JP5163513B2 - インクジェットインク及び金属パターン形成方法 - Google Patents

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Description

本発明はインクジェットインクに関し、特に金属パターン形成用のインクジェットインクに関する。
回路に用いる金属パターンは、従来、レジスト材料を用いた方法により形成されてきた。すなわち、金属薄層上にレジスト材料を塗布または貼付けてレジスト層を形成し、所望のパターンで露光した後、現像により不要なレジストを除去し、さらにむき出しとなった金属部分をエッチングにより除去し、最後に残存したレジスト部分を剥離することで金属パターンを形成していた。
しかしながら、この方法では工程が多岐にわたり時間がかかること、また、不要なレジスト、金属を除去することなど、生産時間、エネルギー、原材料の効率の点で無駄が多く、新たな金属パターンの形成方法が要求されていた。
近年、粒径が100nm以下の、いわゆる金属ナノ粒子を含有するインクを用い、スクリーン印刷やインクジェット印刷などで金属パターンを直接描画する金属パターン形成方法に注目が集まっている(例えば、特許文献1を参照)。
この金属パターン形成方法は、金属粒子の粒径をナノオーダーまで小さくすることで融点が低下する現象を活用し、金属ナノ粒子を含むインクをパターニングした後、200〜300℃程度の温度で焼成して回路を形成する方法である。この方法は工数の低減、原材料の利用効率向上などの利点はあるものの、金属粒子同士を完全に融合させることが困難であり、焼成後の金属パターンの電気抵抗を下げるために、後処理の温度や条件に厳しい制約がある、という課題を有していた。
一方、金属ナノ粒子を用いずに金属パターンを形成する方法として、金属塩と溶媒を含む混合物と、還元剤を含む混合物をパターン描画時に混合し、還元反応により基材上に金属層を析出させる金属パターン形成方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、酸素を含む通常の大気中では還元反応が進行しにくくなる傾向があるため、形成する金属によっては非酸化性気体の雰囲気下や高温条件下で反応を行う必要があり、これらの条件の制約を受ける場合があるという課題を有していた。
また、金属ナノ粒子を用いずに金属パターンを形成する別の方法として、無電解めっき技術を活用して金属パターンを形成する方法も提案されている。例えば、インク受容層を有する基板上に、無電解めっきの触媒となる金属微粒子を含むインクをインクジェット方式により記録し、無電解めっき処理を行って導電性金属パターンを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では高温の焼成工程は不要となるメリットがあるが、金属ナノ粒子と同様に、金属微粒子を分散安定化してインクに含有させる必要があり、インクの分散安定化や経時安定性の確保に課題を抱えていた。
さらに、パラジウム系活性化インクをアルカリ処理したポリイミドにインクジェット方式により記録し、還元処理、無電解めっきにより銅皮膜を形成する方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
この方法では、酢酸パラジウムが溶解したインクをポリイミドに記録しており、前記の分散安定化の課題が解消されている。従って、インクの経時安定性の課題、パターン形成時の温度条件の課題が共に解決されており、金属パターン形成方法として優れた技術の一つであると言える。しかしながら、発明者らがこの技術を追試検討したところ、パラジウム塩を溶解させるためにインクを強塩基性にする必要があり、インクジェットヘッドがダメージを受けやすく、長期にわたって安定にインクを吐出することが困難であることが判明した。さらに、インクそのものも不安定な傾向があり、時間の経過に伴ってパラジウムが還元されて金属パラジウムの沈殿を生じやすく、インクジェットヘッドの目詰まりが誘発されるという課題があることもわかった。
特開2002−299833号公報 特開2008−182159号公報 特開2000−311527号公報
第21回エレクトロニクス実装学会講演大会論文集 P105
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、良好な保存安定性と長期記録安定性を示す金属パターン形成用のインクジェットインク、およびそれを用いた金属パターンの形成方法を提供することにある。
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
1.インクジェットヘッドによりインクを吐出して基板上にパターンを形成した後、無電解めっき処理により該パターン上に金属層を形成する金属パターン形成方法に用いるインクであって、少なくとも、水、二価のパラジウムイオン、酸性基を有する高分子化合物を含有することを特徴とするインクジェットインク。
2.前記酸性基がカルボキシル基であることを特徴とする前記1に記載のインクジェットインク。
