以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のアクリル系樹脂シート状成形体は、(A)分子鎖に反応性官能基を有しポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のアクリル系共重合体と、(B)前記アクリル系共重合体と反応する官能基を有する化合物と、(C)分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体と、(D)シランカップリング剤と、(E)機能性充填剤を有するアクリル系樹脂シート状成形体である。
本発明にかかる(A)分子鎖に反応性官能基を有しポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のアクリル系共重合体(以下、「アクリル系共重合体(A)」ともいう)は、分子鎖に反応性官能基を有し、ポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のものである。このようなアクリル系共重合体を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、官能基を有さないアクリル系モノマーを主体として、これに共重合可能なビニル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを同時に重合(共重合)させる方法、官能基を有するアクリル系モノマーと他のアクリル系モノマーを共重合させる方法、アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーを重合させ、停止反応として官能基含有分子により末端停止反応を行う方法等を採用することができる。
また、アクリル系共重合体(A)は、分子鎖に反応性官能基を有し、この官能基が水酸基、カルボキシル基、グリシジル基のいずれかを有するものであればよい。さらに反応性官能基が平均して分子鎖に2個以上存在することが好ましく、これより少ないと、反応性官能基が充分鎖延長することができず、耐熱性が低下したり、シート状成形体が得難くなったりする。これら官能基の導入は、共重合時に官能基を有したモノマーを共重合させることによりなされる。また、これら官能基は、分子鎖中間に存在することが好ましい。反応性官能基が分子末端のみに存在すると、熱硬化後に強靭な網目構造を得ることが困難となり、それを使用したアクリル系樹脂シート状成形体は強靭性が劣る場合がある。
また、アクリル系共重合体(A)は、ランダム共重合したもの、或いはブロック共重合したものであってもよい。
また、アクリル系共重合体(A)の構造は、単一なものに限られず、様々な繰り返し単位のアクリル系共重合体を混合したものを用いることが可能である。
さらに、アクリル系共重合体(A)は、前述のようにして得られる2種以上のモノマーを共重合させたアクリル系共重合体の他にも、異なるアクリル系単独重合体同士を混合したもの、アクリル系単独重合体とアクリル系共重合体とを混合したもの、又はアクリル系共重合体同士を混合したものを用いることができる。また、得られた重合体が2種類以上の異なった官能基を有していても構わないが、その場合、(B)アクリル系共重合体(A)と反応する官能基を有する化合物との硬化反応に際して反応が安定せず制御が困難になりやすい。
官能基を有さないアクリル系モノマーとしては、アクリル酸アルキルエステル、脂環式アルキルアクリレート、メタクリル酸アルキルエステル、脂環式アルキルメタクリレート等が挙げられる。
アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート(アクリル酸メチル)、エチルアクリレート(アクリル酸エチル)、プロピルアクリレート(アクリル酸プロピル)、iso−プロピルアクリレート(アクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルアクリレート(アクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルアクリレート(アクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルアクリレート(アクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルヘキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルアクリレート(アクリル酸オクチル)、iso−オクチルアクリレート(アクリル酸−iso−オクチル)、デシルアクリレート(アクリル酸デシル)、iso−デシルアクリレート(アクリル酸イソデシル)、iso−ノニルアクリレート(アクリル酸−iso−ノニル)、ネオペンチルアクリレート(アクリル酸ネオペンチル)、トリデシルアクリレート(アクリル酸トリデシル)、ラウリルアクリレート(アクリル酸ラウリル)等が挙げられる。
脂環式アルキルアクリレートとしては、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
