JP5223061B2 - 亜鉛合金めっき部材からなる摺動部材および電気亜鉛合金めっき液 - Google Patents
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Description
本発明において、水系酸性組成物とは、水を主たる溶媒とし、液性が酸性、つまりpHが7未満の液状組成物をいう。固体が分散および/または沈澱していてもよい。
また、基材とは、金属および合金の一種または二種以上からなる表面(金属系表面)を少なくとも一部に備える部材をいう。
(1)水溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で4g/L以上16g/L以下、水溶性ニッケル含有物質をニッケル換算で0.5g/L以上4g/L以下、水溶性モリブデン含有物質をモリブデン換算で0.02g/L以上0.5g/L以下、および水溶性有機酸化合物を有機酸換算で0.1g/L以上40g/L以下含有する水系酸性組成物からなり、質量%で、2%以上8%以下のNiおよび0.1%以上3%以下のMoを含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する亜鉛合金めっき皮膜を形成するためのめっき液であることを特徴とする電気亜鉛合金めっき液。
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、質量%で、2%以上8%以下のNiおよび0.1%以上3%以下のMoを含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、硬度が150Hv以上350Hv以下であって、厚さが0.1μm以上30μmである。
Niが亜鉛合金めっきに含有されると、めっきの腐食生成物としてZnとNiとを含有する物質が亜鉛合金めっき上に形成される。この腐食生成物は、亜鉛のみからなる亜鉛めっきにおける腐食生成物に比べて緻密であり、亜鉛合金めっきを保護するバリア層として機能する。このバリア層としての機能を高める観点のみからは、Niのめっき中の含有量は高ければ高い方が好ましい。しかしながら、NiはZnに比べて貴な金属であるから、Niの含有量が高くなるとめっき皮膜の電位は高くなる。例えば、銀電極を基準電位として測定した亜鉛めっき皮膜の電位は−1.00mVであるが、Niを6質量%含有する亜鉛合金めっき皮膜の電位は同条件で測定して−0.93mVであり、Ni含有量が15質量%の場合には−0.83mVとなる。このため、基材、典型例として鋼材との電位差が小さくなり、犠牲防食機能が低下する。
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、硬度がHvで150(本発明において「150Hv」のように記載する場合がある。)以上、350Hv以下である。本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、一般的なステンレス鋼の一つであるSUS304(196Hv)と同等かそれ以上の硬度を有するため、そのような鋼からなる部材と摺動するための摺動部材として使用することが実現される。本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜の硬度は200Hv以上であることが好ましい。
ボール径:6mm
ディスクの摺動径:半径7mm
荷重:1N
速度:5cm/秒
摺動距離:50m
潤滑:あり(摺動前のディスクとピンとの間に流動パラフィンを1mL滴下、以降追加の潤滑剤付与なし)
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜の厚さは、0.1μm以上30μm以下である。めっき皮膜の厚さが過度に薄い場合には、犠牲防食や腐食生成物を形成するためにめっきが溶解することによってめっき皮膜が部分的に消失し、基材が露出してしまうことが懸念される。一方、めっき皮膜の厚さが過度に厚い場合には、その生産に要する時間が長く、材料費や製造コストが増大する割に、基材に耐食性を付与する機能はそれほど向上しないため、コストパフォーマンスの観点から問題がある。また、めっき皮膜の製造中に基材から剥離する可能性が高まり、得られためっき皮膜も基材に対する密着性が低下している可能性が高まる。したがって、本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜の厚さを0.1μm以上30μm以下とする。本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜を備える部材の使用環境により好ましいめっき皮膜の厚さの範囲は変動するが、通常の使用環境では0.5μm以上20μm以下の範囲で設定することが好ましく、摺動条件が特に厳しくなければ、その膜厚が8μm程度あれば十分である場合が多い。
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、従来技術に係るNiを含有する亜鉛合金めっき、特にZn−Ni合金めっきとは異なり、黒色系の外観を有し、意匠性に優れる。本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜の外観は、ベーキング(例えば200℃で二時間)を行うことによりさらに黒味を増した外観となる。