3.前記二価のパラジウムイオンの濃度が100ppm以上5000ppm以下であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェットインク。
4.pHが7以上10以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
5.色材の含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
6.前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドにより吐出して基板上にパターンを形成した後、無電解めっき処理によって該パターン上に金属層を形成することを特徴とする金属パターン形成方法。
本発明により、良好な保存安定性と長期記録安定性を示す金属パターン形成用のインクジェットインク、およびそれを用いた金属パターンの形成方法を提供することができた。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
発明者らは上記課題に鑑み、パラジウム塩を穏和なpH領域で可溶化し、かつインクジェットインク(以下、単にインクともいう)中でパラジウムイオンを安定化させる技術について鋭意検討したところ、本発明に至ったものである。すなわち、本発明においては、めっき触媒となるパラジウム塩を含むインクに対して、酸性基を含有する高分子化合物を共存させる。このようなインク設計とすることにより、インクのpHを強酸性や強塩基性にせずともパラジウム塩を可溶化することができ、さらに、長期保存してもパラジウムイオンが還元されて金属パラジウムが沈殿することも無く、安定にインクジェット記録が可能な金属パターン形成用のインクを得ることができる。
酸性基を含有する高分子化合物がパラジウム塩の可溶化、安定化に有効な要因は定かではないが、次のような機構に基づくものと推定している。発明者らは、パラジウム塩を可溶化させる材料について数々の検討を行ったところ、低分子量の可溶化剤や塩基性化合物を共存させた場合には、パラジウム塩を溶解させると黄〜橙色の溶液色となることが多く、一方で酸性基を有する化合物を共存させた場合には、ほぼ無色の溶液色を示すことが多いことを見出した。この現象から、酸性基を有する高分子化合物は、低分子量の可溶化剤や塩基性化合物に比較し、パラジウムイオンに強く配位して電子的に安定化しており、かつ高分子化合物の近傍にパラジウムイオンを保持しながら液中に均一化させる働きを示しているものと推測している。以上の推定機構が本発明の効果に寄与しているものと考えられるが、前述の溶液の挙動や推定機構に本発明は限定されるものではない。
以下、本発明のインクジェットインク、金属パターンの形成方法の各構成要件の詳細について説明する。
《インクジェットインク》
(酸性基を有する高分子化合物)
本発明のインクは、酸性基を有する高分子化合物を含むことを特徴とする。酸性基の具体例としてはカルボキシル基、スルホ基などが挙げられるが、カルボキシル基がパラジウムイオンの可溶化、安定化の観点から好ましい。酸性基は、塩基性化合物に中和されていても未中和であっても構わないが、インク中に高分子化合物を均一に存在させるという点で中和されていることが好ましい。酸性基を中和する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。
本発明における高分子化合物の酸価は、好ましくは10以上250以下である。酸価をこの範囲とすることにより、パラジウム塩を可溶化、安定化させやすくなる。
インクにおける高分子化合物の含有量は、インク全量に対して0.1質量%以上10%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であると、パラジウム塩を可溶化、安定化させやすく、10質量%以下であると、インクの出射安定性が良好になりやすい。
高分子化合物は、インクに溶解していても、溶解せずに均一に分散していても良い。出射安定性の観点からは、インクに溶解した高分子化合物を用いることが好ましい。
高分子化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、アクリル酸エステル、スチレンなどのアクリル基を有するモノマーからなる共重合体、ポリウレタン、シリコーン−アクリル共重合体及びアクリル変性フッ素樹脂等が挙げられる。
酸性基を含有する高分子化合物を設計する方法として、酸性基を有するモノマーとそれ以外のモノマーを共重合することにより高分子化合物を合成する方法が挙げられる。酸性基を含有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アニオン性の反応性乳化剤等が挙げられる。酸性基を持たないモノマーとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなど)、スチレン、アクリルアミド、シリコーン変性のアクリルモノマーやマクロマー、ウレタン変性のアクリルモノマーやマクロマー等が挙げられる。なお、酸性基を有するモノマーは、重合後、塩基性化合物により部分的あるいは完全に酸性基を中和し、インクに含有させることが好ましい。
