以下、図面を参照して本発明に係る実施形態の一例について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した概略構成図である。
このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体Pの記録面にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから複数色の熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体P上に処理液(インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体P上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
すなわち、図1に示すように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122を備えて構成されている。
給紙部112は、記録媒体Pを処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体Pが積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体Pが一枚ずつ処理液付与部114に給紙されるようになっている。記録媒体Pの浮き上がりを防止するために、給紙トレイ150は外面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。
本実施形態のインクジェット記録装置100においては、記録媒体Pとして、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体Pを使用することができる。給紙部112において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(図示省略)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ150に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体Pとして、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
処理液付与部114は、記録媒体Pの記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含み、処理液とインクとが接触することによりインクと凝集反応を起こし、インクは色材と溶媒との分離が促進され、インク着弾後の滲みや着弾干渉(合一)あるいは混色が発生せず高品位画像の形成が可能となる。なお、処理液としては、凝集剤の他に必要に応じてさらに他の成分を用いて構成することもできる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば、細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
図1に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体Pを保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体Pを挟み込むことによって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体Pを処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。記録媒体Pは、処理液塗布装置156によって記録面に処理液が塗布される。
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体Pは、処理液ドラム154から中間搬送部126(第1渡し胴搬送手段)を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
描画部116は、描画ドラム170、及びインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yを備えている。なお、図1では図示を省略しているが、描画ドラム170に対してインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの手前側に記録媒体Pの皺をとるための用紙抑えローラを配置するようにしても良い。
描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備え、記録媒体の先端部を保持固定するようになっている。また、描画ドラム170は、外周面に複数の吸引孔を有し、負圧によって記録媒体Pを描画ドラム170の外周面に吸着させる。これにより、用紙浮きによるヘッドとの接触が回避され、用紙ジャムが防止される。また、ヘッドとのクリアランス変動による画像ムラが防止される。
このように描画ドラム170に固定された記録媒体Pは、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクが打滴される。
インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yは、それぞれ記録媒体Pにおける画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yは、記録媒体Pの搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置されている。
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体Pの記録面に向かって各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体P上での色材流れなどが防止され、記録媒体Pの記録面に画像が形成されるようになっている。
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定されない。
以上のように構成された描画部116により、記録媒体Pに対してシングルパスで描画を行うことができる。これにより、高速記録及び高速出力が可能であり、生産性を高めることができる。
描画部116で画像が形成された記録媒体Pは、描画ドラム170から中間搬送部128(第2渡し胴搬送手段)を介して、乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム176及び溶媒乾燥装置178を備えている。乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体Pの先端を保持するとともに、ドラム外周表面に吸引孔(図示省略)を有し、負圧により記録媒体Pを乾燥ドラム176に吸着できるようになっている。また乾燥ドラム176の外周面に対向するように、送風手段180(吸着補助手段)と溶媒乾燥装置178が設けられている。
送風手段180は、記録媒体Pの乾燥ドラム176への吸着を補助するためのものであり、記録媒体Pの幅方向の端部側に向かって斜めに風を当てて、保持手段177によってその先端を保持された記録媒体Pが、先端側から後端側に向かって、皺が発生することなく確実に吸着されるようにするものである。
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、IRヒータ等とファンの組み合わせを複数配置した熱風乾燥手段182で構成されている。熱風乾燥手段182の各熱風噴出しノズルから記録媒体Pに向けて吹き付けられる熱風の温度と風量を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。記録媒体Pは記録面が外側を向くように、乾燥ドラム176の外周面に吸着拘束されて搬送され、この記録面に対して上記IRヒータ及び温風噴出しノズルによる乾燥処理が行われる。
また、乾燥ドラム176は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を有している。これにより記録媒体Pを乾燥ドラム176の周面に密着保持することができる。また、負圧吸引を行うことにより、記録媒体Pを乾燥ドラム176に拘束することができるので、記録媒体Pのカックルを防止することができる。
