JP5171252B2 - 被記録媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、画像退色防止剤を用いた被記録媒体に関する。
近年、画像形成技術の進歩が飛躍的に進み、昇華型熱転写法、インクジェット法等の画像形成方法においても銀塩写真並の高画質化が達成され、人々の生活に浸透している。
昇華型熱転写方法は、昇華性色材を記録剤とし、これをポリエステルフィルム等の基材シートに担持させて熱転写シート(インクシート)とし、昇華性色材で染着可能な被転写材、例えば、紙やプラスチックフィルム等に色材受容部位を形成した受像シート(熱転写用被記録媒体)上に各種のフルカラー画像を形成する方法である。この場合には加熱手段としてブリンクのサーマルヘッドが使用され、極めて短時間の加熱によって三色又は囲包の多数の色ドットを受像シートに転移させ、該多色の色ドットにより原稿のフルカラー画像を再現するものであり、このように形成された画像は、使用する昇華性色材として染料を用いることにより得られる画像は鮮明性、透明性、中間色の再現性や階調性に優れた、フルカラー銀塩写真画像に匹敵する高品質のものを得ることができる。
しかしながら、得られる画像として昇華型染料から形成されたものは、顔料による画像に比べて一般的に耐光性に劣り、直射日光に曝露されると画像の褪色又は変色が早いという問題がある。又、直接光が当らない場合、例えば、室内、ファイル中、本の綴じ込み中でも変褪色(暗褪色)するという問題がある。これらの耐光性や暗褪色の問題は受像シートの染料受容層に紫外線吸収剤や酸化防止剤を添加することにより成る程度は改善されている。しかしながら、上記従来の技術では酸化防止剤等は染料受容層全体に均一に分布しており、一方、転写された染料の大部分は受容層の表面近くに存在する為、酸化防止剤等による染料の保護作用が効率的に行われず、変褪色防止が不十分であるという問題があり、転写された染料を酸化防止剤等によって有効に保護出来る技術が要望されている。
他方、インクジェット記録では、機器自体の廉価、低ランニングコスト、カラー記録が容易であるなどの特徴を有しており、コンピュータ、デジタルカメラ等からのデジタル信号の出力機器として近年急速に普及している。インクジェットプリンターに用いられる記録用インクは、染料を水性媒体もしくは非水性媒体に溶解させたインク、あるいは顔料を水性もしくは油性媒体中に分散させたインク、あるいは熱融溶可能な固体インクなど様々なタイプのインクが提案されている。現在の主流となっているインクは染料を水性媒体に溶解させたものであり、発色の美しさ、人体及び環境に対する安全性が高いなどの特徴を有している。特に近年は家庭やオフィスで手軽に印刷できるインクジェットプリンターが普及し、画質も銀塩写真に迫るものが開発されている。しかし、水性染料などの色材の中には耐光性、耐酸化性に劣るものがあり、銀塩写真と比較して保存安定性が劣り、特に光などにより経時的に画質、色相が劣化するという問題があり、インクジェット印刷においても染料を酸化防止剤等によって有効に保護出来る技術が要望されている。
このような問題に対して、染料の劣化を防ぐ様々な解決方法が提案されている。その方法としては、主として酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加、オーバーコートによるものであり、その添加剤の種類、添加方法、酸化防止剤の特性等について提案されている。
昇華型熱転写記録やインクジェット記録に用いられる染料などの色材の退色機構については諸説があるが、一般には次のように考えられている。すなわち、光により染料などの色材が三重項励起状態となり、更にその三重項状態の色材と基底状態の三重項酸素のエネルギー交換により励起一重項酸素が生成する。この一重項酸素は活性が高い上に比較的寿命が長く、染料などの色材と反応して酸化あるいは分解を促進し、画像を劣化させる原因になっていると考えられている。
そのような観点から、近年、好適な添加剤を選択する方法として一重項酸素消光速度kQをパラメーターとして規定した添加剤、及び該添加剤を含有する被記録媒体、記録液、またこれを用いた記録方法に関するもの(特開2000−226544号公報(特許文献1)および特開2003−94797号公報(特許文献2))が知られている。
特許文献1では一重項酸素消光速度が1×106dm3mol-1-1以上の化合物を含むインクジェット印刷用記録液、及びインクジェット印刷用記録シートが開示されている。特許文献2では、少なくとも2種の酸化防止剤を含有し、一重項酸素消光速度が1×106dm3mol-1-1以上、1×109dm3mol-1-1以下の化合物と、ラジカルトラップ速度(Ks)が1以上、10000以下の化合物を併用したインクジェット記録媒体が開示されている。
特開2000−34433号公報(特許文献3)には印刷画像の耐色性を改善するための添加剤として、紫外線散逸エネルギー吸収剤、その他の添加剤として束縛アミン遊離基抑制剤(ヒンダードアミン化合物)、還元剤(ヒンダードフェノール等)が開示されている。
また、Journal of Physical Chemistry Reference Data Vol.10,No.4,809〜999頁(1981年)(非特許文献1)には、その一重項酸素消光速度kQを多種の化合物について測定した結果について、溶剤ごとの議論等がなされている。
一重項酸素消光速度kQ値は、主として非水系溶媒中(水やアルコールに不溶)で測定されている(非特許文献1参照)。通常、水可溶溶媒中(水やアルコールに可溶)で一重項酸素消光速度kQの値を測定するためには、分散剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムなどを用いて分散させる必要がある。一般に一重項酸素消光速度kQの値は測定溶媒によって異なり、水系溶媒中での値の方が小さくなることが知られている。例えば、特許文献1の実施例に記載されているDABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)の一重項酸素消光速度の値は、非特許文献1によると非水系溶媒であるクロロホルム中では5.2×107dm3mol-1-1であるのに対し、水系溶媒であるメタノール中では8.1×106dm3mol-1-1である。染料を色材として用いたインクジェット記録では水系溶媒環境となることから、本来、水可溶溶媒中で一重項酸素消光速度kQの検討がなされる必要がある。ところが、特許文献1及び2においてはその点が全く考慮されておらず、これまでは染料等の色材に対して使用する酸化防止剤(画像退色防止剤)の性能が高かったことから、測定溶媒の違いによる一重項酸素消光速度の値の違いを考慮しなくても問題にならなかったと考えられる。
しかしながら、近年、昇華型熱転写記録や、インクジェット記録に用いられる色材の高性能化が進んでおり、それに伴って色材自体が1.0×108dm3mol-1-1以上の一重項酸素消光速度を有するものになってきている。このことは、色材自体の一重項酸素を消光する能力が高まっていることを意味するが、換言すると、色材と画像退色防止剤とが一重項酸素を消光する能力において競争する関係となってきており、画像退色防止剤の選択を誤ってしまうと、色材に対する一重項酸素の攻撃を防止していないことになっていることを意味する。すなわち、これまでの画像退色防止剤では、一重項酸素を消光する能力が足りなくなってきており、よりその効果の高い画像退色防止剤の開発が切望されている。
また、特許文献3に開示されているような紫外線散逸エネルギー吸収剤、束縛アミン遊離基抑制剤(ヒンダードアミン化合物)、還元剤(ヒンダードフェノール等)は化学反応的消光機構(酸化反応メカニズム)により一重項酸素を消光するものであった。この化学反応的消光機構においては、画像退色防止剤はいわゆる犠牲試薬的な働きとなるため、一重項酸素の消光能力が高い化合物ほど自らが酸化を受けやすい不安定な化合物であるため、その効果の持続性とトレードオフの関係になってしまう。すなわち、犠牲的であるが故に、消光能力を持続させるためには画像退色防止剤を多量に使用するか、順次補給してその消光能力を持続させるしか手段は無かった。しかしながら実際に被記録媒体中に画像退色防止剤を大量に使用すると、色材受容部位やインク受容層の透明性が低下し、鮮明な画像形成が困難であったり、中間調や二次色部分での色材染着性やインク吸収性の低下が発生したりする等の問題を生じる。紫外線散逸エネルギー吸収剤としてのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、その作用機構として励起状態の水素(プロトン)移動が特許文献3に開示されている。しかしながら、プロトン移動は紫外線吸収機能を発現するために作用しており、一重項酸素(色材酸化原因)に対しては、自らが一重項酸素により酸化分解して紫外線吸収剤としての能力も無くなってしまうものであった。