高分子化合物をインクに含有させて用いる場合、その平均分子量は5000から100000であることが好ましい。より好ましくは、平均分子量が8000から40000である。このような範囲とすることにより、パラジウム塩の安定化とインクの出射安定性を両立させやすくなる。
本発明において好ましく用いられる溶解性高分子化合物の具体例としては、以下に限定されるものではないが、ジョンクリル60(酸価215、重量平均分子量8500)、ジョンクリル70(酸価240、重量平均分子量16500)、JDX6500(酸価74、重量平均分子量10000)、PDX−6102B(酸価65、重量平均分子量65000)などのジョンソンポリマー社製の高分子化合物、Disperbyk−180(酸価94)、Disperbyk−194(酸価70)などのビックケミー・ジャパン社製の高分子化合物などが挙げられる。
本発明に適用する高分子化合物として、インク中で溶解せずに均一に分散した高分子樹脂微粒子を用いることもできる。高分子樹脂微粒子は、乳化剤を用いて粒子を分散させたものであっても、乳化剤を用いずに分散させたものであっても良い。本発明においては高分子化合物が酸性基を有している必要があることから、高分子樹脂微粒子がその表面に酸性基を有しており、酸性基により安定化されてインク中に分散されている、いわゆるソープフリーラテックスを用いることが好ましい。
近年、高分子樹脂微粒子として、粒子の中心部と外縁部で組成を異にしたコア・シェルタイプの粒子も存在するが、これらも好ましく用いることができる。
高分子樹脂微粒子の平均粒径は10nm以上、300nm以下であることが好ましく、10nm以上、100nm以下であることがより好ましい。平均粒径が300nm以下であると出射安定性が良好になりやすく、10nm以上であるとインクの保存安定性が良好になりやすい。平均粒径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
(パラジウム)
本発明のインクは、二価のパラジウムイオンを含有することを特徴とする。パラジウムイオンの濃度は、好ましくは1ppm以上10000ppm以下、より好ましくは100ppm以上5000ppm以下である。このような範囲とすることにより、インクの安定性と金属パターンの形成性を両立させやすくなる。
二価のパラジウムイオンをインクに含有させるには、二価のパラジウム塩をインクに添加する。このようなパラジウム塩としては、例えば、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、酸化パラジウム、硫化パラジウム等が挙げられる。
(pH)
本発明のインクのpHは、好ましくは7以上10以下である。このようなpHとすることにより、インクの安定性を確保し、かつインクジェットヘッドの部材への悪影響を抑制しやすくなる。pH調整剤としては、一般的な酸性化合物や、アルカリ金属の水酸化物、アミン系化合物等の塩基性化合物を用いることができる。
(有機溶媒)
本発明のインクに適用可能な溶媒としては、例えば、アルカンポリオール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、アルキレングリコールアルキルエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環化合物(例えば、2−ピロリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)等が挙げられる。
(色材)
本発明のインクには、めっきパターンの視認性を向上させる目的で色材が含まれていても良いが、その含有量は少ないことが好ましい。めっき形成効率の観点から、色材の含有量は好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下である。さらには、実質的に色材が含まれていないインクとすることが好ましい。
(水)
本発明のインクジェットインクは水を含むことを特徴とする。インクにおける水の含有量は、好ましくは10質量%以上80質量%以下である。この範囲とすることにより、良好な記録特性とインクの乾燥性を両立させやすくなる。
(界面活性剤)
本発明のインクに界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤の添加によりインクの表面張力、記録する基板への濡れ性をコントロール可能であり、必要に応じて用いることが好ましい。使用できる界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、シリコーン系もしくはフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
(粘度)
本発明のインクの粘度は特に限定されないが、25℃において1mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましい。
本発明のインクの粘度測定に用いることができる装置として、回転式、振動式や細管式の粘度計が挙げられ、例えば、トキメック製、円錐平板型E型粘度計、東機産業製のE Type Viscometer(回転粘度計)、東京計器製のB型粘度計BL、山一電機製のFVM−80A、Nametore工業製のViscoliner、山一電気製のVISCO MATE MODEL VM−1A、同DD−1等の装置が市販されている。
