明 細 書
禁煙支援治療に有用な遺伝子多型
技術分野
[0001] 本発明は、被験者の遺伝子多型に基づいて喫煙に関する被験者の傾向(例えば、 ニコチン依存度の強弱、禁煙時のニコチン離脱症状の程度、禁煙維持の難易)を判 定する方法に関するものである。本発明は、特に、禁煙支援治療をはじめとする禁煙 指導において有用な技術を提供するものである。
背景技術
[0002] 日本における喫煙関連死亡数は、 2000年の WHOの試算で 114,200人に達し、今後 もこの上昇傾向が続くと予想されている。このため、疾病予防対策として厚生労働省 や医学関連団体の主導により禁煙が強く推進され、禁煙率の向上は重要な課題とさ れている。しかし、喫煙者の多くはタバコに含有されるニコチンの精神的、身体的依 存性のため、禁煙に成功していない。
[0003] 欧米では、すでに喫煙によるニコチン依存は、疾病として認識されており、米国精 神医学会の DSM- IV (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)「精神 疾患の診断 ·統計マニュアル」では、ニコチン使用障害で、『ニコチン依存』として分 類されている。これらを受け、 2005年に日本循環器学会など 9学会の合同研究班によ り、 日本初の診療指針「禁煙ガイドライン」が作成された。さらに 2006年 4月から、医師 による禁煙指導は、公的医療保険の給付対象となることが決定した。これらの対策は 、薬物依存の観点から、行動科学 ·薬理学の裏付けのある禁煙支援プログラムの開 発と普及を図り、保健医療の現場における保健指導や禁煙指導を充実させ、より一 層の禁煙達成率の上昇を目標にしている。科学的根拠に基づく禁煙支援の構築は 、これらの禁煙対策の推進に重要な一助となる。
[0004] こうした中、本発明者らは、薬物代謝酵素 CYP2A6の遺伝子多型によるニコチン動 態の個人差が喫煙習慣、ニコチン依存度ならびに禁煙時の離脱症状に影響を与え ることを報告した(非特許文献 1)。そして、この結果から、 CYP2A6遺伝子多型情報が 、喫煙者個人が自らの喫煙習慣やニコチン依存度を理解する上での指標となり、禁
煙時の離脱症状の予測にも有用である可能性が示唆された。
非特許文献 l : Pharmacogenomics J. 2006 Mar- Apr;6(2): 115- 9
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明の課題は、効果的で科学的根拠に基づく禁煙支援の実施に向けて、喫煙 習慣および禁煙に関する体質の個人差に影響を与える遺伝的要因を探索すること、 そして、その結果をもとに、遺伝子多型情報から、禁煙支援 ·禁煙治療に有用な、喫 煙に関する被験者の傾向を判定する方法を確立し、提供することにある。
[0006] 上述のように、薬物代謝酵素 CYP2A6の遺伝子多型情報は禁煙支援 ·禁煙治療に 有用であるが、強いニコチン依存性と関連のあった CYP2A6の高活性群の中でも、い まだ、ニコチン依存度に個人差があり、薬物動態の予測だけではニコチン依存度の 推測には十分でない側面がある。そこで、本発明は、ニコチン依存やニコチン離脱 症状に関連する遺伝子多型を薬力学的観点から推察 '探索し、関連の認められた被 験者の遺伝子多型 (polymorphism)に基づ!/、て喫煙に関する被験者の傾向を判定す る方法の提供を目的とするものである。
課題を解決するための手段
[0007] 喫煙後、ニコチンは数秒以内に脳血管障壁に達し、ニコチン性アセチルコリン受容 体 (nAChR)を活性化し、種々の神経伝達物質放出と神経活性化を引き起こす。また 、ニコチン依存形成には、脳内報酬系ドパミン神経 (A10)とそれを調節するダルタミ ン神経、 GABA神経などの種々の神経が重要である。
このような知見をもとに、本発明者らは、ニコチン依存形成に重要なドパミン A10神 経に着目し、その神経機能に影響を与えると考えられる 18遺伝子中 37遺伝子多型を 選定し、これらの遺伝子多型と喫煙行動の個人差との関連を調査した。その結果、後 述の実施例に示すように、ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット(CHRN B2)遺伝子の第 5イントロンに存在する遺伝子多型(10160A/C多型)などが喫煙行動 の個人差と関連し、ニコチン依存度、ニコチン離脱症状、禁煙維持の難易といった、 喫煙行動に関する被験者の傾向判定に利用できること、さらにこの判定結果は、個 々の喫煙者に適した禁煙支援 ·禁煙治療を進めていく上で重要な指標となり得ること
、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記 A)〜J)の発明を包含するもので ある。
A) 以下の(1)〜(3)に掲げる遺伝子群から選択された 1又は複数の遺伝子、もし くはゲノム上これらの遺伝子近傍に存在する 1又は複数の多型を検査し、その検査 結果から、禁煙支援または禁煙治療に有用な、喫煙に関する被験者の傾向を判定 する方法。
(1)ニコチン性アセチルコリン受容体 β 2サブユニット(CHRNB2)遺伝子
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4 (5ΗΤΤ) )遺伝子
(3)ニコチン性アセチルコリン受容体 α 4サブユニット (CHRNA4)遺伝子
このように、本発明は、上記(1)〜(3)の遺伝子またはヒトゲノム上その近傍に存在 する少なくとも 1つの多型を検査するものである力 S、これは換言すれば、上記(1)〜( 3)の遺伝子に関連する少なくとも 1つの多型を検査することを意味し、つまり、上記( 1)〜(3)のゲノム遺伝子のェキソン領域あるいはイントロン領域に存在する多型の検 查に制限されず、そのプロモーター領域など転写調節領域、制御領域あるいは非翻 訳領域などに存在する多型を検査するものであってもよい。本明細書において、「遺 伝子多型」とは、このようなプロモーター領域などに存在する多型を含み、当該遺伝 子に関連する多型という広義の意味である。
B) 喫煙に関する被験者の傾向が、ニコチン依存度の強弱、ニコチン離脱症状の 程度、および禁煙維持の難易からなる群から選択された少なくとも 1つの項目である 、上記 A)記載の方法。
C) 上記 CHRNB2遺伝子の第 5イントロンに存在する rsl2072348多型(10160A/C 多型)を直接、又は間接的に検査するステップを含む、上記 A)又は B)記載の方法。
D) 上記 SLC6A4 (5HTT)遺伝子のプロモーター領域に存在する LPR多型、第 2ィ ントロンに存在する VNTR多型、および第 8イントロンに存在する rs717742多型のうち 少なくとも 1つの多型を直接、又は間接的に検査するステップを含む、上記 A)又は B )記載の方法。
