JP5175497B2 - スクロール式流体機械 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば空気圧縮機、真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
一般に、スクロール式流体機械は、互いに対向する2つのスクロールを備え、各スクロールは、その鏡板の歯底面に渦巻状のラップ部が立設される構成となっている。そして、2つのスクロールを対向して配置することによって、2つのラップ部が重なり合って複数の圧縮室が画成される。この状態で、一方のスクロールを他方のスクロールに対して旋回運動させることにより、圧縮室を連続的に縮小して空気等を圧縮している。
また、従来技術によるスクロール式流体機械には、スクロールのラップ部の歯先面に開口して渦巻状のシール溝を設け、該シール溝内に相手方の鏡板に摺接するシール部材を装着することにより、このシール部材によって各圧縮室の気密性を確保する構成としたものがある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
特開平6−235386号公報 特開2005−163671号公報
そして、特許文献1,2の発明は、シール溝内にシール部材を装着するときに、該シール部材の底面をシール溝の溝底面に当接させることにより、該シール部材をシール溝から突出させている。これにより、シール部材を相手方の鏡板に押付けてラップ部の歯先と相手方の鏡板との間をシールし、圧縮室の気密性を高めている。
さらに、スクロール式流体機械には、シール溝内に装着したシール部材を圧縮室の圧力を利用して浮上させることにより、該シール部材を相手方の鏡板に押付ける構成としたものがある(例えば、特許文献3参照)。
特開平8−93669号公報
ところで、上述の特許文献1,2に記載された従来技術では、シール部材の全長をシール溝の溝底面に当接させて該シール溝から突出させているから、シール部材は、その全長に亘って相手方の鏡板に押付けられた状態となる。このため、シール部材と鏡板との間の摩擦抵抗が過度に大きくなるため、旋回運転時の機械損失が増大し、圧縮性能が低下するという問題がある。
一方、特許文献3に記載された従来技術では、圧縮室の圧力でシール部材を浮上させ、該シール部材を相手方の鏡板に押付けている。この場合、外径側に位置する圧縮室は圧力が低いから、シール部材の外径側部位を浮上させることができず、シール部材と相手方の鏡板との接触が不十分になってシール性が低下するという問題がある。
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、相手方の鏡板に対するシール部材の押付け力を全長に亘って適正にすることにより、シール性を向上すると共に、摩擦抵抗を小さくして機械損失を低減できるようにしたスクロール式流体機械を提供することにある。
本発明によるスクロール式流体機械は、鏡板の内径側から外径側に向けて渦巻状に巻回されたラップ部が軸方向に立設された一方のスクロールと、該一方のスクロールに対向して設けられ鏡板に該一方のスクロールのラップ部と重なり合う渦巻状のラップ部が軸方向に立設された他方のスクロールと、前記各スクロールのラップ部のうち少なくとも一方のラップ部の歯先面に開口して設けられた渦巻状のシール溝と、該シール溝内に装着されて相手方の鏡板に摺接するシール部材とを備えてなる。
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記シール部材には、前記シール溝の溝底面に対面する面のうち、最外径側のほぼ1巻の範囲に軸方向に長寸となるように突出させた長寸シール部を設け、残りの部位を短寸シール部として形成し、前記シール部材は、装着時に前記長寸シール部によって前記シール溝から突出させ、前記シール部材には、前記シール部材の長さ方向に離間して形成され、前記シール溝の溝底面に接触する複数のリップ部を設ける構成としたことにある。
請求項の発明は、前記シール部材には、前記シール部材の長さ方向に離間して形成され、前記シール溝の側面に接触する複数のリップ部を設ける構成としたことにある。
請求項1の発明によれば、シール部材には、シール溝の溝底面に対面する面のうち、最外径側のほぼ1巻の範囲に軸方向に長寸となるように突出させて長寸シール部を設け、残りの部位を短寸シール部として形成し、シール部材は、装着時に長寸シール部によってシール溝から突出させる構成としている。従って、シール部材の全長のうち、シール性が低下する最外径側の部位を長寸シール部とすることにより、この部位を強制的にシール溝から突出させ、相手方の鏡板に押付けることができる。
