JP5196014B2 - エンジンの冷却装置 - Google Patents

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの冷却装置に関し、特に流通する冷媒でエンジンの排気系を冷却する排気系冷却手段を備えたエンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気系(具体的には例えば排気マニホルド)を水などの冷媒により冷却する技術が知られている。かかる技術に関し、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1で開示されている。特許文献1では排気マニホルドの周囲に形成したウォータジャケットと、該ウォータジャケットに水を噴霧状に噴射する水噴射手段とを備えた排気マニホルド装置が開示されている。このほか本発明と関連性があると考えられる技術として、例えば特許文献2では複数の冷却部に対する冷却媒体の供給割合をそれぞれ変更し得る流量制御弁を備えた内燃機関の冷却制御装置が開示されている。具体的には特許文献2では、排気ポート等の複数の冷却部に冷却水を導く冷却水通路それぞれに流量制御弁を設けた内燃機関の冷却制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】
特開昭63−208607号公報
【特許文献2】
特開2007−132313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンにおいては環境問題に対する取組みとして排気エミッションを低減することが求められている。この点、主に軽中負荷運転時の排気エミッションを低減するにあたっては、三元触媒をエンジンに近接した配置とし、早期に三元触媒を暖機させる手法がある。
【0005】
一方、上記手法を用いた状態で高負荷運転時の排気エミッション低減を行うには、理論空燃比または理論空燃比近傍でエンジンを運転することが望まれる。しかしながら、この場合にはエンジンに近接して触媒を配置したことに起因して、触媒が過熱し、結果劣化の過大な進行や、劣化の過大な進行による排気エミッションの悪化が懸念される。よって、高負荷運転域の排気エミッション低減を考慮すると、三元触媒をエンジンから遠ざけて配置する必要がある。しかし、これでは早期に触媒を暖機させる軽中負荷運転域での排気エミッション低減が不十分になる虞があるため、触媒の浄化を促進させる貴金属の量を多くする必要がある。しかしながら、これら貴金属は希少なものであるため、この場合はコストの増大が懸念される。
【0006】
これに対してかかる事情のもと、早期に触媒を暖機させる軽中負荷運転域での排気エミッションと高負荷運転時の排気エミッションの更なる低減を好適に両立させることを目的として、排気系を冷媒で冷却し、排気温度を低下させることが考えられている。このようにすれば、触媒の過熱を抑制することも可能になる。このためこのようにすれば、触媒をエンジンに近接して配置することができ、以って早期に触媒を暖機させる軽中負荷運転域での排気エミッションと高負荷運転時の排気エミッションの更なる低減を好適に両立させることも可能になる。
【0007】
ところで、このように排気系を冷媒で冷却する場合には、エンジン本体を流通する冷媒(例えばエンジンの冷却水であるロングライフクーラント)と共通の冷媒を用いることがコスト面などから合理的であると考えられる。
またエンジン本体を流通する冷媒は、一般にエンジンの出力で駆動する機械式のウォータポンプによって圧送されている。このためエンジン本体を流通する冷媒と共通の冷媒を用いる場合には、冷媒圧送装置として機械式のウォータポンプを用いることがコスト面などから合理的であると考えられる。
【0008】
ところが、この場合には以下に示す問題が存在する。ここで、エンジン本体と共通の冷媒で排気系を冷却する場合でも、冷媒は適温に維持される必要がある。
この点、エンジン本体を流通する冷媒に対しては、一般に冷却器(例えばラジエータ)による冷却が行われている。また、エンジン本体を流通する冷媒については、一般にエンジン本体の出口側の部分やエンジン本体を流通した直後の流通経路における冷媒温度が、エンジン本体における冷媒温度(以下、エンジン冷媒温度と称す)として検知されている。
このため、冷媒を適温に維持するにあたっては、例えばエンジン冷媒温度に応じてラジエータに流入する冷媒の流量を調節することが考えられる。
【0009】
しかしながら、かかるエンジン冷媒温度は、排気系冷却手段における冷媒温度(以下、排気系冷媒温度と称す)を代表してはいない。具体的には図21に示すように、通常は排気系冷媒温度のほうがエンジン冷媒温度よりも大きくなる傾向がある。これは、通常は排気系冷却手段のほうがエンジン本体よりもサイズが小さいことから、排気系冷却手段のほうがエンジン本体よりも熱容量が小さくなるためである。このため、この場合には排気系冷却手段において冷媒がオーバーヒート或いは沸騰する虞があるといえる。換言すれば、エンジン冷媒温度では、排気系冷却手段における冷媒のオーバーヒートや沸騰現象を把握することは困難であるといえる。
【0010】
但し、この点に関しては、例えば次のように対処することも考えられる。ここで図21から、暖機完了後の平均温度については、エンジン冷媒温度よりも排気系冷媒温度のほうが、およそ一定の度合いだけ温度が高くなっていることがわかる。このためこの点に関しては、さらに例えばエンジン冷媒温度を実際に検知した温度よりもある一定の度合いだけ高くなるように設定し直せばよいとも考えられる。
【0011】
しかしながら、機械式ウォータポンプによってエンジン本体と共通の冷媒を排気系冷却手段に圧送する場合には、さらに以下に示す問題も存在する。
ここで、機械式のウォータポンプの吐出量は一般にエンジンの回転数に比例して増減する。このためエンジンの運転状態が、高回転高負荷であった場合には、排気系冷却手段における冷媒の流量も大きくなる。一方、この場合には吸入空気量が大きく、エンジンの発熱量が大きくなっていることから、排気系冷却手段が排気ガスから受熱する受熱量も増大する。このためこの場合には、排気系冷却手段のうち、排気ガスが流通する流路を形成する壁部に熱がこもり、この結果、当該壁部が高温となる。
【0012】