E) 上記 CHRNA4遺伝子の第 5ェキソンに存在する rs 1044397多型、および第 2ィ
ントロンに存在する rs2273504多型のうち少なくとも 1つの多型を直接、又は間接的に 検査するステップを含む、上記 又は B)記載の方法。
F) 上記 A)〜E)の!/、ずれかに記載の方法にしたカ^、、喫煙に関する被験者の傾 向判定をコンピュータに実行させる、禁煙支援プログラム。
G) 上記 〜E)の!/、ずれかに記載の方法にお!/、て、遺伝子多型の検査は、被験 者から調製したゲノム DNAを铸型にして、多型部位を挟む遺伝子領域を増幅する 工程と得られた増幅断片をもとに遺伝子型を決定する工程とを含む方法。
H) 上記 A)〜E)の!/、ずれかに記載の方法にお!/、て、 DNAチップ等の遺伝子多 型検査器具を用いて遺伝子多型を検査する方法。
I) 上記 H)記載の方法に使用される遺伝子多型検査用オリゴヌクレオチド。
J) 上記 A)〜E)のいずれかに記載の方法に使用される遺伝子多型検査用キット。 発明の効果
[0009] 本発明によれば、遺伝子多型に基づ!/、て、ニコチン依存度、ニコチン離脱症状、禁 煙維持の難易といった、喫煙行動に関する被験者の傾向を判定することができるの で、個々の喫煙者に適した禁煙支援 ·禁煙治療を進めていく上で重要な指標を提供 すること力 Sできる。すなわち、個々の喫煙者の喫煙行動に関する傾向を予め把握す ることは、喫煙者自身にとっても禁煙指導を行う側にとっても禁煙を成功させるために 重要である。また、このように個々の喫煙者の傾向を把握することによって、例えば禁 煙パッチの大きさや貼付期間 ·回数を変更するなど、禁煙支援 ·禁煙治療における具 体的な対処、方法の決定に利用することができ、禁煙指導の具体的な計画立案にも 資するものである。
図面の簡単な説明
[0010] [図 1]本発明の実施例において、ニコチン依存度と喫煙者年齢との関係を示すグラフ である。
[図 2]本発明の実施例において、セロトニントランスポーター(5HTT)の LPR/VNTR多 型とニコチン依存度との関連を示すグラフである。
[図 3]本発明の実施例において、ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット (C HRNB2)の A10160C多型とニコチン依存度との関連を示すグラフである。
[図 4]本発明の実施例において、ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット (C HRNB2)の A10160C多型と禁煙時のニコチン離脱症状の程度(withdrawal scorel)と
[図 5]本発明の実施例において、ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット (C HRNB2)の A10160C多型と禁煙時のニコチン離脱症状の程度(withdrawal score2)と
[図 6]本発明の実施例において、ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット (C HRNB2)の A10160C多型と禁煙維持率との関連を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
[0011] 以下、本発明の好ましい態様について説明する。なお、本明細書および図面にお いて、塩基.アミノ酸等を略号で表記する場合、その表記は IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基 づくものである。
また、遺伝子多型、遺伝子配列等に関する番号、数値その他の情報は、米国国立 ノ ィォテクノロジ一十肓報センター(National Center for Biotechnology Information: NC BI)のウェブページなどで利用可能な主要な遺伝子データベースにおいて使用され ている番号、数値等を参酌して解釈されるものとする。
[0012] [1]本発明の判定法
前述のように、本発明の判定法は、以下の(1)〜(3)に掲げる遺伝子群から選択さ れた 1又は複数の遺伝子、もしくはゲノム上これらの遺伝子近傍に存在する 1又は複 数の多型を検査し、その検査結果から、禁煙支援または禁煙治療に有用な、喫煙に 関する被験者の傾向を判定するものである。
(1)ニコチン性アセチルコリン受容体 β 2サブユニット(CHRNB2)遺伝子
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4 (5ΗΤΤ) )遺伝子
(3)ニコチン性アセチルコリン受容体 α 4サブユニット (CHRNA4)遺伝子
以下、上記(1)〜(3)の各遺伝子に関連する多型を検査することによって、喫煙に 関する被験者の傾向を判定する具体的方法について説明する。
[0013] (1)ニコチン性アセチルコリン受容体 /3 2サブユニット(CHRNB2)遺伝子
例えば、上記 CHRNB2遺伝子の第 5イントロンに存在する rsl2072348多型(10160A /C多型)を直接、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被 験者の傾向を判定することができる。
即ち、上記多型部位の塩基が Cである対立遺伝子(Cアレル)が検出された被験者 (遺伝子型 C/Cまたは A/C : C allele保有群)は、後述の実施例に示すように、喫煙 行動の各種項目に対して、(i)ニコチン依存度の強弱:弱、(ii)禁煙時のニコチン離 脱症状の程度:弱、(iii)禁煙維持の難易:困難という傾向を示し、他方、上記多型部 位の塩基が Aである対立遺伝子 (Aアレル)をホモで有する被験者 (遺伝子型 A/A) は、(i)ニコチン依存度の強弱:強、(ii)禁煙時のニコチン離脱症状の程度:強、(iii) 禁煙維持の難易:容易、という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 rsl2072348多型の遺伝子型が「A/A」で あるか、 C allele保有群(「C/C」又は「A/C」)であるかによって、喫煙に関する被験者 の傾向を判定することができる。
(2)セロトニントランスポーター(SLC6A4 (5HTT) )遺伝子
例えば、上記 SLC6A4 (5HTT)遺伝子のプロモーター領域に存在する LPR多型、お よび第 2イントロンに存在する VNTR多型を直接、又は間接的に検査することによって 、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定することができる。