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体Pは、乾燥ドラム176から中間搬送部130(第3渡し胴搬送手段)を介して定着部120の定着ドラム184に受け渡される。
定着部120は、定着ドラム184、押圧ローラ188(平滑化手段)で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。
定着ドラム184の回転により、記録媒体Pは記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、押圧ローラ188による平滑化処理・定着が行われる。
押圧ローラ188は、インクが乾燥された記録媒体Pを加圧することによって記録媒体Pを平滑化、及びインクの定着を行うものである。
なお、定着ドラム184の外周面に対向して記録媒体Pに形成された画像の検査を行うインラインセンサを設けてもよい。インラインセンサは、記録媒体Pに定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、例えばCCDラインセンサを好適に用いることができる。
押圧ローラ188には、後述するようにマット液塗布部80が設けられ、押圧ローラ188の外周面にマット液200Lを供給している。マット液塗布部80はマット剤粒子200Pを所定濃度で分散した液(シリコンオイルなど)からなるマット液200Lを染み込ませたウェブ82を第1ロッド84Aと第2ロッド84Bとに巻きかけ、押圧ローラ188の外周面に沿うように当接させ、マット液200Lを一旦押圧ローラ188の外周面に転写し、ローラ表面に付着したマット剤粒子200Pを記録媒体Pの表面に再度転写する。
これにより表面にマット剤粒子200Pを付与された状態となる記録媒体Pは排紙部122に搬送され、排紙ユニット192内で多数重ねられた状態となった際にブロッキング(固着)を防止する。
さらに、これらに続いて排紙部122が設けられている。排紙部122には、排紙ユニット192が設置される。定着部120の定着ドラム184から排紙ユニット192までの間に、渡し胴194、搬送チェーン196が設けられている。搬送チェーン196は、張架ローラ198に巻き掛けられている。定着ドラム184を通過した記録媒体Pは、渡し胴194を介して、搬送チェーン196に送られ、搬送チェーン196から排紙ユニット192へと受け渡される。
また、図1には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100は、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体Pの位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
<各部の詳細>
図2に、本実施形態のインクジェット記録装置100の主要部である処理液付与部114、描画部116、乾燥部118及び定着部120を拡大して示し、本発明に係るインクジェット記録装置についてさらに詳しく説明する。
図2に示すように、処理液ドラム154、中間搬送部126(第1渡し胴搬送手段)、描画ドラム170、中間搬送部128(第2渡し胴搬送手段)、乾燥ドラム176、中間搬送部130(第3渡し胴搬送手段)及び定着ドラム184が、並んで配置され、それぞれのドラムにより記録媒体Pが搬送され、搬送されるうちに処理液付与、描画、乾燥、定着が順に行われるようになっている。
各中間搬送部(第1渡し胴搬送手段126、第2渡し胴搬送手段128、第3渡し胴搬送手段130)は、それぞれリブ付きのガイド部材127、129、131を備え、回転軸を挟んで180度対向する方向に延びたアームの先端部の保持爪(図示省略)が記録媒体Pの先端部を把持して回転軸の回りを回転し、記録媒体Pの後端部はフリーの状態で、それぞれガイド部材(127、129、131)に沿って記録媒体Pを記録面の裏面側が凸になるようにして搬送するように構成されている。
なお、中間搬送部126、128、130は、チェーングリッパを用いて、記録媒体Pを掴んで、裏面側を凸にして搬送するように構成してもよい。
本実施形態のインクジェット記録装置100は、記録媒体Pの記録面上に画像を記録するものであり、記録媒体Pとしては、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、所謂上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本実施形態のインクジェット記録装置100では、凝集により色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像記録が可能である。
なお、記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられる所謂塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本実施形態のインクジェット記録装置100では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
前述したように、処理液付与部114は、記録媒体Pの記録面に処理液を付与するものである。
処理液塗布装置156によって記録面に処理液が塗布される処理液の膜厚は、描画部116のインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから打滴されるインクの液滴径より充分に小さいことが望ましい。例えば、インクの打滴量が2pl(ピコリットル)のときには、液滴の平均直径は15.6μmである。このとき、処理液の膜厚が大きい場合には、インクドットが記録媒体Pの表面に接触することなく、処理液内で浮遊する。そこで、インクの打滴量が2plのときに着弾ドット径を30μm以上得るためには、処理液の膜厚を3μm以下にすることが望ましい。
処理液塗布装置156は、主として処理液容器、計量ローラ、塗布ローラによって構成されている(図示せず)。処理液容器には、処理液が貯留されており、この処理液に計量ローラの一部が浸漬される。計量ローラとしては、金属ローラ及び金属ローラ表面にセラミックコーティングを施したローラ周面に一定の線数で規則正しく多数のセルが形成されたアニロックスローラが好適に用いられる。金属ローラの材質としては鉄及びSUS等が用いられる。材質として鉄を用いた場合には、表面の親水性の向上、耐磨耗性の向上及び防錆性を向上させるため、表面にクロム等のメッキを施してもよい。アニロックスローラのセル構造としては、例えば、線数150線以上400線以下、セル深さ20μm以上75μm以下、セル容量30cm3/m2以上60cm3/m2以下のものを好適に用いることができる。計量ローラの直径は、例えば20mm以上100mm以下で形成される。
計量ローラは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。従って、処理液容器内の処理液を計量ローラの表面に付着させ、この処理液を塗布ローラの表面に転移させることができる。計量ローラの回転方向は塗布ローラと同方向であり、ローラ外周の周速度は塗布ローラと同速、もしくは速度差を設けてもよい。速度差を設ける場合には塗布ローラの周速度に対して計量ローラの周速度を80%以上140%以下が好適に用いられる。塗布ローラと計量ローラとの周速度を調整することにより、計量ローラから塗布ローラへの転移率を調整することが可能であり、記録媒体Pへの塗布膜厚を調整することができる。
計量ローラの表面には、計量用のドクターブレードが当接するように設けられている。ドクターブレードは、計量ローラと塗布ローラとの接触位置に対して、計量ローラの回転方向の上流側に配置され、計量ローラの表面の塗布液を掻き落として計量できるようになっている。これにより、ドクターブレードで計量された塗布液を塗布ローラに供給することができる。
塗布ローラはEPDMやシリコンなどのゴム層を表面に有するゴムローラが好適に用いられる。塗布ローラは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。塗布ローラの回転方向は処理液ドラム154と同方向であり、ローラ外周の周速度も処理液ドラム154と同速度で回転する。これによって計量ローラから塗布ローラへ転移された処理液が処理液ドラム154上に保持された記録媒体Pに塗布される。
