JP5168196B2 - 圧粉磁心、およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心に関するものである。さらに、本発明は、かかる圧粉磁心の製造方法に関するものである。
モータなどに用いられる圧粉磁心において、製品の効率や出力向上のために、強度、絶縁性および密度は、非常に重視されてきた。圧粉磁心において、強度と絶縁性を得るために低融点ガラス層を用いて、鉄粉同士を結合するのは、よく知られた方法である。
例えば、特許文献1においては、優れた磁束密度,鉄損値,及び周波数特性を有する磁心材料を用いた高周波用圧粉磁心及びその製造方法を提供することを目的として、P,Mg,B,Feを必須元素とするガラス状絶縁層で被覆されている軟磁性粉末を圧粉,接合,固化してなる高周波用圧粉磁心が提案されている。同文献には、絶縁層が被覆された軟磁性粉末に、エポキシ樹脂,イミド樹脂,あるいはふっ素系樹脂からなる樹脂層を被覆形成したものが開示されている。
また、特許文献2においては、低鉄損でかつ高強度の圧粉磁心、それに用いる粉末と、この圧粉磁心の製造方法を提供することを目的として、磁性粉の表面が、オルガノアルコキシシラン部分加水分解物または/およびその前駆体から成る少なくとも1層の第1皮膜で被覆され、更に第1皮膜がアルカリ−けい酸系ガラスから成る第2皮膜で被覆されていることを特徴とする圧粉磁心用粉末、および磁性粉とオルガノアルコキシシラン部分加水分解物または/およびその前駆体とを混合して、磁性粉の表面を被覆する少なくとも1層の第1皮膜を形成する工程;第1皮膜が形成されている磁性粉とアルカリ−けい酸系ガラスを混合して、第1皮膜の上にアルカリ−けい酸系ガラスから成る第2皮膜を形成する工程;第2皮膜が形成されている磁性粉を圧縮成形する工程;および、得られた成形体に温度500〜900℃の熱処理を施して第1皮膜の重縮合と第2皮膜の脱水・重縮合を進める工程;を備えていることを特徴とする圧粉磁心の製造方法が提案されている。
また、特許文献3においては、ヒステリシス損失低減のための焼鈍を行っても絶縁破壊が起きない、耐熱性に優れた絶縁被覆を有し、さらに成形体の強度も高い圧粉磁心用の鉄基粉末を提供することを目的として、鉄基粉末表面を被覆材で被覆してなる被覆鉄基粉末であって、被覆鉄基粉末に対する被覆材の分量が質量%で0.02〜10%であり、被覆材が、質量%で、ガラス:20〜90%と、バインダー:10〜70%と、あるいはさらにガラス及びバインダー以外の絶縁性及び耐熱性物質:70%以下とからなることを特徴とする被覆鉄基粉末が提案されている。
また、特許文献4には、高密度、高強度、高比抵抗および高飽和磁束密度を有する複合軟磁性焼結材の製造方法を提供することを目的として、酸化ケイ素溶液等を含む酸化物溶液と、酸化硼素等のゾル溶液または粉末等を含む酸化物溶液または酸化物粉末を特定の組成に配合し、混合し、乾燥して軟磁性金属粉末をその混合酸化物で被覆してなる混合酸化物被覆軟磁性金属粉末を圧粉し、成形したのち、500〜1000℃で燒結することを複合軟磁性焼結材の製造方法が提案されている。
さらに、特許文献5〜8には、高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材を提供することを目的として、Mg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に被覆されているMg含有酸化鉄膜被覆鉄粉末を低融点ガラスで結合してなる複合軟磁性材、およびその製造方法が提案されている。
また、特許文献9には、高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法を提供することを目的として、酸化バナジウム系低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を用いる複合軟磁性焼結材の製造方法が提案されている。
さらに、特許文献10には、モータなどの製造に使用される高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法を提供することを目的として、鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより鉄粉末の表面に低融点ガラスを被覆した低融点ガラス被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理することを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法が提案されている。
特開平6−260319号公報 特開2005−294428号公報 特開2004−143554号公報 特開2005−332930号公報 特開2006−332524号公報 特開2006−332525号公報 特開2008−91413号公報 特開2008−91414号公報 特開2008−88459号公報 特開2006−278833号公報
