JP5219976B2 - 騒音低減構造体 - Google Patents

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本発明は、騒音を効果的に吸収する騒音低減構造体に関する。
近年においては、多数の貫通穴が板面全体に形成された内装板を外装板に対して空気層を介して対向配置した構成とすることによって、内装板に入射する騒音を吸収する多孔板防音構造体が注目されている。
例えば、特開2003−50586号公報(特許文献1)は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、内装板の板厚、穴径及び開孔率が、貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されていることを特徴とする。この多孔質防音構造体によると、空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する板厚、穴径及び開孔率の内装板により多孔質防音構造体が形成されているため、粘性作用による空気振動の熱エネルギへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮することになる。
さらに、特開2008−46618号公報(特許文献2)は、振動し騒音を放射する構造体の表面に設置され、当該構造体の表面から周囲に放射される騒音を低減する固体音低減構造を開示している。この固体音低減構造は、構造体の表面の少なくとも一部を覆うように配置され且つ厚さ方向に通過可能な気体流通部を備える表面板部と、構造体の表面に設けられ、表面板部が構造体の表面と一体となって振動するように当該表面板部の外周縁部を支持すると共に、当該構造体の表面と当該表面板部との間に内部気体室を形成する壁面部である外周壁面部と、を備えている。
この固体音低減構造によると、構造体表面と共に表面板部の全面が略一様に振動する。このとき表面板部に気体流通部が設けられていることによって表面板部の音響放射効率(振動から音への変換効率)が低減する。これより、振動している構造体から放射される音を低減できる。また、外周壁面部により内部気体室と外部空間とが面内方向において仕切られている構造であるため、構造体表面から内部気体室へ放射された音が面内方向に進行して外部空間に伝搬することを当該外周壁面部によって遮ることができ、外部空間への音漏れを抑制することが可能となる。
特開2003−50586号公報 特開2008−46618号公報
ところで、上述したような多孔板を用いた吸音構造及び固体音低減構造においては、多孔板自体の板振動が大きくなることがある。特に、多孔板が共振すると、多孔板の吸音性能が劣化してしまったり、多孔板からの騒音放射が大きくなって、対策前より騒音を増大させてしまうことがある。多孔板の板振動が大きくなる原因としては、入射音の音圧による加振、背後空気層内に生じた音圧による加振、支持部材を介した構造による加振などがある。
このような共振対策として、特許文献2には、共振を考慮して多孔板構造体を設計すること、及び多孔板の共振を抑制するために多孔板に制振材を設けることが開示されている。
しかしながら、高周波数域(高い音)で著しい効果を得たい場合には、多孔板の支持ピッチが狭くなる、又は多孔板が厚くなるなど、重量、コストなどの面で困難な可能性がある。さらに、多孔板の孔を維持したまま制振材を設けることは困難な可能性があり、制振材を設けることにより、多孔板による吸音構造・固体音低減構造の長所である軽量及び高い耐環境性という特徴を喪失する可能性もある。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、安定して効果を得られる吸音構造・固体音低減構造を備えた騒音低減構造体を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る騒音低減構造体は、平織状に縦横に交差する複数の帯状板と隣接する2つの縦側の帯状板と隣接する2つの横側の帯状板とにより形成されて騒音を低減させる格子孔とを備える前面板と、前記前面板の背面に位置し当該前面板との間に空気層を介して配置される背面板と、を備えることを特徴とする。
この騒音低減構造体によると、格子孔すなわち空気流通部における空気の粘性減衰作用により、騒音を伝播する空気の振動エネルギが熱エネルギに変換され、騒音を低減できる。加えて、帯状板自体が振動する際、平織状に縦横に交差する帯状板は擦れ合い、振動エネルギが熱エネルギに変換され、振動エネルギが低減して共振振動などが抑制される。つまり、共振することなくより広い周波数範囲で安定して効果を得られる吸音構造・固体音低減遮音構造を備えた騒音低減構造体を提供することができる。