このように、処理液塗布装置156はローラで処理液を塗布するようにしたため、処理液を均一に、かつ塗布量を少なく記録媒体Pに塗布することが可能である。また、処理液塗布装置156は、処理液塗布の搬送胴(処理液ドラム154)を汚さないようにするために、処理液塗布手段のローラを記録媒体毎に接触及び離間させるようになっていることが好ましい。処理液ドラム154は、記録媒体Pの先端を保持する保持爪で記録媒体Pを搬送する。これにより、記録媒体Pの高速搬送が可能であり、また用紙搬送ジャムの発生を低減することができる。
なお、処理液ドラム154の外周に、その周面に対向してIRヒータ及び温風噴出しノズルを設けて、記録媒体Pに塗布された処理液を乾燥するようにしてもよい。IRヒータや温風噴出しノズルを設けた場合には、IRヒータは高温(例えば180℃)に制御され、温風噴出しノズルは高温(例えば70℃)の温風を一定の風量(例えば9m3/分)で記録媒体Pに向けて吹き付けるように構成される。このIRヒータ及び温風噴出しノズルによる加熱によって、処理液の溶媒中の水分が蒸発され、処理液の薄膜層が記録媒体Pの記録面に形成される。このように処理液を薄層化することによって、描画部116で打滴するインクのドットが記録媒体Pの記録面と接触し、必要なドット径が得られるとともに、薄層化した処理液成分と反応して色材凝集が起こり、記録媒体Pの記録面に固定する作用が得られやすい。なお、処理液ドラム154を所定の温度(例えば50℃)に制御するようにしてもよい。
また、処理液は、描画部116で付与されるインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含んでいる。凝集剤としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、ポリアリルアミン類であってもよい。本実施形態においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、水溶性の高い酸性物質(リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸、もしくはこれらの化合物の誘導体又はこれらの塩など)が好適に挙げられる。
このように、凝集剤としては、水溶性の高い酸性物質が好ましく、凝集性を高め、インク全体を固定化させる点で、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましい。さらに、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。この2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、さらに3.0以下の有機酸がより好ましく、具体的には、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
凝集剤で、酸性物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これにより、凝集性を高め、インク全体を固定化することができる。インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは、3〜45質量%であり、さらに好ましくは、5〜40質量%の範囲である。また、インク組成物のpH(25℃)が8.0以上であって、処理液のpH(25℃)が0.5〜4の範囲が好ましい。これにより、画像濃度、解像度及びインクジェット記録の高速化を図ることができる。
また、処理液には、その他の添加物を分有することができる。この添加物としては、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤などの公知の添加剤が挙げられる。
上述したように本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、処理液の付与は、塗布法に限定されず、インクジェット法や浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。なお、塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。
なお、処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本実施形態においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体P上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料及び/又は自己分散性ポリマーの粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体P上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像を得ることができる。
また処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m2以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/m2となる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m2以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m2以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
処理液付与部114は、処理液ドラム154の外周面に設けられた保持手段155により記録媒体Pの先端部を保持して搬送しながら、処理液塗布装置156により、処理液を計量しつつ記録媒体Pに処理液を塗布する。
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体Pは、中間搬送部(第1渡し胴搬送手段)126によって次の描画部116へ搬送される。記録媒体Pは、第1渡し胴搬送手段126の保持爪(図示省略)によってその先端部を保持されて、記録面が内側を向き、裏面側がガイド部材127に沿って凸形状となるように搬送される。
また、第1渡し胴搬送手段126は、その内部(回転軸付近)に熱風乾燥手段(図示省略)を有し、搬送中内側を向いている記録媒体Pの記録面(表面)側に熱風を当てて、表面に付与された処理液を乾燥させる。これにより、描画部116において記録媒体Pにインクが打滴されたとき、インク付着時における記録媒体P上での着弾インクの移動が防止される。
描画部116の描画ドラム170は、第1渡し胴搬送手段126によって搬送されてきた記録媒体Pの先端部を、描画ドラム170外周面に設けられた保持手段171により保持するとともに、描画ドラム170外周面に設けられた吸引孔によって記録媒体Pを描画ドラム170外周面に吸着、固定して搬送する。そして、描画ドラム170の外周面に固定された記録媒体Pの、処理液が付与されている表面(記録面)に向けて、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクが打滴される。
<描画部>
図2に示す描画部116において、描画ドラム170上に密着保持された記録媒体Pの記録面に向かって各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体P上での色材流れなどが防止され、記録媒体Pの記録面に画像が形成されるようになっている。
なお、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続階調のつながりを改良する観点で、異なる液滴量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に適用される。
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定されない。
以上のように構成された描画部116により、記録媒体Pに対してシングルパスで描画を行うことができる。
<乾燥部>
描画部116で画像が形成された記録媒体Pは、描画ドラム170から中間搬送部(第2渡し胴搬送手段)128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。第2渡し胴搬送手段128は、描画ドラム170から受け取った記録媒体Pを、保持爪(図示せず)によってその先端部を保持して、記録媒体Pの記録面が内側を向き、裏面側がガイド部材129に沿って凸形状となるようにして搬送する。