しかしながら、これらの特許文献に記された方法を用いて実験を行っても、圧粉磁心の強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立するのは困難であった。本願の発明者らは、鋭意検討の結果、そこでの問題点が大きく分けて2つあることを見出した。即ち、第1の問題点は、低融点ガラス層と絶縁皮膜との界面で剥離が生じるため、強度が不足してしまうことであり、また第2の問題点は、最外層をガラスで被覆した鉄粉は成形性が悪いため、密度が大きく低下してしまうことである。本発明は、かかる問題点を解決して、圧粉磁心の強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心およびその製造方法を提供しようとするものである。
即ち、本発明の目的は、絶縁皮膜と低融点ガラス層の両者の材質および製法を最適にすることによって、低融点ガラスと絶縁皮膜との界面強度、および圧粉成形性を向上することができ、その結果として、圧粉磁心の強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立することができるようにすることにある。
本願の請求項1に記載の発明(以下「本願の第一発明」という)は、軟磁性粉末を圧縮成形し接合および固化してなる、圧粉磁心において、
該軟磁性粉末が、その表面に該軟磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を有し、さらに該絶縁皮膜の表面に低融点ガラス層を有しており、
該絶縁皮膜の少なくとも一部が焼鈍により液相化されたのちに固化されてなるものであり、
該絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層及び該絶縁皮膜における該Si樹脂を600℃まで加熱した際に残留するSiO2の重量をB23の重量で除した値が1.5〜2.2である
ことを特徴とする、圧粉磁心を提供するものである。
かかる本願の第一発明では、強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心を提供することが可能である。
第一発明の一つの好ましい態様として、低融点ガラス層が、低融点ガラス成分と、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物を焼鈍により無機化することにより形成されたものである、圧粉磁心の製造方法が挙げられる(請求項2参照)。かかる態様によれば、強度と絶縁性および密度をより高いレベルで両立させた圧粉磁心を提供することが可能である。
第一発明のもう一つの好ましい態様として、絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものである、圧粉磁心が挙げられる。かかる態様によれば、強度と絶縁性および密度をより高いレベルで両立させた圧粉磁心を提供することが可能である。
本願の請求項3に記載の発明(以下「本願の第二発明」という)は、磁性粉末を圧縮成形し接合および固化してなる、圧粉磁心の製造方法において、
磁性粉末の表面に該磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を形成し
該絶縁皮膜の表面に低融点ガラス成分を含む層を形成し、
該絶縁皮膜と低融点ガラス成分を含む層の形成された磁性粉末を圧縮成形し、
得られた磁性粉末の成形体を焼鈍して、該低融点ガラス成分を含む層から低融点ガラス層を形成すると共に、該絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化すること
を含む方法であって、該絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層及び該絶縁皮膜における該Si樹脂を600℃まで加熱した際に残留するSiO2の重量をB23の重量で除した値が1.5〜2.2である、圧粉磁心の製造方法を提供するものである。
かかる本願の第二発明では、強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心を確実に製造することが可能である。
第二発明の一つの好ましい態様として、低融点ガラス成分を含む層が、低融点ガラス成分と、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物からなり、焼鈍により該混合物を無機化することにより低融点ガラス層を形成すると共に、該絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化することを特徴とする圧粉磁心の製造方法が挙げられる(請求項5参照)。かかる態様によれば、強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心をより確実に製造することが可能である。
第二発明のもう一つの好ましい態様として、絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものである、圧粉磁心の製造方法が挙げられる。かかる態様によれば、強度と絶縁性および密度を高いレベルで両立させた圧粉磁心をより確実に製造することが可能である。