好ましくは、前記複数の帯状板のうち、少なくとも一部の帯状板の固有振動数が、騒音源から発される騒音の周波数より高いように設定するとよい。
こうすることで、前面板(多孔板)の共振を回避でき,より広い周波数範囲で安定して効果を得られる吸音構造・固体音低減構造を備えた騒音低減構造体を実現することができる。
さらに好ましくは、前記縦側の帯状板と前記横側の帯状板の板厚が異なり、前記板厚が薄い方の帯状板に関し、その厚さと前記格子孔の辺長とが等しいようにするとよい。
これによると、厚い方の帯状板により高い剛性すなわち高い固有振動数を維持して多孔板(前面板)の共振を回避しつつ、より大きな粘性減衰効果を得られる小さな格子孔を備えた騒音低減構造体を実現できる。
さらには、交差する縦側の帯状板と横側の帯状板との重なる面同士が全面接触しているとよい。
この騒音低減構造体によると、帯状板自体が振動する際、より広い面積で帯状板同士が擦れ合い、より大きな振動抑制効果を得られる。この騒音低減構造体の製造にあたっては、帯状板を平織りにした後、帯状板の上下両方向からプレスしたり、あるいは帯状板の両端部から帯状板に引っ張り力を作用させるなどするとよい。
なお、前記前面板が、騒音源に対向するように配備されることは非常に好ましい。
本発明に係る騒音低減構造体によると、確実且つ効果的に騒音を低減できる。
本発明の実施形態に係る騒音低減構造体の全体平面図である。 図1の部分拡大図である。 垂直入射吸音率を示す図である。 格子孔の辺長の変化に伴う垂直入射吸音率の変化を示す図である。 格子孔の辺長と吸音される騒音の周波数との関係を示す図である。
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に本発明の実施形態に係る騒音低減構造体の平面図を、図2に図1の部分拡大図を、それぞれ示す。
本実施形態に係る騒音低減構造体は、騒音を伝達する媒質を問わないが、以下においては媒質を空気とする。なお、以下においては、吸音構造及び固体音低減構造(騒音源から発せられる騒音を低減する構造であって、特に騒音源としては、固体同士の接触・衝突を原因とするようなもの)の双方を含み、騒音低減構造体と記載する。
図1に示すように、この騒音低減構造体1は、平行に多数並べられた縦側の帯状板10と、それらの縦側の帯状板10に垂直な向きに平行に多数並べられた横側の帯状板20とから構成される前面板を備えている。縦側の帯状板10及び横側の帯状板20は、それぞれ短冊状の板体であり帯状薄板である。なお、以降、縦側の帯状板10を単に帯状板10と、横側の帯状板20を単に帯状板20と記載する場合がある。
縦側の帯状板10及び横側の帯状板20は、平織状に(市松模様状に)互いに交互に交差するようにして形成される。織物のように形成される場合には、平織の織り方になる。
特徴的であるのは、縦側の帯状板10と横側の帯状板20との交点に、格子孔30が形成されている点である。この格子孔30は、隣接する2つの縦側の帯状板10と、隣接する2つの横側の帯状板20とにより形成されている。この格子孔30は、後に精説するように、空気などの音波伝達媒体が流通する気体流通部(空気流通部)である。
帯状板10及び帯状板20の材質は、鋼、アルミニウムなどの金属、又はプラスチックや紙などが考えられ、同素材の組み合わせでも異素材の組み合わせでもよい。さらに、この帯状板10及び帯状板20の板厚又は板幅は、同じであっても、異なっていても構わない。さらに、この帯状板10と帯状板20との交差角度は、90度以外でも構わず、騒音低減構造体1の設置箇所の形状(枠材の形状など)によって変更することができる。
図2に、図1の部分的な詳細図を示す。
なお、図1及び図2における格子孔30が図示してわかりやすいように、縦側の帯状板10と縦側の帯状板10との距離及び横側の帯状板20と横側の帯状板20との距離(板間距離)を実際よりも広く記載している。実際に大きな吸音・固体音低減効果を得るためには、孔が微細であることが望ましいので、実際には板間距離はもっと短く、格子孔30はもっと小さいものである。
図2に示すように、縦側および横側の帯状板10の板厚t(1),t(2)は0.05mm〜1mmであることが好ましい。帯状板の板厚がこの範囲であると、互いに重なっている帯状板同士が接しやすく、帯状板同士が擦れ合うことによる振動エネルギの減衰が発現するしやすくなる。
さらに、開孔率βは0.1%〜3%であることが好ましい。開孔率βがこの範囲であると、格子孔30を流通する空気による粘性減衰作用が発生する。なお、開孔率βとは、孔が設けられた板の全面積に対する孔の開孔面積の比率である。