そしてさらにその後、エンジンの運転状態が高回転高負荷の運転状態から低回転高負荷の運転状態に移行したとする。この場合、上述の壁部は暫くの間、高温状態に維持される。ところがその一方で、この場合にはエンジン回転数の低下に伴い、排気系冷却手段における冷媒の流量が低下する。このためこの場合には、排気系冷却手段において、排気ガスからの受熱量が冷媒による放熱量を上回る事態が発生する。すなわちこの場合には、排気系冷却手段における冷媒の流量が、エンジンの発熱量に対して一時的に不足気味となる事態が発生する。
【0013】
一方、これに対して例えば前述したようにエンジン冷媒温度に応じてラジエータに流入する冷媒の流量を調節したとしても、排気系冷却手段で冷媒の流量が不足したことには対応できない。このためこの場合には、仮にエンジン冷媒温度を実際に検知した温度よりもある一定の度合いだけ高くなるように設定し直していた場合であっても、排気系冷却手段において冷媒がオーバーヒート或いは沸騰する虞がある点で問題があった。
【0014】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、エンジン本体を流通する冷媒と共通の冷媒によりエンジンの排気系を冷却する排気系冷却手段を備える場合に、排気系冷却手段で冷媒がオーバーヒート或いは沸騰することを防止或いは抑制可能なエンジンの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、複数の冷媒循環経路に共通の冷媒を圧送する冷媒圧送装置と、前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路にエンジン本体が組み込まれたエンジンと、前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路に組み込まれ、前記エンジン本体よりも熱容量が小さく、且つ流通する冷媒で前記エンジンの排気系を冷却する排気系冷却手段と、前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路に組み込まれ、流通する冷媒を冷却する冷却器と、前記エンジンの運転状態が前記エンジンのスロットル弁の開度変化が所定値以下である定常状態の場合には、前記エンジンの吸入空気量に基づき前記排気系冷却手段に流通させる冷媒の流量を決定し、前記エンジンの運転状態が前記スロットル弁の開度変化が前記所定値より大きい過渡状態の場合には、前記エンジン本体を流通した冷媒の温度と前記エンジンの吸気温度と前記エンジンの回転数と前記エンジンの吸入空気量に基づき排気系の冷却損失を推定し、前記排気系の冷却損失に基づき前記排気系冷却手段に流通させる冷媒の流量を決定する流量決定手段と、前記流量決定手段が決定した前記流量で前記排気系冷却手段に冷媒が流通するように、前記冷媒圧送装置が圧送する冷媒の流量を制御する流量制御手段と、を備えたエンジンの冷却装置である。
【0016】
また本発明において、前記流量決定手段は、前記エンジン本体を流通した冷媒の温度と前記エンジンの吸気温度との和と、前記エンジンの回転数と、前記エンジンの吸入空気量と、の積に基づいて前記排気系の冷却損失を推定してもよい。
[0017]
また本発明は前記排気系冷却手段のうち、排気ガスが流通する流路を形成する壁部の温度について推定をする推定手段と、前記推定に基づき、前記流量決定手段が決定する冷媒の流量を補正する補正手段と、をさらに備えた構成であることが好ましい。
発明の効果
[0018]
本発明によればエンジン本体を流通する冷媒と共通の冷媒によりエンジンの排気系を冷却する排気系冷却手段を備える場合に、排気系冷却手段で冷媒がオーバーヒート或いは沸騰することを防止或いは抑制できる。
【図面の簡単な説明】
[0019]
[図1]実施例1に係るエンジンの冷却装置(以下、単に冷却装置と称す)100Aを模式的に示す図である。図1ではサーモスタット60の閉弁時である冷間時の冷却水循環経路を構成する配管等を破線で、サーモスタット60の開弁時である温間時の冷却水循環経路を構成する配管等を実線でそれぞれ示すとともに、これらに対して冷却水Wの流通方向を矢印で示している。なお、このことは図5から図10までについても同様である。
【図2】水冷式排気マニホルド30を模式的に示す図である。
【図3】水冷式排気マニホルド30を流通する冷却水Wの流量特性を示す図である。
【図4】流量可変構造70を模式的に示す図である。破線は実線の状態からアイドラプーリ74がベルト73を押し込んだときの状態を示す。
【図5】第1の冷却水循環経路81を示す図である。
【図6】第2の冷却水循環経路82を示す図である。
【図7】第3の冷却水循環経路83を示す図である。
【図8】第4の冷却水循環経路84を示す図である。
【図9】第5の冷却水循環経路85を示す図である。
【図10】第6の冷却水循環経路86を示す図である。
【図11】ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)1Aの具体的な構成を模式的に示す図である。
【図12】(ethw+etha)×NE/100×GAと実際の冷却損失Qwとの関係を示す図である。Rは相関の度合いを示す値であり、1に近いほど相関の度合いが高いことを示す。なお、これは図14においても同様である。
【図13】ECU1Aの動作をフローチャートで示す図である。
【図14】吸入空気量GAと実際の冷却損失Qwとの関係を示す図である。
【図15】積算吸入空気量ΣGAに応じて設定した流量補正量のマップデータを模式的に示す図である。
【図16】ECU1Bの動作を示すフローチャートである。
【図17】ECU1Bの動作に応じたタイミングチャートの一例である。
【図18】ECU1Bによる流量制御の概念を説明するためのタイミングチャートである。実線はエンジン20の運転状態が高回転高負荷の運転状態から低回転、且つ高負荷でない運転状態に移行した場合を示し、破線はエンジン20の運転状態が高回転高負荷の運転状態から低回転高負荷の運転状態に移行した場合の変化を示している。
【図19】水冷式排気マニホルド30に窓を設けて可視化し、吸入空気量GAに応じて水冷式排気マニホルド30内の冷却水Wの様子を観察するとともに、水冷式排気マニホルド30内の水温を測定した結果をまとめた図である。
