以下、本発明の車両用自動変速機の変速制御装置の4種類の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。ここに図1は、本発明の車両用自動変速機の変速制御装置の各実施形態としての車両用ベルト式無段変速機の変速制御装置を搭載した自動車のシステム構成を示す説明図、図2は、本発明の第1実施形態の変速制御装置の構成を機能的に示すブロック線図、図3は、アクセルペダルを急踏みした際の上記第1実施形態の変速制御装置を用いた自動車の各因子の時間変化をそれぞれ示すグラフである。
図1に示すように、本発明の実施形態の変速制御装置を適用した車両としての自動車1は、駆動源としてのエンジン2、並びに入力プーリ(図示せず)と出力プーリ(図示せず)とに巻掛けられたベルト(図示せず)の回転半径を相対的に増減させて変速比を連続的に変化させるベルト式無段変速機3を有し、そのエンジン2の出力とベルト式無段変速機3の入力プーリに結合された入力軸とはロックアップクラッチ付きトルクコンバータ4により連結されている。そしてエンジン2からトルクコンバータ4を介して入力プーリへと入力されたエンジン回転は上記変速比に応じて変速されて、出力プーリに結合された出力軸から図示しないディファレンシャルギアを介して自動車1の駆動輪としてのタイヤ5へと出力され、タイヤ5を駆動する。
ここで、エンジン2の動作はスロットルバルブ(図示せず)を介してエンジン制御ユニット6により制御されており、このエンジン制御ユニット6は、上記スロットルバルブの開度であるスロットル開度TVOを、基本的には、図示しないセンサで検出される自動車1のアクセルペダルの操作量であるアクセルペダル開度APOに対応させて変化させる。また車両用自動変速機としてのベルト式無段変速機3は、変速制御装置としての変速機制御装置7により制御されており、この変速機制御装置7は、例えば通常のマイクロコンピュータを有して構成され、エンジン制御ユニット6から入力されるエンジントルクおよびエンジン回転数のほか、それぞれ図示しないセンサで検出されるアクセル開度APO、自動車1の車速VSP、ベルト式無段変速機3の入力回転数Inprev等の情報に基づき以下のように変速制御を行っている。
すなわち、変速機制御装置7の上記マイクロコンピュータは、図2に示す処理を所定サイクルタイム毎に繰返し実行し、この処理では先ず乗算器S1で、直前の補正後目標変速比としての、後述する補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値(前回の処理で求めた値)と、車速VSPから求められるベルト式無段変速機3の実出力回転数Outrevとを乗算して変速機実入力回転数を求める。また別途、アクセルペダル開度APOに基づいて定められるスロットル開度TVOと車速VSPとに基づき変速線を定めた通常の変速用マップ(図示せず)から、先に読み込んだ現在の車速VSPとアクセルペダル開度APOとに応じて基本目標入力回転数DsrREVを求める。次いで減算器S2で、その基本目標入力回転数DsrREVの値と上記変速機実入力回転数との回転数偏差(回転数の経時変化率)erevを求める。
次いで上記回転数偏差erevから特性群S3により、先ずその特性群S3中一番上の特性線図に基づき目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の基本上限値を求める。この特性線図は例えば、回転数偏差erevが所定値以下では回転数偏差erevの増大に応じて目標入力回転数変化率drevの基本上限値が増大し、回転数偏差erevが所定値を超えたら目標入力回転数変化率drevの基本上限値が一定になるようにし、かつ車速VSPが速い程目標入力回転数変化率drevの基本上限値が高くなるように設定したものである。また、その特性群S3中上から二番目のマップで係数α1を求める。このマップは、今回の変速位置SftPOSと前回の変速位置BefPOSとに応じて係数α1を定めており、変速比が大きい程、イナーシャトルクへの影響が大きいため係数α1を小さく設定して、目標入力回転数変化率drevの基本上限値を規制するようにしている。例えばマニュアルシフト位置M3からM2へダウンシフトする場合は、現在の変速位置BefPOS=M3、今回の変速位置SftPOS=M2として係数α1を読み出す。さらに、その特性群S3中上から三番目の特性線図で係数α2を求める。この特性線図は、変速態様とエンジントルクTENGとに応じて係数α2を設定したものであり、エンジントルクが充分に高いときは係数α2を大きく設定して、目標入力回転数変化率drevの基本上限値に規制をあまり掛けないようにしている。
次いで乗算器S4で、上記目標入力回転数変化率drevの基本上限値に係数α1,α2をそれぞれ乗算して目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値を求め、次いで除算器S5で、その目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値を変速機実出力回転数Outrevで除して目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値を求める。
一方、減算器S6で、減算器S2と同様にして基本目標入力回転数DsrREVの値と上記変速機実入力回転数との回転数偏差erevを求め、次いでその回転数偏差erevから特性群S7により、特性群S3におけると同様にして目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の基本下限値と係数α3,α4とを求める。次いで乗算器S8で、その目標入力回転数変化率drevの基本下限値に係数α3,α4をそれぞれ乗算して目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrevの下限値を求め、次いで除算器S9で、その目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値を出力回転数Outrevで除して目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値を求める。このようにして目標入力回転数変化率の上下限値および目標変速比変化率の上下限値が求まる。
