JP5239176B2 - 蛍光体用合金粉末及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、無機機能材原料用合金粉末及びその製造方法に関する。詳しくは、蛍光体の製造原料として好適な無機機能材原料用合金粉末とその製造方法に関する。
蛍光体は、蛍光灯、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、可視光線、電子線などの高いエネルギーを有する励起源により励起されて、紫外線、可視光線、赤外線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に長時間曝されると、蛍光体の輝度が低下するという問題があった。
そこで、近年、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ホウ酸塩蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、三元系以上の窒化物について多くの新規物質が合成されている。近年、特に窒化珪素をベースとした多成分窒化物や酸窒化物において優れた特性を有する蛍光体が開発されている。
特許文献1に、一般式MSi:Eu[ここで、MはCa、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属元素であり、かつ、x、y、及びzはz=2/3x+4/3yを満たす数である。]で表される蛍光体が開示されている。これらの蛍光体は、アルカリ土類金属を窒化することによりアルカリ土類金属の窒化物を合成し、これに窒化珪素を加えて合成するか、あるいは、アルカリ土類金属及び珪素のイミドを原料として窒素又はアルゴン気流中で加熱することにより合成されている。いずれも空気や水分に敏感なアルカリ土類金属窒化物を原料として使用しなくてはならず、工業的な製造には問題があった。
また、特許文献2に、一般式M16Si1532で表されるオキシニトリド、一般式MSiAl、M13Si18Al121836、MSiAlON及びMSiAlON10で表されるサイアロン構造を有する酸窒化物蛍光体が開示されている。特に、MがSrの場合に、SrCOとAlNとSiとを1:2:1の割合で混合し、還元雰囲気(水素含有窒素雰囲気)中で加熱したところ、SrSiAl:Eu2+が得られたことが記載されている。
この場合、得られる蛍光体は、酸窒化物蛍光体のみであり、酸素を含まない窒化物蛍光体は得られていない。
また、上記窒化物又は酸窒化物蛍光体は、使用される原料粉末の反応性がいずれも低いことから、焼成時に原料混合粉末の間の固相反応を促進する目的で原料粉末間の接触面積を大きくして加熱する必要がある。そのため、これらの蛍光体は、高温において圧縮成形した状態、すなわち非常に硬い焼結体の状態で合成される。よって、この様にして得られた焼結体は、蛍光体の使用目的に適した微粉末状態まで粉砕する必要がある。ところが、硬い焼結体となっている蛍光体を通常の機械的粉砕方法、例えばジョークラッシャーやボールミルなどを使用して長時間に渡り多大なエネルギーをかけて粉砕すると、蛍光体の母体結晶中に多数の欠陥を発生させ、蛍光体の発光強度を著しく低下させてしまうという不都合が生じていた。
また、窒化物又は酸窒化物蛍光体の製造において、窒化カルシウム(Ca)、窒化ストロンチウム(Sr)などのアルカリ土類金属窒化物を使用することが好ましいとされているが、一般に2価の金属の窒化物は水分と反応して水酸化物を生成しやすく、水分含有雰囲気下で不安定である。特に、SrやSr金属の粉末の場合はこの傾向が著しく、取り扱いが非常に難しい。
以上の理由から、新たな蛍光体原料及びその製造方法が求められていた。
近年、金属を出発原料とした窒化物蛍光体の製造方法に関し、特許文献3が報告された。特許文献3には窒化アルミニウム系蛍光体の製造方法の一例が開示され、原料として、遷移元素、希土類元素、アルミニウム及びその合金が使用できる旨が記載されている。しかし、実際に合金を原料として用いた実施例は記載されておらず、Al源としてAl金属を用いることを特徴としている。また、原料に着火し、瞬時に高温(3000K)まで上昇させる燃焼合成法を用いる点で、本発明と大きく異なり、この方法で高特性の蛍光体を得ることは困難であると推測される。即ち、瞬時に3000Kという高温まで昇温させる方法では付活元素を均一に分布させることは難しく、特性の高い蛍光体を得ることは困難である。また、合金原料から得られるアルカリ土類金属元素を含む窒化物蛍光体、更に珪素を含む窒化物蛍光体に関する記載は無い。
ところで、Siとアルカリ土類金属とを含む合金としては、CaSi、CaSi、CaSi、CaSi、CaSi、Ca14Si19、CaSi、SrSi、SrSi、SrSi、SrSi、SrSiが知られている。また、Si、アルミニウム、及びアルカリ土類金属を含む合金としては、Ca(Si1−xAl、Sr(Si1−xAl、Ba(Si1−xAl、Ca1−xSr(Si1−yAl等が知られている。中でも、A(B0.5Si0.5(ここで、AはCa、Sr、及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、BはAl及び/又はGaである。)については、超伝導特性に関して検討が行われており、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載がある。しかし、これらの合金を蛍光体原料として用いた例はない。また、これらの合金は、学術研究用に実験室レベルでその少量が調製されたものであり、従来において、このような合金を工業的に生産された例はない。
特表2003−515665号公報 特開2003−206481号公報 特開2005−54182号公報 M.Imai、Applied Physics Letters、80(2002)1019-1021 M.Imai、Physical Review B、68、(2003)、064512
前述の如く、Sr(Ca)Si、CaAlSiNなどのSiとアルカリ土類金属元素とを含む蛍光体は、青色発光ダイオード又は近紫外発光ダイオードによって励起されて黄色ないし赤色の発光を示すことから、青色発光ダイオード又は近紫外発光ダイオードとの組み合わせにより、白色を発光するダイオードを構成するための材料として工業的に有用である。
しかしながら、従来においては、このような蛍光体を、合金を材料として製造するために必要とされるSiとアルカリ土類金属元素とを含む合金を、工業的に大量生産することができる技術は提供されていなかった。即ち、従来の合金の製造方法では、不純物が混入する;沸点が低いアルカリ土類金属が揮発するため設計通りの組成の合金を得ることが困難である;得られる合金の組成の均一性が低い;といった問題がある。