メタクリル酸アルキルエステルとしては、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、エチルメタクリレート(メタクリル酸エチル)、プロピルメタクリレート(メタクリル酸プロピル)、iso−プロピルメタクリレート(メタクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルヘキシルメタクリレート(メタクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルメタクリレート(メタクリル酸オクチル)、iso−オクチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−オクチル)、デシルメタクリレート(メタクリル酸デシル)、イソデシルメタクリレート(メタクリル酸イソデシル)、イソノニルメタクリレート(メタクリル酸イソノニル)、ネオペンチルメタクリレート(メタクリル酸ネオペンチル)、トリデシルメタクリレート(メタクリル酸トリデシル)、ラウリルメタクリレート(メタクリル酸ラウリル)等が挙げられる。
脂環式アルキルメタクリレートとしては、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
これらの中で、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にn−ブチルアクリレート(アクリル酸−n−ブチル)、2−エチルヘキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルヘキシル)が好ましい。
ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ジメチルアクリルアミド、N−ジメチルメタクリルアミド、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
官能基を有するモノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーが挙げられる。
水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒロドキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、アクリル酸又はメタクリル酸とポリプロピレングリコール又はポリエチレングリコールとのモノエステル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ラクトン類と2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの付加物、等が挙げられる。
カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルグリシジルアクリレート、2−エチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、本発明のアクリル系共重合体(A)は、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミュエションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量が800乃至20,000である。数平均分子量が800未満であると、得られる成形体の耐熱性、耐候性が劣る傾向にあり、またシート状成形体の硬度が高くなり所望の柔軟性が得られず、優れた密着性を得ることできない。また、逆に数平均分子量が20,000を超えると、アクリル系共重合体(A)の流動性がなくなる傾向にあり、(E)機能性充填剤を高比率で充填させることが困難となるばかりか、加工性が低く、シート化が困難である。
本発明にかかる(B)アクリル系共重合体(A)と反応する官能基を有する化合物(以下、「化合物(B)」ともいう)は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基と反応し結合を作るものであるが、その反応の際に副生成物を伴うものは好ましくない。例えば、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基が水酸基、化合物(B)の官能基がカルボキシル基であると、両者の反応により副生成物として水が発生する。これら副生成物は硬化される成形体中に残留する場合が多く、とくに気泡の発生を伴うために好ましくない。したがって、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基が水酸基である場合、化合物(B)としてイソシアネート系化合物、酸無水物等が選択使用される。その中でも特に、イソシアネート系化合物が好適に使用される。前記イソシアネート系化合物としては、種々のものが使用できるが、常温で液状のものが好ましく、また、溶剤で希釈すると得られる成形体に気泡が発生する可能性があるので好ましくない。これらイソシアネート系化合物としては、耐候性に優れる点で、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族系イソシアネートが特に好適に使用される。