そこで本発明者らは、上記のように画像退色防止剤が犠牲試薬的に失活してしまうことを第一の課題として認識し、より少量で効果が長期に持続するメカニズムを有する画像退色防止剤について鋭意検討を行った。さらに水可溶溶媒中(水やアルコールに可溶)での一重項酸素消光速度kQの最適な範囲を検討することを第二の課題として認識し、鋭意検討を行った。
本発明は、形成された画像の変色、退色(本明細書では「変退色」と称する)を防止し、長期安定的に画質を維持可能とする画像退色防止剤を用いた被記録媒体を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意研究を行った結果、被記録媒体に含有させる画像退色防止剤の一重項酸素消光機構として、分子内プロトン移動を生じる構造を有し、該分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数が1個以上4個以下であり、且つ分子内に局在化したπ電子系を含まない画像退色防止剤を用いることで、長期にわたり変退色変を防止でき、長期安定的に画質を維持することが可能となることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は次の事項を含む。
本発明は、基材と、該基材上に形成された色材受容部位とを有する被記録媒体であって、前記色材受容部位中に、画像退色防止剤としてアントラキノン誘導体または5価リン酸エステル化合物を含有し、単位面積当たりの前記画像退色防止剤の含有量が、1.00×10 -4 mol/m 2 以上、1.00mol/m 2 以下であることを特徴とする被記録媒体である。
本発明によれば、被記録媒体上に形成された画像の変退色を防止し、長期安定的に画質を維持可能な画像退色防止剤を用いた被記録媒体を提供できる。
[画像退色防止剤]
本発明において「画像退色防止剤」とは、被記録媒体のインク受容層中に画像形成に使用されたインク組成物に含まれる染料などの色材とともに存在した際に、ガス、光等の色材を劣化させる要因より色材を守り、画像の退色を防止する化合物のことをいう。 そのような機能を有する画像退色防止剤として、本発明では、分子内プロトン移動が可能な構造を有する化合物を用いる。この画像退色防止剤により、色材に対して酸化反応の原因となる一重項酸素を分子内プロトン移動機構によって失活させる作用をもたらす。例えば、アントラキノン誘導体や5価リン酸エステル化合物のように分子内に水素結合を有する化合物は、光照射により以下の式(a)〜(d)に示すような分子内プロトン移動反応が起きる。その時の分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を太線で示す。また、励起状態における波動関数の節を破線で示す。
分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数 4個
分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数 2個
分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数 2個
分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数 1個
本発明において「分子内プロトン移動」とは、上記式(a)〜(d)で示されるように分子内で水素原子が移動しても分子内共鳴式が可逆的に矛盾なく成立する現象のことをいう。
また、本発明において「分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数」とは、分子が分子内プロトン移動を伴って上記式(a)〜(d)のような互変異性体を形成する際にその共役鎖の共鳴に関与している共役系(電子移動経路)を形成している2重結合の個数のことをいう。分子内で矛盾なく共鳴を完結させるためには最低1個の2重結合を有した共役系が必要である。2重結合が多くなれば共役鎖として長いものとなり、異性化の為のエネルギー、および時間がより多く掛かることとなる。
ここで、5価リン酸エステル化合物による一重項酸素消光メカニズムについて、図1を用いて説明する。
画像退色の原因となる励起一重項酸素は、光により染料などの色材が三重項励起状態となり、更にその三重項励起状態の色材と基底状態の三重項酸素のエネルギー交換により生成する。この生じた一重項酸素はその高い反応活性からそのままでは直ちに色素と反応して色素を酸化し、色素分解物を生成させてしまう(画像退色現象、色素劣化)。
ここで、色材と共に5価リン酸エステル化合物を存在させておいた場合、5価リン酸エステル化合物は競争反応により励起一重項酸素が色素と反応する速度より速く励起一重項酸素と相互作用し、分子内プロトン移動反応により励起一重項酸素を基底状態の三重項酸素へと消光すると考えられる。
色素は基底状態の三重項酸素では酸化され難いため、このようにして画像退色につながる酸化から守られることになる。
このような本発明において目的とする好適な分子内プロトン移動反応を起こす画像退色防止剤は、上記式(a)〜(d)の破線で示されるような励起状態における波動関数の節の存在とプロトン移動反応時に関与する分子内共役系の電子系を考慮することで、達成することができた。即ち、本発明の画像退色防止剤は、分子内プロトン移動を生じる構造を有し、該分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数が1個以上4個以下であり、且つ分子内に局在化したπ電子系を含まないことを特徴とする。電子移動経路を形成している2重結合の個数が1以上4以下であるため、分子共鳴距離が短く、共鳴ルートが制限されており、分子内で効率的に低エネルギーでプロトン移動を起こす。分子共鳴距離が長くなると同時に共鳴ルートが複数となるので、励起エネルギーの増加と共にプロトン移動速度の低下、一重項酸素の消光能力の低下をもたらす。本発明においては、該分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数が2以上4以下であることが好ましい。また、本発明においてはプロトン移動反応時に関与する電子系の個数は2個〜8個が好ましく、4個〜6個が共鳴距離の点から最も好適である。
分子内プロトン移動によるメカニズムにより画像退色防止剤として機能する化合物として特許文献3に紫外線吸収剤のベンゾトリアゾール系化合物が挙げられている。ベンゾトリアゾール系化合物の分子内プロトン移動反応の共鳴式を以下に示す。
ベンゾトリアゾール系化合物は上記の図で表される通り分子内プロトン移動に伴う電子移動経路を形成している2重結合の個数が6個であり、分子内共鳴距離が長い。そのため分子内共鳴には本発明の分子内共鳴が短い化合物よりも紫外線のようなより大きな励起エネルギーが必要である。分子内共鳴距離が長い化合物は分子内プロトン移動反応速度も遅く、分子内プロトン移動反応メカニズムによる1重項酸素消光機構は働かず、紫外線により励起されたエネルギーをプロトン移動により熱として失活させているに過ぎない。このような化合物は1重項酸素を消光する前に自らが一重酸素によって酸化されてしまうことが考えられる。そのため、この種の画像退色防止剤はその効果を持続できないものと考えられる。
また、プロトン移動反応は上述したように、可逆的に自らは酸化反応を受けることなしに、繰り返し起こる反応である。この可逆的に消光反応を繰り返す機構としては、一重項酸素からエネルギーを奪った化合物はプロトン移動をすると共に、お互いの安定性の違いから熱的にそのエネルギーを失活させ、元の状態に戻ると考えられている。故に、プロトン移動機構を用いた画像退色防止剤は半永久的にその効果を持続するものと考えられる。
本発明にかかる画像退色防止剤は、前記のように分子内プロトン移動が可能な構造を有する化合物であり、その分子内プロトン移動が可能な構造が一重項酸素からエネルギーを奪いプロトン移動によって一重項酸素を消光する能力を有する。そのような観点から、被記録媒体中で溶解状態であるか、または水分が被記録媒体中に入ることで溶解して、一重項酸素からエネルギー捕獲可能な状態になるものが好ましい。