さらに、上記基本目標入力回転数DsrREVを変速機実出力回転数Outrevで除して求めた基本目標変速比と、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値とから、演算器S10で目標変速比変化率d(Ratio)/dtの制限後の変速比である上記補正後目標変速比vTGTRTO0を演算する。ここで演算器S10は、基本目標変速比と補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値との変速比偏差(変速比の経時変化率)を、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値と比較して、その変速比偏差が目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間にある場合は、基本目標変速比を補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力し、その変速比偏差が補正後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間から外れている場合は、補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値に補正後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値とのうち変速比偏差に近い側を加えた値を、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力する。
そして、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S11に入力して保持し次回の処理時に乗算器S1に前回値として与えるとともに、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値をベルト式無段変速機3に出力して、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を実現するようにベルト式無段変速機3の変速比を変化させる。
この第1実施形態の変速機制御装置7によりアクセルペダル急踏み時の変速制御がされてd(Ratio)/dt×Outrevのみが制限された場合の各因子の時間変化は、図3に示すようになる。ここで、アクセルペダル急踏み時の変速制御を一次遅れの変速比指令値で行う従来技術を示す図4および、アクセルペダル急踏み時の変速制御を目標入力回転数に対する実入力回転数の偏差の制限で行う従来技術を示す図5と対比して説明すると、この第1実施形態においては、アクセルペダル急踏み(アクセルペダル開度APOステップ状上昇)時以降、車速が上昇するとともに変速機出力回転Outrevが上昇し、変速用マップにおける車速VSPの上昇に応じて基本目標入力回転数DsrREVも上昇する。このとき、スロットル開度TVOの変化が変速線を跨がなければ実線で示すようになだらかに上昇し、スロットル開度TVOの変化が変速線を跨げば破線で示すように一旦急上昇した後なだらかに上昇する。このなだらかな上昇時の基本目標入力回転数DsrREVの変化率が例えば700rpm/secであるとし、一方、目標d(Ratio)/dt×Outrev上限値が500rpm/secであるとすると、車速上昇による基本目標入力回転数DsrREVの変化率(傾き)すなわち実入力回転数Inprevの傾きは制限対象にならず実線で示すように700rpm/secのまま維持され、変速による上昇分のみ破線で示すように500rpm/secを越えて上昇しないように制限される。それゆえ、変速機の実入力回転数Inprev/実出力回転数Outrevにおいて実出力回転数Outrevの上昇に応じた実入力回転数Inprevの上昇は制限されないので、変速比を変化させる場合に破線で示すように変速用マップの変速線への追従性を確保することができる。また、変速比制御装置7に図示しないシフトレバーのマニュアル変速モードへの操作等によって指示される変速比固定の場合は、目標入力回転数変化率drevの基本上下限値をゼロに設定することで、実線で示すように変速比Ratioを一定に維持することができる。
従って、乗算器S1,S4,S8,減算器S2,S6,特性群S3,S7および保持器S11は、目標入力回転数変化率上下限値設定手段に相当し、除算器S5,S9は、目標変速比変化率上下限値設定手段に相当し、演算器S10は、補正後目標変速比出力手段に相当し、変速機制御装置7は、変速比制御手段に相当する。そして、この第1実施形態の変速機制御装置7によれば、変速比Ratioの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第1項)に規制をかける一方、変速比Ratioの変化に関係ない車速Vspの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第2項)には規制をかけないので、例えばアクセルペダルの踏み込みや踏み戻し操作によるスロットル開閉動作により変速比Ratioの変化が生じる際は入力回転数Inprevの変化に制限を掛けるが、例えばマニュアルモードによるギヤ比固定でのスロットル開閉動作により変速比を一定に維持するように入力回転数Inprevが変化する際はその変化に制限を掛けない。これにより、変速過渡において変速機入力軸に発生するイナーシャトルクを制限する一方で、アクセルペダル踏み込み量維持走行中の自動アップシフトやアクセルペダルを放したコースティング走行中の自動ダウンシフト等の定常変速時や変速比固定設定時に変速比の変速線追従性を確保することができる。