本発明の圧粉磁心の製造方法の一つの態様において、絶縁皮膜と低融点ガラス成分を含む層の形成された磁性粉末を、成形および焼鈍して、低融点ガラス成分を含む層から低融点ガラス層を形成すると共に、絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化されたものを模式的に示す説明図である。 本発明の一つの態様において、SiO2−B23系の平衡状態図の例を示す説明図である。 本発明の圧粉磁心の製造方法の一つの態様を模式的に示す説明図である。 本発明の圧粉磁心の一つの態様と対照例における、曲げ強度と比抵抗の関係を示す説明図である。
本発明は、強度と絶縁性の両者に優れた圧粉磁心を提供するものであって、具体的には、磁性粉末が、その表面に磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を有し、さらに絶縁皮膜の表面に低融点ガラス層を有しており、その絶縁皮膜の少なくとも一部が焼鈍により液相化されたのちに固化されてなるものである、圧粉磁心を提供するものである。
その圧粉磁心における金属磁性粒子は、通常軟磁性粉末であって、その圧粉磁心の組成に応じて任意に変更することができる。一般的に、金属磁性粒子は、鉄系材料、すなわち、純鉄もしくはその合金からなることができる。適当な金属磁性粒子は、以下に記載するものに限定されないが、例えば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などである。これらの金属磁性粒子は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。なかんずく、好適な金属磁性粒子は、Fe、Fe‐Si、Fe‐Al、Fe‐Ni、Fe‐Co及びその混合物である。
従来、圧粉磁心で用いられている低融点ガラスは、その名のとおり、焼鈍時に溶融することで軟磁性粉末同士を接合し、強度を保っている。しかし、軟磁性粉末表面の絶縁被膜と、低融点ガラス層との界面には、特に中間層などは存在しないため、接合強度が弱い。本願の発明者らは、鋭意検討した結果、低融点ガラス層と、絶縁被膜の少なくとも一部を液相化、即ち溶融させて固化させることによって、低融点ガラス層と絶縁被膜の接着界面にそのような中間層を形成させることで、両層間の接合強度を向上できることを見出した。
焼鈍時に低融点ガラス成分を含む層と、絶縁被膜の少なくとも一部を溶融させるためには、一般的な平衡状態図を用いて材料組成と焼鈍温度を設定することができる。そして、低融点ガラス成分を含む層と絶縁被膜の材料には、共晶系、包晶系の材料を適用することができる。例えば、焼鈍温度を700℃とした場合に、低融点ガラス層に使用可能な材料系として、SiO2−B23系、SiO2−V25系、SiO2−PbO系、SiO2−B23−Bi23系などが挙げられるが,低融点ガラス層に使用可能な材料系として特に好ましいものは、SiO2−B23系である。
磁性粉末を絶縁被膜で被覆しさらに低融点ガラス成分を含む層で被覆する際には、その種々の構成が可能である。一例として低融点ガラス層がSiO2−B23系の場合であれば、(1)絶縁被膜としてSiO2を含む皮膜を形成し、その上に低融点ガラス成分を含む層としてSiO2成分とB23成分の混合物を被覆するか、もしくは(2)絶縁皮膜としてSiO2を含む皮膜を形成し、その上に低融点ガラス成分を含む層としてB23成分を被覆するか、または(3)磁性粉末をSiO2成分とB23成分の混合物で被覆して下地を作り、その上に絶縁被膜としてSiO2を含む皮膜を形成し、続いて低融点ガラス成分を含む層としてSiO2成分とB23成分の混合物を被覆するなどさまざまな構成が可能である。いずれの構造にしても、最外層が焼鈍時に溶融して低融点ガラス層を形成するものであり、かつその他の層構造のどこかに、好ましくは低融点ガラス層の下層として、焼鈍により少なくとも一部が溶融し得る絶縁被膜を設けるのが肝心である。
圧粉磁心の強度をさらに高めたい場合は、低融点化合物の高融点化合物に対する比率を高めれば良い。例えば低融点ガラス層および絶縁皮膜がSiO2−B23系であれば、B23(融点:450℃)のSiO2(融点:約1,700℃)に対する比率を高めれば良い。具体的には、低融点ガラス層中のB23の比率を高めても良く、低融点ガラス層の絶縁被膜に対する比率を高めても良い。一方、絶縁性を求める場合は、高融点化合物の方を多くすれば良い。
絶縁性確保の重要な閾値となるのは、絶縁被膜が全て溶融するかどうかである。これは平衡状態図を用いて判定できる。一例として、SiO2−B23系で600℃において,SiO2がモル比60%以下になると完全に液相となり、絶縁皮膜が全て溶融する。図2には、そのような平衡状態図の例が示されている。この結果、この値を境に強度は向上するが、絶縁性が低下する場合がある。従って、絶縁被膜における焼鈍時に溶融する部分としては、強度と絶縁性の両方を得る上で、絶縁被膜における25〜95容積%の部分が溶融することが好ましく、特に50〜95容積%の部分が溶融することが好ましい。
