JP5209814B1 - 電池ケース用アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents

電池ケース用アルミニウム合金板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】レーザ溶接性、成形性及び耐フクレ性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板、ならびに、その製造方法を提供する。
【解決手段】Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、Fe固溶量が10〜70ppmであり、当該アルミニウム合金板に金属間化合物が分散しており、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1〜15μmを有する金属間化合物間の平均壁間距離が20μm以下であり、かつ、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が100μm以下であることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板、ならびに、その製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車、携帯電話、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ等に用いられるリチウムイオン電池などの電池用ケースとして好適なレーザ溶接性、成形性及び耐フクレ性に優れたアルミニウム合金板及びこの優れたアルミニウム合金を歩留まりよく製造することができる方法に関する。
リチウムイオン二次電池の多くが、缶体と蓋からなるケース材の両方にアルミニウム材を用いている。一般に、缶体はプレスにより、アルミニウム板又はアルミニウム合金板を深絞り成形及びしごき成形して製造される。蓋はアルミニウム板又はアルミニウム合金板を打ち抜き加工又は機械加工により缶体と接合する所定形状に成形され、端子の取り付けのための孔や窪み、液注入口などが設けられたものである。缶体は深い筒状の形態を有するが、蓋は平板に近い形態を有する。缶体と蓋は、電極などの内部構造体を封入した後に周囲をレーザ溶接により封止される。
このように、電池用ケース材には、優れた成形性と共に良好なレーザ溶接性が求められる。特に自動車用などの電池において、レーザ接合部に長期の耐久性が必要となる場合が増えている。近年、効率的な電池生産のため、レーザ溶接速度が高速化されて、レーザ溶接の難度が増してきている。高速レーザ溶接においても、溶け込み深さや溶接痕(ビード)幅のバラツキが少なく、安定した継手が得られる電池ケース用のアルミニウム合金板が求められている。
Al−Mn系のA3003アルミニウム合金板では、凝固収縮の応力が液相残存部に加わることで生じる溶接割れ(凝固割れ、熱間割れ)が発生し易く、またそれに伴う溶接部の強度の低下が問題となる。レーザ溶接性に優れたアルミニウム合金板として、JIS8079やJIS8021に代表されるAl−Fe系アルミニウム合金板が提案されている(特許文献1〜3)。
レーザ溶接性を得るために、特許文献1、2ではFe等の含有量を、特許文献3ではFe等の含有量と2〜5μmの金属間化合物の分散個数が規定されている。Feの含有量がレーザ溶接性に及ぼす影響は大きく、特に金属間化合物が存在することでレーザ吸収率が増加するため、深い溶け込みが得られ易いことが知られている。
しかしながら、これらの技術では、レーザ溶接における安定性の阻害要因が正確に把握されておらず、その解決方法が提示されていない。これら従来技術においては、溶接の高速化などで不安定となった溶接条件下では安定したレーザ溶接性を得ることはできない。具体的には、局所的に金属間化合物が分散している場合、或いは、粗大金属間化合物が存在している場合は、溶け込み深さやビードが不均一となり、また溶接中に飛散するスラグや金属粒(スパッタ)によるビード欠陥といった溶接欠陥の原因となる。これらの不均一性や溶接欠陥により溶接部の耐久性が低下するため、電池の短寿命化を引き起こす。特許文献1〜3の技術では、金属間化合物の分散状態が厳密に制御されておらず、溶接部の不均一性及び溶接欠陥が発生するおそれがある。
一方、充放電を繰り返すリチウムイオン電池には、電池反応時において内部圧力が上昇しクリープ変形により電池ケースが膨張することによる、耐フクレ性に問題があった。JIS8079及びJIS8021のアルミニウム合金板は、JIS3003アルミニウム合金板に比べて成形後の強度が劣るため、耐フクレ性に劣る難点がある。また電池ケースは、絞り加工としごき加工からなる複数工程を組み合わせて成形されるものであり、成形前後の素板強度差が大きい場合には、成形時に加工を受けない底部と加工を受ける側壁との間に大きな強度差が発生して割れが生じる。従って、成形後の強度を高くしつつ、かつ、加工前後の強度差(加工硬化性)が小さいアルミニウム合金板が望まれている。このように、電池ケース用アルミニウム合金板として適切な加工硬化性が求められている。特許文献1では、母相(マトリックス)中に固溶しているFeやSiを積極的に析出させることで、加工し難いアルミニウム合金板を用いているが、成形後の強度や耐フクレ性が十分でない。
また、例えばJIS8079やJIS8021合金からなる鋳塊に熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍を施した圧延材を、電池ケース形状に合わせて円形又は楕円形に打ち抜いたものが、電池ケースとして成形されるためのアルミニウム合金板として用いられる。このようなアルミニウム合金板を絞り加工及びしごき加工を組み合わせて成形した際に、耳率が高いアルミニウム合金板では、ケース縁の切捨て量が多くなり歩留が悪化する。板形状の適正化によって、歩留悪化防止の一定の効果は得られるが十分ではない。そこで、板形状の適正化によらないで歩留を向上させることが可能な低耳率の電池ケース用アルミニウム合金板が望まれている。
特開2011−140708号公報 特開2007−262559号公報 特開2009―52126号公報
本発明は上記事情を背景としてなされたもので、金属間化合物の分布状態を確実かつ十分に制御することにより優れたレーザ溶接性が安定して得られ、Fe固溶量を適正化することにより優れた成形性を有する電池ケース用アルミニウム合金板の提供を目的とする。
本発明者等は、前述のような課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム合金板のFe、Si、Tiの含有量を厳密に調整し、併せて製造プロセス、特に面削量、均質化処理条件、熱間圧延条件、焼鈍前工程の冷間圧延条件を厳密に規制することによって、前述の課題を解決できることを見出して本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は請求項1において、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、Fe固溶量が10〜70ppmであり、当該アルミニウム合金板に金属間化合物が分散しており、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1〜15μmを有する金属間化合物間の平均壁間距離が20μm以下であり、かつ、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が25〜100μmであることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板とした。