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜の基材は、金属系表面を有している限り任意である。犠牲防食機能により基材に耐食性を付与することを求める場合には、基材の金属系表面は亜鉛合金めっき皮膜よりも貴であることが好ましい。なお、本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、腐食生成物が緻密な物質からなり、この物質からなるバリア層がめっき皮膜上に形成されるため、基材の金属系表面が亜鉛合金めっき皮膜よりも卑であっても十分な耐食性を基材に付与することができる。基材を具体的に例示すれば、鋼材、アルミ系材料からなる部材、銅系材料からなる部材、およびニッケルなどのめっきが施された部材が挙げられる。
本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜は、上記の組成および機械特性を有する限りその製造方法は任意である。次に説明するめっき液を用いて電気めっきすることにより、本実施形態に係る亜鉛合金めっき皮膜を安定的に製造することが実現される。
この本実施形態に係るめっき液の各成分およびめっき条件等について次に説明する。
本実施形態に係るめっき液は少なくとも一種の水溶性亜鉛含有物質を含有する。水溶性亜鉛含有物質は、亜鉛イオン(Zn2+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。亜鉛イオンを含有する水溶性物質として、[Zn(H2O)6]2+が例示される。
水溶性亜鉛化合物を例示すれば、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等の化合物が挙げられる。水溶性亜鉛化合物は一種の化合物のみで構成されていてもよいし、複数種類で構成されていてもよい。
本実施形態に係るめっき液は少なくとも一種の水溶性ニッケル含有物質を含有する。水溶性ニッケル含有物質は、ニッケルイオン(Ni2+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。ニッケルイオンを含有する水溶性物質として、[Ni(H2O)6]2+が例示される。
本実施形態に係るめっき液は少なくとも一種の水溶性モリブデン含有物質を含有する。水溶性亜鉛含有物質は、モリブデン、モリブデンイオンおよびこれらを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。モリブデンイオンを含有する水溶性物質として、MoO4 2−が例示される。
本実施形態に係るめっき液は水溶性有機酸化合物を含有する。ここで、「水溶性有機酸化合物」とは、有機酸(典型的にはカルボン酸)ならびにそのイオン、塩、誘導体および配位化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上からなり、水系の組成物であるめっき液に溶解した状態にある化合物を意味する。
本実施形態に係るめっき液は、上記の物質に加え、無機酸およびその陰イオン、ならびにその他通常の電気亜鉛合金めっきにおいて使用されるレベラー、光沢成分(ブライトナー)、およびポリオール、ポリエーテル、アミン等界面活性剤からなる群から選ばれる一種または二種以上を含んでもよい。無機イオンはめっき液の導電性を高めるために無機塩として配合されてもよく、その場合の無機イオンとして硫酸イオンや塩化物イオンが例示される。この無機イオンのカウンターカチオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが例示される。無機塩の含有量はめっき条件に応じて適宜設定される。
本実施形態に係るめっき液の溶媒は水を主成分とする。水以外の溶媒としてアルコール、エーテル、ケトンなど水への溶解度が高い有機溶媒を混在させてもよい。この場合には、めっき液全体の安定性の観点から、その比率は全溶媒に対して10体積%以下とすることが好ましい。
めっき液温度、電流密度などのめっき条件はめっき液の組成、基材の形状、得られるめっき皮膜の特性などを考慮して適宜設定されるものである。その条件の一例を挙げれば、めっき液温度が40〜60℃、電流密度が0.3A/dm2以上30A/dm2以下である。形状が過度に複雑でない基材に対してめっきが安定的に行われる観点から、電流密度は1A/dm2以上20A/dm2以下とすることが好ましく、2A/dm2以上10A/dm2以下とすることがさらに好ましい。
上記の本実施形態に係るめっき液の主要成分が5から20倍程度に濃縮された組成を有する液状組成物(以下、「めっき用濃厚液」という。)を用意すれば、各成分の含有量を個別に調製する手間が省ける上に、保管が容易であるから、好ましい。このめっき用濃厚液を調製する場合には、上記の各成分の溶解度も考慮してその含有量に上限が設定される。
(1)試験部材の準備
(試験1)
溶媒としての純水に、0.5g/Lのクエン酸、モリブデン換算で0.07g/Lの水溶性モリブデン含有物質をもたらすモリブデン酸ナトリウム、亜鉛換算で8g/Lの水溶性亜鉛含有物質をもたらす硫酸亜鉛・7水和物、ニッケル換算で2.0g/Lの水溶性ニッケル含有物質をもたらす硫酸ニッケル・6水和物、100g/Lの硫酸ナトリウム、100g/Lの硫酸アンモニウムを、10g/Lのテトラエチレンペンタミン(TEPA)、4.5g/Lのポリエチレンイミン、および5ml/Lの光沢成分(ユケン工業(株)製 メタスMZ−11GR)を添加して、pHが5.5に調整されためっき液1を用意した。
上記のめっき液1において、モリブデン酸ナトリウムおよびクエン酸を添加せずにpHが5.5に調整されためっき液2を用意した。
前処理済み鋼板に対してめっき液2を用いて試験1と同じ条件でめっき処理を行い、さらに得られた鋼板に対して上記の水洗および乾燥を施して、厚さ2μmの亜鉛合金めっきを備える試験部材2を得た。この亜鉛合金めっきの組成は、Niが4質量%、ならびに残部がZnおよび不純物であった。