上記 LPR多型には、 S (short)、 L (long)、 XL (extra long)という 3種類のアレルが存 在し(J Neurochem 1996; 66:2621-4·、 Biol Psychiatry 1998; 44: 179-92·)、上記 VNT R多型には、 s (short)、 l (long)という 2種類のアレルが存在する(Am J Med Genet 20 02; 114:323-8·、 Lancet 1996; 347:731-3·)。
そして、後述の実施例に示すように、 LPR多型の遺伝子型が L allele保有群(「L/S」 「L/L」又は「XL/L」)であり、かつ、 VNTR多型の遺伝子型が「l/s」である被験者は、 喫煙行動に関して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、これ以外 の被験者は、 (i)ニコチン依存度の強弱:弱と!/、う傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 LPR多型の遺伝子型が L allele保有群で あって、かつ、 VNTR多型の遺伝子型が「l/s」であるかどうかによって、喫煙に関する 被験者の傾向を判定することができる。
また、上記 SLC6A4 (5HTT)遺伝子の第 8イントロンに存在する rs717742多型を直接 、又は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判 定すること力 Sでさる。
即ち、上記多型部位の塩基が Tである対立遺伝子 (Tアレル)が検出された被験者 (遺伝子型 T/Tまたは A/T: T allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依 存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基が Aである対立遺伝 子 (Aアレル)をホモで有する被験者 (遺伝子型 A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱: 弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である 、、 T allele保有群(「T/T」又は「A/T」)であるかによって、喫煙に関する被験者の傾 向を判定することができる。
また、上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である被験者は、 2ヶ月間の禁煙維 持を達成した者の割合よりも未達成者の割合が顕著に高く(後述の表 11)、「禁煙維 持の難易」について「困難」という傾向を示した。したがって、この調査結果に基づき、 上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるかどうかを検査することによって、「禁 煙維持の難易」についての被験者の傾向を判定することも可能である。
(3)ニコチン性アセチルコリン受容体 α 4サブユニット (CHRNA4)遺伝子
例えば、上記 CHRNA4遺伝子の第 5ェキソンに存在する rs 1044397多型を直接、又 は間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定 すること力 Sでさる。
即ち、上記多型部位の塩基が Aである対立遺伝子 (Aアレル)が検出された被験者 (遺伝子型 A/Aまたは G/A: A allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依 存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基が Gである対立遺伝 子(Gアレル)をホモで有する被験者 (遺伝子型 G/G)は、(i)ニコチン依存度の強弱: 弱という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 rsl044397多型の遺伝子型が「G/G」であ る力、、 A allele保有群(「A/A」又は「G/A」)であるかによって、喫煙に関する被験者の 傾向を判定することができる。
また、上記 CHRNA4遺伝子の第 2イントロンに存在する rs2273504多型を直接、又は 間接的に検査することによって、以下のように喫煙に関する被験者の傾向を判定す ること力 Sでさる。
即ち、上記多型部位の塩基が Gである対立遺伝子(Gアレル)が検出された被験者 (遺伝子型 G/Gまたは G/A: G allele保有群)は、喫煙行動に関して、(i)ニコチン依 存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基が Aである対立遺伝 子 (Aアレル)をホモで有する被験者 (遺伝子型 A/A)は、(i)ニコチン依存度の強弱: 強という傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 rs2273504多型の遺伝子型が「A/A」であ る力、、 G allele保有群(「G/G」又は「G/A」)であるかによって、喫煙に関する被験者の 傾向を判定することができる。
[0016] 本発明は、上述した 1又は複数の遺伝子多型の検査結果に基づいて喫煙に関す る被験者の傾向を判定する方法であるが、検査方法は各々の遺伝子多型を直接検 查する方法に制限されるものではない。たとえば、検査対象の遺伝子多型と連鎖し、 ハプロタイプを形成するような遺伝子上の他の遺伝子多型を検査することによって間 接的に当該遺伝子多型を検査し、喫煙に関する被験者の傾向を判定することができ る。また、今回の調査により上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する遺伝子多型と喫煙行 動の個人差との間に相関が認められたので、上記(1)〜(3)の遺伝子上に存在する 他の遺伝子多型に基づいて喫煙に関する被験者の傾向を判定することも可能である
〇
[0017] また、上記(1)〜(3)の遺伝子上に存在する他の遺伝子多型を検査する場合、当 該遺伝子多型は 1塩基多型(SNP)に制限されるものではなぐたとえば欠損部分の 有無による多型、即ち、 2以上の塩基からなる特定の塩基配列を有する揷入型とこの 塩基配列を欠く欠失型との間の多型、であってもよい。本発明は、 1塩基多型に限ら ず、このような欠損部分の有無による遺伝子多型に基づ!/、て喫煙に関する被験者の 傾向を判定してもょレ、し、転位など他の遺伝子多型に基づレ、て判定してもよ!/、。
[0018] 遺伝子多型の検査、判定は、たとえば患者の血液から調製した DNA試料中のゲノ ム DNAを铸型にして、多型部位を挟む遺伝子領域を PCR法などで増幅し、得られ
