JP5185712B2 - バラストタンク用鋼材、バラストタンクおよび船舶 - Google Patents

バラストタンク用鋼材、バラストタンクおよび船舶 Download PDF

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Description

本発明は、大型船舶の航行中における安定性を確保するために不可欠なバラストタンクに使用される鋼材であって、耐食鋼とその表面に塗布される防錆用ジンクリッチプライマーおよびその上に塗布される防食樹脂皮膜の組み合わせから成る耐食鋼に関する。
過酷な腐食環境に曝される船舶用バラストタンクには、耐食性を有する鋼材に重防食塗装が施された材料が使用され、さらに、安全性と信頼性を向上するために、流電陽極法などの電気防食法が併用される場合が多いが、防食塗装された鋼材であっても腐食の回避は容易ではない。たとえば、タールエポキシ樹脂塗装を施した場合でも水分、塩分、酸素などの化学物質が浸透して塗膜下の鋼材を腐食させ、さらにはこの腐食生成物の膨張圧により塗膜が膨れて破壊されるに至って鋼材が露出し、外界との遮断性が完全に崩壊する。
しかも塗装初期の塗膜自体の欠陥や船舶建造時における塗膜の傷損のみでなく、鋼材のエッジ部や施工不良部のように、防食塗膜が極度に薄くなりやすい部位では、素地鋼材が部分的に露出して集中的な腐食を招くことになる。
なお、電気防食法を併用しても電気化学反応に必要な電解質水溶液が存在しない海水なき積荷時やバラストタンクに海水が注入されても上甲板裏などの海水が接触しない空間部分では、電気防食法による効果はいずれも期待できない。
また、船体が海水にて冷却されているのに太陽熱により上甲板が加熱されてバラストタンク内が高温になるような状況では、バラストタンク内の防食塗膜に温度差勾配を生じ、そのために生起する浸透圧により水分が防食塗膜から素地鋼材に侵入して鋼材の腐食を促進する。
このように、従来の一般的なバラストタンク用鋼材の防食方法では、船舶の就航後それほどの日時を経過しないうちに塗装の修復やドックでの定期検査・補修時の再塗装が不可欠となる。
もちろん、バラストタンク用鋼材自体の耐食性を向上させる目的で鋼組成を調整する方法も提案されている。たとえば下記特許文献1は、バラストタンクの腐食環境に対しては、鋼材界面のpH低下を抑制すれば耐食性が向上するとの着眼点にもとづいて、Mg、Ca、Cuなどの成分を添加した鋼材を開示する。
このような鋼材自体の改良には耐食性向上になお不十分な点があることから、特許文献2は、ジンクリッチプライマー塗装した鋼材を開示するが、この発明も鋼へのNi添加がZn腐食生成物のイオン透過抵抗を高めてプライマー塗装の防食効果を向上しようとするもので、鋼材自体の工夫に過ぎない。
なお、バラストタンク用鋼材の鋼組成を改良した発明として特許文献3が公開されている。
これらの鋼組成を改良するだけでは、バラストタンク用鋼材の総括的な防食機能をさらに向上するにはなお限界があり、経済面からも不十分さを残している。
特開2000−17381号公報 特開2005−171332号公報 特開2008−31540号公報
本発明は、鋼組成の改良にはなお限界があり、鋼組成の工夫と防食塗装の機能との両面からバラストタンク用鋼材の耐食性向上を企図するものである。すなわち、本発明は、バラスト時にも海水不在にて電気防食が作用しない上甲板裏側や積荷の加熱部あるいはエンジン近傍のように、高温での過酷な腐食環境に曝される部位に適用して確実に耐食性が保持できるバラストタンク用鋼材の提供を課題とする。
本発明のバラストタンク用鋼材は、上記課題を解決するために、鋼材の化学組成を下記する特定の範囲に調整すると同時に、その表面に施されるジンクリッチプライマーさらにはその上に塗装される防食塗膜との関係からも配慮する構成したことを特徴とする。すなわち、
(1)C:0.01〜0.30質量%(以下、%と略記。)、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.01%以下、S:0.0005〜0.005%、Al:0.005〜0.10%、Cu:0.01〜5.0%、Ni:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%を含有し、残部が鉄および不可避の不純物から成る鋼材の表面に、亜鉛粉末および無機化合物の粒子状骨材を含有するジンクリッチプライマーが塗布され、鋼材と同プライマーとの界面粗さの最大高さRz:20〜90μm、上記亜鉛粉末の平均粒径が1〜10μmであり、また上記無機化合物の粒子状骨材の最大長径が10μm以上で上記プライマーの平均膜厚の2倍以下であるバラストタンク用鋼材。