アクリル系共重合体(A)の反応性官能基がカルボキシル基である場合、化合物(B)としてグリシジル基を有する化合物が好適に使用され、アクリル系共重合体のカルボキシル基と反応して硬化物を得ることができる。このグリシジル基を有する化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(PGPGE)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(PETPGE)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(DGPGE)、グリセロールポリグリシジルエーテル(GREPGE)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、レゾルシノールジグリシジルエーテル(RESDGE)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(NPGDGE)、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル(HDDGE)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(PGDGE)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPGDGE)、ポリブタジエンジグリシジルエーテル(PBDGE)、フタル酸ジグリシジルエーテル(DGEP)、ハロゲン化ネオペンチルグリセロールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル(DGEBF)等が挙げられ、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)等を特に好適に使用することができる。
また、官能基としてグリシジル基を有する化合物のエポキシ当量(WPE)は、80乃至400の範囲にあることが好ましい。エポキシ当量が400を超えるとアクリル系共重合体(A)と反応させるために、化合物(B)を多く添加することが必要となって得られるシート状成形体の要求性能が充分果たせない傾向にあり、他方、エポキシ当量が80未満であると、硬化反応が速くなりすぎてシート状成形体の製造が困難となる。
また、このようなグリシジル基を有する化合物としては、圧力1013hPa、温度25℃の条件下において液状のものであることが好ましい。
さらに、このようなグリシジル基を有する化合物としては、圧力1013hPa下で150℃の温度条件で10分間加熱した後の加熱重量減少値が加熱前の重量に対して3%以下となるような実質的に溶媒を含まないものであることが好ましい。このような加熱重量減少値が3%を超えると、含有されている溶媒が反応の障害となりシート状成形体の製造が困難となる傾向にあり、更には、含有されている溶媒が得られるシート状成形体の内部に気泡を発生させる原因となるためである。なお、このような加熱重量減少値の算出方法としては、メトラートレド株式会社製のHG53型ハロゲン水分計を用い、常圧下(1013hPa)で、試料5gを150℃の温度条件で10分間加熱した時の重量変化を測定し、加熱前後の重量比較により減少率を算出する方法を採用する。
アクリル系共重合体(A)の反応性官能基がグリシジル基である場合、化合物(B)としてアミン系化合物、イソシアネート系化合物、メルカプト系化合物、クロルスルホニル系化合物、イミダゾール系化合物、酸無水物等が選択使用される。これらの中で、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、無水マレイン酸等の酸無水物及びテレフタル酸等のカルボン酸系化合物が特に好適に使用される。
化合物(B)の配合量は、アクリル系共重合体(A)の有する官能基に対する化合物(B)の有する反応性官能基の官能基当量比が、0.6〜1.5となるように調整することが好ましく、さらに好ましくは0.8〜1.2である。官能基当量比が、0.6未満の場合は、アクリル系樹脂シート状成形体の製造の際に硬化が充分に進行せず、完全に樹脂が固化しないか、あるいはシート状成形体の取り扱い不良や耐熱性不良の問題が生じる傾向にある。他方、官能基当量比が1.5を超える場合には、硬化が過剰に進行し、シート状成形体の硬度が硬くなり、さらに未反応の反応性官能基を有する、化合物(B)が残留するためシート状成形体を形成後、経時でのブリードアウトが生じる可能性があり、シート状成形体の耐熱性を低下させる可能性もあり好ましくない。
本発明にかかる(C)分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体(以下、「アクリル系共重合体(C)」ともいう)は、本発明のアクリル系樹脂シート状成形体の粘着性に寄与するものである。つまり、アクリル系共重合体(C)は、(A)分子鎖に反応性官能基を有しポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のアクリル系共重合体と(B)前記アクリル系共重合体(A)と反応する官能基を有する化合物に含有させることにより、シート状成形体における単位体積あたりの見かけ架橋密度を低減することができ、粘着性に優れたシート状成形体を得ることを可能にするものである。アクリル系共重合体(C)は、分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体であり、分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体が好ましい。分子鎖に反応性官能基を有さないものと分子鎖末端に官能基を有するもののいずれも粘着性を付与する効果があるが、分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体のほうが、粘着性付与効果が高く、その添加量も低く抑えることができる。
