本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。
視覚再生補助装置1は、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するデータ変調手段13a、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。データ変調手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに得られた画像処理後のデータを、視覚を再生するための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、データ変調手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ及び後述する体内装置20を駆動させるための電力を電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。この電磁波には、電気刺激パルス用データと電力が重畳されている。この電磁波は、高々20MHz程度の周波数域とさる。また、送信手段14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段31との位置固定に使用される。
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。 次に、体内装置20の構成を説明する。図2(a)は、体内装置20の外観を示し、図2(b)は刺激部40の断面を示した図である。体内装置20は、大別して体外装置10から送信される電気刺激パルス信号用データや電力を電磁波にて受け取る受信部(第1制御ユニット)30と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部(第2制御ユニット)40により構成される。受信部30には、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなる受信手段31や、制御部(第1制御ユニット)32が設けられている。制御部32は、受信手段31にて受信された電気刺激パルス用データと電力とを分けると共に、電気刺激パルス用データを基に、視覚を得るための電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号と対応する電極を指定する電極指定信号等を含む別ユニット(ブロック)用の制御信号とに変換し、刺激部40へ送信するための役割を有している(詳細は後述する)。
これら受信手段31や制御部32は、基板33上に形成されている。なお、受信部30には送信手段14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。対向電極34は、ワイヤー50(後述)と同様に作製されたワイヤー55にて制御部32に接続され、電極41のそれぞれの対向電極となる。
また、刺激部40には、電気刺激パルス信号を出力する複数の電極41、刺激制御部42が設けられている。各電極41は刺激制御部(第2制御ユニット)42に接続されている。この接続形態は後で説明する。刺激制御部42は、制御部32から送られてきた制御信号(電極指定信号を含む)に基づいて、対応する電気刺激パルス信号を電極41の各々へ振り分けるマルチプレクサ機能を有する(詳細は後述する)。電極41には生体適合性が高い導体、例えば金や白金等の貴金属が用いられる。電極41は基板43上に複数個形成される。刺激制御部42は後述する蓋部材45と設置台46によりハーメチックシール(密封)され、設置台46を介して基板43に実装されている。本実施形態で用いられる基板43は、眼内、特に、層状の眼組織内に設置されるため、眼球の形状に沿うことが好ましく、層間(層内)に長期埋植されても患者の負担が少ないことが好ましい。このため、基板43は、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて湾曲可能な材料を長板状に加工したものをベース部としている。この基板内部に複数のリード線43aが形成され、各電極41と刺激制御部42が電気的に接続されている。
電極41から出力される電気刺激パルス信号は、一つの刺激が、プラス方向及びマイナス方向の矩形波を組み合せた二相性(双極性)のパルスであり、交流信号である。これらのパルスの強度や持続時間等を変更して、各電極41から出力されることで、網膜を構成する細胞へ様々な刺激が与えられる。