なお、第2渡し胴搬送手段128は、その内部に不図示の熱風乾燥手段(乾燥手段)を有し、搬送中内側を向いている記録媒体Pの記録面側に熱風を吹き付けて、表面に打滴されたインクを乾燥させる構成とされていてもよい。これにより、インク打滴直後に、インクを乾燥することができるので、インク浸透による記録媒体Pのカックルを低減しやすくなり、乾燥部118における乾燥ドラム176における吸引拘束時の吸着皴の発生を抑止しやすくなる。
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム176、及び乾燥ドラム176の外周面に対向する位置にIRヒータ等とファンの組み合わせを複数配置した熱風乾燥手段182が構成されている。
また、乾燥ドラム176の外周に対向して、複数の熱風乾燥手段182の(乾燥ドラム176の回転方向の)上流側に送風手段180(吸着補助手段)が設けられている。
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。また、乾燥ドラム176は、その外周面に複数の吸引孔を有し、負圧により記録媒体Pを乾燥ドラム176外周面に吸着し、密着するように拘束して搬送する。このように乾燥ドラム176に拘束された記録媒体Pに対して、熱風乾燥手段182の熱風噴出ノズルから熱風を当てて記録媒体Pを乾燥する。
これにより、カックルの発生が防止される。また、記録媒体Pを乾燥ドラム176外周面に密着させることで、熱風乾燥手段182に記録媒体Pが接触することによるジャムの発生や用紙燃えを防止することができる。
熱風乾燥手段182の熱風噴出しノズルは、所定の温度に制御された温風を一定の風量で記録媒体Pに向けて吹き付けるように構成され、IRヒータは、それぞれ所定の温度に制御される。これらの熱風噴出しノズル及びIRヒータによって、乾燥ドラム176に保持された記録媒体Pの記録面に含まれる水分が蒸発され、乾燥処理が行われる。その際、乾燥部118の乾燥ドラム176は、描画部116の描画ドラム170に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yにおいて、熱乾燥によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの不吐出を低減することができる。また、乾燥部118の温度設定に自由度があり、最適な乾燥温度を設定することができる。
なお、蒸発した水分は図示を省略した排出手段によりエアとともに機外に排出することが好ましい。また、回収されたエアを冷却器(ラジエータ)などで冷却して液体として回収してもよい。
また、乾燥ドラム176は、その外周面を所定の温度に制御することが好ましい。記録媒体Pの裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。
乾燥ドラム176の表面温度の範囲は、50℃以上が好ましく 、より好ましくは60℃以上である。また、上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム176の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下が好ましい。
また、乾燥ドラム176は、記録媒体Pが搬送される前に所定の温度に加熱しておくことが好ましい。乾燥ドラム176を加熱しておくことで、乾燥を促進させることができるので、画像破壊を防止するとともに、カックルを防止することができる。加熱温度は、上記乾燥ドラム176の表面温度と同じ温度範囲とすることが好ましい。
加熱は、吸引した際の温度低下を防止するため、吸引した状態で所定の温度とすることが好ましい。また、吸引しないで加熱を行う場合は、吸引した際の温度低下を考慮して、所定の温度より高い温度になるように加熱することが好ましい。また、記録媒体Pの記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体Pの記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体Pの皺や浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
また、熱風乾燥手段182の上流側に設けられた送風手段180(吸着補助手段)は、乾燥ドラム176への記録媒体Pの吸着を補助するためのものである。送風手段180は、記録媒体P後端側に向かって斜め方向に送風し、記録媒体P幅方向の端部側に向かって斜めに当てるようにし、さらに後端で風力が大きくなるように制御する。これにより、記録媒体P後端での用紙浮きが防止されるとともに、記録媒体Pの吸着皺を取り、均一乾燥と均一吸着を可能とする。このように送風手段180という記録媒体Pに対して非接触な吸着補助手段を用いることで、接触手段を用いて吸着補助を行った場合に、記録媒体Pのまだ乾燥していないインクが接触手段に転写されて画像不良が発生するのを防止することができる。
乾燥ドラム176の吸引力は(開口面積)×(単位面積あたりの圧力)で表すことができる。吸引力は、記録媒体吸着保持領域における吸引孔の占める面積、すなわち、開口率を高くすることで吸引力をより高くすることができる。
また、乾燥ドラム176の外周面に設けられた吸引孔の開口率は、乾燥ドラム176外周面と記録媒体Pとの接触面積に対して、1%以上75%以下であることが好ましい。これは、開口率が1%未満であると、記録後の吸水による記録媒体Pの膨張変形を充分に抑止することができず、また、乾燥ドラム176自体も温まっており記録媒体Pはこれに接することによっても乾燥が促進されるが、開口率が75%を超えると、記録媒体Pの裏面と乾燥ドラム176外周面との接触面積が低下するため、記録媒体Pを吸着保持した状態であっても充分な乾燥性能を得ることができず、カックルも悪化する虞がある。
従って、乾燥ドラム176の外周面における吸引孔の開口率を1%以上75%以下とすることで、カックルの抑制防止及び乾燥性能の向上を図ることができる。
なお、開口率は、吸引孔の径、孔ピッチ、孔の形状及び配置により設定される。孔径は、0.4mm以上、また負圧吸引による記録媒体Pの凹み痕(吸着痕)がつかないように、1.5mm以下に設計することが好ましい。孔ピッチは、乾燥ドラム176外周面の熱変形の防止や剛性確保のため、0.1mm以上5mm以下が好ましい。孔の間隔があまり離れすぎると記録媒体の変形抑止効果が不足し、皺の発生をそれほど抑制できないからである。また、吸引孔の形状は、角(鋭角)形状があると、角部に応力が集中するので、角部を丸めた形状が好ましい。
また、回転搬送体では、吸着圧力による記録媒体Pの変形量は周方向よりも軸方向の方が大きくなる。従って、吸引孔は、周方向を長軸方向、軸方向を短軸方向とした楕円形状又は長穴形状とすることで、記録媒体Pの周方向の変形と軸方向の変形を均等にすることもできる。
また、乾燥ドラム176の外周面に、記録媒体Pの記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体Pの記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体Pの皺や浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
各熱風乾燥手段182の上側にはこれらを覆うように、また熱風乾燥手段182から吹き出された熱風が再度乾燥ドラム176側に向かうように整流板181が形成される。このときさらに各熱風乾燥手段182の乾燥ドラム176回転方向下流側にガイド板183を設けて、各熱風乾燥手段182から吹き出され一度乾燥ドラム176表面にあたった熱風が流れ、再び乾燥ドラム176側に向かって流れるようにするとよい。このように整流板181を設けることにより、熱効率を向上させるとともに、排気性の向上をも図ることができる。
また、乾燥部118内には温度センサ(図示せず)および湿度センサが設けられており、検出された温度および湿度は図示しない制御部にデータとして送られる。この温度および湿度情報に基づいて熱風乾燥手段182のON/OFFあるいは風量を制御する構成とされていてもよい。加えて、記録媒体P上に吐出されたインクの総量、すなわち吐出密度を熱風乾燥手段182の制御に用いてもよい。吐出密度は記録媒体P1枚当たりのインク吐出量であり、記録される画像やパターンなどの内容からデータとして算出することができる。
