以下、本発明の燃料電池装置の一実施形態である燃料電池装置について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の燃料電池装置は、以下に説明する燃料電池装置の具体的な構成には限定されない。供給側主流路から分岐して複数の発電セルへ燃料ガスを供給する限りにおいて、燃料電池装置の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実現可能である。
なお、本発明の燃料電池装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、小型プロジェクタ、小型プリンタ、ノート型パソコン等の持ち運び可能な電子機器に着脱可能に装備される独立したパッケージなどとして実施できる。また、電子機器に発電部だけを一体に組み込んで、燃料タンクを着脱させる形式でも実施できる。水素ガスの供給は、燃料タンクに代えて、改質装置を利用してメタノール等の液体燃料、その他の気体燃料、固体燃料から発生させてもよい。
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の燃料電池装置の構成を説明する斜視図、図2は水素ガスの流路の模式図、図3は不純物ガスの排出が十分でない場合の説明図、図4は支流路における水滴排出の説明図である。
図1に示すように、第1実施形態の燃料電池装置10は、複数の発電セル9を積み重ねて直列に接続したセルスタック10Sを備える。発電セル9は、燃料極集電体4と酸素極集電体8とに挟み込んで積み重ねられ、圧板11、16を用いて全体を積み重ね方向に拘束して組み立てられている。
発電セル9は、膜電極接合体6の一方の面に燃料拡散電極5、他方の面に酸素拡散電極7を接触させている。膜電極接合体6は、高分子電解質膜の両面に触媒層を配置して構成される。燃料拡散電極5に接する触媒層では、水素ガスが触媒反応によって水素原子に分解されてイオン化し、水素イオンが高分子電解質膜に供給される。
酸素拡散電極7に接する触媒層では、触媒反応によって酸素が、発電セル9の高分子電解質膜を透過した水素イオンに化合して水分子を生成する。
膜電極接合体6の高分子電解質膜は、燃料拡散電極5側から酸素拡散電極7側へ水素イオンを移動させる。
燃料拡散電極5は、燃料極集電体4に形成された支流路3に配置されている。支流路3の外周は密封されて水素ガスが周囲へ漏れ出さないようになっている。酸素拡散電極7は、酸素極集電体8に形成された凹所に格納され、側面の一部が酸素極集電体8の開口を通じて大気に解放されている。
各段の酸素極集電体8、発電セル9(膜電極接合体6)、燃料極集電体4と圧板11とには、平面位置を合わせた供給側主流路1の貫通孔が形成されている。セルスタック10Sを貫通する方向に形成された供給側主流路1の入り口(供給口)12には、燃料タンク17が減圧弁14を介して接続される。供給側主流路1には、燃料タンク17から取り出して減圧弁14で大気圧より少し高い圧力に調圧された水素ガスが供給され、燃料極集電体4で各段の支流路3へ分岐して燃料拡散電極5に流れ込む。
圧板16と各段の酸素極集電体8、発電セル9(膜電極接合体6)、燃料極集電体4とには、平面位置を合わせて排出側主流路2の貫通孔が形成されている。セルスタック10Sを貫通する方向に形成された排出側主流路2の出口(排出口)13には、通常は閉止され、必要に応じて開放されるパージ弁15が接続されている。
発電中、供給側主流路1を通じて供給された水素ガスは、発電セル9において消費される。従って、パージ弁15が閉じられた状態では、燃料拡散電極5の空間が最も圧力が低くなっている。
排出側主流路2は、燃料極集電体4で各段の支流路3を合流させて出口13へ案内しており、パージ弁15を開放すると、各段の燃料拡散電極5をパージした水素ガスがパージ弁15を通じて外気へ排出される。
燃料拡散電極5は、通気性のある発泡金属板で形成される。燃料拡散電極5が、各段の支流路3の流路抵抗を高めているので、支流路3の流路抵抗は、貫通孔である供給側主流路1や排出側主流路2に比べて格段に大きい。
燃料拡散電極5を挟んだ反対側の平面位置に供給側主流路1と排出側主流路2とが配置される。供給側主流路1から支流路3へ流れ込んだ水素ガスは、燃料拡散電極5を一方の側面から反対側の側面へ向かって拡散して燃料拡散電極5を一方向にパージする。支流路3の流路抵抗が大きいので、流路抵抗の小さな供給側主流路1からは、格差の少ない圧力で各段の支流路3に水素ガスが分岐して、各段の燃料拡散電極5を同時進行的にパージする。流路抵抗が大きい各段の支流路3は、燃料拡散電極5をパージした水素ガスを、流路抵抗の小さな排出側主流路2へ格差の少ない圧力で合流させる。
なお、パージ弁15を開放して燃料拡散電極5のパージを行う際には、燃料電池装置10から負荷を切り離して電流出力を停止(または減少)させた状態で行うことが望ましい。電流出力に相当する水素ガスが膜電極接合体6を通じて酸素拡散電極7側へ移動する結果、不純物ガスのパージに寄与して排出側主流路2へ合流する水素ガスが減ってしまうからである。ただし、より制御を簡便にするため、発電しながら、パージを行うことも可能である。
図2に示すように、燃料電池装置10のセルスタック10Sへ入り口12から供給された水素ガスは、供給側主流路1から各段の支流路3(合計N本)へ分岐して、各段の発電セル9へ供給される。支流路3は、発電セル9の下流にて再び排出側主流路2へ合流して出口13へ導かれる。
ここで、支流路3を入り口12に近い側から1、2、3、・・・、Nと番号付けする。供給側主流路1における(n−1)番目の支流路3への分岐点からn番目の支流路3への分岐点までの流路抵抗をRn1とする。また、排出側主流路2における(n−1)番目の支流路への分岐点からn番目の支流路3への分岐点までの流路抵抗をRn2とし、n番目の支流路の流路抵抗をRn3とする。ただし、R11=0、R12=0とする。