刺激制御部42は、半導体基板上に集積回路を機能させるパターン配線が形成された面を設置台46側にして設置台46に接合されている。設置台46は、絶縁性及び気密性を有すると共に、生体適合性を有する素材、例えば、セラミックス、にて平板状に形成されている。また、設置台46には、刺激制御部42が持つパターン配線の端子部分と電気的に接続するための配線が、設置台46を貫通するように形成されている。
蓋部材45は、生体適合性が高く、気密性の高い素材、例えば、貴金属、を薄肉で、その断面形状が刺激制御部42が収まる内部空間を有したハット状に製作されている。このような蓋部材45と設置台46の接合は、設置台46の接合箇所に、メタライズ処理により金属層を形成して、蓋部材45、設置台46の金属同士を接合する。このようにして、刺激制御部42は密封される。
また、体内において離れた位置に置かれる受信部30と刺激部40とは複数のワイヤー(導線)50によって電気的に接続されている。ワイヤー50は生体適合性の高い導体、例えば、白金、金等の貴金属が用いられる。また、複数のワイヤー50は、取り扱いが容易となるように、生体適合性が高い絶縁性の樹脂、例えば、シリコーン、ポリイミド、パリレン等で包埋され、さらに一つに束ねられケーブル51とされる。なお、各ワイヤー50自体もまた上述したパリレン等の生体適合性がよく絶縁性を有する素材にて被覆されている(皮膜が形成されている)。このワイヤー50を伝わる信号(電力を含む)は、すべて交流とされ、例えば、ワイヤー50が体液等に浸潤されても、浸潤箇所での体液等の電気分解(不可逆的化学反応)が起こらず、生体に悪影響が出ないようにされている。詳細な説明は略すが、ワイヤー50の体液との接触箇所(浸潤箇所、暴露箇所)で、電気分解が起こらない条件は、交流信号の半波(正又は負の極性にある信号、交流信号1周期の半分)当りの電荷量が、生体に影響を及ぼすとされる単位面積辺りの電荷量(電荷密度)以下であることになる。
詳細な説明は後述するが、本実施形態で用いるワイヤー50は、上述した電力、電気刺激パルス用データ等が重畳された交流信号(本明細書では、駆動信号と呼ぶ)を伝送するための2本のワイヤーと、導線の故障を判定する際に用いられるモニタ線となる1本のワイヤー、電気刺激パルス信号を伝送するための1本のワイヤー、及び1本の予備のワイヤーの少なくとも5本のワイヤーが用意されている。なお、本実施形態では5本のワイヤーを用意するものとしているがこれに限るものではなく、制御部32及び刺激制御部42の駆動に必要なワイヤーの本数に予備のワイヤーを加えた数であればよい。ただし、予備ワイヤー数は駆動に必要とされるワイヤー数未満であればよい。したがって、全ワイヤー数は制御部32及び刺激制御部42の駆動に必要とされるワイヤーの数より多く、必要とされるワイヤーの数の2倍未満の数が用意される。
なお、図示は略すが、受信部30は、ケーブル51、対向電極34、ワイヤー55を外に出して、気密性の高い容器に収められ、その容器の蓋を密閉される。さらに、容器の上から生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂等でコーティングされる。これにより、受信部30はハーメチックシールされる。
次に、体内装置20の受信部30及び刺激部40の構成及び各構成要素の連携を示し、交流信号を伝送するワイヤー50の故障判定及び故障したワイヤー50を除外して別のワイヤー50を選択して交流信号を伝送する手法を説明する。ここでは、駆動信号を例に挙げる。
ワイヤー50上の信号を交流とする手法を説明する。図3は、受信部30の内部構成を模式的に示したブロック図であり、図4は、刺激部40の内部構成を模式的に示したブロック図である。図中に示されるブロックは、それぞれが半導体集積回路にて作製された機能ユニットとし、各半導体素子(例えば、MOSFET等のトランジスタ,ダイオード、抵抗、コンデンサ)の組合せにより機能を果たす。各ブロックの詳細な回路構成等は、説明の簡便のため略す。
図3に示すように、送信手段14と受信手段31がコイルリンクの形態をとり、電気刺激パルス用データ、電力を含む電磁波が受信手段31に受信される。受信された電磁波は、受信手段31と接続される受信ブロック61に交流信号として送られ、受信ブロック61にて電気刺激パルス用データの信号と、電力用の信号に分離される。 分離された電力は、受信ブロック61に接続される電源ブロック62へと送られる。電源ブロック62は、交流信号として送られてきた電力を整流器(整流手段)62aで直流化し、接続される各ブロック(変換ブロック63、給電ブロック65、刺激回路ブロック66)に直流電圧の電力を供給する。また、分離された電気刺激パルス信号用データは、受信ブロック61に接続される変換ブロック63へと送られ、変換ブロック63により電気刺激パルス信号用データから刺激制御部42用の制御信号及び各電極41から出力される電気刺激パルス信号の強度、持続時間を指定する電気刺激パルス用パラメータ信号等が抽出される。このとき、それぞれの信号は、一相性(単相性)の矩形状の信号(信号列)として抽出される。
