JP4174526B2 - アルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板 - Google Patents
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このようなアルミニウム合金材は、原料であるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を製造し、必要に応じて均質化熱処理した後、この鋳塊を所定厚さまで圧延することにより製造するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
圧延ロールでは、板厚を制御しにくいため、板厚精度が悪いという問題、板厚方向中心部で、金属間化合物のサイズが大きくなることにより、アルマイト処理した場合に、板の板厚方向断面における表面にムラを生じるという問題があった。さらに、鋳塊を圧延する場合には、圧延の回数の増加により作業工程が増えることで、コストが増大するという問題があった。
また、脱水素ガス工程により、水素ガスを除去することによって、鋳塊中の水素濃度が限定され、鋳塊中の結晶粒が粗大化しても、鋳塊の表面近傍の粒界に水素が集積、濃化せず、鋳塊のフクレ、およびフクレに起因するアルミニウム合金厚板のメクレが抑制されるとともに、厚板の表面欠陥として現れる厚板表面の潜在的欠陥が抑制される。さらに、アルミニウム合金厚板の強度が向上する。
また、ろ過工程により、アルミニウム合金から酸化物や非金属等の介在物が除去される。
さらに、鋳塊を、熱間圧延を行わずにスライスして最終製品とすることにより、酸化皮膜厚が減少するとともに、アルミニウム合金厚板の表面状態、および板厚精度が向上し、また、生産性が向上する。
また、鋳塊をスライスしてアルミニウム合金を製造するため、従来のアルミニウム合金のように熱間圧延によって厚さを減少させる必要がなくなり、作業工程の省略化を図ることができ、生産性を向上させることができる。また、厚板の端面における表面のムラが解消され、表面状態を容易に制御でき、板厚精度を向上させることができる。
図1に示すように、アルミニウム合金厚板(以下、適宜「厚板」という)の製造方法は、アルミニウム合金を溶解する溶解工程(S1)と、脱水素ガス工程(S2)と、ろ過工程(S3)と、鋳造工程(S4)と、スライス工程(S6)と、をこの順に行うものである。また、必要に応じて、鋳造工程(S4)の後に、熱処理工程(S5)を含めてもよく、スライス工程(S6)の後に、表面平滑化処理工程(S7)を含めてもよい。
本発明に係るアルミニウム合金厚板は、前記した各工程からなる製造方法により得られるものである。
<溶解工程>
溶解工程(S1)は、所定量のSi、Mgを含有し、さらに、所定量のFe、Cu、Mn、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する工程である。
以下に、各成分の含有量を数値限定した理由について説明する。
Siは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Siは、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にAl−Fe−Si系とSi系の金属間化合物を生じさせる。Siの含有量が0.2質量%未満であると強度を向上させる効果は小さく、一方、Siの含有量が1.6質量%を超えると、粗大なSi系金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Siの含有量は、0.2質量%以上1.6質量%以下とする。
Mgは、Siと共存してMg2Siを形成して、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.3質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mgの含有量が1.5質量%を超えても強度向上の効果は飽和してしまう。よって、Mgの含有量は0.3質量%以上1.5質量%以下とする。
Feは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化、安定化させるとともに、強度を向上させる効果がある。Feも、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入し、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にAl−Fe系金属間化合物を生じさせる。Feの含有量が0.8質量%を超えると、粗大なAl−Fe系金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Feの含有量は、0.8質量%以下とする。
Cuは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。Cuの含有量が1.0質量%を超えると、耐食性が低下する。よって、Cuの含有量は1.0質量%以下とする。
Mnは、アルミニウム合金中に固溶して強度を向上させる効果がある。Mnの含有量が0.6質量%を超えると粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Mn含有量は0.6質量%以下とする。