本実施形態の燃料電池は、すべての支流路について、供給口12から供給側主流路1と第1の支流路3aとの合流点までの流路抵抗と、前記第1の支流路3aと前記供給側主流路1との合流点から前記第1の支流路3aと排出側主流路2との合流点までの流路抵抗とを合わせた流路抵抗の大きさが、前記供給口12から前記第1の支流路3aとは異なる前記第2の支流路3bと前記供給側主流路1の合流点までの流路抵抗と、前記第2の支流路3bと前記供給側主流路1との合流点から前記第2の支流路3bと前記排出側主流路2との合流点までの流路抵抗と、前記第2の支流路3bと前記排出側主流路2との合流点から前記第1の支流路3aと前記排出側主流路2との合流点までの流路抵抗とを合わせた流路抵抗の大きさよりも小さい。なお、第1の支流路3aと第2の支流路3bは、同一でなければ、燃料電池が有する支流路のいずれであっても良い。このとき、流路抵抗Rnは、
と表される。なお、R
k1は、供給側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示し、R
n3は、前述したように、n番目の支流路の流路抵抗を示す。
通常、発電中、燃料拡散電極5への水素供給は供給側主流路1から支流路3へと行われるのが好ましい。しかし、供給側主流路1に比べて、排出側主流路2の流路抵抗が極端に小さいと、他の支流路および排出側主流路を通った水素が燃料拡散電極5に供給される割合が多くなる。他の発電セル9を通った水素ガスは、発電に伴う不純物を多く含んでいる場合も多く、発電にばらつきが生じる原因となる。
もし、このように流路設計を行わずに、その支流路3を通るよりも小さな流路抵抗Rnの別の支流路3が存在する場合には、発電中、あるいは、発電を行いながら、パージをする場合で、パージ流量が発電により消費される水素量に比べて少ないと、図3に示すように、別の発電セル9を通過した水素ガスが排出側主流路2との合流点側から回りこんで燃料拡散電極5に供給される割合が多くなる。
また、発電を停止してパージを行う場合にも、発電中に発生した逆の流れに逆らう形でパージを行わなければならない。このような状態は、水素ガスの循環が不安定になり、好ましくない。ただし、極端に流路抵抗Rnを他の経路に比べて小さくすると、流れに偏りが生じてしまうため、Rnを小さくしすぎないことも重要である。
流路抵抗Rnの設計の方法には、支流路3の幅や長さ、供給側主流路1の断面形状の設計の他、支流路3(特に排出側主流路3側)に絞り構造を挿入することにより可能である。また、多孔質部材などの抵抗物を挿入したりする方法もある。また、支流路3の表面粗さを変えたり、濡れ性を変えたりすることも有効である。
第1実施形態の燃料電池装置10では、それぞれの支流路3において、入り口12から支流路3の入り口(分岐点)までの流路抵抗と支流路3の流路抵抗Rn3との和が、他のあらゆる支流路3における供給側主流路1との分岐点から入り口12までの流路抵抗よりも大きくなるように流路を設計してある。すなわち、支流路の総数をNとして、2<n<m<Nとするとき、以下のように設計してある。
なお、前述したように、R
k1は、供給側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示す。また、R
n3は、n番目の支流路の流路抵抗を示す。
この様に流路抵抗を設定することで、入り口12から供給側主流路1と支流路3の分岐点までの距離が発電セルによって異なる場合でも、格差の少ない圧力で各支流路に水素ガスを分岐供給することができる。これにより、発電性能のばらつきを低減するとともに、パージ時のガスの流れの偏りを緩和することができる。
また、特定の支流路3で供給側主流路1との分岐点から入り口12までの流路抵抗が、別の支流路3を通じた入り口12から排出側主流路2との合流点までの流路抵抗よりも小さいと、その特定の支流路3への水素ガスの流入が妨げられて、別の支流路3を通じた水素ガスがその特定の支流路3の合流点側から流れ込む可能性がある。つまり、特定の支流路3では、図3のように水素ガスが逆流する可能性がある。
このような2つの設計を組み合わせることにより、水素ガスの整流構造はさらに効果的になり、逆流が無く、また、各発電セル9に均一に水素ガスを供給できる。
第1実施形態の燃料電池装置10では、いずれの支流路3においても、その流路抵抗Rn3は、供給側主流路1の流路抵抗よりも、また、排出側主流路2の流路抵抗よりも十分に大きい。入り口12から支流路3との分岐点までの供給側主流路1の流路抵抗と、出口13から支流路3との合流点までの排出側主流路2の流路抵抗のいずれよりも大きくなるように、支流路3の流路抵抗Rn3を設計してある。すなわち、支流路の総数をNとして、2<n<m<Nとするとき、以下のように設計してある。
なお、R
k1およびR
n3に関しては、前述した通りであり、R
k2は、排出側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示す。
これにより、図4に示すように、フラッディングなどにより、支流路3に水滴が生じた際に、水滴の前後で出口側の圧力が低くなるような差圧が生じやすくなり、この差圧を駆動力とすることで、水滴を排出側主流路2へ効率よく排出できる。
また、発電中においては、燃料拡散電極5よりも下流側では、発電セル9内で水素ガスが消費されているため、燃料拡散電極5よりも上流側よりも水素ガスの流量が少ない。そのため、流路抵抗を、水素ガスの消費量を加味して、さらに排出側主流路2の流路抵抗を大きく見積もることが好ましい。
第1実施形態の燃料電池装置10では、入り口12から通常と同じ条件で(図1の燃料タンク17から)水素ガスを供給した際に、発電セル9内の圧力がそれぞれの合流点の圧力より高くなるように、入り口12から合流点までのそれぞれの支流路3を通じた流路抵抗が設定されている。言い換えれば、低い圧力の少量の水素ガス供給でも、すべての支流路3において、供給側主流路1の圧力>発電セル9の入り口側の圧力>発電セル9の出口側の圧力>合流点の手前位置の圧力>排出側主流路2の圧力の関係が成立する。これにより、すべての発電セル9で、滞留/蓄積した不純物ガスが、円滑かつ直線的、そして同時進行的に排出側主流路2へ押し出される。
第1実施形態は、水素ガスの再循環機構を持たないいわゆるデッドエンド型の燃料電池装置であって、発電セル9で滞留/蓄積した不純物ガスを除去する際にパージ弁15が開放される。
