JP5214265B2 - ベルト式cvt用プーリー - Google Patents
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特許文献1、2の発明は、特許文献1では浸炭処理又は浸炭窒化処理、特許文献2では高濃度浸炭+高周波焼入れ焼きもどしにより表面硬さを所定の硬さとなるようにし、耐摩耗性を向上させることができる。しかし、前述したように、CVT用プーリーの摺動面には、高面圧が繰り返し作用するため、単なるアブレッシブ摩耗だけでなく、表面の疲労による亀裂を起因とした摩耗が発生するおそれがある。更に、CVT用プーリーの摺動面は、摺動発熱により表面の硬さが低下(焼き戻し軟化)し、前記疲労亀裂による摩耗が助長されるおそれがある。つまり、表面硬さを単に硬質にしたプーリーでは、十分に摺動面の摩耗を低減することができない場合がある。
特許文献3に記載の高強度鋼部品は、最表面から40μm深さまでの残留オーステナイト量が15体積%以下であり、且つ最表面から100〜400μm深さでの残留オーステナイト量が20〜40体積%である。また、浸炭用鋼によって作製した部品に、表面炭素濃度:0.7重量%以上、表面窒素濃度:0.2重量%以上、且つ(表面炭素濃度+表面窒素濃度):1.3重量%以下となるように、浸炭浸窒処理をT時間施した後、900℃以上で表面炭素濃度:0.4〜0.9重量%となるような浸炭処理を0.2〜0.6T時間実施することによって、最表面から40μm深さまでの残留オーステナイト量を40体積%以下とし、更に、アークハイト0.6mmA以上のショットピーニング処理を実施することが記載されている。
一般的に、表面硬度を上げることは勿論、ショットピーニングで付与される残留応力が亀裂の進展性に対し影響がつよいと解釈されている。また、前記した特許文献1にも、表面硬度を高めるために、残留オーステナイトを30%以下とする旨の記載がされている。
上記摺動面は、表面粗さRa(μm)が0.8μm以下であり、
表面硬度H(Hv)が、(表面硬度H)≧500(表面粗さRa)+650を満たす範囲であり、
上記摺動面から深さ20〜30μmの平均残留オーステナイト量は15〜40体積%であり、
上記摺動面の最表面の残留オーステナイト量が10体積%以下という条件を満足することを特徴とするベルト式CVT用プーリーにある(請求項1)。
上記CVT用プーリーは、例えば、後述する製造方法により製造することができるものであるが、該製造方法では、浸炭処理又は浸炭浸窒処理を行う硬化処理工程において、プーリーの表面硬度を高める。
そのため、上記CVT用プーリーで使用する素材としては、浸炭処理又は浸炭浸窒処理により硬度を高めることができる鋼材を選択する必要があり、従来から広く用いられているJIS G 4053で規定されているクロム鋼又はクロムモリブデン鋼を用いるのがよい。このような材料は、浸炭性に優れており、上記浸炭処理又は浸炭浸窒処理により容易に表面硬度を高めたプーリーを製造することができる。
このように、初期の表面粗さに対応した必要な表面硬度を付与しておくことにより、初期亀裂の発生を防止することができる。
摺動面の表面硬度はより高い方が望ましい。しかし、上記の式より明らかなように、本発明では、表面粗さRaが小さければ必要な表面硬度Hを小さく抑えることができることを明らかにし、一見無関係と思われていた表面粗さRaと表面硬度Hとの間に強い相関があることを見出したものである。そのため、この知見に基づけば、極端な硬さの向上によるコスト増を抑えることができるのである。従って、本発明では、ショットピーニングにより、表層面の残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させ、硬度を高める処理を行うことを基本とするが、表面粗さRaが小さい場合には、ショットピーニングによる硬さ向上処理を省略できる場合もある。この場合には、最表面も残留オーステナイト量が多くなるため、亀裂進展の抑制という点でより有利となる。
本発明では、最表面は、耐摩耗性向上のため高硬度とする必要があるため、ショットピーニングにより、残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させ硬度を高めている。その結果、最表面(概ね表面から20μm未満)では、ショットピーニングにより、残留オーステナイトが減少する。しかしながら、さらに深い位置までショットピーニングの効果を付与し、残留オーステナイトを減少させてしまうと、亀裂進展抑制効果が減少し、亀裂を伴う摩耗を抑制できなくなる。従って、ショットピーニングの効果は、最表面のみに付与することとし、少し内部に入った位置、具体的には、深さが20〜30μmの位置においては、15〜40%の残留オーステナイトを確保することとしたものである。