分子末端に反応性官能基を有するアクリル系共重合体(C)の反応性官能基は化合物(B)と反応して結合を作らないものが好ましい。化合物(B)と反応して結合を作ると、シート状成形体の粘着付与効果が低くなる。
アクリル系共重合体(C)を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、官能基を有さないアクリル系モノマーを主体に、共重合可能なビニル系モノマーを共重合することにより得ることができる。
また、官能基を有さないアクリル系モノマー及びビニル系モノマーとしては、アクリル系共重合体(A)を重合するために用いたものと同様なものが挙げられる。
アクリル系共重合体(C)は、ゲルパーミュエションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量が800乃至6,000であることが好ましい。重量平均分子量800未満であると、シート状成形体の硬度が高くなり所望の粘着性が得られず、優れた密着性を得ることできない。また、逆に重量平均分子量6,000を超えると、アクリル系共重合体(C)の流動性がなくなる傾向にあり、(E)機能性充填剤を高比率で充填させることが困難となるばかりか、アクリル系共重合体(C)自体の粘着性が低下して、高い粘着性を得ることが困難である。
アクリル系共重合体(C)は、前記アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、1乃至50重量部含有され、分子鎖に反応性官能基を有さないアクリル系共重合体については、好ましくは10乃至30重量部、分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体については、好ましくは5乃至20重量部含有される。アクリル系共重合体(C)の含有量が1重量部より少ないと、高い粘着性を得ることが困難となる。また、アクリル系共重合体(C)の含有量が50重量部より多いと硬化性が悪化するため、シート状成形体を得ることが困難になる。
本発明にかかるアクリル系共重合体(C)のガラス転移温度(Tg)が、DSC法により測定される値で0℃以下、圧力1,013hPa、温度25℃の条件下で5,000mPa・s以下であることが好ましく、1,000mPa・s以下であることがより好ましい。このようにポリマーのガラス転移温度が高すぎると、得られるアクリル系樹脂シートが硬くなる傾向にあり、また粘度が5,000mPa・sを超えると重合体の流動性が低下して(E)機能性充填剤の添加、分散が困難となり加工性が低下する傾向にある。なお、上記粘度は、ブルックフィールドBH型回転粘度計での測定値である。
さらに、後述のようにしてシート状成形体を製造する際にボイドの発生をより確実に防止するという観点から、前記アクリル系共重合体(A)および(C)としては、溶剤分を含有しないものを使用することが好ましい。
また、前記アクリル系共重合体(A)および(C)の重合方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、乳化重合法(エマルジョン重合法)、懸濁重合法(サスペンジョン重合法)、塊状重合法(バルク法)等の重合法を採用することができる。
本発明にかかる(D)シランカップリング剤は、有機官能基を有するアルコキシシランであり、本発明のアクリル系樹脂シート状成形体の粘着性に寄与するものである。つまり、(D)シランカップリング剤は、(A)分子鎖に反応性官能基を有し、ポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のアクリル系共重合体と(B)前記アクリル系共重合体と反応する官能基を有する化合物に含有させることにより、アルコキシ基が水、あるいは湿気により加水分解を受けてシラノールを生成して無機材料と化学結合し、有機官能基が前記アクリル系共重合体(A)と反応結合をして、粘着性に優れたアクリル系樹脂シート状成形体を得ることを可能にするものである。
シランカップリング剤(D)の有機官能基としては、ビニル、エポキシ、スチリル、メタクリロキシ、アクリロキシ、アミノ、アミン、ウレイド、クロロプロピル、メルカプト、スルフィド、イソシアネート、クロロ、アルキル、イミダゾール基等を好適に使用することができる。その中でも、メタクリロキシ、イミダゾール基が特に好適である。
上記シランカップリング剤(D)は、前記アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.2乃至7重量部含有され、好ましくは0.5乃至5重量部である。シランカップリング剤(D)の含有量が0.2重量部より少ないと、高い粘着性を確保できず、発熱部品との密着性が悪くなる。また、化合物(D)の含有量が7重量部を超えると、硬化性が悪化するため、シート形状を得ることが困難になる。