一方で、蛍光体の製造のためには、不純物の混入はたとえ微量であっても得られる蛍光体の発光特性に悪影響を及ぼし、また、例えば付活元素が均一に分布していること、設計通りの組成であることが、所望の発光特性を有する蛍光体の実現には必須の要件であることから、不純物の混入がなく、設計通りの合金組成で組成均一性の高い蛍光体原料用合金を工業的に大量生産可能な技術が必要となる。
しかも、たとえこのような合金が得られたとしても、原料合金は塊状のままでは蛍光体化のための反応が殆ど進行しないため、所望の反応を円滑に進行できるような検討が必要とされている。
本発明は、合金を原料として蛍光体等の無機機能材を製造するにあたり、無機機能材化のための反応を効率的かつ均一に進行させて高性能の無機機能材を製造することができる無機機能材原料用合金粉末を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の範囲の重量メジアン径D50、粒度分布の合金粉末を用いると、輝度及び発光効率の高い発光体等の無機機能材料を得ることができることを見出した。また、合金中に微量含まれる酸素、炭素等の濃度が、合金の活性及び得られた蛍光体の特性に大きな影響を与えることを見出した。
即ち、例えば、合金を原料の一部として蛍光体を製造するには、窒化、酸化、又は硫化反応を行う必要があるが、その際、合金粉末の活性を制御することが極めて重要である。
合金粉末の活性を制御する最も有効な方法の一つは、粒径を調節することである。重量メジアン径D50が大きすぎると活性が低くて粒子内部が充分に反応せず、重量メジアン径D50が小さすぎると活性が高すぎて化学反応の制御が困難となり、目的とする物質が高い純度で得られない。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下の(1)〜()を要旨とするものである。
(1) 窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体の製造原料としての合金粉末であって、該合金が少なくとも1種の付活元素M と、2価の金属元素M と、3価の金属元素M と、少なくともSiを含む4価の金属元素M とを含有し、下記一般式[1]で表され、2価の金属元素M の80モル%以上がCa及び/又はSrであり、3価の金属元素M の80モル%以上がAlであり、少なくともSiを含む4価の金属元素M の80モル%以上がSiであり、該粉末の重量メジアン径D50が5μm以上40μm以下であり、該合金粉末中に含まれる、粒径10μm以下の合金粒子の割合が30重量%以下、粒径45μm以上の合金粒子の割合が40重量%以下、QDが0.59以下、鉄分の量が500ppm以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
[1]
(但し、a、b、c、dはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
) (1)において、合金粉末中に含まれる酸素の量が0.5重量%以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
) (1)又は2)において、合金粉末中に含まれる炭素の量が0.06重量%以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
) (1)〜()のいずれかにおいて、付活元素MがCr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
) (のいずれかにおいて、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、少なくともSiを含む4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
) (のいずれかにおいて、付活元素MとしてEuを、2価の金属元素MとしてCa及び/又はSrを、3価の金属元素MとしてAlを、少なくともSiを含む4価の金属元素MとしてSiを含むことを特徴とする蛍光体用合金粉末。
) (1)〜()のいずれかに記載の蛍光体用合金粉末を製造する方法であって、前記合金を酸素濃度15体積%以下の不活性ガス雰囲気下で粉砕する工程を備えることを特徴とする蛍光体用合金粉末の製造方法。
) ()において、前記粉砕後、分級処理を行うことを特徴とする蛍光体用合金粉末の製造方法。
本発明によると、合金粉末の重量メジアン径D50、粒度分布、合金中に含まれる微量元素の量を制御することにより、高特性の無機機能材を得ることができる。
本発明の無機機能材原料用合金粉末は、特に、蛍光体の製造用原料として好適であり、輝度や発光効率等の発光特性に優れた蛍光体を低コストで製造することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
なお、以下においては、本発明の無機機能材原料用合金粉末として、蛍光体原料用合金粉末について主に説明するが、本発明の無機機能材原料用合金粉末は、蛍光体に限らず、その他の無機機能材の製造にも有効である。
また、本明細書において、合金粉末とは、合金粒子の集合体を指す。
[無機機能材原料用合金粉末]
〈合金組成〉
まず、本発明の無機機能材原料用合金粉末に好適な合金組成について説明する。本発明の無機機能材原料用合金粉末の合金組成は、少なくとも1種の金属元素と、少なくとも1種の付活元素Mとを含むものである。ここで、付活元素Mとは、無機機能材において、目的とする機能を発現させるために、或いは当該機能の発現性向上のために必要とされる元素であり、無機機能材の母体結晶中に微量配合させるものである。
本発明の合金粉末の合金は、少なくともSiを含む4価の金属元素MとSi以外の金属元素の1種類以上とを含む合金であって、詳しくは、本発明の合金粉末の合金は、付活元素M、2価の金属元素M、少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むものである。2価の金属元素Mとしてはアルカリ土類金属元素を含むものが好ましく、このような合金組成であれば、Siとアルカリ土類金属元素とを含む(Sr,Ca)Si:Eu,Ce、CaAlSiN:Eu,Ce等の工業的に有用な黄色乃至橙色、もしくは橙色乃至赤色発光蛍光体を製造するための原料として有用である。