【図20】可変式ウォータポンププーリ76をベルト73Bとともに模式的に示す図である。具体的には(a)では、各プーリ部材76aが当接した状態のプーリ76を示し、(b)では、各プーリ部材76aが離間した状態のプーリ76を示している。
【図21】エンジン冷間始動後のエンジン冷媒温度および排気系冷媒温度の変化の一例を車速、エンジン回転数およびスロットル開度と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
冷却装置100Aについて図1から図11までを用いて説明する。図1に示すように、冷却装置100AはECU1Aと、ウォータポンプ10と、エンジン20と、水冷式排気マニホルド30と、ヒータコア40と、ラジエータ50と、サーモスタット60とを備えている。ウォータポンプ10はエンジン20に組み付けられている。ウォータポンプ10はエンジン20の出力で駆動する機械式のポンプであり、冷媒である冷却水Wを圧送する。ウォータポンプ10の吐出量はエンジン20の回転数NEに比例して増減する。
【0022】
エンジン20はエンジン本体21を有している。エンジン本体21は、図示しないシリンダヘッドおよびシリンダブロックで構成されている。エンジン本体21には、ウォータジャケット22とバイパス通路23と連通路24とが形成されている。ウォータジャケット22には冷却水Wが流通し、ウォータジャケット22を流通する冷却水Wはエンジン本体21を冷却する。バイパス通路23はウォータジャケット22からサーモスタット60に冷却水Wを流通させる。バイパス通路23はウォータジャケット22のうち、出口側の部分と外部とを連通している。連通路24はバイパス通路23の入口側の部分と外部とを連通している。エンジン本体21には冷却水Wの温度である冷却水温THWを検知する水温センサ91と、エンジン20の回転数NEを検出するために用いられるエンジン回転数センサ92とが設けられている。水温センサ91はウォータジャケット22の出口側の部分で冷却水温THWを検知するように設けられている。
【0023】
水冷式排気マニホルド30は、エンジン本体21に組み付けられている。水冷式排気マニホルド30はエンジン20の各気筒から排出された排気を合流させる。図2に示すように、水冷式排気マニホルド30は複数の排気管301を全体的に包む外壁部302を備えている。外壁部302は、複数の排気管301との間に冷却水流路を形成している。水冷式排気マニホルド30では、冷却水導入口303から冷却水流路に冷却水Wが供給されるとともに、冷却水流路から冷却水排出口304を介して冷却水Wが排出される。水冷式排気マニホルド30を流通する冷却水Wの流量はエンジン20の回転数NEに比例して増減する(図3参照)。本実施例では水冷式排気マニホルド30が排気系冷却手段となっており、複数の排気管301が、排気ガスが流通する流路を形成する壁部となっている。
【0024】
図1に戻り、ヒータコア40は冷却水Wと空気との間で熱交換を行う。ヒータコア40は図示しない空調装置で用いられている。空調装置はヒータコア40で暖められた空気を車両の車室内に送風することで暖房装置として機能する。ラジエータ50は、走行風或いは図示しない電動ファンの送風によって流通する冷却水Wからの放熱を促進し、冷却水Wを冷却する。本実施例ではラジエータ50が冷却器となっている。サーモスタット60は冷間時に閉弁し、温間時に開弁することで冷却水Wの流通を制御するように作動する。
【0025】
冷却装置100Aは、図4に示す流量可変構造70を備えている。流量可変構造70は、例えば吸入空気量GAや、エンジン20の負荷率や、吸気管の圧力に応じたウォータポンプ10の回転数制御を可能にすることができる。そして流量可変構造70はウォータポンプ10の回転数制御を可能にすることで、水冷式排気マニホルド30を流通する冷却水Wの流量を可変にする。流量可変構造70はクランクプーリ71と、ウォータポンププーリ72と、ベルト73と、アイドラプーリ74と、アクチュエータ75とを備えている。
【0026】
プーリ71はエンジン20の図示しないクランクシャフトに連結されている。
プーリ72はウォータポンプ10の回転軸に連結されている。プーリ72は円錐台状の形状を有し、軸方向一端から他端に向かって径が次第に縮小している。
ベルト73はリング状の形態を有しており、これらプーリ71、72に掛けられている。プーリ72上におけるベルト73の定位置は一端側となっている。
プーリ74はプーリ71、72間で、ベルト73に当接するように設けられている。プーリ74はアクチュエータ75に接続されている。
アクチュエータ75は、ベルト73を加圧可能な方向に沿ってプーリ74を駆動できるように設けられている。かかるアクチュエータ75としては、例えば直動機構を組み合わせたステップモータを用いることができる。
【0027】
流量可変構造70の動作は次の通りである。エンジン20運転中には、クランクシャフトとともにプーリ71が回転する。プーリ71の回転はベルト73を介してプーリ72に伝達される。そしてプーリ72が回転すると、これに応じてウォータポンプ10が駆動する。このときウォータポンプ10は回転数NEに応じた吐出量で冷却水Wを圧送する。
一方、アクチュエータ75がプーリ74を駆動し、プーリ74をベルト73に押し付けた場合には、ベルト73のテンションが高まる。そしてさらに破線で示すようにベルト73がプーリ74によって押し込まれた場合には、ベルト73がプーリ72上で一端側からより径が小さい他端側にスライドする。これにより、ベルト73に対応するプーリ72の径が縮小する。このためこれにより、ウォータポンプ10の回転が高まり、吐出量が増大する。なお、ウォータポンプ10の吐出量は、アクチュエータ75を逆に動作させることで減少させることもできる。
【0028】
冷却装置100Aは、図5から図10までに示すように複数の冷媒循環経路に相当する第1から第6までの複数の冷却水循環経路81から86までを有している。第1、第2および第3の冷却水循環経路81、82、83は、サーモスタット60の閉弁時に冷却水Wの流通が許可される循環経路となっている。また、第4、第5および第6の冷却水循環経路84、85、86は、サーモスタット60の開弁時に冷却水Wの流通が許可される循環経路となっている。ウォータポンプ10は具体的にはこれら冷却水循環経路81から86までに共通の冷却水Wを圧送する。本実施例ではウォータポンプ10が冷媒圧送装置となっている。