一方、図4に示す従来技術では、アクセルペダル急踏み(アクセルペダル開度APOステップ状上昇)時に、目標変速比Ratioが実線で示すように急に変化し、これに対し一次遅れの変速比指令値を出力して変速比を制御するが、アクセルペダル急踏み直後に変速比Ratioの傾きは最大になるのに対しエンジントルクTeは吸気の遅れによって若干遅れて立ち上がるため、変速機入力軸のイナーシャトルクTINAが大きく低下し、変速中の駆動トルク(ドライブシャフトトルク))D/SftTRQ(=(Te+TINA)×Ratio)がゼロを下回って、車両の加速度に引きが生じる。
また、図5に示す従来技術では、アクセルペダル急踏み(アクセルペダル開度APOステップ状上昇)時以降、車速が上昇するとともに変速機出力回転Outrevが上昇し、変速用マップにおける車速VSPの上昇に応じて基本目標入力回転数DsrREVも上昇する。このとき、スロットル開度TVOの変化が変速線を跨がなければ実線で示すようになだらかに上昇する。このなだらかな上昇時の基本目標入力回転数DsrREVの変化率が例えば700rpm/secであるとし、一方、変速機実入力回転数d(Inprev)/dt上限値が500rpm/secであるとすると、車速上昇による基本目標入力回転数DsrREVの変化率(傾き)が破線で示すように700rpm/secでも実入力回転数Inprevの傾きは500rpm/secに制限されてしまい、実入力回転数Inprevの変化は基本目標入力回転数DsrREVの変化に追いつかない。従って、変速機の実入力回転数Inprev/実出力回転数Outrevにおいて実出力回転数Outrevの上昇に実入力回転数Inprevの上昇が追いつかないため、変速比が自動的にアップシフトしてしまう。このため、定常変速時や変速比固定設定時に変速比の変速線追従性を確保することができない。
図6は、本発明の第2実施形態の変速制御装置の構成を機能的に示すブロック線図である。先の第1実施形態では目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の上下限値を一旦求め、そこから目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めていたが、この第2実施形態では直接、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めている。
具体的には、先ず除算器S21で、基本目標入力回転数DsrREVを実出力回転数Outrevで除して基本目標変速比を求め、次に減算器S22で、その基本目標変速比から、直前の補正後目標変速比としての、後述する補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値(前回の処理で求めた値)を減算して変速比偏差(変速比の経時変化率)eipを求める。
次いで上記変速比偏差eipから特性群S23により、先の第1実施形態での特性群S3におけると同様にして、先ずその特性群S23中一番上の特性線図に基づき目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本上限値を求める。また、その特性群S23中上から二番目のマップで係数β1を求める。さらに、その特性群S23中上から三番目の特性線図で係数β2を求める。なお、これらの特性は、例えば特性群S3と同様に定められている。
次いで乗算器S24で、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本上限値に係数β1,β2をそれぞれ乗算して目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値を求める。
一方、減算器S25で、減算器S22と同様にして基本目標変速比から補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値(前回の処理で求めた値)を減算して変速比偏差eipを求め、次いでその変速比偏差eipから特性群S26により、特性群S23におけると同様にして目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本下限値と係数β3,β4とを求める。次いで乗算器S27で、その目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本下限値に係数β3,β4をそれぞれ乗算して目標変速比変化率d(Ratio)/dtの下限値を求める。このようにして目標変速比変化率の上下限値が求まる。
さらに、上記基本目標入力回転数DsrREVを変速機実出力回転数Outrevで除して求めた基本目標変速比と、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値とから、演算器S28で、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの変化の制限後の変速比である上記補正後目標変速比vTGTRTO0を演算する。ここで演算器S28は先の第1実施形態での演算器S10と同様、基本目標変速比と補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値との変速比偏差(単位時間当たりの変速比の変化率)を、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値と比較して、その変速比偏差が目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間にある場合は、基本目標変速比を補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力し、その変速比偏差が目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間から外れている場合は、補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値に補正後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値とのうち変速比偏差に近い側を加えた値を、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力する。
