JP5216982B2 - 禁煙支援治療に有用な遺伝子多型 - Google Patents
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Description
Pharmacogenomics J. 2006 Mar-Apr;6(2):115-9
このような知見をもとに、本発明者らは、ニコチン依存形成に重要なドパミンA10神経に着目し、その神経機能に影響を与えると考えられる18遺伝子中37遺伝子多型を選定し、これらの遺伝子多型と喫煙行動の個人差との関連を調査した。その結果、後述の実施例に示すように、ニコチン性アセチルコリン受容体β2サブユニット(CHRNB2)遺伝子の第5イントロンに存在する遺伝子多型(10160A/C多型)などが喫煙行動の個人差と関連し、ニコチン依存度、ニコチン離脱症状、禁煙維持の難易といった、喫煙行動に関する被験者の傾向判定に利用できること、さらにこの判定結果は、個々の喫煙者に適した禁煙支援・禁煙治療を進めていく上で重要な指標となり得ること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
A) 以下の(1)〜(3)に掲げる遺伝子群から選択された1又は複数の遺伝子、もしくはゲノム上これらの遺伝子近傍に存在する1又は複数の多型を検査し、その検査結果から、禁煙支援または禁煙治療に有用な、喫煙に関する被験者の傾向を判定する方法。
(1)ニコチン性アセチルコリン受容体β2サブユニット(CHRNB2)遺伝子
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4(5HTT))遺伝子
(3)ニコチン性アセチルコリン受容体α4サブユニット(CHRNA4)遺伝子
このように、本発明は、上記(1)〜(3)の遺伝子またはヒトゲノム上その近傍に存在する少なくとも1つの多型を検査するものであるが、これは換言すれば、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する少なくとも1つの多型を検査することを意味し、つまり、上記(1)〜(3)のゲノム遺伝子のエキソン領域あるいはイントロン領域に存在する多型の検査に制限されず、そのプロモーター領域など転写調節領域、制御領域あるいは非翻訳領域などに存在する多型を検査するものであってもよい。本明細書において、「遺伝子多型」とは、このようなプロモーター領域などに存在する多型を含み、当該遺伝子に関連する多型という広義の意味である。
B) 喫煙に関する被験者の傾向が、ニコチン依存度の強弱、ニコチン離脱症状の程度、および禁煙維持の難易からなる群から選択された少なくとも1つの項目である、上記A)記載の方法。
C) 上記CHRNB2遺伝子の第5イントロンに存在するrs12072348多型(10160A/C多型)を直接、又は間接的に検査するステップを含む、上記A)又はB)記載の方法。
D) 上記SLC6A4(5HTT)遺伝子のプロモーター領域に存在するLPR多型、第2イントロンに存在するVNTR多型、および第8イントロンに存在するrs717742多型のうち少なくとも1つの多型を直接、又は間接的に検査するステップを含む、上記A)又はB)記載の方法。
E) 上記CHRNA4遺伝子の第5エキソンに存在するrs1044397多型、および第2イントロンに存在するrs2273504多型のうち少なくとも1つの多型を直接、又は間接的に検査するステップを含む、上記A)又はB)記載の方法。
F) 上記A)〜E)のいずれかに記載の方法にしたがい、喫煙に関する被験者の傾向判定をコンピュータに実行させる、禁煙支援プログラム。
G) 上記A)〜E)のいずれかに記載の方法において、遺伝子多型の検査は、被験者から調製したゲノムDNAを鋳型にして、多型部位を挟む遺伝子領域を増幅する工程と得られた増幅断片をもとに遺伝子型を決定する工程とを含む方法。
H) 上記A)〜E)のいずれかに記載の方法において、DNAチップ等の遺伝子多型検査器具を用いて遺伝子多型を検査する方法。
I) 上記H)記載の方法に使用される遺伝子多型検査用オリゴヌクレオチド。
J) 上記A)〜E)のいずれかに記載の方法に使用される遺伝子多型検査用キット。
また、遺伝子多型、遺伝子配列等に関する番号、数値その他の情報は、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のウェブページなどで利用可能な主要な遺伝子データベースにおいて使用されている番号、数値等を参酌して解釈されるものとする。
前述のように、本発明の判定法は、以下の(1)〜(3)に掲げる遺伝子群から選択された1又は複数の遺伝子、もしくはゲノム上これらの遺伝子近傍に存在する1又は複数の多型を検査し、その検査結果から、禁煙支援または禁煙治療に有用な、喫煙に関する被験者の傾向を判定するものである。
(1)ニコチン性アセチルコリン受容体β2サブユニット(CHRNB2)遺伝子
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4(5HTT))遺伝子
(3)ニコチン性アセチルコリン受容体α4サブユニット(CHRNA4)遺伝子
以下、上記(1)〜(3)の各遺伝子に関連する多型を検査することによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定する具体的方法について説明する。