【0029】
複数の冷却水循環経路81から86までにはウォータポンプ10、エンジン20、水冷式排気マニホルド30、ヒータコア40、ラジエータ50またはサーモスタット60のうちのいずれかの構成が適宜組み込まれている。そして、複数の冷却水循環経路81から86までにおいて、これらの各構成は直接或いは配管を介して互いに接続されている。次に複数の冷却水循環経路81から86までについてさらに具体的に説明する。
【0030】
第1の冷却水循環経路81は具体的には、ウォータポンプ10と、エンジン本体21と、ヒータコア40と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。またエンジン本体21を流通する際、冷却水Wは具体的にはウォータジャケット22を流通する。
第2の冷却水循環経路82は具体的には、ウォータポンプ10と、エンジン本体21と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。またエンジン本体21を流通する際、冷却水Wは具体的にはウォータジャケット22とバイパス通路23とをこの順に流通する。
第3の冷却水循環経路83は具体的にはウォータポンプ10と、水冷式排気マニホルド30と、エンジン本体21と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。またエンジン本体21を流通する際、冷却水Wは具体的には連通路24とバイパス通路23とをこの順に流通する。
第1から第3までの冷却水流通経路81から83までは、ラジエータ50を含まない循環経路となっている。
【0031】
第4の冷却水循環経路84は具体的には、ウォータポンプ10と、エンジン本体21と、ヒータコア40と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。またエンジン本体21を流通する際、冷却水Wは具体的にはウォータジャケット22を流通する。
第5の冷却水循環経路85は具体的には、ウォータポンプ10と、エンジン本体21と、ラジエータ50と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。またエンジン本体21を流通する際、冷却水Wは具体的にはウォータジャケット22を流通する。
第6の冷却水循環経路86は具体的には、ウォータポンプ10と、水冷式排気マニホルド30と、ラジエータ50と、サーモスタット60とが組み込まれるとともに、この順に冷却水Wが流通する循環経路となっている。
【0032】
そして、このように構成された複数の冷却水循環経路81から86までにおいて、水冷式排気マニホルド30には、サーモスタット60の開弁時および閉弁時にともに冷却水Wが流通するようになっている。このため流量可変構造70は、サーモスタット60の開弁時と閉弁時とでともに(すなわちエンジン20運転中に)、水冷式排気マニホルド30に流通する冷却水Wの流量を適宜変更できるようになっている。
【0033】
図11に示すように、ECU1AはCPU2、ROM3、RAM4等からなるマイクロコンピュータと入出力回路5、6とを備えている。これらCPU2、ROM3、RAM4、および入出力回路5、6は互いにバス7で接続されている。ECU1Aは主にエンジン20を制御するように構成されている。ECU1Aは具体的には例えば図示しない燃料噴射弁を制御するように構成されている。またECU1Aはこのほかアクチュエータ75を制御するように構成されている。これらの制御対象はECU1Aに電気的に接続されている。
【0034】
またECU1Aには水温センサ91や、エンジン回転数センサ92や、エアフロメータ93(さらに具体的には吸入空気量センサ93aおよび吸気温度センサ93b)や、スロットル開度センサ94などの各種のセンサが電気的に接続されている。そして、冷却水温THWは水温センサ91の出力に基づき、回転数NEはエンジン回転数センサ92の出力に基づき、エンジン20の吸入空気量GAおよび吸気温度THAはエアフロメータ93の出力に基づき、吸入空気量GAを調節するスロットル弁(図示省略)の開度TAはスロットル開度センサ94の出力に基づき、ECU1Aでそれぞれ検出される。
【0035】
ROM3はCPU2が実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPU2がROM3に格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAM4の一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU1Aでは各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが機能的に実現される。
【0036】
この点、ECU1Aでは例えばエンジン20の吸入空気量GAを含む複数の推定因子を検出する検出手段と、検出手段により検出された複数の推定因子に基づき、水冷式排気マニホルド30で冷媒が排気から受ける受熱量である冷却損失Qwを推定する推定手段(以下、冷却損失推定手段と称す)とが機能的に実現される。
上述の複数の推定因子が吸入空気量GAを含むこととしているのは、吸入空気量GAが冷却損失Qwと高い線形的な相関関係を有しているためである。
そして上述の複数の推定因子は、冷媒温度である冷却水温THW、吸気温度THA、または回転数NEのうち、少なくともいずれか1つをさらに含むことが好ましい。これは、これら4因子が冷却損失Qwに対して大きな影響力を持つ因子であることによる。
【0037】
具体的には例えば初期状態などエンジン20の運転環境条件が異なれば、冷却損失Qwも異なってくる。これに対して、冷却水温THWと吸気温度THAとはエンジン20の運転環境条件を表すことができる。また、エンジン20のフリクションが増大すれば、エンジン20から発生する熱量が増大することから、冷却損失Qwも増大する傾向にある。これに対して、回転数NEはエンジン20のフリクションの大きさを表すことができる。このため、冷却損失Qwをより高い精度で推定するにあたっては、冷却水温THW、吸気温度THA、または回転数NEのうち、少なくともいずれか1つをさらに含むことが好ましい。
【0038】
さらに冷却損失Qwはこれら4因子をすべて含んだ次の式(1)に基づき推定することが最も好ましい。