本発明に係る合金は、特に、付活元素M、2価の金属元素M、3価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含み、下記一般式[1]で表されることが好ましく、このような無機機能材原料用合金粉末は、下記一般式[2]で表される窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体の製造に好適である。
[1]
[2]
(但し、a、b、c、d、e、fはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
2.5≦e≦3.5
0≦f≦0.5 )
付活元素Mとしては、窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体を構成する結晶母体に含有可能な各種の発光イオンを使用することができるが、Cr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbよりなる群から選ばれる1種以上の元素を使用すると、発光特性の高い蛍光体を製造することが可能なので好ましい。また、付活元素Mとしては、Mn、Ce、Pr及びEuの1種又は2種以上を含むことが好ましく、特にCe及び/又はEuを含むことが高輝度の赤色発光を示す蛍光体を得ることができるので更に好ましい。また、輝度を上げることや蓄光性を付与するなど様々な機能を持たせるために、付活元素MとしてはCe及び/又はEu以外に共付活元素を1種又は複数種含有させても良い。
付活元素M以外の元素としては、各種の2価、3価、4価の金属元素が使用可能であるが、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnよりなる群から選ばれる1種以上の元素、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScよりなる群から選ばれる1種以上の元素、4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素であることが、発光特性の高い蛍光体を得ることができるので好ましい。
また、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましいが、Mの80モル%以上をCa及び/又はSrとするのがより好ましく、90モル%以上をCa及び/又はSrとするのが更に好ましく、Mの全てをCa及び/又はSrとするのが最も好ましい。
また、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましいが、Mの80モル%以上をAlとするのが好ましく、90モル%以上をAlとするのがより好ましく、Mの全てをAlとするのが最も好ましい。
また、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましいが、Mの80モル%以上をSiとするのが好ましく、90モル%以上をSiとするのがより好ましく、Mの全てをSiとするのが好ましい。
特に、Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、かつ、Mの50モル%以上がAlであり、かつ、Mの50モル%以上がSiとなるようにすることにより、発光特性が特に高い蛍光体が製造できるので好ましい。
また、前記一般式[1],[2]におけるa〜fの数値範囲の好適理由は次の通りである。
aが0.00001より小さいと十分な発光強度が得られない傾向にあり、aが0.15より大きいと濃度消光が大きくなって発光強度が低くなる傾向にある。従って、aは0.00001≦a≦0.15の範囲となるように原料を混合する。同様の理由で、0.0001≦a≦0.1が好ましく、0.001≦a≦0.05がより好ましく、0.002≦a≦0.04がさらに好ましく、0.004≦a≦0.02とするのが最も好ましい。
aとbの合計は、蛍光体の結晶母体中において付活元素Mが金属元素Mの原子位置を置換するので、1となるように原料混合組成を調整する。
cが0.5より小さい場合も、cが1.5より大きい場合も、製造時に異相が生じ、前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、cは0.5≦c≦1.5の範囲となるように原料を混合する。発光強度の観点からも0.5≦c≦1.5が好ましく、0.6≦c≦1.4がより好ましく、0.8≦c≦1.2が最も好ましい。
dが0.5より小さい場合も、dが1.5より大きい場合も、製造時に異相が生じ、前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、dは0.5≦d≦1.5の範囲となるように原料を混合する。また、発光強度の観点からも0.5≦d≦1.5が好ましく、0.6≦d≦1.4がより好ましく、0.8≦d≦1.2が最も好ましい。
eは窒素の含有量を示す係数であり、
Figure 0005239176
となる。この式に0.5≦c≦1.5,0.5≦d≦1.5を代入すれば、eの範囲は
1.84≦e≦4.17
となる。しかしながら、前記一般式[2]で表される蛍光体組成において、窒素の含有量を示すeが2.5未満であると蛍光体の収率が低下する傾向にある。また、eが3.5を超えても蛍光体の収率が低下する傾向にある。従って、eは通常2.5≦e≦3.5である。
前記一般式[2]で表される蛍光体中の酸素は、原料金属中の不純物として混入する場合、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられる。酸素の割合であるfは蛍光体の発光特性低下が容認できる範囲で0≦f≦0.5が好ましい。
合金の組成の具体例としては、EuSrCaAlSi合金、EuSrAlSi合金、EuCaAlSi合金、EuSrMgAlSi合金、EuCaMgAlSi合金、EuCaSi合金、EuSrCaSi合金、EuSrSi合金等が挙げられ、より具体的にはEu0.008Sr0.792Ca0.2AlSi、Eu0.008Sr0.892Ca0.1AlSi、Eu0.008Sr0.692Ca0.3AlSi、Eu0.008Ca0.892Mg0.1AlSi等が挙げられる。
蛍光体の組成の具体例としては、(Sr,Ca,Mg)AlSiN:Eu、(Sr,Ca,Mg)AlSiN:Ce、(Sr,Ca)Si:Eu、(Sr,Ca)Si:Ce等が挙げられる。
ただし、本発明の無機機能材原料用合金粉末は、上述の窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体の原料に限らず、酸化物、硫化物、酸硫化物、炭化物等を母体とする蛍光体の原料にも用いることができ、また蛍光体に限らず、各種の無機機能材の原料として用いることができる。