溶媒としての純水に、亜鉛換算で12g/Lの水溶性亜鉛含有物質をもたらす酸化亜鉛、ニッケル換算で1.5g/Lの水溶性ニッケル含有物質をもたらすユケン工業(株)製メタスANT−28N、120g/Lの水酸化ナトリウム、110ml/Lのキレート成分(ユケン工業(株)製 メタスANT−28M)、50ml/Lのレベラー(ユケン工業(株)製 メタスANT−28SR)、および5ml/Lの光沢成分(ユケン工業(株)製 メタスANT−28G)を添加してめっき液3を用意した。
前処理済み鋼板に対してめっき液3を用いて試験1と同じ条件でめっき処理を行い、さらに得られた鋼板に対して上記の水洗および乾燥を施して、厚さ2μmの亜鉛合金めっきを備える試験部材3を得た。この亜鉛合金めっきの組成は、Niが15質量%、ならびに残部がZnおよび不純物であった。
(A)赤錆発生時間(塩水噴霧試験)
上記の試験部材1から3に対してJIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を行い、24時間ごとに停止して各試験部材の表面を目視で観察し、赤錆の発生が認められた時間を赤錆発生時間とした。
上記の試験部材1から3、およびこれらを200℃で2時間ベーキングした後の部材について、外観を目視で評価した。
(A)赤錆発生時間(塩水噴霧試験)
試験部材1の赤錆発生時間は504時間であって、そのときの赤錆面積率は0.1%であった。試験部材2の赤錆発生時間は264時間であって、そのときの赤錆面積率は0.3%であった。試験部材3の赤錆発生時間は240時間であって、そのときの赤錆面積率は0.4%であった。
ベーキング前の試験部材の外観は次のとおりであった。
試験1:光沢のあるやや黒っぽいシルバー
試験2:シルバー
試験3:シルバー
試験1:光沢のある黒っぽいシルバー
試験2:シルバー
試験3:シルバー
上記のように、Moを含有することにより、亜鉛合金めっき皮膜の外観は黒色化するとともに光沢を有し、その黒色化の程度はベーキングを行うことにより高まった。
Claims (9)
- 水溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で4g/L以上16g/L以下、水溶性ニッケル含有物質をニッケル換算で0.5g/L以上4g/L以下、水溶性モリブデン含有物質をモリブデン換算で0.02g/L以上0.5g/L以下、および水溶性有機酸化合物を有機酸換算で0.1g/L以上40g/L以下含有する水系酸性組成物からなり、
質量%で、2%以上8%以下のNiおよび0.1%以上3%以下のMoを含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する亜鉛合金めっき皮膜を形成するためのめっき液であることを特徴とする電気亜鉛合金めっき液。 - 前記水溶性ニッケル含有物質のニッケル換算含有量の前記水溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量に対する比率が0.05以上0.5以下である請求項1記載の電気亜鉛合金めっき液。
- 前記水溶性モリブデン含有物質のモリブデン換算含有量の前記水溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量に対する比率が0.001以上0.05以下である請求項1記載の電気亜鉛合金めっき液。
- 前記水溶性有機酸化合物の有機酸換算含有量の前記水溶性モリブデン含有物質のモリブデン換算含有量に対する比率が2以上50以下である請求項1記載の電気亜鉛合金めっき液。
- 前記水溶性有機酸化合物の有機酸がヒドロキシ多価カルボン酸である請求項1記載の電気亜鉛合金めっき液。
- 金属系表面を有する基材と、質量%で、2%以上8%以下のNiおよび0.1%以上3%以下のMoを含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、硬度が150Hv以上350Hv以下であって、厚さが0.1μm以上30μm以下である、前記基材上に設けられた亜鉛合金めっき皮膜とを備える亜鉛合金めっき部材からなる摺動部材。
- 前記亜鉛合金めっき皮膜が、請求項1から5のいずれか一項に記載される電気亜鉛合金めっき液により形成されたものである請求項6記載の摺動部材。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載される電気亜鉛合金めっき液と基材とを接触させ、当該基材を陰極として1A/dm2以上20A/dm2以下で電解処理を行って、質量%で、2%以上8%以下のNiおよび0.1%以上3%以下のMoを含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、硬度が150Hv以上350Hv以下であって、厚さが0.1μm以上30μm以下である、亜鉛合金めっき皮膜を前記基材上に形成することを特徴とする亜鉛合金めっき部材の製造方法。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載される電気亜鉛合金めっき液を調製するための液状組成物であって、水溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で20g/L以上320g/L以下、水溶性ニッケル含有物質をニッケル換算で2.5g/L以上80g/L以下、水溶性モリブデン含有物質をモリブデン換算で0.1g/L以上10g/L以下、および水溶性有機酸化合物を有機酸換算で0.5g/L以上200g/L以下含有することを特徴とする液状組成物。
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