Qw=(THW+THA)×NE×GA・・・式(1)
すなわち冷却損失Qwは、冷却水温THWと吸気温度THAとの和と、回転数NEと、吸入空気量GAとの積により算出した値に基づき推定することが最も好ましい。これは、運転状態に定常状態と過渡状態とを含むエンジン20の台上試験の結果、式(1)に基づき冷却損失Qwを推定した場合に、実際の冷却損失Qwとの間に最も高い線形的な相関関係が認められたことによる(図12参照)。このためECU1Aでは、具体的には式(1)に基づき冷却損失Qwを推定するようにしている。
【0039】
またECU1Aでは、エンジン20の運転状態を判定する判定手段として、スロットル弁の開度変化ΔTAに基づき、エンジン20の運転状態が定常状態であるか、或いは過渡状態であるかを判定する手段(以下、第1の運転状態判定手段と称す)が機能的に実現される。具体的には第1の運転状態判定手段は、開度変化ΔTAが所定値以下である場合に定常状態であると判定し、開度変化ΔTAが所定値より大きい場合に過渡状態であると判定するように実現される。
【0040】
またECU1Aでは、吸入空気量GAに基づき、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を決定する決定手段(以下、第1の流量決定手段と称す)が機能的に実現される。具体的には第1の流量決定手段は、本実施例ではエンジン20の運転状態が定常状態である場合に、吸入空気量GAに基づき水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を決定するように実現される。
【0041】
さらにECU1Aでは、冷却損失Qwに基づき、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を決定する決定手段(以下、第2の流量決定手段と称す)が機能的に実現される。具体的には第2の流量決定手段は、エンジン20の運転状態が過渡状態である場合に、冷却損失推定手段が推定した冷却損失Qwに基づき水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を決定するように実現される。
【0042】
このほかECU1Aでは、冷却水Wの流量制御を行う制御手段(以下、流量制御手段と称す)が機能的に実現される。具体的には流量制御手段は、流量可変構造70(具体的にはアクチュエータ75)を制御対象として、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を第1または第2の流量決定手段が決定した流量にする制御を行うよう実現される。なお、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量は、ウォータポンプ10の吐出量を決定および制御することで、同時に決定および制御されることになる。
【0043】
次にECU1Aの動作について図13に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本フローチャートはエンジン20運転中にごく短い時間間隔で繰り返し実行される。ECU1Aはスロットル開度TAを検出するとともに、スロットル開度変化ΔTAを算出する(ステップS1)。続いてECU1Aは、算出した開度変化ΔTAが所定値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2で肯定判定であれば、エンジン20の運転状態が定常状態であると判定される。このときECU1Aは吸入空気量GAを検出する(ステップS3)。
【0044】
続いてECU1Aは、検出した吸入空気量GAに基づき、ウォータポンプ10の吐出量を決定する(ステップS4)。このときECU1Aは具体的には吸入空気量GAに応じた冷却水流量特性(以下、第1の冷却水流量特性と称す)に基づき、ウォータポンプ10の吐出量を決定する。続いてECU1Aはアクチュエータ75を制御し、ウォータポンプ10の吐出量を決定した吐出量に変更する(ステップS8)。ステップS8の後には、本フローチャートを一旦終了する。
【0045】
一方、ステップS2で否定判定であれば、エンジン20の運転状態が過渡状態であると判定される。このときECU1Aは冷却水温THW、吸気温度THA、回転数NEおよび吸入空気量GAを検出する(ステップS5)。続いてECU1Aは、式(1)に基づき冷却損失Qwを算出(推定)する(ステップS6)。さらにECU1Aは、算出した冷却損失Qwに基づき、ウォータポンプ10の吐出量を決定する(ステップS7)。このときECU1Aは具体的には冷却損失Qwに応じた冷却水流量特性(以下、第2の冷却水流量特性と称す)に基づき、ウォータポンプ10の吐出量を決定する。ステップS7の後にはステップS8に進む。
【0046】
ところで、上述の第1の冷却水流量特性は、ROM3に予め格納されたマップデータで定義されている。そして、このマップデータでウォータポンプ10の吐出量は吸入空気量GAに比例して増減するように設定されている。そしてこれにより、同時に水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量が吸入空気量GAに比例して増減するように設定されている。
同様に上述の第2の冷却水流量特性は、ROM3に予め格納されたマップデータで定義されている。そして、このマップデータでウォータポンプ10の吐出量は冷却損失Qwに比例して増減するように設定されている。そしてこれにより、同時に水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量が冷却損失Qwに比例して増減するように設定されている。
第1および第2の冷却水流量特性は、例えば複数の冷却水循環経路81から86までの間で冷却水Wの流通態様が切り替わる冷間時および温間時毎に備えることができる。そしてこれにより、冷却水Wの流通態様が切り替わる場合であっても、流量可変構造70でより適切な流量制御を行うことができる。
【0047】