〈不純物〉
本発明の無機機能材原料用合金粉末は、不純物としての酸素の含有量が0.5重量%以下であることが好ましい。酸素含有量が0.5重量%より多いと、例えば窒化物蛍光体の製造において、輝度の高い蛍光体を得ることができない。酸素含有量は特に0.4重量%以下、とりわけ0.3重量%以下であることが好ましい。
また、輝度の高い蛍光体を得るためには、炭素含有量は0.06重量%以下であることが好ましい。また、鉄、ニッケルあるいはコバルトを含有する場合、その含有量はそれぞれ500ppm以下、特に300ppm以下、とりわけ100ppm以下であることが好ましい。
鉄分含有量、酸素含有量、炭素含有量は少ないほど好ましく、その下限には特に制限はないが、原料の高純度化や合金製造工程での不純物混入の防止といった工業的手法の限界から、通常その下限は、鉄分含有量1ppm、酸素含有量0.01重量%、炭素含有量0.1重量%程度である。
無機機能材原料用合金粉末中の鉄分含有量、酸素含有量及び炭素含有量を上記上限以下とするために、後述の無機機能材原料用合金粉末の製造方法において、原料金属として高純度のものを用いる;粉砕機の材質と被粉砕物との関係を適切に選択する;融解、鋳造、粉砕工程における雰囲気を選定する;などの工夫を行うことが好ましい。
〈合金粉末の粒径〉
本発明において、重量メジアン径とは、重量基準粒度分布曲線から求められる値である。前記重量基準粒度分布曲線は、レーザ回折・散乱法により粒度分布を測定して得られるもので、例えば、気温25℃、湿度70%の環境下において、エチレングリコール等の分散媒に各物質を分散させ、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製「LA−300」)により、粒径範囲0.1μm〜600μmにて測定して得ることができる。
重量メジアン径の測定に分散媒を用いる場合は、試料との反応性が低いことや、試料の分散性が良いこと等を考慮して分散媒を選択するとよい。本発明の無機機能材原料合金の場合は、通常、分散媒として炭化水素、アルコール等の有機溶媒を使用することができる。中でも、ヘキサン、メタノール、ブタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等を使用することが好ましい。また、試料の粒径範囲に応じて適切な分散媒を選ぶことが好ましい。試料の粒径が大きい場合(試料の重量メジアン径D50が概ね10μm以上の場合)は、沈降を防止するためエチレングリコールのような高粘度の分散媒を用いることが好ましい。一方、試料の粒径が小さい場合(試料の重量メジアン径D50が概ね3μm以下の場合)は、微細粒子の分散性が高いメタノール等の低粘度の分散媒を用いることが好ましい。なお、必要に応じて界面活性剤等を添加したり、超音波処理を行ったりしてもよい。
この重量基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を重量メジアン径D50と表記する。また、積算値が25%及び75%の時の粒径値をそれぞれD25、D75と表記し、QD=(D75−D25)/(D75+D25)と定義する。QDが小さいことは粒度分布が狭いことを意味する。
本発明の無機機能材原料用合金粉末は、合金粉末を構成する金属元素の活性度により粒径を調整する必要があり、重量メジアン径D50が通常5μm以上40μm以下である。また、好ましくは粒径10μm以下の合金粒子の割合が80重量%以下、粒径45μm以上の合金粒子の割合が40重量%以下、QDが0.59以下である。
本発明の無機機能材原料用合金粉末の重量メジアン径D50の下限は通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは13μm以上である。一方、上限は40μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは32μm以下、特に好ましくは25μm以下である。重量メジアン径D50が5μmより小さいと、窒化等の反応時の発熱速度が大きすぎて反応の制御が困難となる場合があり、40μmより大きいと、粒子内部の窒化等の反応が不十分となる場合がある。
細粒子の割合、即ち、粒径10μm以下の合金粒子の割合が80重量%より多いと、窒化等の反応時の発熱速度が大きすぎて反応の制御が困難となる傾向がある。粒径10μm以下の合金粒子の割合は、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましく、30重量%以下が特に好ましい。また、粗大粒子の割合、即ち粒径45μm以上の合金粒子の割合が40重量%より多いと、粒子内部の窒化等の反応が不十分となる粒子の割合が多く、例えば蛍光体の製造にあっては発光特性が低下する傾向がある。粒径45μm以上の合金粒子の割合は、30重量%以下であることがさらに好ましい。
また、QDが0.59より大きいと、窒化等の反応で得られた生成物が不均質となる傾向がある。QD値は、0.55以下であることがさらに好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。
[無機機能材原料用合金粉末の製造方法]
本発明の無機機能材原料用合金粉末を製造するには、1種以上の金属元素と1種以上の付活元素M、より具体的には、例えば前述の一般式[1]の組成となるように、原料となる金属やその合金を秤量し、これを融解させて合金化し、次いで粉砕、分級を行う。その際、例えばSiとアルカリ土類金属を含む合金を製造する場合であれば、高融点(高沸点)のSi及び/又はSiを含む合金を融解させた後、低融点(低沸点)のアルカリ土類金属を融解させることが好ましい。また、融解時に揮発やルツボ材質との反応等により損失する金属元素については、必要に応じて予め過剰に秤量して添加してもよい。
〈原料金属の純度〉
合金の製造に使用する金属の純度は、合成される蛍光体の発光特性の点から、付活元素Mの金属原料としては不純物が0.1モル%以下、好ましくは0.01モル%以下まで精製された金属を使用することが好ましい。付活元素MとしてEuを使用する場合には、Eu原料としてEu金属を使用することが好ましい。付活元素M以外の元素の原料としては、2価、3価、4価の各種金属等を使用するが、同様の理由から、いずれも含有される不純物濃度は0.1モル%以下が好ましく、0.01モル%以下の高純度の金属原料を使用することが発光特性の高い蛍光体を製造できる点で好ましい。
〈原料金属の形状〉
原料金属の形状に制限は無いが、通常、直径数mmから数十mmの粒状又は塊状のものが用いられる。