この結果、長寸シール部は、シール部材によるシール性が低下する最外径側の部分だけを相手方の鏡板に押付けることができるから、シール部材と鏡板との間の摩擦抵抗を小さく抑えることができる上に、十分なシール性を得ることができる。これにより、相手方の鏡板に対するシール部材の押付け力を全長に亘って適正にすることができ、摩擦抵抗を小さくして機械損失を低減できる。また、圧縮室のシール性を向上することにより、圧縮室の容積分の流体を無駄なく圧縮できるから、圧縮性能を高めることができる。
また、シール部材は、最外径側のほぼ1巻の範囲に長寸シール部を形成し、残りの部位を短寸シール部として形成しているから、圧縮室の圧力が高い内径側では、シール溝に侵入する圧縮室の圧力により短寸シール部を浮上させ、相手方の鏡板に押付けることができる。一方、圧縮室の圧力が低くシール部材を浮上することが難しい最外径側のほぼ1巻の範囲では、シール溝から突出した長寸シール部を相手方の鏡板に押付けることができる。
さらに、シール部材には、シール部材の長さ方向に離間して複数のリップ部を設けたから、該各リップ部をシール溝の溝底面に接触させることにより、各リップ部は、シール溝とシール部材との隙間を通って内径側から外径側に漏れようとする圧縮流体を遮断することができ、圧縮効率を高めることができる。
請求項の発明によれば、シール部材には、シール部材の長さ方向に離間して複数のリップ部を設けたから、該各リップ部をシール溝の側面に接触させることにより、各リップ部は、シール溝とシール部材との隙間を通って内径側から外径側に漏れようとする圧縮流体を遮断することができ、圧縮効率を高めることができる。
本発明は、以下に説明する複数の発明を包含する発明群に属する発明であり、以下に、その発明群の実施の形態として、第1および第2の実施の形態について説明するが、そのうち、第1の実施の形態が、本出願人が特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械としてモータ一体型のスクロール式空気圧縮機を例に挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、1は圧縮機の外殻を構成するケーシングで、該ケーシング1は、軸方向一側が開口した有底筒状に形成され、その軸方向他側には、出力軸2Aを有するモータ2が取付けられている。また、スクロール式空気圧縮機は、例えば自動車等の車両に空圧アクチュエータとして搭載される小型の圧縮機となっている。
3はケーシング1の軸方向一側に設けられた固定スクロールで、該固定スクロール3は、例えばアルミニウム、鉄等の金属材、またはその合金材等を用いて形成され、図1、図2に示すように、円板状の鏡板4と、該鏡板4の歯底面4Aに軸方向に向けて立設された渦巻状のラップ部5と、鏡板4の外周側に設けられ、該ラップ部5を取囲む筒状の支持部6とによって大略構成されている。
ここで、ラップ部5は、図3に示すように、例えば最も内径側の端部を巻始め端とし、最も外径側の端部を巻終り端としたときに、内径側から外径側に向けて例えば3巻半程度の渦巻状に巻回されている。そして、ラップ部5の歯先面5Aは、相手方となる旋回スクロール8の鏡板9の歯底面9Aから一定の寸法だけ軸方向に離間し、この歯先面5Aには後述のシール溝7が設けられている。
7はラップ部5の歯先面5Aに開口して設けられたシール溝で、該シール溝7は、後述のチップシール20が装着されるものである。ここで、シール溝7は、図2、図3に示すように、ラップ部5のほぼ全長に亘って延び、該ラップ部5に沿った渦巻状の凹溝として形成されている。
また、シール溝7の断面形状(横断面)は、図4に示すように、例えば略コ字状または四角形状に形成されている。そして、シール溝7は、全長に亘って平坦な溝底面7Aと、該溝底面7Aの径方向内側に位置する内側壁面7Bと、溝底面7Aの径方向外側に位置する外側壁面7Cとを有している。また、シール溝7は、チップシール20が装着される軸方向の寸法、即ち、ラップ部5の歯先面5Aから溝底面7Aまでの深さ寸法が寸法H1に設定されている。
8は固定スクロール3に対向してケーシング1内に旋回可能に設けられた旋回スクロールである(図1参照)。この旋回スクロール8は、固定スクロール3とほぼ同様に、例えばアルミニウム等の金属材料、またはその合金等を用いて形成されている。