(2)Mg、CaまたはSrの1種以上をそれぞれ0.0001〜0.005%含有する上記1に記載されたバラストタンク用鋼材。
(3)Co、TiまたはZrの1種以上をそれぞれ0.005〜0.20%含有する上記1または2に記載されたバラストタンク用鋼材。
(4)B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%またはNb:0.003〜0.50%の1種以上を含有する上記1、2または3に記載されたバラストタンク用鋼材。
(5)上記1、2、3または4に記載された鋼材から構成され、そのジンクリッチプライマーの表面に、厚さが100〜800μmの防食樹脂皮膜を塗布したバラストタンク。
(6)上記5に記載されたバラストタンクが搭載された船舶。
本発明は、上記したように、鋼自体の化学組成を特定し、かつ、素地鋼材の表面粗さを調整する一方で、防錆用ジンクリッチプライマーと防食塗料との配合成分を相互に調整することにより、鋼材自身の耐食性を向上するだけではなく、防食塗層膜の膨れによる劣化が効果的に抑制でき、過酷な環境条件下で使用されるバラストタンクさらには船舶に適用して確実に耐食性が発揮できる。
本発明のバラストタンク用鋼材は、まず、その鋼材自体の化学組成を上記(1)に記載したように、この種鋼に必須とされるC、Si、Mn、Alなどの基本成分に加えてCu、Ni、Crをも必要成分として添加し、それらの含有量をつぎに説明するように適切に調整したことが特徴である。
・C:0.01〜0.30%
バラストタンクの構造部材として要求される最低強度すなわち400MPa程度(但し、鋼材の肉厚による。)を得るために、0.01%以上のCを必要とするが、0.30%を超えると鋼の靭性が劣化する。こうしたことから、C含有量の範囲は0.01〜0.30%とする。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.28%であり、より好ましくは0.26%以下とするのが良い。
・Si:0.01〜2.0%
Siは脱酸と強度確保に必要な元素であり、構造部材の最低強度を確保するために0.01%以上を必要とするが、2.0%を超えると溶接性が劣化するので、Siの含有量は0.01〜2.0%とする。尚、Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.05%以上とするのが良い。また、Si含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましくは1.60%以下とするのが良い。
・Mn:0.01〜2.0%
Mnも脱酸と強度確保に必要な元素であり、構造部材の最低強度を確保するために0.01%以上を必要とするが、2.0%を超えると靭性が劣化する。従って、Mnの含有量0.01〜2.0%とする。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましくは0.10%以上とするのが良い。また、Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましくは1.60%以下とするのが良い。
・P:0.01%以下
本発明は、鋼材の靭性および溶接性を重視するので、これらの性質を劣化させるPは可能な限りその含有量を低減させることが必要であり、0.01%以下とする。なお、Pは鋼材の耐海水性を向上するために0.02%以上を添加させる場合があるが、本発明はこの機能を利用する必要はないから、0.01%以下とする。
・S:0.0005〜0.005%
SもPと同様に鋼材の靭性および溶接性を劣化させるので、できるだけ含有量を低減させることが必要であり、許容限は0.01%であり、これを超えるとバラストタンク用の鋼材として必要な溶接性が確保できないので、本発明では0.005%以下とする。
・Al:0.005〜0.10%
AlもSiおよびMnと同じく脱酸および強度確保に必要な元素であり、とくに脱酸のためには0.005%以上を要するが、0.10%を超えると溶接性を阻害する。従って、Alは0.005〜0.10%とする。尚、Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましくは0.015%以上とするのが良い。また、Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.090%以下とするのが良い。
・Cu:0.01〜5.0%