2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属を用いる場合、その原料としては、粒状、塊状など形状は問わないが、原料の化学的性質に応じて適切な形状を選択するのが好ましい。例えば、Caは粒状、塊状のいずれでも大気中で安定であり、使用可能であるが、Srは化学的により活性であるため、塊状の原料を用いることが好ましい。
〈原料金属の融解〉
原料金属の融解にあたっては、特に、Siと2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素を含む蛍光体原料用合金を製造する場合、次の問題点がある。
Siの融点は1410℃であり、アルカリ土類金属の沸点と同程度である(例えば、Caの沸点は1494℃、Srの沸点は1350℃、Baの沸点は1537℃である)。特に、Srの沸点がSiの融点より低いため、SrとSiを同時に融解させることは極めて困難である。
そこで、本発明ではSi金属を先に融解させて好ましくは母合金を製造し、次いでアルカリ土類金属を融解することによって、この問題点を解決した。
さらに、このようにSi金属を融解後アルカリ土類金属の融解を行うことにより、得られる合金の純度が向上し、それを原料とする蛍光体の特性が著しく向上するという効果も奏される。
本発明における原料金属の融解法については、特に制限はないが、通常、アーク融解法、高周波誘導加熱法(以下、「高周波融解法」と称する場合がある。)、抵抗加熱法、電子ビーム法等を用いることができる。中でも、アーク融解法、高周波融解法が好ましく、高周波融解法が特に好ましい。
以下、(1)アーク融解・電子ビーム融解の場合、(2)高周波融解の場合を例に更に詳しく説明する。
(1)アーク融解・電子ビーム融解の場合
アーク融解・電子ビーム融解の場合は、以下の手順で融解を行う。
i)Si金属又はSiを含む合金を電子ビームあるいはアーク放電により融解し、
ii)次いで間接加熱によりアルカリ土類金属を融解し、Siとアルカリ土類金属を含む合金を得る。
ここで、Siを含む溶湯にアルカリ土類金属が溶け込んだ後、電子ビームあるいはアーク放電により加熱・攪拌して混合を促進しても良い。
(2)高周波融解の場合
アルカリ土類を含む合金は酸素との反応性が高いため、大気中ではなく真空あるいは不活性ガス中で融解する必要がある。このような条件では通常、高周波融解が好ましい。しかしながら、Siは半導体であり、高周波を用いた誘導加熱による融解が困難である。例えば、アルミニウムの20℃における比抵抗率は2.8×10−8Ω・mであるのに対し、半導体用多結晶Siの比抵抗率は10Ω・m以上である。このように比抵抗率が大きいものを直接高周波融解することは難しいため、一般に導電性のサセプタを用い、熱伝導や放射によりSiに熱移動を行って融解する。サセプタは、ディスク状、管状なども可能であるが坩堝を用いるのが好ましい。サセプタの材質は、黒鉛、モリブデン、炭化珪素などが一般に用いられるが、これらはアルカリ金属と反応しやすいという問題点がある。一方、アルカリ土類金属を融解可能な坩堝(アルミナ、カルシアなど)は絶縁体であり、サセプタとして使用することが困難である。従って、アルカリ土類金属と珪素を坩堝に仕込んで高周波融解するにあたり、公知の導電性の坩堝(黒鉛など)をサセプタとして使用して、間接的な加熱によりSi金属とアルカリ土類金属を同時に融解することは難しい。そこで、次のような順序で融解することで、この問題点を解決する。
i)Si金属を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解する。
ii)次に、絶縁性の坩堝を使用して、アルカリ土類金属を融解することにより、Siとアルカリ土類を含む合金を得る。
上記i)、ii)の工程の間でSiを冷却しても良いし、冷却せず連続してアルカリ土類金属を融解しても良い。連続して行う場合には導電性の容器にアルカリ土類金属の融解に適したカルシア、アルミナなどで被覆した坩堝を使用することもできる。
更に具体的な工程を記述すると、以下の通りである。
i)高周波融解にあたり、Si金属と金属M(例えばAl、Ga)を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解し、導電性の合金(母合金)を得る。
ii)次いで、アルカリ土類金属耐性坩堝を使用して、i)の母合金を融解させた後、アルカリ土類金属を融解させることにより、Siとアルカリ土類金属を含む合金を得る。
Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、次いでアルカリ土類金属を融解させる具体的方法としては、例えば、Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、そこにアルカリ土類金属を添加する方法等が挙げられる。
Siを2価の金属元素M以外の金属Mと合金化して導電性を付与することもできる。この場合、得られる合金の融点がSiより低いことが好ましい。SiとAlの合金は、融点が1010℃付近と、アルカリ土類金属の沸点より融点が低くなるので特に好ましい。
Siと2価の金属元素M以外の金属Mとの母合金を用いる場合、その組成には特に制限はないが、母合金が導電性を有していることが好ましく、通常、モル比でSi:M=1:0.01〜5の範囲として、アルカリ土類金属の沸点よりも融点の低い母合金を製造することが好ましい。
なお、Siを含む母合金に、さらにSi金属を加えることもできる。
本発明において、Si金属を融解させた後にアルカリ土類金属を融解させること以外に、他の原料金属の融解時期には特に制限はないが、通常、量が多いもの、もしくは、融点が高いものを先に融解させる。
付活元素Mを均一に分散させるため、また、付活元素Mの添加量は少量であるため、Siを融解させた後に付活元素Mを融解させることが好ましい。
前述の一般式[1]で表され、4価の金属元素MがSiであり、2価の金属元素Mとして少なくともSrを含む蛍光体原料用合金を製造する場合、次のような手順で融解させることが好ましい。
(1) Siと3価の金属元素Mとの母合金を製造する。この際、好ましくはSiとMとは、一般式[1]におけるSi:M比で合金化する。
(2) (1)の母合金を融解させた後、Srを融解させる。
(3) その後、Sr以外の2価の金属元素、付活元素Mを融解させる。
このような原料金属の融解時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
また、圧力は、通常、1×10Pa以上、1×10Pa以下が好ましく、安全性の面から、大気圧以下で行うことが望ましい。
〈溶湯の鋳造〉