抽出された刺激制御部42用の制御信号は、変換ブロック63により、電力を交流搬送波信号として、周波数変調方式によって重畳され、駆動信号が生成される(搬送波が制御信号で変調される)。この交流信号の周波数は、波形や振幅、ワイヤー50の材料にもよるが、電極41から出力される電気刺激パルス信号の電圧振幅が数V〜十数Vであることを考えると、交流信号が正弦波状の場合、好ましくは、20kHz程度以上、さらに好ましくは200kHz程度以上とする。交流信号の周波数の上限は、体内装置20から発生するノイズが許容範囲内となる程度とし、2MHz程度を上限の周波数とする。なお、本実施形態では、周波数変調で形成した交流信号の周波数を1MHzとし、変調幅を100kHzとしている。
刺激回路ブロック66は、変換ブロック63から受け取った電気刺激パルス用パラメータ信号に基づき、電源ブロック62から得ている直流電圧(又は電流)を、各電極41から出力させる所定の強度(電流)、所定の持続時間を持つ二相性の電気刺激パルス信号に変換する。詳細は後述するが、これらの電気刺激パルス信号は、先の刺激制御部42用の制御信号に含まれる電極指定信号の指定を受けた電極41から出力される。また、このような電気刺激パルス信号は、電極41で出力される二相性パルスの半波における電極41の単位面積当りの電荷量が、電極41において体液の電気分解が起こらない程度の値になるよう形成されている。この値(閾値)は、好ましくは、400μC/cm2、さらに好ましくは、50μC/cm2とされ、この値を下回るように単位面積当りの電荷量が設定される。
このとき、駆動信号の信号振幅は、刺激制御部42の電力が充分確保できる範囲で、電気刺激パルス信号の信号振幅よりも常に大きくなるものとされる。好ましくは、若干大きくされる(詳細は後述する)。
また、変換ブロック63により電力である交流搬送波信号に重畳された刺激制御部42用の制御信号は、変換ブロック63と接続される給電ブロック65へと送られる。給電ブロック65は、電源ブロック62から供給される直流電圧を電源として、刺激制御部42用の制御信号が重畳された交流搬送波信号を増幅し、刺激部40へと送る駆動信号を生成する。このように、電源ブロック62、変換ブロック63、給電ブロック65により、交流信号化が行われる。
給電ブロック65からは、対となる2本のリード線53a、53bが出ており、導線選択ブロック(導線選択手段)67へと接続される。刺激回路ブロック66からは、リード線53cが導線選択ブロック67に接続される。リード線53cと対となるリード線55aは、カップリングコンデンサ52に接続されてワイヤー55を介して対向電極34に接続される。また、導線選択ブロック67には、変換ブロック63からリード線53eが1本接続されると共に、変換ブロック63からの指令信号を受け取るための信号線が接続される。導線選択ブロック67からは、少なくとも5本のワイヤー(導線)50が出され、刺激部40へと接続されている。詳細な説明は略すが、導線選択ブロック67は、変換ブロック63からの指令信号に基づいて、リード線53とワイヤー50のそれぞれを1対1に電気的に接続する選択(切換)スイッチの役割を持つ。ここでは、ワイヤー50a、50bは、それぞれリード線53a、53bと対応され(電気的に接続され)、リード線53cは、ワイヤー50cに対応する。また、リード線53eは、ワイヤー50eと対応される。ここで、ワイヤー50dは、リード線53のいずれも電気的に接続されておらず、予備の導線とされる。なお、ワイヤー50dは、ワイヤー50d以外のワイヤーが断線等により故障した際に、導線選択ブロック67により、リード線53のいずれかと電気的に接続され、故障したワイヤーの代替とされる。ワイヤー50e(リード線53e)は、刺激制御部42を介して、制御部32(変換ブロック63)がそれぞれのワイヤー50の断線等の故障を判定するために用いられるモニタ線となる。
なお、各ワイヤー50の途中には、それぞれカップリングコンデンサ52が接続される。カップリングコンデンサ52は、ワイヤー50を伝送する直流信号成分をカットし、交流信号のみを通過させるフィルタの役割を持っている。