<定着部>
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体Pは、乾燥ドラム176から中間搬送部(第3渡し胴搬送手段)130を介して定着部120の定着ドラム184に受け渡される。
定着ドラム184は、第3渡し胴搬送手段130から記録媒体Pを受け取ると、定着ドラム184の外周面に設けられた保持手段185で記録媒体Pの先端部を保持して記録媒体Pを外周面に巻きつけて搬送する。
定着ドラム184の外周面に巻きつけられて搬送される記録媒体Pは、定着ドラム184に対向して配置された押圧ローラ(平滑化手段)188により加圧され、定着ドラム184に押しつけられてカールが矯正され皺が取り除かれる。
押圧ローラ188は、定着ドラム184に対して圧接するように配置されており、定着ドラム184との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体Pは、押圧ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、平滑化処理が行われる。
また、押圧ローラ188は、加熱ローラであってもよい。例えば、押圧ローラ188を、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラとして構成し、所定の温度(例えば、60〜80℃)で制御するようにしてもよい。この加熱ローラとして構成した押圧ローラ188で記録媒体Pを加熱するとともに押圧することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融され、記録媒体Pの画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
<マット液塗布部>
図3〜7には本実施形態に係るマット液塗布部が示されている。本願発明のマット液供給方式では、前述のようにマット液塗布部80が押圧ローラ188の外周面にマット液200Lを供給している。マット液塗布部80はマット剤粒子200Pを所定濃度で分散した液(シリコンオイルなど)からなるマット液200Lを染み込ませた不織布などのウェブ82を第1ロッド84Aと第2ロッド84Bとに巻きかけ、押圧ローラ188の外周面に沿うように当接させ、マット液200Lを一旦押圧ローラ188の外周面に転写し、ローラ表面に付着したマット剤粒子200Pを記録媒体Pの表面に再度転写する。
これにより表面にマット剤粒子200Pを付与された状態となる記録媒体Pは排紙部122に搬送され、排紙ユニット192内で多数重ねられた状態となった際にブロッキング(固着)を防止する。
ウェブ82(付与帯材)としては布、不織布など繊維質あるいは多孔質など、液体を保持可能で帯状のものでよく、その空隙ポア径Rは以下のように定義される。目付けM、厚さT、繊維半径rはウェブ82の固有パラメータとする。
R:空隙ポア径(μm)
R=2×√(S/π)
S:空隙断面積(μ平方メートル)
S=K/N×106
K:空隙率
N:含浸材断面1μ平方メートル当りの繊維の本数(本/μ平方メートル)
M:目付け(g/平方メートル)
T:厚さ(μm)
r:繊維半径(μm)
K=1−M/T
N=(1−K)/(πr2×106)
マット剤粒子200Pとしては、例えばアクリル樹脂粉末、澱粉粉末、PVAなど種々の素材が考えられるが、平均粒径5〜50μm程度の粉末が好適であり、さらに望ましくは平均粒径10〜30μm程度の粉末を好適に使用することができる。
図4に示すようにウェブ82は供給側芯金83Aに巻き付けられ、巻取側芯金83Bに巻きとられる状態で供給され、図3のように第1ロッド84Aと第2ロッド84Bとで背面から支持され、押圧ローラ188の外周面に当接するように装着される。
第1ロッド84Aと第2ロッド84Bとウェブ82を巻きつけた供給側芯金83Aと巻取側芯金83B、および側板80Aからなるウェブユニット280は、任意のタイミングで付与ローラ(押圧ローラ188)に対して当接、離間を実施する。任意の当接タイミングとは、例えば印刷開始直後であってもよく、任意の離間タイミングとは、例えば印刷終了直後あるいは、印刷中止時であってもよい。ウェブユニット280の当接/離間は、例えば、図示しないギアあるいはカムにて実施する。
ウェブ82は、供給側芯金83Aから巻取側芯金83Bへ巻き取られる搬送路中で押圧ローラ188に巻きかけられ、マット液200Lを供給する。ここでウェブ82の同じ面が押圧ローラ188に接触し続けると、含浸されたマット液200Lが消費され、マット剤粒子200Pが十分に押圧ローラ188の表面に供給されなくなるため、所定のタイミングでウェブ82を巻きとる必要がある。
図5に示すように、供給側芯金83A、巻取側芯金83Bの一端をフレーム80Aに設けられたギア83AG、83BGにて回転駆動可能に支持している。ギア83AG、83BGの少なくとも巻取側芯金83BGを支持するギア83BGは例えば図示しないパルスモータなどで駆動され、所望のタイミングで巻取側芯金83Bを巻き上げる構成とされている。
これによりウェブ82は例えばパルスモータの回転パルス数で任意に制御された送り量を、任意のタイミングで供給側芯金83Aから巻取側芯金83Bへそれぞれギア83AG、83BGにて連動させて巻き取ることによって更新され、ウェブ82のフレッシュ面(未使用面)が押圧ローラ188に当接するようにすることで常にマット液200Lを押圧ローラ188に供給することができる。
ウェブ82は押圧ローラ188に対して十分な当接圧を確保し、ウェブ82の弛みを抑止する目的でテンションを強化することが望ましい。例えば、ギア83AG側で供給側芯金83Aの回転軸抵抗を大きくすることによって、ウェブ82のバックテンションを強化することもできる。
また図6に示すように、第1ロッド84Aは押圧ローラ188の外周面に対して可動とされ、バネで付勢される構造であってもよい。すなわち側板80Aに設けられた長穴286に支持された第1ロッド84Aは、図6に示すようにバネ284で押圧ローラ188方向に付勢され、常に所定の圧力で押圧ローラ188の表面に当接する構造としてもよい。実際には第1ロッド84Aと押圧ローラ188との間にウェブ82が存在するので、バネ284の力でウェブ82を押圧ローラ188の表面に押しつけることになる。
図7に示すように、押圧ローラ188へのウェブ82の当接圧は、例えば、図7中の引張りバネ282の強さで制御できるし、ウェブユニット280自体の自重によっても影響を受ける。詳細は以下の式にて記述される。すなわちPivotAを回転中心としてウェブユニット280を回動可能に支持したとき、PivotBを引張りバネ282で力Fsをかけて引き、第1ロッド84A、ウェブ82で押圧ローラ188の外周面に当接する構造とされている。
加圧力(ばね):
Fa=Fs x cosθa
Fb=Fa x (La/Lb)
Fr=Fbxcosθr
および
加圧力(自重):
Wa=Wg x cosθwa
Wb=Wg x (Lc/Ld)
Wr=Wb x cosθwb
であり、
ウェブ82の押圧ローラ188への加圧力=(Fr×2)+Wr
となる。
ここで、ウェブ82の送り方向は、押圧ローラ188の回転方向とは逆にした方が、ウェブ82に含浸されたマット液200L中のマット剤粒子200Pを押圧ローラ188がかきとる効果が期待できるが、逆方向に限らず順方向であってもよい。
すなわち、図8(A)〜(C)に示すようにウェブ82の送り方向を押圧ローラ188の回転方向と逆にして上記の効果を得ることもできるが、図8(D)に示すようにウェブ82の送り方向と押圧ローラ188の回転方向を揃えてもよい。
このときウェブ82が供給側芯金83Aから送り出され、巻取側芯金83Bに巻き取られる際に、巻き癖の影響やクリーニング性を考慮して図8(A)に示すように供給側芯金83Aから送り出されたウェブ82が巻取側芯金83Bに巻き取られる際に裏表逆になるような構成とされていてもよい。あるいはウェブ82の物性やマット液200Lの含浸具合など種々の条件に応じて図8(A)と図8(C)のように送り出し/巻取り時の表裏を逆にするようにしてもよい。これらの諸条件が性能に与える影響は後述するように図12に表で示されている。
<ウェブの支持方法・送り方向>
本実施形態のようにマット剤粒子200Pを分散液に分散させた形態で供給することで、パウダーのように装置内に粉体が舞うことがないので、装置内汚染リスクが低減される。このときオイルのような分散媒を印刷面に過剰に付与してしまうと、光沢ムラや濃度ムラ(処理剤やインクはじき起因)が問題となるが、ウェブ82を用いることによってマット剤粒子200Pを濃縮した状態で押圧ローラ188への供給が可能となる。