原料金属の融解により製造された合金溶湯から直接蛍光体を製造するには技術的課題が多く存在する。そのため、原料金属の融解により製造された合金溶湯を金型に注入して成型する鋳造工程を経て、凝固体を得る。ただし、この鋳造工程において溶融金属の冷却速度によって偏析が生じ、溶融状態で均一組成であったものが組成分布に偏りが生じることもある。従って、冷却速度はできるだけ速いことが望ましい。また、金型は銅などの熱伝導性のよい材料を使用することが好ましく、熱が放散しやすい形状であることが好ましい。また、必要に応じて水冷などの手段により金型を冷却する工夫をすることも好ましい。
このような工夫により、例えば厚さに対して底面積の大きい金型を用い、溶湯を金型へ注湯後、できるだけ早く凝固させることが好ましい。
また、合金の組成によって偏析の程度は異なるので必要な分析手段、例えばICP発光分光分析法などによって、得られた凝固体の数箇所より試料を採取して組成分析を行い、偏析の防止に必要な冷却速度を定めることが好ましい。
このような鋳造時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
〈鋳塊の粉砕〉
鋳造工程で得られた合金塊は次いで粉砕することにより、所望の粒径、粒度分布を有する合金粉末を調製することができる。粉砕方法としては、乾式法や、エチレングリコール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒を用いる湿式法で行うことが可能である。以下、乾式法を例に詳しく説明する。
この粉砕工程は、必要に応じて、粗粉砕工程、中粉砕工程、及び微粉砕工程等の複数の工程に分けてもよい。この場合、全粉砕工程を同じ装置を用いて粉砕することもできるが、工程によって使用する装置を変えてもよい。
粗粉砕工程とは、直径1cm程度に粉砕する工程であり、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、クラッシングロール、インパクトクラッシャーなどの粉砕装置を使用することができる。中粉砕工程とは、直径1mm程度に粉砕する工程であり、コーンクラッシャー、クラッシングロール、ハンマーミル、ディスクミルなどの粉砕装置を使用することができる。微粉砕工程では、ボールミル、チューブミル、ロッドミル、ローラーミル、スタンプミル、エッジランナー、振動ミル、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。
中でも、不純物の混入を防止する観点から、微粉砕工程では、ジェットミルを用いることが好ましい。ジェットミルを用いるためには、粒径数mm程度(例えば50μm〜5mm)まで予め合金塊を粉砕しておく必要がある。ジェットミルでは、主に、ノズル元圧から大気圧に噴射される流体の膨張エネルギーを利用して粒子の粉砕を行うため、粉砕圧力により粒径を制御すること、不純物の混入を防止することが可能である。粉砕圧力は、装置によっても異なるが、通常、ゲージ圧で0.01MPa以上、2MPa以下の範囲であり、中でも、0.05MPa以上、0.4MPa未満が好ましく、0.1MPa以上、0.3MPa以下がさらに好ましい。
いずれの場合も粉砕工程中に鉄等の不純物の混入が起こらないよう、粉砕機の材質と被粉砕物の関係を適切に選択する必要がある。例えば、接粉部は、セラミックライニングが施されていることが好ましく、セラミックの中でも、アルミナ、タングステンカーバイド、ジルコニア等が好ましい。
また、合金粉末の酸化を防ぐため、粉砕は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、さらに、雰囲気中の酸素濃度が低いことが好ましい。不活性ガス雰囲気中の酸素濃度としては、合金粉末の組成等、その活性によっても異なるが、通常15体積%以下、好ましくは10体積%以下、より好ましくは7体積%以下、特に好ましくは5体積%以下である。特定の範囲の酸素濃度とすることによって、粉砕中に合金の表面に酸化被膜が形成され、安定化すると考えられる。酸素濃度が5体積%より高い雰囲気中で粉砕工程を行う場合、粉砕中に粉塵爆発を起こす恐れがあるため、粉塵を生じさせないような設備が必要である。また、酸素濃度の下限としては、通常、10ppm以上、好ましくは0.1体積%以上である。酸素濃度が上記範囲より低い場合、大気中に取り出した場合の発熱が大きく取り扱いが難しくなる傾向がある。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの気体のうち1種単独雰囲気又は2種以上の混合雰囲気が用いられ、特に経済性の観点から窒素が好ましい。
また、粉砕中に合金粉末の温度が上がらないように必要に応じて冷却してもよい。
〈合金粉末の分級〉
粉砕工程で粉砕された合金粉末は、バイブレーティングスクリーン、シフターなどの網目を使用した篩い分け装置、エアセパレータ等の慣性分級装置、サイクロン等の遠心分離機を使用して、前述の所望の重量メジアン径D50及び粒度分布に調整される。
この分級工程についても、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10体積%以下、特に5体積%以下が好ましい。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの1種又は2種以上が用いられ、特に経済性の観点から窒素が好ましい。
[蛍光体の製造]
本発明の無機機能材原料用合金粉末を用いて、蛍光体を製造する方法には特に制限はなく、酸化物、硫化物、窒化物など蛍光体の種類に応じて反応条件が設定されるが、以下に窒化反応を例にとって説明する。
合金粉末の窒化処理は例えば以下の様にして行われる。
即ち、まず、窒化処理原料である合金粉末をるつぼ、或いはトレイに充填する。ここで使用するるつぼ或いはトレイの材質としては、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、タングステン等が挙げられるが、窒化ホウ素が耐食性に優れることから好ましい。
この合金粉末を充填したるつぼ或いはトレイを、雰囲気制御が可能な加熱炉に納めた後、窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換する。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通しても良い。
窒化処理の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。系内の酸素濃度は製造される蛍光体の酸素含有量に影響し、余り高い含有量となると高い発光が得られなくなるため、窒化処理雰囲気中の酸素濃度は、低いほど好ましく、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。また、必要に応じて、炭素、モリブデン等の酸素ゲッターを系内加熱部分に入れて、酸素濃度を低下させても良い。