次に、刺激部40の構成を説明をする。5本のワイヤー50a、50b、50c、50d、50eは、それぞれ刺激制御部42へと接続される。図示するように、刺激制御部42内では、整流素子であるダイオードD1、D2が順方向を向いてそれぞれ直列に接続されて電気回路を形成しており、ダイオードD1、D2の中間点に、ワイヤー50がぞれぞれ1本ずつ対応して接続される。従って、ワイヤー50のぞれぞれが有する接続点(ノード)に、ダイオードD1のアノードが接続され、ダイオードD2のカソードがそれぞれ接続される構成となっている。ダイオードD1のカソードは、コンデンサCのプラス側に並列に接続される。同様に、ダイオードD2のアノードは、コンデンサCのマイナス側に並列に接続される。このようにして、複数のワイヤー50が整流素子(整流回路)を介してコンデンサCに並列に接続される。また、各ワイヤー50の一端は、後述する刺激信号導線切換スイッチSW1にそれぞれ接続される。
このような回路構成とされることにより、ワイヤー50(50a〜50e)のいずれかの2本につながるダイオードによって、全波整流器が構成されることとなり、ワイヤー50のそれぞれの役割が互いに代替可能とされる。このとき、ワイヤー50のいずれかの2本において、コンデンサCに駆動信号が伝送されることとなる。ここで、ワイヤー50a、50bを例に挙げ、ワイヤー50a、50bの間に交流電圧が印加された場合(ワイヤー50a、50bが電力供給線とされた場合)での整流作用について説明する。
ワイヤー50aが正、ワイヤー50bが負である場合、正の電位であるワイヤー50aの接続点から電流がダイオードD1を通り、コンデンサCのプラス側へと流れる。そして、コンデンサCのマイナス側から、ダイオードD2を通って、ワイヤー50bの接続点へと電流が流れる。これにより、コンデンサCは、プラス側が正の電位にて充電されることとなる。同様に、ワイヤー50aが負、ワイヤー50bが正である場合、正の電位であるワイヤー50bの接続点から電流がダイオードD1を通り、コンデンサCのプラス側へと流れる。そして、コンデンサCのマイナス側から、ダイオードD2を通って、ワイヤー50aの接続点へと電流が流れる。これにより、コンデンサCは、プラス側が正の電位にて充電されることとなる。
このようにして、ワイヤー50a、50b上の交流電圧が整流され、コンデンサCに一定の直流電圧が蓄えられる。このとき、ダイオードD1、D2及びコンデンサCにより、全波整流回路が構成される。以上の説明では、ワイヤー50a、50bを例に挙げたが、他のワイヤーでも同様に整流が行われる構成となっており、ワイヤー50のいずれか2本に交流電圧が印加されている構成であればよい。従って、ワイヤー50a、50bの役割は、ワイヤー50a、50b以外のワイヤー50(50c〜50e)のいずれか2本でも代替可能となる。
復調ブロック81及びマルチプレクサ83は、コンデンサCに対して、それぞれ並列に接続される。これにより、コンデンサCに蓄電される直流電圧を、それぞれのブロックが電力として用いることができる。また、それぞれのワイヤー50は、復調ブロック81に接続されている。復調ブロック81は、ワイヤー50のいずれか2本(この場合は、ワイヤー50a、50b)から駆動信号を取り込むと共に、駆動信号から制御信号抽出し、この制御信号をマルチプレクサ83に送り、マルチプレクサ83の電極指定等の制御を行う。また、復調ブロック81は、詳細を後述する刺激信号導線切換スイッチSW1と接続され、電気刺激パルス信号をマルチプレクサ83へと導くワイヤー50を切換える。本実施形態では、ワイヤー50cがマルチプレクサ83と接続され、マルチプレクサ83はワイヤー50cを介して電気刺激パルス信号を受け取る。マルチプレクサ83は、制御信号に基づいて、受け取った電気刺激パルス信号を、リード線43aを介してそれぞれ接続される電極41に割り振ることで、複数の電極41から様々なパターンの電気刺激パルス信号が出力される。このとき、電気刺激パルス信号は、帰還電極である対向電極34へと向かい、その信号は、ワイヤー55へと流れ込む。
このようにして、マルチプレクサ83は、復調ブロック81からの電極指定信号を含む制御信号に基づき、刺激回路ブロック66からの電気刺激パルス信号を各電極41へと分配するマルチプレクサ機能を有している。
また、それぞれのワイヤー50は、復調ブロック81の指令によりスイッチング(導線の選択)を行うモニタスイッチSW2に接続される。スイッチSW2は、モニタ線となるワイヤー50のいずれか1本(ここでは、ワイヤー50e)と、モニタされるワイヤー50のいずれか1本を接続する役割を持つ。