例えば、上記CHRNB2遺伝子の第5イントロンに存在するrs12072348多型(10160A/C多型)を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
即ち、上記多型部位の塩基がCである対立遺伝子(Cアレル)が検出された被験者(遺伝子型 C/CまたはA/C :C allele保有群)は、後述の実施例に示すように、喫煙行動の各種項目に対して、(i)ニコチン依存度の強弱:弱、(ii)禁煙時のニコチン離脱症状の程度:弱、(iii)禁煙維持の難易:困難という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基がAである対立遺伝子(Aアレル)をホモで有する被験者(遺伝子型A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱:強、(ii)禁煙時のニコチン離脱症状の程度:強、(iii)禁煙維持の難易:容易、という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記rs12072348多型の遺伝子型が「A/A」であるか、C allele保有群(「C/C」又は「A/C」)であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
例えば、上記SLC6A4(5HTT)遺伝子のプロモーター領域に存在するLPR多型、および第2イントロンに存在するVNTR多型を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
上記LPR多型には、S(short)、L(long)、XL(extra long)という3種類のアレルが存在し(J Neurochem 1996; 66:2621-4.、Biol Psychiatry 1998; 44:179-92.)、上記VNTR多型には、s(short)、l(long)という2種類のアレルが存在する(Am J Med Genet 2002; 114:323-8.、Lancet 1996; 347:731-3.)。
そして、後述の実施例に示すように、LPR多型の遺伝子型がL allele保有群(「L/S」「L/L」又は「XL/L」)であり、かつ、VNTR多型の遺伝子型が「l/s」である被験者は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、これ以外の被験者は、(i)ニコチン依存度の強弱:弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記LPR多型の遺伝子型がL allele保有群であって、かつ、VNTR多型の遺伝子型が「l/s」であるかどうかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
また、上記SLC6A4(5HTT)遺伝子の第8イントロンに存在するrs717742多型を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
即ち、上記多型部位の塩基がTである対立遺伝子(Tアレル)が検出された被験者(遺伝子型 T/TまたはA/T :T allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基がAである対立遺伝子(Aアレル)をホモで有する被験者(遺伝子型A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱:弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるか、T allele保有群(「T/T」又は「A/T」)であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
また、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である被験者は、2ヶ月間の禁煙維持を達成した者の割合よりも未達成者の割合が顕著に高く(後述の表11)、「禁煙維持の難易」について「困難」という傾向を示した。したがって、この調査結果に基づき、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるかどうかを検査することによって、「禁煙維持の難易」についての被験者の傾向を判定することも可能である。
例えば、上記CHRNA4遺伝子の第5エキソンに存在するrs1044397多型を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
即ち、上記多型部位の塩基がAである対立遺伝子(Aアレル)が検出された被験者(遺伝子型 A/AまたはG/A :A allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基がGである対立遺伝子(Gアレル)をホモで有する被験者(遺伝子型G/G)は、(i)ニコチン依存度の強弱:弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記rs1044397多型の遺伝子型が「G/G」であるか、A allele保有群(「A/A」又は「G/A」)であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