本発明において、(C)分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体と、(D)シランカップリング剤は必須の構成成分である。(C)分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体と、(D)シランカップリング剤はいずれもアクリル系樹脂シート状成形体の粘着性に寄与するものであるが、これらは単独で用いてもそれほど粘着性に効果はなく、併用することによって格別の効果を奏するものである。
本発明のアクリル系樹脂シート状成形体には、(E)機能性充填剤が添加される。(E)機能性充填剤は、その含有量が大きくなるほど添加した効果が得られるが、加工性が悪化してシート化が困難なものとなったり、シート状に成形可能であっても脆くなったり、粘着性が低下しやすいものである。例えば(E)機能性充填剤として熱伝導性充填剤を添加し、熱伝導性シートを構成した場合には、電子部品やヒートシンクに対する密着性が低くなり、接触面積が低下してしまうため、実質的な熱伝導性を確保することが出来なくなる問題があった。また、蓄熱シートや電磁波吸収シート、或いは誘電体シート等においても、粘着性が低いと、貼着体との密着性が低くなり、場合によってはこれらシートが貼着体から剥がれる虞があり、各々の優れた物性を発揮させることが困難なものであったが、本発明においては、アクリル系樹脂シート状成形体にアクリル系共重合体(C)と(D)シランカップリング剤を含有することによって、上記問題を解決した。
本発明における(E)機能性充填剤の含有量は、(A)のアクリル系共重合体100重量部に対して100乃至900重量部(より好ましくは250乃至500重量部)であることが好ましい。100重量部未満であると、(E)機能性充填剤を添加した効果が得られにくい。また、900重量部を超えるとアクリル系樹脂シート状成形体を構成する組成物の粘度が上昇し、加工性が低下する傾向にある。
(E)機能性充填剤はアクリル系樹脂シート状成形体に種々の性質を付与するものであり、具体的には、熱伝導性充填剤、難燃剤、蓄熱剤、磁性剤、誘電剤、導電剤、発泡剤や抗菌・防カビ剤等である。
熱伝導性充填剤としては、金属水酸化物または金属酸化物等が好ましい。金属水酸化物は、他の熱伝導性充填剤と比較して樹脂との相溶性が高く、難燃性が高い傾向にある。また、金属酸化物は特に熱伝導性と電気絶縁性が高い。このような金属水酸化物粉と金属酸化物粉としては、分解温度が250℃以上の金属水酸化物粉、金属酸化物粉であることが好ましく、具体的には金属水酸化物粉としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等の粉末、金属酸化物粉としてはアルミナ、マグネシア、酸化亜鉛等が挙げられる。前記分解温度が250℃未満では、得られるシート状成形体に十分な熱伝導性を付与することが困難となる傾向にある。なお、上記分解温度の測定方法は、金属水酸化物粉(熱伝導性充填剤)のみをTGA(Thermo Gravimetric Analyzer)により、大気雰囲気下、室温乃至600℃まで昇温速度10℃/minにより測定を行い、重量減少を生じる温度を測定して分解温度とするものである。
このような金属水酸化物粉、金属酸化物粉の大きさ、形状等は特に制限されるものではないが、形状としては球状又は擬球状であることが好ましい。
また、このような金属水酸化物粉、金属酸化物粉の粒径は0.5乃至30μm程度であることが好ましい。前記粒径が0.5μm未満では前記金属水酸化物粉、金属酸化物粉をシート状成形体を構成するアクリル系樹脂組成物中に含有せしめた際に、組成物の粘度が高くなり過ぎてシート状成形体を製造することが困難となる傾向にあり、他方、前記粒径が30μmを超えると前記金属水酸化物粉が前記アクリル系樹脂組成物中に混入し難いため均一に分散し難くなる傾向にある。
さらに、このような金属水酸化物粉、金属酸化物粉としては、粒径の異なるものを組み合わせて用いることも可能である。このようにして粒径の異なるものを数種類組み合わせた金属水酸化物粉と金属酸化物とを前記アクリル系樹脂組成物に含有させることによって、得られるアクリル系樹脂組成物の粘度を低下させることが可能となるし、同じ粒径のものを組み合わせるより高充填することが可能である。
さらに、このような金属水酸化物及び金属酸化物は、他の熱伝導性充填剤を組み合わせて用いることも可能である。このような他の熱伝導性充填剤としては、窒化硼素、窒化アルミ等の窒化物や炭化珪素、黒鉛、銅、銀、アルミ等の金属粉末を添加することも可能であり、更には、熱伝導的には必ずしも優れない炭酸カルシウム等の炭酸金属や、クレー、カオリン等の充填剤等を添加することも可能である。
黒鉛は天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛の中から少なくとも1種類を使用することが出来る。天然黒鉛は燐状、土状、燐片状、塊状等があり特に制限するものではないが、その中でも、性能、価格の観点から燐片状黒鉛が好ましい。
また、このような燐片状黒鉛の平均粒径は5乃至300μm程度であることが好まく、30乃至200μm程度であることがより好ましい。前記平均粒径が5μm未満では、前記燐片状黒鉛をアクリル系樹脂シート状成形体に含有せしめることが困難となる。他方、前記平均粒径が300μmを超えると、シート状成形体を得た場合にシート表面に凹凸ができ綺麗なシートが得られなくなる。