他の方式、すなわち塗布ローラやブレードによるマット剤供給方法と比較して、本実施形態では分散媒量を減らせるメリットが期待できる。また押圧ローラ188に直接マット液200Lを塗布する方式では押圧ローラ188上でマット液200Lがはじかれてしまい、均一塗布できない虞があるが、ウェブ82を介することによって分散媒量を減らし、マット剤粒子200Pが濃縮される効果と相まって、均一なマット剤塗布が可能となる。
さらに本実施形態では、分散液を直接記録媒体Pの印刷面に塗布するのではなく、押圧ローラ188を介して塗布するので、分散媒が過剰に印刷面に供給されることがない。また、押圧ローラ188に転写されなかったマット剤粒子200Pはウェブ82に残留したまま回収されるので、マット剤粒子200Pが装置内部に飛散し、汚染するリスクが確実に低減される。
ウェブ82は押圧ローラ188近傍に設けられた第1ロッド84Aと第2ロッド84Bの2本のロッドによって背面から支持され、押圧ローラ188の周方向に対して幅をもって面接触することで、押圧ローラ188へのマット剤粒子200Pの転写(第一転写)を実施する。第1ロッド84A、第2ロッド84Bの当接条件が性能に与える影響は後述するように図13に表で示されている。
このようにウェブ82を面接触とすることにより、ロッド1本による支持(線接触)の場合と比較してより多くのマット剤粒子200Pを押圧ローラ188に供給することが可能となる。
ウェブ82は供給側に設けられた第1ロッド84Aから、巻取側に設けられた第2ロッド84Bの方向へと所定の送り量で巻き取られ、新しい供給面が更新される。ウェブ82が新しい供給面に更新されることで、常に一定数以上のマット剤粒子200Pを押圧ローラ188に供給することが可能になる。
また、ウェブ82を面接触させているので、1回以上押圧ローラ188に接触した部分であっても再度押圧ローラ188に接触させ、ウェブ82中に残留していたマット剤粒子200Pをさらに押圧ローラ188に供給することができる。
さらにウェブ82に含浸されている分散媒として、シリコーンオイルなどの離型剤を使用すれば、スタッカーブロッキング防止機能をアシストするだけでなく、押圧ローラ188への画像オフセットを良好に防止することができる。
さらには、マット剤粒子200Pがほぼなくなったウェブ82の部分は、押圧ローラ188への接触部分の終端近傍で、粗面化された押圧ローラ188の表面に残留した分散媒(オイル)とともに付着インクなどの汚れを拭き取るクリーニング効果も期待できるため押圧ローラ188の表面凹部が付着物で埋まって平滑化し、転写性能が低下する事態を防止できる。
図3に示すように、第1ロッド84Aが背面に当接されているウェブ82と、押圧ローラ188のニップ部にマット液200Lのビード(液溜まり)が形成されることによって、ウェブ82から押圧ローラ188への第一転写がより安定的に実施することが可能になる観点から、第1ロッド84Aは押圧ローラ188に(ウェブ82を挟んで)当接している方がより好ましい。
また、記録媒体支持体(定着ドラム184)の振動(例えば圧胴搬送による押圧ローラ188のジャンプ台部の昇降)によって第1ロッド84Aの位置が変動し、第1ロッド84Aと押圧ローラ188間のマット液200Lのビードが不安定になることを防止し、第一転写性能の安定を維持する観点から、第1ロッド84Aの当接は押圧バネによる形態がより好ましく、押圧ローラ188の位置によらず、押圧ローラ188に対する第1ロッド84Aの位置の変動を最小限にとどめることができる。
さらに、第1ロッド84Aが過剰圧で押圧ローラ188に当接されることを防止し、粗面化された押圧ローラ188表面の磨耗を低減し、押圧ローラ188の長寿命化を促す効果も期待できる。このとき第1ロッド84Aと押圧ローラ188の離間量は、ウェブ82からのマット剤粒子200Pの搾り出し効果付与のため、ウェブ82の厚み以下にすることが望ましい。
また第2ロッド84Bが背面に当接されているウェブ82と、押圧ローラ188が離間状態にあることで、第二転写部から押圧ローラ188の表面に残留したマット剤粒子200Pを、第1ロッド84Aで除去されてしまう事態を防ぎ、再度マット液200Lのビードに取り込み、再利用することを狙う観点から、第2ロッド84Bは押圧ローラ188から離間状態にあることがより好ましい。
但し、面接触を保つ観点から、第2ロッド84Bの離間量は1〜2mmの範囲で最小限にとどめることが望ましい。また、第2ロッド84Bを離間することで粗面化された押圧ローラ188の磨耗を低減させることもできる。但し、押圧ローラ188上に残留したマット剤粒子200Pの回収回避の観点から、第2ロッド84Bの離間量はウェブ82の厚みよりは広くすることが望ましい。
ウェブ82の送り方向と押圧ローラ188の回転方向とを逆にする方が、ウェブ82中のマット剤粒子200Pを押圧ローラ188がかきとる効果が期待でき、より好ましい。
図3に示すように押圧ローラ188の表面に供給されたマット剤粒子200Pは定着ドラム184上の記録媒体P(印刷用紙)に転写付与される(第二転写)。記録媒体P(印刷物)の画像部はインク膜の粘着力により押圧ローラ188からマット剤粒子200Pが転写されるのに対し、非画像部は押圧ローラ188から転写することがなく、画像部に選択的に付与される。
ここで画像部に付与されるマット剤粒子200Pは押圧ローラ188によって押圧付与されているため、画像部に密着し、後工程で脱落することがなく、マット剤粒子200Pによる汚染を防止することが可能となる。
<押圧ローラ粗面化処理>
上記の第一転写、第二転写を効率よく実施するために、押圧ローラ188の表面は粗面化処理されていることが望ましい。押圧ローラ188の表面を粗面化することで、ウェブ82を粗面化された押圧ローラ188の周方向に沿って幅をもって接触させた際に、ウェブ82中から浸出したマット液200Lの成分で過剰に押圧ローラ188の表面が濡れることなく、マット剤粒子200Pを選択的に掻き出せるので、ウェブ82から押圧ローラ188への第一転写性能を向上させることができる。押圧ローラ188の粗面化が性能に与える影響は後述するように図14に表で示されている。
また押圧ローラ188を平滑ローラとした場合、ローラの表面に付与されたマット剤粒子200Pが、一旦記録媒体P(印刷物)に転写されても、押圧ローラ188自身によって印刷物表面から拭き取られてしまい、転写効率が低下する虞がある。押圧ローラ188の表面を粗面化することで押圧ローラ188自身の拭き取り能を低下させることで、マット剤粒子200Pが押圧ローラ188の表面凹凸の凹部をすりぬけて、印刷物上に好適に残留することができ、第二転写性能も向上させることも期待できる。
このとき押圧ローラ188の表面は、粗面化処理により二乗平均平方根粗さRqが2μm以上となるように粗面化されていることが望ましい。また押圧ローラ188への画像オフセットを防止する観点から、Rqは10μm以下にとどめることが好ましい。この粗面化処理としては、サンドブラスト処理、サンドペーパー処理が好ましく用いられる。
押圧ローラ188の表面に対するサンドブラスト処理によって、粒度や圧力をコントロールしつつ等方的にランダムな凹凸を形成することができ、マット剤粒子200Pを記録媒体P上に均一に付与することができる。
あるいはサンドペーパーによって押圧ローラ188の幅方向に対して所定の角度α(但し、0°≦α≦90°)の方向に沿った溝を形成するように研磨する処理する(サンドペーパー処理)ことによって、粗さをコントロールしつつ押圧ローラ188の表面に異方的に凹凸パターンを形成することができ、マット剤粒子200Pを記録媒体P上に均一に付与することができる。
上記の所定の角度αは、0°<α<60°であることがより望ましい。ウェブ82から押圧ローラ188の表面への粒子の付与は、α=0°で掻き出し効果が最大になる。一方で押圧ローラ188の表面から記録媒体P表面へのマット剤粒子200Pの付与は、α=90°で離型効果が最大になる。掻き出し効果(=第一転写)が最大となる角度を第一に重視し、離型効果(=第二転写)も次点に考慮する必要があるので、0°<α<60°が最も好ましい角度範囲である。