た増幅断片をもとにプライマー伸長法などで遺伝子型を決定することにより行うことが できる。 PCR法に使用するプライマー配列は、たとえば後述の表 4 (および配列表)に 示される配列などを参考に設計することができる。また、上記(1)〜(3)の遺伝子のゲ ノム配列および cDNA配列は、 GenBank等の遺伝子配列データベースに登録 '掲載 されているので、これらのデータベースに開示されている塩基配列などを参考に設計 してもよい。
[0019] 本発明において、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する複数の遺伝子多型の検査 結果をもとに喫煙に関する被験者の傾向を判定することは好ましぐまた、上記(1)〜 (3)の遺伝子に関連する多型とその他の遺伝子の多型とを組み合わせて、喫煙に関 する被験者の傾向を判定することも好ましい方法である。
[0020] 以上説明した各判定方法をプログラムを利用して行うことは好ましぐ本発明はこの ような禁煙支援プログラムを包含するものである。即ち、本発明の禁煙支援プログラム は、(ィ)上記 rsl2072348多型の遺伝子型が「A/A」である力、、 C allele保有群(「C/C」 又は「A/C」)であるかによって、被験者の「ニコチン依存度の強弱」、「禁煙時のニコ チン離脱症状の程度」及び/又は「禁煙維持の難易」を判定する方法、(口)上記 LP R多型の遺伝子型が L allele保有群であって、かつ、 VNTR多型の遺伝子型が「l/s」で あるかどうかによって、被験者の「ニコチン依存度の強弱」を判定する方法、(ハ)上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である力、、 T allele保有群(「T/T」又は「A/T」)で あるかによって、被験者の「ニコチン依存度の強弱」を判定する方法、(二)上記 rsl04 4397多型の遺伝子型が「G/G」である力、、 A allele保有群(「A/A」又は「G/A」 )である かによつて、被験者の「ニコチン依存度の強弱」を判定する方法、(ホ)上記 rs227350 4多型の遺伝子型が「A/A」である力、、 G allele保有群(「G/G」又は「G/A」)であるかに よって、被験者の「ニコチン依存度の強弱」を判定する方法、などをコンピュータに実 行させ、これにより遺伝子多型の検査結果から喫煙に関する被験者の傾向判定をコ ンピュータに実行させるものである。本発明のプログラムは、これを記録した、コンビュ ータで読み取り可能な記録媒体として提供することができる。このような記録媒体とし ては、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ等の磁気記憶媒体、 CD- ROM, CD-R, CD-RW, DVD-ROM, DVD -RAM, DVD— RW等の光学
記憶媒体、 RAMや ROM等の電気記憶媒体、および MO等の磁気/光学記憶媒体 を例示することができる力 S、これらに限定されるものではない。
本発明のプログラムの一態様は、入力装置、記憶装置、演算処理装置および出力 装置を備えたコンピュータに対して、下記(a)〜(b)のステップ (処理)を実行させるも のである。
ステップ(a): 上記 (ィ)〜(ホ)に掲げる多型のうち、少なくとも 1つの多型に関する 被験者の情報が前記入力装置から入力されると、当該多型と喫煙に関する傾向との 関係について前記記憶装置内に存在するデータに基づいて、前記演算処理装置に よって喫煙に関する被験者の傾向を判定するステップ、
ステップ (b): 上記ステップ ωで得られた判定結果を、前記出力装置によって表 本発明のプログラムの好まし!/、態様として、上記 (ィ)〜(ホ)の判定方法の少なくと も 2つ以上を組み合わせて、喫煙に関する被験者の傾向判定をコンピュータに実行 させる。これにより、より精度の高い傾向判定が可能になる。
[0021] [2]遺伝子多型の検査方法
本発明において、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する遺伝子多型を調べる方法は 特に制限されるものではなぐ遺伝子上の多型を直接的または間接的に調べることが 可能な従来公知の方法を適用することができ、今後開発される方法を使用してもよい 。今回の調査に用いた、 PCR法により遺伝子多型を検査する方法は簡易な方法で あり、精度も良好であるので、以下ではこの方法について簡単に説明する。
[0022] 検査に供する DNA試料は、被験者の任意の器官 '組織'細胞(血液、羊水中の細 胞、採取した組織等を培養した細胞を含む)から常法に従って DNAを精製 ·抽出す ればよい。なお、 PCR法による遺伝子増幅が可能な限りにおいて、 DNAの精製 '抽 出工程は省略又は簡略化してもよ!/、。
[0023] 次に、多型部位に基づく遺伝子型の同定 (遺伝子タイピング)のため、上記の方法 で調製した DNA試料中のゲノム DNAを铸型にして PCR法を行い、多型部位を挟む 遺伝子領域を増幅する。その後、得られた増幅断片をもとに、 Primer extension法(プ ライマー伸長法)、 PCR-RFLP法、または電気泳動により増幅断片の長さを調べる方
法などによって遺伝子型を決定する。
[0024] 上記 PCR法における各条件、使用する試薬 'プライマーなどは特に制限されるもの ではない。また、遺伝子多型の検査は、 PCR法以外の方法を使用してもよい。遺伝 子上の多型を直接的または間接的に検定可能な方法であれば、一塩基多型(SNP )における塩基を検定する方法(SNPタイピング)、欠損部分の有無による多型を検 定する方法、など従来公知の種々の方法を適用することができる(例えば、文献「ポ ストシークェンスのゲノム科学(1) SNP遺伝子多型の戦略」(中山書店)参照)。
[0025] 一例として、 DNAチップ等の遺伝子多型検査器具を用いた検査方法を挙げること ができる。この方法は、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する遺伝子多型を検定するた めのプローブ、あるいは更に他の遺伝子多型を検定するためのプローブを基板上に 配置した DNAチップほたは同種の器具)を作製し、この DNAチップ等を用いて被 験者からの遺伝子試料とプローブとのハイブリダィゼーシヨンシグナルの有無により、 遺伝子のタイピングを行う方法である。プローブには、多型部位の塩基を含む近傍の 塩基配列またはその相補配列等からなるオリゴヌクレオチドを用いることができる。尚 、ここで、「DNAチップ」とは、主として、合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用い る合成型 DNAチップを意味するが、 PCR産物などの cDNAをプローブに用いる貼り 付け型 DNAマイクロアレイを使用してもよ!/、。このような上記(1)〜(3)の遺伝子に関 連する遺伝子多型検定用のプローブを含む DNAチップは、禁煙支援チップとして 禾 IJ用することカでさる。