また、上記CHRNA4遺伝子の第2イントロンに存在するrs2273504多型を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
即ち、上記多型部位の塩基がGである対立遺伝子(Gアレル)が検出された被験者(遺伝子型 G/GまたはG/A:G allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基がAである対立遺伝子(Aアレル)をホモで有する被験者(遺伝子型A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記rs2273504多型の遺伝子型が「A/A」であるか、G allele保有群(「G/G」又は「G/A」)であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
本発明のプログラムの一態様は、入力装置、記憶装置、演算処理装置および出力装置を備えたコンピュータに対して、下記(a)〜(b)のステップ(処理)を実行させるものである。
ステップ(a): 上記(イ)〜(ホ)に掲げる多型のうち、少なくとも1つの多型に関する被験者の情報が前記入力装置から入力されると、当該多型と喫煙に関する傾向との関係について前記記憶装置内に存在するデータに基づいて、前記演算処理装置によって喫煙に関する被験者の傾向を判定するステップ、
ステップ(b): 上記ステップ(a)で得られた判定結果を、前記出力装置によって表示するステップ。
本発明のプログラムの好ましい態様として、上記(イ)〜(ホ)の判定方法の少なくとも2つ以上を組み合わせて、喫煙に関する被験者の傾向判定をコンピュータに実行させる。これにより、より精度の高い傾向判定が可能になる。
本発明において、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する遺伝子多型を調べる方法は特に制限されるものではなく、遺伝子上の多型を直接的または間接的に調べることが可能な従来公知の方法を適用することができ、今後開発される方法を使用してもよい。今回の調査に用いた、PCR法により遺伝子多型を検査する方法は簡易な方法であり、精度も良好であるので、以下ではこの方法について簡単に説明する。
1.実験方法
(1)被験者
大阪国税局診療所およびふなもとクリニックに通院中の喫煙者(一部、禁煙外来受診者)および喫煙歴を有する外来受診者の成人男子計120名を対象とした。
(2)喫煙に関する評価
被験者全員に対して、喫煙習慣として「一日の本数」、「起床後、最初の喫煙までの時間」を下記表1の基準に基づいて調査した。そして、これらの調査結果より、「ニコチン依存度」の指標としてHSI(Heaviness of Smoking Index)を算出し、5点以上を強いニコチン依存と判定した。上記HSIは、ニコチン依存度の簡易判定として使用されている指標であり、Addict Behav 2004; 29:1207-12.の記載に基づいて算出した。なお、ニコチン依存度の評価には、通常、Fagerstrom Test for Nicotine Dependence (FTND)の合計点が使用されるが、下記表1に示す2項目は、FTNDの2項目に相当し、FTNDの合計点と強い相関を示すことが報告されている(Drug Alcohol Depend 2003; 71:1-6.)。
下記基準により候補遺伝子多型の選定を行い、18遺伝子37遺伝子多型を候補とした。これらの候補遺伝子多型は表3に掲げる通りである。
(i)中枢のニコチンの作用により、ニコチン依存に影響を与えうる可能性のある分子である。
(ii)アミノ酸変異等、分子の機能に何らかの影響を与える報告もしくは可能性がある。
(iii)日本人における頻度が10%前後以上ある。
(iv)喫煙行動やニコチン離脱症状等、関連解析において関連が報告されている。
被験者から末梢静脈血5mlをEDTA採血管により採血し、QIAamp DNA Blood Maxi kit(商品名、QIAGEN社製)を用いてプロトコールに従ってゲノムDNAを調製した。
被験者のゲノムDNAについて、前記表3に示す候補遺伝子多型の判定を行った。ゲノムDNAを鋳型とするPCR産物に対して、適切な制限酵素ユニット数や条件下において制限酵素処理を行い、得られたフラグメントの長さに応じて所定の濃度のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、遺伝子多型を確認した。この判定に使用したgenotypingの方法、primer配列、制限酵素、PCRの条件等を下記表4ならびに以下に示す。なお、方法ならびに条件は、後述する結果において喫煙行動の個人差との相関が見られた遺伝子多型ならびにCYP2A6遺伝子多型についてのみ記載する。
M. Nakajimaらの方法(FEBS Lett 2004; 569:75-81.)に従い、PCR-RFLP法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 45ng、プライマー各0.4μM、GeneAmpTM1×PCR Buffer(10mM Tris/HCl(pH8.3)、MgCl2 1.5mM)、dNTP各0.24mM、AmpliTaqTM DNA Polymerase(Applied Biosystems社製)1Uを用い、全量25μlで行った。