その結果、摺動面にベルトからの繰り返し応力が負荷されると、摺動面から深さ20〜30μmの位置において上記残留オーステナイトの加工誘起変態が起こり、新たなマルテンサイト(フレッシュマルテンサイト)が生成され、加工硬化を助長する。また、残留オーステナイトからマルテンサイトが継続的に発生するので、ベルトとの摺動発熱を起因とした焼き戻しによる軟化を抑制することができる。そのため、仮に亀裂が発生した場合であっても、高い亀裂進展抑制効果を発揮することができる。
なお、表面のわずかな厚み(概ね20μm未満)のみショットピーニングによる効果を付与させ、若干内部に入った部分(深さ20〜30μm)においては、ショットの効果を小さく抑え、一定量(15〜40%)の残留オーステナイトを確保する必要があることから、使用するショット粒は、微小粒(100μm以下)のショット粒とする必要がある。
すなわち、表面粗さRaが0.3μm以下と小さい場合には、摺動による摩耗を抑制することができるため、強いショットピーニングを行って、表面の残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させることにより、大幅な硬度向上を図らなくても前記した条件式を満足する硬度を確保可能である。この場合には、最表面の残留オーステナイト量は10%以上となる場合がある。しかしながら、表面粗さRaが0.3μm超えとなる場合は、ショットピーニングによる硬度向上処理が不可欠となる。この場合には、最表面の残留オーステナイト量は10%以下となる。この結果必要とする表面硬度が適切に確保され、優れた耐摩耗性を得ることができる。
上記摺動面の表面粗さRaは、作製時に表面粗さを大きくしようとしない限りは0.8μmを超えることはほとんどない。また、本発明においては表面粗さRaを0.8μmよりも大きくする必要がないため、上限を0.8μmとした。
上記表面硬度H(Hv)が、(表面硬度H)<500(表面粗さRa)+650である場合には、初期亀裂や、アブレッシブ摩耗が発生するおそれがある。
なお、上述の条件式は、表面粗さと耐摩耗性を確保するために必要となる表面硬度との関係を、実験を重ねることによって導き出したものである。
上記摺動面から20〜30μmの平均残留γ量が15%未満の場合には、加工誘起変態による亀裂進展抑制の効果を十分に期待することができない。一方、上記摺動面から20〜30μmの平均残留オーステナイト量が40%を超えるように組織を造り込むのは難しく、そのような割合の鋼組織を得るには製造コストが増加する。また、残留オーステナイトは軟質の組織であるため、上記摺動面から20〜30μmの平均残留オーステナイト量が40%を超える場合には、硬さが低下し、かえって耐摩耗性が悪化する。
上記CVT用プーリーは、摺動面の表面硬度H(Hv)が(表面硬度H)≧500(表面粗さRa)+650を満たす範囲となるように形成することにより初期亀裂の発生を抑制することができる。そのため、表面粗さRaがある程度粗くても上記条件式を満たしていれば効果を得ることができ、従来のように摺動面の表面粗さを抑えて耐摩耗性を向上させる必要がないため、上記研磨工程は簡略又は省略することができる。そのため、コストの低減を図ることができる。
なお、上記研磨工程終了時点で、上記摺動面の表面粗さRa(μm)が0.8μm以下となっていることが好ましい。特に、表面粗さRaを0.3μm以下とした場合には、表面硬度HがHv800程度でも優れた耐摩耗性が確保できるため、後述のショットピーニング処理工程による表面硬度向上処理に大きく頼らなくても、前記式を満足できる硬さを確保することが可能となる。
素材として、浸炭性に優れたJIS G 4053に規定されているクロム鋼(SCr)又はクロムモリブデン鋼(SCM)から選択した鋼を用いるため、上記硬化処理工程において、摺動面の表面硬度を容易に高めることができる。
この場合には、Si、Mn、Moのうち少なくとも1種の元素を、上述の条件を満足するように増量し、摺動面の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
本例は、本発明のベルト式CVT用プーリーにかかる実施例として、表1に示す成分からなる供試材を準備し、プーリーの摺動面の表面粗さ、表面硬度が、表2及び表3に示す表面粗さRa、表面硬度Hであるベルト式CVT用プーリーを作製し、耐摩耗性の評価を行った。
このうち、試料E1〜試料E12は、本発明の実施例であり、試料C1〜試料C9は、本発明の条件を満足しない比較例である。
上記ベルト式CVT1は、2つのプーリー2の摺動面21を間隔可変(溝幅可変)の状態で対面させることによって入力プーリー201及び出力プーリー202を構成する。