[0026] その他にも、遺伝子多型の検査方法として、 PCR-SSCP法、 Allele specific PCR法な どの点変異検出法を用いてもよいし、 PCR法以外の他の増幅方法(例えば、 RCA法 など)を用いてもよい。また、 DNA増幅後に塩基配列決定装置 (シークェンサ一)な どで直接増幅断片の塩基配列を決定し、遺伝子のタイピングを行ってもよ!/、。
[0027] 勿論、遺伝子多型の検査は、タンパク質をコードするコード配列以外に、イントロン 配列や制御配列などに存在する多型に基づいて行ってもよい。また、多型(変異)が コード配列上の変異であれば、 RNA、または mRNA力も調製した cDNAをもとに、 当該多型 (変異)を検出することも可能である。さらに、アミノ酸置換を伴う多型 (変異) であれば、タンパク質のアミノ酸配列などから当該多型(変異)を検出してもよい。
[0028] 本発明の遺伝子多型検査用キットは、上記(1)〜(3)の遺伝子に関連する遺伝子 多型を直接的または間接的に検査するため、これらの遺伝子またはその近傍配列に 基づいて設計されたプライマーあるいはプローブなどを含むものであればよぐさらに 、 (ィ)試料の調製に用いる酵素や試薬、(口)逆転写反応に用いる酵素や試薬、(ハ) PCR法に用いる酵素や試薬、(二)塩基配列の決定に用いる酵素や試薬、などのうち 1又は 2以上を含むものであってもよい。
実施例
[0029] 以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例によって何ら 制限されるものではない。
1.実験方法
(1)被験者
大阪国税局診療所およびふなもとクリニックに通院中の喫煙者 (一部、禁煙外来受 診者)および喫煙歴を有する外来受診者の成人男子計 120名を対象とした。
(2) P契煙に関する評価
被験者全員に対して、喫煙習慣として「一日の本数」、「起床後、最初の喫煙までの 時間」を下記表 1の基準に基づいて調査した。そして、これらの調査結果より、「ニコ チン依存度」の指標として HSI (Heaviness of Smoking Index)を算出し、 5点以上を強 いニコチン依存と判定した。上記 HSIは、ニコチン依存度の簡易判定として使用され ている指標であり、 Addict Behav 2004; 29: 1207-12.の記載に基づいて算出した。な お、ニコチン依存度の評価には、通常、 Fagerstrom Test for Nicotine Dependence ( FTND)の合計点が使用される力 下記表 1に示す 2項目は、 FTNDの 2項目に相当し 、 FTNDの合計点と強い相関を示すことが報告されている(Drug Alcohol Depend 200 3; 71 : 1-6. ) 0
[表 1]
HSI (Heaviness of Smoking Index) (Heatherton, 1989)
さらに、禁煙外来受診者に対しては、禁煙開始後の「ニコチン離脱症状」を withdra wal score 1 ^severe, weak)で、評価した。ま 7こ、 withdrawal score 2 (questionnaire by D SMIV)として、米国精神医学会の「精神疾患の診断 ·統計マニュアル」(DSMIV : Diag nostic and Statistical Manual of Mental Disorders)のニコチン使用障害の項の「ニコ チン離脱症状」に準じて、 4段階にスコア化し、離脱症状の程度を調査した(下記表 2 )。禁煙の成否については、 2ヶ月間の禁煙持続を禁煙達成と評価した。
[表 2] withdrawal score 2 (questionnaire by DSMIV)
©総合評価: ( 0 1 2 3 4 )
徴候 程度
ニコチン (喫煙) への渴望 0 1 2 3 4
落ち着きのなさ 0 1 2 3 4
易怒性、 欲求不満、 怒り 0 1 2 3 4
集中困難 0 1 2 3 4
不眠 0 1 2 3 4
不快または抑うつ気分 0 1 2 3 4
不安 0 1 2 3 4
食欲増加または体重增加 0 1 2 3 4
冷や汗 0 1 2 3 4
心拍数の減少 0 1 2 3 4
0 :ない 1:どちらともいえない 2 :ある 3 :強いと感じる 4:非常に強い (3)候補遺伝子多型の選定
下記基準により候補遺伝子多型の選定を行い、 18遺伝子 37遺伝子多型を候補と した。これらの候補遺伝子多型は表 3に掲げる通りである。
(i)中枢のニコチンの作用により、ニコチン依存に影響を与えうる可能性のある分子で ある。
(ii)アミノ酸変異等、分子の機能に何らかの影響を与える報告もしくは可能性がある。
(iii)日本人における頻度が 10%前後以上ある。
(iv)喫煙行動やニコチン離脱症状等、関連解析にぉレ、て関連が報告されて!/、る。
[表 3]
[0032] (4)ゲノム DNAの調製
被験者から末梢静脈血 5mlを EDTA採血管により採血し、 QIAamp DNA Blood Max i kit (商品名、 QIAGEN社製)を用いてプロトコールに従ってゲノム DNAを調製した。
[0033] (5)遺伝子多型の判定
被験者のゲノム DNAにつ!/、て、前記表 3に示す候補遺伝子多型の判定を行った。 ゲノム DNAを铸型とする PCR産物に対して、適切な制限酵素ユニット数や条件下に
おいて制限酵素処理を行い、得られたフラグメントの長さに応じて所定の濃度のァガ ロースゲルを用いて電気泳動を行い、遺伝子多型を確認した。この判定に使用した g enotypingの方法、 primer配列、制限酵素、 PCRの条件等を下記表 4ならびに以下に 示す。なお、方法ならびに条件は、後述する結果において喫煙行動の個人差との相 関が見られた遺伝子多型ならびに CYP2A6遺伝子多型についてのみ記載する。
[0034] (i) CYP2A6*4の判定
M. Nakajimaらの方法(FEBS Lett 2004; 569: 75—81 ·) ίこ従レヽ、 PCR—RFLP法 ίこより 判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 45ng、プライマー各 0.4 M、 GeneAmp™l X PCR Buffer ( lOmM Tris/HCl (pH8.3)、 MgCl 1.5mM)、 dNTP各 0.24mM、 AmpliTaq™ D NA Polymerase (Applied Biosystems社製) 1Uを用い、全量 25 μ 1で行った。