以上のように、体内装置20において、ハーメチックシールされた部分(受信部30、制御部40及び刺激制御部42)以外のワイヤー50を伝送される電力及び刺激制御部42の制御信号は、1MHz程度の交流信号とされる。
次に、複数のワイヤー50の中から断線等の故障をしたワイヤー50を判定する手法について説明する。導線故障判定手段となる変換ブロック63は、ワイヤー50e及び刺激制御部42を介して、他のワイヤー50(ワイヤー50a、50b、50c、50d)の状態を判定する。具体的には、変換ブロック63が、ワイヤー50eと他のワイヤー50の電位差を計測する手法である。例えば、変換ブロック63の指令信号に応じて、復調ブロック81により、スイッチSW2が図4のように設定される。駆動信号が印加される電力供給線であるワイヤー50a(又はワイヤー50b)とワイヤー50eとの電位差が、変換ブロック63で計測される。つまり、ワイヤー50a(又はワイヤー50b)が断線等の故障をしていなければ、変換ブロック63では、ワイヤー50aの電位が計測されることとなる。変換ブロック63では、各ワイヤー50にどのような交流信号を伝送しているか(どのような役割、機能を割り当てられているか)を記憶している。変換ブロック63により、この伝送前の駆動信号とワイヤー50eの電位が比較され、その差が許容値を超えた(又は、下回った)場合、ワイヤー50a(又はワイヤー50b)が故障していると判定される。
同様に、スイッチSW1にてマルチプレクサ83と接続されているワイヤー50cの場合は、電気刺激パルス信号との電位差が比較の対象とされ故障が判定される。また、予備の導線であるワイヤー50dの場合は、他のワイヤーと交代させて同様に判定される。このようにして各ワイヤー50の故障の有無が判定され、各ワイヤー50がモニタ線及び電力供給線として共に機能するかどうかが判定される。この判定結果は、変換ブロック63にて記憶される。
なお、以上の説明では、ワイヤー50の故障の判定を、モニタ線と他のワイヤー50との電位差を計測する構成としたが、これに限るものではい。変換ブロック63が、ワイヤー50e及び刺激制御部42を介して、他のワイヤー50の状態を判定できる構成であればよく、例えば、ワイヤー50eを基準として、他のワイヤー50のインピーダンスを計測する構成としてもよい。
次に、故障したワイヤー50を除外して、交流信号を伝送する導線を選択する手法を説明する。一例として、ここでは、ワイヤー50aが断線しているものとし、電力供給線を選択するものとする。前述の故障判定により、ワイヤー50aが断線しており、その他のワイヤー50b、50c、50d、50eは、故障していないとして、変換ブロック63に記憶されているものとする。変換ブロック63は、記憶している情報から故障していないワイヤー50の中から、駆動信号等の交流信号が伝送されていないワイヤー(予備の導線)を判定する。ここでは、ワイヤー50dが予備の導線と判定される。そして、変換ブロック63は、導線選択ブロック67に指令信号を送り、リード線53aとワイヤー50dとを対応させる(電気的に接続させる)。
同様に、電気刺激パルス信号が伝送されるワイヤー50cが断線した場合を例に挙げると、前述と同様に、変換ブロック63にワイヤー50cが断線したと判定され、故障していないワイヤー50dが、変換ブロック63の指令を受けた導線選択ブロック63により選択されリード線53cと対応される。このとき、変換ブロック63は、刺激部40へと送る制御信号に刺激信号導線選択スイッチSW1を切換えるための信号(ワイヤーの選択信号)を付加する。刺激部40では、復調ブロック81がその制御信号を抽出すると共に、制御信号に基づいて、刺激信号導線切換スイッチSW1に信号を送り、マルチプレクサ83とワイヤー50cの接続を切り、マルチプレクサ83とワイヤー50dとを電気的に接続させる。このようにして、刺激部40で電気刺激パルス信号を伝送する導線を別の複数の導線から選択することができる。
以上の説明では、ワイヤー50a、50b、50cのいずれかが断線等の故障をした場合でも、予備の導線であるワイヤー50dに、断線前の伝送していた交流信号を伝送できる構成とされている。これは、電気刺激パルス信号の信号振幅が駆動信号の信号振幅より小さいことにより、駆動信号と電気刺激パルス信号の混線が回避されるためである。駆動信号の信号振幅が電気刺激パルス信号の信号振幅よりに常に大きいため、ワイヤー50のいずれが駆動信号の伝送に用いられても、コンデンサCには、図4で示す回路の最大の電圧が印加されることとなり、コンデンサCには、駆動信号の伝播信号である電力が整流された直流の電圧が蓄えられることとなる。