(表面張力)
本発明のインクの表面張力は、22mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、さらには22mN/m以上30mN/m以下であることが好ましい。表面張力を22mN/m以上とすることにより、インクの射出状態を安定化しやすくなり、40mN/m以下とすることにより、金属パターンの均一性が良好になりやすい。
本発明でいうインクの表面張力(mN/m)は、25℃で測定した表面張力の値であり、その測定方法は一般的な界面化学、コロイド化学の参考書等に記載されている。例えば、新実験化学講座第18巻(界面とコロイド)、日本化学会編、丸善株式会社発行:P.68〜117を参照することができる。具体的な測定方法として輪環法(デュヌーイ法)、白金プレート法(ウィルヘルミー法)が挙げられるが、白金プレート法により測定することが好ましく、市販の装置としては協和界面科学製の表面張力計CBVP−Zがある。
《基板》
本発明の金属パターン形成方法に適用可能な基板としては、絶縁性を備えたものであれば特に制限はなく、例えば、ガラスやセラミックス等の剛性の強いものから、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリイミドなどの樹脂から構成されるフィルム状のものが挙げられる。
本発明で用いる基板に対して、金属パターンの密着性向上の観点から、プライマー処理やプラズマ処理を行ったり、基板上に下引き層を設けてもよい。下引き層の材料としては、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂やシランカップリング剤などのカップリング剤などが挙げられる。
《金属パターンの形成方法》
本発明の金属パターン形成方法について説明する。まず、触媒を含有する本発明のインクをインクジェットヘッドにより基板に吐出し、触媒のパターンを形成させる。その後、無電解めっき処理を行うことにより基板上に金属パターンを形成させる。
(インクジェットヘッド)
使用可能なインクジェットヘッドに制限はなく、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)等のインクジェットヘッドを挙げることができる。インクジェットヘッドのコストや生産性の観点からは、電気−機械変換方式、または電気−熱変換方式のヘッドを用いることが好ましい。吐出させるインク液滴の大きさに制限はないが、回路配線に適用する場合は微細なパターン形成が必要となるため15pl以下、好ましくは4pl以下、さらに好ましくは2pl以下の液滴量にする。
(基板の加熱、乾燥)
基板にインクを記録する際、基板を加熱して記録しても良い。加熱して記録を行う場合、基板の表面温度は、好ましくは40℃以上70℃以下である。40℃以上にすることでインクの乾燥を促進してドット同士液寄りを抑制し、金属パターンの再現性を良好なものとしやすい。また、加熱温度を70℃以下とすることで、基材に対する熱のダメージを抑えることができる。
また、インクジェット記録装置に乾燥器を搭載し、インクの乾燥を促進する構成としても良い。特に、インク中に比較的沸点の高い溶剤を含有する場合、乾燥器の併用は、記録部のベタツキ抑制、液寄り抑制の観点から有効である。乾燥器としては、送風乾燥器、ヒーター型乾燥器、それらを組み合わせた装置などが挙げられるが、速やかに記録部分を乾燥したい場合には、温風をインクの記録部に当てることが可能な乾燥器が好ましい。乾燥は基板全面にインクを記録した後、一括して行っても良いし、インクジェットヘッドの1回の走査ごとに乾燥を実施する方式としても良い。金属パターン再現性向上の観点からは、マイクロウィーブ方式やインターリーブ方式等により隣接するドットを間引きながらインクを記録させ、1回の走査ごとに乾燥を実施する方法で記録することが好ましい。
(記録解像度)
本発明の金属パターン形成方法に用いるインクジェット記録装置の記録解像度は、720dpi以上7200dpi以下であることが好ましく、1440dpi以上7200dpi以下であることがさらに好ましい。720dpi以上とすることで微細な金属パターンを形成しやすくなり、7200dpi以下とすることにより、装置における画像処理時間、信号転送時間、画像記録時間を短縮化させやすい。
(無電解めっき処理)
本発明の金属パターン形成方法における無電解めっき処理について説明する。
基板上にインクジェット法にてパターンを記録した後、無電解めっき処理を行うことにより、記録したパターン部に金属が形成された金属パターンを得ることができる。
通常、前記のパターン記録した基板を、無電解めっき液(浴)に浸漬する工程が一般的な方法である。