Yoshida, Rらの方法(Clin Pharmacol Ther 2003; 74:69-76.)に従い、Allele-specific PCR法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 45ng、プライマー各0.4μM、GeneAmpTM 1×PCR Buffer II、MgCl2 2mM、dNTP各0.2mM、AmpliTaq GoldTM DNA Polymerase(Applied Biosystems社製)1.25Uを用い、全量25μlで行った。PCR反応の際、SYBR Green I(商品名、Molecular Probes社製)を用いて、ABI PRISM 7700 seaquence detector(商品名、Applied Biosystems社製)により蛍光でフラグメントの増幅を検出し、この増幅の有無によって判定を行った。
Heils, Aらの方法(J Neurochem 1996; 66:2621-4.)に従い、PCR-RFLP法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 30ng、5%dimethyl sulfoxide、プライマー各0.4μM、Gene AmpTM 1×PCR Buffer、dNTPs;dGTP/7-deaza-2'-dGTP=1:1、プライマー各0.4μM、Ampli TaqTM DNA Polymerase 1Uを用い、全量25μlで行った。
Ogilvie, Aらの方法(Lancet 1996; 347:731-3.)に従い、PCR-RFLP法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 30ng、プライマー各0.4μM、Gene AmpTM 1×PCR Buffer、dNTP各0.2mM、Ampli Taq GoldTM DNA Polymerase 1Uを用い、全量25μlで行った。
PCR-RFLP法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 45ng、プライマー各0.4μM、GeneAmpTM 1×PCR Buffer、dNTP各0.2mM、AmpliTaq GoldTM DNA Polymerase 1Uを用い、全量25μlで行った。
PCR-RFLP法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 60ng、プライマー各0.48μM、GeneAmpTM 1×PCR Buffer、dNTP各0.2mM、AmpliTaq GoldTM DNA Polymerase 1Uを用い、全量25μlで行った。
また、Primer extension法によっても判定を行った。
TaqMan法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 30ng、1×TaqManTM Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、40×assay mix(Applied Biosystems)を用い、全量20μlで行った。
また、Primer extension法によっても判定を行った。
TaqMan法により判定した。PCR反応は、ゲノムDNA 30ng、1×TaqManTM Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、40×assay mix(Applied Biosystems)を用い、全量20μlで行った。
また、Primer extension法によっても判定を行った。
遺伝子多型の判定結果と各種調査項目の結果の統計解析を行った。P<0.05を有意差ありとした。解析の対象者は、薬物動態による個人差の影響を除くため、CYP2A6低活性群を除いたCYP2A6高活性群(*1/*1、*1/*9、*1/*4、*9/*9)の被験者計104名とした。喫煙行動における「1日の喫煙本数」および「喫煙開始年齢」は、Wilcoxon's signed rank sum test により検定した。「起床後最初に喫煙するまでの時間」および「ニコチン依存度:HSI」は、chi-square testにより検定し、有意差のあった遺伝子多型についてOdds Ratio(ORs)および95% confidence interval(95% CI)を算出した。また、「ニコチン依存度:HSI」と「各遺伝子多型」とのchi-square testの結果、有意差がみとめられた多型については、さらに、非線形手法によるlogistic regression analysisにより、年齢を考慮したORsおよび95% CIを算出した。一方、禁煙治療群における「ニコチン離脱症状のスコア」と「2ヶ月間の禁煙の成否」については、chi-square testを行い、有意差のあった項目についてORsおよび95% CIを算出した。なお、統計解析には「SPSS for windows リリース11.01Jスタンダードバージョン(商品名)」を使用した。