画像退色防止剤は、無色または白色の化合物であることが好ましい。例えば、βカロチンのように大きな共役を持つ化合物は、その低い酸化電位(犠牲試薬的能力)を有する一重項酸素によって酸化されやすい2重結合を11個分子中に有する(文献によるとβカロチンは1.0×1010dm3mol-1-1の一重項酸素消光速度を有していると記載されている)。ただし、その一重項酸素消光メカニズムは分子内プロトン移動によるものではなく、自己が有する局在化した2重結合が酸化劣化する化学的消光メカニズムであり、化学的消光メカニズムとして機能する箇所が11個あるということは、それ故化合物自体も大変不安定である。また、このような大きな共役を有する化合物はそれゆえ赤色等を呈しているので、白色度の高い被記録媒体を得るための材料として用いることはできない。なお、白色の化合物とは、その化合物が可視光領域を吸収する分子軌道系を有していない化合物であることを意味する。また、無色の化合物とは、液体状態あるいは分散状態においてその化合物分子の大きさが可視光の波長以下になる程度の化合物を意味する。
画像退色防止剤が水不溶性またはアルコール不溶性である場合は、界面活性剤等により分散してインク受容層の塗工液に添加する為、一重項酸素による染料の劣化を直接防止することができない恐れがあり、また界面活性剤との相互作用によりプロトン移動メカニズムが阻害され、十分な一重項酸素消光能力を発揮しない可能性がある。画像退色防止剤が水不溶性またはアルコール不溶性であっても、インク受容層を設けてから溶剤に溶かした画像退色防止剤の溶液をオーバーコートすることで、一重項酸素による色材の劣化を直接防止することが可能となるが、この場合は一重項酸素消光能力が低下することが考えられ、製造上の工程が増えること、環境負荷の観点からあまり好ましくない。
画像退色防止剤が水溶性またはアルコール可溶性の場合は、インク受容層の塗工液に直接添加することができるため、一重項酸素による色材の劣化を直接防止することができる。このような理由から画像退色防止剤は水溶性またはアルコール可溶性であることがより好ましい。なお、水可溶性またはアルコール可溶性とは、水またはアルコールに対して0.1質量%以上の溶解性を有する化合物であることを意味する。
画像退色防止剤の、エタノール中での競争反応法により測定される一重項酸素消光速度(kQ1)は、3.0×108dm3mol-1-1以上、9.0×1010dm3mol-1-1以下であることが好ましい。このような一重項酸素消光速度を有する画像退色防止剤であれば、記録媒体上に形成された画像の変退色を効果的に防止することができる。なお、3.0×108dm3mol-1-1未満であると十分な画像退色防止効果が得られにくくなり、9.0×1010dm3mol−1-1を超えると、化合物の安定性が十分に得られにくくなる。
ここで、一重項酸素消光速度(kQdm3mol-1-1)とは、濃度1mol/lの溶液が1秒当たりに消光する一重項酸素の分子数をあらわしている。この値に関する理論やモデル、測定方法、計算方法はいくつかあり、既に研究され文献等に発表されているが、これまで勢力的に研究されてきた一重項酸素消光機構は主として酸化反応(電子引き抜き)による一重項酸素消光機構であり、これまでの一重項酸素消去機構として酸化反応や電子移動モデルに関しては、例えばHarry H.Wasserman、Robert W.Murray著のSINGLET OXYGEN(1979)の第5章Quenching of Singlet Oxygenなどの文献にいくつかの測定方法、理論が掲載されている。これらの方法には、非水系溶媒中での測定を行っているものが多い。
ところが、非水系溶媒中で測定した一重項酸素消光速度kQでは特に、染料を色材として用いたインクジェット記録では実際の記録物中での機能を反映し難くなってきている。そのため、水溶液中あるいはエタノール等のアルコール溶液中で行われることが重要である。
水中での一重項酸素の寿命は(5±2)×105dm3mol-1-1であるので、少なくともkQが1×106dm3mol-1-1以上の値を有する化合物の測定を好適に行うことができると言われている。本発明では一重項酸素消光剤の一重項酸素消光速度(kQ)は、第22回酸化反応討論会要旨集7頁(愛媛大理、向井、大幅ら)に記載されている方式、具体的には、Tetrahedron Lett.,41、2177〜2181(1985)等に井上らによって記載されている方法に従って合成した3−(1,4−エポジオキシル−4−メチル−1,4−ジヒドロ−1−ナフチル)プロピオン酸(EP)からエタノール溶媒中、35℃で、一重項酸素を発生させ、消光の基準物質として、2,5−ジフェニル−3,4−ベンゾフラン(DPBF)を用い、被測定物質とこれと共存させ、両者を一重項酸素に対し競争反応させ、DPBFの吸収波長(λmax=411nm)における吸光度の時間変化を分光光度計により追跡することにより一重項酸素消光速度(kQ)を測定する方法(この方法を競争反応法と呼ぶ)で測定を行った。以下、本明細書に示す一重項酸素消光速度はこの方法で測定したものである。
なお、一重項酸素消光機構としては、消光する化合物と一重項酸素が反応して酸化物となって消光する化学的消光速度(kr)と、反応せずに一重項酸素を三重項酸素に変換する物理的消光速度(kq)があり、一重項酸素消光速度(kQ)には通常この両方の消光速度を含んでいる。
本発明の画像退色防止剤は一重項酸素消光機構として、一重項酸素からエネルギーを奪いプロトン移動によって一重項酸素を消光させる物理的消光機構のみを発現させる。それにより効果が高い化合物ほど自らが酸化を大変受けやすい不安定な化合物であるという効果の持続性とのトレードオフの関係を解消し、長期安定的に高い画像退色防止機能を発揮し、画質を維持することができる、被記録媒体、これに用いられる画像退色防止剤、および画像形成方法の完成に至った。
本発明において、さらに次の条件が満たされることがより好ましい。すなわち、本発明では、インクに含有する色材が変退色しないようにする為に、色材の一重項酸素消光速度(kQ2)として、化学的消光速度(kr2)が支配的な色材はあまり好ましい形態ではない。なぜならば、化学的消光速度(kr2)は、色材自体が酸化反応により劣化し、すなわち変退色してしまう分子構造の変化を伴う為、本発明の目的から外れてしまう可能性があるからである。従って、一重項酸素消光速度(kQ2)が物理的消光速度(kq2)に限りなく近いことが最も好ましい形態である。色材の一重項酸素消光速度(kQ2)のうち、化学的消光速度(kr2)の割合が10%以下であれば、画像保存性についてより良好となるが、10%より大きい場合は化学的消光による寄与が大きく、色材自身の酸化反応が大きく、画像退色の程度として問題が発生する場合がある。すなわち、本発明は色材の一重項酸素消光速度(kQ2)より大きい一重項酸素消光速度(kQ1)を持つ画像退色防止剤を含有させた被記録媒体中に、該色材を画像形成した場合、画像退色防止剤が優先的に一重項酸素によって酸化される為、色材の画像退色防止が可能となるわけであって、色材の一重項酸素消光速度(kQ2)のうち化学的消光速度(kr2)が支配的になると、画像退色防止剤の一重項酸素消光速度(kQ1)の値の大小に関係なく、色材は酸化されて、結果として変退色を起こしてしまう場合がある。
上記のような本発明の画像退色防止剤としては、分子内プロトン移動を生じる官能基を分子内に有するものであれば良く、例えば、アントラキノン誘導体、5価リン酸エステル化合物、不飽和環状アルキル化合物、不飽和脂肪族化合物等が挙げられる。
中でも5価リン酸エステル化合物、アントラキノン誘導体が好ましい。5価リン酸エステル化合物、アントラキノン誘導体は一重項酸素消光速度(kQ1)が大きいことから、本発明の効果が大きい。本発明の画像退色防止剤となる5価リン酸エステル化合物としては、下記式(1)又は(2)に記載の構造を有する化合物から選択することが好ましい。
式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基である。但し、R1〜R3のうち1つまたは2つが水素原子である。R1〜R3のうち1つが水素原子の化合物、すなわち遊離のOHを1つ有する5価リン酸エステル化合物が好ましい。
式(2)中、R4〜R7はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基である。但し、R4〜R7のうち1〜3つが水素原子である。R4〜R7のうち1つまたは2つが水素原子の化合物が好ましい。R4〜R7のうち2つが水素原子の化合物の場合、R4及びR5のうち1つが水素原子で、R6及びR7のうち1つが水素原子の化合物が好ましい。