さらにまた、駆動信号の振幅が略一定となる変調方式にて制御信号が重畳されているため、コンデンサCに蓄えられる電圧は略一定とされる。これにより、刺激制御部42で用いられる電力が一定の直流電圧となり、安定化される。
なお、以上の実施形態では故障したワイヤーが特定されているものとして説明したが、これにかぎるものではない。故障していない導線を選択する手法としては、以下のような制御を行うようにしてもよい。導線選択ブロック67は、複数用意されたワイヤー50のうち、3本を任意に選択し、選択したワイヤー50をモニタ線及び電力供給線として同時に機能する(断線していない)と判定されるまでワイヤー50を切り換え、選択する。モニタ線及び電力供給線が確保されれば故障したワイヤーが特定されるため、これを除くように残りのワイヤー50を電気刺激パルス信号を伝送する導線とする。このような構成とすれば、導線故障の判定結果を変換ブロック67内で記憶しておかなくてもよく、受信部のメモリ等が小さくできる。
以上のようにして、離れた位置に置かれた受信部30と刺激部40を接続する複数のワイヤー(導線)のいずれかが、断線等の故障をしたとしても、受信部30にてその故障が判定され、故障していない(モニタ線、電力供給線として機能する)導線が断線したワイヤーの代わりになるように、受信部30でワイヤーが選択され、選択されたワイヤーで信号(電力等)が伝送される。これにより、体内装置20のワイヤー50が予備の導線の本数分故障しても、体内装置20を長期に安定して動作させることができる。また、このような構成は、ワイヤーのいずれかが断線しても、予備の導線が電力供給線及びモニタ線となり、信号伝送の機能の代替とできるため、予備の導線を各ワイヤーに対してそれぞれ並列に接続して、ワイヤーの断線に対応する場合(導線の2倍の導線が用意される場合)に比べて、予備の導線の本数が少なくても(例えば、ワイヤー50が受信部30と刺激部40のそれぞれの機能を果たすために最低限必要とされる導線の本数の2倍未満とされても)、体内装置20を長期に安定して動作させることができる。これにより、ワイヤー50のいずれが断線するか予測できない場合でも、予備の導線を多数設ける必要がなく、体内装置20を小型化できる。
次に、このような体内装置20の設置について説明する。図5は刺激部40を眼内に埋植した状態を示す概略図である。対向電極34は図示するように眼内中央の前眼部寄りの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極41と対向電極34(対向電極)との間に位置することとなる。よって、電極41からの電気刺激パルス信号電流が効率的に網膜を貫通することとなる。
一方、受信手段31は、体外装置10に設けられた送信手段14からの信号(電気刺激パルス用データ及び電力)を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者の側頭部の皮膚の下に受信部30(図では受信手段31のみ示している)を埋め込むとともに、皮膚を介して受信部30と対向する位置に送信手段14を設置しておく。受信部30には、送信手段14と同様に磁石が取り付けられているため、埋植された受信部30上に送信手段14を位置させることにより、磁力によって送信手段14と受信部30とが引き合い、送信手段14が側頭部に保持されることとなる。
なお、ケーブル51は、側頭部に埋め込まれた受信部30から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたケーブル51は、図5に示すように強膜E3の外側を通り、基板43に設置された刺激制御部42に接続される。
なお、本実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜E3側(脈絡膜側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。電極を配置する基板がフレキシブルであることが好ましい部位で患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、層間に電極及び基板を設置すればよい。体内装置を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置させるような構成とすることもできる。