次に冷却装置100Aの作用効果について説明する。ここで、水冷式排気マニホルド30における冷却水Wのオーバーヒートを防止或いは抑制すべく、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を変更するにあたっては、例えば回転数NEに比例して流量を増減させることも考えられる。しかしながら、エンジン20の運転状態が定常状態である場合、吸入空気量GAは実際の冷却損失Qwと極めて高い線形的な相関関係を有している(図14参照)。またエンジン20の発熱量の観点から考えても、冷却水流量特性は排気ガス量と略等しい吸入空気量GAに比例して冷却水Wの流量を増減させることが可能な特性であることが望ましいといえる。
【0048】
これに対して、冷却装置100Aでは定常時にECU1Aが第1の冷却水流量特性に基づき、ウォータポンプ10の吐出量(換言すれば、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量)を決定するとともに変更する。すなわち、冷却装置100Aでは回転数NEや排気温度の如何に関わらず、定常状態にあるエンジン20の発熱量に応じて、発熱量が大きい場合ほど、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を適切に増大させることができる。このため冷却装置100Aは、定常時に水冷式排気マニホルド30で冷却水Wがオーバーヒート或いは沸騰することを好適に防止或いは抑制できる。なお、さらに具体的にはこれにより、例えば水冷式排気マニホルド30の排気ガス冷却効率の低下や、熱歪が生じることによる水冷式排気マニホルド30の耐久性ないし信頼性の低下や、冷却水Wの劣化が生じることを防止或いは抑制できる。
【0049】
一方、エンジン20の運転状態が過渡状態である場合には、点火時期の変動や、過渡状態に移行する前の運転状態の違いがエンジン20の発熱量に影響を及ぼす。これに対して式(1)に基づく冷却損失Qwは、図12に示すように過渡時において実際の冷却損失Qwと高い線形的な相関関係を有している。そして、冷却装置100Aでは、過渡時にECU1Aが第2の冷却水流量特性に基づきウォータポンプ10の吐出量(換言すれば、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量)を決定するとともに変更する。すなわち、冷却装置100Aでは過渡状態にあるエンジン20の発熱量に応じて、発熱量が大きい場合ほど、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量を適切に増大させることができる。このため冷却装置100Aは、過渡時にも水冷式排気マニホルド30で冷却水Wがオーバーヒート或いは沸騰することを好適に防止或いは抑制できる。
また冷却装置100Aは流量可変構造70を備えている。このため冷却装置100Aは、機械式のウォータポンプ10で冷却水Wを圧送する場合であっても、水冷式排気マニホルド30を流通する冷却水Wの流量を変更することができる。
【0050】
なお、水冷式排気マニホルド30における冷却水Wのオーバーヒートを過渡時に防止或いは抑制するにあたっては、例えばエンジン20の最大発熱量に見合った冷却水Wの流量を設定することも考えられる。しかしながらこの場合には、発熱量が比較的小さい過渡時に、冷却水Wの流量が不必要に大きくなってしまうことになる。このためこの場合には水冷式排気マニホルド30が過冷却状態に陥り、この結果、エンジン20の燃費や、水冷式排気マニホルド30の耐久性ないし信頼性に悪影響が及ぶ虞がある。これに対して冷却装置100Aでは、過渡状態にあるエンジン20の発熱量に応じて、ECU1Aが冷却水Wの流量を変化させる。このため冷却装置100Aは、水冷式排気マニホルド30がかかる過冷却状態に陥ることも防止或いは抑制できる。
【実施例2】
【0051】
本実施例に係る冷却装置100Bは、ECU1Aの代わりにECU1Bを備えている点以外、冷却装置100Aと実質的に同一のものとなっている。また、ECU1Bは、以下に示す判定手段と推定手段と補正手段とがさらに機能的に実現される点以外、ECU1Aと実質的に同一のものとなっている。このため本実施例では冷却装置100BおよびECU1Bについては図示省略する。
【0052】
ECU1Bでは、エンジン20の運転状態を判定する判定手段として、吸入空気量GAに基づき、エンジン20の運転状態が高回転高負荷であるか否かを判定する手段(以下、第2の運転状態判定手段と称す)が機能的に実現される。具体的には第2の運転状態判定手段は、吸入空気量GAが所定値以上である場合に高回転高負荷であると判定し、吸入空気量GAが所定値未満である場合に高回転高負荷でないと判定するように実現される。
【0053】
またECU1Bでは、水冷式排気マニホルド30のうち、排気ガスが流通する流路を形成する壁部(具体的には複数の排気管301)の温度について推定をする推定手段(以下、壁部温度推定手段と称す)が機能的に実現される。壁部温度推定手段は本実施例では具体的にはエンジン20の運転状態が高回転高負荷である場合に、壁部が高温であると推定をするように実現される。
【0054】
またECU1Bでは、壁部温度推定手段の推定に基づき、第1または第2の流量決定手段のうち、エンジン20の運転状態に応じた流量決定手段が決定するウォータポンプ10の吐出量を補正する補正手段(以下、流量補正手段と称す)が機能的に実現される。この点、水冷式排気マニホルド30に流通させる冷却水Wの流量は、ウォータポンプ10の吐出量を補正することで同時に補正されることになる。
【0055】
流量補正手段は具体的には以下に示すように実現される。すなわち、流量補正手段は壁部が高温である場合には、吸入空気量GAを積算することで積算吸入空気量ΣGAを算出する。そして流量補正手段は、算出した積算吸入空気量ΣGAに応じた流量補正量を、第1または第2の冷却水流量特性のうち、エンジン20の運転状態に応じた冷却水流量特性に設定されたウォータポンプ10の吐出量に加算する。
また流量補正手段は壁部の温度が高温でなくなった場合には、積算吸入空気量ΣGAから現在の吸入空気量GAを減算することで、積算吸入空気量ΣGAを更新する。そして流量補正手段は更新した積算吸入空気量ΣGAが所定値(例えばゼロ)以上である場合に、積算吸入空気量ΣGAに応じた流量補正量を第1または第2の冷却水流量特性のうち、エンジン20の運転状態に応じた冷却水流量特性に設定された冷却水Wの流量に加算する。
流量補正量は、具体的には図15に示すようにROM3に予め格納されたマップデータで高負荷域の積算吸入空気量ΣGAに応じ、比例して増減するように設定されている。