上記角度が0°付近の場合、押圧ローラ188からの離型効果自体は低下するが、押圧ローラ188による押圧と画像部のインク膜の粘着力とで十分に補うことができるので、0〜60°での転写性能は一様に良好となる。60°を超えると掻き出し効果が低下してしまうので、転写性能が低下する。
<押圧ローラ表面物性>
第二転写性能向上の観点から、押圧ローラ188の表面は表面エネルギーが小さい素材が好ましい。好ましくはフッ素フィルム巻きローラが好ましく、例えばPFAが好適に用いられる。第一転写時はウェブ82からの分散液(オイル)の過剰供給を防止し、第二転写時は離型性により、マット剤粒子200P自体が記録媒体P(印刷物)に転写しやすくなる。押圧ローラ188の粗面物性が性能に与える影響は後述するように図15に表で示されている。
例えば押圧ローラ188は、ゴム硬度70°以下、厚さ1mm以上のゴム層と、前記ゴム層に巻きつけられた厚さ50μm以上200μm以下の表面フィルム層を有する構造としてもよい。粗面化処理に対する表面フィルム層の耐久性の観点から、表面フィルムは厚い方が良いが、厚すぎるとゴム層に対する巻きつけの際に内径と外径の差による応力差が大きくなり不適である。
また転写粒子数を多くするためには、ゴム層が粒子の大きさに対して適度に変形するのがよい。ゴム硬度としては柔らかいものがよく、70°以下がよい。厚さとしては変形し易い1mm以上のものがよい。
<押圧ローラの離間・接触構造>
押圧ローラ188は印刷物支持体(定着ドラム184)をマット剤粒子200P(及びマット液200L)で汚さぬように、紙面以外の領域は定着ドラム184の表面から離間することが好ましい。
マット剤粒子200P(及びマット液200L)が過剰に押圧ローラ188や印刷物に付着し汚れる事態を防ぐために、押圧ローラ188あるいは印刷物支持体(定着ドラム184)の押圧ローラ188当接部以外の箇所に、クリーニング機構を設けてもよい。例えば、ブレードやワイパーによる掻き落としや拭き取り方式などによってクリーニングするのが好ましい。また損紙をクリーニング用紙として装置内を通紙することによって、マット剤粒子200P(及びマット液200L)の汚れを付着させ、除去させてもよい。
マット剤粒子200Pの、記録媒体Pの画像部への密着度合いは以下のような手段によって調整してもよい。すなわちインク膜の粘着力制御、例えば乾燥条件の制御によりインク膜の乾燥状態を変え、粘着力を制御することでマット剤粒子200Pの画像部への密着度合いの制御が可能である
または定着ニップ圧を強化あるいは、別途押圧ローラ188とは別に第二の押圧ローラを設け、マット剤粒子200Pの上から2度押圧することで、マット剤粒子200Pをインク膜へ埋没させ、密着度合いを強化してもよい。
印刷物に使用される紙種あるいはインク付与量によっても必要とされる粒子数は異なるため、紙種やインク量に応じて、ウェブ82の送り量を可変にしてもよい。
JOBの初期に処理された記録媒体Pほど、排紙後に印刷物の積束の下部に位置することから、上部の印刷物重量によってスタッカーブロッキングは悪化しやすい。よって必要とされるマット剤粒子200Pの数はJOBの初期ほど多い。JOB中一定のマット剤粒子200Pの数を確保する観点から、JOB中にウェブ82の送り量を可変にし、初めは送り量を多く、終わりは少なくなるように送り量を制御してもよい。
<押圧ローラの当接・離間>
図9に示すように押圧ローラ188は定着ドラム184およびその表面に把持されている記録媒体Pに対して接離方向に移動可能に支持されており、当接/離間可能な構造とされている。これは常に押圧されている場合、定着ドラム184の外周面に記録媒体Pが把持されていないタイミングでは押圧ローラ188が定着ドラム184の表面に直接接触するため、両者の外周面同士が接触することによって傷付きや汚れ写りなどが生じることを防止するためでもある。
これにより、表面にマット剤粒子200Pが付着した押圧ローラ188が定着ドラム184に直接接触しないので、記録媒体Pの表面に転写せず押圧ローラ188側に残ったマット剤粒子200Pで定着ドラム184の表面が汚れる虞が少なくなる。
具体的には図9に示すように本体フレーム220に揺動可能に支持された定着フレーム218が押しバネ214と引きバネ216で押圧ローラ188を定着ドラム184に付勢しているとき、離間カム210が所定のタイミングで回転し、カムローラー212を離間方向、すなわち押圧ローラ188が定着ドラム184から離れる方向に定着フレーム218を押す。
カムローラー212は押しバネ214で離間カム210に付勢されており、例えば定着ドラム184上で記録媒体P同士の間などの箇所で、離間カム210が回転しカムローラー212を押し上げると押圧ローラ188は定着ドラム184の表面から離間し、記録媒体Pの存在しない箇所で押圧ローラ188が定着ドラム184に接触することを防ぐ。
<他の形態>
図10には本発明の他の形態に係るマット剤付与装置が示されている。図10に示すように、ウェブ82をローラーに巻き取られた巻物形状とする以外にも無端ベルト状として押圧ローラ188にマット剤粒子200Pを供給する構成とされていてもよい。
例えば図12のようにロッド84C、84Dの間に無端ベルト状のウェブ82を巻きかけ、ロッド84Cで押圧ローラ188の表面にウェブ82を押し付ける構造でもよい。ウェブ82は同じ部分を繰り返し使用するためマット液200Lを随時補充する必要があり、このためマット液吐出ヘッド230などが設けられ、消費されたマット液200Lをウェブ82に補充することで、長時間安定して押圧ローラ188にマット剤粒子200Pを供給することができる。
この構成ではウェブ82を巻き取らないため、ウェブ82の供給側芯金83Aおよび巻取側芯金83Bを交換する必要がなく、マット液吐出ヘッド230から安定してマット液200Lが吐出される点に留意すればメンテナンスの工数を低減することができる。
図11には本発明の他の形態に係るマット剤付与装置が示されている。図11に示すように、第1ロッド84A、第2ロッド84Bを用いずに供給側芯金83Aから巻取側芯金83Bへの巻きとり搬送路中でウェブ82を押圧ローラ188に巻きかけ、押圧ローラ188にマット剤粒子200Pを供給する構成とされていてもよい。
この構成では第1ロッド84A、第2ロッド84Bを用いないので、供給側芯金83Aと巻取側芯金83Bおよび押圧ローラ188との位置関係で、ウェブ82の押圧ローラ188への接触長さと押圧力とが決定される。第1ロッド84A、第2ロッド84Bが存在しないため、マット液200Lが接触する部材は供給側芯金83Aと巻取側芯金83Bをのぞけば押圧ローラ188だけとなり、マット剤粒子200Pが装置内に付着する事態をさらに効率よく防ぐことができる。
<ウェブ、マット液の組成と性能評価>
以下のようにマット液200L、ウェブ82を調整し、実機(本実施形態に係るインクジェット記録装置100)で性能評価を行った。
1:ウェブ部材1の作成
・シリコーンオイル(「KF−96−100cs」、信越化学工業(株)製)70.0質量%
・ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子(日本触媒(株)製、「ケミスノーMX‐2000」、体積平均粒径20μm)30.0質量%
上記組成の液1Lをシルバーソン製乳化装置で8000rpm、10分混合させ、粉末粒子分散液1を作製した。粉末粒子分散液1を不織布に150g/m2になるように含浸させ、ウェブ部材1を作製した。不織布は、呉羽テック(株)製KYS80(繊維1本あたりの空隙径85μm)を用いた。
2:ウェブ部材2の作製
・シリコーンオイル(「KR−500」、信越化学工業(株)製)26.3質量%
・シリコーンオイル(「KF−945」、信越化学工業(株)製)43.7質量%
・ポリスチレン粒子(テクノポリマー(株)製、「SBX‐17」、体積平均粒径16μm)30.0質量%を用いた。それ以外は、ウェブ部材1と同じ処方とする。
3:ウェブ部材3の作製
・シリコーンオイル(「KF−96−100cs」、信越化学工業(株)製)67.9質量%
・シリコーンオイル(「KF−4917」、信越化学工業(株)製)2.1質量%
・ポリエチレン粒子(三井化学(株)製、「ミペロンXBM‐220」、体積平均粒径33μm)30.0質量%を用いた。それ以外は、ウェブ部材1と同じ処方とする。
4:ウェブ部材4の作製
ウェブ部材1と同じ組成の液1Lをシルバーソン製乳化装置で8000rpm、10分混合させ、粉末粒子分散液1を作製した。粉末粒子分散液1を不織布に75g/m2になるように含浸させ、ウェブ部材4を作製した。不織布は、アドバンテック(株)製T220(繊維1本あたりの空隙径26μm)を用いた。