そして、旋回スクロール8は、表面側が歯底面9Aとなった円板状の鏡板9と、該鏡板9の歯底面9Aから固定スクロール3の鏡板4に向けて軸方向に立設された渦巻状のラップ部10と、鏡板9の裏面中央に突設され、後述の駆動軸13が連結されるボス部11とによって構成されている。
ここで、旋回スクロール8のラップ部10は、固定スクロール3のラップ部5とほぼ同様に形成されている。即ち、ラップ部10は、図3に示すように、内径側から外径側に向け例えば3巻半程度の渦巻状に巻回されている。また、ラップ部10の歯先面側には、前述したシール溝7と同様のシール溝12が設けられ、このシール溝12にはチップシール25が装着される。
13はケーシング1内に軸受等を介して回転可能に設けられた駆動軸である。この駆動軸13は、図1に示すように、基端側がモータ2の出力軸2Aに取付けられ、該モータ2によって回転駆動される。また、駆動軸13の先端側には、偏心ブッシュ14と旋回軸受15とを介して旋回スクロール8のボス部11が旋回可能に連結されている。この偏心ブッシュ14は、ボス部11と駆動軸13とを径方向に偏心させた状態で互いに連結するものである。
これにより、駆動軸13が回転するときには、その軸線を中心として旋回スクロール8が一定の旋回半径で旋回運動を行う。この場合、ケーシング1と旋回スクロール8の背面側との間には、旋回スクロール8が旋回運動時に自転するのを防止する例えば3個の自転防止機構16(図1中に1個のみ図示)が設けられている。
また、旋回スクロール8は、固定スクロール3に対し例えば180度ずらして重なり合うように配設され、両者のラップ部5,10間には、外径側から内径側(中央)にかけて複数の圧縮室17が画成されている。そして、圧縮機の運転時には、固定スクロール3に設けられた吸込口18から外径側の圧縮室17内に空気を吸込みつつ、この空気を各圧縮室17内で順次圧縮し、最後に、中央側の圧縮室17内に収容された圧縮空気を、固定スクロール3に設けられた吐出口19から外部に吐出する。
次に、固定スクロール3のシール溝7内に装着された固定スクロール3側のチップシール20と、旋回スクロール8のシール溝12内に装着された旋回スクロール8側のチップシール25について説明する。これらのチップシール20,25は、装着方向が異なるために、後述する長寸シール部22,27の突出方向が反対となっており、それ以外はほぼ同様に形成されている。
20は固定スクロール3のシール溝7に装着されたシール部材としてのチップシールを示している。この固定スクロール3用のチップシール20は、固定スクロール3のラップ部5と、相手方となる旋回スクロール8の鏡板9との間をシールするものである。また、チップシール20は、例えば耐熱性、耐摩耗性、摺動性に優れた樹脂材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を含む樹脂複合材料を用いて形成されている。さらに、チップシール20は、図2、図3に示す如く、シール溝7の長さ方向に沿って渦巻状に延びている。そして、チップシール20は、後述する内径側の短寸シール部21と外径側の長寸シール部22とにより大略構成されている。
21はチップシール20の内径側を形成する短寸シール部である。この短寸シール部21は、図4、図5に示すように、略四角形の断面形状を有し、シール溝7の溝底面7Aに対面する底面21Aと、該底面21Aと対向してシール溝7の開口側に配置されるシール面21Bと、シール溝7の内側壁面7Bに対面する内周面21Cと、シール溝7の外側壁面7Cに対面する外周面21Dとを備えている。また、短寸シール部21は、底面21Aからシール溝7に装着され、空気圧で浮上することでシール面21Bが旋回スクロール8の鏡板9に接触する。
さらに、短寸シール部21は、渦巻状をなすチップシール20の全長のうち、後述の長寸シール部22となった最外径側の1巻を除いた残りの範囲に形成されている。詳しくは、短寸シール部21は、中央側の内径端部21Eから後述する長寸シール部22の段部22Eまでの範囲に形成され、この短寸シール部21の範囲はチップシール20の3巻半の巻数のうち、内径側のほぼ2巻半となっている。
ここで、短寸シール部21は、チップシール20の内径側部位を形成するもので、この短寸シール部21では最外径側と異なり、シール面21Bと底面21Aの差圧が大きくなっている。したがって、短寸シール部21は、圧縮空気の差圧により確実に浮上することができ、シール面21Bを相手方となる旋回スクロール8の鏡板9の歯底面9Aに押付けることができる。