Crは、鋳造工程(S4)および熱処理工程(S5)において、微細な化合物として析出し、結晶粒成長を抑制する効果がある。Crの含有量が0.5質量%を超えると、初晶として粗大なAl−Cr系金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Crの含有量は、0.5質量%以下とする。
Znは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果があるが0.4質量%を超えると、耐食性が低下する。よって、Znの含有量は0.4質量%以下とする。
Tiは鋳塊の結晶粒を微細化させる効果がある。Tiの含有量が0.1質量%を超えてもその効果は飽和する。よって、Tiの含有量は0.1重量%以下とする。
脱水素ガス工程(S2)は、溶解工程(S1)で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する工程である。
水素ガスは、燃料中の水素や地金等に付着している水分、その他有機物等から発生する。水素ガスが多く含まれていると、ピンホールの原因となったり、製品の強度が弱くなったりする。また、鋳塊の表面近傍の粒界に水素が集積、濃化し、鋳塊のフクレ、およびフクレに起因するアルミニウム合金厚板のメクレが発生するとともに、厚板の表面欠陥として現れる厚板表面の潜在的欠陥が生じる。
脱水素ガス工程における水素ガスの除去は、溶湯をフラクシング、塩素精錬、またはインライン精錬等を行うことによって好適に行うことができるが、脱水素ガス装置にスニフやポーラスプラグ(特開2002−146447号公報参照)を用いて行うと、より好適に除去することができる。
ろ過工程(S3)は、ろ過装置により、アルミニウム合金から主として酸化物や非金属の介在物を除去する工程である。
ろ過装置には、例えば1mm程度の粒子のアルミナが用いられたセラミックチューブが設けられており、これに溶湯を通すことによって前記の酸化物や介在物を除去することができる。
これらの脱水素ガスやろ過により、鋳造工程(S4)において、高度に品質を確保したアルミニウム合金を鋳塊とすることができる。
鋳造工程(S4)は、例えば、水冷鋳型を含んで構成されている鋳造装置で、アルミニウム合金の溶湯を直方体形状等の所定の形状に形成して固化することで鋳塊を製造するための工程である。
鋳造方法としては、半連続鋳造法を用いることができる。
半連続鋳造法は、底部が開放された金属製の水冷鋳型に、上方より金属の溶湯を注入し、水冷鋳型の底部より凝固した金属を連続的に取り出し、所定厚さの鋳塊を得るものである。なお、半連続鋳造法は、縦向き、横向きのどちらで行ってもよい。
スライス工程(S6)は、鋳造工程(S4)により鋳造された鋳塊を所定厚さにスライスする工程である。
スライス方法としては、スラブスライス法を用いることができる。
スラブスライス法は、前記した半連続鋳造法で製造した鋳塊を、帯鋸切断機等によってスライスすることにより、鋳塊を鋳造方向に切り出す方法であり、これにより所定厚さのアルミニウム合金厚板が製造される。ここで、アルミニウム合金厚板の厚さは、15〜200mmが好ましいが、特に限定されるものではなく、アルミニウム合金厚板の用途により、適宜変更することができる。
このように、鋳塊をスライスすることにより、圧延材に比較して、表面状態、板厚精度等に優れたアルミニウム合金厚板を得ることができる。
<熱処理工程>
熱処理工程(S5)は、鋳造工程(S4)で作製された鋳塊を熱処理(均質化熱処理)する工程である。
均質化熱処理は、常法にしたがって、処理温度400℃から融点未満で1時間以上保持することにより行う。
<表面平滑化処理工程>
表面平滑化処理工程(S7)は、スライス工程(S6)によりスライスされたアルミニウム合金厚板の表面を平滑化する工程である。
表面平滑化処理法としては、エンドミル切削やダイヤモンドバイト切削等の切削法、表面を砥石等で削る研削法、バフ研磨等の研磨法等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
したがって、アルミニウム合金厚板をチャンバー用とする場合には、表面平滑化処理を行うことは特に有効である。
<アルミニウム合金厚板>
アルミニウム合金厚板は、前記したアルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金)からなり、合金中の水素濃度が0.2ml/100g以下、かつ、板厚断面における表面近傍と板厚中央部における金属間化合物(晶出物)の面積率の差が10%以内としたものである。
なお、水素濃度の制御は、前記記載の製造方法により行うことも可能である。
ここで、Al−Fe−Si系晶出物の面積率によりアルマイト後の色調が変化するため、面積率の差が10%を超えるとアルマイト後の色調ムラが生じる。一方、10%以内であれば、色調ムラが生じない。
このような面積率の測定方法としては、板厚断面における板厚表面近傍(例えば、板厚1/8の位置と定義する)と板厚中央部(例えば、板厚1/2の位置と定義する)での晶出物の面積率を測定することにより行う。
具体的には、板厚断面において、SEMの組成像で画像処理により、観察倍率を1000倍、視野を20視野以上とし、Al−Fe−Si系の晶出物の面積率を求めることにより行う。