5:ウェブ部材5の作製
ウェブ部材2と同じ組成の液1Lを用いた。それ以外はウェブ4と同じ処方とする。
6:ウェブ部材6の作製
ウェブ部材3と同じ組成の液1Lを用いた。それ以外はウェブ4と同じ処方とする。
7:ウェブ部材7の作製
ウェブ部材1と同じ組成の液1Lをシルバーソン製乳化装置で8000rpm、10分混合させ、粉末粒子分散液1を作製した。粉末粒子分散液1を不織布に50g/m2になるように含浸させ、ウェブ部材7を作製した。不織布は、ポリアミドとポリエステルとの混合材料で、重さ30g/m2、厚さ0.1mm、繊維1本あたりの空隙径21μmのものを用いた。
8:ウェブ部材8の作製
ウェブ部材2と同じ組成の液1Lを用いた。それ以外はウェブ7と同じ処方とする。
9:ウェブ部材9の作製
ウェブ部材3と同じ組成の液1Lを用いた。それ以外はウェブ7と同じ処方とする。
10:ウェブ部材10の作製
シリコーンオイル(「KF−96−100cs」、信越化学工業(株)製)100.0質量%を用いた。それ以外は、ウェブ部材1と同じ処方とする。ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子は含まない。
上記、各々のウェブ部材を用いて、本願実施形態に係る印刷機にて、OKトップコート157gsm(王子製紙(株)製)に50mm幅のストライプ画像を、インク量5pLで、3000枚両面印刷し、スタック、6時間経時後のスタッカーブロッキングの発生状態及び光沢ムラ(直後、1日経時)、装置内の汚染レベル、ローラ耐久性、ローラオフセット性を評価した。
評価基準は以下の通り。
(スタッカーブロッキング:D以上が実施例)
A:3000枚以上発生ナシ
B:上から2500枚以上発生ナシ
C:上から2000枚以上発生ナシ
D:上から1500枚以上発生ナシ
E:上から1000枚以上発生ナシ
F:上から1000枚未満でも発生
(その他:B以上が実施例)
A:問題なし
B:許容可
C:許容不可
上記の内容で実機による評価を行った。結果を図12〜図15に示す。すなわち基本形状、押圧ローラ188の表面形状、ウェブ82のポア(空隙)径に関して図12に示し、ロッド84の当接条件に関して図13に示し、押圧ローラ188の粗面化条件に関して図14に示し、押圧ローラ188の物性およびウェブ82の送り方向について図15にそれぞれ示す。備考欄に問題なしと記載された組み合わせを実施可能な例とする。
基本形状、押圧ローラ188の表面形状、ウェブ82のポア(空隙)径サイズ組み合わせや他の方法によるマット剤付与における評価結果を図12に示す。
図12に示すように、押圧ローラ188を粗面化ローラ、ウェブ82をウェブ部材1〜3とした組み合わせが何等問題なく使用可能とされている。これ以外の組み合わせはマット剤粒子200Pの転写性能に劣るため、スタッカーブロッキング性能が劣る。
また図12に示すようにマット液200Lなしではスタッカーブロッキング性能がNGとなり、ウェブ82を直接記録媒体Pに接触させるとオイル過剰で光沢ムラ劣化、ブレードによるマット液200Lの塗布では転写ムラにより光沢ムラ劣化、ウェブ82に代えて塗布ローラで押圧ローラ188にマット液200Lを供給すると光沢ムラ劣化となる。
マット液200Lに代えて排紙ユニット192内部でマット剤粒子200Pを直接パウダー状態で噴霧した場合は、スタッカーブロッキング性能を満足する分量の噴霧では装置内汚染がNGとなり、装置内汚染を許容できる程度の噴霧量ではスタッカーブロッキング性能がNGとなってしまう。
第1ロッド84A、第2ロッド84Bの当接/離間および第1ロッド84Aの可動/固定の組み合わせにおける評価結果を図13に示す。
図13に示すように、第1ロッド84Aを押圧ローラ188に当接、第2ロッド84Bを離間、第1ロッドはバネで押圧し可動とするロッド当接条件において、スタッカーブロッキング性能、光沢ムラ(直後&1日後)、押圧ローラ188のローラークリーニング性能において何等問題なく使用可能とされている。
すなわち第1ロッド84Aを離間させれば液溜まり不安定で転写性能劣化、第2ロッド84Bを当接させればマット剤粒子200P再利用率低下で転写性能劣化、ロッド1本では線接触により転写性能・クリーニング性能劣化、第1ロッド84A固定では押圧ローラ188への追随性低下で転写性能バラツキ発生となる。
押圧ローラ188の表面に対する粗面化条件の組み合わせにおける評価結果を図14に示す。
図14に示すように、押圧ローラ188の表面粗さが低ければマット液200Lの掻き取り能不足により転写性能が劣化し、スタッカーブロッキング性能が低下する。また表面粗さが過剰であれば押圧ローラ188のローラオフセット性能(画像写り)が低下する。また押圧ローラ188表面の溝形成角度は0〜60°の範囲であればスタッカーブロッキング性能、ローラオフセット性能ともに問題はない。
押圧ローラ188の表面エネルギー、表面層厚み、ローラの素材、ゴム硬度、厚みの組み合わせにおける評価結果、およびウェブ82の送り方向による性能差を図15に示す。
図15に示すように、押圧ローラ188の表面エネルギーは低い方が二次転写性能に優れるためスタッカーブロッキング性能に優れ、表面層の厚みは薄すぎれば耐久性が劣り、厚すぎれば表面層の巻き付け性能が低下するためこれも耐久性が低下する。
押圧ローラ188の素材はシリコンゴム、フッ素ゴム等では問題ないが、アルミなど硬質の素材では弾性不足で押付効果が足りず、マット剤転写性能が低下する。ゴムの場合、ゴム硬度が高すぎるか厚みが薄すぎると同様に弾性不足で押付効果が足りず、マット剤転写性能が低下する。
さらにウェブ82の送り方向は押圧ローラ188の回転方向に対して逆としたほうがスタッカーブロッキング性能、ローラークリーニング性能ともに優れている。
<まとめ>
以上説明したように、本実施形態においては、マット液200Lを含浸したウェブ82を押圧ローラ188の表面に接触させ、転写したマット剤粒子200Pを記録媒体Pの表面に押圧付与する構成としたため、以下のような効果を奏する。
すなわちマット剤粒子200Pを分散液として液中に分散させた形態で供給するので、装置内に粉体が舞うことがなく、装置内汚染リスクが低減される。
またオイルのような分散媒を記録媒体Pの印刷面に過剰に付与してしまうと、光沢ムラや濃度ムラ(処理剤やインクはじき起因)が問題となるが、布材のウェブ82を用いることによって、粒子濃縮状態での押圧ローラ188への供給が可能となり、他の塗布ローラやブレード塗布などによる布材を介さない供給方式と比較し、分散媒量を減らせるメリットが期待できる。
あるいは直接液を押圧ローラ188に塗布する方式だとローラ上で液がはじかれてしまい、均一塗布できない虞があるが、布材であるウェブ82を介することで分散媒量を減らし、粒子が濃縮される効果もあいまって、均一な塗布が可能となる。
さらに、分散液を直接印刷面に塗布するのではなく、押圧ローラ188を介して塗布するので、分散媒が過剰に印刷面に供給されることがない。また、押圧ローラ188に転写されなかったマット剤粒子200Pはウェブ82に残留したまま回収されるので、マット剤粒子200Pが装置内を汚染するリスクが確実に低減される。
さらに本願発明ではマット液200Lをウェブ82で直接押圧ローラ188に転写する構造のため、粉体や液体を噴霧する方式に比較して装置内部での拡散を防止し、また塗布後の乾燥工程なども必要なく、装置構成を単純かつ低コストなものとすることができる。また同様に、記録媒体Pに粉体を吹き付ける方式と比較しても押圧ローラ188による押圧付与であるため装置内部でのマット剤粒子200Pの拡散を防止できる。
また、記録媒体Pの画像部に付与されるマット剤粒子200Pは押圧ローラ188によって押圧付与されているため、画像部に密着し、後工程で脱落することが少なく、脱落したマット剤粒子200Pによる装置内や他の記録媒体Pへの汚染を防止することが可能となる。
<その他>
以上、本発明の実施例について記述したが、本発明は上記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
例えば上記実施形態では熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクを用いたインクジェット記録装置の構成を例に挙げたが、これに限定せず例えば紫外線硬化インクを用いた構成、及び普通紙に通常のインクを吐出するインクジェット方式の構成であれば本発明の実施形態が適用される機構とされていてもよい。