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、その動作を図6に示す制御系のブロック図を基に説明する。図1に示す撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、データ変調手段13aに送られる。データ変調手段13aは、撮影した被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換し、さらに電磁波として伝送するのに適した変調信号に変調し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。
また同時に、データ変調手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した変調信号(電気刺激パルス用データ)の帯域と異なる帯域の電磁波として前記変調信号と合わせて体内装置20側に送信する。
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる変調信号と電力とを受信手段31にて受け取り、制御部32に送る。制御部32では受けとった信号から、変調信号が使用する帯域の信号を抽出するとともに、この変調信号に基づいて電気刺激パルス用パラメータ信号と制御信号とを生成し、電極指定信号である制御信号を刺激制御部42に送信する。このとき、制御部32では図3の説明で示した各構成ブロックにより、交流信号が生成されており、ワイヤー50を介して刺激制御部42に送られる信号はすべて交流信号とされる(電気刺激パルス信号も含む)。
刺激制御部42では受け取った交流信号に基づき前述した方法により、電力及び制御信号を抽出する。刺激制御部42は、制御信号に基づき、制御部32から供給される電気刺激パルス信号を各電極41に分配し、出力させる。各電極41から出力される電気刺激パルス信号によって網膜E1を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(擬似光覚)を得る。なお、制御部32は、受信手段31により体内装置20を駆動させるための電力を得る。
また、体内装置20の動作において、制御部32には、定期的にモニタ線50eを用いて、各ワイヤー50の状態を判定し、故障と判定されたワイヤーで伝送している交流信号を、別の予備の導線を用いて伝送するように選択する。
なお、以上説明した本実施形態では、患者眼の強膜E3に基板43を設置し、強膜E3を介して網膜E1を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。体内装置の電力供給や制御信号の生成、刺激の制御等を担う複数の機能ユニットが導線を介して接続される形態で、患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気的に刺激する構成であればよい。例えば、電気刺激パルス信号を出力する電極を有する制御ユニットを眼内の視神経乳頭部や眼外の視神経部分に配置し、制御ユニットへの電力供給や指令信号を送る別の制御ユニットを患者の皮下等の離れた場所に配置し、これら2つのユニットを導線で接続して、視神経を電気刺激する構成としてもよい。また、電極を有する制御ユニットを視交叉や外側膝状体、大脳皮質等の視覚神経系の高次視覚処理を行う組織に配置し、それぞれの組織を構成する細胞を刺激する構成としてもよい。例えば、大脳皮質の後頭葉であれば、錐体細胞等を刺激する又は視覚野V1、V2等を刺激する等である。
なお、以上説明した本実施形態では、整流素子としてダイオードを用いる構成としたが、これに限るものではない。選択されたワイヤー50において、全波整流回路が構成されればよい。例えば、整流素子として、復調ブロック81の制御信号に応じて、整流(導通)をオン・オフできる半導体スイッチング素子を用いる。この半導体スイッチング素子は、例えば、MOSFET等のゲート電圧によって、ドレイン・ソース間の抵抗を変えられるものが挙げられる。このような構成とすることにより、復調ブロック81、マルチプレクサ83と整流回路をモノリシックに作製することができ、刺激部40を小型化することができる。また、前述の各ワイヤー50が整流素子の代わりに整流回路を介してコンデンサに並列に接続される構成としてもよい。