本発明は請求項2では請求項1において、アルミニウム合金板の耳率の絶対値を10%以下とした。
本発明は請求項3において、請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程と;鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法とした。
本発明は請求項4において、請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;面削後の鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程と;均質化処理後の鋳塊を室温下で保持する室温保持工程と、熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法とした。
本発明は請求項5において、請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;均質化処理を施すことなく、鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;熱間粗圧延前の加熱保持工程が、面削後の鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で保持するものであり、これに続く熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法とした。
本発明は請求項6では請求項3〜5のいずれか一項において、前記熱間粗圧延工程が、開始温度380〜550℃、かつ、終了温度330〜480℃で鋳塊を熱間圧延するものとした。
本発明は請求項7では請求項3〜6のいずれか一項において、前記冷間圧延工程における圧下率を50〜85%とした。更に本発明は請求項8では請求項3〜7のいずれか一項において、前記焼鈍工程の後に更なる冷間圧延工程を備えるものとした。
本発明によれば、優れたレーザ溶接性、成形性及び耐フクレ性を備えた電池ケース用アルミニウム合金板及びこの優れたアルミニウム合金を歩留まりよく製造することができる方法を提供することができる。
金属間化合物間の壁間距離を示す概念図である。 金属間化合物の存在しない領域に描ける円を示す概念図である。 耳率測定のための山高さと谷深さを示す概念図である。 DC鋳造法の概念図と冷却速度の変化を示すグラフである。 鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離tminと鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離tmaxを示す概念図である。 多段プレス成形を施した角型ケースの断面図である。 フクレ試験機の正面図である。
以下に、本発明について詳細に説明する。
1.アルミニウム合金板の成分組成
先ず、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の成分組成と限定理由について説明する。本発明に係るアルミニウム合金板は、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる。
1−1.Fe:0.8〜2.0mass%
Feはレーザ溶接性、強度、金属組織に大きな影響を及ぼす重要な成分元素である。母相中で大部分がAl−Fe系金属間化合物として存在している。Al−Fe系金属間化合物が存在することで、レーザ吸収率が増加し、レーザ溶接時の溶け込みを深くする効果が発揮される。また、Al−Fe系金属間化合物の分散状態によって熱間圧延時やその後の焼鈍時における再結晶挙動が変化するため、Fe量は粗大結晶粒が原因で生起する成形後の肌荒れの発生や耳率に大きな影響を及ぼす。
Fe含有量が0.8mass%(以下、単に「%」と記す)未満では、最終板での強度不足、耐フクレ性の低下、結晶粒粗大化による耳率の増大、ならびに、成形後の肌荒れの原因となる。更に、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離が長くなり、また金属間化合物が存在しない領域が大きくなるため、安定したレーザ溶接性が得られない。
一方、2.0%を超えて含有されると、円相当直径15μmを超える粗大金属間化合物が生成され、また円相当直径1〜15μmの金属間化合物が局所的に増加する。これにより、局所的にレーザ吸収率が増加し、溶け込み深さやビード幅が不均一となってレーザ溶接の安定性が悪化する。更に、スパッタによる溶接欠陥等の原因となるだけでなく、成形加工時に亀裂発生の起点となるため、成形性を著しく悪化させる。
以上により、Fe含有量を0.8〜2.0%とする。なお、好ましいFe含有量は1.0〜1.6%である。
1−2.Si:0.03〜0.20%
Siは、レーザ溶接性及び加工硬化性に大きな影響を及ぼす元素である。Si含有量が0.03%未満では、高純度のアルミニウム地金を使用する必要があり原料コストが増加する。一方、0.20%を超えると、液相線と固相線の温度差が大きくなる。この温度差が大きくなることで、レーザ溶接直後の凝固時において残存する液相量が増え、その液相残存部に凝固収縮の応力が加わって溶接割れが発生し易くなる。また、Siを添加することで母相中に固溶しているFeが析出して加工硬化し難くなるため、成形後の強度低下と耐フクレ性低下の原因となる。以上により、Si含有量を0.03〜0.20%とする。なお、好ましいSi含有量は0.04〜0.15%である。
1−3.Ti:0.004〜0.050%
Tiは、アルミニウム合金の凝固組織に大きな影響を及ぼす元素である。Ti含有量が0.004%未満では、鋳塊の結晶粒が微細化されず粗大結晶粒組織となり、アルミニウム合金板にスジ状不具合が発生する原因となるだけでなく、耳率の増大や肌荒れの原因となる。また、レーザ溶接部の凝固組織の微細化効果が小さくなるため、溶接割れの原因となる。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、レーザ溶接部の凝固組織の微細化効果が飽和する。更に、粗大なAl−Ti系金属間化合物が形成され、この金属間化合物が圧延板にスジ状に分布して表面欠陥の原因となる。以上により、Ti含有量は0.004〜0.050%とする。なお、好ましいTi含有量は、0.007〜0.030%である。
1−4.その他の成分
結晶粒組織を微細化するために、Tiと組合せてB及びCの少なくとも一方を微量添加してもよい。B及びCの両方を添加する場合には両方の合計量を、これに代わっていずれか一方を添加する場合にはその添加量を、0.0001〜0.0020%とするのが好ましい。なお、より好ましい添加量は、0.0005〜0.0015%である。前記添加量が0.0001%未満では、結晶粒微細化の効果が小さい。一方、前記添加量が0.0020%を超えると結晶粒微細化効果が飽和するだけでなく、Ti−B系化合物やTi−C系化合物の粗大凝集物による表面欠陥が生じ易くなる。
1−5.不可避的不純物