上記式(1)又は式(2)で好適に選択されうる、脂肪族アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜24のアルキル基が挙げられ、芳香族アルキル基としては、フェニル基、フェニルメチル基、トルイル基、ナフチル基、ナフチルメチル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクロルイルオキシ基を有するアルキル基が挙げられる。これらの基は、直鎖状でも分岐鎖状でも良い。
式(1)で表される5価リン酸エステル化合物としては、具体的には下記のようなものがある。
・(C25O)nP(O)(OH)3-n
・(C49O)nP(O)(OH)3-n
・(C817O)nP(O)(OH)3-n
・(C1225O)nP(O)(OH)3-n
・(C1837O)nP(O)(OH)3-n
・(C2449O)nP(O)(OH)3-n
・(CH2=C(CH3)COOC24O)nP(O)(OH)3-n
なお、nは1または2である。
式(2)で表される5価リン酸エステル化合物としては、具体的には下記のようなものがある。
・(C49O)P(O)(OH)2
本発明の画像退色防止剤となるアントラキノン誘導体は、本発明の効果が大きい。本発明の画像退色防止剤となるアントラキノン誘導体としては、下記式(3)、(4)に記載の構造を有する化合物から選択することが好ましい。
式(3)は分子内にプロトン移動を生じる構造を1箇所有するものの構造式である。式(3)中、R1〜R7はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基であることが好ましい。それらの置換基は置換されているケトンの塩基性度、あるいは水酸基の酸性度のバランスに影響を与えるためプロトン移動反応速度、ひいては一重項酸素消光速度に影響を与える。よってそれを鑑みて適宜選択する必要がある。さらには式(3)の構造においては特異的にR4およびR5の位置にそれぞれ独立にエステル基、水酸基を置換することが可能であり、この部分に置換することによって、ケト−エノール型、エステル−水酸基型の2種類のプロトン移動反応を同時に生じる化合物となりより好ましい。
式(4)は分子内にプロトン移動を生じる構造を2箇所有するものの構造式である。式(4)中、R1〜R6はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基であることが好ましい。それらの置換基は置換されているケトンの塩基性度、あるいは水酸基の酸性度のバランスに影響を与えるためプロトン移動反応速度、ひいては一重項酸素消光速度に影響を与える。よってそれを鑑みて適宜選択する必要がある。
[被記録媒体]
本発明の被記録媒体は、その構成を図2に示すように、基材2と、その基材2上に形成された、色材受容部位としてのインク受容層1と、を有する被記録媒体であって、インク受容層1中に、前述した本発明の画像退色防止剤を含有する。このような被記録媒体により、その上に形成された画像の変退色を防止し、長期安定的に画質を維持可能となる。特に、インクジェット記録用に好適である。
基材2としては、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプなどの木材パルプや、ポリエチレン繊維等の合成繊維パルプを主成分として、顔料、サイズ剤、定着剤、歩留り向上剤、紙力増強剤等の通常抄紙に使用されている各種添加剤を必要に応じて1種以上混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤ抄紙機等の各種装置で製造された原紙を用いることができる。さらに、この原紙に、澱粉、ポリビニルアルコール等でのサイズプレスやアンカーコート層を設けた加工紙や、それらの上にコート層を設けたアート紙、コート紙、キャストコート紙等の塗工紙も含まれる。なお、このような紙にそのままインク受容層1を設けても良いし、インクジェット記録用紙としての良好な記録特性と光沢性を得るために、基材2表面の平滑性を向上する目的で、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置をインク受容層1塗工の前段階で使用しても良い。
また、基材2としては、上記の紙に樹脂層を設けたものでも良く、樹脂層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリウレタン等の合成樹脂やこれらの混合物のフィルム材や、上記合成樹脂を繊維化して成型したシートも使用できる。
基材2上に形成されるインク受容層1中には、前述した本発明の画像退色防止剤が含まれる。画像退色防止剤は、1種でも良く、2種以上を併用しても良い。インク受容層1における画像退色防止剤の含有率としては、インク受容層1の全固形分に対して0.1質量%以上、10.0質量%以下の範囲内が好ましい。0.1質量%未満の場合、十分な耐候性が得られない場合がある。また10.0質量%を超える場合、ODの低下、中間調や二次色部分等におけるインク吸収性の低下が発生するなど、画像記録特性に支障が生じる場合がある。ここでいう画像退色防止剤の添加による画像記録特性への影響として考えられる項目としては、粒状感であったり、画像濃度の濃淡であったり、色の鮮やかさ、細線のにじみ等である。さらにより好ましい画像退色防止剤の含有率の範囲は、2.5質量%以上、6.0質量%以下であり、この範囲であれば、耐候性と画像記録特性のバランスがより優れており十分な耐候性を付与しつつ、画像退色防止剤の添加による画像記録特性への影響が殆どない為、非常に満足のいくものとなる。
また、インク受容層1に含まれる画像退色防止剤は、被記録媒体における単位面積当たりの含有量が、1.00×10-4mol/m2以上、1.00mol/m2以下になるように調整することが好ましい。単位面積当たりの画像退色防止剤の含有量をこの範囲とすることで、十分な耐候性が得られ、かつODの低下や中間調や二次色部分でのインク吸収性の低下を発生させない優れた画像記録特性が得られる。より好ましくは、5×10-4mol/m2以上、1×10-2mol/m2以下である。
画像退色防止剤は、被記録媒体中において一重項酸素からエネルギー捕獲可能となるように、画像退色防止剤が機能できる状態、すなわち、一重項酸素からエネルギーを奪い取ることができる状態で存在させることが好ましい。例えば、被記録媒体中において、画像退色防止剤は固体または結晶として存在させる、油状物質に溶解された画像退色防止剤を内包するマイクロカプセルとして存在させる、さらにはこれら以外にも様々な状態で存在させることができる。ただし、単に画像退色防止剤が被記録媒体中に含有されているだけでは、一重項酸素から効率良くエネルギーを捕獲することはできない場合がある。すなわち、画像退色防止剤が十分に機能する状態になるためには、被記録媒体中において溶解状態であるか、またはが被記録媒体中に入ることで溶解して、一重項酸素からエネルギー捕獲可能な状態になるものが好ましい。特にインクジェット記録に用いる被記録媒体の場合には、色材であるインク組成物が吐出されて、被記録媒体中が水を主体とするインク液で充填されたときに溶解状態になり、効率良く一重項酸素からエネルギーを捕獲することができる状態になる。
インク受容層1は、上記の画像退色防止剤以外に、通常顔料とバインダーを含有する。
ここで使用する顔料としては、染料定着性、透明性、印字濃度、発色性、及び光沢性の点で、特にアルミナ水和物を主成分とすることが好ましいが、下記顔料を使用することもできる。無機顔料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム等が挙げられる。また、有機顔料として、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン粒子、マイクロカプセル粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等を挙げることができる。これらから1種を選択して、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いる。