初めに、表1に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解し、脱水素ガス処理により水素濃度を0.2ml/100g以下とした。次に、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。作製した鋳塊を、520℃で8時間加熱して、この鋳塊をスライスまたは熱間圧延して、厚さ20mmのアルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)を作製した。得られた厚板を520℃で溶体化処理し、175℃で8時間の時効処理を施した。
このスライス材および熱間圧延材について、以下の試験を行った。
強度は、アルミニウム合金厚板より、JIS5号試験片を作製して引張試験を行い、引張強さ、0.2%耐力を測定することにより行った。
引張強さが200N/mm2以上かつ0.2%耐力が150N/mm2以上のものを合格(○)、引張強さが200N/mm2未満のもの、かつ0.2%耐力が150N/mm2未満のものを不合格(×)とした。
この結果を表2に示す。
アルマイト性評価は、アルミニウム合金厚板の表面および断面の外観を観察することにより行った。
アルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)の表面および断面に、硫酸アルマイト処理(15%硫酸、20℃、電流密度2A/dm2)にて厚さ10μmのアルマイト皮膜を形成した。この厚板の表面および断面の外観を観察し、外観にムラが無いものを合格(○)、ムラがあるものを不合格(×)とした。
なお、板厚断面における表面近傍と板厚中央部の晶出物の面積率の差がアルマイト性に影響するため、表面近傍と板厚中央部の晶出物の面積率を求めた。
面積率の測定方法としては、板厚断面において、SEMの組成像で画像処理により、観察倍率を1000倍、視野を20視野以上とし、板厚表面近傍(1/8の位置)と板厚中央部(1/2の位置)の晶出物の面積率を測定することにより行った。
この結果を表2に示す。
合金成分1〜6、8は、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の表面の外観にムラを生じなかった。
合金成分7、9〜11は、それぞれ、Si、Fe、Mn、Crの含有量が上限値を超えるため、金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分1〜11については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じなかった。
合金成分1〜6、8は、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の表面の外観にムラを生じなかった。
合金成分7、9〜11は、それぞれ、Si、Fe、Mn、Crの含有量が上限値を超えるため、金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分1〜11については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じた。
S2 脱水素ガス工程
S3 ろ過工程
S4 鋳造工程
S5 熱処理工程
S6 スライス工程
S7 表面平滑化処理工程
Claims (5)
- Si:0.2質量%以上1.6質量%以下、Mg:0.3質量%以上1.5質量%以下を含有し、さらに、Fe:0.8質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mn:0.6質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、
前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、
前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、
前記鋳塊を、熱間圧延を行わずに所定厚さにスライスして最終製品とするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とするアルミニウム合金厚板の製造方法。 - 前記鋳造工程の後に、鋳塊を400℃から融点未満に1時間以上保持する熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
- 前記最終製品とするスライス工程の後に、スライスされた所定厚さのアルミニウム合金厚板の表面に、さらに表面平滑化処理を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
- 前記表面平滑化処理を、切削法、研削法および研磨法から選択された1種以上の方法で行うことを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
- 請求項1に記載のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金厚板において、水素ガス量0.2ml/100g以下、板厚断面における表面近傍と板厚中央部の晶出物の面積率の差が10%以内であることを特徴とするアルミニウム合金厚板。
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