(1)被験者データ
本実施例における被験者120名についてのデータを下記表5に示す。下記表5に示すように、ニコチン依存度HSIに影響与える因子を確認したところ、被験者の依存度HSIと年齢との間に相関(spearman'sρ=0.41 P≦0.001)がみられ、年齢の上昇に伴いHSIが上昇した。この依存度HSIと年齢との関係をあわせて図1のグラフに示す。また、被験者の依存度HSIと喫煙開始年齢との間には相関が見られなかったが(spearman'sρ=0.041 P=0.688)、喫煙期間との間に相関がみられ、喫煙期間の延長に伴ってHSIが上昇した(spearman'sρ=0.41 P≦0.001)。
CYP2A6高活性群の被験者104名を対象に、各遺伝子多型を2群に分けて「ニコチン依存度HSIの強弱」について、各群の頻度差をchi-square testにより解析した。
解析の結果、有意差(P<0.05)を示した多型は、CHRNA4(ニコチン性アセチルコリン受容体α4サブユニット遺伝子)のrs1044397およびrs2273504、CHRNB2(ニコチン性アセチルコリン受容体β2サブユニット遺伝子)のA10160C多型、および5HTT(セロトニントランスポーター遺伝子)のLPR多型であった。
次に、chi-square testでP<0.05であったこれらの多型について、logistic regression analysisを行った。なお、被験者の年齢とニコチン依存度HSIとは、前述のように弱い線形性が見られたが、一般的に、喫煙量は40-50代でピークを示すことが報告されているため、年齢の補正は非線形的に行った。モデルの最終的な選択は、一因子の増減による尤度の変化を自由度1のχ2値にて検定し、有意な変化(P<0.05)が認められるか否かで判断した。その結果、「ニコチン依存度HSIの強弱」と有意な関連がみられた多型は、5HTTのLPR/VNTR(L/s)多型とCHRNB2のA10160C多型であった。下記表6には、これらの多型について、logistic regression analysisによるP value、ORsおよび95% CI を示す。また、これらの多型とともに、ニコチン依存との関連性が認められた多型についての情報を、下記表7に示す。
5HTTのLPR/VNTR多型と「ニコチン依存度HSIの強弱」との関連解析結果を以下に示す。
CYP2A6高活性群の被験者104名における5HTTのLPR多型とVNTR多型の分布を下記表8に示す。表8に示すように、網掛け部分の計12名が、LPR多型においてL allele保有群で、且つ、VNTR多型が「l/s」を示す5HTT LPR/VNTR(L/s)多型の被験者であり、それ以外は、LPR多型がL allele非保有群もしくはVNTR多型が「l/l」を示す被験者であった。
表8に基づいて、被験者を5HTT LPR/VNTR(L/s)多型群(12名)と、それ以外の群(others:92名)とに分類し、それぞれの群について、「ニコチン依存度HSIの強弱」との関連性を、chi-square testおよびlogistic regression analysisにより解析した。この結果を図2に示す。同図において縦軸はHSI≧5の人の割合(%)であり、図3においても同様である。また、chi-square testおよびlogistic regression analysisの結果は以下の通りである。
[chi-square test] P=0.043 ORs:3.81 95%CI:1.06-13.64
[logistic regression analysis] P=0.049 ORs:4.449 95%CI:1.007-19.647
同図に示すように、5HTT LPR/VNTR(L/s)多型群は、それ以外の被験者群と比較して、HSI≧5という強いニコチン依存度を示す割合が有意に高かった。このことから、5HTT LPR/VNTR多型はニコチン依存度との相関が非常に高いといえる。
(4−1)ニコチン依存度HSI
CYP2A6高活性群の被験者104名を、CHRNB2のA10160C多型についてA alleleをホモで有する「A/A」群(80名)と、C alleleを保有する群(C allele保有群:合計24名)とに分類し、それぞれの群について、「ニコチン依存度HSIの強弱」との関連性を、chi-square testおよびlogistic regression analysisにより解析した。この結果を図3に示す。また、chi-square testおよびlogistic regression analysisの結果は以下の通りである。
[chi-square test] P=0.043 ORs:2.956 95%CI:1.004-8.70
[logistic regression analysis] P=0.0411 ORs:3.390 95%CI:1.051-10.941
同図に示すように、CHRNB2の「A/A」群は、C allele保有群と比較して、HSI≧5という強いニコチン依存度を示す割合が有意に高かった。このことから、CHRNB2のA10160C多型はニコチン依存度と非常に相関が高いといえる。