上述の顔料として、平均粒子径が1μm以下である微粒子顔料を主成分として用いることが好ましく、特に好ましいものは、シリカ系、酸化アルミ系等の微粒子である。シリカ系微粒子として好ましいものは、市場より入手可能であるコロイダルシリカに代表されるシリカ微粒子である。シリカ系微粒子として特に好ましいものとして、例えば特許第2803134号公報や同2881847号公報に開示されたものを挙げることができる。酸化アルミ系微粒子として好ましいものは、アルミナ水和物微粒子が挙げられる。なお、アルミナ水和物は、例えば、下記一般式により表されるものである。
Al23-n(OH)2n・mH2
(上記式中、nは0、1、2又は3の何れかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。但し、mとnは同時に0にはならない。
mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数又は整数でない値をとることができる。又、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る。)
アルミナ水和物は一般的には、アルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解を行う方法(USP4,242,271、同4,202,870)、アルミン酸ナトリウムの水溶液に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行う方法(特公昭57−447605号公報)等の公知の方法で製造することができる。
本発明において好適なアルミナ水和物は、X線回折法による分析でベーマイト構造若しくは非晶質を示すものであって、特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載されているアルミナ水和物が好ましい。
本発明のインクジェット用被記録媒体の表面を、リウエットキャスト法で光沢を付与するために、インク受容層1を乾燥形成したものを再度湿潤状態にしてキャスト工程を行うことが多いので、インク受容層1形成時に配向する傾向が小さく、水の吸水性がよい平板状アルミナ水和物を用いることが好ましい。すなわち、平板状アルミナ水和物は、水分の吸収性がよいので、再湿液(水分)が浸透し易いため、インク受容層1が膨潤しやすく、アルミナ水和物粒子の再配列が起こり易い。従って、キャスト工程において、高い光沢性を得ることができる。又、効率よく再湿液が浸透するので、キャスト工程での生産効率も高くなる。
インク受容層1における顔料の含有率としては、インク受容層1の全固形分に対して55.0質量%以上、94.0質量%以下の範囲内が好ましい。
バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの変性体、澱粉またはその変性体、ゼラチンまたはその変性体、カゼインまたはその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス;官能基変性重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸またはその共重合体、アクリル酸エステル共重合体等の従来公知のバインダーを使用するができる。なお、本発明においては、バインダーとして、ポリビニルアルコールを使用することが好ましく、ポリビニルアルコールに併用して従来公知のバインダーを用いることも好ましい。バインダーの配合量としては、顔料に対して、5質量%以上、20質量%以下になるようにするのが好ましい。
上記のようにして形成するインク受容層1の形成原料中に、架橋剤としてホウ酸化合物を1種以上含有させることは、インク受容層1の形成上、極めて有効である。この際に用いることのできるホウ酸化合物としては、オルトホウ酸(H3BO3)だけでなく、メタホウ酸や次ホウ酸等が使用でき、また、これらの塩を用いることもできる。ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましく、具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na247・10H2O、NaBO2・4H2O等)、カリウム塩(K247・5H2O、KBO2等)等のアルカリ金属塩、ホウ酸のアンモニウム塩(NH449・3H2O、NH4BO2等)、ホウ酸のマグネシウム塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。塗工液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点からオルトホウ酸又はその塩を用いることが好ましい。
ホウ酸化合物の使用量としては、インク受容層1中のバインダーに対して、1.0質量%以上、15.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。この範囲外の場合、塗工液の経時安定性が低下することがある。また、この範囲内でも、他の製造条件等によってはクラックが発生する場合も考えられるが、その際は適宜調整することができる。又、上記範囲を超える場合は、塗工液の経時安定性が低下する場合がある。即ち、生産する場合においては、塗工液を長時間に渡って使用するので、ホウ酸の含有量が多いと、その間に塗工液の粘度の上昇や、ゲル化物の発生が起こることがあり、塗工液の交換やコーターヘッドの清掃等が頻繁に必要となり、生産性が著しく低下してしまう場合がある。更に、上記範囲を超える場合、キャスト工程において、点状の表面(キャスト面)欠陥が生じ易くなり、均質で良好な光沢面が得られない場合がある。
インク受容層1は、上記のような成分以外に、必要に応じてその他の添加剤を添加することもできる。その他の添加剤として、分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
画像退色防止剤を含有するインク受容層1を基材2上に形成する方法としては、画像退色防止剤を有機溶剤等に溶解した画像退色防止剤溶液を、画像退色防止剤以外の成分で予め形成されたインク受容層1上に塗工する方法が簡便である。こうすることにより、インク受容層1の表面側に画像退色防止剤を多く含ませることが可能となる。
画像退色防止剤溶液を調製するのに使用できる有機溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテル類、イソプロパノール、メタノール、エタノール等のアルコール類が好ましい。なお、画像退色防止剤が水溶性である場合、水、好ましくは脱イオン水を溶媒として用いることができる。画像退色防止剤溶液中の画像退色防止剤濃度は0.5〜30質量%とすると塗工し易いので望ましい。
なお、仕上げ後のインクジェット用被記録媒体の外観上から画像退色防止剤の塗工方式は、ダイコーター、エアナイフコーター、スプレー等によるインク受容層1面に対して非接触での塗工方法が好ましいが、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーターなど接触式の塗工方法も使用することができる。
また、ホウ酸化合物を含有するインク受容層1を形成する場合、予め四ホウ酸塩で表面を湿潤した基材2を使用することが、基材2とインク受容層1間の結合が強くなるので好ましく、インク受容層1の厚み設定の自由度が増す。
また、画像退色防止剤をインク受容層1の原料塗工液に添加して、全成分を含有する塗工液として塗工してもよい。
高いインク吸収性を考慮して、インク受容層1の乾燥塗工量は30g/m2以上であることが好ましく、60g/m2以下となるようにすることがより好ましい。30g/m2未満の場合は、特に、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクに、ブラックインクの他、複数の淡色インクが加えられているようなプリンタに用いた場合に、十分なインク吸収性が得られず、即ち、インク溢れが生じ、ブリーディングとなる場合が発生したり、基材2にまでインク染料が拡散し、印字濃度が低下したりする場合がある。一方、60g/m2を超える場合には、クラックの発生を抑え切れないことが生じる恐れがある。更には、30g/m2以上であると、高温高湿環境下においても十分なインク吸収性を示すインク受容層1が得られるので好ましく、乾燥塗工量を60g/m2以下とすると、インク受容層1の塗工ムラが更に生じにくくなり、安定した厚みのインク受容層1を製造でき、より好ましい。
以上のように形成されるインク受容層1は、高インク吸収性、高定着性等の目的及び効果を達成する上から、その細孔物性が、下記の条件を満足するものであることが好ましい。