不可避的不純物として、Cu:0.02%以下、Mn:0.02%以下、Mg:0.02%以下、Cr:0.02%以下、Zn:0.02%以下、Zr:0.02%以下、ならびに、その他成分として合計が0.05%以下について、これらの1種又は2種以上を含有させてもよい。このような成分含有量であれば、電池ケース用アルミニウム合金板としての特性を損なうことがない。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板においては、アルミニウム合金の成分組成を前述のように規定するだけでなく、最終的に調製された状態において、Fe固溶量及び金属間化合物のサイズと分散状態を規定する必要がある。以下に、詳細に説明する。
2.Fe固溶量
アルミニウム合金板中のFe固溶量は、成形後の強度や加工硬化性に大きな影響を及ぼす。本発明に係るアルミニウム合金板中のFe固溶量は、10〜70ppmである。Fe固溶量が10ppm未満では加工硬化し難いため、成形後の強度が不足し、耐フクレ性に劣る。Fe固溶量が70ppmを超えると、成形前後の強度差が大きくなり、成形時に割れが発生する。以上により、Fe固溶量を10〜70ppmとする。なお、好ましいFe固溶量は15〜70ppmである。
3.金属間化合物のサイズと分散状態
金属間化合物のサイズ及び分散状態は、レーザ溶接性に大きな影響を及ぼす。アルミニウム合金板には、金属間化合物が分散している。そこで、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径が1〜15μmの金属間化合物間の平均壁間距離を20μm以下とし、かつ、この円相当直径が1〜15μmの金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径を100μm以下とする。これによって、溶け込み深さやビード幅が均一な安定した溶接部が得られると共に、溶接欠陥の無い健全な溶接部が得られる。このような効果は、金属間化合物によってレーザ吸収率を増加できることで、また金属間化合物を均一分散することで得られるものである。
円相当直径が1μm未満の微細な金属間化合物は、レーザ溶接性に及ぼす影響は小さい。また、円相当直径が15μmを超える粗大金属間化合物が存在する場合には、レーザ吸収率の増加が局所的に生起する。そうすると、その局所部分において溶け込みが特に深くなるだけでなく、不均一なビードやスパッタが発生することによる溶接欠陥等の原因となる。そのため、円相当直径が1〜15μmの範囲内の金属間化合物を対象として、当該金属間化合物の分散状態を調べることによってレーザ溶接性の優劣が判断可能となる。
円相当直径が1〜15μmの金属間化合物間の平均壁間距離が20μmを超えると、金属間化合物の分布が疎になって、ビート幅や溶け込み深さが安定したレーザ溶接性を得ることができない。そのため、円相当直径が1〜15μmの金属間化合物間の平均壁間距離を20μm以下とする。なお、好ましい平均壁間距離は10μm以下である。この平均壁間距離の下限値は、特に規定するものではない。しかしながら、この下限値は、アルミニウム合金板の成分組成と製造工程によって自ずから決まるものであり、後述の本発明に係る製造工程では2μm程度である。
図1は、金属間化合物間の壁間距離の概念図である。平均壁間距離とは、アルミニウム合金板表面における250000μmの面積内に存在する円相当直径1〜15μmの金属間化合物を観察し、各金属間化合物において近接する金属間化合物との間における壁間距離の測定値を算術平均したものである。壁間距離の定義は以下の式で表される。
(壁間距離)=(近接する粒子の重心間距離)−(2個の粒子の円相当半径の和)
アルミニウム合金板表面を観察して壁間距離を測定するには、例えば走査型電子顕微鏡が用いられる。なお、測定においては、円相当直径が1μm以上の金属間化合物を視認できる倍率で観察する必要がある。
円相当直径が1〜15μmの金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が100μmを超える場合は、レーザ吸収率が低い領域が存在することになる。このような低レーザ吸収率の領域をレーザ溶接すると、溶け込みが浅くなり溶接部の安定性が低下する。また、例えば充放電を繰り返すリチウムイオン電池のケースに用いられると、電池反応時に内部圧力が上昇してクリープ変形により電池ケースが膨張するため、溶け込みが浅い部分から破壊が進行する。以上により、円相当直径が1〜15μmの金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径を、100μm以下とする。なお、当該最大直径は、好ましくは50μm以下である。しかしながら、この下限値は、アルミニウム合金板の成分組成と製造工程によって自ずから決まるものであり、後述の本発明に係る製造工程では19μm程度である。
図2は、円相当直径が1〜15μmの金属間化合物が存在しない領域に描ける円の概念図である。図に示すように、粒状の円相当直径1〜15μmの金属間化合物が分布する場合には、図中において点線で示す円Cが、これら金属間化合物が存在しない領域Aに描ける円のうちで最大直径(D)を有するものとなる。
このような円の測定は、アルミニウム合金板表面における250000μmの面積内で、円相当直径1〜15μmの金属間化合物が存在しない各領域において、描ける円の最大直径を測定することによって行なう。アルミニウム合金板表面を観察してこのような円直径を測定するには、例えば走査型電子顕微鏡が用いられる。なお、測定においては、円相当直径が1μm以上の金属間化合物を視認できる倍率で観察する必要がある。
以上のように、円相当直径が1〜15μmの金属間化合物間の平均壁間距離が20μm以下であり、かつ、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が100μm以下である金属間化合物分布を有するアルミニウム合金板は、金属間化合物が均一分散しているので、良好なレーザ溶接性を示す。
4.耳率
耳率の絶対値は、アルミニウム合金板を成形した際のフチ切捨て量や歩留に大きな影響を及ぼす。耳率の絶対値が10%を上回る場合には、成形後のフチ切捨て量が多くなり歩留が悪化する場合がある。そのため、耳率の絶対値は10%以下とするのが好ましい。なお、耳率は極力小さいことが望ましく、より好ましい耳率の絶対値は8%以下であり、更に好ましい耳率の絶対値は5%以下である。なお、万能絞り試験機で62mmφの基盤を用いて深絞り試験を行い、下記の耳高、平均山高さ及び平均谷深さの測定値によって耳率m(%)が算出される。図3(a)に4つの山が存在する場合、図3(b)に8つの山が存在する場合の概念図を示す。いずれの場合も、下記式から耳率m(%)が算出される。
耳高e=Hh−HL(mm)
平均山高さHh=(Hh1+Hh2+Hh3+Hh4)/4
平均谷深さHL=(HL1+HL2+HL3+HL4)/4
耳率m=(e/HL)×100(%)
なお、図3(b)に示すように、全部で8つの山が存在し2つの山の間にこれらより低い山が存在する場合には、これら2つの山の間に存在する2つの谷のうち低い方をHLとする。また、HhとHLの大小関係によってeが負の数値になる場合があるので、絶対値をもって耳率とする。
5.アルミニウム合金板の製造方法
次に、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法について詳細に説明する。本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法は第1の実施態様において、請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程と;鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備える。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法は第2の実施態様では、第1の実施態様において面削工程前に設けていた均質化処理工程を面削工程後に設けるものとした。更に、第3の実施態様では、第1及び第2の実施態様のように均質化処理工程を特段に設けることなく、熱間粗圧延前における鋳塊の加熱保持工程条件を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間に設定することにより、この加熱保持工程をもって均質化処理効果を得るようにした。