無電解めっき液としては、1)金属イオン、2)錯化剤、3)還元剤が主に含有される。無電解めっきで形成される金属としては、金、銀、銅、パラジウム、ニッケルおよびそれらの合金などが挙げられるが、金属パターンを回路に適用する場合は、導電性や安全性の観点から銀または銅が好ましく、材料コストやパターンの安定性の点から銅が特に好ましい。無電解めっき浴に使用される金属イオンは、パターンを形成したい金属に対応した金属イオンを用いる。銅のパターンを形成する場合は銅イオンを含むめっき浴が用いられ、銅イオンとしては例えば硫酸銅などが挙げられる。錯化剤、還元剤に関しても、金属イオンに適したものが選択される。錯化剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(以下、EDTAと略記する)、ロッシェル塩、D−マンニトール、D−ソルビトール、ズルシトール、イミノ二酢酸、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸、などが挙げられ、ロッシェル塩、EDTAが好ましい。還元剤としては、ホルムアルデヒド、テトラヒドロホウ酸カリウム、ジメチルアミンボラン、グリオキシル酸、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられ、ホルムアルデヒドが好ましい。
また、めっき液を安定化し、均一なパターンを形成するために、液を撹拌したり、空気や酸素を供給しながら無電解めっき処理を行ってもよい。
無電解めっき工程は、めっき浴の温度、pH、浸漬時間、金属イオン濃度、撹拌の有無や撹拌速度、空気・酸素の供給の有無や供給速度等を調節することにより、金属の形成速度や膜厚を制御することができる。
(触媒活性化工程)
本発明の記録方法において、パターン形成工程と前述の無電解めっき処理を行う工程の間に、触媒活性化工程を実施することが好ましい。
無電解めっき処理を行う工程の前に触媒活性化処理を実施し、触媒として用いた二価のパラジウムイオンを0価のパラジウムにすることで、無電解めっき処理における化学反応をより活性化させることができる。触媒活性化工程に適用する還元剤としては、ホウ素系化合物が挙げられ、具体的には、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)などが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
《高分子化合物の合成》
(高分子化合物Aの合成)
窒素気流下で、1Lのセパラブルフラスコにスチレンを20g、アクリル酸を20g、メタクリル酸メチルを40g、メタクリル酸ブチルを20g、酢酸エチルを180g入れ、80℃に加熱した。アゾビスイソブチロニトリル2gを1時間かけて添加し、更に5時間加熱撹拌を続けた。その後、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを更に加え、85℃に昇温して1時間加熱した。
その後、酢酸エチルを留去し、水80g、エタノール20g、アクリル酸と当量のジメチルエタノールアミンを加え、さらに水を添加して固形分量15質量%の高分子化合物Aの溶液を得た。酸性基を有する高分子化合物Aの分子量、酸価を測定したところ、分子量は32000、酸価は155であった。
《インクの調製》
(インク1の調製)
溶媒:エチレングリコール 30部
溶媒:ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5部
パラジウム塩:酢酸パラジウム 0.1部
酸性基を有する高分子化合物:高分子化合物A 固形分として2部
さらに全体が100部となるようにイオン交換水を添加し、水酸化ナトリウムにてインクのpHを9.8に調整した後、活性剤であるBYK347(ビックケミー製)により表面張力を30mN/mに調整して、本発明のインク1を得た。インク1における二価のパラジウムイオンの濃度を分析したところ、480ppmであった。
(インク2〜9の調製)
インクの各種構成材料、調整するpH値を表1に記載のものに変更した以外は、インク1と同様の方法により、本発明のインク2〜9を調製した。ジョンクリル70(酸価240、重量平均分子量16500)、PDX−6102B(酸価65、重量平均分子量65000)は、ジョンソンポリマー社製の高分子化合物である。また、各インクのpHは、水酸化ナトリウムもしくは塩酸により、表1に記載の値に調整した。
(インク10、11の調製)
インクの各種構成材料、調整するpH値を表1に記載のものに変更した以外は、インク1と同様の方法により、比較例のインク10、11を調製した。
Figure 0005163513
《金属パターンの形成》
〔記録方法1〕
(パターン形成)
ノズル口径20μm、液適量2pl、最大駆動周波数25kHz、ノズル数1024、ノズル密度360dpiであるピエゾ型のインクジェットヘッドを搭載し、入力する画像を8パスのインターリーブ方式で記録可能であり、主走査、副走査方向の記録解像度がともに1440dpiであり、1回の走査ごとに記録部分の温風乾燥が可能なインクジェット装置を構成した。パターンを形成する基板として厚さ100μmのポリイミドを、金属パターンを形成する元画像として幅100μm、長さ30mmの細線10本からなる画像を用意した。基板の表面温度を50℃に加熱しながら、めっき触媒を含むインク1を基板に吐出して、触媒のパターンを形成した基板1Aを得た。