強度と絶縁性を両立するために、好ましくは例えば低融点ガラス層と絶縁皮膜を合わせて捉えたSiO2−B23系におけるSiO2/B23の重量比が0.5以上であって、且つ5.0以下である。さらその重量比は、好ましくは、1.5以上であって、3.0以下である。
本発明の圧粉磁心の好ましい態様として、低融点ガラス層が、低融点ガラス成分と有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物を焼鈍により無機化することにより形成されたものである、圧粉磁心が挙げられる。
低融点ガラス成分を含む層としては、低融点無機ガラス成分のみを、もしくは低融点無機ガラス成分と共に有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物を使用することができる。特に、最外に位置する低融点ガラス成分を含む層には、低融点無機ガラス成分と共に、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物を使用するのが好ましい。圧粉成形時に有機バインダー及び/又は無機バインダーが潤滑剤の役割を果たすため、軟磁性粉末同士の摩擦係数が低くなり、成形性が大きく向上し、かつ金型の磨耗も少なくなる。
かかる有機バインダーの例としては、以下に列挙するものに限定されないが、Si樹脂、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂、高分子量ポリエチレン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリイミドなどの非熱可塑性樹脂、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸系化合物等が挙げられるが、特にSi樹脂が好ましい。また、無機バインダーの例としては、金属アルコキシド、アモルファスシリカ、ρ-アルミナ(Al23・nH2O)等が挙げられるが、金属アルコキシドがより好ましい。これらの有機バインダーと無機バインダーは、単独でまたは組み合わせ使用できるが、好ましくは有機バインダーが単独で使用される。
例えば、SiO2−B23系の低融点ガラス層を作製する場合は、有機バインダーとしてのSi樹脂とB23の混合物を利用すれば良い。低融点無機ガラス成分と有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合率は、成形性と強度の兼ね合いから、低融点無機ガラス成分の有機バインダー及び/又は無機バインダーに対する比(重量比)が0.1以上であって、且つ20以下が望ましい。
使用される低融点ガラス成分の形状としては、粉末状であっても良く、或いは低融点ガラス成分と有機バインダー及び/又は無機バインダーが分子レベルで混合されていても良い。
本発明の圧粉磁心の好ましい態様として、絶縁皮膜がSi樹脂、即ちシリコーン樹脂を含むものであり、前記低融点ガラス層がB23および有機バインダーとしてのSi樹脂を含むものである、圧粉磁心が挙げられる。そのSi樹脂としては、例えば信越シリコーン(株)製のKR220Lなどを利用することができる。
絶縁皮膜と低融点ガラス層の合計膜厚は、平均して、0.005〜20μmであることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.3μmである。絶縁皮膜と低融点ガラス層の合計膜厚を0.005μm以上とすることによって、トンネル効果による通電を抑制することができる。また、0.05μm以上とすることによって、トンネル効果による通電をより効果的に抑制することができる。一方、絶縁皮膜と低融点ガラス層の合計膜厚を20μm以下とすることによって、圧縮成形時に絶縁皮膜がせん断破壊することを防止できる。また、軟磁性粉末に占める絶縁皮膜および低融点ガラス層の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性粉末を圧縮成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。また、絶縁皮膜の膜厚を0.3μm以下とすることによって、磁束密度の低下をさらに防止することができる。
本発明は、強度と絶縁性の両者に優れた圧粉磁心の製造方法を提供するものであって、具体的には、磁性粉末の表面に磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を形成し、絶縁皮膜の表面に低融点ガラス成分を含む層を形成し、絶縁皮膜と低融点ガラス成分を含む層の形成された軟磁性粉末を圧縮成形し、得られた軟磁性粉末の成形体を焼鈍して、低融点ガラス成分を含む層から低融点ガラス層を形成すると共に、絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化する、圧粉磁心の製造方法を提供するものである。
その圧粉磁心の製造方法の一つの好ましい態様として、低融点ガラス成分を含む層が、低融点ガラス成分と、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物からなり、焼鈍により該混合物を無機化することにより低融点ガラス層を形成すると共に、該絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化することを特徴とする圧粉磁心の製造方法が挙げられる。