22はチップシール20の外径側を形成する長寸シール部を示している。この長寸シール部22は、短寸シール部21と一体形成されている。また、長寸シール部22は、短寸シール部21とほぼ同様に、四角形の断面形状を有し、シール溝7の溝底面7Aに対面する底面22Aと、短寸シール部21のシール面21Bと同一平面をなすシール面22Bと、シール溝7の内側壁面7Bに対面する内周面22Cと、シール溝7の外側壁面7Cに対面する外周面22Dとを備えている。また、長寸シール部22の底面22Aは、短寸シール部21の底面21Aとの境界部に段部22Eを有し、この段部22Eにより、長寸シール部22は短寸シール部21よりも軸方向に長寸となるように突出して形成されている。
そこで、長寸シール部22の構成について詳しく説明すると、この長寸シール部22は、図6に示す如く、その段部22Eから外径端部22Fまでのほぼ2π(360度)の範囲に形成され、この範囲はチップシール20の3巻半の巻数のうち、最外径側のほぼ1巻となっている。また、長寸シール部22は、図4に示す如く、短寸シール部21の底面21Aから軸方向に寸法G1だけ突出している。この突出寸法G1により長寸シール部22の高さ寸法(底面21Aからシール面22Bまでの寸法)H2は、シール溝7の深さ寸法H1よりも大きな値となっている(H2>H1)。
ここで、外径側に位置する圧縮室17、例えば3巻半のチップシール20のうち、最外径側の1巻(1周)部分を使って画成する圧縮室17は、差圧が小さく、チップシール20の外径側部位を浮上させることができない。しかし、チップシール20の最外径側のほぼ1巻の範囲は、長寸シール部22としてシール溝7から突出させることができるから、外径側の圧縮室17の圧力が低い場合でも、長寸シール部22のシール面22Bを、旋回スクロール8の鏡板9の歯底面9Aに押付けることができる。
23はチップシール20を構成する短寸シール部21の底面21Aと長寸シール部22の底面22Aに形成された複数の底面リップ部である。これらの底面リップ部23は、図5に示すように、例えば各シール部21,22の底面21A,22Aに斜めに切込みを入れることにより、薄肉なリップ部として形成され、チップシール20の長さ方向(渦巻方向)に間隔をもって配置されている。
そして、底面リップ部23の先端側は、チップシール20の渦巻方向で内径側に向けて拡開し、斜めに突出した自由端側がシール溝7の溝底面7Aに弾性的に当接している。これにより、各底面リップ部23は、圧縮運転が行われるときに、各シール部21,22の底面21A,22Aとシール溝7の溝底面7Aとの間の隙間をチップシール20の長さ方向に対して複数箇所で遮断し、これらの間を通じてシール溝7の内径側から外径側に圧縮空気が漏れるのを防止している。
24は短寸シール部21の内周面21Cと長寸シール部22の内周面22Cに渦巻方向に間隔をもって形成された複数の内側リップ部である。該各内側リップ部24の先端側は、チップシール20の内径側に向けて拡開し、シール溝7の内側壁面7Bに弾性的に当接している。
そして、各内側リップ部24は、各シール部21,22の内周面21C,22Cとシール溝7の内側壁面7Bとの間の隙間をチップシール20の長さ方向に対して複数箇所で遮断し、これらの間を通じてシール溝7の内径側から外径側に圧縮空気が漏れるのを防止している。
一方、25は旋回スクロール8のシール溝12に装着されたチップシールである(図2参照)。この旋回スクロール8側のチップシール25は、前述した固定スクロール3側のチップシール20とほぼ同様に、ほぼ3巻半の渦巻状をなしている。また、チップシール25は、内径側の2巻半が短寸シール部26となり、最外径側の1巻がほぼ2πの範囲内で長寸シール部27となっている。さらに、チップシール25には、複数の底面リップ部、内側リップ部(いずれも図示せず)が設けられている。しかし、旋回スクロール8側のチップシール25は、固定スクロール3側のチップシール20と装着方向が異なるから、その長寸シール部27の突出方向と前述した長寸シール部22の突出方向とが反対となっている点で、チップシール20と相違している。
第1の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
まず、モータ2によって駆動軸13を回転駆動したときには、駆動軸13の回転が偏心ブッシュ14、旋回軸受15等を介して旋回スクロール8に伝えられる。これにより、旋回スクロール8は、自転防止機構16によって自転を規制された状態で、駆動軸13を中心として旋回運動を行う。