さらにインク1を充填したままにしておき、基板1Aを作製してから1週間後に同様の方法により基板1aを作製した。
なお、本発明で言うdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す。
(活性化工程)
前記の方法でパターン形成した基板1Aを乾燥させて表面の溶媒を完全に除去した後、ホウ素系還元剤を含有した下記の溶液に、室温で15分浸漬した。これにより、パターン上のPdイオンを還元してPd金属のパターンを形成した。その後、純水で洗浄し、Pdの金属パターンを形成した基板1Bを得た。
さらに、基板1Bと同様の方法により、基板1aから、Pdの金属パターンを形成した基板1bを得た。
アルカップMRD2−A(上村工業社製) 1.8質量%
アルカップMRD2−C(上村工業社製) 6質量%
純水 残量
(無電解めっき工程)
メルプレートCU−5100A(メルテックス社製) 6質量%
メルプレートCU−5100B(メルテックス社製) 5.5質量%
メルプレートCU−5100C(メルテックス社製) 2.0質量%
メルプレートCU−5100M(メルテックス社製) 4.0質量%
純水 残量
上記組成からなる無電解銅めっき溶液を調製した。仕上がりのめっき液は、銅濃度として2.5質量%、ホルマリン濃度が1質量%、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)濃度が2.5質量%である。また、水酸化ナトリウムでめっき液のpHを13.0に調整した。
50℃に保温した前記の無電解銅めっき溶液に、活性化処理を施した基板1Bを60分間浸漬した。その後、純水により基板を洗浄し、乾燥させ、本発明の記録方法1によって銅の金属パターンを形成した基板1Cを得た。
さらに、基板1Cと同様の方法により、基板1bから、銅の金属パターンを形成した基板1cを得た。
〔記録方法2〜9〕
前記の記録方法1において、インク1をインク2〜9に変更した以外は同様にして、本発明の記録方法2〜9により金属パターンを形成した基板2C〜9C、2c〜9cを得た。
〔記録方法10、11〕
前記の記録方法1において、インク1をインク10、11に変更した以外は同様にして、比較例の記録方法10、11により金属パターンを形成した基板10C、11C、10c、11cを得た。
《金属パターンの評価》
金属パターンを形成した基板1C〜11C、1c〜11cについて、以下の各評価を行った。
〔インク充填直後のパターン形成性の評価〕
基板1C〜11Cにおいて形成した銅の細線パターンを、下記の基準に従って目視観察し、インク充填直後のパターン再現性を評価した。
○:銅の細線パターンがきちんと形成されており、インク充填直後のパターン形成性は良好である
△:銅の細線パターンの線幅に若干バラつきが生じているが、インク充填直後のパターン形成性はおおむね良好である
×:細線パターンにあきらかな欠けが見られ、インク充填直後のパターン形成性は不良である
〔インク保存後のパターン形成性の評価〕
基板1c〜11cにおいて形成した銅の細線パターンを、下記の基準に従って目視観察し、インク保存後のパターン再現性を評価した。
○:銅の細線パターンがきちんと形成されており、インク保存後のパターン形成性は良好である
△:銅の細線パターンの線幅に若干バラつきが生じているが、インク保存後のパターン形成性はおおむね良好である
×:細線パターンにあきらかな欠けが見られ、インク保存後のパターン形成性は不良である
以上により得られた結果を表2に示す。
Figure 0005163513
表2に記載の結果より明らかなように、本発明のインクにより基板に形成した銅の細線パターンは、インク充填直後、保存後ともに良好なパターン再現性を示している。このことから、本発明のインクは、インクジェットヘッド内で一定期間保存してもヘッドの破損や目詰まりを誘発しておらず、良好な保存性、記録特性を有していることがわかる。

Claims (6)

  1. インクジェットヘッドによりインクを吐出して基板上にパターンを形成した後、無電解めっき処理により該パターン上に金属層を形成する金属パターン形成方法に用いるインクであって、少なくとも、水、二価のパラジウムイオン、酸性基を有する高分子化合物を含有することを特徴とするインクジェットインク。
  2. 前記酸性基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
  3. 前記二価のパラジウムイオンの濃度が100ppm以上5000ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
  4. pHが7以上10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
  5. 色材の含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドにより吐出して基板上にパターンを形成した後、無電解めっき処理によって該パターン上に金属層を形成することを特徴とする金属パターン形成方法。
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