ここで、熱間粗圧延工程が、開始温度380〜550℃、かつ、終了温度330〜480℃で鋳塊を熱間圧延してもよい。更に、前記冷間圧延工程における圧下率を50〜85%とするのが好ましい。また、前記焼鈍工程の後に更なる冷間圧延工程(最終冷間圧延工程)を備えていてもよい。
5−1.鋳造工程
まず、上記成分組成範囲内に調整されたアルミニウム合金溶湯に脱ガス処理、ろ過処理等の溶湯処理を適宜施し、その後、DC鋳造法等の常法に従い鋳造する。
5−2.均質化処理工程
面削工程の前後の少なくともいずれかにおいて、鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程が設けられる。本発明では、面削工程の前に均質化処理工程を設ける場合を第1実施態様に規定し、面削工程の後に均質化処理工程を設ける場合を第2実施態様に規定する。均質化処理は、最終板での金属組織や金属間化合物のサイズと分散状態に大きな影響を及ぼす。均質化処理の温度が450℃未満又は均質化処理の保持時間が1時間未満では、均質化効果が小さく、熱間粗圧延工程及び熱間仕上圧延工程、ならびに、中間焼鈍工程及び最終焼鈍工程において再結晶粒が粗大化する。このような粗大再結晶粒が原因となって、耳率が増大し、また成形後の肌荒れが発生する。均質化処理の温度が620℃を超えると、微小な金属間化合物が固溶し、粗大な金属間化合物が更に粗大化するため、金属間化合物の存在しない領域が広くなる。これにより、安定したレーザ溶接性を得ることができない。また、均質化処理の保持時間が20時間を超えても均質化効果が向上せず、製造コストの観点から不経済となる。以上により、均質化処理条件は、温度450〜620℃で保持時間1〜20時間とする。なお、好ましい均質化処理条件は、温度480〜600℃で保持時間3〜15時間である。均質化処理を行った鋳塊は十分に均質化されているため、続く熱間粗圧延前の加熱保持工程での保持時間、保持温度は特に限定されるものではなく、通常の条件を採用してもよい。
5−3.面削工程
鋳造工程後の鋳塊は、一旦室温下で保持された後に面削され(第2、3実施態様)、均質化処理工程後の鋳塊も一旦室温下で保持された後に面削される(第1実施態様)。面削量は、アルミニウム合金板表面における金属間化合物のサイズと分散状態に大きな影響を及ぼす。図4に、DC鋳造法の概念図と冷却速度の変化を示すグラフを示す。DC鋳型内に注入された溶湯は、水冷された鋳型壁に接触し急激に冷却される。凝固生成した鋳塊表層は収縮し、鋳塊表面と鋳型との間に空隙が生じる。この空隙の伝熱抵抗は、鋳型やスプレー水に比べて非常に大きいので鋳塊から外部へ拡散する熱量は減少し、それに伴い冷却速度も減少する。鋳塊が降下してスプレー水に鋳塊表面が接すると、冷却速度が急激に増加する。水冷された鋳型壁に接触し急激に冷却される領域ではチル層と呼ばれる微細なミクロ凝固組織が、鋳塊表面と鋳型との間に空隙が生じることで冷却速度が減少する領域では、粗大セル層と呼ばれる粗大なミクロ凝固組織が、そして鋳塊が降下してスプレー水に鋳塊表面が接すると、冷却速度が急激に増加する領域では、微細セル層と呼ばれる微細なミクロ凝固組織が生成される。粗大セル層では、15μmを超える粗大な金属間化合物が晶出し易く、それにより円相当直径1〜15μmの金属間化合物の存在しない領域が形成され易い。アルミニウム合金板表面に粗大セル層が露出して残留していると、安定したレーザ溶接性を得ることができない。そこで、アルミニウム合金板表面に粗大セル層が露出、残留しないように、面削量を調整する必要がある。なお、鋳造速度や冷却条件、溶湯温度等の鋳造条件によって粗大セル層の存在位置、厚さが変化するため、単純に面削量を決定することはできない。
具体的には、鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)とし、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)とし、鋳塊表面からこの粗大セル層へ向かう方向における鋳塊表面からの面削長さを面削量T(mm)として、3≦T<tmin (1)、又は、tmax<T (2)となるように面削量Tを調整する必要がある。ここで、tmin及びtmaxの基準となる鋳塊表面とは、鋳塊が一番厚い部位での鋳塊表面とする。
図5に、tmin、tmaxの概念図を示す。上記式(1)を満たす場合とは、面削量Tをtmin未満とするものである。これは、粗大セル層を鋳塊内部に残しつつ、鋳塊表面に粗大セル層を露出、残留させることなく面削するものである。ここで、鋳塊表面は平坦ではないため、面削量Tが3mm未満の場合、鋳塊表面の一部が面削されずに残留するおそれがあり、このような面削されないで残留する鋳塊表面が原因で、アルミニウム合金板において表面欠陥が発生する。そこで、式(1)ではTの下限値を3(mm)とする必要がある。なお、面削量Tがtmin≦T≦tmaxの場合、すなわち、鋳塊表面に粗大セル層が露出、残留するように面削する場合には、粗大セル層がアルミニウム合金表面に露出、残留して安定したレーザ溶接性を得ることができない。上記式(2)を満たす場合とは、面削量Tがtmaxを超えるものである。これは、粗大セル層を鋳塊内部に残さずに、かつ、鋳塊表面にも粗大セル層を露出、残留させることなく面削するものである。なお、式(2)において面削量Tの上限は特に規定するものではないが、面削量Tが40mmを超える場合は、歩留が悪化するため製造コストの観点から好ましくない。以上により、面削量Tは3≦T<tmin又はtmax<Tの範囲とし、好ましい面削量Tは、5≦T<(tmin−2)又は(tmax+2)<Tの範囲である。
表面処理を施した鋳塊のスライス板を観察することで、tmin、tmaxを測定することができる。具体的には、鋳造方向に対して直角断面のスライス板を採取した後、断面を研削し、そのスライス板を50〜60℃の5%NaOH水溶液に2〜10分程度浸漬処理する。浸漬処理の温度と時間は、処理後のスライス板表面に現れる金属組織の状態によって適宜調整してもよい。浸漬処理後に、室温の30%HNO水溶液に更に浸漬処理することで、最初の浸漬処理でスライス板表面に付着したスマットを除去する。スマット除去後にスライス板表面に現れる金属組織から、粗大セル層の存在位置を特定することができる。そこで、鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離と鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離を測定することで、tminとtmaxが求められる。
5−4.熱間圧延工程
5−4−1.加熱保持工程