従って、通常の発電状態では、パージ弁15が閉じられており、発電部分である膜電極接合体9に接する燃料拡散電極5の空間が最も圧力が低くなる。そして、各段の発電セル9で最も低い圧力となった発電セル9には、他の発電セル9から排出側主流路2を通じて合流点側から水素ガスが逆流する可能性がある。しかし、上記のように最適化された流路抵抗の設計によって、発電セル9間の圧力差は、専ら供給側主流路1を通じた水素ガスの移動によって埋め合わせられることとなり、合流点側からの逆流は効果的に低減される。
また、パージ動作に関しては、パージのための出口13を流路出口として考えれば良く、上記のような流路抵抗の設計によって、パージをより効率よく、また、不純物ガスや水滴が流路内の一部に溜まってしまうのを防ぐことができる。
特に、発電セル9下流側の支流路3に絞り構造を組み込むことで、排出側主流路2を通じて合流点側から水素ガスが逆流する現象を効果的に防止できる。このため、パージ時の供給水素圧力が外気に比べてそれほど高くない場合でも、パージの際に外気が逆拡散により混入することも効果的に防止できる。
尚、デッドエンドではなく、水素を微量にフローさせた状態での発電においても、本実施形態の流路構成の条件が適用可能である。
<第2実施形態>
図5は第2実施形態の燃料電池装置における水素ガスの流路の模式図、図6は不純物ガスの排出が十分でない場合の説明図である。第2実施形態の燃料電池装置20は第1実施形態における出口13を入り口12と同じ側(下方)に変更した以外は、第1実施形態と同様に構成されている。従って、図1、図2と共通な構成には共通の符号を付して詳細な説明は省略する。
第2実施形態の燃料電池装置20は、図1に示す圧板11に排出側主流路2の貫通孔を形成して図5に示す出口13Aとし、圧板11の排出側主流路2(出口13A)にパージ弁15を接続してある。これにより、圧板16から上方へ突出する構造が無くなって、燃料電池装置20の小型化に有利となる。
図6に示すように、セルスタック20Sに対する水素ガスの入り口12とパージのための出口13Aとは、燃料電池装置20の同一の側に配置されている。これにより、供給側主流路1における水素ガスの流れ方向と、排出側主流路2における水素ガスの流れ方向とは反対方向である。
第2実施形態の燃料電池装置20でも、第1実施形態と同様に、供給側主流路1と排出側主流路2と各段の支流路3との流路抵抗が次のように設計されている。
(1)それぞれの支流路3において、入り口12から排出側主流路2との合流点までの流路抵抗Rnがその支流路3を通った場合に最も小さい。
(2)それぞれの支流路3において、入り口12から支流路3の入り口(分岐点)までの流路抵抗と支流路3の流路抵抗Rn3との和が、他のあらゆる支流路3における供給側主流路1との分岐点から入り口12までの流路抵抗よりも大きい。
(3)それぞれの支流路3において、支流路3の流路抵抗Rn3は、入り口12から支流路3への分岐点までの供給側主流路1の流路抵抗と、出口13Aから支流路3の合流点までの排出側主流路2の流路抵抗のいずれよりも十分に大きい。
(4)燃料タンク17から水素ガスを供給してパージ弁15を開放した際に、すべての発電セル9内の圧力がそれぞれの支流路3の合流点の圧力より高くなるように、支流路3を通じた入り口12から出口13Aまでの流路抵抗を定めた。
出口13Aを図5に示すようにセルスタック20Sに対して入り口12の対角にない位置に配置した場合、図6に示すように、入り口12近くの発電セル9を中心に水素ガスが供給される。その結果、入り口12から遠い発電セル9には、水素ガスが供給されにくくなって、図6に示すように不均一に発電セル9がパージされる可能性が高まる。
そこで、入り口12に近い支流路ほど、流路抵抗を大きくすることで、不均一を緩和することができる。すなわち、Rn3>Rm3(n<m)となるようにする。特に、Rn3+Rn1+Rn2がR(n−1)3とほぼ等しくなるようにすると、より均一にすることができる。
さらに、(1)〜(4)の設計を行うことで、デッドエンド発電時に排出側主流路2を通じて合流点側から水素ガスが逆流する現象を効果的に低減でき、また、発電セル9に均等な水素ガス流量を確保して均等なパージを行うことができる。
<第3実施形態>
図7は第3実施形態の燃料電池装置の構成を説明する斜視図、図8は水素ガスの流路の模式図、図9は不純物ガスの排出が十分でない場合の説明図である。第3実施形態の燃料電池装置30は、本発明の構造を平面配列型燃料電池に適用している。
図7に示すように、平面的に配列された複数の発電セル29は、共通の燃料極集電体24と酸素極集電体28とによって並列に接続されて並列に電力を取り出される。発電セル29は、膜電極接合体26の一方の面に燃料拡散電極25、他方の面に酸素拡散電極27を接触させている。膜電極接合体26は、高分子電解質膜の両面に触媒層を配置して構成される。
燃料拡散電極25、酸素拡散電極27は、それぞれ燃料極スペーサ37、酸素極スペーサ38の独立した開口に収められている。燃料極スペーサ37、酸素極スペーサ38は、発電セル29とともに、燃料極集電体24と酸素極集電体28との間隔に挟み込んで組み立てられる。
燃料極集電体24、酸素極集電体28は、導電性の多孔性材料を発電セル29ごとに独立して配置しており、隣接する発電セル29間で水素ガス、酸素がそれぞれ拡散しないようにしてある。発電セル29への水素ガスの供給は、燃料極集電体24の下面に配置された流路基板36を通じて行われる。燃料極集電体24および燃料極スペーサ37の仕切り枠と、膜電極接合体26と、流路基板36とで囲まれた空間は、燃料拡散電極25を収納して外気から密封された燃料空間となっている。
酸素拡散電極27は、酸素極スペーサ38の仕切り枠に格納されて酸素極集電体28を通じて表面が大気に解放されている。第3実施形態の燃料電池装置は、発電セル29を平面的に配列しているので、第1実施形態の積み重ねた形式に比較して、酸素の取り入れ面積、水蒸気の排出面積を広く確保できる。