Cuは耐食性向上に有効な元素である。Cuは防食塗膜下で発生する腐食反応を抑制する作用を有しており、塗装の薄膜部分などで発生しやすい塗幕下腐食による塗膜膨れを抑制する効果を有する元素である。また、塗膜欠陥部において、鋼材が腐食を受けた場合に生成錆を緻密化する作用も有しており、塗膜傷部の腐食進展を抑制する効果を発現するのに有効な元素である。これらの作用効果を十分に発揮させるためには、0.01%以上含有させることが必要であるが、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化することから、5.0%を上限とする。Cuを含有させるときのより好ましい下限は0.05%であり、より好ましい上限は0.90%である。
・Ni:0.01〜5.0%
Niは耐食性向上に有効である。NiもCuと同様に防食塗膜下で発生する腐食反応を抑制する作用を有しており、塗装の薄膜部分などで発生しやすい塗幕下腐食による塗膜膨れを抑制する効果を有する元素である。また、塗膜欠陥部において、鋼材が腐食を受けた場合に生成錆を緻密化する作用も有しており、塗膜傷部の腐食進展を抑制する効果を発現するのに有効な元素である。また、Niは、Cu添加による赤熱脆性を防止するのに必要な元素である。こうした作用効果を十分に発揮させるためには0.01%以上含有させることが必要である。しかしながら、添加量が過剰になると溶接性や熱間加工性が劣化することから、5.0%以下に抑制しなければならない。尚、Niのより好ましい下限は0.05%であり、より好ましい上限は0.90%である。
・Cr:0.01〜5.0%
Crも耐食性の向上に有効な元素であるが、とくに防食塗膜下でのジンクリッチプライマー消耗を抑制する作用があり、さらには塗膜傷部の鋼材腐食の進展を抑制する効果も期待できる。また、Crの添加は鋼材の靭性を高めるので、バラストタンクの構成材として必要な機械特性を得るのに有効である。 これらの作用効果を発揮させるには、0.01%以上のCrが必要であるが、過剰のCrは鋼材の溶接性や熱間加工性を低下するので、5.0%をその上限とする。尚、Crを含有させるときのより好ましい下限は0.05%であり、より好ましい上限は0.45%である。
本発明のバラストタンク用鋼材をバラストタンク底板として実施する場合は、上記した基本的元素に加えてMg、Ca、Srの1種以上を、それぞれ0.0001〜0.005%の範囲で追添することにより、鋼の耐食性が向上し、鋼材の特性をさらに改善することができる。
また、防食塗膜を施した鋼材に腐食が発生した場合、塗膜/鋼材界面における外部への水素イオン拡散が抑制され、鋼材腐食により溶解したFeイオンの加水分解によるpHが低下し、塗膜下腐食がさらに加速される。この事態に対して、Mg、Ca、Srの存在は、鋼材腐食によるpH低下を緩和するように作用し、結果的にはpH低下による腐食促進を抑制して塗膜膨れが効果的に防止できる。
Mg、Ca、Srによるこれらの効果を発揮させるには、0.0001%の添加が必要であるが、0.005%を超えると鋼材の加工性および溶接性を劣化するので、好ましくは、0.0005%以上、0.004%以下がよい。なお、上記効果はMgにCoを共添する場合にとくに有効である。
また、Co、Ti、Zrの1種以上を、それぞれ0.005〜0.20%の範囲で追添することにより、とくに海水の塩化物腐食環境で生成する錆びの緻密化を促進し、塗膜傷部における腐食の進展を抑制する効果が期待できる。このためには、各元素とも0.005%以上の添加が必要であるが、0.20%以上の添加は鋼材の加工性および溶接性を劣化するので、好ましい上限は0.15%、好ましい下限は0.008%である。
さらに、B、V、Nbの1種以上を追添することにより、使用目的に応じて鋼材の機械特性を向上させることができる。Bは、0.0001%以上を含有させることにより、焼入性が向上して強度を高めるが、靭性の劣化を防止するために0.010%以下とする。好ましい上限は0.0090%、好ましい下限は0.0003%である。
Vは0.01%以上の含有にて強度を高めるが、靭性の劣化を防止するために0.50%以下とする。好ましい上限は0.45%、好ましい下限は0.02%である。
Nbは0.003%以上の含有にて強度を高めるが、靭性の劣化を防止するために0.50%以下とする。好ましい上限は0.45%、好ましい下限は0.005%である。
なお、本発明のバラストタンク用鋼材における不可避の不純物にはO、N、H、Mo、Wなどがあるが、いずれも0.1%、できれば0.01%を超えないように制御するのがよい。