そして、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S29に入力して保持し次回の処理時に減算器S22,S25に前回値として与えるとともに、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値をベルト式無段変速機3に出力して、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を実現するようにベルト式無段変速機3の変速比を変化させる。
従って、除算器S21,減算器S22,S25,特性群S23,S26,乗算器S24,S27および保持器S29は、目標変速比変化率上下限値設定手段に相当し、演算器S28は、補正後目標変速比出力手段に相当し、変速機制御装置7は、変速比制御手段に相当する。そして、この第2実施形態の変速機制御装置7によっても、先の第1実施形態と同様、変速比Ratioの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第1項)に規制をかける一方、変速比Ratioの変化に関係ない車速Vspの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第2項)には規制をかけないので、例えばアクセルペダルの踏み込みや踏み戻し操作によるスロットル開閉動作により変速比Ratioの変化が生じる際は入力回転数Inprevの変化に制限を掛けるが、例えばマニュアルモードによるギヤ比固定でのスロットル開閉動作により変速比を一定に維持するように入力回転数Inprevが変化する際はその変化に制限を掛けない。これにより、変速過渡において変速機入力軸に発生するイナーシャトルクを制限する一方で、アクセルペダル踏み込み量維持走行中の自動アップシフトやアクセルペダルを放したコースティング走行中の自動ダウンシフト等の定常変速時や変速比固定設定時に変速比の変速線追従性を確保することができる。
図7は、本発明の第3実施形態の変速制御装置の構成を機能的に示すブロック線図である。先の第1実施形態では目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の上下限値を求め、そこから直接、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めていたが、この第3実施形態では目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の上下限値の変化率(すなわち傾き)を制限し、その制限後目標入力回転数変化率上下限値から目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めている。
具体的には、先ず乗算器S31で、直前の補正後目標変速比としての、後述する補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値(前回の処理で求めた値)と、車速VSPから求められるベルト式無段変速機3の実出力回転数Outrevとを乗算して変速機実入力回転数を求める。また別途、アクセルペダル開度APOに基づいて定められるスロットル開度TVOと車速VSPとに基づき変速線を定めた通常の変速用マップ(図示せず)から、先に読み込んだ現在の車速VSPとアクセルペダル開度APOとに応じて基本目標入力回転数DsrREVを求める。次いで減算器S32で、その基本目標入力回転数DsrREVの値と上記変速機実入力回転数との回転数偏差(回転数の経時変化率)erevを求める。
次いで回転数偏差erevから特性群S33により、先の第1実施形態での特性群S3におけると同様にして、先ずその特性群S33中一番上の特性線図に基づき目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の基本上限値を求める。また、その特性群S33中上から二番目のマップで係数α5を求める。さらに、その特性群S33中上から三番目の特性線図で係数α6を求める。なお、これらの特性は、例えば特性群S3と同様に定められている。
次いで乗算器S34で、上記目標入力回転数変化率drevの基本上限値に係数α5,α6をそれぞれ乗算して傾き制限前の目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値を求める。さらに、乗算器S35で、直前の制限後目標変速比変化率上限値としての、後述する制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値の前回値と実出力回転数Outrevとを乗算して前回値目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値を求め、また例えば車速VSPの上昇に応じて1回の処理での所定の変化分ddrevが増加するように定めた特性線図S36に基づき、現在の車速からその1回の処理での変化分ddrevを求めて、加算器S37で、前回値目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値に今回の処理での変化分ddrevを限界値として加えて、目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev限界上限値を求める。
そして比較器S38で、上記目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev限界上限値と乗算器S34で得た目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値とを比較して、値が小さい(ゼロに近い)方を選択して、変化の傾きを制限した制限後目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値とし、除算器S39で、この制限後目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev上限値を変速機実出力回転数Outrevで除して制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値を求める。この制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S40に入力して保持し、次回の処理時に乗算器S35に前回値として与える。