流路基板36には、それぞれ2つずつの発電セル29へ水素ガスを導く複数の支流路23が形成されている。燃料極集電体24に接する部分の支流路23は、浅く形成して流路抵抗を高め、水素ガスが燃料極集電体24へ拡散することなく素通りしないようにしてある。
流路基板36上で、複数の支流路23は、供給側主流路21と排出側主流路22とに両端を接続されている。第1実施形態と同様に、供給側主流路21の入り口32は、減圧弁14を介して燃料タンク17に接続され、排出側主流路22の出口33はパージ弁15に接続される。
供給側主流路21には、燃料タンク17から取り出して減圧弁14で大気圧より少しだけ高い圧力に調圧された水素ガスが供給され、支流路3へ分岐して燃料極集電体24から燃料拡散電極25へ流れ込む。
燃料拡散電極25に接する膜電極接合体26の触媒層では、水素ガスが触媒反応によって水素原子に分解されてイオン化し、水素イオンが高分子電解質膜に供給される。酸素拡散電極27に接する膜電極接合体26の触媒層では、触媒反応によって酸素が高分子電解質膜から拾い上げた水素イオンに化合して水分子を生成する。膜電極接合体26の高分子電解質膜は、燃料拡散電極25側から酸素拡散電極27側へ水素イオンを移動させる。発電中、供給された水素は、発電セル29において消費される。従って、パージ弁15が閉じられた状態では、燃料拡散電極25の空間が最も圧力が低くなっている。
パージ弁15は、通常は閉止され、必要に応じて開放される。排出側主流路22は、複数の支流路23を合流させて出口33へ案内しており、パージ弁15を開放すると、燃料拡散電極25をパージした水素ガスがパージ弁15を通じて外気へ排出される。
図8に示すように、燃料電池装置30へ入り口32から供給された水素ガスは、供給側主流路21を通り、発電セル29へ支流路23に分岐しながら供給される。発電セル29からの支流路23は排出側主流路22で再び合流し、排出側主流路22を通って、出口33へと導かれる。
ここで、支流路23を入り口32に近い側から1、2、3、・・・、Nと番号付けする。そして、供給側主流路21における(n−1)番目の支流路23への分岐からn番目の支流路23への分岐までの流路抵抗をRn1とする。また、排出側主流路22における(n−1)番目の支流路23への分岐からn番目の支流路23への分岐までの流路抵抗をRn2とし、n番目の支流路の流路抵抗をRn3とする。ただし、R11=0、R12=0とする。
第3実施形態の燃料電池装置30では、それぞれの支流路23において、入り口32から前記供給側主流路21と第1の支流路23aとの合流点までの流路抵抗と、前記第1の支流路23aと前記供給側主流路21との合流点から前記第1の支流路23aと前記排出側主流路22との合流点までの流路抵抗とを合わせた流路抵抗の大きさが、前記入り口32から前記第1の支流路23aとは異なる前記第2の支流路23bと前記供給側主流路21の合流点までの流路抵抗と、前記第2の支流路23bと前記供給側主流路21との合流点から前記第2の支流路23bと前記排出側主流路22との合流点までの流路抵抗と、前記第2の支流路23bと前記排出側主流路22との合流点から前記第1の支流路23aと前記排出側主流路22との合流点までの流路抵抗とを合わせた流路抵抗の大きさよりも小さい。なお、第1の支流路23aと第2の支流路23bは、同一でなければ、燃料電池が有する支流路のいずれであっても良い。このとき、流路抵抗Rnは、
と表される。なお、前述したように、R
k1は、供給側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示し、R
n3は、n番目の支流路の流路抵抗を示す。
通常、発電中、燃料拡散電極25への水素供給は供給側主流路21から支流路23へと行われるのが好ましいが、供給側主流路21に比べて、排出側主流路22の流路抵抗が極端に小さいと、他の支流路を迂回して、排出側主流路を通じて水素が供給される割合が多くなる。他の発電セル29を迂回した水素ガスは、発電に伴う不純物を多く含んでいる場合も多く、発電にばらつきが生じる原因となる。
もし、このように流路設計を行わずに、その支流路23を通るよりも小さな流路抵抗Rnの別の支流路23が存在する場合には、発電中、あるいは、発電を行いながら、パージをする場合で、パージ流量が発電により消費される水素量に比べて少ないと、図9に示すように、別の支流路23を迂回した水素ガスが排出側主流路22との合流点側から回りこんで燃料拡散電極25に供給される割合が多くなる。
また、パージを発電を停止して行う場合にも、発電中に発生した逆の流れに逆らう形でパージを行わなければならない。このような状態は、水素ガスの循環が不安定になり、好ましくない。ただし、極端に流路抵抗Rnを他の経路に比べて小さくすると、流れに偏りが生じてしまうため、Rnを小さくしすぎないことも重要である。
流路抵抗Rn3の設計の方法には、支流路23の幅や長さ、供給側主流路21の断面形状の設計の他、支流路23(特に排出側主流路22側)に絞り構造を挿入することにより可能である。また、多孔質部材などの抵抗物を挿入したりする方法もある。また、支流路23の表面粗さを変えたり、濡れ性を変えたりすることも有効である。
第3実施形態の燃料電池装置30では、それぞれの支流路23において、入り口32から支流路23の分岐点までの流路抵抗と支流路23の流路抵抗Rn3との和が、他のあらゆる支流路23における供給側主流路21との分岐点から入り口32までの流路抵抗よりも大きくなるように流路を設計してある。すなわち、支流路の総数をNとして、2<n<m<Nとするとき、以下のように設計してある。
なお、前述したように、R
k1は、供給側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示す。また、R
n3は、n番目の支流路の流路抵抗を示す。
この様に流路抵抗を設定することで、入り口12から供給側主流路21と支流路23の分岐点までの距離が発電セルによって異なる場合でも、格差の少ない圧力で各支流路に水素ガスを分岐供給することができる。これにより、発電性能のばらつきを低減するとともに、パージ時のガスの流れの偏りを緩和することができる。