面削された鋳塊は熱間圧延工程にかけられるが、熱間圧延工程は、圧延前に面削鋳塊を所定温度で所定時間加熱する加熱保持工程を含む。このように加熱された鋳塊が、次に熱間圧延される。熱間圧延は、加熱保持工程の後の熱間粗圧延工程とこれに続く熱間仕上圧延工程とを含む。ここで、面削工程前後に前述の均質化処理を行わないで、熱間圧延工程における加熱保持工程を適切な条件(保持温度と保持時間)に設定することにより、この加熱保持工程をもって、熱間粗圧延前の加熱効果と共に均質化処理効果も付与するようにしてもよい(第3実施態様)。このような加熱保持工程とすることにより、均質化処理とほぼ同様の効果が得られるだけでなく、面削工程前後に均質化処理工程を設けた場合に比べて、製造工程数や製造コストの削減の点で有利となる。一方で、均質化処理を行わず、かつ、均質化処理効果が得られない条件で加熱保持工程を行った場合には、熱間粗圧延工程及び熱間仕上圧延工程、ならびに、中間焼鈍工程及び最終焼鈍工程において再結晶粒が粗大化する。更にこのような粗大再結晶粒が原因となって、耳率が増大し、また成形後の肌荒れが発生する。
均質化処理工程を設けずに加熱保持工程によって均質化処理効果を得るためには、保持温度450〜620℃で保持時間1〜20時間とする。保持温度が450℃未満又は保持時間が1時間未満では、均質化効果が小さく、熱間粗圧延工程及び熱間仕上圧延工程、ならびに、中間焼鈍工程及び最終焼鈍工程において再結晶粒が粗大化する。このような粗大再結晶粒が原因となって、耳率が増大し、また成形後の肌荒れが発生する。保持温度が620℃を超えると、微小な金属間化合物が固溶し、粗大な金属間化合物が更に粗大化するため、金属間化合物の存在しない領域が広くなる。これにより、安定したレーザ溶接性を得ることができない。また、保持時間が20時間を超えても均質化効果が向上せず、製造コストの観点から不経済となる。また続く熱間粗圧延工程及び熱間仕上圧延工程の製造効率が低下するため、なお、好ましい均質化処理条件は、温度480〜600℃で保持時間3〜15時間である。
5−4−2.熱間粗圧延工程
熱間粗圧延工程の開始温度は、熱間粗圧延終了後の再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。熱間粗圧延開始温度が380℃未満では熱間粗圧延終了後の均一な再結晶組織が得られず、耳率の増大や成形後の肌荒れの原因となる場合がある。一方、熱間粗圧延開始温度が550℃を超えると、熱間粗圧延終了後の再結晶粒が粗大化して、成形性の悪化に結びつく耳率の増大の原因となる場合がある。また、圧延時にロール表面に生成される酸化物(ロールコーティング)がアルミニウム合金板表面に転写されるため、スジ状不具合の原因となる場合もある。以上により、熱間粗圧延開始温度は380〜550℃とするのが好ましい。なお、より好ましい熱間粗圧延開始温度は、400〜520℃である。
熱間粗圧延工程の終了温度は、熱間粗圧延終了後の再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。熱間粗圧延終了温度が330℃未満では熱間粗圧延終了後の均一な再結晶組織が得られず、耳率の増大や成形後の肌荒れの原因となる場合がある。一方、熱間粗圧延終了温度が480℃を超えると、熱間粗圧延終了後の再結晶粒が粗大化して、成形性の悪化に結びつく耳率の増大の原因となる場合がある。以上により、熱間粗圧延終了温度は330〜480℃とするのが好ましい。なお、より好ましい熱間粗圧延終了温度は、360〜450℃である。
5−4−3.熱間仕上圧延工程
熱間仕上圧延方式には、複数の圧延機を組み合わせたタンデム方式と単独の圧延機で熱間圧延を施すリバース方式が挙げられる。熱間仕上圧延とは、タンデム方式の場合、複数の圧延機を組み合わせた圧延のことを言い、またリバース方式の場合、コイルに巻き取られる直前の圧延から最終圧延までのことを言う。熱間仕上圧延が開始される板厚としては、15〜40mm程度である。また本発明では熱間仕上圧延の開始温度は特に規定していないが、熱間粗圧延が終了後、すぐに熱間仕上圧延が施されるため、熱間粗圧延終了温度と熱間仕上圧延開始温度の温度差は20℃以内である。温度差が20℃以内であれば、成形性が損なわれることは無い。
熱間仕上圧延工程の終了温度は、加工硬化性及び熱間仕上圧延終了後の再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。熱間仕上圧延終了温度が250℃未満ではFe固溶量が減少し、加工硬化し難くなる。その結果、成形後の強度が低下し、耐フクレ性に劣る。一方、熱間仕上圧延終了温度が370℃を超えるとFe固溶量が増大し、加工硬化し易くなる。その結果、成形時に割れが発生する。更に、熱間圧延仕上工程終了後においては圧延材が高温状態にあるため、熱間圧延仕上がり状態において自己再結晶が進むだけでなく、再結晶粒が粗大化する。その結果、耳率が増大し、成形後の肌荒れの原因となる。以上により、熱間仕上圧延終了温度を250〜370℃とする。なお、好ましい熱間仕上圧延終了温度は、300〜360℃である。
5−5.熱間仕上圧延後の冷間圧延工程
熱間仕上圧延工程にかけられた圧延材は、冷間圧延工程にかけられる。この冷間圧延工程における圧下率は、続く焼鈍工程(中間焼鈍又は最終焼鈍)における再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。圧下率が50%未満では、蓄積される歪量が小さいため再結晶粒が粗大化する場合がある。その結果、耳率が増大し、肌荒れの原因となる。一方、圧下率が85%を超えると、冷間圧延回数が増加するため製造コストの観点で好ましくない。そのため、熱間仕上圧延工程後の冷間圧延工程における圧下率は、50〜85%とするのが好ましい。なお、より好ましい圧下率は55〜80%である。
5−6.焼鈍工程と更なる冷間圧延工程(最終冷間圧延工程)
最終アルミニウム合金板の調質に合わせて、前述の冷間圧延工程後に最終焼鈍工程にかけてもよく、或いは、前述の冷間圧延工程後に中間焼鈍工程にかけた後に、更なる冷間圧延工程として最終冷間圧延を施してもよい。最終焼鈍工程及び中間焼鈍工程の条件としては特に限定されず、常法に従って行えばよい。好ましい焼鈍条件としては、バッチ式焼鈍炉を用いる場合は温度350〜450℃で1〜8時間の保持時間であり、連続焼鈍炉を用いる場合は温度400〜550℃で0〜30秒の保持時間である(ここで、保持時間0秒とは、所定温度に到達した後に直ちに冷却することを意味する)。また、中間焼鈍工程後の最終冷間圧延工程条件についても常法に従って行えばよいが、圧下率は通常20〜60%が好ましい。なお、最終冷間圧延工程後に、レベラー矯正を行ってもよい。
以上、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法について説明したが、この製造方法においては以下の第1〜3の実施態様がある。
第1実施態様は、面削工程前に均質化処理工程を備え、第2実施態様は、面削工程後に均質化処理工程を備える。このように、第1、2実施態様では均質化処理工程を備えるので、後述の第3実施態様と比べた顕著な均質化効果として、金属組織と金属間化合物における良好なサイズと分散状態が得られる。なお、第2実施態様では、均質化処理温度から鋳塊を室温下に保持してから、熱間圧延における加熱保持工程まで加熱される。そして、加熱保持工程から直ちに熱間粗圧延するか、或いは、熱間粗圧延の開始温度まで冷却してから熱間粗圧延が行われる。
次に第3実施態様では、鋳造工程、面削工程及び熱間圧延工程がこの順序で行われる。この第3実施態様では均質化処理工程は採用されないが、鋳造工程後に鋳塊を面削工程にかけてから熱間圧延工程における加熱保持工程をもって均質化処理と同様の役割を兼ねさせ、加熱保持工程後に熱間圧延にかけられる。この第3態様では、均質化処理工程を省けるので製造コストの点で有利である。