さらに、このような燐片状黒鉛としては、同じ組成の燐片状黒鉛の平均粒径の異なるものを組み合わせて用いることも可能である。このようにして平均粒径の異なるものを数種類組み合わせて前記燐片状黒鉛を含有させることによって、シート状成形体を構成するアクリル系樹脂組成物の粘度を低下させることが可能となる。
難燃剤としては赤燐、膨張黒鉛、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステル系、燐酸アンモン、炭酸アンモン、錫酸亜鉛、トリアジン化合物、メラミン化合物、グアニジン化合物、硼酸、硼酸亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
蓄熱剤としては、特に制限されないが、単位体積当たりの蓄熱量が大きく、安全で腐食しにくく、融解と凝固を繰り返しても安定して放熱と蓄熱作用が得られるとともに、安価であるノルマルパラフィン、有機酸及びアルコール等を用いることが好ましく、n−テトラデカン、n−オクタデカン、n−ペンタコサン、ステアリン酸、セチルアルコール等を用いることがより好ましい。このような蓄熱剤は、使用目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、目的の温度範囲に融点を有する1種の蓄熱剤を選択して用いたり、2種以上の蓄熱剤を混合して用いたりすることも可能である。上記、蓄熱剤はそのまま用いても良いが、蓄熱剤を内包したマイクロカプセルとして用いても良い。マイクロカプセルは皮膜の内側に蓄熱剤を内包した微小な粒子である。
また、上記マイクロカプセルの皮膜を形成する膜材としては特に制限されず、例えば、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの膜剤は、単独であるいは混合して皮膜を形成することができる。特にユリア樹脂及び/またはメラミン樹脂により形成された皮膜が好ましい。また、蓄熱剤をマイクロカプセル化する方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができる。なお、このような蓄熱剤を内包したマイクロカプセルとしては、市販されている蓄熱剤を内包したマイクロカプセルを適宜用いてもよい。
また、平均粒子径が1乃至100μm、好ましくは5乃至50μm程度のマイクロカプセルを用いることが好ましい。平均粒子径が1μm未満では、シート状成形体を構成する組成物中に混合せしめた際に、該組成物の粘度が高くなり過ぎて加工性が低下する傾向にあり、他方、平均粒子径が100μmを超えると、マイクロカプセルを上記組成物中に均一に混合させることが困難であるためシート状成形体に均一に分散し難くなる傾向にある。
磁性剤としては軟磁性金属物や軟磁性金属酸化物を用いることが出来る。具体的にはNi-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Li-Zn系フェライトなどのソフトフェライト、鉄、ニッケル、コバルト、Fe-Co、Fe-Cr、Fe-Si、Fe-Al、Fe-Cr-Al、Fe-Si-Cr、Fe-Si-Al、Fe-Al-Si、パーマロイ、カルボニル鉄などの鉄合金を用いることが出来る。これら軟磁性粉体は1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いても良い。
その他の上記(E)機能性充填剤は、その機能にあったものを使用目的に応じて適宜選択可能である。上記(E)機能性充填剤は、一種であっても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のアクリル系樹脂シート状成形体は、さらに湿潤分散剤を含有させても良い。湿潤分散剤は、前記アクリル系共重合体(A)との相溶性を向上させることが可能な官能基と機能性充填剤に吸着することが可能な官能基とを有している湿潤分散剤を好適に用いることができる。
このような湿潤分散剤としては、硼酸基及び/又は燐酸基を有する飽和ポリエステル系コポリマー、多価アルコール有機酸エステル、特殊アルコール有機酸エステル、ウレタン変性アクリルコポリマー、高分子量ポリエステル、ポリカルボン酸共重合体、アリルアルコールと無水マレイン酸とスチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化物、ポリアクリル酸アンモニウム塩、アクリル共重合物アンモニウム塩、シリコン系ポリマーエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。このような湿潤分散剤の中でも、硼酸基及び/又は燐酸基を有する飽和ポリエステル系コポリマーを用いることが好ましい。その理由として、前記アクリル系樹脂組成物中に所定量の硼酸基及び/又は燐酸基を有する飽和ポリエステル系コポリマーが充填されることにより、硼酸基及び/又は燐酸基が解離して負の電荷を帯び、その負の電荷を帯びたものが(E)機能性充填剤に吸着して静電反発力を高めることができ、その結果、凝集し難くできたものと推量される。
本発明のアクリル系樹脂シート状成形体における前記アクリル系共重合体(A)100重量部に対する湿潤分散剤の含有量は、0.05乃至3.0重量部である。前記湿潤分散剤の含有量が0.05重量部未満では、湿潤分散剤を添加した効果が得られない。他方、湿潤分散剤の含有量が3.0重量部を超えると、シート状成形体を構成するアクリル系樹脂組成物の増粘、ゲル化が起こり、前記組成物の硬化性が低下してシート状成形体の製造が困難になる。