また、特定の支流路23で供給側主流路21との分岐点から入り口32までの流路抵抗が、別の支流路23を通じた入り口32から排出側主流路22との合流点までの流路抵抗よりも小さいと、その特定の支流路23への水素ガスの流入が妨げられて、別の支流路23を通じた水素ガスがその特定の支流路23の合流点側から流れ込む可能性がある。つまり、特定の支流路23では、図9のように水素ガスが逆流する可能性がある。
このような2つの設計を組み合わせることにより、水素ガスの整流構造はさらに効果的になり、逆流が無く、また、複数の発電セル29に均一に水素ガスを供給できる。
第3実施形態の燃料電池装置30では、いずれの支流路23においても、その流路抵抗Rn3は、供給側主流路21の流路抵抗よりも、また、排出側主流路22の流路抵抗よりも十分に大きい。入り口32から支流路23との分岐点までの供給側主流路21の流路抵抗と、出口33から支流路23との合流点までの排出側主流路22の流路抵抗のいずれよりも大きくなるように、支流路3の流路抵抗Rn3を設計してある。すなわち、支流路の総数をNとして、2<n<m<Nとするとき、以下のように設計してある。
なお、R
k1およびR
n3に関しては、前述した通りであり、R
k2は、排出側主流路における(k−1)番目の支流路への分岐点からk番目の支流路への分岐点までの流路抵抗を示す。
これにより、図4に示すように、フラッディングなどにより、支流路23に水滴が生じた際に、水滴の前後で出口側の圧力が低くなるような差圧が生じやすくなり、この差圧を駆動力とすることで、水滴を排出側主流路22へ効率よく排出できる。
また、発電中においては、支流路23が排出側主流路22に合流する手前の部分では、発電セル29内で水素ガスが消費されているため、燃料拡散電極25の上流側に位置する部分よりも水素ガスの流量が少ない。そのため、流路抵抗を、水素ガスの消費量を加味して、さらに排出側主流路22の流路抵抗を大きく見積もることが好ましい。
第3実施形態の燃料電池装置30では、燃料タンク17から水素ガスを供給した際に、発電セル29内の圧力がそれぞれの合流点の圧力より高くなるように、入り口32から合流点までのそれぞれの支流路23を通じた流路抵抗が設定されている。これにより、すべての発電セル29で、滞留/蓄積した不純物ガスが、円滑かつ直線的、そして同時進行的に排出側主流路22へ押し出される。
第3実施形態の燃料電池装置30は、通常はパージ弁15を閉じて燃料タンク17から水素ガスを供給するデッドエンド型の燃料電池である。従って、発電時には、発電部分、すなわち、燃料極拡散電極25が最も負圧になり、供給側主流路21側と、および排出側主流路22側との両方向から支流路23に水素ガスが流入する可能性がある。
しかし、上記のような流路抵抗の設計によって、専ら供給側主流路21側から発電セル29に水素ガスを取り込むことができ、排出側主流路22側からの逆流を低減することができる。また、パージ動作に関しては、パージのための出口33を流路出口として考えれば良く、上記の流路抵抗の設計によって、パージをより効率よく、また、不純物ガスや水滴が流路内の一部に溜まってしまうのを防ぐことができる。特に、支流路23の排出側主流路22との合流点付近に絞り構造を組み込むことで、パージ時の供給水素圧力が外気に比べてそれほど高くない場合でも、パージの際に外気が逆拡散により発電セル29へ混入するのを防ぐことができる。
尚、デッドエンドではなく、水素を微量にフローさせた状態での発電においても、本実施形態の流路構成の条件が適用可能である。
<第4実施形態>
図10は第4実施形態の燃料電池装置における水素ガスの流路の模式図、図11は不純物ガスの排出が十分でない場合の説明図である。第4実施形態の燃料電池装置40は第3実施形態における出口33を入り口32と同じ側に変更した以外は、第3実施形態と同様に構成されている。従って、図7、図8と共通な構成には共通の符号を付して詳細な説明は省略する。
第4実施形態の燃料電池装置40は、図10に示すように、排出側主流路22の出口33Aを入り口32と同じ側に設けて、図7に示すようにパージ弁15を接続してある。これにより、パージ弁15を開放した際の供給側主流路21における水素ガスの流れ方向と、排出側主流路22における水素ガスの流れ方向とは逆である。
第4実施形態の燃料電池装置40でも、第3実施形態と同様に、供給側主流路21と排出側主流路22と各段の支流路23との流路抵抗が次のように設計されている。
(1)それぞれの支流路23において、入り口32から排出側主流路22との合流点までの流路抵抗Rnがその支流路23を通った場合に最も小さい。
(2)それぞれの支流路23において、入り口32から支流路23の分岐点までの流路抵抗と支流路23の流路抵抗Rn3との和が、他のあらゆる支流路23における供給側主流路21との分岐点から入り口32までの流路抵抗よりも大きい。
(3)それぞれの支流路23において、支流路23の流路抵抗Rn3は、入り口32から支流路23への分岐点までの供給側主流路21の流路抵抗と、出口33Aから支流路23の合流点までの排出側主流路22の流路抵抗のいずれよりも十分に大きい。
(4)燃料タンク17から水素ガスを供給してパージ弁15を開放した際に、すべての発電セル29内の圧力がそれぞれの支流路23の合流点の圧力より高くなるように、支流路23を通じた入り口32から出口33Aまでの流路抵抗を定めた。
図10に示すように、出口33Aを入り口32の対角にない位置に配置した場合、図11に示すように、入り口32近くの発電セル29を中心に水素ガスが供給される。その結果、入り口32から遠い発電セル29には、水素ガスが供給されにくくなって、図11に示すように、不均一に発電セル9がパージされる可能性が高まる。
そこで、入り口32に近い支流路ほど、流路抵抗を大きくすることで、不均一を緩和することができる。すなわち、Rn3>Rm3(n<m)となるようにする。特に、Rn3+Rn1+Rn2がR(n−1)3とほぼ等しくなるようにすると、より均一にすることができる。
さらに、(1)〜(4)の設計を行うことで、デッドエンド発電時に排出側主流路22を通じて合流点側から水素ガスが逆流する現象を効果的に低減でき、また、発電セル29に均等な水素ガス流量を確保して均等なパージを行うことができる。