窒化処理は、窒素含有ガスを充填した状態或いは流通させた状態で加熱することにより行うが、その圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でも良い。大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とするのが好ましい。大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して特性の高い蛍光体を得ることができないおそれがある。窒素含有ガスの圧力は少なくともゲージ圧で0.2MPa以上が好ましく、10MPaから200MPaが最も好ましい。
合金粉末の加熱は、通常800℃以上、好ましくは1000℃以上、更に好ましくは1200℃以上で、通常2200℃以下、好ましくは2100℃以下、更に好ましくは2000℃以下の温度で実施する。加熱温度が800℃より低いと、窒化処理に要する時間が非常に長くなり好ましくない。一方、加熱温度が2200℃より高いと、生成する窒化物が揮発或いは分解し、得られる窒化物蛍光体の化学組成がずれて、特性の高い蛍光体が得られず、また、再現性も悪いものとなるおそれがある。
窒化処理時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、合金粉末と窒素との反応に必要な時間で良いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とする。加熱時間が1分より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない。加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常24時間以下である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、合金の原料に用いた金属単体は、いずれも不純物濃度0.01モル%以下の高純度品である。また、原料金属の形状は、Srは塊状、その他は粒状である。
[実施例1]
〈母合金の製造〉
金属元素組成比がAl:Si=1:1(モル比)となるように各金属を秤量し、黒鉛るつぼを用い、アルゴン雰囲気で高周波誘導式溶融炉を用いて原料金属を溶融した後、るつぼから金型へ注湯して凝固させ、金属元素組成元素比がAl:Si=1:1である合金(母合金)を得た。
〈蛍光体原料用合金の製造〉
Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1(モル比)となるよう母合金、その他原料金属を秤量した。炉内を5×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、炉内にアルゴンを所定圧まで充填した。この炉内で、カルシアるつぼ内で母合金を溶解し、次いでSrを溶解し、Eu、Caを加えて、全成分が融解した溶湯が誘導電流により攪拌されるのを確認後、るつぼから溶湯を金型へ注湯して凝固させた。
得られた合金をアルカリ溶融し、希塩酸に溶解した後、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry;以下、「ICP法」と称する場合がある。)で組成分析を行ったところ、中心部は、
Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.782:0.212:1:0.986、
表面部は、
Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.756:0.210:1:0.962
であり、分析精度の範囲で均一であることが確認された。
得られた合金はSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示し、AlB型のアルカリ土類シリサイドと呼ばれる金属間化合物と同定された。
〈蛍光体原料用合金の粉砕〉
得られた合金を窒素雰囲気(酸素濃度4体積%)でアルミナ乳鉢を用いて10分間粉砕し、目開き53μmの篩い下を分離して、篩い上を再び10分間粉砕する操作を繰り返して合金粉末を得た。得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。なお、元素分析は、酸素含有量は酸素窒素同時分析装置(Leco社製)、炭素含有量は炭素・硫黄分析装置(堀場製作所社製)、また、鉄はICP化学分析装置により行った。
また、粒度分布及び重量メジアン径D50は、気温25℃、湿度70%の環境下において、エチレングリコールに合金粉末を分散させ、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製「LA−300」)により、粒径範囲0.1μm〜600μmにて測定して得られた重量基準粒度分布曲線から求め、積算値が50%のときの粒径値を重量メジアン径D50とした。また、この積算値が25%及び75%の時の粒径値をそれぞれD25、D75とし、QD=(D75−D25)/(D75+D25)でQDを算出した。
[参考例1]
実施例1で得られた合金粉末10gを窒化ホウ素製るつぼ(内径55mm)に充填し、熱間等方加圧装置(HIP)内にセットし、装置内を5×10−1Paまで真空排気した後、300℃に加熱し、300℃で真空排気を1時間継続した。その後、窒素を1MPa充填し、冷却後に0.1MPaまで放圧し、再び1MPaまで窒素を充填する操作を2回繰り返した。加熱開始前に50MPaまで窒素を充填し、約600℃/hrで試料温度1900℃まで昇温した。このとき、内圧を135MPaまで約50MPa/hrで窒素で昇圧した後、さらに190MPaまで昇圧し、1900℃、190MPaで1時間保持して目的の窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体を得た。
得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。蛍光高度分光計で465nm励起による発光特性を測定し、後述の参考例2の蛍光体の輝度を100%として相対輝度を求めた。結果を表1に示した。
[実施例2]
アルミナ乳鉢を用いた粉砕時間を5分とした以外は実施例1と同様にして合金粉末を得、その粒度分布、元素分析結果を表1に示した。また、参考例1と同様に窒化処理を行い、得られた蛍光体の発光特性を測定し、結果を表1に示した。