上記化学組成の鋼材は、転炉あるいは電気炉による通常の製鋼法にて溶製し、連続鋳造等の造塊法により鋼塊としたのち、1100〜1200℃に加熱する熱間圧延により製造される。なお、バラストタンク用鋼材として適切な機械特性および溶接性を有するキルド鋼、とくにAlキルド鋼とするために、所要の脱酸形式を採用するのが好ましい。DH法やRH法等の炉外脱ガス法による炉外精錬を実施して非金属介在物を低減させることが好ましい。
さて、バラストタンク用鋼材は、製鉄所から出荷されて防食塗料が塗布されるまでの期間に発錆するのを防止する目的でジンクリッチプライマーが塗布されるが、本発明では、鋼材とジンクリッチプライマーとの密着性をよくするために、以下の手段を講ずる点に特徴がある。
ジンクリッチプライマーとの密着性をよくするために、通常、素地鋼材の表面はショットブラスト等により清浄化処理されるが、本発明では、ショットブラストの加工時間・ブラスト圧力を制御して素地鋼材の表面粗さを、その最大高さ(Rz)が20〜90μmとなるように調整する。素地鋼材の表面粗さがこの範囲を逸脱すると、ジンクリッチプライマーとの密着性が低下し、とくにRzが90μmを超えると防食性が損なわれるようになる。
つぎに、本発明は、ジンクリッチプライマーに配合される亜鉛末の平均粒径を1〜10μmに調整することが特徴である。ジンクリッチプライマーは、通常、10〜30μmの厚さに塗布され、その乾燥膜厚はおよそ15μm前後となるが、亜鉛末の平均粒径が10μm以下であると、亜鉛末粒子がプライマーの乾燥膜厚内におさまって防錆作用が有効に機能することが確認できる。ただし、平均粒径が1μm以下の微粒子は取り扱いが困難であり、製造コスト面からも好ましくない。
また、本発明では、亜鉛末に加えて、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、マイカ、シリカ、カオリン、タルク、アルミナ等の無機化合物の粒子状骨材を含有するジンクリッチプライマーを素地鋼材に塗布することが特徴である。これらの粒子状骨材がジンクリッチプライマーに配合されると、亜鉛末の単独配合に比較して、塗料の密着性が増大するとともに防錆性を向上することが確認される。
さらに、本発明では、上記粒子状骨材の最大長径を10μm以上から、塗布されたジンクリッチプライマーの乾燥膜厚の2倍以下の範囲に調整することを特徴とする。粒子状骨材の最大長径が10μm以下の細粒になると、素地鋼材および防食樹脂塗装に対してジンクリッチプライマーの塗装密着性が不良化することが確認される。
また、上記したように、ジンクリッチプライマーは、通常、10〜30μmの厚さに塗布され、乾燥膜厚は一般的には15μm前後となるが、無機化合物の粒子状骨材の最大長径が同乾燥膜厚の2倍に相応する30μmを超えるほどの粗粒子であると、その部分に浸透した水分等が滞留しやすくなり、かえって耐食性を阻害することが確認される。
以上に説明した構成のジンクリッチプライマー塗布鋼材をバラストタンクに適用する場合、本発明は、その表面に防食樹脂塗装膜を100〜800μmの厚さに被着した耐食性鋼材を特徴とする。この防食樹脂は、タールエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂あるいはアクリル樹脂等が使用できる。
これらの防食樹脂塗装をほどこすのは、海水中の水分その他各種化合物成分が浸透するのを効果的に遅滞させることにより、使用環境が苛酷なバラストタンクに耐食性を付与するためである。そのためには、100μm以上の、好ましくは250μm以上の樹脂塗装膜を必要とするが、800μm以上の厚さは不必要であり、バラストタンク内外の温度勾配が厚い樹脂塗装膜をかえって膨張させて耐食性を損なうようになる。
なお、本発明の実施に付随して、上記の樹脂塗装と流電陽極法や外部電源法等の電気防食を併用することを妨げるものではない。
(実施例)
本発明の実施例ならびに比較例として、表1〜4に示すAlキルド鋼を準備した。すなわち、転炉より出鋼した溶鋼を、RH真空脱ガス装置を用いてArガスによるバブリング処理をし、撹拌しながら所定の成分調整を行い、連続鋳造法により鋼塊とした。得られた鋼塊を1150℃に加熱し、熱間圧延して厚さ19mmの鋼板を作製した。
得られた鋼板から30×30×5mmの大きさの試験片を切り出し、試験片の全面を湿式回転研磨機(研磨紙:#600)で研磨仕上げし、サンドブラストにより粗さを下記するように調整した。ついで、水洗およびアセトン洗浄後、下記するように別途調製したジンクリッチプライマーを平均膜厚が15μm(15±3μm)となるように塗布し、24時間以上デシケータ内で乾燥させた。次にワイヤブラシがけを行い、その上から、別途調製した変性エポキシ樹脂をエアレススプレーで塗布した。