このとき、固定スクロール3のラップ部5と旋回スクロール8のラップ部10との間に画成された圧縮室17は、外径側から内径側に向けて連続的に縮小する。これにより、圧縮機は、吸込口18から吸込んだ外気を各圧縮室17で順次圧縮し、吐出口19から外部のタンク(図示せず)等に向けて圧縮空気を吐出する。
また、圧縮運転時には、各圧縮室17から各シール溝7,12とチップシール20,25との隙間に圧縮空気が流入し、該各チップシール20,25を浮上させて相手方の鏡板9,4に押付ける。このときに、圧縮室17の差圧が小さく十分に浮上することができない各チップシール20,25の最外径側の1巻の範囲は、長寸シール部22,27によって鏡板9,4に押付けることができる。これにより、各チップシール20,25と鏡板9,4との摩擦抵抗を小さく抑えつつ、各圧縮室17のシール性を高めることができ、圧縮室17の容積分の空気を無駄なく圧縮することができる。
さらに、圧縮運転時には、各シール溝7,12とチップシール20,25との隙間に圧縮空気が流入し、この隙間を通って内径側から外径側に漏れようとする。しかし、各チップシール20,25には、リップ部23,24を設けているから、該各リップ部23,24により圧縮空気が漏れ出ないように遮断することができる。
このように、第1の実施の形態によれば、チップシール20には、シール溝7の溝底面7Aに対面する最外径側の1巻に軸方向に長寸となるように突出させて長寸シール部22を設け、チップシール25には、同様に長寸シール部27を設け、該各長寸シール部22,27によりチップシール20,25の外径側の1巻をシール溝7,12から突出させる構成としている。
従って、各長寸シール部22,27は、圧縮室17の差圧が小さく鏡板9,4に押付けることが困難なチップシール20,25の最外径側の1巻を鏡板9,4に押付けることができ、この部位のシール性を強制的に高めることができる。
この結果、チップシール20,25によるシール性が低下する部分だけを相手方の鏡板9,4に押付けることができるから、チップシール20,25と鏡板9,4との間の摩擦抵抗を小さく抑えることができる上に、十分なシール性を得ることができる。これにより、相手方の鏡板9,4に対するチップシール20,25の押付け力を全長に亘って適正にすることができ、摩擦抵抗を最小限にして機械損失を低減することができる。
また、外径側の圧縮室17のシール性を向上することにより、圧縮室17の容積分の空気を無駄なく圧縮できるから、スクロール式空気圧縮機の圧縮性能を高めることができる。
また、チップシール20,25は、最外径側のほぼ1巻(ほぼ2π)の範囲に長寸シール部22,27を形成し、残りの2巻半の範囲を短寸シール部21,26として形成しているから、圧縮室17の差圧が大きい内径側では、シール溝7,12に侵入する圧縮室17の圧力により短寸シール部21,26を浮上させ、相手方の鏡板9,4に押付けることができる。一方、圧縮室17の差圧が小さくチップシール20,25を浮上することが難しい最外径側のほぼ1巻の範囲では、シール溝7,12から突出した長寸シール部22,27を相手方の鏡板9,4に押付けることができる。
さらに、チップシール20,25を短寸シール部21,26と長寸シール部22,27とから形成するだけの簡単な構成により、圧縮室17のシール性を高めることができるから、旋回スクロール8を固定スクロール3側に押付ける背圧室等の複雑な機構を設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
さらに、長寸シール部22,27においても、底面リップ部23を設けているので、突出寸法G1以上に摩耗した場合においても、底面リップ部23により圧縮空気が漏れ出ないように遮断することができる。
次に、図9ないし図13は本発明の第2の実施の形態を示している。この第2の実施の形態の特徴は、スクロールのラップ部に設けたシール溝には、シール部材の底面に対面する面の一部を軸方向に短寸として浅溝部を設け、シール部材は、装着時に浅溝部によってシール溝から突出する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図9ないし図11において、31は第2の実施の形態による固定スクロールを示している。この固定スクロール31は、前述した第1の実施の形態による固定スクロール3とほぼ同様に、円板状の鏡板32と、該鏡板32の歯底面32Aに軸方向に向けて立設された渦巻状のラップ部33と、鏡板32の外周側に設けられ、該ラップ部33を取囲む筒状の支持部34とによって大略構成され、前記ラップ部33の歯先面33Aには後述のシール溝35が開口して設けられている。