また、圧粉磁心の製造方法のもう一つの好ましい態様として、絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものである、製造方法が挙げられる。
これらの圧粉磁心の製造方法に関する好ましい態様においては、上記のごとき圧粉磁心に関する好ましい態様が同様に適用され得る。
図1には、本発明の圧粉磁心の製造方法の一つの態様において、絶縁皮膜1と低融点ガラス成分を含む層2の形成された軟磁性粉末3を、成形および焼鈍して、低融点ガラス成分を含む層から低融点ガラス層4を形成すると共に、少なくとも一部が液相化され固化された絶縁皮膜5が、模式的に示されている。
低融点ガラス成分を含む層および絶縁被膜の形成には、ゾルゲル法はじめ、湿式・乾式のあらゆる薄膜作成法を使用できる。また、絶縁被膜及び低融点ガラス成分を含む層の形成後に、必要に応じて低融点ガラス成分を含む層の表面を内部潤滑剤で被覆しても良い。
こうして作製した軟磁性粉末を、圧粉成形により成形する。一般的な2軸の金型成形や、HIP、CIPを初めとして様々な成形法が利用可能である。ただし、本発明の効果を充分に発揮させるためには、軟磁性粉末の相対密度を90%以上に(結果として、磁束密度の高い圧粉磁心が得られるように)調整することが望ましい。
焼鈍時の到達温度は、400℃〜910℃であることが望ましい。これは、400℃以下では圧粉成形時の歪が十分に除去できず、逆に910℃以上では絶縁皮膜が劣化し、また磁性粉末が焼結してしまうからである。また、昇温速度としては20〜7000℃/hrが好ましく、到達温度での保持時間としては1〜200分が好ましい。
特に強度が必要な場合には、焼鈍工程後に圧粉磁心表面をエポキシその他の樹脂で被覆することが好適である。これにより、圧粉体表面の微細なクラックを埋め、強度を大幅に向上する事ができる。
図3において、本発明の圧粉磁心の製造方法の一つの態様例を模式的に示す。即ち、磁性粉末13の表面に絶縁皮膜11を形成し、その上に低融点ガラス成分を含む層12を形成する。得られた被覆軟磁性粉末群17を圧縮成形機により1,300MPa等の加圧下で圧縮成形し、得られた成形体18を例えば到達温度600℃で昇温速度を100℃/hr、保持時間60分等の条件で焼鈍する。焼鈍によって、磁性粉末13と、低融点ガラス成分を含む層から形成された低融点ガラスおよび少なくとも一部が液相化され固化された絶縁皮膜からなる層14を有する圧粉磁心が得られ、次いで、必要に応じて、さらにエポキシ樹脂等の樹脂15でその表面を被覆して、その際にその樹脂の一部16を圧粉磁心の表面近傍に存在する空隙に侵入させて、被覆の強度をさらに向上させる。
本発明における「密度[g/cm3]」とは、電子天秤によって測定した重量と、マイクロメータで測定した寸法に基づいて計算した体積とによって、得られるものである。また、「強度」とは4点曲げ強度[MPa]を意味し、棒状試験片を4点曲げ試験によって破断した際の最大荷重に基づいて得られるものであり、「絶縁性」とは比抵抗[Ω・cm]を意味し、サンプル表面を4探針法によって測定することで得られるものである。
絶縁皮膜、および低融点ガラス層の厚さは、軟磁性粉末の表面を断面観察用サンプルに加工後、TEM(Transmission Electron Microscope)によって観察することで得られるものであり、「絶縁皮膜における液状化して固化した部分」は、焼鈍後のサンプルを破断し,その破断面をSEM[Scanning Electron Microscope)によって観察することによって確認されるものである。
また、後述する実施例における「曲げ強度[MPa]」とは4点曲げ強度[MPa]を意味し、棒状試験片を4点曲げ試験によって破断した際の最大荷重に基づいて得られるものである。
また、後述する実施例における「比抵抗[Ω・cm]」とはサンプル表面を4探針法によって測定することで得られるものである。
以下に本願発明についての実施例を挙げて更に具体的に本願発明を説明するが、それらの実施例によって本願発明が何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例および比較例における配合組成を表す各成分の量は、特に断らない限り「重量部」で表したものである。
実施例1〜5、参考例1,2
図3に示すように、磁性粉末(鉄系粉末)13に、Si樹脂を被覆処理して、続いてB23とSi樹脂の混合物を被覆処理した。各層の比率を表1に示すよう変化させ、各々のサンプルを作製した。それらの被覆処理は、IPA(イソプロピルアルコール)に被覆成分を溶解してコーティング溶液を作製し、磁性粉末にコーティング溶液をスプレーしながら流動層乾燥機の中で60℃に加熱することで行った。コーティング後の粉末を、恒温漕で、225℃で1時間加熱し、各層の溶剤を完全に除去して、絶縁皮膜11および低融点ガラス成分を含む層12を形成した。そのようにして得られた各サンプルについて各層の強度を向上した。