サンドブラストによる試験片の粗さ調整は、本発明の実施例ではすべてその最大高さRzが20〜90μmの範囲(表2、表4)で、比較例の2例では同範囲を逸脱するようにして(表2)実施した。
使用したジンクリッチプライマーは、質量比で亜鉛末92%および全体の5%以下の炭酸カルシウムなどの無機化合物の粒子状骨材を配合したものを用いた。
また、亜鉛末の平均粒径は、本発明の実施例ではすべて1〜10μmの範囲(表2、表4)で、比較例の1例では同範囲を逸脱するもの(表2)を配合した。
無機化合物の粒子状骨材は、その最大長径が、本発明の実施例ではすべて10μm以上で、ジンクリッチプライマーの平均膜厚15μm(15±3μm)の2倍以下より小さいもの(表2、表4)を、また比較例の1例ではそれより大きいもの(表2)をそれぞれ配合した。
一方、防食樹脂塗装の膜厚については、本発明の実施例ではすべて100〜800μmの範囲(表2、表4)で、比較例の1例では同範囲を逸脱するもの(表2)を例示した。
なお、比較例の大半はジンクリッチプライマーの配合条件が本発明の規制範囲と重複するが、以下に説明するように、これらの比較例に使用した試験片の鋼組成が本発明の規制範囲から逸脱している点に注目すべきである。
[腐食試験方法]
39種の試験片について、バラストタンク内を模擬したラボ評価試験方法により、実機バラストタンクと同様の使用条件下に相当する腐食の程度を検証した。
図1に示すように、試験液の人工海水を満たした試験槽内に試験片を垂直に設置し、試験片の試験面側の温度を40℃に、その裏面を20℃に調整し、防食塗膜に温度差勾配を付与した。空荷のバラスト状態を模擬するように、試験片全体を水没させた状態で2週間保持し、その後、人工海水を排除し、図2に示すように、試験片を水面上に露出させた模擬積荷状態を1週間保持した。
なお、図2の状態では、試験槽内の試験片より下部に人工海水を残存させて、気相部の温度差によって試験片の温度差勾配を維持させ、温度の高い側から低い側へ塗膜の水分浸透が促進されるように配慮した。そして、塗膜下腐食が顕著となる高温側(40℃)を試験面(評価面)とした。
評価試験では、図1および図2の状態を繰り返し、合計24週間(168日)まで継続した。試験に供した試験片の個数は各5個である。
各試験片について、塗膜/鋼材界面での腐食生成物の膨張圧による塗膜膨れが発生するまでの時間を測定し、膨れ性を評価した。塗膜膨れ発生までの時間は、1日1回の目視による外観観察を行って、各々供試した5個の試験片のいずれかに塗膜膨れが認められるまでの時間とした。
[腐食試験結果]
腐食試験結果は表2および表4に示すように、塗膜膨れ発生までの時間を下記6段階に分けて評価した。
7日未満:×、7日以上14日未満:、△14日以上35日未満:○
35日以上56日未満:◎、56日以上77日未満:◎◎
77日以上:◎◎◎
以下、個別に評価結果を考察する。さきに比較例について:
・No,1は塗装の規定値は満たすものの、鋼材にCu,NiおよびCrが含有されておらず、鋼材の耐食性そのものが非常に劣るため、バラストタンクとしての耐食性が不十分である。
・No.2は粒子状無機化合物の粒子状骨材の最大長径が30μmを超えており、×の評価で非常に劣る。
・No.3およびNo.4は、それぞれCu含有量およびCr含有量が不足するため、鋼材の耐食性改善が不十分であり、バラストタンク用鋼材としては不適である。
・No.5は各添加元素の成分範囲は規定値を満たすが、鋼材の表面粗さの最大高さRzが非常に大きく、塗装耐食性改善が不十分であり、×である。
・No.6は樹脂塗膜が薄くなった部分を想定したもので、×となり非常に劣る。
・No.8は無機化合物骨材の最大長径が非常に細かく健闘しているが、塗装密着性が悪く、膨れが生じているため、△となり劣る。亜鉛末の平均粒径が大きい。
・No.10ではジンクリッチプライマー膜からはみ出している亜鉛末もあり、耐食性が悪く×であり、いずれも耐食性に優れるバラストタンクとしては満足できるものではない。
これらの比較例に対して、各構成条件が本発明の範囲内に調整された実施例の鋼材(No.11〜39)は、耐食性がいずれも○以上のレベルに向上し、さらに、鋼材成分に加えて、本発明の条件を満足するように調整されたジンクリッチプライマーおよび防食樹脂塗装をほどこした試験片は、耐食性の向上と樹脂塗膜膨れの発生も確実に抑制されていることが明らかである。