本発明のアクリル系樹脂シート状成形体は、アクリル系共重合体(A)を化合物(B)により架橋して得られるが、架橋させる際にはさらに反応性触媒を用いることが好ましい。該反応性触媒は、例えば4級アンモニウム塩、3級アミン塩、環状アミン塩(例:イミダゾール化合物、DBU)、環状アミン塩、リン系化合物、ルイス酸等が好適に使用される。
前記4級アンモニウム塩としては、具体的には、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド(TEBAC)、テトラブチルアンモニウムクロライド(TBAC)、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)等が挙げられる。前記3級アミン塩としては、具体的には、トリエチレンジアミン(TEDA)、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
前記イミダゾール化合物としては、具体的には、1,2−ジメチルイミダゾール(1,2DMZ)、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(1B2MZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、2−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ−CN)等が挙げられる。前記DBUまたはその塩としては、具体的には、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)およびそのアルキル酸塩等が挙げられる。前記リン系化合物として、具体的には、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。前記ルイス酸としては、具体的には、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化錫、三フッ化ホウ素等が挙げられ、特に好ましくは三フッ化ホウ素のモノエチルアミンおよびエタノールアミン化合物が挙げられる。
前記反応性触媒の中でも、特に3級アミン塩またはイミダゾール化合物を使用することが反応性の点で好ましく、1,2−ジメチルイミダゾール(1,2DMZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)が特に好適に使用される。特に、アクリル系共重合体(A)が有する官能基がカルボキシル基であり、化合物(B)が有する官能基がグリシジル基である場合、イミダゾール化合物は双方の官能基間の反応触媒として作用すると共に、余剰のグリシジル基と連鎖的に反応できるため、未反応の化合物(B)による物性の低下を防止できるものと考えらえる。
反応性触媒の添加量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
反応性触媒を添加する方法としては、アクリル系共重合体(A)に、反応性触媒を予め添加しておき、その後、化合物(B)を混合することが好ましい。
さらに、本発明のアクリル系樹脂シート状成形体においては、要求性能に応じて、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤等を適宜含有することが可能である。
本発明のアクリル系シート状成形体を構成するアクリル系樹脂組成物は、各成分を各々前述の含有量となるように計量して配合し、混合攪拌することで製造することができる。このような混合攪拌の方法は特に制限されるものではなく、重合体の組成、粘度、各成分の添加量により適宜選定することができ、具体的には、ディゾルバーミキサー、ホモミキサー等の攪拌機を用いる方法が挙げられる。
また、このようにして混合攪拌されたものを必要に応じて、例えば未分散の成分の固まりを除去する目的で濾過してもよい。このような濾過を行うことで、均質なアクリル系樹脂組成物が得られ、シート状成形体の製造を効率良く行うことが可能となる。また、このような混合攪拌を行う際に液中に生じる気泡は減圧下で脱泡することが好ましい。このような脱泡を行うことで、得られるアクリル系樹脂組成物を用いて製造されるシート状成形体に気泡が生じることを防止することが可能となる。
アクリル系樹脂組成物をシート状に成形し且つ硬化せしめる方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を採用することが可能である。このような方法としては、例えば、基材となるフィルム(ポリエステルフィルム等)の上に前記アクリル系樹脂組成物をコーティングし、120乃至200℃の温度条件下で5乃至30分間加熱することによって硬化させる方法を挙げることができる。
このような本発明のシート状成形体の厚さとしては、0.5mm乃至3mmであることが好ましく、1.0mm乃至2.0mmであることがより好ましい。前記厚さが0.5mm未満では、(E)機能性充填剤を添加した効果が充分に発揮できない傾向にあり、他方、前記厚さが3mmを超えると、電子機器部品等の使用目的にそぐわない製品となってしまう傾向にある。
このようなシート状成形体は、必要に応じて切断することが可能であり、任意の形状にすることにより容易に貼着させることが可能である。