この第3実施様態では、加熱保持工程の温度と熱間圧延の開始温度の差が大きい場合には、鋳塊を加熱保持工程にかけて所定の温度まで加熱、保持した後、熱間圧延の開始温度まで冷却してから熱間圧延にかけるのが好ましい。この場合には、加熱・保持された鋳塊を冷却制御することにより、熱間粗圧延や熱間仕上圧延の開始温度及び終了温度を適正な温度に調整できる。一方、前記温度差が小さい場合は、冷却段階を経ずに加熱保持工程から直ちに鋳塊が熱間圧延される。この場合には、冷却段階を経ないため速やかに熱間圧延工程に移行できるが、熱間粗圧延や熱間仕上圧延の開始温度及び終了温度が高くなり易く、粗大な再結晶粒が生成したり高Fe固溶量となる場合がある。
以下に、本発明を本発明例及び比較例に基づいて更に詳細に説明する。なお、請求項に記載した以外の条件は、常法の条件範囲のものである。これら本発明例及び比較例は、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明例1〜4、6〜19、21〜27及び比較例28〜46
表1に示す組成のアルミニウム合金を、半連続鋳造法により鋳造した。なお、0.01%未満の成分については、0.00%とした。得られた鋳塊を表2及び3に示す製造条件により、最終厚さ0.8mmのアルミニウム合金板を得た。第1実施様態では、均質化処理し、鋳塊を室温下で保持後に面削し、次いで、面削した鋳塊を熱間圧延工程における加熱保持工程において加熱した。更に、加熱した鋳塊を熱間粗圧延、熱間仕上圧延、冷間圧延、中間(最終)焼鈍、ならびに、必要に応じて最終冷間圧延の各工程をこの順序で施こすことにより、最終厚さ0.8mmのアルミニウム合金板を得た。第2実施様態では、鋳塊を面削した後、均質化処理し、次いで、鋳塊を熱間圧延工程における加熱保持工程において加熱した。更に、加熱した鋳塊を熱間粗圧延、熱間仕上圧延、冷間圧延、中間(最終)焼鈍、ならびに、必要に応じて最終冷間圧延の各工程をこの順序で施こすことにより、最終厚さ0.8mmのアルミニウム合金板を得た。第3様態では、半連続鋳造法により鋳造した鋳塊を面削し、均質化処理を兼ねる工程としての熱間圧延工程における加熱保持工程において面削鋳塊を加熱した。熱間圧延工程における加熱保持工程の加熱温度と熱間粗圧延開始温度の温度差が30℃以下の場合には、加熱保持工程から冷却段階を経ずに熱間粗圧延、熱間仕上圧延、冷間圧延、中間(最終)焼鈍、ならびに、必要に応じて最終冷間圧延の各工程をこの順序で施こすことにより、最終厚さ0.8mmのアルミニウム合金板を得た。また、熱間圧延工程における加熱保持工程の加熱温度と熱間粗圧延開始温度の温度差が30℃を超えた場合には、加熱保持工程終了後に熱間粗圧延の開始温度まで冷却してから熱間粗圧延、熱間仕上圧延、冷間圧延、中間(最終)焼鈍、ならびに、必要に応じて最終冷間圧延の各工程をこの順序で施こすことにより、最終厚さ0.8mmのアルミニウム合金板を得た(以上、第3実施様態)。但し、比較例26では最終厚さを1.5mmとした、比較例31、33では最終厚さを1.0mmとした。なお、表2、3において、均質化処理及び最終冷間圧延の工程において「−」とあるのは、これら工程を行わなかったことを意味する。また、前述の通り、面削量Tは得られた鋳塊のスライスからtmin及びtmaxを測定して決定した。面削量T、tmin及びtmaxも表2、3に示す。
Figure 0005209814
Figure 0005209814
Figure 0005209814
上記のようにして調製したアルミニウム合金板材試料を用いて、下記の方法で評価を行った。
(Fe固溶量)
Fe固溶量は、以下のように測定した。予熱した丸底フラスコにフェノールを50mL秤取りフェノール中の水分を除去した後、アルミニウム合金板試料0.5gを丸底フラスコに入れ、還流冷却器を取り付けてヒーターで180℃で加熱溶解した。溶解完了後にも
180℃で15分間加熱保持し、次いで、ベンジルアルコール25mLを添加して全体を振り混ぜた。これを室温下で保持した後に、丸底フラスコの内容物を全て100mLメスフラスコに移し、ベンジルアルコールを添加して全体を100mLの溶液とした。次いで、このうち20mLを分液漏斗に秤取り、5%クエン酸水溶液20.0mLを添加した。これをシェーカーで10分間振り混ぜ、酢酸ブチル10mLを添加後に、1時間程度静置して液/液の相分離を行った。乾燥ろ紙でろ過しながら下層のクエン酸溶液を採取し、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析装置でFe量を定量した。結果を表4、5に示す。
Figure 0005209814
Figure 0005209814
(金属間化合物の分散状態)
アルミニウム合金板表面に分散する、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の分散状態は、前述の通り、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6460LA)を用いて観察、測定を行った。測定した円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離、ならびに、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径を表4、5に示す。
(耳率)
耳率の絶対値は、万能絞り試験機を用いて成形試験を行い、前述の通りに、成型サンプルの縁の平均山高さと平均谷深さから求めた。結果を表4、5に示す。
(レーザ溶接性)
上記アルミニウム合金板試料に対し、0.6mm厚まで更に圧下する最終冷間圧延を施した。このようにして調製した2枚の圧延材(短辺:60mm、長辺:100mm、厚さ:0.6mm)を長辺同士で突合わせて、全長100mmにわたってレーザ溶接試験を行った。ここで、最終冷間圧延によって0.8mmから0.6mmまで圧延を施すのは、成形後の電池ケースの成形部における板厚を想定しているためである。なお、突合せ面にはフライス盤を用いて平面加工を施した。溶接速度として、1m/min、5m/min、20m/minで試験を行った。集光径は0.1mmφ、出力は圧延材の板厚0.6mmに対して平均溶け込み深さが70%となるように調整し、連続波(CW、Continuous Wave)条件でレーザ溶接した。終端部で出力を段階的に低下させる終端処理は行わなかった。
<レーザ溶接部の健全性>
上記レーザ溶接後の試料について、溶接部の全長(100mm)にわたって外観を目視で観察した。更に、溶接部断面(溶接方向に対する直交断面)を目視で10視野観察した。なお、溶接部断面における各視野の間隔は10mm以上設けた。
外観観察及び断面観察のいずれにおいても、溶接割れやビード欠陥が発生していなかったものを良好(○印)、溶接割れとビード欠陥の少なくともいずれかが発生しているものを不良(×印)と判定した。結果を表4、5に示す。
<レーザ溶接部の安定性>
健全性評価と同様にして、レーザ溶接後の試料について外観観察と断面観察を行った。ビード幅に関しては、溶接部の全長100mmにおいて任意位置のビード幅を10箇所測定し、その平均ビード幅waveを算出した。また,溶け込み深さに関しては、溶接部断面(溶接方向に対し直行断面)10視野における溶け込み深さを測定し、その平均溶け込み深さでdaveを算出した。
最大ビード幅wmax、最小ビード幅wmin、最大溶け込み深さdmax及び最小溶け込み深さdminを測定し、wmax/wave、wmin/wave、dmax/dave、dmin/daveがいずれも0.9〜1.1の範囲のものを優良(◎印)、0.8以上0.9未満又は1.1を超え1.2未満の範囲のものを良好(○印)、0.8未満又は1.2を超える範囲のものを不良(×印)と判定した。結果を表4、5に示す。