先ず、インク受容層1の細孔容積は、0.1cm3/g以上、1.0cm3/g以下の範囲内にあることが好ましい。即ち、細孔容積が、上記範囲に満たない場合は、十分なインク吸収性能が得られず、インク吸収性の劣ったインク受容層1となり、場合によっては、インクが溢れ、画像に滲みが発生する恐れがある。一方、上記範囲を超える場合は、インク受容層1に、クラックや粉落ちが生じ易くなるという傾向がある。又、インク受容層1のBET比表面積は、20m2/g以上、450m2/g以下であることが好ましい。上記範囲に満たない場合は、十分な光沢性が得られないことがあり、又、ヘイズが増加するため(透明性が低下するため)、画像が、「白もや」がかかったようになる恐れがある。更に、この場合には、インク中の染料の吸着性低下を生じる恐れもあるのであまり好ましくない。一方、上記範囲を超えると、インク受容層1にクラックが生じ易くなるので好ましくない。なお、細孔容積、BET比表面積の値は、窒素吸着脱離法により求められる。
上記のようにしてインク受容層1を形成した後、キャスト法で、インク受容層1の表面に光沢面を形成することができる。
キャスト法とは、湿潤状態、又は可塑性を有している状態にあるインク受容層1を、加熱された鏡面状のドラム(キャストドラム)面に圧着し、圧着した状態で乾燥し、その鏡面をインク受容層1表面に写し取る方法であり、代表的な方法として、直接法、リウェット法(間接法)および凝固法の3つの方法がある。
これらのキャスト法は、何れも利用できるが、本発明においては、インクジェット用被記録媒体のインク受容層1にアルミナ水和物を用いることが好ましく、この場合には、特にリウエットキャスト法によることが、表面が高光沢であるインクジェット用被記録媒体を得ることができるので、より好ましい。
[画像形成方法]
次に、本発明の画像形成方法について説明する。本発明の画像形成方法は、前述した被記録媒体上に、色材により画像を形成する方法である。このような画像形成方法により、被記録媒体上に形成された画像の変退色を防止し、長期安定的に画質を維持可能となる。特に、インクジェット記録方式での画像形成方法に好適である。以下、本発明の画像形成方法に好適に使用可能なインク組成物について説明する。
(インク組成物)
本発明の画像形成方法で使用するインクとしてのインク組成物は、色材を含有するものであり、好ましい形態としては、色材と、水と、水溶性有機溶媒と、を含有するインク組成物である。
インク組成物に含まれる色材は特に限定はされないが、水溶性の染料を用いることが好ましく、例えば、カラーインデックスにおいて酸性染料、直接染料、触媒染料、反応染料、可溶性建染染料、硫化染料、食用染料に分類されているものが挙げられる。具体的には、アゾ系、アントラキノン系、アントラピリドン系などが使用できる。インク組成物中の色材の含有量は0.1質量%以上、20質量%以下が好ましく、1質量%以上、5質量%以下がより好ましい。
特に、自らが一重項酸素消光能力を有していると考えられる色材を用いることで、得られる画像の画像堅牢性が格段に向上する。その観点から、色材の一重項酸素消光速度は、1.0×108dm3mol-1-1以上、3.0×1010dm3mol-1-1以下であることが好ましい。高い一重項酸素消光能力は、その分子構造、分子内の電子状態、プロトン移動によるエネルギー緩和による消光メカニズム、抗酸化機能を有する被酸化部位を置換することにより達成される。
ここで、記録に用いられるインク組成物に含まれる色材と、被記録媒体に含まれる画像退色防止剤と、の一重項酸素消光速度の関係について説明する。色材の一重項酸素消光速度より大きい一重項酸素消光速度を持つ画像退色防止剤を含有させた被記録媒体上に、この色材で画像を形成することにより、画像退色防止剤が優先的に一重項酸素によって酸化されるため、色材の画像退色防止機能が発揮されやすくなる。ただし、被記録媒体中の画像退色防止剤が均一に分布しているか否か、さらにはインクジェット記録の場合、インク組成物中の色材がインク受容層中に均一に定着しているか否か等の影響もあり、容易には定量し得ない複雑な要因が含まれると考えられる。
その点について詳細に検討した結果、記録に用いられる色材と、被記録媒体に含まれる画像退色防止剤と、の一重項酸素消光速度は、以下の式(I)を満たすことが好ましいことを見出した。
Q1≧3.0kQ2 (I)
Q1(dm3mol-1-1):画像退色防止剤の一重項酸素消光速度
Q2(dm3mol-1-1):色材の一重項酸素消光速度
さらに、画像退色防止剤のインク受容層内の好ましい含有量の範囲、被記録媒体への記録によって打ち込まれる色材の好ましい含有量の範囲、等を含めて詳細に検討した結果、画像退色防止剤の画像退色防止機能をより効果的に発現させるために、下記式(II)を満たすことが好ましいことを見出した。
Q1X≧kQ2Y (II)
Q1(dm3mol-1-1):画像退色防止剤の一重項酸素消光速度
Y(mol/m2):色材の単位面積当たりの含有量
Q2(dm3mol-1-1):色材の一重項酸素消光速度
X(mol/m2):画像退色防止剤の単位面積当たりの含有量
以上の点を考慮して、被記録媒体に含まれる画像退色防止剤の種類に応じて、色材を選定することが好ましい。または、色材の種類に応じて、使用する被記録媒体に含まれる画像退色防止剤を選定することが好ましい。
なお、複数の画像退色防止剤が被記録媒体に含まれている場合、その複数の画像退色防止剤の一重項酸素消光速度が最大のものが上記式を満たせば良い。また、複数の色材が被記録媒体に打ち込まれる場合、その複数の色材の一重項酸素消光速度が最大のものが上記式を満たせば良い。
水溶性有機溶媒としては、好ましくは水溶性高沸点低揮発性有機溶剤を用いる。好ましい水溶性高沸点低揮発性有機溶剤の具体例としては、多価アルコール類や、多価アルコール低級アルキルエーテル類が挙げられ、より具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコール低級モノアルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコール低級ジアルキルエーテル類が挙げられる。アルキレン基としては炭素数2〜6のものが好ましい。これらの有機溶剤は単独で使用でき、2種以上を併用することもできる。これらの水溶性低沸点低揮発性有機溶剤の添加量は適宜決定されてよいが、例えばインク組成物中の含有量として5〜35質量%の範囲となるように添加されるのが好ましい。その理由は、印刷物に残ったこれら溶剤が場合によって、空気中の湿気を吸収して、保存中の画像のにじみの原因となる
ことがあるからである。
またインク組成物に添加することができる他の水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール,n−ブチルアルコール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;スルフォラン、ピロリドン、N−メチル−2−イミダゾリジノン、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で使用でき、2種以上を併用することもできる。これらの添加量は適宜決定されてよいが、例えばインク組成物中の含有量として5〜35質量%の範囲となるように添加されるのが好ましい。また、本発明のインク組成物は、水溶性有機溶媒としてアセチレングリコールを含むことができる。アセチレングリコールとしては、市販されているものを利用することが可能であり、例えばサーフィノール82、104、440、465、TG、オルフィンSTG(以上商品名、製造元:Air Product and Chemicals Inc.販売元:日信化学工業株式会社)を利用することができる。アセチレングリコールの添加量は適宜決定されてよいが、例えばインク組成物中の含有量として0.3質量%以上、1.8質量%以下程度が好ましい。
また、本発明のインク組成物に含まれる水溶性有機溶媒の好ましい態様によれば、多価アルコール低級アルキルエーテルとアセチレングリコールとを組み合わせて用いることができる。これらの併用によって、被記録材料に付着したインク組成物が速やかに浸透し、カラーインクジェット記録においてしばしば問題とされる、隣接するドット間の混色などによる印字品質の劣化を有効に防止できる。
水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物全体の1質量%以上、40質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、30質量%以下の範囲とする。又、色材である染料のインク組成物中における溶解性が良好であり、安定したインク組成物吐出のための粘度を有し、且つ、ノズル先端における目詰まりを効果的に防止するために、インク組成物中の水の含有量は30質量%以上、95質量%以下の範囲が好ましい。