<第5実施形態>
第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池装置は、いずれも発電中に出口から水素ガスが流れ出さないデッドエンド型の燃料電池装置である。そして、入り口から水素ガスを供給して出口から水素ガスを流れ出させた際に、排出側主流路からの逆流を避けて並列な支流路の発電セルに均等に水素ガスを供給して均等に排出させるものである。
従って、第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池装置は、出口から水素ガスを常時流れ出させて発電を行うフロー型としても、そのまま利用できる。この場合、パージ弁15は取り除かれて、排出された水素ガスを利用する管路が接続される。
つまり、本発明は、デッドエンド型の燃料供給を行う燃料電池装置のみならず、フロー型の燃料供給を行う燃料電池装置にも利用可能であって、発電セルへの燃料ガスの供給に関して同様な効果を奏する。
フロー型としての1つの形態は、燃料電池装置の出口からオーバーフローさせた水素ガスを入り口へ還流させて燃料電池装置に再循環させる発電システムである。この場合、出口から入り口へ水素ガスを導く再循環経路には、水素ガスを循環(加圧)させるポンプ、排出された水素ガスから不純物ガスを除去する不純物ガス除去装置、消費された分の水素ガスを補充する水素ガス供給装置が配置される。
フロー型としての別の形態は、第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池装置の出口にデッドエンド型としての第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池装置を接続する発電システムである。すなわち、パージ弁15を持たない第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池装置を水素ガスの供給に関して2段以上直列に接続して、パージ弁15を取り付けた最終段の燃料電池装置をデッドエンド型として運転させる。
さらに、本発明は、エアブリージング型の燃料電池装置の燃料供給系のみならず、密封された酸素供給空間に酸素を供給する燃料電池装置にも応用可能である。酸素供給に係る供給側主流路と排出側主流路を形成して、供給側主流路と排出側主流路とを連絡する複数の並列な支流路に発電セルを1つ以上配置する酸素供給系として応用すれば、発電セルへの酸素の供給に関して同様な効果を奏する。
<実施例1>
本発明の第1実施形態をより具体化した実施例を説明する。本実施例の燃料電池装置の概要を図1に示す。本実施例において、供給側主流路1の直径は4mm、排出側主流路2の直径は3mmとなっている。また、発電セル9の触媒部分のサイズは10mm×30mmで、これに接する支流路3のサイズは、10mm×30mm、深さ0.3mmとなっている。また、燃料極集電体4の厚さは1mmであり、酸素極集電体8の厚さは2mmで、単位発電セルあたりの厚さは、合計3mmとなっている。本燃料電池は、10層の発電セル9を有しているため、供給側主流路1、および、排出側主流路2の厚さは、約30mmとなっている。
流路中の流れが層流である場合、流路抵抗は、管路の長さに比例し、断面積に反比例する。従って、抵抗係数aを(管路長さ)÷(管路断面積)と定義すると、流路抵抗R=a×C(ただし、Cは定数)と表せる。供給側主流路1、排出側主流路2、支流路3の流路サイズにあわせて、各流路におけるaを計算することにより、流路抵抗は、それぞれ、
となる。ここで、R
k3はkによらず一定である。また、10層なので、N=10となる。すなわち、上記構成は、第1実施形態で述べた流路抵抗の最適な各条件(数4、数5)を満たしていることがわかる。
1Aの発電において、水素は標準状態で約7ml/min消費される。燃料電池の定常発電における電流密度を200mA/cm2とすると、単位発電セルあたり4.2ml/minの水素を消費する。また、燃料電池全体では、42ml/minの水素を消費する。
一方、燃料電池内の流路の全容積は1.5ml程度である。パージにおいて、流路全体のガスを5秒間で追い出すとすると、パージに必要な流量は18ml/minとなる。また、供給される水素の圧力は、1.1気圧〜2気圧(絶対圧)である。
上記のような流路構成とすることで、発電中に水素が排出側主流路2から迂回して発電セル9に供給されたり、発電中にパージを行ったりしても、逆流の影響なく、効率的なパージを行うことができる。
さらに、図1に示されているように、支流路3の入り口、あるいは、出口などに絞りを設けたり、燃料拡散電極5を挿入したりすることで、さらに支流路3の流路抵抗を高めることができる。
<実施例2>
本発明の第2実施形態をより具体化した実施例を説明する。本実施例の燃料電池装置の概要を図5に示す。支流路3の厚さを除く、その他の構成は、実施例1と同様である。ここで、本実施例では、支流路3の厚さは入り口12から遠くなるほど、深くなっている。具体的には、入り口12に最も近い支流路3の厚さを0.2mmとし、隣あう支流路の厚さをおよそ0.02mm〜0.07mmの範囲で順に厚くしていく。
以上のようにすることで、第2実施形態で説明した関係を満たす構成とすることができる。また、別な手段としては、支流路3の厚さを0.3mmで一定とし、支流路中に絞りを設けたり、流路抵抗となる部材(多孔質体など)を挿入したりすることによっても実現することができる。例えば絞りを設ける場合には、絞りの幅を1mmから8mmまで、入り口12から遠くなるほど、順次広くしていけばよい。
<比較例の燃料電池装置>
固体高分子形燃料電池は、運転温度が比較的低いこと、電解質が高分子膜であるため、扱いやすいことなどの理由から、車載用や家庭用の発電装置として、広く研究開発が行なわれている。固体高分子形燃料電池は、電解質として高分子電解質膜を用い、高分子電解質膜の両側に触媒電極層を備えた膜電極接合体を使用する。膜電極接合体の一方の触媒電極層に燃料(水素ガスなど)を、他方の触媒電極層に酸化剤(空気など)を供給することで発電が行なわれる。その際、生成物として水が発生する。燃料極での反応式は、以下のようになる。