(成形性と耐フクレ性)
上記アルミニウム合金板に対して多段成形、具体的には3段の絞り試験及び10段のしごき成型を施して、図6に示す角型の電池ケース1を成形した。この電池ケース1は、幅30mm、高さ8mm、奥行45mm(不図示)で、側面の平均板厚0.62mm、上面及び底面の平均板厚0.51mmで、角Rが1.5mmの角形断面を有する。
<ケースの外観評価>
ケース1の外観評価を行った。成形時に発生する割れ等の表面欠陥及び肌荒れの発生が無いものを優良(◎印)、表面欠陥が無く、かつ、肌荒れが発生しているものの軽微であるものを良好(○印)、表面欠陥が無く、かつ、肌荒れが発生しているものの実用上問題の無いものを良好(△印)、肌荒れあるいは表面欠陥が発生しているものを不良(×印)と判定した。
<ケースの耐フクレ性>
ケース1について、図7に示すようなフクレ試験機2により加熱内圧フクレ試験を行った。図7のフクレ試験機2では、下方の固定治具3と上方の押え治具4との間に、シリコンゴムからなる受け部材5と同じくシリコンゴムからなる上面シール部材6を介してケース1を挟持し、上方から圧力供給管7を介してケース1内に空気圧で加圧した。また、ケース1を挟持したフクレ試験機2全体を、恒温槽中で70℃に加熱保持した。ケース1内は、1.5kgf/cmの空気圧で24時間継続して加圧し、ケースの最大フクレ量を測定した。この加熱内圧フクレ試験は、リチウムイオン電池が加熱されて電池内容物の膨張により内圧が生じた場合を想定したものである。
最大フクレ量が、1.0mm未満のものを耐フクレ性が優良(◎印)、1.0〜1.3mmのものを耐フクレ性が良好(○印)、1.3mmを超えるものを耐フクレ性が不良(×印)と判定した。結果を表4、5に示す。
(しごき成型試験に必要なブランク重量比)
しごき成型試験に必要なブランク重量比とは、ケース成型における歩留を表しており、ケース成形試験において、耳切捨て前の初期ブランク重量及び耳切捨て量を測定することで求めた。具体的には、円形及び長径Lと短径Sの比、L/Sが2となる楕円形の2種の形状で、得られたアルミニウム合金板を打ち抜き、成型用ブランクを作製した。その後、得られた成型用ブランクを用いて、3段の絞り加工を行い、幅30mm、高さ8mmの絞り成型ケースを得た。この絞り成型において発生した耳は、後工程でのしごき成形時に割れの原因となるため、耳を切り捨てる必要がある。耳の最大谷深さから奥行き方向に1.5mmの位置で切り捨てる。耳切捨て後、しごき成型用ケースの奥行きが22mmとなるように、初期のブランクの大きさ、つまり円形の場合は直径、楕円形の場合は長径及び短径を決定した。そして、切捨て前の初期重量W0及び耳切捨て量WCを測定し、初期重量としごき成型用ケース重量の比、つまりしごき成型試験に必要なブランク重量比、W0/(W0−WC)を求めた。しごき成型試験に必要なブランク重量比が1に近いほど、絞り成型後のフチ切捨て量が少なく、歩留は良好である。したがって、しごき成型試験に必要なブランク重量比が1.05〜1.07を◎、しごき成型試験に必要なブランク重量比が1.08を○、しごき成型試験に必要なブランク重量比が1.09を△、成型試験に必要なブランク重量比が1.10以上を×とした。◎及び○を優良とし、△を良好とし、×を不良とした。ここで、耳の最大谷深さから奥行き方向に1.5mmの位置で切り捨てているため、しごき成型試験に必要なブランク重量比の最小値は1.05である。
本発明例1〜4、6〜19、21〜27では、Fe固溶量が10〜70ppm、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離20μm以下、かつ、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が25〜100μmであり、レーザ溶接性、成形性と耐フクレ性、ならびに、しごき成型試験に必要なブランク重量比が優良又は良好であった。
比較例28では、鋳塊の面削位置が粗大セル層内部に位置するため、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離が大きく、かつ、当該金属間化合物の存在しない領域に描ける円の最大直径が大きいため、ビード幅や溶け込み深さのばらつきが大きく、またスパッタによるビード欠陥が発生し、レーザ溶接性が不良であった。
比較例29では、鋳塊の面削位置が粗大セル層内部に位置するため、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離が大きく、かつ、当該金属間化合物の存在しない領域に描ける円の最大直径が大きいため、ビード幅や溶け込み深さのばらつきが大きく、またスパッタによるビード欠陥が発生し、レーザ溶接性が不良であった。
比較例30では、加熱保持温度が低く熱間仕上圧延終了温度も低いため、Fe固溶量の低下と耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
比較例31では、均質化温度が高温であるため、微小な金属間化合物は固溶し粗大な金属間化合物が粗大化し、金属間化合物の存在しない領域が大きくなった。これにより、ビード幅や溶け込み深さのバラつきが大きくなり、レーザ溶接部の安定性が不良であった。
比較例32では、熱間仕上圧延の終了温度が高温であったため、熱間圧延時の再結晶粒が粗大化し、成形後の肌荒れや耳率の増大の原因となったため、成形性における外観評価が不良とあり、また円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。また、熱間仕上圧延の終了温度が高温であったためFe固溶量が高くなり、加工硬化し易くなって成形時に割れが生じたため、成形性における外観評価が不良であった。
比較例33では、アルミニウム合金板のFe量が少ないため、素板強度が低く、耐フクレ性が不良であった。また、再結晶粒が粗大化し、成形後の肌荒れや耳率の増大の原因となった。その結果、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。更に、円相当直径1〜15μmの金属間化合物の平均壁間距離が大きくなり、また当該金属間化合物が存在しない領域が大きくなるため、レーザ溶接部の安定性が不良であった。
比較例34では、Fe量が多いため、円相当直径15μmを超える粗大金属間化合物が生成され、円相当直径1〜15μmの金属間化合物が局所的に増加して局所的にレーザ吸収率が上がるため溶け込み深さやビード幅が不均一となり、更に、スパッタによる溶接欠陥等の原因となった。またMn量が多いため、レーザ溶接時の溶け込み深さが局所的に深くなった。その結果、レーザ溶接性(レーザ溶接部の健全性及び安定性)が不良であった。また、成形性と耐フクレ性が不良であった。
比較例35では、Si量が多いため液相線と固相線の温度差が大きくなり、溶接割れが生じ易くなった。具体的には、1m/minの低速溶接では溶接割れは生じなかったが、5m/min以上の高速溶接では溶接割れが生じ、レーザ溶接部の健全性が不良であった。更に、耐フクレ性が不良であった。
比較例36では、Ti量が少ないため、鋳塊の結晶粒が粗大化した。その結果、スジ状不具合が発生し、更に成形後の肌荒れや耳率の増大の原因となり、成形性における外観評価が不良となり、また円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。また、レーザ溶接部の凝固組織の微細化効果が小さいため、溶接割れが生じ易くなった。具体的には、1m/minの低速溶接では溶接割れは生じなかったが5m/min以上の高速溶接では溶接割れが生じ、レーザ溶接部の健全性が不良であった。