[0035] (ii) CYP2A6*9の判定
Yoshida, Rらの方法(Clin Pharmacol Ther 2003; 74:69-76.)に従い、 Allele- specific PCR法により判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 45ng、プライマー各 0.4 M、 GeneA mp™ I X PCR Buffer II、 MgCl 2mM、 dNTP各 0.2mM、 AmpliTaq Gold™ DNA Polym erase (Applied Biosystems社製) 1.25Uを用い、全量 25〃 1で行った。 PCR反応の際、 S YBR Green I (商品名、 Molecular Probes社製)を用いて、 ABI PRISM 7700 seaquence detector (商品名、 Applied Biosystems社製)により蛍光でフラグメントの増幅を検出 し、この増幅の有無によって判定を行った。
[0036] (iii) 5HTT LPRの判定
Heils, Aらの方法(J Neurochem 1996; 66:2621— 4·)に従い、 PCR— RFLP法により判 定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 30ng、 5% dimethyl sulfoxide,プライマー各 0.4 M 、 Gene Amp™ I X PCR Buffer, dNTPs ; dGTP/7- deaza- 2'- dGTP=l : l、プライマー各 0·4 μ Μ、 Ampli Taq™ DNA Polymerase 1Uを用い、全量 25 1で行った。
[0037] (iv) 5HTT VNTRの判定
Ogilvie, Aらの方法(Lancet 1996; 347: 731-3.)に従い、 PCR-RFLP法により判定し た。 PCR反応は、ゲノム DNA 30ng、プライマー各 0.4 ^ M、 Gene Amp™ I X PCR Buffe r、 dNTP各 0.2mM、 Ampli Taq Gold™ DNA Polymerase 1Uを用い、全量 25 μ 1で行つ た。
[0038] (v) 5HTT rs717742の判定
PCR- RFLP法により判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 45ng、プライマー各 0·4 M 、 GeneAmp™ I X PCR Buffer, dNTP各 0.2mM、 AmpliTaq Gold™ DNA Polymerase 1 Uを用い、全量 25 μ 1で行った。
[0039] (vi) CHRNB2 A10160Cの判定
PCR- RFLP法により判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 60ng、プライマー各 0.48〃 M、 GeneAmp 'Μ I X PCR Buffer, dNTP各 0.2mM、 AmpliTaq Gold'M DNA Polymerase 1Uを用い、全量 25 μ 1で行った。
また、 Primer extension法によっても半 IJ定を丁つた。
[0040] (vii) CHRNA4 rs 1044397の判定
TaqMan法により判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 30ng、 1 X TaqMan™ Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)、 40 X assay mix (Applied Biosystems)を用レヽ 、全量 20 μ 1で行った。
また、 Primer extension法によっても半 IJ定を丁つた。
[0041] (viii) CHRNA4 rs2273504の判定
TaqMan法により判定した。 PCR反応は、ゲノム DNA 30ng、 1 X TaqMan™ Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)、 40 X assay mix (Applied Biosystems)を用レヽ 、全量 20 μ 1で行った。
また、 Primer extension法によっても半 IJ定を丁つた。
[表 4]
PCR condition
restriction
gene polymorphism genotyping primer Sequence (SEQ. No.) Denature/ Anealing/ enzyme
Extension/cycle
EcoSlI F 5'-TTTGTGTCAGGAGAATCAAAC-3' (1) 94°C30sec 1 53°C30sec
CYP2A6*4 deletion PCR-RFLP
Stul R 5'-TGTAAAATGGGCATGAACGCCC-3' (2) / 72°C2min / 30cycle
F 5'-GATTCCTCTCCCCTGGAAC-3' (3)
Allele-specific 94 ;30sec / 66°C30sec
CYP2A6*9 R-wild 5'-GGCTGGGGTGGTTTGCCTTTA-3' (4)
PCR 1 72cC25sec 1 35cycle
R-mutant 5 -GGCTGGGGTGGTTTGCCTTTC-3' (5)
TaqMan Assay ID: C— 25765467— 10 *
rs 1044397
Primer lst-PCR Primer 5 -TCTGCAATGTACTGGACGCC-3' (6)
Ala553Ala
extension 2nd- PCR Primer 5'-ACGGTCAAGACCCGCAGCAC-3' (7)
CHRNA4
TaqMan Assay ID: C— 16178933—10*
rs2273504 Primer lst-PCR Primer 5'-AGCAAGGCAGGTGGGCAGAA-3' (8)
extension 2nd-PCR Primer 5 -AGGAAACTGGAGAGGAGTCG-3' (9)
F 5'- GGTATATAACAGGCACAGTTGCTA -3' (10) 94°C30sec / 58°C30sec
PCR-RFLP Ddel
rs 12072348 R 5'- GGAGACAGCCACTGAGCATC -3' (1 1) / 72°C30sec 1 38cycle
CHRNB2
A10160G Primer lst-PCR Primer 5'-TTTGCATCCCCAGTGTGTAG-3' (12)