しかし、第2の実施の形態による固定スクロール31は、シール溝35が後述の深溝部36と浅溝部37とにより構成されている点で、第1の実施の形態による固定スクロール3と相違している。
35はラップ部33の歯先面33Aに開口して設けられた渦巻状のシール溝である。このシール溝35は、外径側に配置される後述のチップシール38を突出させるために、内径側の深溝部36と外径側の浅溝部37とにより大略構成されている。
36はシール溝35の内径側を形成する深溝部である。この深溝部36は、図12に示すように、溝底面36A、内側壁面36B、外側壁面36Cにより、例えば略コ字状または四角形状の断面をもった凹溝として形成されている。また、深溝部36は、渦巻状をなすシール溝35の全長のうち、後述の浅溝部37となった最外径側の1巻を除いた残りの範囲に形成されている。詳しくは、深溝部36は、中央側の内径端部36Dから後述する浅溝部37の段部37Dまでの範囲に設けられ、この深溝部36の範囲はシール溝35の3巻半の巻数のうち、内径側のほぼ2巻半となっている。
37はシール溝35の外径側を形成する浅溝部を示している。この浅溝部37は、深溝部36と一緒にシール溝35を構成している。また、浅溝部37は、深溝部36とほぼ同様に、溝底面37A、内側壁面37B、外側壁面37Cにより、略コ字状または四角形状の断面をもった凹溝として形成されている。また、浅溝部37の溝底面37Aは、深溝部36の溝底面36Aとの境界部に段部37Dを有し、この段部37Dにより、浅溝部37は軸方向に短寸に形成されている。
そこで、浅溝部37の構成について詳しく説明すると、この浅溝部37は、その段部37Dから外径端部37Eまでのほぼ2π(360度)の範囲に設けられ、この範囲はシール溝35の3巻半の巻数のうち、最外径側のほぼ1巻となっている。また、浅溝部37は、図12に示す如く、深溝部36の溝底面36Aから軸方向に寸法G2だけ突出している。この突出寸法G2により浅溝部37の深さ寸法(ラップ部33の歯先面33Aから溝底面37Aまでの寸法)H3は、後述のチップシール38の高さ寸法H4よりも小さな値となっている(H3<H4)。
これにより、浅溝部37は、チップシール38の最外径側のほぼ1巻の範囲をシール溝35から突出させることができるから、チップシール38のシール面38Bを、旋回スクロール8の鏡板9の歯底面9Aに押付けることができる。
また、38はシール溝35に装着されるシール部材としての第2の実施の形態によるチップシールである。このチップシール38は、底面38A、シール面38B、内周面38C、外周面38Dにより四角形状に形成され、底面38Aからシール面38Bまでの高さ寸法は全長に亘って均一な寸法H4に設定されている。また、チップシール38には、底面リップ部39と内側リップ部40が設けられている。
なお、第2の実施の形態では、固定スクロール31のラップ部33に設けたシール溝35にチップシール38を装着する構成だけを述べたが、旋回スクロール側にも同様の機能をもったシール溝とチップシールが設けられている。しかし、本実施の形態では、図示と説明を省略している。
かくして、このように構成された第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、シール溝35には、チップシール38の底面38Aに対面する最外径側の1巻の範囲を軸方向に短寸にすることにより、深さ寸法H3が小さな浅溝部37を設ける。これにより、チップシール38をシール溝35に装着したときには、該チップシール38は、浅溝部37によってシール溝35から突出させることができる。
従って、シール溝35の浅溝部37は、圧縮室17の差圧の大小に関係なく、チップシール38の最外径側の1巻を鏡板9に押付けることができる。この結果、チップシール38と鏡板9との間の摩擦抵抗を小さく抑えつつ、チップシール38による十分なシール性を得ることができる。
なお、第1の実施の形態では、短寸シール部21と長寸シール部22との間に段差22Eを設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば傾斜面や曲面を用いて短寸シール部21と長寸シール部22とを滑らかに接続する構成としてもよい。この考え方は、第2の実施の形態にも同様に適用することができるものである。
また、第1の実施の形態では、チップシール20,25の最外径側の1巻を長寸シール部22,27とする構成とした場合を例示した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば摺動抵抗を小さく抑えたい場合には、チップシール20,25を1巻よりも小さな範囲としてもよい。また、1巻以上設けてもよい。これらの構成は、第2の実施の形態にも同様に適用することができるものである。