すなわち、防食樹脂塗装の膜厚について考察すると、その膜厚が100〜800μmの本発明範囲で、200μm以下のもの(たとえば、No.13、No.19、No.34、No.36)と、200μmを超えるもの(No.12、No.24、No.22)とを比較すると、樹脂膜厚が厚くなるほど耐食性が増して◎◎レベルになることが明らかである。これは樹脂膜が水分等の浸透を抑える作用がその厚さに比例して膨れ発生時間が長期化し鋼材の耐食性を向上するからである。
さらに防食樹脂塗装の膜厚を250μm以上に大きくし、かつ、含まれる最大長径が10〜15μmの無機化合物骨材をジンクリッチプライマー中に配合したもの(たとえば、No.22、No.27、No.31)は、◎◎レベルの耐食性を発揮している。ただし、粒子状骨材の最大長径があまり大きいもの(No.22)よりも、No.25のように最大長径が比較的に小さい方が、耐食性が比例して高くなることが理解できる。
つぎに、No.38およびNo.39の試験片は、防食樹脂塗装の膜厚が、ジンクリッチプライマー中の亜鉛末の平均粒径および粒子状骨材の最大長径に比べて十分に厚く、また、骨材の最大長径および亜鉛末の平均粒径もプライマー平均膜厚15μm以下であることから、77日を過ぎても塗膜膨れの発生が観察されず、特に優れた耐食性を示した。これらの結果から、CaおよびTiを含有し、かつ表面粗さの最大高さRzを40〜50μmに調整した素地鋼材に、平均粒径4.0〜5.0μmの亜鉛末および最大長径が10μm以上かつジンクリッチプライマーの膜厚の1倍以下の無機化合物骨材を含有するジンクリッチプライマーを塗布し、さらにその上に膜厚が250〜500μmの防食樹脂塗装膜を形成することが特に好ましいことが分かる。
その他の実施例も○〜◎◎の評価を得ている。
以上に例示されたように、本発明鋼材は、その構成材料である鋼材自体が耐食性にすぐれるために、塗膜膨れを起点とする塗膜劣化を遅延させ、腐食進展を抑制することができる。さらに、ジンクリッチプライマーおよび防食塗装のほどこされた本発明鋼材は、これらジンクリッチプライマーおよび防食塗装自体に、経時的な防食機能が付与されているから、上記鋼材自体の耐食性とあいまって海水に対する耐食防食機能がきわめてすぐれる。したがって、この鋼材により構成されたバラストタンクは耐食性に優れており、海水をはじめとする各種化学物質の鋼材面への浸透を遅らせることができ、さらにこのバラストタンクを船舶に搭載して技術面および保守点検面等で利点が得られる。
Figure 0005185712
Figure 0005185712
Figure 0005185712
Figure 0005185712
腐食試験法の模擬図(高水位:2週間) 腐食試験法の模擬図(高水位:1週間)

Claims (6)

  1. C:0.01〜0.30質量%(以下、%と略記。)、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.01%以下、S:0.0005〜0.005%、Al:0.005〜0.10%、Cu:0.01〜5.0%、Ni:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%を含有し、残部が鉄および不可避の不純物から成る鋼材の表面に、亜鉛粉末および無機化合物の粒子状骨材を含有するジンクリッチプライマーが塗布され、鋼材と同プライマーとの界面粗さの最大高さRz:20〜90μm、上記亜鉛粉末の平均粒径が1〜10μmであり、また上記無機化合物の粒子状骨材の最大長径が10μm以上で上記プライマーの平均膜厚の2倍以下であることを特徴とするバラストタンク用鋼材。
  2. Mg、CaまたはSrの1種以上をそれぞれ0.0001〜0.005%含有する請求項1に記載されたバラストタンク用鋼材。
  3. Co、TiまたはZrの1種以上をそれぞれ0.005〜0.20%含有する請求項1または2に記載されたバラストタンク用鋼材。
  4. B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%またはNb:0.003〜0.50%の1種以上を含有する請求項1、2または3に記載されたバラストタンク用鋼材。
  5. 請求項1、2、3または4に記載された鋼材から構成され、ジンクリッチプライマーの表面に、厚さが100〜800μmの防食樹脂皮膜を塗布したことを特徴とするバラストタンク。
  6. 請求項5に記載されたバラストタンクが搭載された船舶。
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