なお、以上説明した本実施形態では、ワイヤー50の状態を受信部30にてモニタする構成としたが、この機能に加えて、マルチプレクサ83に接続される電極41及びリード線43aの故障(断線)等を判定し、故障したものに電気刺激パルス信号を送らない機能を付加してもよい。具体的には、制御部32(変換ブロック63)が駆動信号を介して復調ブロック81に指令信号を送り、復調ブロック81が定期的にスイッチSW1に指令信号を送り、モニタ線50eをマルチプレクサ83と接続させる。マルチプレクサ83は、復調ブロック81からの指令に応じて、モニタ線50eと各電極41及びリード線43aを逐次接続する。制御部32は、モニタ線50eを介して、前述のワイヤー50のときと同様に、接続されている電極41及びリード線43aのインピーダンス、電位等を計測する。計測結果に応じて、制御部32は、各電極41、リード線43aの故障を判定し、故障した電極41、リード線43aに電気刺激パルス信号を送らないように、駆動信号を生成し、マルチプレクサ83にて、故障と判定された電極41、リード線43aを電気刺激に用いないようにする。これにより、電極41、リード線43aが故障し、患者が光覚を得るに当り、ノイズとなる電気刺激を遮断できる。例えば、リード線43aから電流の漏れがある場合、電気刺激パルス信号が電極41以外から出力されることとなり、リード線43aのリークにより光覚が得られてしまう。この構成において、制御部32(変換ブロック63)が、電極故障判定手段となる。
なお、以上説明した本実施形態では、電力と制御信号を重畳して駆動信号とし、電極41から出力される電気刺激パルス信号を駆動信号とは別に導線にて制御部32から刺激制御部42に伝送する構成としたが、これに限るものではない。電極41から電気刺激パルス信号が出力される構成であればよく、電力、制御信号、電気刺激パルス信号が、導線にて伝送される構成としてもよい。例えば、電力、制御信号、電気刺激パルス信号を生成するための電気刺激パルス用パラメータ(電気刺激パルス用データ)を重畳して一つの信号とし、制御部32から刺激制御部42へと伝送する。刺激制御部42では、伝送された信号から電力、制御信号、電気刺激パルス用パラメータを抽出し、このパラメータに基づいて電力から電気刺激パルスを生成し、前述の場合と同様に、マルチプレクサ83にて各電極から電気刺激パルス信号を出力させる。これにより、別のユニットを電気的に接続する導線の本数を減らすことができ、装置が小型化できる。
なお、以上説明した本実施形態では、駆動信号は、電力となる交流信号を搬送波とし、制御信号等で変調して、重畳する構成としたが、これに限るものではない。離れた位置に置かれる第1制御ユニットと第2制御ユニットとで、制御信号、電力等を伝送構成であればよく、例えば、制御信号と電力とをそれぞれ独立して導線で伝送する構成としてもよい。これにより、信号の変調、重畳等を行う構成を省略でき、装置を小型化できる。
なお、以上説明した本実施形態では、導線を伝送される信号は交流信号としたが、これに限るものではない。離れた位置に置かれる第1制御ユニットと第2制御ユニットとで、制御信号、電力等を伝送する構成であればよく、導線を伝送される信号は直流信号であってもよい。この場合、第1制御ユニットでの交流変換及び第2制御ユニットでの整流が不要となり、装置を小型化できる。
なお、以上説明した本実施形態では、電極41から出力される電気刺激パルス信号の帰還電極として、対向電極34を前眼部に配置し、ワイヤー55にて受信部30と接続する構成としたが、これに限るものではない。対向電極をワイヤーで接続しない構成の体内装置を用いてもよい。例えば、刺激部40に設けてもよい。
なお、以上説明した本実施形態に以下に説明する各ワイヤー50の故障を体外装置10に報知する構成を付加してもよい。例えば、前述の導線故障判定により、故障と判定された特定の導線を制御部32にて記憶し、体内装置20の動作状況を体外装置10に送信する場合に、故障した導線の情報を受信部30から外部デバイス13へと送信する。外部デバイス13で取得した体内装置20の導線の故障を作業者が確認することにより、体内装置20でのいずれの導線が故障し、いずれの導線が予備として残っているかが把握される。これにより、作業者は、体内装置20を患者の体内から取り出すことなく、体内装置20の導線の故障の状況が把握でき、故障の状況に応じて体内装置20の交換時期の想定、交換の可否の対応等が判断し易くなる。
なお、以上説明した本実施形態では、体外装置にて外界像を撮像して体外装置にて電気刺激パルス用データを生成し、電気刺激パルス用データと電力を体内装置へと送り、体内装置で電気刺激パルス用データに基づいて電気刺激を行う構成(体外撮像型と呼ぶ)としたが、これに限るものではない。眼底に複数の光電素子と電極とを設置し、眼内に入射した光を光電素子にて電気信号に変換し、この電気信号と電力と合わせて電気刺激パルス信号を作り、電極から出力させる構成(体外撮像型と呼ぶ)としてもよい。このような離れた位置に置かれるユニットの電力供給が必要となる構成においても本発明が適用できる。