なお、磁性粉末(鉄系粉末)としては、ヘガネス社の水アトマイズ鉄粉の「ソマロイ700」を使用し、Si樹脂としては信越化学工業(株)製の商品名「シリコーンレジンKR220L」を使用した。また、表1において「SiO2(無機分)/B23」とは、磁性粉末に添加したSi樹脂を600℃まで加熱した際の、残留するSiO2(無機分)の重量を、磁性粉末に添加したB23の重量で除した比率を意味し、「樹脂被覆無し」は焼鈍後の圧粉磁心の表面に、エポキシ樹脂を被覆していないことを意味し(実施例1、2、4に相当)、「樹脂被覆有り」は焼鈍後の圧粉磁心の表面に、エポキシ樹脂を被覆していることを意味する(実施例3、5に相当)。
得られた各サンプルにおける、絶縁皮膜の厚さは約100nmであり、低融点ガラス層の厚さは約75〜300nmであった。
得られた混合粉末を金型に入れ圧縮成形をした。成形方法としては、大気中、型温130℃、成形面圧1,300MPaとし、1ショット毎に金型潤滑剤(ステアリン酸亜鉛)を刷毛塗りした。
次に焼鈍を行うことで成形時に導入されたひずみを除去すると共に、低融点ガラスと、絶縁被膜の一部を溶融することで強度を向上した。焼鈍条件としては、昇温速度を100℃/hr、到達温度を600℃、保持時間を60分とした。
また、焼鈍後のサンプルを破断し,その破断面をSEMによって観察した結果,その絶縁皮膜における液状化して固化した部分は約50〜90%であった。
次に得られた圧粉磁心の表面に、エポキシ樹脂を被覆する事で、強度をさらに向上した。エポキシ樹脂にはソマール社の「E530‐5」を使用し、軟化した樹脂を塗布した後に、140℃で1時間硬化させた。
次に得られたサンプルの密度・曲げ強度・比抵抗を測定した。密度はマイクロメータで測定した寸法に基づいて求めた。曲げ強度は4点曲げ試験によって、比抵抗はサンプル表面を4探針法によって測定した。以上のようにして得られたサンプル一覧を表1に示す。表1から分かるように、参考例でのSi樹脂の絶縁被膜のみの場合に比べて、B23を混合した低融点ガラスも用いた場合(実施例1〜5)は、曲げ強度が向上している。また、SiO2/B23比によって、比抵抗と曲げ強度が共に変化することが分かる。
Figure 0005168196
参考例としての図4に示すように、比抵抗と曲げ強度の関係において、同一の比抵抗で、「樹脂被覆有り」の場合(実施例3、5)の方が、「樹脂被覆無し」の場合(実施例1、2、4)よりも高い曲げ強度が得られる。尚、実施例4,5は、本願の発明の比較例に該当する。

Claims (5)

  1. 磁性粉末を圧縮成形し接合および固化してなる、圧粉磁心において、
    磁性粉末が、その表面に該磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を有し、さらに該絶縁皮膜の表面に低融点ガラス層を有しており、
    該絶縁皮膜の少なくとも一部が焼鈍により液相化されたのちに固化されてなるものであり、
    該絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層及び該絶縁皮膜における該Si樹脂を600℃まで加熱した際に残留するSiO2の重量をB23の重量で除した値が1.5〜2.2である
    ことを特徴とする、圧粉磁心。
  2. 前記低融点ガラス層が、低融点ガラス成分と、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物を焼鈍により無機化することにより形成されたものである、請求項1に記載の圧粉磁心。
  3. 軟磁性粉末を圧縮成形し接合および固化してなる、圧粉磁心の製造方法において、
    該軟磁性粉末の表面に該磁性粉末を取り囲む絶縁皮膜を形成し、
    該絶縁皮膜の表面に低融点ガラス成分を含む層を形成し、
    該絶縁皮膜と低融点ガラス成分を含む層の形成された軟磁性粉末を圧縮成形し、
    得られた軟磁性粉末の成形体を焼鈍して、該低融点ガラス成分を含む層から低融点ガラス層を形成すると共に、該絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化すること
    を含む方法であって、該絶縁皮膜がSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層がB23およびSi樹脂を含むものであり、該低融点ガラス層及び該絶縁皮膜における該Si樹脂を600℃まで加熱した際に残留するSiO2の重量をB23の重量で除した値が1.5〜2.2である、圧粉磁心の製造方法。
  4. 前記焼鈍後に、前記圧粉磁心の表面をエポキシ樹脂で被覆することを更に含む、請求項3に記載の圧粉磁心の製造方法。
  5. 前記低融点ガラス成分を含む層が、該低融点ガラス成分と、有機バインダー及び/又は無機バインダーの混合物からなり、前記焼鈍により該混合物を無機化することにより前記低融点ガラス層を形成すると共に、該絶縁皮膜の少なくとも一部も液相化することを特徴とする、請求項3又は4に記載の圧粉磁心の製造方法。
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