【0056】
次にECU1Bの動作を図16に示すフローチャートを用いて、図17に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図16に示すように、ECU1Bはまず吸入空気量GAを検出する(ステップS11)。続いてECU1Bは、検出した吸入空気量GAが高負荷判定の判定閾値である所定値以上であるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12で肯定判定であれば、エンジン20の運転状態が高回転高負荷であると判定される。またステップS12で肯定判定であれば、壁部が高温であると推定される。このときECU1Bは高負荷判定フラグをONにする(ステップS13)。図17において、時間T1の状態がこのときの状態に対応している。
【0057】
続いてECU1Bは検出した吸入空気量GAを積算し、積算吸入空気量ΣGAを算出する(ステップ14)。さらにECU1Bは、積算吸入空気量ΣGAに応じた流量補正量を第1また第2の冷却水流量特性のうち、エンジン20の運転状態に応じた冷却水流量特性に設定されたウォータポンプ10の吐出量に加算する(ステップS15)。ステップS15の後には、本フローチャートを一旦終了する。そしてステップS12で否定判定されるまでの間、ECU1BはステップS11からS15までに示す処理を繰り返し実行する。
【0058】
一方、ステップS12で否定判定であれば、エンジン20の運転状態が高回転高負荷でないと判定される。またステップS12で否定判定であれば、壁部が高温でないと判定される。このときECU1Bは高負荷判定フラグをOFFにする(ステップS16)。図17において、時間T2の状態がこのときの状態に対応している。続いてECU1Bは積算吸入空気量ΣGAから現在の吸入空気量GAを減算し、積算吸入空気量ΣGAを更新する(ステップS17)。さらにECU1Bは、算出した積算吸入空気量ΣGAが所定値(ここではゼロ)以上であるか否かを判定する(ステップS18)。
【0059】
ステップS18で肯定判定であった場合には、ステップS15に進む。そしてステップS18で否定判定されるまでの間、ECU1Bはこれらの処理を繰り返し実行する。一方、ステップS18で否定判定であった場合には、ECU1Bは積算吸入空気量ΣGAをリセットする(ステップS19)。図17において、時間T3がこのときの状態に対応している。そしてここまでの一連の動作で、流量補正量は図示の積算吸入空気量ΣGAの面積に応じた分だけ加算されたことになる。
【0060】
次に冷却装置100Bの作用効果について説明する。ここで、エンジン20の運転状態が高回転高負荷の運転状態から低回転の運転状態に変化したとする。この場合には、図18に示すように回転数NEが低下するとともに、吸入空気量GA(すなわちエンジン20の発熱量)が低下する。ところが、水冷式排気マニホルド30の壁部には、高回転高負荷時の排気ガスからの受熱により熱がこもっている。そして特にエンジン20の運転状態が、高回転高負荷の運転状態から低回転高負荷の運転状態に変化した場合には、水冷式排気マニホルド30の壁部の温度が、図18に破線で示すように暫くの間、高いままの状態となる。
【0061】
一方、この場合には回転数NEの低下に伴い冷却水Wの流量が低下することから、水冷式排気マニホルド30の冷却能力が低下する。このためこの場合には、吸入空気量GAや冷却損失Qwに基づき決定された流量だけでは冷却が間に合わず、水冷式排気マニホルド30において冷却水Wがオーバーヒート或いは沸騰する虞がある。具体的には、図19に示すように冷却水Wが高温化し、沸騰現象が局所的に確認される状態となることがある。そしてこの場合、具体的には例えば沸騰部位における水冷式排気マニホルド30の排気ガス冷却効率の低下や、各部の温度差で熱歪が生じることによる水冷式排気マニホルド30の耐久性ないし信頼性の低下や、沸騰した冷却水Wの劣化が生じる。
【0062】
これに対して冷却装置100Bでは、ECU1Bが積算吸入空気量ΣGAに応じた流量補正量を、第1または第2の冷却水流量特性のうち、エンジン20の運転状態に応じた冷却水流量特性に設定されたウォータポンプ10の吐出量に加算する。これにより、水冷式排気マニホルド30を流通する冷却水Wの流量をさらに増大させることができる。このためこれにより、暫くの間、高温のままとなる水冷式排気マニホルド30の壁部を適切に冷却することができる。このため冷却装置100Bは、エンジン20の運転状態がさらに高回転高負荷の運転状態から低回転高負荷の運転状態に移行した場合でも、水冷式排気マニホルド30で冷却水Wがオーバーヒート或いは沸騰することを好適に防止或いは抑制できる。
【0063】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
例えば上述した実施例では、流量可変手段として流量可変構造70を備えた場合について説明した。しかしながら本発明においては必ずしも限られず、流量可変手段は冷媒の流量を変更することが可能なその他の適宜の構成であってもよい。
【0064】
この点、流量可変手段は具体的には例えば図20に示す可変式ウォータポンププーリ76によっても実現することができる。このプーリ76はプーリ72の代わりに適用することができる。この場合、アイドラプーリ74はベルト73のテンションを調節するために利用され、アクチュエータ75は不要となる。
プーリ76は、円錐台状の一対のプーリ部材76aを備えている。プーリ76は、軸方向中央を中心として、互いに離間、接近するように各プーリ部材76aを駆動させることが可能な構造を備えている。ベルト73は各プーリ部材76aに均等に掛かるようにしてプーリ76に掛けられている。プーリ76は油圧駆動式となっており、アクチュエータ75の代わりに制御対象として適用することで、ECU1Aの制御のもと、油圧を切り替えることで各プーリ部材76aを駆動することが可能になっている。
【0065】