なお、格子孔30の形状は、従来のように丸ではなく四角になる。丸よりも四角の方が、同じ開孔率βであっても格子孔30の周囲長が長くなるので、空気による粘性減衰作用に有利である。
まとめるならば、騒音低減構造体1は、複数の帯状板10,20が平織状に織られてなる前面板を有している。この前面板には、帯状板10,20により形成されて騒音を低減させる格子孔30が複数設けられていて、この前面板の背面には、所定の間隔をもって配置される背面板が存在する。すなわち、騒音低減構造体1の構成部材の一つである背面板は、前面板との間に空気層を介して後方に配備される。前面板が騒音源に対面するように騒音低減構造体1は設置され、騒音を吸音する。
このような騒音低減構造体1を、騒音源の表面やその近傍、例えば、自動車におけるエンジン表面やエンジンルーム内に設置する。
エンジンから放射される騒音(不必要で不快と感じられる音波)を防止する目的で、騒音低減構造体1をエンジン表面に設置すると、格子孔30における空気の粘性減衰作用により騒音低減構造体1の表面における音響放射効率(振動から音への変換効率)が低減し、エンジン放射騒音を低減できる。このとき、エンジン表面から騒音低減構造体1に作用する加振力により騒音低減構造体1が振動(最悪の場合、共振)すると騒音低減効果は劣化してしまうが、帯状板10又は帯状板20が振動しようとしても、互いに重なり接している(交差している)2本の帯状板が擦れ合い、振動エネルギが熱エネルギに変換される摩擦減衰により振動が抑制されるので、安定して騒音低減効果を得られる。
また,エンジンルーム内で発生する騒音を吸音して低減する目的で、騒音低減構造体1をエンジンルーム内(エンジン表面も含む)に設置することもある。エンジンルーム内を伝搬して騒音低減構造体1に達した騒音は、格子孔30を通ることとなるが、格子孔30における空気の粘性減衰作用により、騒音の振動エネルギが熱エネルギに変換されて、吸音効果を発現する。
帯状板の素材を適宜選択することで、軽量及び高い耐環境性を有しつつ、騒音を低減する構造を実現できる。特に、制振材などを用いる必要がなく、単一の素材で本実施形態に係る騒音低減構造体1を形成することが可能であるので、リサイクル性も高くなる。
なお、従来の多孔板では微細な穴を開けるのが困難であった。すなわち、穴を打ち抜き加工する場合において、本実施形態のように0.1mm〜0.5mmの孔サイズ(詳細は後述)を実現するためには、極小径の打ち抜き工具が必要となり、工具自体の強度が著しく低下し打ち抜きが不可能な状況となる。しかしながら、本実施形態に係る騒音低減構造体1においては、0.1mm〜0.5mmの極小の格子孔30を容易に形成することができ、吸音性能又は遮音性能を確実なものとすることができる。
従来の多孔板による吸音構造と、本実施形態に係る騒音低減構造体1とを比較するために、それぞれの垂直入射吸音率を評価した。
従来構造の多孔板の仕様は、材質は鋼であって、直径88mmの丸板、厚み0.5mm、孔直径は1.5mm、開孔率βは0.4%で、背後の空気層の厚みは10mmである。この仕様は,800Hzで最大の効果が得られるように設計した仕様である。
図3の破線において、音響管を用いて垂直入射吸音率を計測した結果(従来構造の多孔板の結果)を示す。入射音波によって多孔板が加振され、多孔板の共振が励起されたことによる吸音率の劣化が、650〜700Hzを中心として見られる。
一方、本実施形態に係る騒音低減構造体1の仕様に関しては、帯状板10,20の厚みは0.5mm、正方形の格子孔30の辺の長さD(1),D(2)は1.3mm、開口率βは0.4%とする。例えば、騒音低減構造体1は、幅19.7mm×板厚0.5mmの鋼板である帯状板を90度に交差させて1.3mmの間隔で編むことによって製造される。なお、背後の空気層は同じであり、設計周波数も同じく800Hzである。
図3の実線において、本実施形態に係る騒音低減構造体1の垂直入射吸音率の結果を示す(理論解析により予測した結果)。この結果から明らかなように、帯状板における摩擦減衰の効果で板の共振を抑制できるため、設計どおりの効果的な吸音性能を得ることができる。
騒音低減構造体1の吸音性能がより大きくなる仕様を設計すべく、辺の長さD(1),D(2)をさまざまに変化させた際の垂直入射吸音率を理論解析により予測した。
図4には、帯状板10,20の厚さt(1),t(2)を共に0.1mm、設計周波数を500Hzとした(500Hzで最大の吸音率が得られるように帯状板10,20の板幅L(1),L(2)および背後の空気層の厚みを設計した)場合の垂直入射吸音率を示す。この図から明らかなように、辺長が大きくなるにしたがって,500Hzにおけるピークが鈍るのが分かる。すなわち辺長が小さいほど、より広い周波数帯域でより高い吸音率を安定して得ることができる。