「ニコチン離脱症状の程度」との関連を調べるため行った、CHRNB2のA10160C多型とwithdrawal score1(severe weak)とのchi-square testの結果を、図4に示す。同図において縦軸は強い離脱症状を示す症例の割合を示し、CHRNB2のA/A群でC allele保有群に比べて強い離脱症状を示す症例が多い傾向がみられた。さらに同様に行ったCHRNB2のA10160C多型とwithdrawal score2(questionnaire by DSMIV)とのchi-square testの結果を、図5に示す。同図において縦軸はwithdrawal score2≧10の割合を示し、A/A群でC allele保有群に比べて、強い離脱症状を示す症例が有意に多い結果が得られ、withdrawal score1(severe, weak)で得られた結果と一致した。このことから、CHRNB2のA10160C多型はニコチン離脱症状の程度と非常に相関が高いといえる。
「2ヶ月間の禁煙維持率」とCHRNB2のA10160C多型とのchi-square testの結果を、図6に示す。同図において縦軸は2ヶ月間禁煙を維持した人の割合を示し、A/A群でC allele保有群に比べて、禁煙の2ヶ月維持率が有意に高い結果が得られた。このことから、CHRNB2 のA10160C多型は禁煙維持率(禁煙維持の難易)との相関が非常に高いといえる。
以上の(4−1)〜(4−3)の結果を、下記表9にまとめて示す。
調査の結果、下記表10に示すように、上記多型部位の塩基がTである対立遺伝子(Tアレル)が検出された被験者(遺伝子型 A/T :T allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基がAである対立遺伝子(Aアレル)をホモで有する被験者(遺伝子型A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱:弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるか、T allele保有群であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
また、下記表11に示すように、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である被験者は、2ヶ月間の禁煙維持を達成した者の割合よりも未達成者の割合が顕著に高く、「禁煙維持の難易」について「困難」という傾向を示した。したがって、この調査結果に基づき、上記rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるかどうかを検査することによって、「禁煙維持の難易」についての被験者の傾向を判定することも可能である。
Claims (6)
- (1)セロトニントランスポーター(SLC6A4(5HTT))遺伝子のプロモーター領域に存在するLPR多型、及び第2イントロンに存在するVNTR多型
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4(5HTT))遺伝子の第8イントロンに存在するrs717742多型
上記(1)及び(2)の少なくとも一方を直接又は間接的に検査し、
(A)LPR多型の遺伝子型がL allele保有群であり、かつ、VNTR多型の遺伝子型が「l/s」である場合、又は
(B)rs717742多型の遺伝子型がT allele保有群である場合に、ニコチン依存度強と判定し、
上記(A)及び(B)のいずれにも該当しない場合にニコチン依存度弱と判定する、
禁煙支援または禁煙治療に有用な、喫煙に関する被験者の傾向を判定する方法。 - 喫煙に関する被験者の傾向が、ニコチン依存度の強弱、ニコチン離脱症状の程度、および禁煙維持の難易からなる群から選択された少なくとも1つの項目である、請求項1記載の方法。
- コンピュータに対して、下記のステップ(a)及び(b)を実行させ、請求項1又は2に記載の方法に従って喫煙に関する被験者の傾向判定をコンピュータに実行させる禁煙支援プログラム:
(a)請求項1に記載の(1)及び(2)の少なくとも一方の多型に関する情報が入力装置から入力されると、当該多型と喫煙に関する傾向との関係について記憶装置内に存在するデータに基づいて、演算処理装置によって喫煙に関する被験者の傾向を判定するステップ、
(ここで、上記判定は、(A)LPR多型の遺伝子型がL allele保有群であり、かつ、VNTR多型の遺伝子型が「l/s」である場合、又は(B)rs717742多型の遺伝子型がT allele保有群である場合に、ニコチン依存度強と判定し、
上記(A)及び(B)のいずれにも該当しない以外の場合にニコチン依存度弱と判定する)
(b)上記ステップ(a)で得られた判定結果を、出力装置によって表示するステップ。 - 請求項1又は2に記載の方法において、遺伝子多型の検査は、被験者から調製したゲノムDNAを鋳型にして、多型部位を挟む遺伝子領域を増幅する工程と得られた増幅断片をもとに遺伝子型を決定する工程とを含む方法。
- 請求項1又は2に記載の方法において、DNAチップの遺伝子多型検査器具を用いて遺伝子多型を検査する方法。
- 請求項1又は2に記載の方法に使用される遺伝子多型検査用キット。
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