一方、第1の実施の形態では、チップシール20に底面リップ部23と内側リップ部24を設け、チップシール25にも同様に底面リップ部と内側リップ部を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、チップシールに底面リップ部と内側リップ部のいずれか一方だけを設ける構成としてもよく、またリップ部を廃止する構成としてもよい。これらの構成は、第2の実施の形態にも同様に適用することができるものである。
さらに、各実施の形態では、スクロール式流体機械としてスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば真空ポンプ、冷媒圧縮機等にも広く適用できるものである。
本発明の第1の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機を示す縦断面図である。 図1のスクロール式空気圧縮機を示す分解斜視図である。 各スクロールのラップ部等を図1中の矢示III−III方向から拡大してみた断面図である。 固定スクロールのシール溝とチップシールとを示す要部拡大の分解斜視図である。 固定スクロールのシール溝にチップシールを装着した状態を示す要部拡大断面図である。 チップシールを単体で底面側から示す底面図である。 チップシールを図6中の矢示VII−VII方向からみた断面図である。 チップシールを単体で底面側から拡大して示す外観斜視図である。 本発明の第2の実施の形態による固定スクロールを示す正面図である。 固定スクロールを図9中の矢示X−X方向からみた断面図である。 固定スクロールを図9中の矢示XI−XI方向からみた断面図である。 第2の実施の形態による固定スクロールのシール溝とチップシールとを示す要部拡大の分解斜視図である。 第2の実施の形態による固定スクロールのシール溝にチップシールを装着した状態を示す要部拡大断面図である。
符号の説明
3,31 固定スクロール
4,9,32 鏡板
4A,9A,32A 歯底面
5,10,33 ラップ部
5A,33A 歯先面
7,12,35 シール溝
7A,36A,37A 溝底面
7B,36B,37B 内側壁面
7C,36C,37C 外側壁面
8 旋回スクロール
17 圧縮室
20,25,38 チップシール(シール部材)
21,26 短寸シール部
21A,22A,38A 底面
21B,22B,38B シール面
21C,22C,38C 内周面
21D,22D,38D 外周面
22,27 長寸シール部
22E,37D 段部
23,39 底面リップ部
24,40 内側リップ部
36 深溝部
37 浅溝部
H1 シール溝の深さ寸法
G1 短寸シール部と長寸シール部との段差寸法
H2 チップシールの長寸シール部の高さ寸法
H3 シール溝の浅溝部の深さ寸法
G2 深溝部と浅溝部との段差寸法
H4 チップシールの高さ寸法

Claims (2)

  1. 鏡板の内径側から外径側に向けて渦巻状に巻回されたラップ部が軸方向に立設された一方のスクロールと、
    該一方のスクロールに対向して設けられ鏡板に該一方のスクロールのラップ部と重なり合う渦巻状のラップ部が軸方向に立設された他方のスクロールと、
    前記各スクロールのラップ部のうち少なくとも一方のラップ部の歯先面に開口して設けられた渦巻状のシール溝と、
    該シール溝内に装着されて相手方の鏡板に摺接するシール部材とを備えてなるスクロール式流体機械において、
    前記シール部材には、前記シール溝の溝底面に対面する面のうち、最外径側のほぼ1巻の範囲に軸方向に長寸となるように突出させた長寸シール部を設け、残りの部位を短寸シール部として形成し、
    前記シール部材は、装着時に前記長寸シール部によって前記シール溝から突出させ、
    前記シール部材には、前記シール部材の長さ方向に離間して形成され、前記シール溝の溝底面に接触する複数のリップ部を設ける構成としたことを特徴とするスクロール式流体機械。
  2. 前記シール部材には、前記シール部材の長さ方向に離間して形成され、前記シール溝の側面に接触する複数のリップ部を設ける構成としてなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
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