一方、減算器S41で、減算器S32と同様にして基本目標入力回転数DsrREVの値と上記変速機実入力回転数との回転数偏差erevを求め、次いでその回転数偏差erevから特性群S42により、特性群S33におけると同様にして目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の基本下限値と係数α7,α8とを求める。次いで乗算器S43で、その目標入力回転数変化率drevの基本下限値に係数α7,α8をそれぞれ乗算して目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値を求め、変換器S44でその符号を変換する。
さらに、乗算器S45で、直前の制限後目標変速比変化率下限値としての、制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値の前回値と実出力回転数Outrevとを乗算して前回値目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値を求め、また例えば車速VSPの上昇に応じて1回の処理での変化分ddrevが増加するように定めた特性線図S46に基づき、現在の車速からその1回の処理での変化分ddrevを求めて、変換器S47でその符号を変換した後、加算器S48で、前回値目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値に今回の処理での変化分−ddrevを限界値として加えて、目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev限界下限値を求める。
そして比較器S49で、上記目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev限界下限値と変換器S44を経た目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値とを比較して、値が大きい(ゼロに近い)方を選択して、変化の傾きを制限した制限後目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値とし、除算器S50で、この制限後目標入力回転数変化率{d(Ratio)/dt}×Outrev下限値を変速機実出力回転数Outrevで除して制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値を求める。この制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S51に入力して保持し、次回の処理時に乗算器S45に前回値として与える。このようにして目標入力回転数変化率および制限後目標入力回転数変化率の上下限値と、制限後目標変速比変化率の上下限値とが求まる。
さらに、基本目標入力回転数DsrREVを変速機実出力回転数Outrevで除して求めた基本目標変速比と、上記制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値とから、演算器S52で目標変速比変化率d(Ratio)/dtの変化の傾きの制限後の変速比である上記補正後目標変速比vTGTRTO0を演算する。ここで演算器S52は先の第1実施形態での演算器S10と同様、基本目標変速比と補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値との変速比偏差(変速比の経時変化率)を制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値と比較して、その変速比偏差が制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間にある場合は、基本目標変速比を補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力し、その変速比偏差が制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間から外れている場合は、補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値に制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値とのうち変速比偏差に近い側を加えた値を、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力する。
そして、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S53に入力して保持し次回の処理時に乗算器S31に前回値として与えるとともに、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値をベルト式無段変速機3に出力して、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を実現するようにベルト式無段変速機3の変速比を変化させる。