更に本発明で使用する各インク組成物には、上記成分以外にも、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
本発明で使用する各インク組成物を作製する場合には、インク組成物の保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の保湿性固形分もインク組成物の成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿剤の添加量は1〜30質量%の範囲が好ましく、更に好適には3質量%以上、20質量%以下の範囲が望ましい。界面活性剤の添加量は0.01〜10質量%の範囲が好ましく、更に好適には0.05〜3質量%の範囲が望ましい。
インク組成物の好ましい物性は粘度、表面張力、pH(いずれも25℃)について下記の通りである。粘度は1.5cps以上、10cps以下の範囲が好ましく、1.8cps以上、5.0cps以下の範囲であれば更に好ましい。表面張力は25dyn/cm以上、45dyn/cm以下の範囲が好ましい。pHは4以上、10以下、さらに好適には6以上、9以下の範囲が好ましい。
(画像形成要素及び画像)
上記のようにして、色材と分子内プロトン移動を生じる官能基を分子内に有する化合物とを有する画像形成要素が得られる。そして、それらによって形成された画像が得られる。
以下本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<一重項酸素消光速度(kQ)の測定>
色材及び画像退色防止剤の一重項酸素消光速度は、前述した競争反応法によって以下の条件で測定した。エタノールを測定溶媒として用い、その溶媒中に、1×10-3Mに調整した一重項酸素発生剤[3−(1,4−エポジオキシル−4−メチル−1,4−ジヒドロ−1−ナフチル)プロピオン酸(EP)]、1×10-3Mに調整した消光速度の基準物質[2,5−ジフェニル−3,4−ベンゾフラン(DPBF)]、及び1×10-5Mに調整した被測定物質(色材または画像退色防止剤)を共存させた溶液を調製した。その溶液を35℃に加熱することによってEPから一重項酸素を発生させ、DPBFと被測定物質とによる一重項酸素を消光する競争反応を行った。被測定物質非存在下での既知のDPBFの吸収波長(λmax=411nm)における吸光度の時間変化に対する、被測定物質存在下における波長411nmの吸光度変化を分光光度計により追跡することにより、一重項酸素消光速度の測定を行った。
<色材の合成>
実施例及び比較例で使用する色材として、以下の構造を有する色材A及びBを合成した。具体的には、公知のアントラピロドン染料を原料として、メチル化→ブロム化→アシル化→環化反応→ウルマン反応→スルホン化といった合成フローに従って合成した。アシル化の反応試薬は酸無水物またはエステルを用い、環化反応はアルカリ存在下で高温高圧(120℃以上、160℃以下、2気圧以上)で脱水反応する方法とした。スルホン化において、ピリドン環に置換しているものがアセチル基の場合は中和試薬として水酸化ナトリウム水溶液、アセトアシル基の場合は中和試薬としてアセトアセチル基の加水分解を防止するために炭酸ナトリウム水溶液を使用した。出発原料としては工業品であるブロモアンスラピリドン(山田化学工業社製)を使用した。
色材A及びBの一重項酸素消光速度(kQ)を前述した競争反応法によって測定し、得られたkQ値を表1に示す。
<インク組成物の調製>
実施例及び比較例で使用するインク組成物A及びBを、以下の様にして調製した。
色材(色材AまたはB) 6質量部
ジエチレングリコール 5質量部
グリセリン 10質量部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製) 1質量部
イオン交換水 78質量部
以上の組成で混合し、得られた混合液をポアサイズが0.2ミクロンのメンブレンフィルターを通じて加圧濾過し、色材AまたはBを含有するインクジェット記録用インク組成物A及びBをそれぞれ得た。
<画像退色防止剤>
実施例及び比較例で使用する画像退色防止剤として、以下の画像退色防止剤A、B、C、D及びEの構造を準備した。
[画像退色防止剤A]
Aloesaponarin I
(分子内プロトン移動可能な構造有り、常温で白色粉末、水に易溶)
[画像退色防止剤B]
Aloesaponarin II
(分子内プロトン移動可能な構造有り、常温で白色粉末、水に易溶)
[画像退色防止剤C]
5価リン酸エステル化合物(城北化学社製商品名:JP−506)(分子内プロトン移動可能な構造有り、常温で液体、水に易溶)
[画像退色防止剤D]
3価リン酸エステル化合物(トリフェニルリン酸エステル)
(分子内プロトン移動可能な構造無し、常温で白色粉末、水に不溶)
[画像退色防止剤E]
アジ化ナトリウム
(分子内プロトン移動可能な構造無し、常温で無色結晶、水に易溶)
画像退色防止剤A、B、C、D及びEの一重項酸素消光速度(kQ)を前述した競争反応法によって測定し、得られたkQ値を表1に示す。
<インクジェット用被記録媒体の作製>
(被記録媒体1)
先ず、下記のようにして基材を作製した。濾水度450mlCSF(Canadian Standarad Freeness)の広葉樹晒しクラフトパルプ(LBPK)80質量部、及び濾水度480mlCSFの針葉樹晒しクラフトパルプ(NBPK)20質量部からなるパルプスラリーに、カチオン化澱粉(大和化学社製、商品名:ソルダインCP−13D)0.60質量部、重質炭酸カルシウム10質量部、軽質炭酸カルシウム15質量部、アルキルケテンダイマー(荒川化学工業(株)製、商品名:サイズパインK903)0.10質量部、カチオン性ポリアクリルアミド(荒川化学工業(株)製、商品名:ポリストロン619)0.03質量部、及び硫酸バンド(昭和化学工業(株)製)0.40質量部を添加して紙料を調製後、長網抄紙機で抄造し、3段のウエットプレスを行って、多筒式ドライヤーで乾燥した。その後、サイズプレス装置で、酸化澱粉水溶液(日本食品化工(株)製、商品名:MS−3800)を固形分で1.0g/m2となるように含浸し、乾燥後、マシンカレンダー仕上げをし、坪量155g/m2、ステキヒトサイズ度100秒、透気度50秒、ベック平滑度30秒、ガーレー剛度11.0mNの基材を得た。
次に、上記で得た基材上に、以下のようにして下塗り層を形成した。先ず、下塗り層の形成に使用する塗工液として、カオリン(商品名:ウルトラホワイト90、Engelhard社製)/酸化亜鉛/水酸化アルミニウム(質量比65/10/25)からなる填量100質量部と、市販のポリアクリル酸系分散剤(東亞合成(株)製、商品名:アロンT−40)0.1質量部とからなる固形分濃度70質量%のスラリーに、市販のスチレン−ブタジエン系ラテックス(JSR(株)製、商品名:T−2418C)7質量部を添加して、固形分60質量%になるように調整して組成物を得た。次に、この組成物を乾燥塗工量が15g/m2になるようにブレードコータで基材の両面に塗工し、乾燥した。その後、マシンカレンダー仕上げをし(線圧150kgf/cm)、坪量185g/m2、ステキヒトサイズ度300秒、透気度3,000秒、ベック平滑度200秒、ガーレー剛度11.5mNの下塗り層付き基材を得た。下塗り層付き基材の白色度は、断裁されたA4サイズ5枚のサンプルに対して各々測定し、その平均値として求めた。その結果、L:95、a*:0、b*:−2であった(JIS Z 8729の色相として求めた)。
次に、上記で得られた、両面に下塗り層を有する基材の片面上に、まず、四ホウ酸塩水溶液(ホウ砂を純水に溶かし、固形分濃度5.0質量%に調製したもの)を固形分0.5g/m2になるように塗工し、その塗工液が下塗り層に含浸されてすぐに、インク受容層を形成した。その際の、インク受容層の形成に用いた塗工液及び塗工方法等は、以下の通りである。