比較例37では、Ti量が多いため粗大なAl−Ti系金属間化合物が形成され表面欠陥が発生した。更に、B及びCの合計量が多いため、Ti−B系化合物やTi−C系化合物の粗大凝集物が形成され表面欠陥が発生した。これら表面欠陥の発生により、成形性における外観評価が不良であった。
比較例38では、JIS3003アルミニウム合金であり、Si量が多いため、溶接割れが生じ易くなった。具体的には、1m/minの低速溶接では溶接割れは生じなかったが、5m/min以上の高速溶接では溶接割れが生じ、レーザ溶接部の健全性が不良であった。
比較例39では、加熱保持温度が低く熱間仕上圧延終了温度も低いため、Fe固溶量の低下と耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
比較例40では、加熱保持温度が高温であり熱間仕上圧延の終了温度も高温であったため、熱間圧延時の再結晶粒が粗大化し、成形後の肌荒れや耳率の増大の原因となったため、成形性における外観評価が不良とあり、また円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。また、熱間仕上圧延の終了温度が高温であったためFe固溶量が高くなり、加工硬化し易くなって成形時に割れが生じたため、成形性における外観評価が不良であった。
比較例41では、加熱保持温度が低く熱間仕上圧延終了温度も低いため、Fe固溶量の低下と耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
比較例42では、熱間仕上圧延の終了温度が高温であったため、熱間圧延時の再結晶粒が粗大化し、成形後の肌荒れや耳率の増大の原因となったため、成形性における外観評価が不良とあり、また円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。また、熱間仕上圧延の終了温度が高温であったためFe固溶量が高くなり、加工硬化し易くなって成形時に割れが生じたため、成形性における外観評価が不良であった。
比較例43では、加熱保持時間短いため、耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
比較例44では、均質化温度が低く、また均質化処理時間が短いため、耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
比較例45では、均質化温度が高温であるため、微小な金属間化合物は固溶し粗大な金属間化合物が粗大化し、金属間化合物の存在しない領域が大きくなった。これにより、ビード幅や溶け込み深さのバラつきが大きくなり、レーザ溶接部の安定性が不良であった。
比較例46では、均質化温度が低く、また均質化処理時間が短いため、耳率の増大の原因となった。これらの原因により、成形性と耐フクレ性が不良となり、ならびに、円ブランク重量比が大きくなり歩留が悪化した。
本発明により、レーザ溶接性、成形性及び耐フクレ性を両立した電池ケース用アルミニウム合金板を提供できる。また、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法により、前記電池ケース用アルミニウム合金板が確実かつ安定して歩留まりよく得ることができる。
1・・・電池ケース
2・・・フクレ試験機
3・・・固定治具
4・・・押え治具
5・・・受け部材
6・・・シール部材
7・・・圧力供給管
A・・・円相当直径1〜15μmの金属間化合物が存在しない領域
C・・・Aに描ける最大直径の円
D・・・Cの直径
Hh1、Hh2、Hh3、Hh4・・・山高さ
HL1+HL2+HL3+HL4・・・谷深さ
tmin・・・鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離(mm)
tmax・・・鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離(mm)

Claims (8)

  1. Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、Fe固溶量が10〜70ppmであり、当該アルミニウム合金板に金属間化合物が分散しており、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1〜15μmを有する金属間化合物間の平均壁間距離が20μm以下であり、かつ、当該金属間化合物が存在しない領域に描ける円の最大直径が25〜100μmであることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
  2. 耳率の絶対値が10%以下である、請求項1に記載の電池ケース用アルミニウム合金板。
  3. 請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程と;鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;面削後の鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で均質化する均質化処理工程と;均質化処理後の鋳塊を室温下で保持する室温保持工程と、熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  5. 請求項1又は2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、Fe:0.8〜2.0mass%、Si:0.03〜0.20mass%、Ti:0.004〜0.050mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;均質化処理を施すことなく、鋳塊表面からチル層及び粗大セル層の境界面までの最小距離をtmin(mm)、鋳塊表面から粗大セル層及び微細セル層の境界面までの最大距離をtmax(mm)として、面削量T(mm)が3≦T<tmin又はtmax<Tを満たすように鋳塊を面削する面削工程と;熱間粗圧延前の加熱保持工程が、面削後の鋳塊を温度450〜620℃で保持時間1〜20時間で保持するものであり、これに続く熱間粗圧延工程と終了温度250〜370℃で鋳塊を熱間圧延する熱間仕上圧延工程とを含む熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;を備えることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  6. 前記熱間粗圧延工程が、開始温度380〜550℃、かつ、終了温度330〜480℃で鋳塊を熱間圧延する、請求項3〜5に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  7. 前記冷間圧延工程における圧下率が50〜85%である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  8. 前記焼鈍工程の後に更なる冷間圧延工程を備える、請求項3〜7のいずれか一項に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
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