[実施例3]
実施例1と同様にして得た合金を窒素雰囲気下でアルミナ乳鉢を用いて約1mmまで粗粉砕したものを、超音速ジェット粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製「PJM−80SP」)を用い、窒素雰囲気下(酸素濃度2体積%)、粉砕圧力0.15MPa、原料供給速度0.8kg/hrで粉砕した。得られた合金粉末を目開き53μmの篩いを通過させて得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。また、参考例1と同様に窒化処理を行い、得られた蛍光体の発光特性を測定し、結果を表1に示した。
[実施例4]
超音速ジェット粉砕機による粉砕圧力を0.1MPaとしたこと以外は、実施例3と同様にして合金粉末を得た。得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。また、参考例1と同様に窒化処理を行い、得られた蛍光体の発光特性を測定し、結果を表1に示した。
[比較例1]
超音速ジェット粉砕機による粉砕圧力を0.4MPa、原料供給速度を0.7kg/hrとしたこと以外は実施例3と同様に粉砕して合金粉末を得た。得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。また、参考例1と同様に窒化処理を行い、得られた蛍光体の発光特性を測定し、結果を表1に示した。合金粉末の重量メジアン径D50が小さすぎると、発光特性が低下する傾向にあることがわかる。
[参考例2]
金属元素組成比がEu:Ca:Al:Si=0.008:0.992:1:1となるように、Ca(CERAC社製 200mesh pass)、AlN(トクヤマ社製 グレードF)、Si(宇部興産社製 SN−E10)、Eu(信越化学社製)を、高純度アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で電子天秤により秤量した。このグローブボックス内で、これら全ての蛍光体原料をアルミナ乳鉢で均一になるまで20分間粉砕混合した。得られた原料混合物を窒化ホウ素製るつぼに充填し、雰囲気加熱炉中にセットした。装置内を1×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、装置内へ窒素を0.1MPaまで充填した後、1600℃まで加熱し、5時間保持して目的の蛍光体を得た。
この蛍光体について、蛍光高度分光計で465nm励起による発光特性を測定したところ、発光波長は648nmであった。
[参考例3]
アルミナ乳鉢を用いた粉砕時間を5時間とし、篩い分けを行わなかったこと以外は実施例1と同様に粉砕して合金粉末を得た。得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。この合金粉末を用いて実施例1と同様に窒化処理を行ったところ、黒色の固体が得られたが、このものは発光しなかった。粉砕時間が長かったため、粒径の小さい合金粉末が多くなりすぎたものと考えられる。
[参考例4]
実施例1と同様にして得た合金を、実施例3と同様に粗粉砕し、ステンレス製の機械式粉砕機を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度2体積%以下)で粉砕した。得られた合金粉末の粒度分布、元素分析結果を表1に示した。また、参考例1と同様に窒化処理を行い、得られた蛍光体の発光特性を測定し、結果を表1に示した。
発光特性が良好でないのは、ステンレス製の粉砕機から鉄が混入したためと考えられる。
Figure 0005239176
以上の結果から、本発明によれば高輝度の蛍光体を製造することができることが分かる。

Claims (8)

  1. 窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体の製造原料としての合金粉末であって、
    該合金が少なくとも1種の付活元素M と、2価の金属元素M と、3価の金属元素M と、少なくともSiを含む4価の金属元素M とを含有し、下記一般式[1]で表され、
    2価の金属元素M の80モル%以上がCa及び/又はSrであり、
    3価の金属元素M の80モル%以上がAlであり、
    少なくともSiを含む4価の金属元素M の80モル%以上がSiであり、
    該粉末の重量メジアン径D50が5μm以上40μm以下であり、
    該合金粉末中に含まれる、粒径10μm以下の合金粒子の割合が30重量%以下、粒径45μm以上の合金粒子の割合が40重量%以下、QDが0.59以下、鉄分の量が500ppm以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
    [1]
    (但し、a、b、c、dはそれぞれ下記の範囲の値である。
    0.00001≦a≦0.15
    a+b=1
    0.5≦c≦1.5
    0.5≦d≦1.5
  2. 請求項1において、合金粉末中に含まれる酸素の量が0.5重量%以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
  3. 請求項1又は2において、合金粉末中に含まれる炭素の量が0.06重量%以下であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
  4. 請求項1ないしのいずれか1項において、付活元素MがCr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、少なくともSiを含む4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体用合金粉末。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項において、付活元素MとしてEuを、2価の金属元素MとしてCa及び/又はSrを、3価の金属元素MとしてAlを、少なくともSiを含む4価の金属元素MとしてSiを含むことを特徴とする蛍光体用合金粉末。
  7. 請求項1ないしのいずれか1項に記載の蛍光体用合金粉末を製造する方法であって、前記合金を酸素濃度15体積%以下の不活性ガス雰囲気下で粉砕する工程を備えることを特徴とする蛍光体用合金粉末の製造方法。
  8. 請求項において、前記粉砕後、分級処理を行うことを特徴とする蛍光体用合金粉末の製造方法。
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