一方、酸化剤極での反応式は、以下のようになる。
従って、燃料電池を安定して発電させるためには、燃料、および、酸化剤を効率よく供給するとともに、生成した水を排出することが重要である。特に、水が排出できずに流路を塞いでしまう現象は、フラッディングと呼ばれ、ガス拡散を阻害し、燃料電池の出力を低下させる要因となっている。
一組の膜電極接合体の理論電圧は1.23V程度で、通常の運転状態においては、0.7V程度で使用されることが多い。そのため、より高い電圧が必要な場合や、高出力密度が必要な場合には、複数の発電セルを積み重ね、各発電セルを電気的に直列に接続する場合が多い。このような積層構造は、セルスタックと呼ばれ、通常、セルスタック内では、酸化剤流路と燃料流路は、セパレータと呼ばれる部材によって、隔離されている。
従来、燃料極および酸化剤極においては、発電セルへのガス供給を効率良く行うため、様々なパターンの配流板が工夫されてきた。特に複数の発電セルを積み重ねて用いる場合には、高集積化を目的として、流路の幅は狭く設計されており、配流板の設計にはより工夫が必要であった。配流版はセパレータを兼ねる場合が多い。また、各発電セルの出力を直列に接続する働きも兼ねる場合があり、この場合は、バイポーラプレートと呼ばれる。特開平03−205763号公報に示される配流版は、配流板中に複数の流路を並列に設けたことを特徴としている。
また、酸化剤極での生成水や移動水の排出、酸化剤中の酸素の拡散の改善のため、特開平06−267564号公報では、燃料極に燃料配流板を、酸化剤極に酸化剤配流板をそれぞれ具備している。酸化剤配流板の酸化剤流路の深さ、あるいは幅の少なくともいずれかを酸化剤の上流流路域から下流流路域に沿って徐々に小さくしてある。
一方、小型の電気機器を持ち運んで使用するためには、種々の一次電池、二次電池が使用されてきた。しかし、最近の小型電気機器の高性能化に伴い、消費電力が大きくなり、一次電池では、小型軽量で、十分なエネルギーを供給できなくなっている。
一方、二次電池においては、繰り返し充電して使用できるという利点はあるものの、一回の充電で使用できるエネルギーは一次電池よりも少ない。そして、二次電池の充電の為には、別の電源が必要である上、充電には通常数十分から数時間かかり、いつでもどこでもすぐに使用できる様にするということは困難である。
今後、電気機器のますますの小型、軽量化が進み、ワイヤレスのネットワーク環境が整うことにより、機器を持ち運んで使用する傾向が高まる中で、従来の一次電池、二次電池では機器の駆動に十分なエネルギーを供給することは困難である。
このような問題の解決策として、小型の燃料電池が注目されている。燃料電池は従来、大型の発電機、自動車用の駆動源として開発が進められてきた。これは、燃料電池が、従来の発電システムに比べて、発電効率が高く、しかも廃棄物がクリーンであることが主な理由である。一方、燃料電池が小型電気機器の駆動源として有用な理由に体積当たり、重量当たりの供給可能なエネルギー量が従来の電池に比べて、数倍から十倍近くであることが挙げられる。さらに、燃料のみを交換すれば連続して使用が可能であるため、他の二次電池の様に充電に時間がかかることもない。
燃料電池には、様々な方式のものが発明されているが、小型電気機器、とりわけ持ち運びして使用する機器に対しては、固体高分子形燃料電池が適している。これは、常温に近い温度で使用でき、また、電解質が液体ではなく固体であるので、安全に持ち運べるという利点を有しているためである。
小型電気機器用の燃料電池の燃料としては、従来メタノールが検討されてきた。これは、メタノールが保存しやすく、また入手しやすい燃料であることが主な理由である。また、大きな出力を得るための燃料電池には、水素を燃料に使用するのが効果的である。水素を蓄える方法としては、気体のままタンクに貯蔵したり、水素吸蔵合金などの吸蔵材料を充填したタンクを使用したりすることができる。
小型電気機器向け燃料電池において、複数の発電セルを用いる場合には、従来の積層方式の他に、発電セルを同一平面上に配列し、立体配線技術を用いて、直列に接続する平面配列型方式もよく用いられる。これは、小型燃料電池ではシステム全体の小型化のため、酸化剤として空気を用い、自然拡散によって取り入れることが多く、平面配列方式の方が、より効率よく空気を取り入れられるという利点を有しているためである。
また、大型の燃料電池システムにおいては、燃料は発電で消費される以上の量を供給、循環させている場合が多いのに対し、小型電気器向け燃料電池では、燃料流路をデッドエンドにして、消費される量のみを補充する方式を用いる場合が多い。
ただし、この場合には、燃料流路中に水蒸気や窒素などの不純物が蓄積され、時間とともに発電特性が低下する問題が指摘されている。そのため、流路中にパージバルブを設けて、定期的にパージ動作を行っていた。米国特許USP6423437号公報においては、デッドエンド型の小型燃料電池において、アクティブなパージバルブを使用せずに、パッシブな機構で燃料流路のパージを行うことによって、発電特性の低下を防ぐ技術が示される。
しかし、従来の技術においては、燃料極や酸化剤極の配流板に関しては様々な工夫がなされているものの、極室までの流路抵抗、極室からの流路抵抗、極室での流路抵抗の関係について配慮されたものはなかった。そのため、より小さなシステムにおいては、ガスの逆流や、発電セル間の流量の偏りが発生してしまう恐れがあった。また、生成した水が流路を塞いだ場合に、水を排出するための力を効率的に水滴に発生させることができない場合があった。また、平面配列型の燃料電池スタックや、デッドエンド型燃料電池においては、流路抵抗の配慮はほとんどなされていなかった。
これに対して、第1実施形態1〜第4実施形態の燃料電池装置は、
(1)それぞれの支流路において、入り口から排出側主流路との合流点までの流路抵抗がその支流路を通った場合に最も小さい。
(2)それぞれの支流路において、入り口から支流路の分岐点までの流路抵抗と支流路の流路抵抗との和が、他のあらゆる支流路における供給側主流路との分岐点から入り口までの流路抵抗よりも大きい。