この第3実施形態の変速機制御装置7によりアクセルペダル急踏み時の変速制御がされてd(Ratio)/dt×Outrevのみが制限された場合の各因子の時間変化は、図8に示すようになる。すなわちこの第3実施形態においては、アクセルペダル急踏み(アクセルペダル開度APOステップ状上昇)時以降、車速が上昇するとともに変速機出力回転Outrevが上昇し、変速用マップにおける車速VSPの上昇に応じて基本目標入力回転数DsrREVも上昇する。このとき、スロットル開度TVOの変化が変速線を跨がなければ実線で示すようになだらかに上昇し、スロットル開度TVOの変化が変速線を跨げば破線で示すように一旦急上昇した後なだらかに上昇する。このなだらかな上昇時の基本目標入力回転数DsrREVの変化率が例えば700rpm/secであるとし、一方、目標d{d(Ratio)/dt×Outrev}/dt上限値が500rpm/sec2であるとすると、車速上昇による基本目標入力回転数DsrREVの変化率(傾き)すなわち実入力回転数Inprevの傾きは制限対象にならず実線で示すように700rpm/secのまま維持され、変速比の変化による上昇加速度分のみ破線で示すように500rpm/sec2を越えて上昇しないように制限される。それゆえ、変速機の実入力回転数Inprev/実出力回転数Outrevにおいて実出力回転数Outrevの上昇に応じた実入力回転数Inprevの上昇は制限されないので、変速比を変化させる場合に破線で示すように変速用マップの変速線への追従性を確保することができる。また、変速比制御装置7に図示しないシフトレバーのマニュアル変速モードへの操作等によって指示される変速比固定の場合は、目標入力回転数変化率drevの基本上下限値をゼロに設定することで、実線で示すように変速比Ratioを一定に維持することができる。
従って、乗算器S31,S34,S43,減算器S32,S41,特性群S33,S42および保持器S53は、目標入力回転数変化率上下限値設定手段に相当し、乗算器S35,S45,特性線図S36,S46,変換器S44,S47,加算器S37,S48,比較器S38,S49および保持器S40,S51は、目標変速比変化率上下限値制限手段に相当し、除算器S39,S50は、制限後目標変速比変化率上下限値演算手段に相当し、演算器S52は、補正後目標変速比出力手段に相当し、変速機制御装置7は、変速比制御手段に相当する。そして、この第3実施形態の変速機制御装置7によれば、変速比Ratioの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第1項)に規制をかける一方、変速比Ratioの変化に関係ない車速Vspの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第2項)には規制をかけないので、例えばアクセルペダルの踏み込みや踏み戻し操作によるスロットル開閉動作により変速比Ratioの変化が生じる際は入力回転数Inprevの変化に制限を掛けるが、例えばマニュアルモードによるギヤ比固定でのスロットル開閉動作により変速比を一定に維持するように入力回転数Inprevが変化する際はその変化に制限を掛けない。これにより、変速過渡において変速機入力軸に発生するイナーシャトルクの経時変化の傾きを制限する一方で、アクセルペダル踏み込み量維持走行中の自動アップシフトやアクセルペダルを放したコースティング走行中の自動ダウンシフト等の定常変速時や変速比固定設定時に変速比の変速線追従性を確保することができる。
図9は、本発明の第4実施形態の変速制御装置の構成を機能的に示すブロック線図である。先の第3実施形態では第1実施形態と同様、目標入力回転数変化率drev(すなわち{d(Ratio)/dt}×Outrev)の上下限値を一旦求め、そこから目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めていたが、この第4実施形態では第2実施形態と同様直接、目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値を求めている。
具体的には、先ず除算器S61で、基本目標入力回転数DsrREVを実出力回転数Outrevで除して基本目標変速比を求め、次に減算器S62で、その基本目標変速比から後述する補正後目標変速比の前回値(前回の処理で求めた値)を減算して変速比偏差(変速比の経時変化率)eipを求める。
次いで上記変速比偏差eipから特性群S63により、先の第3実施形態での特性群S33におけると同様にして、先ずその特性群S63中一番上の特性線図に基づき目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本上限値を求める。また、その特性群S63中上から二番目のマップで係数β5を求める。さらに、その特性群S63中上から三番目の特性線図で係数β6を求める。なお、これらの特性は、例えば特性群S3と同様に定められている。次いで乗算器S64で、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本上限値に係数β5,β6をそれぞれ乗算して目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値を求める。
さらに、例えば車速VSPの上昇に応じて1回の処理での変化分d2(Ratio)/dt2が増加するように定めた特性線図S65に基づき、現在の車速からその1回の処理での変化分d2(Ratio)/dt2を求めて、加算器S66で、直前の制限後目標変速比変化率下限値としての、後述する制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値の前回値に今回の処理での変化分d2(Ratio)/dt2を限界値として加えて目標変速比変化率d(Ratio)/dt限界上限値を求める。
そして比較器S67で、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dt限界上限値と乗算器S64で得た目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値とを比較して、値が小さい(ゼロに近い)方を選択して、変化の傾きを制限した制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値とし、この制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt上限値の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S68に入力して保持し、次回の処理時に加算器S66に前回値として与える。