次に、プーリー3に対して浸炭処理を行った。浸炭処理は、プーリー3を加熱炉内に投入し、950℃で7時間保持した後、850℃で1時間保持し、その後、130℃で油焼入れした後、160℃で1時間焼き戻しを行うことにより行った。
また、CVT用プーリー2の上記摺動面21から深さ25μmの位置における圧縮残留応力(残留σ)をX線残留応力測定装置によって測定した。結果を表2、表3に示す。
<摩耗試験>
作製したCVT用プーリー2を搭載した無段変速機1を、入力トルクを任意に変更できる設備に取付け、摩耗試験に供試した。プーリー2の使用環境条件として一般に最も摩耗が激しいとされる変速比が最大となるアンダードライブ側に、ベルトの巻き付け位置を固定した条件(γmax)にて、入力プーリー(プライマリープーリー)に入力するトルク、シーブとベルト狭圧を過負荷のかかる状態にして、摩耗試験を実施した。
これにより、本発明によれば、金属ベルト3が摺動する摺動面21におけるすべりを伴う高面圧の繰り返し負荷及び摺動発熱による表面硬度低下、疲労亀裂を伴う摩耗を抑制することができる、耐摩耗性に優れたベルト式CVT用プーリー2を提供することができることがわかる。
なお、試料E2〜試料E6は、最表面のわずかな厚み(20μm以下)について、ショットピーニングの強い効果が得られる条件でショットピーニング処理を行ったもので、それにより条件式を満足する表面硬度を確保することができ、表2には示していないが、最表面については、1000MPa以上の高い圧縮残留応力が確認された一方で、25μmの深さでは、表2に示す通り300MPa以下の低い残留応力値となっていることが分かった。
この実施例では、25μmの位置での残留応力を示したが、それより深い位置では、さらにショットピーニングの影響は小さくなるため、同様に300MPa以下になるものである。
参考までに、試料E1〜試料E5、及び試料C4〜試料C8について、表面粗さRaと表面硬度Hの関係を図2に示す。
図2は、横軸に表面粗さRa(μm)、縦軸に表面硬度H(Hv)をとった。図2における点E1〜点E5は、試料E1〜試料E5に相当するものであり、点C4〜点C8は試料C4〜試料C8に相当するものである。また、図2における直線Aは、条件式(表面硬度H)=500(表面粗さRa)+650を示す。
本例は、上述の実施例1の浸炭処理を、浸炭浸窒処理に変更した例である。その他は、実施例1と同様にして行った。
上記浸炭浸窒処理は、950℃で6時間保持した後、850℃で4時間保持し、その後、60℃で油焼入れした後、160℃で1時間焼き戻しを行なった。
また、比較例としての試料C10〜試料C12は、試料C1〜試料C3の場合と同様にショットピーニング処理による効果を深い位置にまで与えすぎたため、深さ25μmの位置における圧縮残留応力も高くなりすぎているとともに、ショットピーニング後の深さ20〜30μmにおける残留γが大きく減少し、亀裂進展抑制効果が低下したことにより、摩耗量が増加し、耐摩耗性が不合格となったものである。これに対し、本発明の実施例であるE13〜E15は、C10〜C12に比較して大幅に優れた耐摩耗性を示すことが確認できた。
2 ベルト式CVT用プーリー
21 摺動面
3 ベルト
Claims (3)
- ベルト式無段変速機(以下、ベルト式CVTという)におけるベルトと摺動する摺動面を有し、素材の鋼としてJIS G 4053(以下、JIS規格という)に規定されているクロム鋼(SCr)又はクロムモリブデン鋼(SCM)を用いて製造されたベルト式CVT用プーリーであって、
上記摺動面は、表面粗さRa(μm)が0.8μm以下であり、
表面硬度H(Hv)が、(表面硬度H)≧500(表面粗さRa)+650を満たす範囲であり、
上記摺動面から深さ20〜30μmの平均残留オーステナイト量は15〜40体積%であり、
上記摺動面の最表面の残留オーステナイト量が10体積%以下という条件を満足することを特徴とするベルト式CVT用プーリー。 - 請求項1において、上記鋼は、含有しているSi、Mn、Moのうち1種又は2種以上を、質量%で、Si:0.35%超え〜1.0%、Mn:上記JIS規格の上限超え〜1.5%、Mo:上記JIS規格の上限超え〜0.80%の範囲に増量してなることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
- 請求項1又は2において、上記鋼は、質量%で、更に、Nb:0.005〜0.2%、Ti:0.005〜0.2%、Ni:0.05〜3.0%、あるいはB:0.0005〜0.005%のうち1種又は2種以上を添加してなることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
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