extension 2nd-PCR Primer 5 -AGTCAGCAGCTGAAGAACTC-3' (13)
LPR F 5 -GGCGTTGCCGCTCTGAATTGC-3' (14) 95°C30sec / 61°C30sec
PCR
(20-23bp) R 5 -GAGGGACTGAGCTGGACAACCCAC-3' (15) / 72°C lmin / 35cycle
SLC6A4 VNTR F 5 -TGTTCCTAGTCTTACGCCAGTG-3' (16) 94°C30sec 1 60°C3ひ sec
PCR
(5HTT) (I2bp) R 5 '-GTC AGTATC AC AGGCTGCGAG-3 ' (Π) / 72°C30sec / 35cycle
F 5 -AGTACAGACAGGGTTTCGC-3' (18) 94°C30sec / 56°C30sec rs717742 PCR-RFLP Ddel
R 5'-CCATGCCCTTCGGTTTTCTC-3' (19) 1 72¾ 30sec / 35cycle
* Applied Biosystems社の TaqMan™ SNP genotyping Assaysのプロトコールに従い判定を行った,
[0042] (6)統計解析
遺伝子多型の判定結果と各種調査項目の結果の統計解析を行った。 Pく 0.05を有 意差ありとした。解析の対象者は、薬物動態による個人差の影響を除くため、 CYP2A 6低活性群を除いた CYP2A6高活性群(*1/*1、 *1/*9、 *1/*4、 *9/*9)の被験者計 10 4名とした。喫煙行動における「1日の喫煙本数」および「喫煙開始年齢」は、 Wilcoxon 's signed rank sum testにより検定した。「起床後最初に喫煙するまでの時間」および 「ニコチン依存度: HSI」は、 cW-square testにより検定し、有意差のあった遺伝子多型 について Odds Ratio (ORs)および 95% confidence interval (95% CI)を算出した。ま た、「ニコチン依存度: HSI」と「各遺伝子多型」との cW-square testの結果、有意差が みとめられた多型については、さらに、非線形手法による logistic regression analysis により、年齢を考慮した ORsおよび 95% CIを算出した。一方、禁煙治療群における「 ニコチン離脱症状のスコア」と「2ヶ月間の禁煙の成否」については、 chi-square testを 行い、有意差のあった項目について ORsおよび 95% CIを算出した。なお、統計解析 には「SPSS for windowsリリース 11.01Jスタンダードバージョン(商品名)」を使用した。
[0043] 2.結果
(1)被験者データ
本実施例における被験者 120名についてのデータを下記表 5に示す。下記表 5に 示すように、ニコチン依存度 HSIに影響与える因子を確認したところ、被験者の依存 度 HSIと年齢との間に相関(spearman's p =0.41 Ρ≤0·001)がみられ、年齢の上昇に 伴い HSIが上昇した。この依存度 HSIと年齢との関係をあわせて図 1のグラフに示す。 また、被験者の依存度 HSIと喫煙開始年齢との間には相関が見られな力、つたが(spea rman's p =0.041 Ρ=0·688)、喫煙期間との間に相関がみられ、喫煙期間の延長に伴 つて HSIが上昇した(spearman's =0.41 Ρ≤0·001)。
[表 5]
Male n=120
CYP2A6 High activity n=104
CYP2A6 Low activity n=16
Mean (SD) Age (years) 46.48±8.92
Mean (SD) Age of smoking onset (years) 18.79±1.94
Mean (SD) cigarettes/day 31.35±14.14
Mean (SD) dependency score (HSI) 3.88±1.40 participants in smoking cessation n=79
Nonsmoking at 2 months n=52 smoking once again n=27
Mean (SD) withdrawal scorel (severe, weak) 2.36±0.65
Mean (SD) withdrawal score2 (questionnaire by DSMIV) 9.39±5.57
(2)ニコチン依存度 HSIに影響を与えた遺伝子多型
CYP2A6高活性群の被験者 104名を対象に、各遺伝子多型を 2群に分けて「ニコチ ン依存度 HSIの強弱」について、各群の頻度差を chi-square testにより解析した。 解析の結果、有意差(P< 0.05)を示した多型は、 CHRNA4 (ニコチン性ァセチルコリ ン受容体 α 4サブユニット遺伝子)の rsl044397および rs2273504、 CHRNB2 (ニコチン 性アセチルコリン受容体 β 2サブユニット遺伝子)の A10160C多型、および 5ΗΤΤ (セ ロトニントランスポーター遺伝子)の LPR多型であった。
次に、 chi— square testで P< 0.05でめったこれりの多型にっレヽて、 logistic regression analysisを行った。なお、被験者の年齢とニコチン依存度 HSIとは、前述のように弱い 線形性が見られたが、一般的に、喫煙量は 40-50代でピークを示すことが報告されて いるため、年齢の補正は非線形的に行った。モデルの最終的な選択は、一因子の増 減による尤度の変化を自由度 1の X 2値にて検定し、有意な変化(Ρ< 0·05)が認めら れるか否かで判断した。その結果、「ニコチン依存度 HSIの強弱」と有意な関連がみら れた多型は、 5ΗΤΤの LPR/VNTR (L/s)多型と CHRNB2の A10160C多型であった。下 記表 6には、これらの多型について、 logistic regression analysisによる P value, ORs および 95% CIを示す。また、これらの多型とともに、ニコチン依存との関連性が認め られた多型についての情報を、下記表 7に示す。
[表 6]
gene polymorphism aa vs aA+AA dependency score (HSI) n=104 logistic regression analysis a A P value ORs 95% CI
CHRNB2 A10160C A C 0.041 3.39 1.051 10.941
SLC6A4
LPR/VNTR L/s others 0.049 4.448 1.007 19.647 (5HTT)