一方、減算器S69で、減算器S62と同様にして基本目標変速比から目標変速比の前回値(前回の処理で求めた値)を減算して変速比偏差(変速比の経時変化率)eipを求め、次いでその変速比偏差eipから特性群S70により、特性群S63におけると同様にして目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本下限値と係数β7,β8とを求める。次いで乗算器S71で、その目標変速比変化率d(Ratio)/dtの基本下限値に係数β7,β8をそれぞれ乗算して目標変速比変化率d(Ratio)/dtの下限値を求め、変換器S72でその符号を変換する。
さらに、特性線図S65と同様に例えば車速VSPの上昇に応じて1回の処理での変化分d2(Ratio)/dt2が増加するように定めた特性線図S73に基づき、現在の車速からその1回の処理での変化分d2(Ratio)/dt2を求めて、変換器S74でその符号を変換し、加算器S75で、制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値の前回値に今回の処理での変化分(−d2(Ratio)/dt2)を限界値として加えて、目標変速比変化率d(Ratio)/dt限界下限値を求める。
そして比較器S76で、上記目標変速比変化率d(Ratio)/dt限界下限値と変換器S72を経た目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値とを比較して、値が大きい(ゼロに近い)方を選択して、変化の傾きを制限した制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値とし、この制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dt下限値の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S77に入力して保持し、次回の処理時に加算器S75に前回値として与える。このようにして目標変速比変化率の上下限値および限界上下限値と、制限後目標変速比変化率の上下限値とが求まる。
さらに、基本目標入力回転数DsrREVを変速機実出力回転数Outrevで除して求めた基本目標変速比と、上記制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値とから、演算器S78で目標変速比変化率d(Ratio)/dtの制限後の変速比である上記補正後目標変速比vTGTRTO0を演算する。ここで演算器S78は先の第3実施形態での演算器S52と同様、基本目標変速比と補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値との変速比偏差(変速比の経時変化率)を、制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上下限値と比較して、その変速比偏差が制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間にある場合は、基本目標変速比を補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力し、その変速比偏差が制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値との間から外れている場合は、補正後目標変速比vTGTRTO0の前回値に制限後目標変速比変化率d(Ratio)/dtの上限値と下限値とのうち変速比偏差に近い側を加えた値を、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値として出力する。
そして、補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を、保持(遅延)器(1/z)S79に入力して保持し次回の処理時に減算器S62,S69に前回値として与えるとともに、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値をベルト式無段変速機3に出力して、その補正後目標変速比vTGTRTO0の現在値を実現するようにベルト式無段変速機3の変速比を変化させる。
従って、除算器S61,減算器S62,S69,特性群S63,S70,乗算器S64,S71および保持器S79は、目標変速比変化率上下限値設定手段に相当し、特性線図S65,S73,変換器S72,S74,加算器S66,S75,比較器S67,S76および保持器S68,S77は、制限後目標変速比変化率上下限値制限手段に相当し、演算器S78は、補正後目標変速比出力手段に相当し、変速機制御装置7は、変速比制御手段に相当する。そして、この第4実施形態の変速機制御装置7によっても、先の第3実施形態と同様、変速比Ratioの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第1項)に規制をかける一方、変速比Ratioの変化に関係ない車速Vspの変化に伴う入力回転数Inprevの変化(前記変速機入力回転数の変化率の式の最右辺の第2項)には規制をかけないので、例えばアクセルペダルの踏み込みや踏み戻し操作によるスロットル開閉動作により変速比Ratioの変化が生じる際は入力回転数Inprevの変化に制限を掛けるが、例えばマニュアルモードによるギヤ比固定でのスロットル開閉動作により変速比を一定に維持するように入力回転数Inprevが変化する際はその変化に制限を掛けない。これにより、変速過渡におけるイナーシャトルクの経時変化の傾きを制限する一方で、アクセルペダル踏み込み量維持走行中の自動アップシフトやアクセルペダルを放したコースティング走行中の自動ダウンシフト等の定常変速時や変速比固定設定時に変速比の変速線追従性を確保することができる。
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができ、例えば、上記実施形態では自動変速機としてベルト式無段変速機に適用したが、他の形式の無段変速機や、有段自動変速機にも適用することができる。