(3)それぞれの支流路において、支流路の流路抵抗は、入り口から支流路への分岐点までの供給側主流路の流路抵抗と、出口から支流路の合流点までの排出側主流路の流路抵抗のいずれよりも十分に大きい。
これらの関係により、燃料、および、酸化剤の流れを入り口から出口へスムーズに導くことができる。さらに、水によって流路が塞がれた場合に、排除しやすいという効果がある。これにより、燃料電池の発電の安定性を向上することができる。
例えば、第1実施形態の第燃料電池装置10は、入り口12から導いた燃料ガスを別々の位置で枝分かれさせて並列な複数の支流路3に導く供給側主流路1を備え、それぞれの支流路3が少なくとも1つの発電セル9を含む。そして、複数の支流路3の出口側に対して別々の位置で合流して、発電セル9内の燃料ガスを出口13へ導く排出側主流路2を備える。すべての支流路3について、供給側主流路1と排出側主流路2と複数の支流路3とにおける流路抵抗が次のように設定されている。入り口12から排出側主流路2に対する1つの支流路3の合流点までの流路抵抗は、前記1つの支流路3を通った場合に他のいずれの支流路3を迂回した場合の流路抵抗よりも小さくなる。
さらに、燃料電池装置10では、すべての支流路3と排出側主流路2との合流点において、その支流路3を通った場合の流路抵抗が、他のどの支流路3を迂回した場合の流路抵抗よりも小さくなっている。
具体的には、燃料拡散電極5を配置した支流路3の流路抵抗をほぼ同一に揃えるとともに、排出側主流路2を供給側主流路1よりも細くして、供給側主流路1を長く経由する迂回路ほど流路抵抗が高くなるようにしている。
従って、供給側主流路1における支流路3の分岐点では、燃料ガスが別の支流路3へ迂回することなく、その支流路3の発電セル9へ流れ込む。また、発電中、水素が発電セル9で消費されている状況においても、排出側主流路2との合流点では、他の支流路3を迂回した燃料ガスのほうが流路抵抗による圧力低下が大きいので、その支流路3へ逆流しにくい。
言い換えれば、排出主流路2を通じて複数の発電セル9内の水素ガスを排出させた際に、すべての支流路3について、供給側主流路1との分岐点の圧力>発電セル9内の圧力>排出側主流路2との合流点の圧力の関係が成立する。
従って、すべての発電セル9で、滞留/蓄積した不純物ガスが、円滑かつ直線的、そして同時進行的に排出側主流路2へ押し出される。限られた量の低い圧力の燃料ガスでも、複数の発電セル9の一部で不純物ガスを多く残してしまうことなく、排出側主流路2を通じて効率的に不純物ガスを排出させることができる。不純物ガスを均等に除去することにより、複数の発電セル9で均等に水素ガス分圧を確保させて、均等な発電を行わせることができる。
従って、それぞれの発電セル9で潜在的な発電能力を十分に発揮させて、ばらつき少なく高い発電効率を達成でき、燃料電池装置10の全体としての発電性能が高められて安定化される。
燃料電池装置10は、入り口12から導いた燃料ガスを別々の位置で枝分かれさせて並列な複数の支流路3に導く供給側主流路1を備え、それぞれの支流路3が少なくとも1つの発電セル9を含む。複数の支流路3の出口に対して別々の位置で合流して、発電セル9内の燃料ガスを出口13へ導く排出側主流路2を備える。入り口12に近い側の支流路3を通じた入り口12から排出側主流路2との合流点までの流路抵抗が、入り口12から遠い側の支流路3における入り口12から供給側主流路1との分岐点までの流路抵抗よりも大きく設定されている。
従って、入り口12から遠い支流路3へ向かうべき燃料ガスが入り口12に近い支流路3へ流れ込まない。入り口12から遠い発電セル9内の圧力が排出側主流路2内の圧力を下回らない。入り口12から遠い発電セル9でも入り口に近い発電セル9並みに燃料ガスを確保して、すべての発電セル9で、滞留/蓄積した不純物ガスが、円滑かつ直線的、そして同時進行的に排出側主流路2へ押し出される。限られた量の低い圧力の燃料ガスでも、複数の発電セル9の一部で不純物ガスを多く残してしまうことなく、排出側主流路2を通じて効率的に不純物ガスを排出させることができる。不純物ガスを均等に除去することにより、複数の発電セル9で均等に水素ガス分圧を確保させて、均等な発電を行わせることができる。
燃料電池装置10は、すべての支流路3について、その流路抵抗は、入り口12から供給側主流路1との分岐点までの流路抵抗と、排出側主流路2との合流点から出口13までの流路抵抗のいずれよりも大きい。
燃料電池装置10は、通常運転時の圧力で入り口12から燃料ガスを供給して出口13から排出させた際に、すべての支流路3について、発電セル9内の圧力が排出側主流路2との合流点の圧力より高くなるように、入り口12から合流点までのそれぞれの支流路3を通じた流路抵抗を設定してある。
燃料電池装置10は、供給側主流路1と排出側主流路2とで燃料ガスの流れが反対となるように入り口12と出口13とを配置し、支流路3における発電セル9よりも下流側の流路抵抗が、入り口12から遠い支流路3ほど低く設定されている。
燃料電池装置10は、大気に前記排出側主流路2を開放可能なパージ弁15弁が出口13に接続され、水素ガスを供給側主流路1に供給して発電セル9を作動させる燃料タンク17が入り口12に接続されている。
燃料電池装置10は、膜電極接合体6の一方の面側に配置され、支流路3を通じて供給された燃料ガスを前記一方の面側に拡散させつつ支流路3の出口側へ導く燃料拡散電極5と、膜電極接合体6の他方の面側に配置され、大気中の酸素を前記他方の面側に拡散させる酸素拡散電極7とを備える。
燃料電池装置10は、複数の発電セル9を積み重ねて直列に接続したセルスタック10Sを備え、酸素拡散電極7は、その側面の少なくとも一部がセルスタック10Sの側面で大気に開放される。そして、供給側主流路1と排出側主流路2とは、発電セル9の外側の同一平面位置に形成された発電セル9ごとの貫通孔を連通させて構成される。
燃料電池装置30には、複数の発電セル29が共通の流路基板36上に平面的に並べて配置され、酸素拡散電極27は、膜電極接合体26と反対側の面の少なくとも一部を大気に開放して配置される。そして、供給側主流路21と前記排出側主流路22とは、流路基板36に配置されている。