図5には、辺長の変化に伴う吸音特性の変化の詳細を示す。図5は、吸音率0.3、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9以上を有する周波数帯域の幅(1000Hz以下の範囲において)を整理したものである。この図から、辺長0.5mm辺りから帯域幅の減少が顕著になっていることがわかる。すなわち辺長を0.5mm以下とすることで、より広い周波数帯域で高い吸音率を安定して得ることができる。
一方、図4の吸音性能を得るのに必要な格子孔の数は、辺長が小さいほど多くなる。例えば、格子孔の辺長0.1mmでは格子孔のピッチ(すなわち,帯状板の幅)は0.5mmであり、格子孔の辺長0.2mmでは格子孔のピッチ(すなわち,帯状板の幅)は1.8mmとなる。製造上の寸法精度やコストを考慮すると、辺長を0.1mmより小さくすることは困難である。したがって、より広い周波数帯域でより高い吸音率を安定して得るには、前述の知見と合わせて、格子孔の辺の長さは0.1mm以上〜0.5mm以下が望ましい。
以上は1つの設計周波数、板厚に対する検討を例示したが、他の板厚,設計周波数についても同様の傾向になることを発明者らは知見している。
実施例3として、縦側の帯状板の厚さt(1)と横側の帯状板の厚さt(2)が異なる場合を例示する。
例えば,t(1)が1mmで、t(2)が0.2mmの場合である。縦側および横側の帯状板の材質が同じであれば,騒音低減構造体1の固有振動数は縦側の帯状板の板厚t(1)(厚い方)で決まり、材質が鋼で、騒音低減構造体1の大きさが80mm角の場合、両端固定支持の場合の理論より833Hzとなる。また、帯状板を平織りにする際、横側の帯状板(薄い方)に略90度の折り曲げ部を設け、曲げ方向を反転させながら織り込むことで、辺長0.2mmの格子孔30を設けることができる。
一方、従来の多孔板(80mm角の1枚板)で同等の固有振動数を得るには、周辺固定支持の場合の理論値から板厚0.6mmが必要となる。この板厚では,板厚に比して小さい(0.2mm)孔を安定して設けることは、加工技術およびコストの面で不可能である。
上記のことから明らかなように、本発明による騒音低減構造体1を採用することで、騒音低減構造体1の共振の回避と大きな騒音低減効果を得るための小さな孔の両立を実現することができる。
以上のようにして、本実施形態に係る騒音低減構造体によると、格子孔における空気の粘性作用により、空気の振動エネルギが熱エネルギに変換され、騒音を確実に低減できる。帯状板が振動する際、縦横に交差し互いに交差している帯状板は擦れ合い、振動エネルギが熱エネルギに変換され、振動エネルギが低減して振動が抑制される。このように、共振振動することなく、より広い周波数範囲で(低音から高音に亘り)安定して防音効果を得ることができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 騒音低減構造体
10 縦側の帯状板
20 横側の帯状板
30 格子孔

Claims (5)

  1. 平織状に縦横に交差する複数の帯状板と、隣接する2つの縦側の帯状板と隣接する2つの横側の帯状板とにより形成されて騒音を低減させる格子孔とを備える前面板と、
    前記前面板の背面に位置し、当該前面板との間に空気層を介して配置される背面板と、
    を備えることを特徴とする騒音低減構造体。
  2. 前記複数の帯状板のうち、少なくとも一部の帯状板の固有振動数が、騒音源から発される騒音の周波数より高いことを特徴とする請求項1に記載の騒音低減構造体。
  3. 前記縦側の帯状板と前記横側の帯状板の板厚が異なり、
    前記板厚が薄い方の帯状板に関し、その厚さと前記格子孔の辺長とが等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載の騒音低減構造体。
  4. 交差する縦側の帯状板と横側の帯状板との重なる面同士が全面接触していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の騒音低減構造体。
  5. 前記前面板が、騒音源に対向するように配備されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の騒音低減構造体。
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