塩化アルミニウムの4質量%水溶液中にアルミン酸ソーダを加えpHを4に調整した。その後、攪拌をしながら90℃まで昇温し、しばらく攪拌を行った。その後、再びアルミン酸ソーダを加えてpHを10に調整し、その温度を保持しながら40時間熟成反応を行った。その後、室温に戻し、酢酸によりpHを7以上、8以下に調整した。この分散液に対して脱塩処理を行い、その後酢酸により解膠処理を行ってコロイダルゾルを得た。このアルミナ水和物のコロイダルゾルを濃縮して固形分濃度17質量%の溶液を得た。一方、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117、クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。上記アルミナ水和物のコロイダルゾルとポリビニルアルコール溶液を、アルミナ水和物固形分とポリビニルアルコール固形分が質量比で10:1になるように混合攪拌して、分散液を得た。これをダイコータで乾燥塗工量で35g/m2になるように毎分30mで塗工した。そして、170℃で乾燥してインク受容層を形成し、かくしてインクジェット用被記録媒体1を得た。BET測定よりこのときの被記録媒体1の平均細孔半径は8.5nmで、細孔容積は0.65ml/gであった。
(被記録媒体2)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Aの5質量%MIBK(メチルイソブチルケトン)溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-3mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体2を得た。
(被記録媒体3)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Aの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-2mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体3を得た。
(被記録媒体4)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Aの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-1mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体4を得た。
(被記録媒体5)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Bの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-2mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体5を得た。
(被記録媒体6)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Cの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-3mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体6を得た。
(被記録媒体7)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Dの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-2mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体7を得た。
(被記録媒体8)
インクジェット用被記録媒体1のインク受容層に、画像退色防止剤Eの5質量%MIBK溶液をロールコーターで塗布後、メイヤーバーで余剰分をかきとり塗工量が固形分として1.00×10-1mol/m2になるように毎分60mで塗工した。そして塗工後5秒以内に110℃で乾燥した。その後、インク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯を用いたリウエットキャスト処理を行い、インクジェット用被記録媒体8を得た。
(被記録媒体9)
インク受容層を形成するための塗工液組成を変更した以外は、インクジェット用被記録媒体1と同様の方法でインクジェット用被記録媒体9を作製した。インク受容層を形成するための塗工液の調製について以下に述べる。
塩化アルミニウムの4質量%水溶液中にアルミン酸ソーダを加えpHを4に調整した。その後、攪拌をしながら90℃まで昇温し、しばらく攪拌を行った。その後、再びアルミン酸ソーダを加えてpHを10に調整し、その温度を保持しながら40時間熟成反応を行った。その後、室温に戻し、酢酸によりpHを7〜8に調整した。この分散液に対して脱塩処理を行い、その後酢酸により解膠処理を行ってコロイダルゾルを得た。このアルミナ水和物のコロイダルゾルを濃縮して固形分濃度17質量%の溶液を得た。一方、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117、クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。上記アルミナ水和物のコロイダルゾルとポリビニルアルコール溶液を、アルミナ水和物固形分とポリビニルアルコール固形分が質量比で10:1になるように混合攪拌し、さらにこの分散液の総固形分100に対して4.4質量%になるように画像退色防止剤Cを添加して分散液を得た。これをダイコーターで乾燥塗工量で35g/m2になるように毎分30mで塗工した。そして、170℃で乾燥してインク受容層を形成し、かくしてインクジェット記録用被記録媒体9を得た。BET測定よりこのときのインクジェット記録用被記録媒体9の平均細孔半径は8.6nmで、細孔容積は0.67ml/gであった。
このときインクジェット記録用被記録媒体9のインク受容層中に添加されている画像退色防止剤Cの塗布量は1.00×10-2mol/m2であった。
(実施例1〜9、比較例1〜6)
上記で調製したインク組成物AまたはBを用いて、インクジェットプリンター(商品名:iP8600、キヤノン社製)でインクジェット記録を行った。用いたインクジェット用被記録媒体は上記で作製したインクジェット用被記録媒体1〜9で、大きさ1.0cm×1.0cmの領域を印字Dutyを制御してODが1.0になるように印字し、蛍光灯試験用サンプルとした。このとき吐出されたインク量は19.5g/m2であり、染料濃度は上記の如く6.0質量%であるから、染料固形分として1.17g/m2吐出したことになる。
また、用いたインク組成物及びインクジェット用被記録媒体の組合せは、表2に記載の通りである。
<蛍光灯試験の条件と評価方法>
本発明の効果を確認するための変退色試験としては、60000lux白色蛍光灯による30℃/50%RHの温湿度条件下で600時間促進耐光性試験を行った。評価方法としては、200時間経過ごとに促進試験前及び後のサンプルについて、濃度計を用いて光学濃度を測定し、下記式(A)により染料の濃度残存率を求めた。結果を表2にまとめて示す。
濃度残存率(%)=(D/D0)×100 (A)
D:耐光性促進試験後の光学濃度
0:耐光性促進試験前の光学濃度
以上のように、本発明によれば、被記録媒体上に形成された画像の変退色を効率よく防止し、しかも長期的に効果も期待でき、結果として長期安定的に画質を維持することができることが分かった。
本発明の画像退色防止剤、画像形成要素、被記録媒体、画像形成方法、及び画像に関しては、インクジェット記録方式のみならず、昇華型熱転写方式、電子写真方式、オフセット印刷等の画像形成技術に広く利用することが可能である。
この出願は、2005年5月31日に出願された日本国特許出願番号第2005−159239号の優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
本発明における画像退色防止剤の色素劣化防止機能を説明する図である。 本発明の被記録媒体の構成を示す断面図である。

Claims (2)

  1. 基材と、該基材上に形成された色材受容部位とを有し、色材を含むインクを付与し記録を行う被記録媒体であって、
    前記色材受容部位中に、画像退色防止剤として下記式(A)〜(C)から選択される少なくとも1種を含有し、単位面積当たりの前記画像退色防止剤の含有量が、1.00×10-4mol/m2以上、1.00mol/m2以下であり、
    前記色材が下記式(I)及び(II)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする被記録媒体。
  2. インクジェット記録用である請求項に記載の被記録媒体。
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