式により目標吸気中心角tVTCi[degBBDC]を算出する。ここで、遅角補正量だけ目標吸気中心角を減算(遅角)する理由は次の通りである。すなわち、ステップ68では基本排気中心角tVTCe0を遅角補正量の分だけ遅角させることによって、排気バルブ閉時期EVCを遅角補正量の分だけ遅角させている。ということは、吸気バルブ5のバルブタイミング(吸気中心角)が変わらなければ、バルブオーバーラップ量は、排気中心角の遅角補正量の分だけ大きくなってしまう。そこで、排気バルブ閉時期EVCを遅角補正量の分だけ遅角させても、つまり排気バルブ閉時期EVCを遅角補正量の分だけ遅角させても、バルブオーバーラップ量が所定値O/L1に保たれるようにするため、遅角補正量の分だけ目標吸気中心角を遅角側に移動させるようにしたものである。
ステップ63、64でアイドル状態でない場合やバルブオーバーラップ指示フラグ=0である場合にはステップ70、71に進み、基本吸気中心角tVTCi0を目標吸気中心角tVTCi[degBBDC]に、基本排気中心角tVTCe0を目標排気中心角tVTCe[degBBDC]に移す。
このようにして算出した目標吸気中心角tVTCi、目標排気中心角tVTCeは、吸気VTC機構31のアクチュエータ31a、排気VTC機構32のアクチュエータ32aに与える指令値に変換され、これら各指令値が吸気VTC機構31のアクチュエータ31a、排気VTC機構32のアクチュエータ32aに出力される。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、排気通路8に設けられる触媒16と、ターボチャージャ(燃焼室4に供給される吸入空気を過給する過給装置)と、吸気VTC機構31、排気VTC機構32(吸気バルブの開閉タイミングと排気バルブの開閉タイミングとの少なくとも一方を調整可能な可変動弁装置)と、点火時期の遅角を含む触媒早期暖機を行う触媒早期暖機手段(超リタード成層燃焼を行う超リタード成層燃焼実現手段)(図8のステップ24、図9のステップ49、50参照)とを備え、アイドル状態で触媒16が不活性状態にある場合に、触媒早期暖機を行わせる(図8のステップ21、22、24、図9のステップ41、42、46、47、49、50、ステップ46、47、51、49、50参照)と共に、ターボチャージャ(過給装置)を駆動して過給状態とし、かつこの過給状態で吸気VTC機構31、排気VTC機構32を用いてバルブオーバーラップを生じさせるので(図10のステップ61、62、63、64、66、67参照)、バルブオーバーラップにより燃焼室4からの熱をもらって昇温した吸入空気が排気ポート3に送り込まれ、燃焼室4内で燃えなかったHCが排気ポート3で効率よく後燃えすることとなり、排気ポート3での後燃え(後酸化)を促進させることができる。すなわち、排気ポート出口(エンジン出口)で現状より未燃HCの濃度が減少し、その分だけ触媒容量を小さくすることが可能となり、触媒コストを下げることができる。
また、アイドル状態であっても過給を行っているため過給状態でない場合よりも多くの燃焼ガスを排気通路8に送り込めることから、触媒16入口に到達するまでのヒートマスに排気熱が消費されるにしても触媒16まで高温で到達する排気の量が増えることとなり、触媒16の活性化を早めることができる。
さらに、ターボチャージャであれば、2次空気供給装置を導入せずに排気ポート3での後燃えを促進させることができ、2次空気供給装置を導入する場合に比べて排気温度の低下を少ないものとすることができる。
過給により、コレクタ圧がターボチャージャを備えない場合との差圧ΔPの分だけ高くなると、差圧ΔPの分だけ燃焼室4に流入する吸入空気量が増え、エンジンの発生するトルクが増加するので、同じ目標アイドル回転速度(ファーストアイドル回転速度)を保つのであれば、この差圧ΔPに応じたトルク増加分だけ点火時期をさらに遅角できる。本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、燃焼室内に燃料を直接的に噴射する燃料噴射弁13を備え、触媒早期暖機手段は、点火時期を圧縮上死点後に設定して火花点火を行う一方、燃料噴射弁13を用いて燃料噴射時期を圧縮行程または膨張行程に設定した燃料噴射を行い、これら火花点火と燃料噴射とで成層燃焼を実現すると共に、スロットル開度をアイドル相当値TVOidlより所定値大きくすることにより点火時期の圧縮上死点後への設定に伴うエンジントルクの低下分を相殺して目標アイドル回転速度が得られるようにした超リタード成層燃焼実現手段である場合に、点火時期を前記点火時期の圧縮上死点後への設定値(ADV1)よりもさらに所定値ΔADV遅角するので(図9のステップ49参照)、排気ポート3で生じる後燃えガス量が増え、触媒16の活性化をさらに早めることができる。
吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3に送り込んでも排気ポート3で後燃えが生じないのであれば、バルブオーバーラップを生じさせることが無駄に終わってしまうのであるが、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、バルブオーバーラップを生じさせることにより、吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3に吹き抜けさせても、排気ポート3の温度が後燃えが生じない温度(600℃以下)である場合に、排気バルブ開時期EVOを遅角させるので(図10のステップ62、63、64、65、68参照)、燃焼室4内でのHCの燃焼が促進され、この燃焼室4内における燃焼促進により、排気ポート3が後燃えが生じる温度にまで上昇し、これによって吸気系の吸入空気を吸気ポート2から燃焼室4を介して排気ポート3に送り込んだだけでは排気ポート3で後燃えが生じない場合においても、触媒16の活性化を早めることができ、テールパイプHC出口のHC濃度も低減できる。
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、アイドル状態で触媒16が不活性状態にある場合が、冷間始動直後のアイドル状態である場合であるので、特にHC濃度が高くなる冷間始動直後のアイドル状態でのHC濃度を効果的に低減できる。
実施形態では、アイドル状態が冷間始動直後のアイドル状態である場合で説明したが、エンジン暖機完了後のアイドル状態である場合にも触媒16が不活性状態となることがあるので、この場合にも本発明を適用することができる。
実施形態では、過給装置を備える場合で説明したが、過給装置を備えない自然吸気エンジンに対しても本発明を適用することができる。すなわち、過給装置を備えない自然吸気エンジンにおいてアイドル状態で吸気ポートに比べて排気ポートが低圧となれば、可変動弁装置を用いてオーバーラップを生じさせることによって、吸気系の吸入空気を吸気ポートから燃焼室を介して排気ポートに吹き抜けさせることが可能となる。
実施形態では、触媒早期暖機手段が超リタード成層燃焼実現手段である場合であったが、これに限定されるものでなく、超リタード成層燃焼実現手段に代えて、特許文献1に記載の触媒早期暖機手段や、単に点火時期を遅角するだけの触媒早期暖機手段を用いることができる。
請求項1において触媒早期暖機手段の機能は図8のステップ24、図9のステップ49、50により、制御手段の機能は図9のステップ41、42、46、47、48、49、50、ステップ46、47、51、48、49、50、図10のステップ61、62、63、64、66、67によりそれぞれ果たされている。