各プーリ部材76aの定位置は、図20(a)に示すように各プーリ部材76aが互いに当接する位置となっている。そして、図20(b)に示すように各プーリ部材76aが互いに離間する方向に駆動されると、これに伴いベルト73に対応する径がプーリ76上で縮小される。したがってこれにより、ウォータポンプ10の回転を高め、吐出量を増大させることができる。またプーリ76を逆に動作させることで、ウォータポンプ10の吐出量を減少させることができる。そして流量可変手段としてかかるプーリ76を備えることでも、機械式のウォータポンプ10で冷却水Wを圧送する場合に冷却水Wの流量を変更することができる。
【0066】
また上述した実施例では、実際の冷却損失Qwとの相関関係が高く、より適切な流量制御を行える点で好適であるため、定常時に第1の流量決定手段が流量を決定し、過渡時に第2の流量決定手段が流量を決定する場合について説明した。
しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、例えば定常時および過渡時ともに流量決定手段が、第1の流量決定手段または第2の流量決定手段のうち、いずれか一方の流量決定手段であってもよい。この場合には、制御の簡素化を図ることができる。またこの場合には、定常時と過渡時が比較的短時間の間に繰り返された場合に、第1の流量決定手段と第2の流量決定手段とによって流量が段差的に繰り返し変更されることを防止でき、以って流量可変手段の信頼性の向上や、制御の安定化を図ることができる。
また、本発明においては、例えば少なくとも定常時には第1の流量決定手段が流量を決定するようにしてもよく、少なくとも過渡時には第2の流量決定手段が流量を決定するようにしてもよい。
また、第1または第2の流量決定手段のうち、いずれか一方の流量決定手段が定常時および過渡時に流量を決定する場合には、排気系冷却手段の受熱量に基づき流量を決定する第2の流量決定手段のほうが、全体としてより適切な流量制御を行える点で好適である。
また、第1の流量決定手段または第2の流量決定手段のうち、いずれか一方の流量決定手段が定常時および過渡時に流量を決定する場合、補正手段は、当該流量決定手段が決定する流量を補正するようにすることができる。
また、定常時に第1の流量決定手段が流量を決定し、過渡時に第2の流量決定手段が流量を決定する場合であっても、補正手段が流量を補正する時には、第1または第2の流量決定手段のうち、いずれか一方の流量決定手段(例えば第2の流量決定手段)が流量を決定するようにしてもよい。この場合には流量可変手段の信頼性の向上や、制御の安定化を図ることができる。
【0067】
また上述した実施例では、冷媒圧送装置が機械式ウォータポンプ10である場合に好適であることから、かかる場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、例えば冷媒圧送装置が電動ウォータポンプである場合でも、本発明を適用することにより排気冷却手段で冷媒がオーバーヒート或いは沸騰することを好適に防止或いは抑制できる。
【0068】
また、上述した実施例では排気系冷却手段が水冷式排気マニホルド30である場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、排気系冷却手段は流通する冷媒でエンジンの排気系を冷却することが可能なその他の適宜の構成であってもよい。この点、排気系冷却手段は例えば排気マニホルドとエンジンとの間に設けられるとともに、これらを接続するように構成されたアダプタでも実現することができる。
【0069】
また、流量決定手段や推定手段や補正手段などの各種手段は主にエンジン20を制御するECU1で実現することが合理的であるが、例えばその他の電子制御装置や専用の電子回路などのハードウェアやこれらの組み合わせによって実現されてもよい。この点、流量決定手段や推定手段や補正手段などの各種手段は、例えば複数の電子制御装置や複数の電子回路等のハードウェアや電子制御装置と電子回路等のハードウェアとの組み合わせによって分散制御的に実現されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 ECU 10 ウォータポンプ
20 エンジン 30 水冷式排気マニホルド
301 排気管 40 ヒータコア
50 ラジエータ 60 サーモスタット
100 冷却装置

Claims (3)

  1. 複数の冷媒循環経路に共通の冷媒を圧送する冷媒圧送装置と、
    前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路にエンジン本体が組み込まれたエンジンと、
    前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路に組み込まれ、前記エンジン本体よりも熱容量が小さく、且つ流通する冷媒で前記エンジンの排気系を冷却する排気系冷却手段と、
    前記複数の冷媒循環経路のうち、少なくとも1つの冷媒循環経路に組み込まれ、流通する冷媒を冷却する冷却器と、
    前記エンジンの運転状態が前記エンジンのスロットル弁の開度変化が所定値以下である定常状態の場合には、前記エンジンの吸入空気量に基づき前記排気系冷却手段に流通させる冷媒の流量を決定し、前記エンジンの運転状態が前記スロットル弁の開度変化が前記所定値より大きい過渡状態の場合には、前記エンジン本体を流通した冷媒の温度と前記エンジンの吸気温度と前記エンジンの回転数と前記エンジンの吸入空気量に基づき排気系の冷却損失を推定し、前記排気系の冷却損失に基づき前記排気系冷却手段に流通させる冷媒の流量を決定する流量決定手段と、
    前記流量決定手段が決定した前記流量で前記排気系冷却手段に冷媒が流通するように、前記冷媒圧送装置が圧送する冷媒の流量を制御する流量制御手段と、を備えたエンジンの冷却装置。
  2. 請求項1記載のエンジンの冷却装置であって、
    前記流量決定手段は、前記エンジン本体を流通した冷媒の温度と前記エンジンの吸気温度との和と、前記エンジンの回転数と、前記エンジンの吸入空気量と、の積に基づいて前記排気系の冷却損失を推定するエンジンの冷却装置。
  3. 請求項1または2記載のエンジンの冷却装置であって、
    前記排気系冷却手段のうち、排気ガスが流通する流路を形成する壁部の温度について推定をする推定手段と、
    前記推定に基づき、前記流量決定手段が決定する冷媒の流量を補正する補正手段と、をさらに備えたエンジンの冷却装置。
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