[表 7]
(3) 5HTTの LPR/VNTR多型
5HTTの LPR/VNTR多型と「ニコチン依存度 HSIの強弱」との関連解析結果を以下 に不寸
CYP2A6高活性群の被験者 104名における 5HTTの LPR多型と VNTR多型の分布を 下記表 8に示す。表 8に示すように、網掛け部分の計 12名力 LPR多型において L all ele保有群で、且つ、 VNTR多型が「l/s」を示す 5HTT LPR/VNTR(L/s)多型の被験者 であり、それ以外は、 LPR多型が L allele非保有群もしくは VNTR多型が「1/1」を示す被 験者であった。
[表 8]
表 8に基づいて、被験者を 5HTT LPR/VNTR(L/s)多型群(12名)と、それ以外の群 (others : 92名)とに分類し、それぞれの群について、「ニコチン依存度 HSIの強弱」と の関運十生を、 chi— square testおよび logistic regression analysis ίこより角早ネ丌し 7こ。この結 果を図 2に示す。同図において縦軸は HSI≥5の人の割合(%)であり、図 3において も同不 で、ある。まに、 cm— square testおよび logistic regression analysisの結果は以 の通りである。
[chi-square test] P=0.043 ORs : 3.81 95%CI: 1.06- 13.64
[logistic regression analysis] P=0.049 ORs : 4.449 95%CI: 1.007-19.647
同図に示すように、 5HTT LPR/VNTR(L/s)多型群は、それ以外の被験者群と比較 して、 HSI≥ 5という強いニコチン依存度を示す割合が有意に高かった。このこと力 、 5HTT LPR/VNTR多型はニコチン依存度との相関が非常に高いといえる。
(4) CHRNB2の A10160C多型
(4 1 )ニコチン依存度 HSI
CYP2A6高活性群の被験者 104名を、 CHRNB2の A10160C多型について A alleleを ホモで有する「A/A」群(80名 )と、 C alleleを保有する群(C allele保有群:合計 24名 )と に分類し、それぞれの群について、「ニコチン依存度 HSIの強弱」との関連性を、 chi-s quare testねよび logistic regression analysisにより角早析した。この結果を図 3に示す。 よた、 chi— square testおよび logistic regression analysisの結果は以下の if!りでめる。
[chi-square test] P=0.043 ORs : 2.956 95%CI: 1.004- 8.70
[logistic regression analysis] P=0.0411 ORs : 3.390 95%CI : 1.051-10.941
同図に示すように、 CHRNB2の「A/A」群は、 C allele保有群と比較して、 HSI≥5とい
う強いニコチン依存度を示す割合が有意に高かった。このこと力、ら、 CHRNB2の A101 60C多型はニコチン依存度と非常に相関が高!/、と!/、える。
[0047] (4 2)ニコチン離脱症状の程度
「ニコチン離脱症状の程度」との関連を調べるため行った、 CHRNB2の A10160C多 型と withdrawal score 1 (.severe weak)との chi—square testの結果を、図 4に示す。同図 において縦軸は強い離脱症状を示す症例の割合を示し、 CHRNB2の A/A群で C alle le保有群に比べて強い離脱症状を示す症例が多い傾向がみられた。さらに同様に行 つた CHRNB2の A10160C多型と withdrawal score2 (questionnaire by DSMIV)との chi- square testの結果を、図 5に示す。同図において縦軸は withdrawal score2≥ 10の害 ij 合を示し、 A/A群で C allele保有群に比べて、強い離脱症状を示す症例が有意に多 い結果が得られ、 withdrawal score 1 (severe, weak)で得られた結果と一致した。この こと力、ら、 CHRNB2の A10160C多型はニコチン離脱症状の程度と非常に相関が高い といえる。
[0048] (4 3)禁煙維持率 (禁煙維持の難易)
「2ヶ月間の禁煙維持率」と CHRNB2の A10160C多型との chi-square testの結果を、 図 6に示す。同図において縦軸は 2ヶ月間禁煙を維持した人の割合を示し、 A/A群で C allele保有群に比べて、禁煙の 2ヶ月維持率が有意に高い結果が得られた。このこ と力 、 CHRNB2の A10160C多型は禁煙維持率(禁煙維持の難易)との相関が非常 に高いといえる。
以上の(4一 D〜(4一 3)の結果を、下記表 9にまとめて示す。
[表 9]
(5) 5HTTの rs717742多型
調査の結果、下記表 10に示すように、上記多型部位の塩基力 である対立遺伝子 (Tアレル)が検出された被験者 (遺伝子型 A/T: T allele保有群)は、喫煙行動に関
して、(i)ニコチン依存度の強弱:強という傾向を示し、他方、上記多型部位の塩基が Aである対立遺伝子 (Aアレル)をホモで有する被験者 (遺伝子型 A/A)は、(i)ニコチ ン依存度の強弱:弱とレ、う傾向を示した。
したがって、この調査結果に基づき、上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である 、、 T allele保有群であるかによって、喫煙に関する被験者の傾向を判定することが できる。
[表 10]
また、下記表 11に示すように、上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」である被験 者は、 2ヶ月間の禁煙維持を達成した者の割合よりも未達成者の割合が顕著に高ぐ 「禁煙維持の難易」について「困難」という傾向を示した。したがって、この調査結果に 基づき、上記 rs717742多型の遺伝子型が「A/A」であるかどうかを検査することによつ て、「禁煙維持の難易」についての被験者の傾向を判定することも可能である。
[表 11]
本発明は、以上のように、遺伝子多型に基づいて、ニコチン依存度、ニコチン離脱 症状、禁煙維持の難易といった、喫煙に関する被験者の傾向を判定する方法に関 するものであり、前述したとおり、個々の喫煙者に適した禁煙支援'禁煙治療を進め ていく上で重要な指標を提供することができるほか、その判定結果を、禁煙支援'禁
煙治療における具体的な対処、方法の策定などに利用することができる。